プロローグ

GM
~導入1~
GM
鬱蒼と茂る森。
その木を切り拓いて作られた、中規模の拠点にあなたがたはいる。
GM
辺りを埋め尽くさんばかりに並ぶのは、箱に詰められた物資と、布でくるまれた三月兎。
ドードーの末裔が紙の資料を見比べて、公爵家エージェントと話す。
雇われのグリフォンの末裔たちがそれらの周辺で、飛び立つ支度を整えていた。
GM
しばらくして、そのうちの一人、リーダー格の公爵家エージェントが近付いてきて、あなたがたに声をかける。
GM
「救世主様方。こちら、いつでも出発できます」
「改めまして、この度は依頼を受けていただき、本当に感謝しております」
「なにせ、この状況で頼れるのはあなたがた以外にいませんから……」
GM
とある変わった救世主を補足する依頼の後、再びあなた方に申し入れられたのは、その救世主が失敗したという依頼。
GM
『黒の森』と呼ばれるこの場所の、その発生源となっている救世主についての調査。あるいは、討伐。
GM
駆け寄ってきたエージェントが、あなた方に今回の依頼に関する資料を渡す……
資料に書かれていた情報
・黒の森は暗く、あらゆる草木が枯れ果て、黒い結晶がそこかしこに生えている場所である。そこまで広くはなく、端から端まで歩くのには長くても半日程度だろう。
資料に書かれていた情報
・広くはないし迷わないはずなのだが、なぜか帰ってこれた者がほとんどいない。
資料に書かれていた情報
・たまに何かに吸い寄せられるようにして森に入っていく者がおり、近くにあった集落が壊滅した。
資料に書かれていた情報
・黒の森に入った場合、末裔はまず帰ってこない、たまに帰ってきた救世主は発狂していたり、そのまま自殺や失踪をしたり、ほぼ無反応の無気力状態、植物状態になったりする。
資料に書かれていた情報
・帰ってきた者には「黒結晶」と呼ばれる結晶が肉体から生えていたり、体の一部が結晶に置き換わっていたりする。
資料に書かれていた情報
・公爵家はこの現象を発生させている救世主をコードネーム「スティブナイト(stibnite)」と名付けたが、本当の名前も素性もわからない。いくつか目撃情報があるが、証言が食い違っている。
資料に書かれていた情報
・よくわからないが、放っておくと村一帯を滅ぼしかねない。危険な存在である。
資料に書かれていた情報
・過去にも何度か救世主に依頼を頼んだが、今まで全滅している。
資料に書かれていた情報
・以上のことから、周辺ではこの森は「絶望の森」と呼ばれており、怖がられている。
ナナ
「………」
ナナ
黙って資料に目を通す。
グラセ
視線を擡げる。
グラセ
「大筋は理解した」
メアリ
頷く。
グラセ
「この救世主はいつからここに居る」
グラセ
資料の“黒の森”を指す。
GM
「おおよそ数ヶ月前から、というのが公爵家の把握している情報です」
GM
「正確な情報については、その……近辺の集落が壊滅していることもあり、残っていないのですが」
ナナ
「あまり大きくないんだよね?そのスティブナイトは食べ物とかなくならないのかな?」
メアリ
「餓死してくれるなら楽ですが、そうもいかないでしょうね」
グラセ
「少なくとも、責務を数度はこなしているだろうからな」
グラセ
既に亡者になっている、という筋もなくはないが。
ナナ
「そういえば何か月もあるんだっけ」
ナナ
資料を行ったり来たりしている
ナナ
「亡者になっちゃったほうが危ないかもね」
ナナ
「やっぱり今やっつけちゃった方がいいんだろうね」
メアリ
「ここまで大事であれば報酬もたんまりいただけるかもしれませんし」
GM
「公爵家としては今の事態を重く受け止めており、我々にできる限りのサポートを行わせて頂きます」
GM
「具体的な内容については、資料の後半部分に記載がありますので……」
GM
*クエストを公開します
GM
*クエストNo.1「情報収集」クエストNo.2「物資支援」クエストNo.3「戦術補助」クエストNo.4「三月兎爆弾投下」が公開されました。
