GM
そこは色を失った空間だった。
GM
辺りに響くのは、お前たちが踏み出した足が地面の結晶を割る音だけ。
GM
風も吹かず葉擦れの音ひとつしない不自然に静かな森に、その音が響いては、木々の隙間に吸い込まれて消えていく。
GM
黒く枯れた木には半透明の黒い結晶が生えており、手をつけば触れたところを傷付けるだろう。
GM
ここにはお前たちを加害するものしかない。
GM
精神も、肉体も、蝕んでいく。
GM
ゆっくりと、確実に。
GM
GM
中の景色は、事前情報通り。
GM
枯れた森ならもう少し空の光も差し込むだろうものだが、どうしてか、異常に薄暗い。
GM
死の気配が満ちている。
セラ
ぱきり、ぱきりと足音だけは小気味よく響く。
イーデン
呼吸のたび肺腑を満ちる、死と絶望のにおい。
セシリア
心の疵の力が、森の中に行き渡っている。
イーデン
自分はこれをよく知っている。
セシリア
この森の主である、救世主の心の疵。
イーデン
同時に、自分には分からない。
イーデン
絶望を理由に、
イーデン
ここまで大それたことを仕出かす存在のことが。
イーデン
理解できない。
セラ
「……どうにも気が沈んでいけませんね」
イーデン
「ミキの情報通りだな」
セシリア
「脅威度6相当の救世主……と言えば、停滞期とされる我々を超えてゆく力の持ち主ですから」
セシリア
「対面せずとも、『格下』である我々を脅かすほどの力があってもおかしくはない……ですが」
セシリア
「しかし、これは……」
イーデン
「ここまで結晶が生い茂っているとなると」
イーデン
「踏み込む側はたまったものじゃない」
イーデン
「領域型ってのは、これだから困る」
セラ
「立派に育っていますねぇ」
セシリア
「相手の胃袋の中に飛び込んでいるようなものですからね」
セシリア
「早めに、スティブナイトを見つけられればいいのですが……」
イーデン
「いつお出迎えがあってもおかしくはねえ」
イーデン
「警戒は怠るなよ」
セラ
「まぁまぁ」
セラ
「大変ではあるでしょうが」
セラ
「格上の救世主と戦うのは初めてではありませんし、皆が力を合わせれば大丈夫ですよ」
イーデン
「………………」
イーデン
返答はない。
セラ
「少なくとも、僕はそう信じてますよ」
イーデン
鼻で笑うことすら、今はもうしない。
セシリア
「……はい」
イーデン
セラの言葉に頷くことも、
イーデン
それを嘲笑うことも、できはしない。
セシリア
代わりのようにセラの言葉に肯いた。
セシリア
勝てるかどうかは分からない。けれど少なくとも、この天使の信頼を疑ってはいない。
セラ
ぽん、とイーデンの背を軽く叩く。 咎めるでも、励ますでもなく。
イーデン
今はあなたよりも低くなった背の丈。
セラ
そうして、セシリアに微笑んだ。
イーデン
分厚い外套に覆い隠されたその線の細さを、いつからか意識するようになったろうか。
セシリア
森の情報を聞いてから、イーデンはいつにも増して気鬱になっている。
セシリア
無理もないことだ。だが、そのぶん自分たちが支えなければ、と思う。
GM
もう少し森を歩けば、イーデンのその言葉のとおりに。
GM
「それ」はやってくる。
GM
無音。だが、お前達は殺気を纏った音が鳴ったのを感じる。
GM
音のない音。
GM
一瞬遅れて、それが「黒結晶が割れたときの衝撃」から来るものだとわかる、その瞬間。
イーデン
「!」
GM
周囲の黒結晶が、お前たちに向かって襲いかかる。
セシリア
「!」
セラ
「!」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「受けるな!」
セラ
飛び退ける。
イーデン
自分を庇おうとした女の腕を掴み、
セシリア
前に出て、反射的に受けようとして、腕を掴まれる。
イーデン
刃を振るうてそれを払う。
イーデン
あなたを背に隠すように、男は前に立つ。
GM
降り注ぐ。黒結晶の雨。
GM
上から。お前たちの後方からも。
イーデン
舌打ち。
セシリア
身体で受けては浸蝕される。
イーデン
掴んだ腕を放さないままに走る。
セラ
走る。
セシリア
駆け出す。
イーデン
自分たちの中で、速度で最も不利を取る女を導くように、森を駆ける。
GM
足元で結晶が砕けて、霧のように細かい粒子が散らばる。
イーデン
速度で遅れる女の足元に降りかかるそれを見て、
イーデン
その身体を引き上げた。
セシリア
「っ、すいません……」
