プロローグ
GM
捨て札、切り札、上がり札、
手に手をとって、折り重なって、
最後に残るはスペードのQ。
GM
こぼれて外れた奇跡の欠片、
集めてまとめて、あなたのために。
GM
Dead or AliCe『16人の救世主』
GM
在りし日の物語が褪せていく堕落の国で、いまだ不思議が残された棚井戸。
GM
何もかもがゆっくりと落ちていくその中程に、落ちることなく宙に留まる館がある。
GM
美しく手入れが届いたその館に、たくさんの人が溢れかえっている。
GM
この地にて行われる伝説の儀式、オールドメイドゲーム。
GM
16人の救世主が殺し合うその儀式の結末を見届けるべく、まだかまだかと中庭を眺める。
GM
故に戦いを告げる前口上はなく、がらんどうに人々の声だけが響いている。
登場-6号室
GM
押し開けるのは兎耳のメイド。仮面を被り、剣を携えている。
GM
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
◇
<酒もあるしつまみもある!
メイドさんもいる!>
<マジかよトウゲンキョーか!>
◇
<いや~、
しかしこの廊下も歩く感触がいいな~>
<判る~今までの人生で一番いい>
◇
ナイフが、男の時計の心臓を貫く。男の白手袋を脱ぎ去った指が、女の心臓に突き立てる。
◇
<ええ、貴女が望むままに>
ナイフが、男の時計の心臓を貫く。男の白手袋を脱ぎ去った指が、女の心臓に突き立てる。
◇
<ま、人間は
そこらの他人にだって
祈るときは祈るからな>
<信仰心は恐怖心を和らげますし、
士気も高めます。
その対象は別に……。>
<神でなくても、よいでしょうし。>
◇
<本当にロマンのないやつ>
<べつに祈れとは言わないが>
<わたしを頼ればよかろうよ>
◇
<さぁ、次を。>
<おもしろいものですね>
<……ふふふ。>
◇
<ど、れ、に、し、よ、う、か、な……>
<さぁ、どれでしょう。>
<これ!>
◇
<表情にでておりますよ>
風が吹いて、姿はかき消え…
◇
人気のない、階段の踊り場に風が吹く。
ヘリンボーン柄の板張りの床に、スペードの意匠がある壁紙。
◇
<ああ女王様、女王様。
どうかこのアリシアを
ご覧になってくださいまし。>
<……おわかりでしょう、>
<『あなたは
傷ついてなどおりません』>
◇
<本日も『変わらず』>
<美しいかんばせにあらせられます>
◇
<……ああ。>
<当然のことだろう。
『いつも』わたしは美しい……>
◇
<その真実を享受するがいい。
今も。未来も>
声を残して、姿は消える。
◇
<私達は、一度狩人になった。>
<ならば、死ぬまで狩人だ>
<辞める事など、できないさ>
◇
仲間のもとへ駆ける風。
倒れ伏した仲間の身体から、杭を一本抜き取る。
◇
<……、っ、諦める、わけには、>
<いかないんだよ……!!!>
◇
ちいさな二人が手をつなぎ中庭の中央に立っている。
◇
<これにて、5号室、
のばら様、ソルネット様と>
<1号室、ヘンゼル様、グレーテル様の
裁判は決着いたしました>
<勝者>
<オールドメイドゲームの優勝者は>
<5号室、のばら様、ソルネット様>
◇
前回のトーナメント参加者、メイドたち、末裔たち。
前々回のトーナメント参加者、メイドたち。
そのまた前の。
◇
館に冷気が漂っている。館の上に雪が降っている。
◇
どこもかしこも人の気配がする。
館はいまだかつてなく、つめたく、賑やかだ。
ティモフェイ
雪の降る中に進みいでる、ふたりの救世主。
ティモフェイ
清らかな魂を飾るにふさわしい白い衣装を身に纏う彼をいざなって、
ティモフェイ
騎士のマントが、冷たい風に舞い上がった。
ティモフェイ
彼のまとうそれはもはや襤褸ではない。
ティモフェイ
青空の清々しさには遠く、けれど曇天よりかは爽やかな色をして、
ティモフェイ
末裔が着るようなありふれた服ではなく、スペードの意匠を施された騎士の装束を身に纏い、
ティモフェイ
伴う生贄と同じ顔で、中庭の中央、騎士が笑う。
ティモフェイ
憧れを正面から受け止めて、手袋に包まれた手を掲げ。
ティモフェイ
今度こそは自分の意思でと、彼の一歩前に出る。
ティモフェイ
生贄を背にし、騎士として前に立ち、空を仰いだ。
ティモフェイ
眼差しはまっすぐに、雪降る天を見つめている。
ティモフェイ