ナナ
増えた……という顔をしている
メアリ
得られるはずの報酬を数えている。
グラセ
「申し分ない内容、と言える」
グラセ
「……相応の依頼ということだろうが」
メアリ
「頂けるものは頂きたいですね!」
グラセ
「そうだな」
ナナ
こくこくと頷いている。
三月兎の末裔
三月兎の詰まった袋のほうから、見覚えのある顔が垣間見える。
三月兎の末裔
他の三月兎と何らかの手遊びをしていたそれは貴方達に気がつくと、救世主©!とぶんぶんと手を振っている。
メアリ
「三月兎©……」
メアリ
手が思い出しびりびりした。
ナナ
兵器として扱われていることを全く認識していないことに、もやつく何かがを感じる。
グラセ
一瞥だけする。
ナナ
そしてそれは、それほどなりふり構っていられない依頼であることを示している
メアリ
扱いに対しては何も思わない。
末裔なんてそんなものだ。
GM
配置換えをするのか、複数のグリフォンの末裔によってその袋が運ばれていく。
三月兎の末裔
またね!と、最後に手だけが振られた。
ナナ
とっさに手を振り返す。
GM
それもすぐに見えなくなる。
GM
「では、そろそろ調査の方へ……?」
ナナ
はーい、と三日月兎たちのことを頭から追い出して返事をする。
グラセ
頷く。
メアリ
「行きましょうか」
GM
「どうか、よろしくお願い致します」
GM
名も知らぬ末裔達が、救世主である貴方達に縋り、祈り、頭を下げて見送るのを横目に。
GM
貴方達は森へと踏み入った。
GM
GM
~導入2~
GM
そこは色を失った空間だった。
GM
辺りに響くのは、お前たちが踏み出した足が地面の結晶を割る音だけ。
GM
風も吹かず葉擦れの音ひとつしない不自然に静かな森に、その音が響いては、木々の隙間に吸い込まれて消えていく。
GM
黒く枯れた木には半透明の黒い結晶が生えており、手をつけば触れたところを傷付けるだろう。
GM
ここにはお前たちを加害するものしかない。
GM
精神も、肉体も、蝕んでいく。
GM
ゆっくりと、確実に。
GM
GM
中に入ってから見える景色に、事前の情報と違うものはない。
GM
枯れた森というのは、陽光を吸い込む葉が無い故に、イメージに反し通常であれば普通の森よりも明るいものだ。
GM
それでも、この森は暗い。
ところどころに生えた黒結晶が、まるで光を吸い込むように佇んでいるせいか。
ナナ
森に入る前から漂っていた、情報と見かけの違和感に納得がいく。
メアリ
枯れた木々が亡霊のように揺れているのを見た。
グラセ
死んだ森、というよりも、死そのもののような森を往く。
メアリ
木々に視界が塞がれる。襲われ、即座に隠れられたらすぐに対応は難しいだろう。
グラセ
「解ってはいたが、厭らしい気配だな」
ナナ
光が差さない。光が反射してこない。
枯れた森のはずなのに、寂しさと渇きではない。
メアリ
「陰湿~って感じですね」
ナナ
水晶の洞窟を灯りもなしで歩いているような感触。
ナナ
「う~~、乾いてるのにじっとりしてる」
ナナ
堕落の国がもともと乾いた世界である。
もちろんこの森にも水源になるようなところはないはずなのに。
ナナ
体にべったりとへばりつく、言葉にしがたい不快感がある。
GM
それは陰鬱であり、静謐であり、異様である。
GM
ただの乾いた空間とは違う、迷い込んだ者の口を噤ませる張り詰めた緊張感が体全体に張り付き、心を削るようだ。
GM
どこを見ても視界に入る黒結晶は、間違いなくその一因だろう。
それはどれをとっても鋭利で、人を傷つける形をして、怪しく不吉な力を感じさせている。
GM
公爵家の用意した資料が正しければ、このような空間が歩いて半日部分は続く。
GM
それは森の規模としては小さい。
GM
だが一人の救世主が及ぼす力の範囲としては、莫大だ。
グラセ
「主の救世主――スティブナイトといったか。
