Dead or AliCe
『16人の救世主』

プロローグ

GM
  …ダイヤの8にスペードの8…
GM
    …ハートのAにクラブのA…
GM
…スペードの10にハートの10…
GM
     …クラブの5にスペードの5……
GM
捨て札、切り札、上がり札、
手に手をとって、折り重なって、
最後に残るはスペードのQ。
GM
こぼれて外れた奇跡の欠片、
集めてまとめて、あなたのために。
GM
―― Dead or AliCe『16人の救世主』
GM
GM
在りし日の物語が褪せていく堕落の国で、いまだ不思議が残された棚井戸。
GM
何もかもがゆっくりと落ちていくその中程に、落ちることなく宙に留まる館がある。
GM
刺剣の館。
GM
美しく手入れが届いたその館に、たくさんの人が溢れかえっている。
GM
この地にて行われる伝説の儀式、オールドメイドゲーム。
GM
16人の救世主が殺し合うその儀式を見届けるべく、まだかまだかと中庭を眺める。
GM
 

登場-2号室

GM
重たい両開きの扉が開く。
GM
押し開けるのは兎耳のメイド。仮面を被り、剣を携えている。
GM
彼女は真っ直ぐ中庭へと歩く。
GM
「私が仕えますのは、客室2号室の救世主」
GM
開かれた扉の奥に、2人の姿が現れる。
GM
「虚月様、夜目菜様」
GM
湧き上がる歓声の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
虚月
兎耳のメイドについてゆらゆらと長い尾を揺らしながら歩んでいく。
虚月
「これはまた随分と賑やかな式典ですね。」
 ちいさな子供へ投げかけるようにして微笑む。
夜目菜
そのうしろに、少し困ったようによちよちと。
夜目菜
「こんなに人が多いのは、儀式以来では……」
虚月
「おや。そういえば夜目菜はこういう祭事は初めてでしたね。」
虚月
「なんのことはありません、いつものように胸を張っておればよいのですよ。」
夜目菜
「はいっ、よめなはだいじょうぶ!だいじょうぶですとも」
夜目菜
「かみさまの胎として立派にやってみせますとも」
虚月
「まぁまぁ、気をはらず呼吸をゆっくりと。」
 後ろから手を添えて、易く抱え上げる。
夜目菜
「きゃあ!かみさま、かみさま!高いです!」
夜目菜
「あ~~~」
虚月
「過度な緊張は胎の子にも悪いのですから。
 ほら、顔を上げて。あれはぜんぶ芋っころ…有象無象に過ぎません。」
夜目菜
見た目は少女というにもやや幼い、不自然に大きな胎をした子供だ。
夜目菜
白い髪をした男にあやされるように抱かれながら、不安げに視線をめぐらせる。
夜目菜
「はい……いもっころ、心得ました」
虚月
「そうそう、いも、いも、いも…………
  んむ、なんだか腹が減りましたね。」
夜目菜
細い首に甘えるように腕を回して。観客席に向かって、小さく片手を振ってみせた。
虚月
観客の視線に気が付いて、手を振り振り。
虚月
「あの芋などとてもうまそうではありませんか?」
夜目菜
「よめなはふかしたやつがいいです……」
夜目菜
派手な身なりはしているが、子供だ。どこまでも。
夜目菜
そして身重だ。
夜目菜
あきらかに、その胎は大きい。
虚月
一方、偽りながらもかの国では神を名乗っていた男。
振る舞いは高貴にたおやかに。聴衆からの視線も慣れたものだ。
虚月
大きな胎を愛おしそうに撫でる。
虚月
その大きな胎の中には神の子を宿している。国では大切な宝である。
虚月
普段は厳重な社に祀られているその身体も、この場では好奇の対象だ。
けれど、表情を崩す事なく 等しく微笑みかける。
夜目菜
そうしてその傍に侍るのが夜目菜と呼ばれる娘である。
臨月の大きな胎を抱えて三カ月ほど、神とあがめるこの男と、
堕落の国で過ごしている。
夜目菜
贄として捧げられ、胎として育ち、今はその身に神の子を宿しーー
夜目菜
この死合に参加した。
虚月
一方遣える神の方は暢気なもので、堕落の国で飯を食らうだけの旅行気分。
虚月
この命をかけた大試合も、「なんだか面白そう」そんな理由での参戦である。
虚月
どうせなら旨い飯と面白い人に出会えれば万々歳。
虚月
観衆すらも、馳走のひとつにしか見えていないのかもしれない。
夜目菜
……なお、この死合への招待状は夜目菜のもぎとった”戦利品”である。

