Dead or AliCe
『16人の救世主』

プロローグ

GM
  …ダイヤの8にスペードの8…
GM
  …ハートのAにクラブのA…
GM
…スペードの10にハートの10…
GM
     …クラブの5にスペードの5……
GM
捨て札、切り札、上がり札、
手に手をとって、折り重なって、
最後に残るはスペードのQ。
GM
こぼれて外れた奇跡の欠片、
集めてまとめて、あなたのために。
GM
―― Dead or AliCe『16人の救世主』
GM
GM
在りし日の物語が褪せていく堕落の国で、いまだ不思議が残された棚井戸。
GM
何もかもがゆっくりと落ちていくその中程に、落ちることなく宙に留まる館がある。
GM
刺剣の館。
GM
美しく手入れが届いたその館に、たくさんの人が溢れかえっている。
GM
この地にて行われる伝説の儀式、オールドメイドゲーム。
GM
16人の救世主が殺し合うその儀式を見届けるべく、まだかまだかと中庭を眺める。
GM
 

登場-4号室

GM
重たい両開きの扉が開く。
GM
押し開けるのは兎耳のメイド。仮面を被り、剣を携えている。
GM
彼女は真っ直ぐ中庭へと歩く。
メイド4
「私が仕えますのは、客室4号室の救世主」
メイド4
開かれた扉の奥に、2人の姿が現れる。
メイド4
「鏖田ネイル様、網倉霞様」
メイド4
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
鏖田 ネイル
油断なく、周囲の気配に気を配りつつ歩く、異様に鋭い目つきの女。
鏖田 ネイル
身の丈180センチはある長身にロングコートを纏い、その下には木製の杭が見える。
鏖田 ネイル
物々しい装備は、この堕落の国へと堕ちる前、ヴァンパイアハンターとして活動していた頃からの愛用品だ。
鏖田 ネイル
そして周囲の全てを敵と想定し睥睨するその姿も、表情の一切が不動で無口なのも、その頃から変わらないままだった。
網倉 霞
その隣をふらりと歩く、もうひとりの人影。身長はさほど高くない。
網倉 霞
遠くからではそれが男であるか女であるかわからない。服は分厚く、その下の手足が見えることはない。
網倉 霞
観客のほうには目を向けることなく。俯くこともせず。ただ、前を向いて。橙色の瞳は重たい無表情。
網倉 霞
若いふたりの救世主。
網倉 霞
突然現れ、半年で多くの救世主を殺したとか。
網倉 霞
どのような人物でも見境なく殺すように見えるから、人々におそれられているとか、いないとか。
網倉 霞
ただ、その姿を実際に見た救世主はほとんどいないだろう。
網倉 霞
出会った救世主は、必ず消息を絶っているからだ。

登場-8号室

メイド8
次いで、同じ装いのメイドが現れる。
メイド8
彼女は真っ直ぐ中庭へと歩く。
メイド8
「私が仕えますのは、客室8号室の救世主」
メイド8
開かれた扉の奥に、2人の姿が現れる。
メイド8
「ヨハン様、マキナ様」
メイド8
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
ヨハン
顎を上げ、威張り散らしたような仕草で歩く男。
ヨハン
華美な装飾のコートに、長いブーツ。決闘者のような出で立ちをしている。
ヨハン
その男は、亡者を狩り、救世主を狩り、末裔を狩り、暴虐の限りを尽くした傲慢で悪名高い救世主。
ヨハン
名は、ヨハンという。
ヨハン
彼は不快感を顕にした面持ちを隠そうともせず、眉をしかめて周囲を見回した。
ヨハン
「……フン」
マキナ
ヨハンの数歩後ろで、派手な髪色の女が歩を進める。
マキナ
ぽやぽやと、観客席に手などを振ってみせる。
マキナ