 其奴に似たのだろうか。この森は」
ナナ
「もともと森があったところが変化したんじゃなくて、1人の救世主のなかからこれだけ出てきたのかな……」
ナナ
数字や言葉で表せばそれほどではないように思えても、旅で歩いているなら日が昇っている時間のほとんどを森で過ごすような規模だ。
メアリ
辺りを見渡す。
メアリ
「会いたいような、会いたくないようなですね」
GM
生きている者の気配は何も感じられない。
GM
人は勿論、鳥も、獣も、虫の羽音すらも。
ナナ
乾いているのに淀んだ空気。
GM
あるのはどこまでも淀んだ黒結晶ばかり。
GM
だがその黒結晶の1つが、微かに震える。
グラセ
「ナナの疑問の答えがいずれにせよ。
 其奴の縄張りの中であることは間違いない」
メアリ
「!」
グラセ
微かな音へ、かんばせを向ける。
メアリ
空気の揺れを察知した。
GM
救世主が身構えれば、その動きは殺意によって応えられる。
ナナ
腰に差した金属棒をするりと構える。
グラセ
縄張りの中であれば、行き合うことも難しいことではない。
GM
音もなく、森の上、樹上から黒結晶の雨が降り注いだ。
GM
1つ1つが人の腕程もあり、人体を貫くには十分な程の鋭さを持つ、殺意の雨。
グラセ
杖を頭上にかざせば、速やかに冷気が満ちる。
メアリ
キン、と高い音を立てて結晶を弾き──
ナナ
降り注ぐ結晶の雨を、きちんと腕を振るって身をかわす。
メアリ
叩き落とす。
メアリ
銀の軌道が暗い森の淀んだ大気を裂く。
ナナ
資料に書かれていることからすれば、あたしでも直接触らない方がいい。
ナナ
自分の身を守りつつ2人に視線をまわす。
グラセ
三人を守るよう、天幕のように氷が張り詰め。
結晶とぶつかり、粉々に砕けてきらめく。
GM
凍りつき、弾かれ、躱され、そして砕かれる。
GM
森を満たしていた静寂が破られ、けたたましく甲高い破砕音が枯れ木にぶつかって反響していく。
GM
何度か木霊していったその音が消え、砕けた黒結晶の破片が地に落ちきった頃。
スティブナイト
「……面倒な奴らが来たな」
GM
声。そして人影。
GM
それは、一際大きな黒結晶の上にいた。
GM
鋭利な結晶に腰掛け、垂らした髪とマントによってその姿の殆どを隠し、しかし狭間から覗く目は、森の中を満たす冷えた空気よりもなお冷たい視線を投げかける。
GM
目の前に直面していながら、一言も発する事もないまま、その身から放つ気配は拒絶という明確な意思を叩きつけていた。
スティブナイト
「性懲りもなく、良く送りつけてくるものだ」
メアリ
「熱烈な歓迎ありがとうございます」
メアリ
「随分ご挨拶がお上手なようで?」
スティブナイト
「あれで死んでくれれば楽なんだけどな」
ナナ
「ざんね~ん」
グラセ
「その口振りだと、お前が件の救世主か」
グラセ
「聞くまでもなかろうが」
スティブナイト
声は細く、ぼやけ、とらえどころがない。
視線はお前たちを見ても居ない。
スティブナイト
「何もせず、静かにして、出ていって欲しいんだけど」
スティブナイト
「殺した方が早いか」
スティブナイト
「それとも、もっと楽な方法があるかな?」
メアリ
「不意打ちを外しておいて随分自身がおありのようで」
メアリ
「何もせず、静かにして、出て行ってほしいのは此方も同じこと」
ナナ
「あたしたちからすれば今死んでくれるのが一番早いな~!」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「あぁ、もしかして今、俺に話しかけてた?」
スティブナイト
「悪いね、会話する気があるとは思ってなくて」
グラセ
「ああやはり、聞いていなかったか」
メアリ
「無礼~~~!!!不敬~~~!!!」
グラセ
「挨拶より先に手が出る、というのに親近感を抱かないわけでもないが」
グラセ
「一応会話はできるようだな。スティブナイトとやら」
スティブナイト