イーデン
横に抱き上げる。
イーデン
駆ける。
GM
お前たちが駆け抜ければ、ほどなくして結晶は止み。
スティブナイト
「――また面倒な奴が来たな」
スティブナイト
囁くような声。
イーデン
「…………」
セラ
「あなたが……?」
スティブナイト
耳元で声がする。が。
スティブナイト
振り返ってもその姿はない。
セラ
振り返る、が。
イーデン
腕に女を抱いたままに、周囲の気配を探っている。
セラ
視界に何も獲られられない。
セシリア
男の腕に抱き上げられながら周囲を見回す。
スティブナイト
「……随分と仲良しなようで?」
イーデン
「……ッ」
イーデン
舌打ち。
イーデン
セシリアを地面へと下ろす。
セシリア
降り立って、息をつく。
セシリア
「……次は、身体では受けません」
イーデン
「ああ」
セシリア
「あの程度なら、弾けます。大丈夫です」
イーデン
「…………」
セシリア
小声で囁きかけて、視線はスティブナイトを探す。
イーデン
わかった、とも、託す、とも。
イーデン
答えられず虚空に敵の姿を求めた。
セラ
三人で背を庇い合うようにして、周囲を窺う。
スティブナイト
見回して、視線を戻せば。
スティブナイト
お前たちの正面に。唐突に。
スティブナイト
その姿がある。
スティブナイト
「で、何の用?」
スティブナイト
「仲良しごっこするには」
スティブナイト
「この森はあんまりよくない場所だと思うけど」
スティブナイト
男とも女ともとれない、少し掠れた声。
イーデン
「…………」
イーデン
空いた手に得物を握りしめて、
セラ
「心当たりがないとは言わせませんよ!」
イーデン
フードの奥より、悪性救世主の動向を窺う。
セラ
「この結晶が及ぼす影響、僕たちよりもあなたの方がよくご存知でしょう!」
セラ
「それに、僕の友達も……」
スティブナイト
「ああ」
スティブナイト
攻撃を仕掛けるわけでもない。
スティブナイト
溜息をひとつ。
スティブナイト
「帰ってもらったし」
スティブナイト
「お前たちが倒してたのも知ってる」
イーデン
「…………」
セラ
「倒したというよりは、介錯した、と思っています」
セラ
「あなたが何もしなければ、あんなことはせずに済んだ」
イーデン
あれを倒したと称せるのなら、
イーデン
それはそれで、幸せな脳味噌だろうと。
イーデン
常ならそのように皮肉でも吐いたかもしれなかった。
セシリア
「……彼女は」
セシリア
「決死の行動で、私たちにあなたのことを伝えてくださいました」
セシリア
「そして、公爵家はあなたを改めて討伐するように私たちに依頼した」
セシリア
「……」
セシリア
言い返すでもなく、説明するように言葉を返して、その姿を改めて見つめる。
セシリア
「……あなたの森は、周辺を蝕みその領域を広げ」
セシリア
「犠牲者を増やしています。ですから、放置しておくことはできない」
セシリア
「そのために、我々は来ました」
スティブナイト
「そう」
スティブナイト
「公爵家の判断?」
セラ
「公爵家だけではありません。 このままあなたを見過ごすことはできない」
セラ
「人々を守らなければならない」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「出ていくつもりはないんだろう」
セラ
「あなたを倒すまでは」
スティブナイト
溜息。
イーデン
外套の中で得物を握り直す。呼吸をしている。息を殺すようにしながら。
イーデン
無言のままに、目の前の救世主を睨みつけている。
スティブナイト
「……そいつも同じ?」
イーデン
「…………」
セシリア
ちらりとイーデンを振り返る。
セシリア
思ったより、状態がよくない。この森に入ってきたときから。
セシリア
そうして、躊躇いつつも、沈黙するイーデンの代わりに肯いた。
スティブナイト
「外にいたときとは随分様子が違って見えるけど」
スティブナイト
「具合が悪いなら帰ったら?」
イーデン
「…………」
イーデン
フードの奥で、
イーデン
浅く、呼吸をする気配。
イーデン
「帰してくれるような慈悲が」
イーデン
「あんたにあるとは、思えんがね」
スティブナイト
「そう見える?」
イーデン
「そうであれば」
イーデン
「この森がここまで拡大することも、ない」
イーデン
「……まあ」
イーデン
「あんたに慈悲があったとて」
イーデン
「この森がそれを許さない」
イーデン