自身は救世主を狩る程の力を持たないながら、ヨハンに取り入って半年近くこの堕落の国での生存を勝ち取っている。
マキナ
ちなみにヨハンから数歩下がって歩くのは、
マキナ
不機嫌な彼の傍にいることがどれ程危ないか
マキナ
それをよくよく知っているからだ。

儀式開始

メイド4
「この刺剣の館にてオールドメイドゲームの儀式が発動され、16人の救世主が集まりました」
メイド4
救世主と共に立つ2人のメイドと、その脇に控える6人のメイド達。
メイド8
「私どもは救世主様に仕え、共に儀式を執り行う8人のメイドでございます。私どもは儀式そのものであり、今やこの館は我々が法。どうか儀式を円滑に進行すべく、私どもの申し上げます頼み事には快諾いただきますよう、お願いいたします」
メイド8
メイド達は深々と礼をする。
メイド4
「さて、16人の救世主達は8つのペアとなり競い合います」
メイド8
「最も力があるものと認められたペアには、奇跡の力がもたらされます」
メイド4
「その力は、あらゆる願いが叶うとされます」
メイド8
「救世主と救世主が合間見れば、することは勿論、お茶会、そして裁判です」
メイド4
「これより24時間のお茶会時間の後に、再びこの中庭へ集まり、裁判を執り行います」
メイド8
「お茶会を助けるために、救世主らにはそれぞれ、2通の招待状を渡します」
メイド8
それぞれのメイドは救世主ひとりひとりに2通の封筒を手渡す。
マキナ
差し出されるままに受け取る。
鏖田 ネイル
クイ、と顎を動かす。
ヨハン
受けとろうとはせず、マキナに受け取らせる。
網倉 霞
頷く。
網倉 霞
受け取って、それを眺める。……あの日男から奪ったものと似たような封筒。
メイド4
霞に4つ手渡した。
メイド8
マキナに4つ手渡した。
網倉 霞
封筒の端がじわりと透明な毒で濡れていく。
マキナ
受け取った内の2通をヨハンに差し出す。
メイド4
「この封筒に名前を記してメイドに渡せば、記した相手を強制的に、あなたがたの元に転送することができます。心の疵の戦いは、剣と剣の交わりのみにあらず。上手くご活用ください」
ヨハン
「……」
マキナ
「……はぁい。お預かりしておきます」
メイド8
「また、この館で見いだした品々は、ご自由にお使いください」
メイド4
「この儀式の裁判は、特別なルールがございます」
メイド8
「両方が昏倒した場合は勿論、ペアの片方でも死亡、亡者化した場合、そこで即刻敗北となります」
メイド4
「また発狂した救世主は、裁判後に亡者と化すリスクが知られていますが」
メイド8
「儀式の効力により、その亡者化を敗者に押しつけることが出来ます」
メイド4
「存分に形勢を逆転し、お狂い遊ばしませ」
メイド8
「さて。それでは公平性を期すため、お持ちの6ペンスコインを10枚までお減らしいただきます」
メイド1
メイドの一人がブリキ製のゴミ箱を、ガラガラ音を立てて運んでくる。
メイド1
出がらしの茶葉、林檎のヘタ、ワインのコルク栓に魚の骨。
メイド1
ジャガイモの皮に伸びきったパスタ。
メイド1
蓋を開けるとそこはかとなく臭うゴミ箱が、中庭の真ん中にでん、と置かれる。
マキナ
む。眉をひそめる。
メイド4
「それでは、どうぞ、お捨てください」
網倉 霞
ミント系の香りを出して嗅覚を誤魔化しながら。
鏖田 ネイル
ついと視線をもう一人に寄せる。さてどうするか。
ヨハン
「…………」手元のコインを見つめる。ちゃり、と金属音が小さく鳴った。
マキナ
……ヨハンの方を見て、数歩下がった。
メイド4
メイドは黙して待っている。
マキナ
ヨハンを少しでも知る者ならば、
マキナ
コインを捨てろなどと言われた彼がどうなるのか
マキナ
何をするのか
マキナ
察しないはずがない。
メイド8