「話して、殺して、終わり。よりさ」
グラセ
メアリの声には特に一瞥もない。いつものことなので。
スティブナイト
「殺して、終わり。の方が楽だろ?」
メアリ
イライラして木を蹴ろうとし、ナナの視線を感じて止めた。
スティブナイト
「終わってくれなかったから、面倒くさいんだけど」
グラセ
「同意はしよう」
ナナ
スティブナイトを視界におさめつつ、目のはしでメアリをちらりと確かめる。
グラセ
「立場が逆であれば、わたくしも面倒くさいだろうからな」
メアリ
グラセ様の寛大な御心に感謝しろよ……の視線。
ナナ
特にかわす言葉もなく、
グラセ
「而して、そうはならなかった」
ナナ
手持ち無沙汰に凶器を持て余す。
スティブナイト
「ああ、本当に面倒くさいよ。話すのも、相手するのも、手を下すのも」
スティブナイト
「だけどさ、お前達、五月蝿いんだよ」
スティブナイト
「黒結晶を踏む音も、仲間同士のおしゃべりも、息を吐く音も、胸の鼓動も、五月蝿くて耐えられない」
メアリ
「すべてが煩わしいなら、自分が死ぬのがおすすめですが?」
ナナ
「そうそう、ねっ」
ナナ
にこやかに同意を投げつける。
メアリ
後ろ手でナイフを握り直し、
メアリ
──首めがけて放つ。
ナナ
合わせるように飛び上がり――
ナナ
ーー上から振り下ろす。
スティブナイト
その攻撃は、スティブナイトのマントで覆われた身体に──
スティブナイト
──届く。
スティブナイト
攻撃が着弾した瞬間、ガラスの割れるような音とともに黒結晶の破片が飛散する。
そこに佇んでいた人型は人型だったものとして砕け、空間にその黒い輝きを撒き散らしていく。
スティブナイト
「自殺ってさ、結局自分で手を下さなきゃいけないだろう?」
スティブナイト
砕け散った人型だったものからも、尚声は響く。
スティブナイト
「それも面倒くさいんだ」
スティブナイト
「もっと楽なものがいい」
スティブナイト
「人が死ぬ姿が見たいんだったらさ」
スティブナイト
「自分でやってくれよ」
スティブナイト
そして声は途切れた。
メアリ
「逃げやがって……」
メアリ
舌打ち。
メアリ
結晶を破壊しないだけの理性はある。
ナナ
砕け散り飛散した結晶の輝きと声を残し、森の主は姿を晦ました。
ナナ
「あーっ!こういうパターンきらい!」
ナナ
ばし!と苛立ち交じりに残った結晶に凶器を振り下ろす。
グラセ
「初めから傀儡だったのかもしれない。となると、面倒であるが」
グラセ
ふむ、と背筋を正す。
グラセ
「本物を見つけるのにも、一苦労しそうだ」
メアリ
「アレ本体をどうにかしなければいけない訳ですね」
グラセ
「面倒くさいなら、のこのこ現れてくれば良いものをな」
グラセ
頷く。
メアリ
「ただ、何でしょうね」
メアリ
「想像した印象とはズレがある」
ナナ
「めんどくさーい……」
ナナ
「そう?」
ナナ
別に人格や印象を想定していたわけではない。
せいぜいが思ったより華奢そうな救世主だったなー、程度のこと。
グラセ
メアリを見やる。
メアリ
「この森の空気の陰湿さよりも粘度が薄い、」
メアリ
「乾いた砂のように感じます」
メアリ
「引きずり込んで殺す殺戮者というよりは死刑を待つ罪人に似ている」
メアリ
「憶測に過ぎませんが!」
グラセ
「……」
グラセ
「そうだな」
グラセ
「わたくしも些か、違和感は感じていた」
グラセ
「“何もせず、静かにして、出ていって欲しい”」
グラセ
「これが其奴の言い分だったからな」
メアリ
「何にせよ、殺すのは変わらない」
メアリ
「──一筋縄ではいかない。気をつけましょう」
ナナ
「はぁーい」
グラセ
返事の代わりに杖をつき、そうして、結晶がはぜる音がした。
GM
その音もまた、森の静寂を破壊する。
GM
そこに存在し、身動ぎし、生きているだけで、お前達はこの森を構成する何かを毀損していく。
GM
しかし、同様に。
GM
この森もまた、お前達を否定する。