お茶会2

GM
*お茶会 R2
GM
*お茶会MOD『錯綜』
GM
行動順を1d99でどうぞ。
セシリア
1d99 (1D99) > 65
セラ
1d99 (1D99) > 50
イーデン
1d99 (1D99) > 15
GM
*R2 PK割り込み3
スティブナイト
足音。
セラ
「……!」
スティブナイト
それは先程までの軽やかな音ではなくて。それだけで、セシリアのものではないとわかる。
イーデン
地に蹲ったまま。
イーデン
その足音に反応すらしない。
スティブナイト
息をつく音。結晶の生えた木にもたれかかって座る音。
セラ
「スティブナイト……」
スティブナイト
満身創痍で、隙だらけのように見える。
イーデン
この男もまた同じ。
セラ
無事、とは言えない。
イーデン
全身に黒結晶を張り付かせて、酷く憔悴している。
スティブナイト
ワインと、他にもいくつかの液体が混ざったような。
スティブナイト
そういう匂いを纏わせて。
スティブナイト
「酷いざまだ」
イーデン
「…………」
スティブナイト
どちらに言ってるのか。
イーデン
あなたの顔を見すらしない。
セラ
「スティブナイト……」
スティブナイト
「で、どうだった?」
スティブナイト
「お前は何かを守れた?」
セラ
「……いえ」
セラ
「僕より、あなたの方が守れたと言っていい」
スティブナイト
「……」
スティブナイト
「俺に手を伸ばさず」
スティブナイト
「さっさと帰って二人を探せば」
スティブナイト
「止められたかもしれないね」
セラ
「そうですね」
イーデン
男は沈黙している。
スティブナイト
「本物の天使なら」
スティブナイト
「この国に来なかったら」
スティブナイト
「救えたかもしれないけど」
セラ
「…………」
スティブナイト
「あるいは、まぁ」
スティブナイト
「俺が俺をこういう姿だと定義しているように」
スティブナイト
「お前が自分のことを天使だと定義してるなら」
スティブナイト
「……信じる者は救われる、だっけ?」
スティブナイト
「そういうこともあったかもしれない」
セラ
「そういうことばかりなら、よかったのですが」
セラ
「堕落の国であなたのような救世主を相手にしていては、そうもいかない」
スティブナイト
「そういうのに勝つのが」
スティブナイト
「仲間の絆とか」
スティブナイト
「援護とか」
スティブナイト
「そう言われてるんじゃないの」
セラ
「援護は、そうでしょう?」
スティブナイト
「疵が舐められて、自惚れて」
スティブナイト
「他者を信じられれば」
スティブナイト
「コインの実力以上に力が出せるとは、まぁ」
スティブナイト
「聞いてるし、体感的にもそう」
スティブナイト
「……まぁ、そんなに見ないけどね」
スティブナイト
「こんな森だし」
セラ
「そりゃあ、あなたは見ないでしょう」
スティブナイト
「でも」
スティブナイト
「そういう力を信じて公爵家はお前たちをここに寄越したんだろ」
セラ
「あなたはそう思っているのですか?」
スティブナイト
「…………どうしてだか」
スティブナイト
「公爵家がここに寄越すのは、そういう夢とか希望とか」
スティブナイト
「真面目にラストアリスを目指すとか」
スティブナイト
「絆とか」
スティブナイト
「そういうのを信じる奴が多いんだよ」
セラ
「当然のことでしょう」
セラ
「あなたの相手をさせようという救世主だ。 それなりの脅威度でなければならない。 それならば、ラストアリスも視野に入る」
スティブナイト
「……別にコインの枚数とはそんなに関係なくて」
セラ
「連携の取れたチームである必要もある。それは絆と呼ばれてもおかしくない」
スティブナイト
「ただ盲目的に何かを信じる奴ばかりだったんだよ」
スティブナイト
「公爵家から送られてくる奴"だけ"」
セラ
「公爵家に嫌われているのでは?」
スティブナイト
「どっちがだと思う?」
セラ
なるほど、と口元に手を当てる。
セラ
「僕は自分が嫌われているという発想はありませんでした。 なかなか新鮮な考え方です」
スティブナイト
「お前、あんな人道的な兵器を開発してる連中のこと」
スティブナイト
「本当に信じてたなら、笑い話だけど」
スティブナイト
「…………」
セラ
「善人にも悪人にも好かれる存在はいるでしょう?」
スティブナイト
「さあ」
スティブナイト
「好かれたことないし、なんとも」
スティブナイト
「少なくとも、俺は」
スティブナイト
「この森が都合よく利用されてるってことを薄々勘付いてる」
セラ
「都合よく……」
スティブナイト
「道具として」
スティブナイト
「って言ったらいい?」
セラ
「あなたの討伐依頼は総力戦に見えましたたが……」
セラ
「それも別の意図があると?」
スティブナイト
「人員を入れ替えるとか」
スティブナイト
「……まぁ」
スティブナイト
「俺は別に」
スティブナイト
「それで公爵家がどうなっても、興味はないし」
スティブナイト
「そんなに関係もないけど」
スティブナイト
「お前はどうだろうね」
スティブナイト
「天使なんだろ?」
セラ
「……興味はありますが」
セラ
「聞いても?」
スティブナイト
「上のほうが腐ってて」
スティブナイト
「有力な救世主を潰そうとしてる」
セラ
「どうして?」
スティブナイト
「救世主にこの世界を救われたくないから」
セラ
「終わりゆく世界なのに、ですか」
スティブナイト
「プライドが高いんだろ」
スティブナイト
「あとは」
スティブナイト
「世界が停滞することで利益を得てる奴がトップにいるとかね」
セラ
「…………」
スティブナイト
「公爵家は救世主とコネを作って」
スティブナイト
「有名でやる気があって、世界を救うことを真面目に考えてるようなやつに広報をやらせ」
スティブナイト
「その気になった奴を公爵家に集め」
スティブナイト
「育ったやつからこの森に送り込む」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「したことあるんじゃないの?」
スティブナイト
「末裔に、説教」
スティブナイト
「救世主もいたかもね」
セラ
ミキ、コザキ、ヌスク。
セラ
それに、三月兎たちの顔が思い出された。
セラ
集会に集まった末裔達。
セラ
尊敬の眼差しを向ける、幼い救世主。
セラ
その柔らかい髪の毛を撫でた感触。
スティブナイト
「そいつらは確かにお前のことを信じてたかもしれないね」
スティブナイト
「でも、それすらも」
スティブナイト
「誰かが仕組んだものだとしたら?」
スティブナイト
「お前が集めた信仰が、ただの都合のいい道具だとしたら」
スティブナイト
「……仲間は信じてくれたかもね」
スティブナイト
「お前のことを、本当に」
スティブナイト
「でも」
イーデン
その仲間は、今はあなたの足元に蹲っている。
スティブナイト
「今お前、天使になれる?」
セラ
堕落の国にいるその天使には。
セラ
光輪がない。
イーデン
今はもう、あなたに縋る余力もない。
イーデン
間近に迫る敵対救世主に向ける殺意すらない。
スティブナイト
「仲間に信じてもらえないなら」
イーデン
人生の全てを踏み躙られ、届かぬ救いを求めるばかりの哀れな男。
スティブナイト
「ただの都合のいい救済装置だと思われているんなら」
スティブナイト
「お前の天使性って、なんだろうね」
イーデン
この男は、救いを求めておきながら。
イーデン
あなたを本当の天使だと言っておきながら。
イーデン
あなたに救ってもらえるとは、心の底からは、信じられていない。
イーデン
絶望の底にある男。
セラ
「僕の……」
セラ
「天使性……」
スティブナイト
「お前、今」
スティブナイト
「仲間のこと」
スティブナイト
「信じられる?」
セラ
信じたいと思っている。
セラ
いや、違う。
スティブナイト
お前の足元で小さく蹲るぼろぼろの存在を。
セラ
差し出さなければ、受け取ることができない。
セラ
信じなければ、信じられることもない。
イーデン
信じられていないのに?
セラ
それでも、信じることを選ばなければ。
セラ
この身は消えてしまう。
スティブナイト
「腐敗した公爵家」
スティブナイト
「結晶に侵された仲間」
セラ
三月兎を救えなかった。カノンを救えなかった。ミキを救えなかった。スティブナイトを救えなかった。イーデンを救えなかった。 その他にも、たくさん。
スティブナイト
「お前ならわかるだろ」
スティブナイト
「考えれば」
スティブナイト
「その果てに辿り着くものが、何か」
スティブナイト
*セラの「天使」を猟奇で抉る。
イーデン
*横槍します
イーデン
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
イーデン
2d6+0=>7 判定(+愛) (2D6+0>=7) > 6[5,1]+0 > 6 > 失敗
[ イーデン ] HP : 18 → 17
スティブナイト
2d6+5=>7 判定(+猟奇) (2D6+5>=7) > 6[3,3]+5 > 11 > 成功
[ セラ ] 天使 : -1 → -2
[ セラ ] 前科 : 0 → 5
GM
*配下のHPを20点減少しました。
GM
*セラは状態〈絶望〉。
GM
*心の疵「天使」を「絶望」に変更してください。
セラ
*心の疵「天使」を「絶望」に変更しました
セラ
その果てに辿り着くもの。
セラ
──本当は、ずっと分かっていた。
セラ
貧しい堕落の国、30日ルール、何人いるのかわからない救世主達。
セラ
パンディオンの元にいたときから、こんな生活は長く続かないと、知っていた。
セラ
それでも、今日を、そして明日を生きたかった。
セラ
そのためにできることを探した。 そのために裏切る相手を探した。 そのために犠牲にする相手を選んだ。
セラ
それでも、救世主や、天使などと。
セラ
それでも、誰かに信じてもらわなければ生きていけないから。
セラ
誰かから信仰されなければ存在を保てない。誰かからの信頼を得なければ自我を保てない。 誰かから好意を得なければ呼吸ができない。 誰かから有益だと思われなければ肉体を保てない。
イーデン
あなたに縋ったこの男さえ。
イーデン
あなたのことを、信仰していない。
セラ
信じてくれるなら、誰でもよかった。 髪の毛一筋分だけでも他人よりも自分を特別だと思う相手を探さなければならない。 そのためにはあらゆることをしなければならない。
セラ
あらゆること? 私は天使であり救世主なのに?
セラ
神とそれに仕える天使以外の全ては、私に頭を垂れるべきであるのに?
セラ
そんな立場はこの堕落しきった国では何の意味も持たない。
セラ
存在するためには、喜んで頭を垂れ泥を啜り薄汚い精液を飲み下さなければならない。存在が消えることが恐ろしい。
セラ
それは自分が死ぬというだけではなく、元の世界で自分を取り巻いていた神や天使や人の子達が、堕落の国においては存在しなかったことになるのと等しいと思う。
セラ
少なくともこの堕落の国においては。
セラ
それらは、存在しない。
セラ
末裔達は、少女を崇める。救世主と。
スティブナイト