観客のざわつきに対して、中庭は異様な緊張で張り詰めている。
ヨハン
「……くだらん」
ヨハン
沈黙を守っていた男が声をあげる。
ヨハン
「強引に招集されたかと思えば……」
マキナ
ほら来た。
ヨハン
「儀式による殺し合いだと?」
ヨハン
「吐き気を催すような慣れ合いだ」
マキナ
こうなったらマキナは口を挟みはしない。
ヨハン
「何より、この僕を見世物にしようという魂胆が気に食わん」
メイド8
メイドは黙したまま微笑んでいる。
ヨハン
「そうは思わんか、マキナ」
マキナ
「えぇ、ヨハン様のおっしゃるとおりです」
ヨハン
「そうだろう。そうだろう」
ヨハン
「このコインは僕が集めたものだ」
ヨハン
「こんな何処の馬の骨かも分からん奴が開いた催しに、寄付をするためのものではない」
ヨハン
「……ククク」
マキナ
そう言って、また少し下がります。
ヨハン
正面に立つ、対戦相手を見る。
ヨハン
「貴様ら。自らこの茶番に望んで現れたのか?」
ヨハン
「くだらん噂話を信じて?」
網倉 霞
ほほえむ。
網倉 霞
「まあ、そうですね」
網倉 霞
「お嫌いですか? 馴れ合いは」
鏖田 ネイル
女は、口を開かず見つめている。
鏖田 ネイル
否。正確に言えば……見下している。
ヨハン
「下らん、と言っているのだよ」
ヨハン
「愚鈍、阿呆、能天気。呆れて溜息も出ない!」
ヨハン
観客席を見上げる。
マキナ
元気だなあと思っています。
ヨハン
「貴様ら。高見の見物をしていられるのも今だけだ!」
マキナ
ヨハンは口先だけではない、実力と才覚を持つ救世主だ。
マキナ
だからマキナもこの半年着いてきた。
マキナ
だが……彼の人格面ははっきり言って最悪だった。
マキナ
こういう時、ヨハンの手の届く範囲からは離れるに限る。
マキナ
自分に矛先が向くのは嫌だし、何より
マキナ
服が返り血で汚れるのは嫌だ。
メイド8
「6ペンスコインの破棄を、お願いいたします」
鏖田 ネイル
「……それで」
メイド8
深く頭を下げる。
鏖田 ネイル
「あちらのペアは、棄権という事でいいのか?」
鏖田 ネイル
メイドに向かって投げかける。
ヨハン
「僕に……」
ヨハン
「僕に指図するなァ!」大声が響いた。
ヨハン
「帰らせてもらう。ついてこい、マキナ!」
ヨハン
「せいぜい、穴の抜けたトーナメントを、寂しい空気の中、楽しむことだ」
メイド4
「いえ。この儀式に棄権はございません」
ヨハン
「黙れと言っている!」
ヨハン
「案内しろ。女中。さもなくば」
ヨハン
レイピアをメイドへと向ける。
ヨハン
「このトーナメントの開幕は、お前の血で彩られる事となるだろう」
マキナ
ああ~。
メイド8
「ご協力頂けない、ということですね」
マキナ
雲行きが怪しいですねえ~。
網倉 霞
雲行きが怪しいな~。
メイド8
眉一つ動かさず、ヨハンの目を見て答える。
網倉 霞
どうしようかなー、と思って見ています。
ヨハン
「当然だ」
鏖田 ネイル
このまま棄権するか抹殺されてくれれば楽ができていいな、と考えている。
ヨハン
「早くしろ。死にたくなければな!」
マキナ
手出しも口出しもせず見守っています。
網倉 霞
棄権ならありがたいけど、逆上して暴れられたらやだなー。
メイド8
「まったく、残念です」
マキナ
こうなったヨハンをマキナがどうこうできる筈はないので。
メイド8
ため息をついて、腰に下げたレイピアに手を掛ける。
メイド8
閃く。
メイド8
鮮血が迸る。
マキナ
「……え?」
ヨハン
「………………」
ヨハン
「……な」
メイド8
細い剣がヨハンの首を貫いている。
ヨハン
「に…………!?」
ヨハン
「がっ……! あああっ!?」
マキナ
「…………!?!?」
鏖田 ネイル