登場-3号室

メイド3
次いで、同じ装いのメイドが現れる。
メイド3
彼女は真っ直ぐ中庭へと歩く。
メイド3
「私が仕えますのは、客室3号室の救世主」
メイド3
開かれた扉の奥に、2人の姿が現れる。
メイド3
「鏡のアリシア様、女王のミラリア様」
メイド3
湧き上がる喝采の中、2人は真っ直ぐ、中庭へと歩く。
ミラリア
カッ!
ミラリア
鉄靴の足音が、高く響く。
ミラリア
綺羅びやかな衣装に身を包み、髪の尾を空に揺らし、存在そのものを主張させながら、真っ直ぐに舞台へと進む。
ミラリア
「フン……表舞台も、久しぶりなものだ」
アリシア
それに並んで歩く、瓜二つの娘。
寸分違わない足取り身振りで、中央へ歩を進めてゆく。
アリシア
正面から見れば、その光景はまるでそう……鏡を合わせたかのようだ。
アリシア
双子だろうか?
異なるのは……強い意志を秘める燃える赤ではなく、
妖しい緑の光を、双眸にたたえているということ。
アリシア
「ええ、ええ、長い辛苦の日々でございましたね、女王様!
 王たるもの、血と影よりも喝采と光が、その身にふさわしいというのに!」
ミラリア
「全くだ。永すぎた。だが、影に潜むのももはやこれまで……」
ミラリア
「最後には、光差す元、躯の山を踏み潰し!
 そして全てを手にしてやろう」
ミラリア
女王の『ミラリア』。
率先して刺剣の館に駆けつけた、
"積極的な"救世主の一人。
ミラリア
堕落の国に堕ちてからは8ヶ月程だが、
救世主としての知名度は、ほぼ皆無。
ミラリア
これまで殺してきた救世主のほぼ全てを、
闇の中で葬ってきたからだ。
ミラリア
目立たず、密やかに、
一方的に情報を握り、
変装し、暗躍し、
ミラリア
引きずり出し、一人にさせ、
ありとあらゆる優位と不利を図り切り、
ただ殺してきた。
ミラリア
──何故、そのようなことが出来たのか?その理由は、彼女の"相方"にある。
ミラリア
「なあ、アリシア?」
アリシア
「ええ! そしてこのアリシアが──
 あなたの美しき御姿を、
 永久に映し続けることでしょう!」
アリシア
鏡の『アリシア』。
アリシア
すでに気づいているものもいるが、彼女は人間
──救世主にそう呼んでいいものがいるかはわからない──
ではない。
アリシア
すべての問いに答える、真実の鏡。
それが彼女の正体だ。
アリシア
ミラリアの暗躍を成立させていたのは、
この鏡が齎す『真実』──情報の優位によるものと
言って過言ではない。
アリシア
むろん、この姿も、彼女自身のものではない。
ただ今、ミラリアの臣下として、その姿を映しているにすぎない。

儀式開始

メイド2
「この刺剣の館にて、オールドメイドゲームの儀式が発動され、16人の救世主が集まりました」
メイド2
救世主と共に立つ2人のメイドと、その脇に控える6人のメイド達。
メイド3
「私どもは救世主様に仕え、共に儀式を執り行う8人のメイドでございます。私どもは儀式そのものであり、今やこの館は我々が法。どうか儀式を円滑に進行すべく、私どもの申し上げます頼み事には快諾いただきますよう、お願いいたします」
メイド3
メイド達は深々と礼をする。
メイド2
「さて、16人の救世主達は8つのペアとなり競い合います」
メイド3
「最も力があるものと認められたペアには、奇跡の力がもたらされます」
メイド2
「その力は、あらゆる願いが叶うとされます」
メイド3
「救世主と救世主が合間見れば、することは勿論、お茶会、そして裁判です」
メイド2
「これより24時間のお茶会時間の後に、再びこの中庭へ集まり、裁判を執り行います」
メイド3
「お茶会を助けるために、救世主らにはそれぞれ、2通の招待状を渡します」
メイド3
それぞれのメイドは救世主ひとりひとりに2通の封筒を手渡す。
ミラリア
「ふむ」受け取る。
虚月
「おや!茶会ですか? そこに馳走はでますか?」
夜目菜
受け取り、目を輝かせる。
虚月
「楽しみですねぇ、夜目菜。」 受け取って。
アリシア
「こんな鏡風情でもよろしくて?」受け取ります。
メイド2
「この封筒に名前を記してメイドに渡せば、記した相手を強制的に、あなたがたの元に転送することができます。心の疵の戦いは、剣と剣の交わりのみにあらず。上手くご活用ください」
メイド3
「また、この館で見いだした品々は、ご自由にお使いください」
夜目菜
「あのひとたちとあそべるのね?たのしみです!」
ミラリア
「……随分と気の抜けた奴らが相手になったものだな。ほう、転送か……」
アリシア
「随分便利そうでございますねぇ~っ! 鏡にもワープ機能ほしかったです!」
虚月
「ふふ、美しい者はわたしも大好物です。
 旨い馳走と共に語らいましょう! 
 よろしくお願いしますね、お美しいお二方。」
虚月
にこりと笑って。
アリシア
ほら……あるじゃん? 鏡に入ると……別の鏡から出てくるやつ。
夜目菜
対戦相手に向かってふりふりと手を振った。
ミラリア
「そうであれば更に酷使してやったものをな。」
アリシア
「女王様のために働くことが鏡の幸福でございますから~」
ミラリア
「……フン。わたしが美しいのは当然として、こちらも小指の先っぽ程度はよろしくしてやろう」
夜目菜
「小指のさきっぽですって!かわいいね、かみさま!」
ミラリア
敵意を売ることだけが、勝利の道とは限らない。疵を暴く場合には、殊更。
虚月
「はい、それでは小指ほどに。」 小指を折って
アリシア
「アリシアの美しさは女王様の美しさでございますよ~! でも、鏡を褒めていただいてうれしいですッ!」
ミラリア
「…………」イラッ。としたが、それを表には出さないでおいた。
虚月
「ふふ、鏡様は女王様を愛していらっしゃるのですね。」
メイド2
「この儀式の裁判は、特別なルールがございます」
メイド3
「両方が昏倒した場合は勿論、ペアの片方でも死亡、亡者化した場合、そこで即刻敗北となります」
メイド2
「また発狂した救世主は、裁判後に亡者と化すリスクが知られていますが」
メイド3
「儀式の効力により、その亡者化を敗者に押しつけることが出来ます」
メイド2
「存分に形勢を逆転し、お狂い遊ばしませ」
メイド3
「さて。それでは公平性を期すため、お持ちの6ペンスコインを10枚までお減らしいただきます」
メイド1
メイドの一人がブリキ製のゴミ箱を、ガラガラ音を立てて運んでくる。
メイド1
出がらしの茶葉、林檎のヘタ、ワインのコルク栓に魚の骨。
メイド1
ジャガイモの皮に伸びきったパスタ。
メイド1
蓋を開けるとそこはかとなく臭うゴミ箱が、中庭の真ん中にでん、と置かれる。
メイド2
「それでは、どうぞ、お捨てください」
ミラリア
「………」反射的に距離をとった。
夜目菜
鼻を押さえて顔をしかめる。
虚月
覗き込み
「おや、死体はもう無くなったあとなのですね?」
アリシア
「まぁ~~~ッ! こんなものに女王様があくせくお集めになったコインを捨てろとッ!」
アリシア
「それはとっても……とっても……」
アリシア
「興奮いたしますねぇッ!」
ミラリア
 