「という可能性も、あるか」
イーデン
「どうだよ」
イーデン
「スティブナイトさんよ」
スティブナイト
名前を聞けば、また息を吐く。どこか妖艶に。
スティブナイト
あるいは、心底嫌そうに。
スティブナイト
「俺は本当に帰ってほしいと思ってるよ」
イーデン
「…………」
スティブナイト
「……まぁ」
スティブナイト
「殺したほうがいいとも思うけど」
イーデン
「奇遇だな」
イーデン
「……そこだけは、合致するようだ」
イーデン
刃を向ける。
イーデン
目の前の救世主へと。
セシリア
それを合図に、身構える。
セラ
いつもの陣形。
イーデン
セシリアが守り、イーデンが攻め、セラが補助をする。
イーデン
そのための陣形。
イーデン
ここまで旅を重ねてきた二年間の結実が、この陣形に宿る。
スティブナイト
「……少なくとも」
スティブナイト
「そういう戦い方は、俺とは合致しないな」
スティブナイト
その声はお前たちの耳元からする。
スティブナイト
……つまり、この眼前の姿から発せられているわけではない。
イーデン
「!」
スティブナイト
お前が踏み出したなら刃が届く。この救世主がそれを避けることはない。
スティブナイト
届いて。
イーデン
空を切る。
スティブナイト
そこに感触はない。
スティブナイト
その姿は掻き消える。
イーデン
平衡を崩しかけて、足を前に出し、森の地面を踏み締めて。
イーデン
振り返ったなら。
GM
そこには誰もいない。
セラ
「消えた……」
GM
初めから誰もいなかったかのように、静寂が広がる――実際、いなかったのだろう。
イーデン
「…………」
GM
3人だけがこの場に取り残されている。
セシリア
「幻影を……」
イーデン
舌打ち。
セシリア
「見せると、言っていましたね」
イーデン
「わざわざご挨拶か」
セラ
「想像はしていましたが、厄介ですね」
イーデン
「格上救世主ってのは、どいつもこんなか」
セラ
「…………」
セラ
「イーデン、大丈夫ですか?」
イーデン
「………………」
イーデン
何が、とは
イーデン
言わなかった。
イーデン
かつてなら、そのように返しただろう。
セラ
「出直すことも、選択肢としてはあります」
イーデン
「……どうだか」
イーデン
森を見回す。
イーデン
「あいつの帰ってほしいは……まあ、本音かもわからんが」
イーデン
「この森がどうだかってのは、的外れでないように思える」
イーデン
「……それに」
イーデン
低く。低く。唸るように。
イーデン
「……出直して改善するようには、思えない」
セシリア
「そうですね」
セラ
「…………」
セシリア
出直す、という選択肢はない。
セシリア
選択肢として、本当に取るべきは、遠くへ逃げることだ。
セシリア
だが、それこそ、許されるかどうか。
セシリア
そして、イーデンは逃げる自分を許すかどうか。
セラ
「……あなたがそう言うのなら」
セラ
「探しましょう、スティブナイトを」
セラ
「早く終わらせるべきだ」
イーデン
「ああ」
イーデン
「…………」
イーデン
「……悪い」
イーデン
「世話を、かける」
イーデン
吐き出すような声。
セシリア
「……いいえ」
セシリア
「生きて帰りましょう。……スティブナイトを倒して」
セシリア
あなたに似ているかれを。
セシリア
その時ほんとうに、あなたは大丈夫?
イーデン
……ひどく、
イーデン
ひどく、弱くなっている。
イーデン
ずっと理解していた。ずっと自覚していた。
イーデン
きっと、堕落の国に落ちてよりこちら、
イーデン
今の自分が一番弱い。
イーデン
落ちたばかりの頃よりも。
イーデン
仲間の裏切りに全てのコインを奪われた時よりも。
イーデン
女に末裔の娼婦のふりをさせ、
イーデン
救世主を騙し討ちにコインを奪った時よりも。
イーデン
……その、女を、■した時よりも。
イーデン
今の自分が、一番弱い。
イーデン
仲間を信じられないことを知っている。
仲間に信じられていることを理解している。
イーデン
仲間を失うことを知っている。
仲間を失いたくないと願っている。
イーデン
絶望に抗う無意味を知っている。
絶望に抗った末に掴んだ勝利を覚えている。
イーデン
この世界に、
イーデン
希望のないことを、知っている。
イーデン
きっと自分は今から全てを失う。
イーデン
この弱さで、誰を守りきれるとも思えない。
イーデン
それでも、
イーデン
……それでも?
