プロローグ
GM
捨て札、切り札、上がり札、
手に手をとって、折り重なって、
最後に残るはスペードのQ。
GM
こぼれて外れた奇跡の欠片、
集めてまとめて、あなたのために。
GM
―― Dead or AliCe『16人の救世主』
GM
在りし日の物語が褪せていく堕落の国で、いまだ不思議が残された棚井戸。
GM
何もかもがゆっくりと落ちていくその中程に、落ちることなく宙に留まる館がある。
GM
美しく手入れが届いたその館に、たくさんの人が溢れかえっている。
GM
この地にて行われる伝説の儀式、オールドメイドゲーム。
GM
16人の救世主が殺し合うその儀式を見届けるべく、まだかまだかと中庭を眺める。
登場-4号室
GM
押し開けるのは兎耳のメイド。仮面を被り、剣を携えている。
メイド4
「私が仕えますのは、客室4号室の救世主」
メイド4
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
鏖田 ネイル
油断なく、周囲の気配に気を配りつつ歩く、異様に鋭い目つきの女。
鏖田 ネイル
身の丈180センチはある長身にロングコートを纏い、その下には木製の杭が見える。
鏖田 ネイル
物々しい装備は、この堕落の国へと堕ちる前、ヴァンパイアハンターとして活動していた頃からの愛用品だ。
鏖田 ネイル
そして周囲の全てを敵と想定し睥睨するその姿も、表情の一切が不動で無口なのも、その頃から変わらないままだった。
網倉 霞
その隣をふらりと歩く、もうひとりの人影。身長はさほど高くない。
網倉 霞
遠くからではそれが男であるか女であるかわからない。服は分厚く、その下の手足が見えることはない。
網倉 霞
観客のほうには目を向けることなく。俯くこともせず。ただ、前を向いて。橙色の瞳は重たい無表情。
網倉 霞
突然現れ、半年で多くの救世主を殺したとか。
網倉 霞
どのような人物でも見境なく殺すように見えるから、人々におそれられているとか、いないとか。
網倉 霞
ただ、その姿を実際に見た救世主はほとんどいないだろう。
網倉 霞
出会った救世主は、必ず消息を絶っているからだ。
登場-8号室
メイド8
「私が仕えますのは、客室8号室の救世主」
メイド8
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
ヨハン
顎を上げ、威張り散らしたような仕草で歩く男。
ヨハン
華美な装飾のコートに、長いブーツ。決闘者のような出で立ちをしている。
ヨハン
その男は、亡者を狩り、救世主を狩り、末裔を狩り、暴虐の限りを尽くした傲慢で悪名高い救世主。
ヨハン
彼は不快感を顕にした面持ちを隠そうともせず、眉をしかめて周囲を見回した。
マキナ
ヨハンの数歩後ろで、派手な髪色の女が歩を進める。
マキナ
ぽやぽやと、観客席に手などを振ってみせる。
マキナ
自身は救世主を狩る程の力を持たないながら、ヨハンに取り入って半年近くこの堕落の国での生存を勝ち取っている。
儀式開始
メイド4
「この刺剣の館にてオールドメイドゲームの儀式が発動され、16人の救世主が集まりました」
メイド4
救世主と共に立つ2人のメイドと、その脇に控える6人のメイド達。
メイド8
「私どもは救世主様に仕え、共に儀式を執り行う8人のメイドでございます。私どもは儀式そのものであり、今やこの館は我々が法。どうか儀式を円滑に進行すべく、私どもの申し上げます頼み事には快諾いただきますよう、お願いいたします」
メイド4
「さて、16人の救世主達は8つのペアとなり競い合います」
メイド8
「最も力があるものと認められたペアには、奇跡の力がもたらされます」
メイド4
「その力は、あらゆる願いが叶うとされます」
メイド8
「救世主と救世主が合間見れば、することは勿論、お茶会、そして裁判です」
メイド4
「これより24時間のお茶会時間の後に、再びこの中庭へ集まり、裁判を執り行います」
メイド8
「お茶会を助けるために、救世主らにはそれぞれ、2通の招待状を渡します」
メイド8