力なく座り込んだ女から。
スティブナイト
結晶が放たれる。
セラ
おんな。
セラ
末裔達が望む救世主の姿をしたもの。
イーデン
仲間へと放たれるその凶器を、澱んだ瞳で見つめている。
イーデン
身体は、
イーデン
動かなかった。
セラ
望まぬ胎を得た救世主。
セラ
結晶が羽根を貫く。
セラ
「……う」
セラ
誰も助けてはくれない。
セラ
誰も助けられなかったから。
イーデン
「…………」
イーデン
自分と同じく、結晶に臥す救世主を見る。
イーデン
見ている。
セラ
この世界に希望はない。
セラ
神も、天使も、そして、世界を救う救世主も。
イーデン
自分が本物の天使と定義した存在の。
イーデン
守りたいと思っていたはずの、仲間の。
セラ
結晶が体を蝕んでゆく。
イーデン
落ちゆくさまに。
イーデン
もはや心を動かされる余裕はなかった。
イーデン
ただ、
イーデン
苦しげなそのさまを、哀れには思った。
イーデン
けれど。
イーデン
力が入らない。
イーデン
助けてやることはできない。
イーデン
救ってやることはできない。
イーデン
自分に、その力がないことを知っているから。
セラ
成長して体重を支えられなくなった翼は、ただ、結晶を育む床として。
セラ
重さを増し、体を押しつぶし。
イーデン
堕天を見守る。
イーデン
この世界に蔓延る絶望のさまを。
イーデン
澱んだ瞳に焼き付けていく。
セラ
「……あ」
セラ
小さなうめき声を残して。
セラ
その体を堕落の国の地に沈めた。
セラ
それは、最後までイーデンに助けを求めることはしなかった。
セラ
いや、助けを求めたことはある。
セラ
一番最初に出会った、あの時。
セラ
お互いに理のある提案、というような言い方をしていたが。
セラ
それは確かに救いの声だった。
イーデン
パンディオンを打ち倒し、精霊たちを解放する。
イーデン
その提案に乗らなければならない理由は、当時のイーデンとセシリアにはなかった。
セラ
それは、確かに救いだった。
イーデン
コインを精霊たちに返してやる必要もなかった。
イーデン
パンディオンの溜め込んだ資産をそのまま独占する。
イーデン
その権利すら、あの裁判の勝者にはあった。
イーデン
けれど、この男はそれをしなかった。
イーデン
持つべき者、搾取された精霊たちにそのコインを返し、
イーデン
何も奪わぬままに、精霊たちの街を出た。
セラ
だから、
セラ
だから。
セラ
あなた達と共にいた。
セラ
あの頃の精霊らしく小さな体から、すっかり人間のように、大人のように、男性のように変わった体に、結晶が蔓延る。
イーデン
絶望の蔓延るさまを見ている。
イーデン
天使が。
セラ
死体が虫に食われるように、死体から植物が生えるように。
イーデン
神の御使いであったはずの救世主が。
セラ
そうして。
セラ
ばり、と音が響いた。
セラ
手が、結晶の繭から。
セラ
突き破り、生まれる。
イーデン
その、
イーデン
再誕を、男が見届ける。
セラ
「はぁ……」
イーデン
「…………」
セラ
ざらざらと、体表を覆う結晶を払い除ける。
セラ
そうして、それはイーデンを見た。
セラ
「がっかりですよ」
イーデン
目が合う。
セラ
「あなたは自分の絶望に夢中で、僕のことなんてどうでもいいんだ」
イーデン
黒に染まったその存在に。
セラ
「ま、そんなこと知ってましたけど」
イーデン
「……まあ」
イーデン
「そうだな」
イーデン
「お前は聡い」
イーデン
「俺がそういった人間であることを」
イーデン
「とうに、理解していたと思ったが」
イーデン
「…………」
イーデン
「……期待を」
イーデン
「させていたか?」
セラ
「期待できるように育てたんですよ、僕が」
セラ
「素質はありましたからね」
イーデン
「…………」
セラ
「そのくらいわかっているでしょう?」
セラ
「あなたは馬鹿じゃない」
イーデン
「…………」
イーデン
「……見込み違いである」
イーデン
「とは」
イーデン
「再三、伝えてきたと」
イーデン
「思ったが」
セラ
「そうですね」
セラ
「でも他にちょうどいい相手がいなかったから、仕方ないでしょう?」
セラ
「配られたカードで勝負するしかないってやつですよ」
イーデン
「ブタを引いたな」
セラ
「そうですね」
セラ
「いえ、もう少しマシな手だと思っていたんですが」
セラ
「見込み違いだったようです」
イーデン
「やっと、理解してくれて」
イーデン
「何よりだ」
セラ
「理解されて嬉しいですか?」
イーデン
「…………」
セラ
「自分は駄目な奴だと認められて気持ちいいですか?」
セラ
「少しでも楽な気持ちになりましたか?」
セラ
「何よりですねぇ、アハハ!」
イーデン
男の哄笑を聞いている。
イーデン
目の前の存在はもはや天使でもなんでもなく。
セラ
「僕は悲しい」
イーデン
ただこの世界に、
イーデン
自分に絶望しただけの、
セラ
「あなたを信じていたのに」
セラ
「信じたから、信じてもらえると思っていたのに」
イーデン
一人の救世主。
セラ
「あなたのことが大事だと、伝え続けてきたのに」
イーデン
「……言って」
イーデン
「きた、だろう」
イーデン
「何度も……」
イーデン
「何度も」
イーデン
「俺に」
イーデン
「その、価値は」
イーデン
「ないと」
セラ
「マジでなかったですねェ~~!!」
セラ
「アハハハハハハ!!」
イーデン
「………………」
イーデン
反駁の言葉はない。
セラ
「ちょっと僕ほら、ポジティブだから!」
セラ
「そんな事言わずに頑張ろって思っちゃったんだけど~~」
イーデン
全身に黒い結晶を纏わせたままに、堕ちた救世主からの罵倒を聞く。
セラ
「無理だったみたい!! アハハハハハ!!」
イーデン
自らを罵る声を聞く。
イーデン
自分の無能を。自分の無力を。
イーデン
自分の絶望を、嘲る声を聞いている。
セラ
「僕は信仰が力になるって何度も言ったのに」
セラ
「あなたはその薪にすらなれなかった」
イーデン
そんなのは、薪の選定を誤っただけだと。
イーデン
そのように反駁することすら、もはや、無為。
イーデン
彼には自分を糾弾する権利がある。
イーデン
彼には自分を玩弄する権利がある。
イーデン
今の自分は、彼に何を求められたとて。
イーデン
拒むことはかなわないと、そのように、思う。
セラ
「僕が何を望んでいたか、わかりますか?」
イーデン
「…………」
セラ
「ねぇ、当ててみてくださいよ。 いいでしょ? 内心当てクイズくらい僕にもやらせてくださいよ」
イーデン
「……俺に」
イーデン
「天使の人間に対して抱く期待が」
イーデン
「理解、できるとでも?」
セラ
「人の機嫌を取るポーズすらしてくれないんですね」
セラ
「自分は散々機嫌を取らせて、そのくせ望んでないみたいな顔をしてきたくせに」
イーデン
「…………」
セラ
「まぁいいですよ、教えてあげましょう。僕は慈悲深いですからね」
イーデン
男は頭を垂れている。
イーデン
神の御使いに救いを求める哀れな信徒の仕草に似て。
イーデン
そのさまは、どこか恭しく映る。
セラ
「ただ」
セラ
「生きていたかった」
イーデン
「…………」
イーデン
「……生きていくことが」
イーデン
「そんなにも、大事か?」
セラ
「あなたは、あなたの大事な人達に、生きていたいと思って欲しくないですか?」
セラ
「皆で一緒に仲良く死ぬのが一番よかった?」
イーデン
「…………」
セラ
「セシリアと、セシリアと、セシリアと一緒に死ねば幸せだったんですか?」
セラ
「アハハハハハ!」
セラ
「あれ、セシリアの人数足りてるかな?まぁいいか、アハハ!」
イーデン
「…………ッ」
イーデン
黒結晶の蔓延った指先で、フードを掴む。
イーデン
指先に力がこもる。
イーデン
押し込めた空気の奥に、荒らぐ呼吸をどうにか隠そうとして。
イーデン
それが叶わずにいる。
イーデン
背が、静かに震えている。
セラ
「あなたはそうじゃないかもしれないけど、大体のものは生きたいと思っているんですよ」
イーデン
知っている。
イーデン
理解している。
イーデン
誰もが生きたかったはずだ。死にたくなかったはずだ。
セラ
「だから後悔してきたんでしょう?」
イーデン
自分が殺し、犠牲として積み上げた救世主たち。
イーデン
救えなかった末裔たち。
イーデン
それと、
イーデン
――それと?
イーデン
反芻しようにも。
イーデン
蘇るのは、ただ一人、女の顔だけが。
イーデン
愛したはずの女の顔が。
イーデン
愛せなかったはずの女の顔が。
イーデン
……ただ、それだけ。
セシリア
『生きていてほしいの』
イーデン
違うとのだと。
イーデン
そのことは、理解している。
セラ
「まぁ、いいですよ。 人間なんて所詮そんなものです」
セラ
「あなたが特別悪いわけではない。あなたは何も特別ではない」
イーデン
「…………」
セラ
「僕は天使であっても、なくても優しいですから、あなたを許します」
イーデン
この世界に希望はなく、
イーデン
自分の身に降りかかることは、すべてよくあることだと。
イーデン
そのように納得している。
イーデン
セラ。天使だった存在。
イーデン
お前の言葉は今でさえ、
イーデン
俺の耳には正しく響く。
セラ
「僕にとってもはや、あなたはどうでもいい存在だ」
セラ
「おしゃべり上手な男でもないし、このくらいで失礼しますよ」
セラ
「もう、僕はあなたの機嫌を取る必要はないのだから」
イーデン
「…………」
イーデン
「それは」
イーデン
「セラ」
イーデン
「……長く」
イーデン
「世話を、かけたな……」
イーデン
この期に及んで。
イーデン
つまらない言葉を吐いている。
イーデン
そのことを、誰よりも正しく理解している。
セラ
「許しましょう」
セラ
「僕が許すことを、あなたは知っているはずだ」
セラ
そう言って、薄い被膜の翼を広げる。 幾分細身になった男の体はふわりと浮いて、何処かへ消えた。
イーデン
その消えゆくさまを見届けることすらなく。
イーデン
絶望の森の只中に、男が、一人。
GM
気付けば元凶の女も消えている。
GM
静寂。
GM
ここにはなにもない。
イーデン
誰もいない。
イーデン
この二年。
イーデン
共に死線を潜り抜けてきた仲間たち。
イーデン
彼らとの決定的な断絶を、再確認する。
イーデン
――二年?
イーデン
違う。それはセラとの。
イーデン
セシリアとは。
イーデン
もっと、前から、
イーデン
違う。
イーデン
あの女は。
イーデン
ひび割れていく。
イーデン
頭の中が。記憶のすべてが。
イーデン
セラとの出会い。あの精霊たちの街。
イーデン
その最中の記憶にすら、不明瞭で不可解な部分がいくつもあって、
イーデン
セラ。
イーデン
セシリア。
イーデン
俺たちの旅の始まりは、果たしてどこにあった?
イーデン
俺たちの、
イーデン
俺たちの積み重ねた月日は、
イーデン
本当に、存在していたものなのか?
イーデン
問いを投げかける先はなく。
イーデン
当然いらえも返りはしない。
イーデン
今は捻くれた希望だけが、ただ、男の胸の裡にある。
GM
GM
*R2 セシリア