イーデン
守るのではなく。
イーデン
守られながら戦って、それで、あの救世主を討ち倒すことが叶えば。
イーデン
……馬鹿げた夢想。
イーデン
有り得ない『希望』!
イーデン
そんなものに揺るがされる自分は、
イーデン
間違いなく、この森で最も弱い救世主だ。
GM
 
GM
拝啓、アリス。
GM
愛しいアリス。
GM
この国がもうだめであるのなら、
GM
どうしてお前はここにいる?
GM
こんな絶望しかない世界で、お前が生きる意味は何だ?
GM
 
GM
Dead or AliCe「絶望の森」
GM
 
GM
GM
*お茶会 R1
GM
お茶会MOD『錯綜』の効果により、行動順をランダムに決定します。
GM
1d99で大きい方から行動してください。
セシリア
1d99 (1D99) > 49
セラ
1d99 (1D99) > 91
イーデン
1d99 (1D99) > 34
GM
*R1 セラ
GM
*シーン表を公開しました。
GM
どちらか片方だけ振ってもいいし、2d6でまとめて振ってもお得だし、両方指定してもいいし、振らなくてもいいです。
セラ
振るだけ振ってみようかな
セラ
2D6 (2D6) > 8[5,3] > 8
セラ
わはは
GM
5.開けた場所。巨大な黒結晶のクラスターがある。長い時間をかけて大きくなったようだ。この辺りが救世主の居住地だろうか?
GM
3.森だというのに、風の音もなければ、風で葉が擦れる音すらしない。ここはひどく静かで、不自然で、不気味だ。
GM
お前たちは森の探索を始めた。
GM
元よりこの森がお前たちを返すつもりもなかったが。
GM
どこを見ても色のない森。
GM
色があるのはお前たちくらいなものだった。
セラ
足音だけが静寂の中に響く。
セラ
「……どちらにしても、準備が必要です」
セラ
「まずは公爵家からの物資を探しましょうか。 どこかに投下されているはずです」
セラ
「確か、事前の打ち合わせでは──」
セラ
そう言って振り返る。
GM
後ろにあるのは静寂。
GM
誰もいない、ただ森だけが広がっている。
セラ
「!」
セラ
先程まで、確かに足音は三人分あった。
セラ
分断された。ということになる。
GM
かれらの声も、足音も、布擦れの音すらも。
GM
この結晶に吸い込まれたかのように。
GM
気配が失われている。
セラ
自らの領域に住まう救世主なら、このくらいは訳もないだろう。
セラ
なにより、相手は脅威度6相当。 この程度当たり前にできて当然。
セラ
仕方なしに歩き始める。 自分の立っていた位置は変わっていないように見えた。であれば、公爵家の物資は回収できるだろう。
GM
結晶を踏みしめる音。一人分。
GM
元は普通の森だったようで、倒壊した小屋があったり、少し開けた場所があったり。
セラ
寂しい場所だ。イーデンでなくとも暗い気分になる。
GM
グリフォンのトランスポーターが、ある程度わかりやすく、木にも引っかからないような場所に、上空から荷物を投下していたようだ。
セラ
目立つ色のパラシュートは、遠目からでも確認できた。
セラ
* スティブナイトの心の疵『朧』を抉ります。 同時にクエスト2に挑戦。
スティブナイト
*配下が横槍。
黒結晶B
2d6+2=>7 判定(+脅威度) (2D6+2>=7) > 7[5,2]+2 > 9 > 成功
黒結晶B
1d6 (1D6) > 3
セラ
* ティーセット
[ セラ ] ティーセット : 2 → 1
セラ
2d6+4+2-3=>7 判定(+才覚) (2D6+4+2-3>=7) > 6[5,1]+4+2-3 > 9 > 成功
セラ
* ゆびぬきを入手します。
[ スティブナイト ] 朧 : 0 → -1
[ セラ ] アリスのゆびぬき : 0 → 1
セラ
木箱を開き、中の物資を確認する。 数日はこの森で生活できそうだ。
セラ
とはいえ、数日こんな場所にいて正気を保っていられるかは疑問だが。
GM
これは美希達が必要だとリストアップしたものだった。
GM
メモに記載されていた通りの。
GM
そして、お前が顔を上げれば。
GM
木々の奥に、大きな黒結晶が見える。
セラ
「!」
GM
お前の身長よりもずっと高い。大きく成長した黒結晶。
セラ
「ここまで成長した結晶があるとは……」
セラ
触れるわけにはいかないが、何か情報を得られないかと近付く。