それぞれのメイドは救世主ひとりひとりに2通の封筒を手渡す。
ヨハン
受けとろうとはせず、マキナに受け取らせる。
網倉 霞
受け取って、それを眺める。……あの日男から奪ったものと似たような封筒。
網倉 霞
封筒の端がじわりと透明な毒で濡れていく。
メイド4
「この封筒に名前を記してメイドに渡せば、記した相手を強制的に、あなたがたの元に転送することができます。心の疵の戦いは、剣と剣の交わりのみにあらず。上手くご活用ください」
メイド8
「また、この館で見いだした品々は、ご自由にお使いください」
メイド4
「この儀式の裁判は、特別なルールがございます」
メイド8
「両方が昏倒した場合は勿論、ペアの片方でも死亡、亡者化した場合、そこで即刻敗北となります」
メイド4
「また発狂した救世主は、裁判後に亡者と化すリスクが知られていますが」
メイド8
「儀式の効力により、その亡者化を敗者に押しつけることが出来ます」
メイド4
「存分に形勢を逆転し、お狂い遊ばしませ」
メイド8
「さて。それでは公平性を期すため、お持ちの6ペンスコインを10枚までお減らしいただきます」
メイド1
メイドの一人がブリキ製のゴミ箱を、ガラガラ音を立てて運んでくる。
メイド1
出がらしの茶葉、林檎のヘタ、ワインのコルク栓に魚の骨。
メイド1
蓋を開けるとそこはかとなく臭うゴミ箱が、中庭の真ん中にでん、と置かれる。
網倉 霞
ミント系の香りを出して嗅覚を誤魔化しながら。
鏖田 ネイル
ついと視線をもう一人に寄せる。さてどうするか。
ヨハン
「…………」手元のコインを見つめる。ちゃり、と金属音が小さく鳴った。
マキナ
コインを捨てろなどと言われた彼がどうなるのか
メイド8
観客のざわつきに対して、中庭は異様な緊張で張り詰めている。
ヨハン
「何より、この僕を見世物にしようという魂胆が気に食わん」
ヨハン
「こんな何処の馬の骨かも分からん奴が開いた催しに、寄付をするためのものではない」
ヨハン
「貴様ら。自らこの茶番に望んで現れたのか?」
ヨハン
「愚鈍、阿呆、能天気。呆れて溜息も出ない!」
ヨハン
「貴様ら。高見の見物をしていられるのも今だけだ!」
マキナ
ヨハンは口先だけではない、実力と才覚を持つ救世主だ。
マキナ
だが……彼の人格面ははっきり言って最悪だった。
マキナ
こういう時、ヨハンの手の届く範囲からは離れるに限る。
メイド8
「6ペンスコインの破棄を、お願いいたします」
鏖田 ネイル
「あちらのペアは、棄権という事でいいのか?」
ヨハン
「せいぜい、穴の抜けたトーナメントを、寂しい空気の中、楽しむことだ」
ヨハン
「このトーナメントの開幕は、お前の血で彩られる事となるだろう」
メイド8
眉一つ動かさず、ヨハンの目を見て答える。
鏖田 ネイル
このまま棄権するか抹殺されてくれれば楽ができていいな、と考えている。
網倉 霞
棄権ならありがたいけど、逆上して暴れられたらやだなー。
マキナ
こうなったヨハンをマキナがどうこうできる筈はないので。
メイド8
ため息をついて、腰に下げたレイピアに手を掛ける。
網倉 霞
このまま殺してもらえたら楽だな、と思いながら見ている。
メイド8
ヨハンは間違いなく強力な救世主だ。たかが末裔の一振りを、見切れないはずはない。
網倉 霞
でもこの傷だと……死ななさそうかもしれない。残念。
メイド8
剣を引き抜く。傷から勢いよく血が噴き出す。
マキナ
ヨハンの首に剣が刺さるのを、鮮血が飛沫を上げるのを、
鏖田 ネイル
おっと、足元まで血が飛んだな。半歩下がっておこう。
網倉 霞
同じく半歩下がる。もう一発やってくれないかな、と思いながら。
ヨハン
「助けろ……!何をしてる!早くしろ、鈍間がぁ……!」
メイド8
「私どもは救世主様に仕え、共に儀式を執り行う8人のメイドでございます。私どもは儀式そのものであり、今やこの館は我々が法。どうか儀式を円滑に進行すべく、私どもの申し上げます頼み事には快諾いただきますよう、お願いいたします」
ヨハン
死ぬのか。ここで?こんな、こんな下らない事で?
