Dead or AliCe
『16人の救世主』

プロローグ

GM
GM
  …ダイヤの8にスペードの8…
GM
    …ハートのAにクラブのA…
GM
…スペードの10にハートの10…
GM
     …クラブの5にスペードの5……
GM
捨て札、切り札、上がり札、
手に手をとって、折り重なって、
最後に残るはスペードのQ。
GM
こぼれて外れた奇跡の欠片、
集めてまとめて、あなたのために。
GM
Dead or AliCe『16人の救世主』
GM
――決勝戦。
GM
GM
在りし日の物語が褪せていく堕落の国で、いまだ不思議が残された棚井戸。
GM
何もかもがゆっくりと落ちていくその中程に、落ちることなく宙に留まる館がある。
GM
刺剣の館。
GM
美しく手入れが届いたその館に、たくさんの人が溢れかえっている。
GM
この地にて行われる伝説の儀式、オールドメイドゲーム。
GM
16人の救世主が殺し合うその儀式の結末を見届けるべく、まだかまだかと中庭を眺める。
GM
中庭には誰もいない。
GM
あれだけ多くいたメイドはもう。
GM
故に戦いを告げる前口上はなく、がらんどうに人々の声だけが響いている。

登場-6号室

GM
やがて、重たい両開きの扉が開く。
GM
押し開けるのは兎耳のメイド。仮面を被り、剣を携えている。
GM
彼女は真っ直ぐ中庭へと歩く。
GM
「私が仕えますのは、客室6号室の救世主」
GM
開かれた扉の奥に、2人の姿が現れる。
GM
「トイトロール様、ティモフェイ様」
GM
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。

館の上に雪が降る。

『がらんどうに人々の声だけが響いている』。

ひゅるり、

廊下に隙間風。


<酒もあるしつまみもある! 
 メイドさんもいる!>

<マジかよトウゲンキョーか!>


わやわやと館を褒める声。


<いや~、
 しかしこの廊下も歩く感触がいいな~>

<判る~今までの人生で一番いい>

…風が吹いて、姿はかき消える。

ひゅるり。


冷気が漂う。1号室。



<あたしの全部をあげるから>



<映鏡の全部を>

<あたしに、頂戴……>

<ええ、貴女が望むままに>


ナイフが、男の時計の心臓を貫く。男の白手袋を脱ぎ去った指が、女の心臓に突き立てる。

風が吹いて、姿はかき消える。

…ふたたび、風。


<あたしの全部をあげるから>


繰り返される。

<映鏡の全部を>

<あたしに、頂戴……>


<ええ、貴女が望むままに>

ナイフが、男の時計の心臓を貫く。男の白手袋を脱ぎ去った指が、女の心臓に突き立てる。

繰り返される…



これは誰の記憶?



礼拝堂、冷たい風。

<ま、人間は
そこらの他人にだって
祈るときは祈るからな>

<信仰心は恐怖心を和らげますし、
士気も高めます。
その対象は別に……。>

<神でなくても、よいでしょうし。>


<本当にロマンのないやつ>

<べつに祈れとは言わないが>

<わたしを頼ればよかろうよ>


…風が吹いて姿がかき消える。

…ふきこむ、2号室に隙間風。


<さぁ、次を。>

<おもしろいものですね>

<……ふふふ。>


男が手元のカードを入れ替える。

3人がトランプのカードをかまえている。


<ど、れ、に、し、よ、う、か、な……>

<さぁ、どれでしょう。>

<これ!>



<表情にでておりますよ>

風が吹いて、姿はかき消え…



これは誰の記憶?



人気のない、階段の踊り場に風が吹く。
ヘリンボーン柄の板張りの床に、スペードの意匠がある壁紙。


<ああ女王様、女王様。
 どうかこのアリシアを
 ご覧になってくださいまし。>

<……おわかりでしょう、>

<『あなたは
  傷ついてなどおりません』>



<本日も『変わらず』>

<美しいかんばせにあらせられます>


<……ああ。>

<当然のことだろう。
『いつも』わたしは美しい……>



<その真実を享受するがいい。
 今も。未来も>

声を残して、姿は消える。

中庭の端。


<私達は、一度狩人になった。>

<ならば、死ぬまで狩人だ>

<辞める事など、できないさ>

かつてそこで戦ったもの。

仲間のもとへ駆ける風。
倒れ伏した仲間の身体から、杭を一本抜き取る。


<……、っ、諦める、わけには、>

<いかないんだよ……!!!>



<――もう、>

<戻れないんだよ!>


風がかき消える。



これは誰の記憶?