GM
お前が歩みを進めれば、その黒結晶の大きさも、力も、理解できる。
GM
森の中、そこだけは開けていて――いや、木々がそこにあることすら許されてないと言ったほうが正しいかもしれないが。
GM
足元の結晶は黒い花畑のよう。
セラ
結晶の花を、さくりさくりと踏みながら足を進める。
セラ
靴があるとはいえ、あまり踏むのもよくないのではと思うが、避けて歩くのは難しそうだ。
GM
空は夜のように薄暗い。さきほどからずっと。
セラ
空と、大きな結晶とを見上げる。
GM
お前が近づけば、黒結晶の一面がお前の色を反射する。鏡のように。
GM
そこに。
スティブナイト
もうひとつ、足音がする。
セラ
振り返る。
スティブナイト
そこに立っている。絶望の色を纏った救世主が。
セラ
「スティブナイト……」
セラ
イーデンとセシリアはいない。 一人でできる範囲の最善を行わなければならない。
スティブナイト
溜息。
スティブナイト
前と違うのは。
スティブナイト
その音が耳元からではなく、目の前のこの姿から発せられていること。
セラ
幻ではないように思える。
スティブナイト
「適当に歩いてここに着いたなら」
セラ
で、あるのなら。手傷を負わせるか、何かしらの情報を得たい。
スティブナイト
「お前は随分運がいいようで」
セラ
「……それはそうでしょう。 僕は天使ですから」
セラ
「スティブナイト、あなたの情報はなかなか得られなかった。 情報収集能力に長けたミキをしても」
スティブナイト
その言葉に、眉をひそめる。
セラ
「あなたの存在は、一体何ですか?」
セラ
手をスティブナイトに差し出す。
セラ
「例えば……、僕の姿は一定ではありません」
セラ
骨ばった大きな手が、細く華奢な手に変わる。
セラ
「もしかすると、僕と同じような存在ではありませんか?」
セラ
手は、幼くふっくらとした小さなものへ。
セラ
「実体がなく、自分や他人の都合に合わせて姿を変えられる、そんな……精霊のような存在」
セラ
そうして、また手は大きく力強いものへ。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「精霊ね」
スティブナイト
「……そうだったらよかったね」
セラ
「違う、と」
スティブナイト
「そうは見えないだろ」
スティブナイト
「どう見ても」
セラ
「それは、自分でそう思っているだけでしょう」
セラ
「あなたは生きている。美しい」
セラ
「精霊だと言われれば、疑いはしません」
スティブナイト
「この状況で?」
スティブナイト
「これが、俺の力だと」
スティブナイト
「わかってて来てるんだろ」
セラ
「精霊の全てが善なるものではありません。自らの力を制御できないものもいる」
セラ
「……もちろん、違うというのなら信じましょう」
セラ
「あなたの言葉は、そのままあなたの心の疵を現す」
セラ
「あなたは、自分をどう思っていますか?」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「……セラフィム」
スティブナイト
「なら、わかるんじゃないのか」
セラ
「……!」
セラ
「…………」
スティブナイト
「どう、って」
スティブナイト
「辺りはこのざまだし」
スティブナイト
「俺は"こう"だ」
セラ
こう、と言われて。
セラ
その体に視線が落ちる。
スティブナイト
その身体が。
スティブナイト
最初に見たときより、細く、小さく。
スティブナイト
『おんな』の肉付きをしていることを
スティブナイト
お前は理解する。
スティブナイト
「俺の世界では」
スティブナイト
「お前みたいな奴に寵愛をもらうと、褒めそやされるようなところでね」
セラ
「…………」
セラ
「あなたはそれを、好ましく思っていないような言い方だ」
セラ
「嫌いですか、天使のことが」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
その手を取って。
スティブナイト
下腹部に押し付ける。
スティブナイト
「わかるだろ」
スティブナイト
「汚れてることくらい」
セラ
おんなの下腹部。 そしてその内臓を思う。
セラ
「汚れていても、子は授かることができます」
セラ
「あなたの体は、新しい命を授かることができる、素晴らしいものだ」