スティブナイト。

あなたは痛む身体を引きずって、森の中を歩いている。

ぱきぱきと、足元では黒結晶の弾ける音。

遠く、発狂した三月兎たちの狂騒が聞こえてくる。
スティブナイト
そのたびに苦痛に顔を歪めながら。

三月兎たちに見つかれば、また何をされるか分からない。

公爵家の放った人道的で道徳的な兵器は、実にあなたに対して効果的だった。
スティブナイト
においが染み付いていて嫌になる。

あなたと感覚の繋がっている、広がり続けるこの黒結晶の森。
スティブナイト
森のあちこちの結晶がひび割れ、ワインやら何やらの液体に漬けられている、のが。
スティブナイト
感覚でわかる。

絶望の森などと呼びならわされるあなたの庭。あなたと感覚の繋がっているあなたの領域。

三月兎たちに無残に踏み荒らされて、崩れつつある。
スティブナイト
痛みで曖昧になった思考の中。
スティブナイト
なにかから逃げるように。

なぜなら、もっと厄介な存在が。

三月兎などよりももっとあなたにとって嫌なものが。

この森には入り込んでいるからだ。
セシリア
黒結晶が。
セシリア
歩くあなたの足を貫く。
セシリア
あなたが支配し、操っているはずの結晶が。
スティブナイト
「…………っ、!」
スティブナイト
三月兎に嬲られた身体はそれだけで容易にバランスを崩す。
セシリア
足音。
セシリア
あなたとは対照的に、軽やかに、ちょっとした散歩のように。
スティブナイト
その足音に、
スティブナイト
目を見開いた。
セシリア
「こんにちは」
セシリア
「いえ、こんばんは?」
セシリア
「すいません、ここはどうもいつも暗くて」
セシリア
「時間が分からないでしょう」
スティブナイト
「…………そうだろうね」
セシリア
あなたに近づいてくる。
セシリア
そうして、初めに会った時よりはずいぶん小さくなったあなたの前で、
セシリア
目線を合わせるようにしゃがみ込む。
スティブナイト
座り込んだまま。
スティブナイト
その視線を少しだけ逸らして。
セシリア
「イーデンが」
セシリア
「おかしいの」
スティブナイト
「お前もおかしいと思うよ」
セシリア
「あなたの力ですよね?」
セシリア
話が通じない。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
は、と乾いた笑いが漏れる。
セシリア
「私が、おかしくなったのも」
セシリア
「もちろん、あなたのせい」
セシリア
足元に敷き詰められるように広がった黒結晶のひとつを、拾い上げる。
セシリア
それを、あなたの腕に突き立てる。
スティブナイト
「っ、」
スティブナイト
黒結晶が触られたときにびくりと身を震わせて、
スティブナイト
腕にそれが刺さったときに顔を顰めた。