「なるほど」
網倉 霞
このまま殺してもらえたら楽だな、と思いながら見ている。
メイド8
ヨハンは間違いなく強力な救世主だ。たかが末裔の一振りを、見切れないはずはない。
メイド8
いや。
網倉 霞
でもこの傷だと……死ななさそうかもしれない。残念。
マキナ
「な……あ……」
メイド8
剣を引き抜く。傷から勢いよく血が噴き出す。
ヨハン
「……かっ……」
ヨハン
倒れる。
マキナ
ヨハンの首に剣が刺さるのを、鮮血が飛沫を上げるのを、
鏖田 ネイル
おっと、足元まで血が飛んだな。半歩下がっておこう。
マキナ
ただ呆然と見ていた。
ヨハン
「ま、マキナぁ……」掠れた声で。
網倉 霞
同じく半歩下がる。もう一発やってくれないかな、と思いながら。
マキナ
マキナの強者に擦り寄る本能が告げている。
ヨハン
「助けろ……!何をしてる!早くしろ、鈍間がぁ……!」
マキナ
”このメイドに逆らってはいけない”
マキナ
ヨハンの声に、ぶんぶんと首を振る。
マキナ
「む……無理……」
ヨハン
「ごほっ、何をっ……」
メイド8
再び、剣先でかするように首を裂く。
ヨハン
「こぽっ」
マキナ
何より、マキナに傷を治す力はあっても、
ヨハン
マキナへと向けて伸びた手が落ちる。
マキナ
判決を覆す力はない。
メイド8
「私どもは救世主様に仕え、共に儀式を執り行う8人のメイドでございます。私どもは儀式そのものであり、今やこの館は我々が法。どうか儀式を円滑に進行すべく、私どもの申し上げます頼み事には快諾いただきますよう、お願いいたします」
ヨハン
馬鹿な。
マキナ
下された死刑を覆す力など。
ヨハン
何だ、何だこれは。
メイド8
先ほど述べた言葉を繰り返す。
ヨハン
死ぬのか。ここで?こんな、こんな下らない事で?
ヨハン
ここまで、成功を繰り返してきた。
ヨハン
全てが上手く行っていた。
マキナ
「あ……アハハ……」
ヨハン
自分は死ぬはずがないと、
メイド4
脇に控えていたメイドが、倒れたヨハンに近づく。
ヨハン
どこかで、そう思っていた。
ヨハン
もう、声も出ない。
マキナ
マキナもまた、そう思っていた。
ヨハン
自分は、裏切られたのか?
メイド6
それぞれが両腕両脚を持ち、運ぶ。
マキナ
血を見ることになる予感はあった。
マキナ
でも、流される血がヨハンのものになろうとは。
ヨハン
景色が、ぼやける。動いている気がする。
メイド7
真ん中にでん、と置かれたゴミ箱に。
ヨハン
それすらも、もはや分からなくなり。
メイド3
放り込む。
ヨハン
意識はゆっくりと閉じられた。
マキナ
呆然と、それを見送る。
ヨハン
会場には、血だまりだけが残っている。
マキナ
「………………」
マキナ
「…………マジ?」
鏖田 ネイル
一閃、二閃、どちらも急所を的確に裂いていた。全く見事な手並みだ。だが……
鏖田 ネイル
「それで」
マキナ
「ま、マキナはどうなるのでしょぉ……?」
鏖田 ネイル
「我々の相手は?」
マキナ
「マキナ何もしてませんよね!?」
網倉 霞
あの男の噂は聞いていた。噂が正しければ、あの太刀筋を見きれないはずがない気がするけど。
マキナ
「わ、悪くないですよね!」
メイド8
「この儀式に棄権はございません」
マキナ
「ねぇ!?」
マキナ
「じゃあどうなるんですかマキナは!」
メイド8
「そして、この儀式は必ずペアで執り行わなければございません」
マキナ
「ヨハンのアホが勝手に歯向かっただけで……」
マキナ
「マキナは、あの……ちゃんと従いますから!」
マキナ
「あ、コインも!」
マキナ
懐から小さな袋を取り出して、
マキナ
10枚分を取り出して、残りを捨ててしまう。
メイド8
「ご協力、ありがとうございます」
網倉 霞