スティブナイト
「………………」
セラ
「あなたが望むなら、今から命を授けてもいい」
スティブナイト
わらう。声のない吐息が漏れる。
スティブナイト
「面白いことを言うね」
セラ
「僕は本気ですよ」
セラ
下腹部に触れる手に、僅かに力が入る。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「結局そんな寵愛なんてものはなくて」
スティブナイト
「ただの暴力があるだけだよ」
セラ
「なら、僕が愛しましょうか」
セラ
「あなたが僕を天使だと信じるのなら、あなたに寵愛を授けてもいい」
セラ
「本当に僕を信じてくれるのなら、全てをなげうって、あなたのために生きてもいい」
スティブナイト
「初対面の人間に」
スティブナイト
「随分と……」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「そうやって何かを信じられたら」
スティブナイト
「俺がここにいないのは」
スティブナイト
「お前たちならわかるんじゃない?」
セラ
手を腹から離して、スティブナイトの両手を取る。
セラ
「それなら、あなたがまた誰かを信じられるようになるまで」
セラ
「僕はあなたを支えたいと思います」
セラ
「結晶のこともある。難しいかもしれない」
セラ
「でも、あなたが何かを信じられないというのなら、僕は信じられるようになって欲しい」
スティブナイト
「一人のために」
スティブナイト
「何人が犠牲になると思う?」
セラ
「大勢が犠牲になるでしょうね」
セラ
「でも、僕は手を取った人を諦めたくない」
セラ
「心を閉ざして全てを諦めていては、悲しいばかりになってしまう」
セラ
「今すぐ信じろ、というのは難しいでしょう。 だから……、話して欲しい。あなたのことを」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「いいけど、お前」
スティブナイト
「手は2本しかないように見える」
スティブナイト
「俺の手を取ろうとした時」
スティブナイト
「お前の手から誰の手が離れてる?」
セラ
「イーデンには、セシリアがついています」
セラ
「他にも、誰かには、誰かが」
セラ
「今、ここには僕しかいない」
スティブナイト
「そう」
スティブナイト
「じゃあ」
スティブナイト
「お前の選択が本当に正しいか、見てみようか」
スティブナイト
背後の黒結晶が僅か、発光して。
スティブナイト
黒結晶の奥に人影がふたつ見える。
セラ
「──!」
*お茶会1R セラ:舞台裏

「……どちらにしても、準備が必要です」
「まずは公爵家からの物資を探しましょうか。 どこかに──」

セラの声が途中で途切れる。
イーデン
「!」
セシリア
一瞬だけ、セラから目を逸らしていた。
セシリア
途切れた声にハッと視線を戻すと、そこにはすでに姿はない。
イーデン
うつむきがちに歩いていたところに、仲間の声が途切れる。
イーデン
セシリアと同じくそちらを向いて。
イーデン
舌打ち。
イーデン
「……そりゃあ」
イーデン
「そうするわな」
イーデン
意外とも思わない。
セシリア
「失礼します」
セシリア
イーデンの手を掴んで、そのまま手を引く。
イーデン
「…………」
セシリア
足早にセラのいた場所へ歩いて、手探りでその感触を探した。
イーデン
手を引かれるままに歩く。
イーデン
「結晶には触れるなよ」
セシリア
手は見たまま、虚空を空振り。
イーデン
今更の忠告を重ねる。
イーデン
「俺が受けるよりはましかもしれないが」
イーデン
「お前の薄着も大概だ」
セシリア
「ええ……」
セシリア
「ただ、私は心の疵の力が、護りに寄ってはいますから」
イーデン
「…………」
セシリア
「……だめですね。視覚を混乱させるだけの幻覚ではない」
イーデン
「気配がない。コインを持つ救世主特有の」
イーデン
「それすらも隠し果せる可能性も、ないではないが」
セシリア
この脅威度の救世主が、その程度の軽い分断をしてくると言うのは、甘い観測だ。
イーデン
「そこまで疑ってちゃあ始まらねえな」
イーデン
「…………」
イーデン
頭が、
セシリア
「どちらにせよ、すぐの合流はできないでしょう」
イーデン
自分の頭は、
イーデン
今は、正しく回っているか?