黒結晶はすべて、あなたと感覚が繋がっている。

この森のどこで起こっていることも、あなたは把握できる。否。

あなたの意志にかかわらず、否応なしに把握してしまう。
セシリア
それを、女も知ってか知らずか。
セシリア
女の手は黒水晶に触れている。
セシリア
細かくひびの入った黒結晶は、あなたに突き立てられると同時に、女の膚も傷つけている。
セシリア
その傷が。
セシリア
こぼれ出る血には。
セシリア
黒結晶が交じりいって、ぼろぼろとこぼれ。
セシリア
そして、あなたに突き立てられた黒結晶に、すいつくように降りかかる。
セシリア
もともとひとつのものだから。
スティブナイト
あらく呼吸をする。
スティブナイト
肩が上下する。
セシリア
黒結晶は森を広げるために、人間の心の疵と絶望によって増殖してゆく。
セシリア
そして、あなたの目の前の女の疵が。
セシリア
黒結晶を介してあなたに流れ込んでくる。
スティブナイト
「…………っ、」
セシリア
「ずっと声が止まないんです」
スティブナイト
やめろ、という言葉は口から出ない。
セシリア
セシリア・アンティカイネンは異常性に満ちた救世主。
スティブナイト
それが無意味であるということを知っている。
セシリア
恋心でもって自分を規定し、希望でもって仲間を信じる。
セシリア
ただし、セシリアのこの『希望』と呼ばわる疵は。そもそも。
セシリア
イーデンとセラ、その二人の救世主に囲まれなければ、懐き得なかったものだろう。
セシリア
この世界に希望はない。
セシリア
そんなことは分かっている。
スティブナイト
「…………」
セシリア
この世界では希望を抱き得ない。
セシリア
そのはずである。
スティブナイト
絶望の色の瞳が諦めたようにお前を見ている。
セシリア
だが、自分の目の前に、希望を抱いている救世主がふたりいた。
セシリア
だから信じられた。だから希望を抱けた。
セシリア
だから安心して叶わぬ恋に溺れたままでいられた。
セシリア
その希望が、抉れている。
スティブナイト
自分の招いたものだということは。
スティブナイト
よく知っている。
スティブナイト
そういう心の疵。そのような力。
セシリア
愛する相手を見ると、人間の脳の中では脳内物質が分泌される。
スティブナイト
それでこんなところにいる。
セシリア
ドーパミンが増殖し、ユーフォリア(多幸感)を感する。
セシリア
相手の情報をより取り入れようと、瞳孔が開く。血液が巡り、頬が紅潮する。
セシリア
女の顔は蒼褪めたまま。
セシリア
瞳孔が開いているのだとしたら、それは暗い森の中にいるからだ。
セシリア
「あなたが、奪ったんでしょう?」
スティブナイト
「……何を」
スティブナイト
問う声は小さく掠れて、震えている。
セシリア
恋をした人間はミラーニューロンが働くことによって、相手の真似をする。
セシリア
オキシトシンが分泌されることで幸福を感じ、空腹や眠りや苦痛さえ鈍くなる。
セシリア
頭の中で起こる化学反応。
セシリア
それを、奪われると人はどうなるか。
セシリア
そこにあるのはたとえようもない孤独。
セシリア
「あなたが、独りなのは」
セシリア
黒結晶が押し込められる。
セシリア
「分かりました。あなたの口から聞いたから」
セシリア
「でも、それを、私から奪わないで」
セシリア
押し込められていく。女の疵が、あなたへと伝染していく。
セシリア
孤独に染まった恋心が。
セシリア
孤独感が。
セシリア
女を幸せにすることのなくなった恋が。
スティブナイト
「…………っ、」
セシリア
「繋がりを私たちから取らないで」
セシリア
それと同時に、あなたから抜け出していくものがある。
セシリア
「イーデンは」
セシリア
「ラストアリスになるの」
セシリア
「そのためなら、私は何人でも殺せる」
スティブナイト
「……、」
セシリア
「そのためなら、私は何でもできる」
セシリア
「そうでなくてはいけない」
スティブナイト
「よく頑張るね」
スティブナイト
「あいつがもうダメなことくらい」
スティブナイト
「見ればわかるだろうに」
セシリア
「いいえ」
セシリア
「だから」
セシリア
「あなたを倒せば」
セシリア
「すべては元通りになりますよ」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
乾いた笑いだか、吸い込んだ息の音だか。
セシリア
あなたは女がとっくに分かっていることを知っている。
セシリア
女はとっくに分かっている。
セシリア
元通りになどならないことを。
セシリア
すべてが致命的に破壊されていることを。
セシリア
この苦しみがここから消えてなくならないことを。
セシリア
あなたの心の疵の影響を受け、脳内物質などこの女にはもう働いていない。
セシリア
恋心は色あせて、この女を助けていない。
セシリア
それでも女は、それをすると言っている。
セシリア
「イーデンを助ければ」
セシリア
「イーデンが救われてくれれば」
セシリア
「私も救われるはずなの」
セシリア
「……ああ」
セシリア
「ここにはないんですね」
セシリア
「あなたの力」
セシリア
立ち上がる。
スティブナイト
「…………」
セシリア
それを奪い取りにいこうと、足を向ける。
セシリア
*スティブナイトの『黒結晶』を愛で抉ります。
セシリア
*同時に、クエスト2を宣言します。
スティブナイト
*配下が横槍。
黒結晶A
2d6+5+2=>7 判定(+脅威度) (2D6+5+2>=7) > 9[6,3]+5+2 > 16 > 成功
黒結晶A
1d6 (1D6) > 6
セシリア
2d6+4-6=>7 判定(+愛) (2D6+4-6>=7) > 12[6,6]+4-6 > 10 > 成功
GM
*セシリアは価値が……えっと……いくつ? わかんないんだけど小道具を一つ入手できます。
セシリア
>PCがお茶会中の判定でスペシャルを起こした場合〔自身の所有する六ペンス/2〕までの価値の小道具を1つ入手します。
セシリア
*聖遺物はアリスの証言を獲得します
セシリア
*小道具、告訴状を取得
セシリア
女はあなたから少し離れる。
セシリア
ぱき、ぱき、という音。
セシリア
それは、黒結晶を踏みしめる女の足元からではなく。
セシリア
女の手元から聞こえてくる。
セシリア
少しずつ音は大きくなり。
スティブナイト
「…………っ、」
スティブナイト
何を?
スティブナイト
いや。
セシリア
黒結晶が。
スティブナイト
理解している。
セシリア
少しずつ大きくなっていく。
スティブナイト
もとからこの黒結晶のちからががこの女によって歪められていたことを。
セシリア
あなたの目の前で、巨大な結晶の槍が形成されていく。
セシリア
あなたの力が奪われていく。
セシリア
「私は、イーデンを助けるの!」
セシリア
抉られた希望が女の中でのたうっている。
砕かれた恋心が女の中でまだ暴れている。
スティブナイト
見開いた目は次第に諦めの色に変わっていく。
スティブナイト
諦観。絶望。それを心に宿した救世主の、その色。
セシリア
それを、女の異常性が覆いつくさんと。
スティブナイト
いいや、絶望の底にはいなかった。
セシリア
トラウマから目を逸らさんと。
セシリア
あがいている。
スティブナイト
この力があれば。これで歯向かうものを全員倒せば。まだ。
スティブナイト
何か。
セシリア
槍が。
スティブナイト
まだ、と。
セシリア
女の指先に従って。
セシリア
あなたへ向けて、振り下ろされた。
スティブナイト
これは最後のプライドで、
スティブナイト
何も持たない弱者ができる、最後の抵抗だった。
スティブナイト
それが。
スティブナイト
自分の身体を貫いた。
スティブナイト
呼吸音。
セシリア
「ああ、そこですか!」
セシリア
手を合わせて女が歓声を上げる。
スティブナイト
むせて、口からこぼれ落ちるのは黒結晶。
セシリア
そしてその直後に、あなたを致命的な脱力感が襲う。
スティブナイト
「………………、」
スティブナイト
冷や汗が伝った。
スティブナイト
助けてとか、止めてとか。
セシリア
「大丈夫」
スティブナイト
そういうことを言う回路はもうとっくに擦れて消えていた。
セシリア
「イーデンの作る世界は、イーデンの望む世界は、正しいわ」
セシリア
「だからあなたは、安心して後を委ねて」
セシリア
「死んでほしいの」
スティブナイト
「……………………」
スティブナイト
「……俺も」
スティブナイト
「そうなってほしいと思うよ」
[ スティブナイト ] 黒結晶 : 0 → -1
セシリア
「はい!」
セシリア
「それでは、失礼します」
セシリア
「まだ、お茶会は終わっていないもの」
セシリア
「イーデンが、私のところに来てくれる」
セシリア
女は笑いながら、あなたの前から立ち去った。
セシリア
けれど、
セシリア
黒結晶を通じてあなたに伝わってくるのは。
セシリア
冷えた絶望だけだ。
スティブナイト
ここにいるのは何の力も持たないただの女。
スティブナイト
自らの絶望から出たものひとつ取り払えずに。
スティブナイト
絶望に貫かれたまま。
スティブナイト
囚われて。
スティブナイト
動けずにいる。
スティブナイト
この世界に希望はなく。
スティブナイト
絶望、諦観、孤独感、猜疑心。
スティブナイト
それだけを抱えて。
スティブナイト
そこに無力感が足されれば。
スティブナイト
泣きわめき、叫び、怯え、許しを請う、その気力すら。
スティブナイト
どこにもない。
セシリア
それを知ってるはずの女は。
セシリア
あなたの森の中で、高らかに愛などというものを叫び続けている。
GM
GM
*R2 セラ
セラ
森の暗い空に、羽ばたきの音。
セラ
セシリアへと近付いてくる。
セシリア
ひどく機嫌のよさそうに歩いていた女は。
セシリア
ふと足を止めて、その羽ばたきの音へ耳を澄ませる。
セラ
硬い靴音。
セラ