これは『館』の記憶。

刺剣の館の記憶。


ちいさな二人が手をつなぎ中庭の中央に立っている。

<これにて、5号室、
 のばら様、ソルネット様と>

<1号室、ヘンゼル様、グレーテル様の
 裁判は決着いたしました>

<勝者>
<オールドメイドゲームの優勝者は>

<5号室、のばら様、ソルネット様>


前回優勝者。5号室のふたり。

メイドとなるために館に来たばかりの村娘たち。

前回のトーナメント参加者、メイドたち、末裔たち。

前々回のトーナメント参加者、メイドたち。

そのまた前の。

館に冷気が漂っている。館の上に雪が降っている。

記憶は絶え間なく姿を現し、消え、また現れる。

どこもかしこも人の気配がする。
館はいまだかつてなく、つめたく、賑やかだ。
ティモフェイ
雪が降る。
ティモフェイ
誰もいない中庭に雪が降っている。
ティモフェイ
しんしん、しんしんと、
ティモフェイ
静かに降り続く忘却の雪。
ティモフェイ
雪の降る中に進みいでる、ふたりの救世主。
ティモフェイ
一人は生贄。
ティモフェイ
清らかな魂を飾るにふさわしい白い衣装を身に纏う彼をいざなって、
ティモフェイ
騎士のマントが、冷たい風に舞い上がった。
ティモフェイ
彼のまとうそれはもはや襤褸ではない。
ティモフェイ
青空の清々しさには遠く、けれど曇天よりかは爽やかな色をして、
ティモフェイ
末裔が着るようなありふれた服ではなく、スペードの意匠を施された騎士の装束を身に纏い、
ティモフェイ
その身に救世の印を確かに示し。
トイ
おなじ救世の印を背中に刻み。
ティモフェイ
伴う生贄と同じ顔で、中庭の中央、騎士が笑う。
トイ
「!!」
トイ
「かっこいい!」
ティモフェイ
「はは」
トイ
騎士は憧れの対象である。
ティモフェイ
「トイトロール」
ティモフェイ
憧れを正面から受け止めて、手袋に包まれた手を掲げ。
ティモフェイ
「やるぞ」
ティモフェイ
今度は、
ティモフェイ
今度こそは自分の意思でと、彼の一歩前に出る。
トイ
その姿を見る。
ティモフェイ
生贄を背にし、騎士として前に立ち、空を仰いだ。
ティモフェイ
その顔にもはや打擲の痕はなく。
ティモフェイ
眼差しはまっすぐに、雪降る天を見つめている。
ティモフェイ
「――『オールド・メイド・トーナメント』の勝者は奇跡の力を手に入れる」
ティモフェイ
同じ文言。同じ声。
ティモフェイ
されどその声は中庭を朗々と響き、
ティモフェイ
その奥にある確信を裏付ける。
ティモフェイ
「過去に、実際にこのトーナメントの勝者が存在していて、奇跡によって願いを叶えた記録がある」
ティモフェイ
表情には覇気が。
ティモフェイ
手のひらには虹が。
ティモフェイ
手のひらに閃かせた虹剣を掲げ、
ティモフェイ
降り注ぐ雪がきらきら、きらきらと七色をまたたく。
ティモフェイ
「私は――救世主ティモフェイは」
ティモフェイ
「飢え、腐敗、苦しみ、亡者、決闘による死。世界の歪さを、不幸の連鎖を断ち」
ティモフェイ
すう、と大きく息を吸う。
ティモフェイ
その一呼吸すら、観客の間に染み渡るようだった。
ティモフェイ
「奇跡の力で、全ての人を『救済』すると――そう、約束する!」
ティモフェイ
広々とした中庭に、騎士の宣誓が響く。
ティモフェイ
世界を救うと。まっすぐな瞳でそのように誓って、
ティモフェイ
決意に満ちたその顔がふっと和らいだ。
ティモフェイ
「……青空を見よう」
ティモフェイ
誓うのではなく。
ティモフェイ
世界に語りかけるように。
ティモフェイ
「分厚い雲を払って、空の青さを皆で知ろう」
ティモフェイ
「あの海を、寄せては返す穏やかなさざなみを」
ティモフェイ
「その優しさを」
ティモフェイ
「春告げに眩しい、やわらかな生命の息吹のさまを」
ティモフェイ
「……そこに咲く花の、うつくしい色を」
ティモフェイ
「俺は、この世界に齎したい」
トイ
その言葉に、微笑んだ。
トイ
ふたりおなじ、和らいだ顔。