セシリア
イーデンの手を握ったまま。周囲を見回す。
イーデン
セラとの合流を求める心がある。
敵対者が分断を狙うならその理由がある。
それを妨げなければならないという判断がある。
イーデン
しかし、それが、正しいものか。
イーデン
今はわからない。
イーデン
闇雲に探してセラが見つかるか? そんなはずはないだろう。
イーデン
このレベルの救世主が、そのような生半可な分断を仕掛けてくるはずがない。
セシリア
格上の、領域型の、しかも精神を侵食するタイプの救世主。
イーデン
さりとて放置していいとも思えない。
セシリア
ひとりずつ分断して、始末を狙っているのなら。
イーデン
「……探索を続けつつ」
イーデン
「セラを探そう」
イーデン
「手がかりもない」
セシリア
「そうですね……」
セシリア
結局のところはそうするしかない。
イーデン
「それ以外、できることもねえ」
セシリア
そして、こうして手を繋いでいるのも、本当は無駄なことだ。
イーデン
その気になれば。
イーデン
いつでも自分たちをも分断できる。
セシリア
分かっていながら、手を握っている。
イーデン
分かっていながら、手を振り解かずにいる。
イーデン
握り返すことは、
イーデン
できないままに。
セシリア
先導して歩き出した。
イーデン
せめて周囲の気配を探りながら、引かれるままに歩きゆく。
セシリア
結晶を踏み砕くぱきりぱきりとした音が妙に大きく響く。
イーデン
そのひとつひとつに嫌な気分が去来する。
セシリア
時間が経つごとに状況は悪くなる。
セシリア
最悪の予測まで立てて行動しなければならない。
イーデン
その上で、今できることも多くはない。
セシリア
セラの姿を、そしてスティブナイトの姿を探して探索を続ける。
セシリア
1d6 絶望シーン表 (1D6) > 1
セシリア
1.黒結晶に覆われた死体を見つける。死体は干からび、表情は絶望に満ちている。見ていると絶望的な気持ちになりそうだ。
イーデン
1d6 黒のシーン表 (1D6) > 6
イーデン
6.黒結晶が舞っている。避けないならば、ぶつかってあなたを傷付けようとしてくる。
セシリア
舞う結晶を振り払う。
イーデン
ナイフがその結晶を打ち砕く。
セシリア
美希と遭遇し、その最期を見届けた後、ある程度の対策はしてきた。
イーデン
それに触れてはならないことを、救世主の、
イーデン
否。
イーデン
生物としての反応が察している。
GM
そうして、お前たちが歩けば。そこにはひときわ大きな黒結晶が転がっている。
セシリア
指先が触れぬまま、道を拓いて。
セシリア
その黒結晶に、視線が吸い込まれる。
イーデン
降り注ぐ悉くを切り払い、女を守り、守られながら、道を進み。
イーデン
一際に昏く輝く、絶望の塊。
イーデン
同じ昏色にそれを映す。
GM
その黒結晶は少しだけ透明で、だから。
イーデン
「…………」
 
その奥の姿が、目を凝らせば見える。
セシリア
「……」
イーデン
想定通りの光景。
セシリア
死んでいる。
イーデン
或いは、想像よりは、いくらかマシか。
セシリア
もっとおぞましい、凄惨な屍になっている可能性はあった。
イーデン
遺体にしては美しいほどだ。
イーデン
その表情のさまから目を逸らしさえすれば、だが。
セシリア
……ただ、これでは、美希の願いを叶えることは、まだできそうになかった。
イーデン
この結晶には触れられない。
イーデン
都合良く、周囲に彼女の遺品が転がっているようなことも、有り得ない。
イーデン
この世界に希望はない。
セシリア
遺体を覆うほど成長した黒結晶を破壊するには、
セシリア
あのスティブナイトを殺すほかないだろう。
イーデン
死者の本懐を遂げるために愚を犯してやれるほどには、
イーデン
自分は彼らに寄り添えない。
イーデン
寄り添いはしない。
セシリア
冷静であろうと努める。
イーデン
優先順位を正しく定める。
セシリア
周囲を確認し、得られる情報がないかを探り、
セシリア
そして首を横に振る。
イーデン
頷く。
セシリア
「……残念ながら、ここから得られる情報は何も」
イーデン