よく知った顔の、知らない男。
セシリア
「……セラ?」
セシリア
よく知った顔の、知らない女が応じる。
セラ
「セシリア」
セシリア
「セラ……ああ、あなたも」
セシリア
近づいていく。無防備とも思えるような足取りで。
セシリア
「大丈夫ですか?」
セラ
その場で、じっと女を見ている。
セラ
「イーデンよりは大丈夫ですよ」
セシリア
「ああ、そうですね」
セシリア
「イーデンは、様子がおかしかったんです」
セシリア
「早く、スティブナイトを倒さないと」
セラ
「セシリア」
セラ
「イーデンを壊したんですね」
セシリア
「……」
セシリア
「ええ、そうです」
セシリア
「あの時……」
セシリア
「ほら、覚えていますか?」
セシリア
「イーデンが、公爵家の男相手に、身体を売っていた、と」
セラ
「覚えていますよ」
セシリア
「そういう話が出たことがあったでしょう」
セシリア
「私、あの時に気がついたんです」
セシリア
「イーデンが望まないことでも」
セシリア
「イーデンを助けるためならば」
セシリア
「しなければいけないんじゃないか、って」
セラ
「そうですね」
セシリア
「気づかせてくれたのは、あなたです」
セシリア
「ありがとうございます」
セラ
「それは、まぁ、いいでしょう」
セラ
「いいですが、やりかたが雑ですね」
セラ
「イーデンもいつも言っていたでしょう、上手くやれと」
セシリア
「……ええ、残念ながら……」
セシリア
「恐らく、スティブナイトの力のせいでしょう」
セシリア
「彼女の力が干渉して、完全にはうまくいかなかった」
セシリア
「ああ、そうか……」
セシリア
「そうですね、イーデンは、それで怒ってしまったんですね」
セシリア
「でも、大丈夫です」
セシリア
「さっき、スティブナイトの力を」
セシリア
「ある程度は奪ってきましたから」
セシリア
「このままスティブナイトを倒せれば、イーデンを今度こそ助けることができる」
セラ
言葉の通り、セシリアから力を感じる。 スティブナイトと同じ力。
セシリア
この森を支配しているのは、スティブナイトではなく、この女なのではないかと思えるほどの。
セシリア
「……肝心な部分が」
セシリア
「恐らく、彼女の心の疵の根幹、もっと深く食い込んだ部分」
セシリア
「私は彼女のことは分かりませんから」
セシリア
「きっと殺さなければ奪えないでしょう」
セシリア
「でもそれは、当初の目的です」
セシリア
「協力してくれますよね、セラ?」
セラ
「…………」
セラ
「僕は、セシリアの行動を間違っているとは思いません。上手いやり方ではありませんが」
セシリア
「ありがとうございます」
セラ
「イーデンの苦しみは、人格の深くまで根付いていた。 彼に幸福を感じさせるには、長い年月が必要だ」
セラ
「でも、心の疵を使う救世主の、心の疵を治すことはできるのか?と考えると」
セラ
「まぁ、難しいでしょう」
セラ
「何かで上書きするしかない」
セシリア
「はい」
セシリア
「……」
セシリア
本来であれば、この森に来なければ。
セシリア
イーデンの状態は、以前よりもずっと良くなっていた。
セシリア
根気強くやれば、
セシリア
もしかしたら、いつかは。
セシリア
そういう希望を、自分は持っていたはずだった。
セラ
もしかしたら、いつかは。
セラ
そういう希望を、自分は持っていたはずだった。
セシリア
でもそれは、崩れてしまった。
セラ
壊されていた。
セシリア
希望は抉れ、イーデンに愛を返してもらえず。
セシリア
そのことが酷く辛くなってしまった。
セシリア
愛されたくなってしまった。けれど、
セシリア
本当は、この辛さが、痛みが、苦しみが、猜疑が、悲しみが、
セシリア
愛を返してもらえないからではないことを、本当は分かっている。
セシリア
この森が。
セシリア
この森が悪い。
セシリア
でも、この森に来てしまった以上は。
セシリア
自分が立っているために。
セシリア
できることをやるしかなかった。
セシリア
「スティブナイトを」
セシリア
「倒せば」
セシリア
「セラ、あなたの結晶も消えるはず」
セシリア
「私のものも……イーデンのものも」
セシリア
「そうすれば、また三人で、一緒に戦える」
セシリア
「そうですよね?」
セラ
「セシリア」
セラ
「あなたに出会ったばかりの頃、僕はずっと思っていたんです」
セラ
「どうしてこんなに賢い女が、愚かなふりをしているのかと」
セシリア
「……」
セラ
「あなたは誰よりも賢い。イーデンよりも、僕よりも」
セラ
だから、どう、とは言わない。
セラ
知っているはずだから。
セシリア
「私は、愚かな女です」
セシリア
「愚かでなければ、こんなことはしない」
セシリア
「愚かであることで……鈍くなることで、私は強くなってきた」
セラ
「ええ」
セシリア
「必要な場所だけを動かして」
セシリア
「それが必要だった」
セラ
「その愛だけは信じられると思った」
セシリア
「あなたに信じてもらえたから」
セシリア
「あの時、ストレナエに勝てると思った」
セシリア
「そして、事実、勝てました」
セラ
「事実、あなたの愛は強固なものだった」
セラ
「イーデンの絶望と同じように、心の疵に深く刻み込まれ、動かせないものだった」
セシリア
だった、という言葉の意味を。
セシリア
分からない女ではない。
セシリア
沈黙が返る。
セラ
「僕は幻想を信じて生きていけるほど、夢の住民ではない」
セラ
「しかし幻想の住民だから、何かを信じることでしか生きていけない」
セラ
「だから、確実に存在するものを信じることにした」
セラ
「今、僕は何を信じたらいいと思いますか?」
セシリア
「……イーデンを」
セシリア
「イーデンを信じてあげてください」
セシリア
あの時と同じように、女は言葉を返す。
セシリア
けれどその言葉は、以前よりもずっと力なく。
セシリア
そして、切実さが欠けている。
セシリア
なぜなら、
セシリア
もう、懐いている愛だけでは立っていられないからだ。
セシリア
イーデンのそばに、他の女がいなくて、愛されていれば、この辛さは消えるのではないか?
セシリア
ほかに仲間がいなくて、二人きりであれば、この辛さは消えるのではないか?
セシリア
スティブナイトから力を奪い、彼女を殺せば、すべてが元通りになって、この辛さは消えるのではないか?
セシリア
イーデンが、
セシリア
イーデンが、セラを殺せるか、と言っていた。
セシリア
俺の益になるために、天使を殺せるのかと。
セシリア
そう私に問うて、私はなぜ彼がそんなことを言うのか分からなかった。
セシリア
でも、もし、セラを殺せば。
セシリア
私たちに必要な天使を、大切な仲間である天使を殺して、
セシリア
彼のために無意味で不利益で破滅的な愛を示せば、
セシリア
この辛さは消えるのではないか?
セシリア
そう思いついてしまえば、
セシリア
その考えに囚われて、動けなくなる。
セラ
「セシリア」
セシリア
私は、
セシリア
「……セラ」
セシリア
「私は」
セシリア
「どうして……」
セラ
「ねぇ、セシリア」
セラ
「僕はね、イーデンの目の前でスティブナイトに襲われました」
セラ
「イーデンは何もしてくれなかった」
セシリア
「……」
セラ
「そのとき、あなたは何をしていましたか?」
セシリア
「……スティブナイトを探して」
セシリア
違う、そうだ。
セシリア
あの状態のイーデンから離れては行けなかった。
セシリア
森に来たイーデンが、言ってしまえばいつもよりも、格段に使い物にならないと。
セシリア
私はそれを知っていた。
セシリア
だから、かれを守らなければならなかった。
セシリア
そうすれば、イーデンが立てなくても、セラを守れたかもしれない。
セラ
「今、誰のことを考えていますか?」
セシリア
イーデンのことを。
セラ
僕ではない。
セラ
「セシリア、ねぇ、セシリア」
セラ
「僕はねぇ」
セシリア
優先されるべきは、常にイーデンであって、
セシリア
セラではない。
セシリア
私は彼のためなら、何人でも殺せる。
セラ
「イーデンに助けて欲しかったんです」
セラ
「セシリアに……助けて欲しかったんです」
セラ
「でも、助けてもらえなかった」
セラ
「あなたは何をしていましたか?」
セラ
「誰のことを考えていましたか?」
セシリア
ああ、そうか。
セシリア
目の前の天使が、いや、天使であったものが。
セシリア
どうしてこんなことを問うているのか分かる。
セラ
「僕を……」
セラ
「あなたは、見殺しにした」
セラ
* セシリアの心の疵『希望』を才覚で抉ります。
セラ
* クエスト5に挑戦します。
イーデン
*横槍はありません。
セラ
* ティーセットと~~~~~~~子山羊皮の手袋も乗せちゃおうかな
[ セラ ] ティーセット : 1 → 0
[ セラ ] 子山羊皮の手袋 : 1 → 0
セラ
2d6+4+2+2=>7 判定(+才覚) (2D6+4+2+2>=7) > 7[1,6]+4+2+2 > 15 > 成功
[ セシリア ] 希望 : -1 → -2
[ セシリア ] 前科 : 0 → 5
GM
*クエスト5達成。
GM
*セシリアは〈絶望〉。
GM
*配下のHPを24点減少します。
セシリア
セラも同じ。
セシリア
それでよかったはずのものが、
そうではなくなってしまった。
セシリア
あるいは、
セシリア
本当はよくなかったものを、よしとしてきたのが、
できなくなってしまった。
セシリア
改めて、セラを見つめる。
セシリア
私は、
セシリア
彼のことを、よく見てさえいなかった。
セシリア
髪は黒く染まり、膚は結晶に埋めつくされつつあり、
セシリア
白かった翼さえも黒い。
セラ
「いくら末裔を助けても、いくら救世主を助けても、いくら仲間を助けても」
セラ
「僕は助けてもらえない」
セシリア
ラストアリス。
セシリア
夢のようなその言葉を、セラが言っていたことがあった。
セシリア
でも、私は、
セシリア