アリシア
「アアアアアア!?」
ミラリア
「捨てるか」
アリシア
「今蹴った意味はッ!?」
虚月
「まぁまぁ愉快愉快!」
メイド3
メイドは黙って眺めながら待っています。
夜目菜
「きゃーっ!!お友達はだいじにしないと!」
虚月
「夜目菜はやさしい良い子ですね。」
アリシア
「しくしく……」(散らばった破片を拾い集めている)
ミラリア
じゃらじゃらと6ペンスコインを取り出しては、ゴミ箱の中に落としていく。何度も、何度も。
夜目菜
「……こほん」
夜目菜
「では、よめなが捨ててまいります」
アリシア
「ああ~~~ 美が毀損されていくッ……!」
虚月
「それでは。」 子袋を渡して、夜目菜を床へおろす。
ミラリア
「やむを得まいよ。これからたった3回、そして対等でいい戦いを勝ち抜けば……」
ミラリア
「それで、終わりだ。フ……」
夜目菜
ゴミ箱に向かい、ぽい、ぽいと一枚ずつ。
対戦相手と比べて、大した数ではない。
ミラリア
口ではそう言いながらも、伏せた目の先は、ゴミ箱の底へと向けられていた。
ミラリア
後ろの破片はさっきから見てない。
アリシア
「ええ!
 対等なコインの枚数なら……我々が真実(マジ)最強でございますッ!」
夜目菜
顔を上げ、上目で女王を見る。
夜目菜
「よろしくおねがいします」
夜目菜
そして、丁重に頭を下げた。
ミラリア
「そうだ。それが真実だ」
アリシア
真実OK!
虚月
「さてさて、どのくらいのお友達が増えるでしょうかねぇ。」
 愉快な対戦相手を眺めてころころと笑って 小さくぺこり
ミラリア
「………」見下す。「フン。薬指の先も追加してやるか?」
アリシア
「なんという慈悲~!」
夜目菜
「ではその薬指に、佳き糸が結ばれますように!」
夜目菜
鏡にもまた頭を下げると、よちよちと虚月のそばへと戻って行く。
虚月
両手を広げて迎え入れる。
ミラリア
「わたしは基本的には慈悲深いのだよ。………」
アリシア
「もちろん存じておりますよ~ 真実(ほんと)真実(ほんと)」
メイド2
「どうもありがとうございます」2号室のメイドはちょっと安心したような顔をしている……ような感じがする。仮面越しに。
メイド2
そうして、蓋をされたゴミ箱が運び出されていく。
ミラリア
「ハァ~~~…………………」ゴミ箱を目で追いながら、ため息をついていた。
アリシア
「どぉ~したんですかぁもぉ~」元気だして!
ミラリア
「……こうなればもはや、勝利を真実にするしかないということだ」
アリシア
「なーに真実(あたりまえ)のこと言ってるんですか!!」
メイド2
「それでは、客室2号室、虚月様、夜目菜様と」
メイド3
「客室3号室、鏡のアリシア様、女王のミラリア様の」
メイド2・3
「「お茶会を開始いたします」」
GM