「――『オールド・メイド・トーナメント』の勝者は奇跡の力を手に入れる」
ティモフェイ
「過去に、実際にこのトーナメントの勝者が存在していて、奇跡によって願いを叶えた記録がある」
ティモフェイ
降り注ぐ雪がきらきら、きらきらと七色をまたたく。
ティモフェイ
「飢え、腐敗、苦しみ、亡者、決闘による死。世界の歪さを、不幸の連鎖を断ち」
ティモフェイ
その一呼吸すら、観客の間に染み渡るようだった。
ティモフェイ
「奇跡の力で、全ての人を『救済』すると――そう、約束する!」
ティモフェイ
広々とした中庭に、騎士の宣誓が響く。
ティモフェイ
世界を救うと。まっすぐな瞳でそのように誓って、
ティモフェイ
決意に満ちたその顔がふっと和らいだ。
ティモフェイ
「分厚い雲を払って、空の青さを皆で知ろう」
ティモフェイ
「あの海を、寄せては返す穏やかなさざなみを」
ティモフェイ
「春告げに眩しい、やわらかな生命の息吹のさまを」
ティモフェイ
「……そこに咲く花の、うつくしい色を」
登場-8号室
メイド8
「私が仕えますのは、客室8号室の救世主」
メイド8
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
マキナ
ロングスカートではなく、動きやすいショートパンツ。
マキナ
観客をちらと見て、だけど手を振ることもない。
マキナ
自分たちが負ければ、ここにいる彼らは救われるのだとか。
小鴨 チカ
「二回戦のアレを見せられちゃな。あんま見てて気分いいモンじゃなかったよ」
小鴨 チカ
「しっかし寒いなあ。今日は一段と冷え込む」
小鴨 チカ
「足元もビミョーに滑る。これで動き回るのか」
マキナ
ヨハン様の服じゃサイズ合わないもんなあ、とぶつぶつ。
小鴨 チカ
一歩ずつ、足を出す。地面をしっかりと踏みしめて、舞台の真ん中まで。
ティモフェイ
「こうして生きて再会できて、何より」
トイ
「オレはお前たちと戦いたくないし、心を傷つけあうのも嫌だ」
トイ
「トーナメント優勝者の願いは、1人ひとつ。2人ならふたつ。」
トイ
「ティモフェイが堕落の国を救済し、オレがお前たちが一緒に元の世界に戻れるよう願う」
トイ
「お前たちの願いはかなって、
堕落の国の沢山の人が救われて、
シャルルとアレクシアも死なずに済む。」
トイ
「まあそうなのかな。
昨日今日出会ったばかりだもんな…」
ティモフェイ
「このオールド・メイド・トーナメントを勝ち抜いてきた者だ」
トイ
「もっとすごい、世界を支配したいとか、そういう願いだったらうまくいかないけど」
ティモフェイ
「ここで棄権を宣言したところで、メイドはそれを認めんよ」
マキナ
「そうしたら、あなた方は棄権してくださいます?」
トイ
「『ティモフェイが世界を救うことを見届ける』事に意味があるから」
トイ
「ティモフェイが儀式を途中で辞めちゃダメなんだ」
ティモフェイ
「これ以上は平行線だろう。……いや」
トイ
「オレが自分の願いを差し出せるのは、ティモフェイが世界を救うことが願いだから」
ティモフェイ
「……立ち話は、彼らを凍えさせるだけだろう」
トイ
保護者達がなんかそんなかんじなので引き下がる。
儀式開始
メイド6
「はい、ありがとうございます。……第2回戦が終了し、救世主は6ペンスコインを20枚勝ち取り40枚に。いずれも、脅威度3相当の救世主としての力を得ました」
メイド8
「決勝戦も引き続き、24時間のお茶会時間の後に、再びこの中庭へ集まり、裁判を執り行います」
メイド6
「お茶会を助けるために、救世主らにはそれぞれ、2通の招待状を渡します」
メイド8
それぞれのメイドは救世主ひとりひとりに2通の封筒を手渡す。
メイド6
「また、この館で見いだした品々は、ご自由にお使いください」
メイド8
「この儀式の裁判は、特別なルールがございます」
メイド6
「発狂した救世主は、裁判後に亡者と化すリスクが知られていますが」
メイド8
「儀式の効力により、その亡者化を敗者に押しつけることが出来ます」
メイド8
「存分に形勢を逆転し、お狂い遊ばしませ」
メイド6
「なお、決勝戦につきましては、ペアの片方が死亡、亡者化した場合につきましても戦闘を継続いたします」
メイド8
「どちらかのペア二人が倒れるまで、戦いは継続致しますのでご注意ください」
メイド6
「それでは、客室6号室、トイトロール様、ティモフェイ様と」