ラストアリスになれるのは、きっとただ一人だと思っている。
セラ
「あなたは、イーデン以外のものを見ていない」
セシリア
だから、イーデンのために、すべてを使い潰すつもりで。
セシリア
自分の命さえ捧げられるつもりでここまで来た。
セシリア
セラは違うということを知りながら、彼を私の愛に利用してきた。
セラ
「僕は、便利な道具でしかない」
セシリア
セラも、
セシリア
本当はそれを分かっていたはずなのに。それでよしとしてくれたのに。
セラ
「でも、生きたかったから」
セラ
「頼れるのが、あなたと、イーデンしかいなかったから」
セシリア
私たちは、一番肝心な時に、セラを守れなかった。
セラ
「だから、信じてきたのに……」
セシリア
だから、とどめを刺してしまった。
セシリア
彼の心に。
セシリア
この世界に希望はない。
セラ
この世界に希望はない。
セシリア
絶望だけがここにある。私はそれをよく知っている。
セシリア
けれど、セラとイーデンは、希望を抱いてくれている。
セシリア
そう思っていたから。
セシリア
私に信じられる資格はないけど。
セシリア
信じたくて。
セシリア
でも、もう。
セシリア
それではダメなのだ。
セラ
希望だけがある。 あらゆる存在は生きていくために希望が必要だ。
セラ
それがどんなに荒唐無稽なものであっても、捨てることができない。死ぬまで抱えていてしまう。
セシリア
信頼に信頼を返せない。
希望に希望を返せない。
セラ
信頼して欲しかった。
希望を抱いて欲しかった。
セシリア
女の目はただ冷えていて、セラの言葉にただ納得している。
セラ
「だから」
セラ
「ひどいよ、セシリア」
セシリア
「ごめんなさい、セラ」
セシリア
「でも」
セシリア
「できないものはできないの」
セシリア
「イーデンが私を愛せなかったように」
セシリア
「私もイーデンを愛することしかできない」
セシリア
「あなたは、信じてもらうために、信じるしかなかった」
セラ
「そう」
セシリア
「……元通りには」
セシリア
「ならないのね」
セラ
「元通りに、戻りたい?」
セシリア
「戻りたい」
セラ
「僕は嫌かも」
セシリア
「どうして?」
セラ
「どうして?」
セラ
「僕に、どんな利益がありますか?」
セラ
「壊れた女と、壊れた男では」
セラ
「この世界を生きていけない」
セシリア
「ならあなたは、これからどうするの?」
セラ
「わからない」
セラ
「何を信じたらいいと思いますか?」
セラ
「イーデンと、あなた以外で」
セシリア
「わからない」
セシリア
「……だって、どうでもいいんです」
セシリア
「イーデンの益にならないのなら」
セシリア
「あなたのことがどうでもいい」
セラ
「そうでしょうね」
セラ
「あなたはずっとそうだった」
セシリア
「あなたは、それでもいいって思ってくれてた」
セシリア
「あなたを利用してた」
セラ
「そうですね」
セシリア
「私の愛を……信じてくれていた」
セラ
「あなたの愛のお陰で、心の痛みを誤魔化せた」
セラ
「そこだけは……、感謝しているんです」
セシリア
「……なら、そこだけは、」
セシリア
「きっとよかった」
セシリア
「あなたにいてもらえてよかった」
セシリア
「それは、本当のことです」
セラ
「そうかも」
セシリア
「さようなら、セラ」
セシリア
「ごめんなさい」
セラ
「さようなら、セシリア」
セラ
「あなたのこと、好きでしたよ」
セラ
かつて天使だったものは、黒い翼を広げる。
セラ
軽い羽音と共に、その姿は暗い森に消えた。
セシリア
それを見送る。
セシリア
消えるまで、見上げている。
GM
薄暗い森に黒い翼が溶けていく。
GM
そうしてそこに、ひとり。
GM
GM
*2R イーデン
イーデン
*クエスト2に挑戦します。
セシリア
薄暗い森に黒い翼が溶けていく。
セシリア
空を見上げてひとり、森に立っている。
セシリア
足元の黒結晶が波紋のようにざわめいた。
セシリア
「そうですね」
セシリア
「待ちましょうね」
セシリア
立ち尽くして、笑う。
シグネ
耳元では。
シグネ
声が消えずに叫び続けている。
シグネ
消えることなく響き続けている。
セラ
『助けて欲しかった』
セシリア
期待を裏切った。
セシリア
希望を示せなかった。
セシリア
信頼に応えられなかった。
セシリア
それがこの果て。
セシリア
こんな声が響き続けているのは苦痛で。
セシリア
けれど暖かく、安心する。
セシリア
この苦痛にさいなまれていることこそが、
セシリア
救世主のあるべき姿なのだと、
セシリア
思い込もうとすることは、できるかもしれない、と思う。
セシリア
そうしてきた男とずっとそばにいるから。
セシリア
かれの妹が生まれてからの、十五年。
セシリア
「ふ」
セシリア
笑う。
セシリア
でも、堪えられない。
セシリア
私が苦痛なのはいいけれど、
あなたが苦痛を感じているのは耐えられない。
セシリア
だから、あなたの苦痛の一切を、
セシリア
消し去るつもりだった。
セシリア
セラの言う通り、うまくはいかなかった。
セシリア
けれど、今ならもっとうまくできる。
セシリア
あなたの苦痛を消すことができる。
セシリア
スティブナイトを打ち倒し、
セシリア
そのコインを手に入れられれば、
セシリア
そして、イーデンのコインも手に入れられれば、
セシリア
ラストアリスほどとまではいかなくても、私の力はより高まるだろう。
セシリア
そうすれば、今度こそ、イーデンを助けることができる。
イーデン
黒結晶の蔓延る森に。
イーデン
その力のいくばくかを奪ったあなたは、
イーデン
正しくその足取りを、察知していたことだろう。
セシリア
顔を上げ、そちらを見る。
イーデン
一歩は重く。ひどくのろく。
イーデン
それでも、重い身体を辛うじて動かす男の、
イーデン
黒結晶に侵されきった姿が、あなたの目に映る。
セシリア
「ああ、イーデン」
セシリア
「いらっしゃい」
イーデン
絶望の森をゆく男。
セシリア
とても、まともな救世主の姿ではない。
イーデン
男も、女も。
イーデン
世を救う主という形容には相応しくない、
イーデン
おぞましい狂態の中にある。
イーデン
けれど、この世界では、それが正常。
イーデン
この世界に希望はない。
セシリア
この世界に希望はない。
セシリア
仲間とは断絶し、孤独に苛まれ、身体を結晶に侵され。
セシリア
絶望の中にある。
セシリア
それでも女は、絶望の中でまだ信じることができた。
セシリア
目の前のあなたではなく。
セシリア
あなたではないもの。あなただったもの。
セシリア
あなたの虚像を信じている。
イーデン
セシリア。
イーデン
セシリア・アンティカイネン。
イーデン
網膜に映るあなたの姿に、
イーデン
脳の裏が焦げつくような心地があった。
セシリア
自分も虚像を信じているのだから、
セシリア
相手に虚像を信じさせることにも躊躇いはない。
イーデン
自分が愛さなかった女。
イーデン
自分が愛した女。
セシリア
苦しみから逃れるために、
スティブナイトの力から逃れるために、
抉られた希望をのたうたせ、あなたに襲い掛かった。
イーデン
愛してはいけなかった女。
セシリア
あなたを壊した理由は無数にあり、
セシリア
いくらでも理由を述べ立てることができたが、
セシリア
その実ひとつもない。
イーデン
重なる虚像の只中に、
イーデン
ただひとつの真実がある。
イーデン
セシリアという女が、そこにいる。
イーデン
今。
イーデン
イーデン・クロフツという男の前に。
イーデン
作り上げた虚像を愛する女が立っている。
セシリア
「待っていた」
セシリア
「来てくれると思いました」
セシリア
「いずれは」
セシリア
「でも」
セシリア
「あなたはどうしてここに?」
イーデン
「…………」
イーデン
セラには。
イーデン
セシリアと話をするべきだ、と
イーデン
そのように言われた。
イーデン
まだ天使だった頃の彼には。
イーデン
でも、彼もいなくなった。自分は彼を救えなかった。
イーデン
失望させた。
イーデン
だから、彼の言葉に従ったのでは、もう、ない。
イーデン
これは。
イーデン
「……セシリア」
セシリア
「はい」
イーデン
「俺が」
イーデン
「お前を、愛しているのかどうか」
イーデン
「確かめるために、来た」
イーデン
*セシリアの心の疵『恋心』を愛で抉ります。
イーデン
2d6+0=>7 判定(+愛) (2D6+0>=7) > 5[3,2]+0 > 5 > 失敗
イーデン
男の手が伸びる。
セシリア
女はあなたを見つめている。
セシリア
あなたがなにをする心算かを問うように。
イーデン
黒水晶に侵された手であなたの肩を掴み、
イーデン
その蔓延る地へと引き倒し、跨る。
セシリア
女の力に呼応して、波紋のようにさざめいていた黒結晶は、
セシリア
ぴたりと動きを止めて、本来の形を取り戻し、
セシリア
ふたりの体を突き刺していく。
イーデン
黒水晶に貫かれる。
イーデン
皮膚を貫かれ、内に蔓延るそれと共鳴し、肉を食い荒らされる心地がある。
イーデン
焼き切れた脳がさらに捏ね回される。
イーデン
侵蝕は進む。絶望の。
セシリア
恋は、愛は、脳を酔わせて痛みを鈍らせる。
イーデン
痛みは鈍らない。
セシリア
絶望は、そんな酔いなど嘲笑うように刈り取っていく。
セシリア
あなたは酔ってなどいない。
セシリア
『酔えないあなたはかわいそう』
イーデン
過去を、人生を、自己を形成するすべてを。
イーデン
暴虐に塗り潰されてなお、この脳は酩酊しない。
セシリア
ただひとりの女を見つめ、酩酊し幸福になるはずだった。
セシリア
そのためにトラウマを消した間隙には、ただ、
セシリア
なみなみと絶望があふれ出しているだけだ。
イーデン
けれど。
イーデン
愛したかった。
セシリア
愛したかった、ではだめだった。
イーデン
愛しているのだと思いたかった。
イーデン