登場-8号室

メイド8
次いで、同じ装いのメイドが現れる。
メイド8
彼女は真っ直ぐ中庭へと歩く。
メイド8
「私が仕えますのは、客室8号室の救世主」
メイド8
開かれた扉の奥に、2人の姿が現れる。
メイド8
「チカ様、マキナ様」
メイド8
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
マキナ
寒風に、髪が揺れる。
マキナ
高い位置で結ばれた髪の毛。
マキナ
ロングスカートではなく、動きやすいショートパンツ。
マキナ
「……救済ですって」
マキナ
チカを見る。
小鴨 チカ
「救済なあ」
マキナ
「青空を見る”みんな”の中に、はたして」
マキナ
「マキナたちは含まれてると思います?」
マキナ
観客をちらと見て、だけど手を振ることもない。
小鴨 チカ
「…………いやあ」
マキナ
自分たちが負ければ、ここにいる彼らは救われるのだとか。
小鴨 チカ
「二回戦のアレを見せられちゃな。あんま見てて気分いいモンじゃなかったよ」
マキナ
「ですよねぇ」
小鴨 チカ
「どーせやる事は変わらんし」
マキナ
「……うん」
マキナ
「世界も救済も関係ない」
マキナ
「勝って、帰ろうね」
小鴨 チカ
「だね」
小鴨 チカ
「しっかし寒いなあ。今日は一段と冷え込む」
小鴨 チカ
「足元もビミョーに滑る。これで動き回るのか」
マキナ
「上着ちゃんとかけときなよぉ」
小鴨 チカ
「そうしまーす……」
マキナ
ヨハン様の服じゃサイズ合わないもんなあ、とぶつぶつ。
小鴨 チカ
一歩ずつ、足を出す。地面をしっかりと踏みしめて、舞台の真ん中まで。
小鴨 チカ
「やあ。久しぶり」
マキナ
チカの隣に立つ。
トイ
「………」
ティモフェイ
「どうも」
ティモフェイ
「こうして生きて再会できて、何より」
トイ
「チカ、マキナ」
小鴨 チカ
「ん」
トイ
「お前ら、奇跡の力に何を願う?」
小鴨 チカ
「……そりゃ、生きて帰る事さ」
マキナ
頷く。
トイ
「帰るって、この会場から?それとも…」
トイ
堕落の国から?
マキナ
「この国から」
マキナ
「元いた世界へ、帰ります」
小鴨 チカ
「元の世界へ」
小鴨 チカ
「あっ被った。そうそう、そんな感じ」
トイ
「だったら、棄権してくれ」
ティモフェイ
「…………」
トイ
「オレはお前たちと戦いたくないし、心を傷つけあうのも嫌だ」
ティモフェイ
トイトロールを見ます。
マキナ
「まあ」
トイ
「トーナメント優勝者の願いは、1人ひとつ。2人ならふたつ。」
トイ
「ティモフェイが堕落の国を救済し、オレがお前たちが一緒に元の世界に戻れるよう願う」
トイ
「お前たちの願いはかなって、
堕落の国の沢山の人が救われて、
シャルルとアレクシアも死なずに済む。」
トイ
「それで何も問題はないはずだぜ…」
マキナ
「へぇ」
ティモフェイ
小さく息をつく。
マキナ
「何を根拠に信じればよろしいんですか?」
マキナ
「冷酷無慈悲なトイトロール様?」
トイ
信じられていない。
トイ
それが心底意外だというように目を見開く。
トイ
「それ、いまいう冗談?」
マキナ
「冗談だと思いますぅ?」
トイ
「うーん…」
トイ
「…そうなんだ。」
トイ
「まあそうなのかな。
昨日今日出会ったばかりだもんな…」
ティモフェイ
「トイトロール」
ティモフェイ
「彼らもまた救世主であり」
ティモフェイ
「このオールド・メイド・トーナメントを勝ち抜いてきた者だ」
トイ
ティモフェイの顔を見つめる。
トイ
「でも、マキナとチカはいいやつだよ…」
ティモフェイ
同じ顔を見返す。
トイ
「もっとすごい、世界を支配したいとか、そういう願いだったらうまくいかないけど」
トイ
「故郷に帰るだけだろ?」
トイ
「棄権してくれれば、それで……」
ティモフェイ
「……やるにしても」
ティモフェイ
「もっとうまくやるべきだな」
トイ
「いちばん、たくさんの人が救われるのに」
マキナ
「……じゃあ、もしですよ」
ティモフェイ
「ここで棄権を宣言したところで、メイドはそれを認めんよ」
ティモフェイ
マキナを見ます。
ティモフェイ
マキナ
「マキナたちの一人が救済を願って」
マキナ
「もうひとりが、マキナたちの帰還を願う」
トイ
首を横に振る。
マキナ
「そうしたら、あなた方は棄権してくださいます?」
トイ
「現に、シャルルとアレクシアは生きてる」
トイ
「……それじゃダメなんだ」
トイ
マキナの言葉に。
トイ
「『ティモフェイが世界を救うことを見届ける』事に意味があるから」
トイ
「ティモフェイが儀式を途中で辞めちゃダメなんだ」
マキナ
「世界は救われる。結果は同じですよ」
ティモフェイ
咳払い。
ティモフェイ
「これ以上は平行線だろう。……いや」
トイ
「ちがうんだよ」
トイ
「オレが自分の願いを差し出せるのは、ティモフェイが世界を救うことが願いだから」
ティモフェイ
「トイトロール」
ティモフェイ
嗜めるように、その腕を引く。
トイ
「ティモフェイ、だって…」
ティモフェイ
微笑んだ。
ティモフェイ
「……立ち話は、彼らを凍えさせるだけだろう」
ティモフェイ
「話は茶会でしろ」
メイド8
「あー、こほん」
ティモフェイ
「準備はあるんだろう?」
トイ
「………」
トイ
保護者達がなんかそんなかんじなので引き下がる。
マキナ
「……」