「……。……死人が出たらその時点で決着って言ってたし、たぶん死んでないな」
マキナ
「ね? ね?」
メイド8
微笑んで、頭を下げる。
鏖田 ネイル
「まぁ、何かはあるんだろう」
マキナ
「ま、マキナは不戦敗だったり……」
マキナ
「しません……よね……?」
網倉 霞
懐から大きい袋を取り出す。
網倉 霞
たっぷりとコインが詰まっているようで、持ち上げれば重い音がなる。
マキナ
メイドの顔色を窺いながら、不安そうに震えています。
メイド8
「小鴨知歌様。どうぞこちらへ」
鏖田 ネイル
「なるほど、そういう事か」
気弱そうな観客
「えっ、えっ」
気弱そうな観客
「えっ!?」
マキナ
「……!!」
マキナ
縋るように、新たな参加者の方を振り向いて。
気弱そうな観客
「あの、まさか、まさかとは思いますけどぉ……」小さな声が、しかし沈黙の会場に響き渡る。
マキナ
「…………」
マキナ
「……………………」
気弱そうな観客
「これって……その、どういう?」
マキナ
「…………チェンジ!!!!」
マキナ
気弱そうな観客を指差して叫ぶ。
メイド8
「あなたはオールドメイドゲームの救世主に選ばれたのです」
マキナ
「めっっっちゃめちゃ弱そうじゃないですかぁ!!」
鏖田 ネイル
視線を辿り、観客の中から一人導き出された存在を見つめ……
マキナ
「ヨハン様は性格はクソだったけどちゃんと強かったんですよ!?」
気弱そうな観客
「アハ、アハハ、ハ」
鏖田 ネイル
「……っ!」
一瞬、息を飲む。もとより凶悪な目つきが一層鋭くなった。
気弱そうな観客
「参加。え、ぼくが?」
マキナ
「あなた! 裁判の経験は!?」
メイド8
「はい。あなた様は客室8号室の救世主様です」
気弱そうな観客
「でっ」
メイド8
「精一杯お仕えいたしますので、よろしくお願いいたします」
気弱そうな観客
「ですよねぇ~~~~!?」
メイド8
深々と頭を下げる。
網倉 霞
「まあ……でも、俺たちもコイン、捨てるんでしょ?」
マキナ
「ねぇ!?」
気弱そうな観客
「しゃいばん……」
マキナ
「ちゃんと戦えるんですか!?」
網倉 霞
「10枚ずつなら平等だね、よかったね」微笑む。
鏖田 ネイル
「………………」
気弱そうな観客
「よ、よくわかんなひ…………」
鏖田 ネイル
思案している。
マキナ
「あ~~~~~!」
マキナ
「終わった~~~~~~!!!」
鏖田 ネイル
いや、捨てるのは問題ない。300枚程度では、あのメイドには届くまい。
マキナ
「終わった!!!!」
マキナ
「ヨハン様のアホ~~~」
マキナ
「なんで死んじゃうんですか~~~!」
鏖田 ネイル
だが問題は、あの人物……
マキナ
ゴミ箱につかつかと歩み寄る。
マキナ
「アホ!!」
マキナ
蹴飛ばす。
メイド8
「ええ、どちらも同じ枚数のコインです。対等な戦いでございます」
マキナ
「対等!?」
網倉 霞
そっかー、死んだんだな……
メイド4
「猟奇、才覚、愛。それがすべてでございますよ」
マキナ
気弱そうな少年と対戦相手を見比べています。
気弱そうな観客
「あの、ぼく、コイン10枚しかないんですけど……」
気弱そうな観客
「す、捨てなくても大丈夫れすか……?」
マキナ
絶望の表情になっています。
網倉 霞
無表情で眺めています。
網倉 霞
どうしようかな。
マキナ
アアアーー!!
鏖田 ネイル
人の手首程もある杭をコートの下に巻きつけている。戦闘中はそれを相手に突き刺すのだろう事が容易に想像できるだろう。
鏖田 ネイル
しかも今はとても顔が怖い。
メイド8
「10枚でしたら、そのままで大丈夫です」
メイド8
微笑む。
マキナ
なんのためにヨハン様に我慢して従ってきたと思ってるんですか!?