セシリア。
イーデン
愛してはならなかった女。
セシリア
あなたは酔っていないから。
イーデン
愛していたはずの女。
イーデン
その、女を、
イーデン
だからせめて、自分の知るやり方で愛そうとする。
イーデン
絶望の森で、女を暴く。
セシリア
愛を返してくれて、一緒に死んでくれるのだったら、それでよかった。
イーデン
そのはだに触れる。
セシリア
暴かれて、あなたの腕の下で女が身悶える。
イーデン
愛したはずの女と、違う仕草を見下ろす。
セシリア
あなたのすべてを読み解き、あなたのすべてになろうとしても、
イーデン
脳が軋む。
イーデン
愛しているのだと思い込もうとして、
セシリア
読み取っただけで、すべてではない。
イーデン
愛せるのだと自分を騙そうとして、
セシリア
あなたを通した女しか見ていない。
イーデン
愛した女なのだと酔おうとして、
セシリア
あなたを見る女たちがなにを考えていたのかは知らない。
イーデン
それが、叶わない。
セシリア
アドレナリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、フェニルエチルアミン、オキシトシン。
イーデン
こうして、身体を重ねて、なお。
セシリア
恋は脳を誤魔化し、快楽を感じさせ、絶望を和らげる。
セシリア
あなたにはそれがない。
セシリア
女にも。
イーデン
あなたとひとつになってさえ。
セシリア
空しいだけだ。
イーデン
叶わない。
イーデン
この女は、
イーデン
セシリア・アンティカイネンは、自分が愛した女ではない。
イーデン
愛したはずなのに。
イーデン
あんなにも悔いたはずなのに。
イーデン
失いたくなかったはずなのに。幸せにしてやりたかったはずなのに。
イーデン
あの、困ったように笑う女を。
イーデン
下手くそな誤魔化し笑いを。
イーデン
自分はどうしようもなく愛していて、
イーデン
それを、手放したくなかったはずなのに。
セシリア
それが、セシリア・アンティカイネンではないことを。
セシリア
あなたがその女をどうしようもなく愛していて、自分はその女ではないことを。
セシリア
あなたよりもこの女はよく知っている。
イーデン
愛していた。
イーデン
愛せない。
イーデン
愛していない。
イーデン
男の脳を掻き乱すその事実が、
イーデン
組み敷かれる女にも、正しく伝わっている。
イーデン
それを男も理解している。
イーデン
その猟奇性でもって女を抱き、
イーデン
才覚で真実を悟りながら、
イーデン
ついぞ自分が持ちえなかった愛を、女へと注ぐ徒労に励む。
セシリア
「イーデン」
セシリア
女の手があなたの頬をなぞる、いとおしそうに。
イーデン
触れられる。
イーデン
違うやり方で。
セシリア
「無理をしなくて、大丈夫ですよ」
イーデン
「…………」
セシリア
自分がぐちゃぐちゃにした記憶。
セシリア
自分が破壊した男。
セシリア
あなたはそれが、私に言われたことか。
イーデン
あなたは黒水晶を通じて、男とつながっている。
セシリア
ほんとうにそうか、分からないだろうけれど、
イーデン
だから、理解している。
イーデン
この行為がもたらす、男の損耗を。
セシリア
でも、あなたの口から確認しましょう。
セシリア
「あなたには、その時が来たと」
セシリア
「そう思いますか?」
イーデン
性愛を抱いてはならなかった女。
愛情と性愛を抱いていた女。
愛情を抱いてはならなかった女。
イーデン
その、すべてを
イーデン
同じ女に塗り潰されて、
セシリア
壊した。
セシリア
壊さないと、あなたは幸せになれないから。
イーデン
蹂躙され尽くした絶望の疵。
イーデン
男の人生に深く根付いたそれが、
イーデン
無理を通して、女を愛そうとするたびに、
イーデン
こうして剥がれ落ちていく。
セシリア
いつかその欠片が零れ落ちていくさまを見た。
イーデン
罅割れ、砕かれ、失われゆき。
セシリア
私ではなく、イーデンが見た。
セシリア
女が砕け行くさま。
セシリア
かれの最大の心的外傷(トラウマ)。
セシリア
だから、それを覚えているのは、私だけだ。
『   』
在ったはずの男が消えていく。
『   』
胸の中に、
『   』
あなたはそれを、痛いほどに。
『   』
理解できていたはずだった。
セシリア
壊してしまえば。
『   』
パラダイス・ロスト。
セシリア
もとには戻らない。
『   』
Edenはもはや失われた。
セシリア
根幹を破壊してしまえば、そこには何も残らない。
『   』
この世界に希望はない。
『   』
あなたの恋い焦がれる虚像だけが、
『   』
失われた楽園としてそこに在る。
『   』
けれど。
『   』
「…………」
『   』
「……いいや」
『   』
男が答える。
『   』
あなたを愛せない男が。
『   』
あなたを抱き、あなたと身を重ね、あなたを愛そうとする男が。
『   』
愛を遂げることのできない男が。
『   』
「至って、正気だとも」
『   』
捻じ曲げられた希望を胸に、そう答える。
セシリア
「ふふ」
セシリア
女の唇から笑い声がこぼれる。
『   』
笑声を漏らしたその唇に、
『   』
唇を重ねた。
セシリア
ぱき、ぱき、と黒結晶の砕ける音が鳴る。
セシリア
零れ落ちていく。
『   』
脳が軋む。侵されていく。
セシリア
そこに希望だけがある。
『   』
もはや何を望むとも理解できていない男が。
『   』
空虚な希望に突き動かされるままに、女を愛そうとして
『   』
けれど
『   』
この世界に希望はない。
セシリア
イーデン。イーデン。
セシリア
あなたは自分のことも、周りのことも、
ひとつも分かっていない。
セシリア
私はあなたを、愛している。
セシリア
でも私は、あなたの愛にはもう救われない。
セシリア
あなたの愛に、殺されることもできない。
セシリア
何よりあなたは、私を愛してなどいない。
セシリア
「イーデン」
セシリア
どこにも居なくなった男の名前を呼ぶ。
『   』
あなたの呼ぶ男はいない。
『   』
失われた楽園に。
『   』
今ここであなたを抱くのは、
『   』
絶望の底にのたうつ、
『   』
愛を失った一人の男。
セシリア
壊れてしまったものは、もう元には戻らない。
セシリア
元に戻らないことなど、壊した瞬間から知っていた。
セシリア
男の胸を押す。
『   』
手が止まる。
『   』
あなたを愛そうとする手が。
セシリア
離れて、その手を取る。
『   』
重なっていた身体が離れて、
『   』
触れ合う熱が失われる。
『   』
女の手を、今は振り解かずにいる。
セシリア
「でも、私には、『その時』が来たみたい」
『   』
「…………」
『   』
「なら」
『   』
「送ってやっても、構わんが」
セシリア
「でも、最後に」
セシリア
「もう少し、あなたと話したいの」
『   』
男の瞳があなたを見る。
『   』
昏い色の瞳はあなたを見上げながら。
セシリア
「あなたに、私のことを」
『   』
当然、あなたを見ていない。
セシリア
「覚えていてほしいの」
『   』
そこにはただ絶望だけがある。
『   』
それでも。
『   』
目の前の女のことを、
『   』
愛したいと、思っていた。
『   』
「……いいだろう」
『   』
微笑みに答える。擦り切れた自我で。
『   』
最早定かな記憶など一つも持たない男が。
『   』
けれど、あなたの望みに応えようと。
セシリア
あなたの記憶を塗り潰しながら、
セシリア
あなたに何度も抱かれて、
セシリア
ほんとうに体を重ねたのは、私にとってはこれがはじめて。
セシリア
そんなものが欲しかったんじゃないって初めから分かっていた。
セシリア
でももう、取り返しがつかない。
セシリア
「あなたを愛してる」
『   』
「……ああ」
セシリア
それは本当だった。
それはもう嘘だ。
『   』
愛してるの返事はかえらない。
セシリア
愛したいと思っても愛せるわけではない。
セシリア
愛したからといって愛してもらえるわけではない。
セシリア
ことこの堕落の国において、心の疵はそれを浮き彫りにする。
セシリア
それでもよかった。
それでもいい。
セシリア
ただ、絶望だけが消えず、
セシリア
耳元で、だれかの声が鳴りやまないだけだ。
『   』
その声を掻き消す酩酊を、もはやこの男はあなたに与えない。
『   』
あなたの声を耐えず聞く男は、
『   』
最早由縁の分からぬ絶望の淵に、
『   』
もはやあなたにはもたらせぬ希望を抱く。
『   』
あるいはそれはエデンの実。
『   』
手を伸ばすことの許されぬ禁断の果実。
『   』
それを抱いてしまったから、
『   』
それを口にしてしまったから、
『   』
救世主たちは死すべき定めを負うて、
『   』
生きるには苦しすぎる、この森に訪れることになったのか。
『   』
真実は。
『   』
誰にもわからない。
『   』
ただここに事実だけがある。
『   』
――この世界に、希望はない。
2R イーデン シーン裏
スティブナイト
足音。声。聞こえなくはない。まだ。
スティブナイト
力がすべて失われているわけではなかったが。
スティブナイト
漠然とした気持ち悪さと。
スティブナイト
この森が侵蝕されていく感覚。
スティブナイト
遠くで黒結晶が、自分の意志と関係なくざわめいて。
スティブナイト
身を捩ろうとして、それが叶わないことを知る。
スティブナイト
コインが60枚。
スティブナイト
最初は才覚しかなかった。
スティブナイト
力が欲しかった。
スティブナイト
コインを集めて、それが形になる。
スティブナイト
黒い結晶に。
スティブナイト
最初は小さなものだった。
スティブナイト
けれどこの力は強力だった。
スティブナイト
少し頭を働かせれば、人を殺めることができた。