メイド4
脇に控えていたメイドが、倒れたヨハンに近づく。
マキナ
でも、流される血がヨハンのものになろうとは。
鏖田 ネイル
一閃、二閃、どちらも急所を的確に裂いていた。全く見事な手並みだ。だが……
網倉 霞
あの男の噂は聞いていた。噂が正しければ、あの太刀筋を見きれないはずがない気がするけど。
メイド8
「そして、この儀式は必ずペアで執り行わなければございません」
マキナ
「ヨハンのアホが勝手に歯向かっただけで……」
マキナ
「マキナは、あの……ちゃんと従いますから!」
マキナ
10枚分を取り出して、残りを捨ててしまう。
網倉 霞
「……。……死人が出たらその時点で決着って言ってたし、たぶん死んでないな」
網倉 霞
たっぷりとコインが詰まっているようで、持ち上げれば重い音がなる。
マキナ
メイドの顔色を窺いながら、不安そうに震えています。
マキナ
縋るように、新たな参加者の方を振り向いて。
気弱そうな観客
「あの、まさか、まさかとは思いますけどぉ……」小さな声が、しかし沈黙の会場に響き渡る。
メイド8
「あなたはオールドメイドゲームの救世主に選ばれたのです」
マキナ
「めっっっちゃめちゃ弱そうじゃないですかぁ!!」
鏖田 ネイル
視線を辿り、観客の中から一人導き出された存在を見つめ……
マキナ
「ヨハン様は性格はクソだったけどちゃんと強かったんですよ!?」
鏖田 ネイル
「……っ!」
一瞬、息を飲む。もとより凶悪な目つきが一層鋭くなった。
メイド8
「はい。あなた様は客室8号室の救世主様です」
メイド8
「精一杯お仕えいたしますので、よろしくお願いいたします」
網倉 霞
「まあ……でも、俺たちもコイン、捨てるんでしょ?」
網倉 霞
「10枚ずつなら平等だね、よかったね」微笑む。
鏖田 ネイル
いや、捨てるのは問題ない。300枚程度では、あのメイドには届くまい。
メイド8
「ええ、どちらも同じ枚数のコインです。対等な戦いでございます」
メイド4
「猟奇、才覚、愛。それがすべてでございますよ」
マキナ
気弱そうな少年と対戦相手を見比べています。
気弱そうな観客
「あの、ぼく、コイン10枚しかないんですけど……」
気弱そうな観客
「す、捨てなくても大丈夫れすか……?」
鏖田 ネイル
人の手首程もある杭をコートの下に巻きつけている。戦闘中はそれを相手に突き刺すのだろう事が容易に想像できるだろう。
メイド8
「10枚でしたら、そのままで大丈夫です」
マキナ
なんのためにヨハン様に我慢して従ってきたと思ってるんですか!?
マキナ
心の中でヨハンにブチ切れても、なんにもなりません。
気弱そうな観客
「さっきのあれを見せられたらそりゃね、もう、逆らえませんよ、逆らえねーけど!」
網倉 霞
こっちは隣の目付きの悪い女と比べたら怖くはなさそうだけど。
気弱そうな観客
「一つだけ、一つだけ言いたい!逆らわないから、一言だけ!」
気弱そうな観客
「イヤダーーーーーーーーーーーッ!!!!」
網倉 霞
そうだねって思いました。じっと真顔で見つめています。
マキナ
返り血を拭くこともできないまま、呆然と立ち尽くす。
網倉 霞
コインを持って、死んだばかりの男が入っている箱へ。
マキナ
相手はあれだけコインを持ってる歴戦の救世主で?
網倉 霞
ヨハンの上に落とす。じゃらじゃらと音を立てて、死体の上に散らばる。
網倉 霞
「蓋しといてくれませんか」メイドの方を向いて言う。
メイド4
血に絡め取られて、ゆっくりと滑るようにコインがゴミ箱の底へ流れる。
網倉 霞
臭いがなくなってよかったなと思いました。
メイド4
「それでは、客室4号室、鏖田ネイル様、 網倉霞様と」
鏖田 ネイル
「お前もそう思うなら、やはりそうか。新しく選ばれたあの少年……」
鏖田 ネイル
「もしや、糸田さんなのではないか……?」
鏖田 ネイル
尚、鏖田がコレと似たような事を言い出すのは、堕落の国に来てから7回目だ。
網倉 霞
それ俺にも似てるってことじゃんって思いました。
マキナ
会話の内容は聞こえないけど、なんか会話してる……。
マキナ
多分こっちに勝つ方法とかもう考えてるんだ……。
鏖田 ネイル
とても深刻な事に気づいたような表情をしている……
小鴨 チカ
もう、対戦相手とか見ている余裕すらない。
小鴨 チカ
その少年、小鴨チカは、勝利を目指すどころではなく、これからトーナメントに参加する覚悟を決めることになるのだった。
網倉 霞
でも、口は糸田さんに似てる気がするんだよな。