マキナ
ねぇ!!
気弱そうな観客
「うん、はい。あのね?」
マキナ
心の中でヨハンにブチ切れても、なんにもなりません。
気弱そうな観客
「さっきのあれを見せられたらそりゃね、もう、逆らえませんよ、逆らえねーけど!」
マキナ
頭を抱えている。
網倉 霞
こっちは隣の目付きの悪い女と比べたら怖くはなさそうだけど。
メイド8
「助かります」
気弱そうな観客
「一つだけ、一つだけ言いたい!逆らわないから、一言だけ!」
メイド8
「はい」
気弱そうな観客
大きく息を吸う。
気弱そうな観客
「イヤダーーーーーーーーーーーッ!!!!」
メイド8
微笑んでいる。
マキナ
ぶんぶんと首を縦に振っています。
網倉 霞
そうだねって思いました。じっと真顔で見つめています。
マキナ
同意の仕草です。
気弱そうな観客
やだーーーーーー!!!!!!!
マキナ
終わった……………………。
気弱そうな観客
もうおしまいです。
マキナ
返り血を拭くこともできないまま、呆然と立ち尽くす。
網倉 霞
コインを持って、死んだばかりの男が入っている箱へ。
網倉 霞
袋にミントの香りをつけて。
マキナ
相手はあれだけコインを持ってる歴戦の救世主で?
メイド4
「どうもありがとうございます」
マキナ
自分は戦うのとか向いてなくて?
マキナ
相棒がヨハン様じゃなくて…………アレ!!
網倉 霞
ヨハンの上に落とす。じゃらじゃらと音を立てて、死体の上に散らばる。
マキナ
気弱そうな少年を見る。
マキナ
深々とため息をつく。
網倉 霞
「蓋しといてくれませんか」メイドの方を向いて言う。
メイド4
血に絡め取られて、ゆっくりと滑るようにコインがゴミ箱の底へ流れる。
メイド4
「かしこまりました」
メイド4
蓋をする。
メイド6
運び出す。
マキナ
もはやそれに一瞥をくれることもない。
網倉 霞
臭いがなくなってよかったなと思いました。
マキナ
その余裕がない、というのが正確だが。
鏖田 ネイル
「……霞、気づいたか」
網倉 霞
「……ん」
メイド4
「それでは、客室4号室、鏖田ネイル様、 網倉霞様と」
鏖田 ネイル
「お前もそう思うなら、やはりそうか。新しく選ばれたあの少年……」
鏖田 ネイル
「鼻が糸田さんに似ている」
網倉 霞
「……………………」
鏖田 ネイル
「もしや、糸田さんなのではないか……?」
網倉 霞
「そっか……」
メイド8
「客室8号室、マキナ様、小鴨知歌様の」
マキナ
「ひゃい…………」
鏖田 ネイル
尚、鏖田がコレと似たような事を言い出すのは、堕落の国に来てから7回目だ。
網倉 霞
それ俺にも似てるってことじゃんって思いました。
マキナ
会話の内容は聞こえないけど、なんか会話してる……。
メイド4
「お茶会を開始いたします」
マキナ
多分こっちに勝つ方法とかもう考えてるんだ……。
網倉 霞
怪しそうな会話に見えます。
マキナ
こわいよ~~。
鏖田 ネイル
とても深刻な事に気づいたような表情をしている……
網倉 霞
めちゃくちゃ難しそうな顔をしてます。
マキナ
ビクビクッ
小鴨 チカ
「ひゃい……」
小鴨 チカ
もう、対戦相手とか見ている余裕すらない。
小鴨 チカ
その少年、小鴨チカは、勝利を目指すどころではなく、これからトーナメントに参加する覚悟を決めることになるのだった。
網倉 霞
でも、口は糸田さんに似てる気がするんだよな。
網倉 霞
とても難しい顔でそう思いました。
GM
救世主はみんな、狂っています。