スティブナイト
それが、救い……と言うには、微々たるものだし。何の利益にもなりやしないが。
スティブナイト
痛みを誤魔化すには十分だった。
スティブナイト
そうしてこの森を作り。人を無差別に殺して。
スティブナイト
公爵家に目をつけられれば、今までよりもっと簡単にコインを得られた。
スティブナイト
60枚。
スティブナイト
それでも変えられないものがあり、
スティブナイト
傷付くことがあり、
スティブナイト
どれだけこの結晶の力が大きくても。
スティブナイト
自分がどこまでも弱い女であるということは変わらなかった。
スティブナイト
だから、結晶の力が奪われれば。
スティブナイト
こうして何もできなくなる。
スティブナイト
無力な女。
セラ
羽音。
セラ
黒い羽の救世主は、結晶を踏まぬように地に降りた。
セラ
「具合悪そうですねぇ」
セラ
「生理?」
スティブナイト
顔を上げる。
スティブナイト
「……」
スティブナイト
「だいぶ前に止めてるけど」
スティブナイト
「今なら来そうで嫌になるな」
セラ
「え~、心配ですね。 ピルいる?」
セラ
「持ってないけど! アハハハハ!」
スティブナイト
「元気そうだな」
セラ
「元気に見せるのは得意なんですよ」
スティブナイト
「あー……」
スティブナイト
「……そうだな」
セラ
「本当はどうでもいいのにね」
スティブナイト
「うん」
スティブナイト
「……なんか」
スティブナイト
「目に優しい色で俺は嬉しいよ」
セラ
「アハハ! 目がチカチカしない色になりました」
セラ
「お陰様でね」
スティブナイト
「そうだね」
スティブナイト
「まぁ、お前がどうにかならなくても」
スティブナイト
「あいつらはダメだったような気もする」
セラ
「さぁ、どうでしょうね」
セラ
「たどり着かなかったもしもに興味はないですよ」
スティブナイト
「うん」
セラ
ふー、よいしょ、と言って、スティブナイトの隣に腰を下ろす。
セラ
「お腹いたそ~」
スティブナイト
「痛い」
スティブナイト
「でも子宮は無事らしい」
スティブナイト
「よかったね」
セラ
「アハハハ! わ~い、よかったな」
セラ
「あ、そうだ! 受胎告知してあげましょうか? 僕そういうことできるんですよ!」
セラ
「いや、もうできないか! アハハハハハハ!」
セラ
「困ったなぁ、今子を産ませるには、セックスしかないや、アハハ!」
スティブナイト
「それは困るだろうね」
セラ
「ど~しよ!? あ!! でも今そんなに子供産んで欲しくないかも!?」
セラ
「逆転の発想~~~~!!!!」
スティブナイト
「もう繁殖はいいの?」
セラ
「まぁ増えても死ぬしな~」
セラ
「今となっては、快楽セックス大いに結構! みたいな気持ちになってきていますよ」
スティブナイト
「そう……」
スティブナイト
「仲間はああだし、天使らしさもないし」
スティブナイト
「大変だね」
セラ
「避妊しろ避妊! そして子を産まなくなって死に絶えろ!!」
セラ
「アハハ」
セラ
「あなたもね」
スティブナイト
「……俺?」
セラ
「大変でしょう、こんなに広い自分を守る森を作って、定期的に救世主が来て、踏みにじられて、三月兎の爆弾まで落とされて」
セラ
「そして今、セシリアに力を奪われつつある」
スティブナイト
「…………ああ」
スティブナイト
「会った?」
セラ
「ええ」
セラ
「ど~しようもない感じになってました」
スティブナイト
「…………なんか」
スティブナイト
「めちゃくちゃにされてるなって」
スティブナイト
「すごいわかるから嫌」
セラ
「大変ですね~、その力」
スティブナイト
「快楽セックス容認派の気持ちも今ならわかる」
セラ
「ハハハ」
スティブナイト
「快楽で痛みを誤魔化せたら」
スティブナイト
「楽だろうなって」
スティブナイト
「なにかに縋れたら」
スティブナイト
「なにかを信じられたら」
セラ
「どうでしょうね、あなたは分かってしまうんじゃないですか?」
セラ
「そんなものは現実逃避だって」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「そうだな」
セラ
近くにある結晶を、指先で、つ、と撫でる。
スティブナイト
びく、と肩が跳ねた。
セラ
「嫌でしょう、他人に触られるの」
スティブナイト
「…………どうだろう」
スティブナイト
「嫌だと思うその気持ちすら、たぶん」
スティブナイト
「踏み荒らされすぎているから」
セラ
「あ~あ~、出たよ」
セラ
「慣れてるから大丈夫とか言って自傷するやつ~」
セラ
「まぁいいですよ、僕も今となってはどうでもいい」
スティブナイト
「そういうのの面倒は」
スティブナイト
「もう見飽きてるんだろ」
セラ
「飽きました」
セラ
「やっぱりそういうのって、医者とかに任せたほうがいいですね~」
セラ
「親しい人に任せるの、よくないと思う!」
スティブナイト
黒結晶に触れる、その手を引き寄せる。
スティブナイト
「じゃあ、逆に」
スティブナイト
「壊してみる?」
セラ
「…………」
スティブナイト
「慰める方法が浮かぶなら」
スティブナイト
「それと同じくらい壊す方法も浮かぶだろ」
スティブナイト
「今のお前の姿なら」
スティブナイト
「そっちのほうが似合うよ」
セラ
「そう」
セラ
「似合いますか」
セラ
スティブナイトの頬に触れる。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
抵抗もなく。
スティブナイト
やわらかい女の肌。
セラ
唇が寄り、囁く。
セラ
「スティブナイト」
セラ
「あなたを愛している」
セラ
「あなたを、あなただけを」
セラ
「誰よりも大事に思っている」
スティブナイト
「――――、」
スティブナイト
「天使には、似合わない言葉だな」
セラ
「天使には、言えない言葉ですよ」
セラ
「嘘でもね」
セラ
「ねぇ、スティブナイト」
セラ
「きみを愛してもいい?」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「止める権利が」
スティブナイト
「あるとは思えないな」
スティブナイト
「そういう感情に」
セラ
「アハハハハ!」
セラ
「じゃあ権利をプレゼント! はい!」
セラ
「今なら僕を袖にする権利と、僕を死ぬまでこき使う権利が与えられます!」
セラ
「でもどっちか一つだけなんですね~」
スティブナイト
「……、あー……」
スティブナイト
「死ぬまでこき使えたほうが、なにかと便利ではあるけど」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「どうなってほしい、とも思わない」
スティブナイト
「好きにしたらいいし」
スティブナイト
「使われるために必要なものがあるなら」
スティブナイト
「子宮でも、なんでも」
スティブナイト
「くれてやる」
セラ
「本気で言ってる?」
セラ
「それは、僕をずっと側に置いてもいいってことですよ」
スティブナイト
「……別に」
スティブナイト
「構わない」
スティブナイト
「どこかに行くならそれでもいいし」
スティブナイト
「どのみちこの3人がこの先総力戦で俺に襲いかかってくることはないだろ」
スティブナイト
「死人が出るならそれ以上裁判をするつもりもそんなにないし」
セラ
「…………」
スティブナイト
「…………ああ、でも」
スティブナイト
「裁判、うるさいし」
スティブナイト
「痛いから」
スティブナイト
「あんまり長引かないほうがいいし」
スティブナイト
「そういう意味だと」
スティブナイト
「最初に命令するのは、『落ち着くまで森の外に出てろ』とか」
セラ
「側に置いてもいいと言ったのに」
スティブナイト
「いたらお前、殴られるだろ、あいつらに」
スティブナイト
「隠れるくらいしたら」
セラ
「やさしいんですね、あなたは」
スティブナイト
「……………………」
セラ
「さっきも守ってくれた」
スティブナイト
「……強姦されるところ見られて嬉しいやつなんかいないだろ」
セラ
「僕を盾にして逃げることもできたかも」
スティブナイト
「どうせ狙いは俺だし、森が破壊されて逃げられるとは思わない」
セラ
「広いですしね、ここ」
セラ
隣りにいるおんなを見る。 この混乱の元凶。 この絶望の元凶。
セラ
そして、この絶望の森で一番やさしい。
スティブナイト
「……なんでこんな広がっちゃったんだろうね」
スティブナイト
「いや」
スティブナイト
「この国を滅ぼしたいからだけど」
セラ
「今ならわかります」
セラ
「めちゃくちゃになればいい」
スティブナイト
「うん」
セラ
「ねぇ、スティブナイト」
セラ
「あなたの本当の名前を聞いてもいいですか?」
スティブナイト
「……名前?」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「この国に来るまで」
スティブナイト
「名前らしい名前もなかったし」
スティブナイト
「スティブナイトって名前で」
スティブナイト
「人から恐れられてるのは、悪くはないから」
スティブナイト
「それ以外の名前を名乗ろうとは、あんまり」
セラ
「そう……」
スティブナイト
「欲しいなら」
スティブナイト
「つけてもいいけど」
セラ
「そう……ですね」
セラ
「じゃあ、ナイト」
セラ
「夜の騎士」
スティブナイト
「……ナイト」
スティブナイト
「そう」
スティブナイト
いい名前とも、嫌だとも言わない。
スティブナイト
喜ばないが、拒むこともない。
セラ
「僕だけのナイト」
スティブナイト
ふ、と笑った。
GM
GM
*お茶会終了タイミング
GM
*「戦術補助」で、技能をひとつ変更できます。
GM
*変更する技能を宣言してください!
セシリア
*J回復を聖域に変更します
『   』
*J仕込OUT
 凡庸IN 5-7指定します
セラ
*A救済を防御へ