儀式開始

メイド6
「はい、ありがとうございます。……第2回戦が終了し、救世主は6ペンスコインを20枚勝ち取り40枚に。いずれも、脅威度3相当の救世主としての力を得ました」
メイド8
「決勝戦も引き続き、24時間のお茶会時間の後に、再びこの中庭へ集まり、裁判を執り行います」
メイド6
「お茶会を助けるために、救世主らにはそれぞれ、2通の招待状を渡します」
メイド8
それぞれのメイドは救世主ひとりひとりに2通の封筒を手渡す。
メイド8
いつも通り、手慣れた所作。
マキナ
受け取ります。
小鴨 チカ
「…………」受け取る。
ティモフェイ
2人分を受け取る。
トイ
ティモフェイにまかせる。
メイド6
「また、この館で見いだした品々は、ご自由にお使いください」
メイド8
「この儀式の裁判は、特別なルールがございます」
メイド6
「発狂した救世主は、裁判後に亡者と化すリスクが知られていますが」
メイド8
「儀式の効力により、その亡者化を敗者に押しつけることが出来ます」
メイド8
「存分に形勢を逆転し、お狂い遊ばしませ」
メイド6
「なお、決勝戦につきましては、ペアの片方が死亡、亡者化した場合につきましても戦闘を継続いたします」
メイド8
「どちらかのペア二人が倒れるまで、戦いは継続致しますのでご注意ください」
小鴨 チカ
「……………………わかりました」
ティモフェイ
「…………」
マキナ
小さく頷いた。
小鴨 チカ
さっきの問答も、このルールも……
小鴨 チカ
……やることは変わらない。
トイ
悲しげにマキナとチカを見る。
メイド6
「それでは、客室6号室、トイトロール様、ティモフェイ様と」
メイド8
「客室8号室、チカ様、マキナ様の」
メイド6
「お茶会を開始いたします」
メイド6