得物に張り付いた結晶の欠片を最新の注意でもって振り払い、
イーデン
襤褸布で刃を拭い、布は放り捨てる。
セシリア
「次へ進みましょう」
イーデン
「ああ」
イーデン
「長居する意味はない」
イーデン
得物を収める。
セシリア
欠片を吸い込まないように気を付けながら、ごく小さな声で囁いて、次へ向かう。
セシリア
森は暗く深く。
セシリア
希望などどこにもないように思える。
イーデン
まとわりつくような気鬱に満ちた空気が、自分の身にはよく馴染む。
セシリア
それでも、歩みを止めはしない。
イーデン
歩みを止めることは許されない。
イーデン
許されない? 違うか。
イーデン
許さないのだ。
イーデン
自分の積み重ねてきた生き方が。救世主としての在り方が。
イーデン
ここで膝を折り、心を挫くことを、決して許さない。
イーデン
……いつにも増して薄い勝算に、
イーデン
仲間を巻き込んでさえ、この絶望の森に立つ。
イーデン
その愚を糾弾する者すらない。
イーデン
仲間だから。
イーデン
ふざけた理由だ。
イーデン
そのふざけた理由を投げ捨てられない自分が、
イーデン
今は、最もふざけた存在と称されて然るべきだが。
イーデン
……触れた熱を思う。
イーデン
抱き上げた熱。
イーデン
背を触れた熱。
イーデン
重なった熱。
セシリア
あなたの横で、生きている女が共に歩いている。
イーデン
生の気配。
イーデン
存在の熱。
セシリア
すべてが失われ、絶望に満ちた森で、
セシリア
その空気に馴染むあなたとは対照的に、女の存在は浮いている。
イーデン
だからこそ、理解する。
イーデン
あるいは想起する。
イーデン
その輝かしい女の姿が絶望に呑まれて薄れるさまを、
イーデン
自分は、思い描かずにはいられないのだ。
スティブナイト
歩く二人。男と女。
スティブナイト
その、女のほうが。
スティブナイト
突如、倒れる。
GM
GM
*R1 PK割り込み1
GM
セシリア。
GM
お前は意識を失い。
GM
暗闇で目を覚ます。
セシリア
暗闇で目を覚ます。
セシリア
分断された。いや。
セシリア
これは、物理的な分断ではない。
セシリア
暗闇の中で腕を伸ばし、指先の形を確かめる。
セシリア
足に力を籠め、身体感覚に問題がないかをひとつひとつ検めていく。
スティブナイト
「おはよう」
セシリア
イーデンの姿を探すさなかで、暗闇の中にその姿を見つける。
セシリア
いや。
セシリア
前のように、似ていると感じはしなかった。
セシリア
その表情は皮肉っぽく微笑み、彼とは似ても似つかなくなっていたから。
スティブナイト
先程よりわずか、高くなった声。
セシリア
イーデンは皮肉を言おうとも、笑ったりはしないから。
セシリア
その体が小さくなり、おんなそのものになったことよりも。
セシリア
そのほうがよほど大きな変化に感じる。
セシリア
「スティブナイト」
セシリア
名前を呼ぶ。
スティブナイト
「慣れてるね」
セシリア
分断して、こちらを狙いに来た。
セシリア
「……ええ、さすがに。あなたにはコインの数は及びませんが……」
セシリア
「いえ、そうではないですね」
セシリア
「あなたは、逆に慣れていないのではないでしょうか」
セシリア
「私たちや、美希たちのこともそうですが」
セシリア
「あなたは囲まれて、討伐されようとする方が多いはずですから」
セシリア
「こうして分断されて、心の疵を狙われる『お茶会』はされたことがないでしょう」
スティブナイト
「分断も何も」
スティブナイト
「元々一人だし?」
セシリア
周囲を見回す。ただ暗闇がある。
セシリア
「……そういう意味では、珍しいですね」
セシリア
「あなたのような救世主は、配下を抱えていることも多い」
セシリア
「ですがあなたの森は、生命の一切を許容しないように見えました」
セシリア
「独りというのは、そうなのでしょう」
スティブナイト
「いるといえばいるけど」
スティブナイト
「お前たちが殺したああいうのとか」
セシリア
「……」
セシリア
「つまり、救世主を黒結晶で侵蝕し、森を広げる存在にすることでしょうか」
スティブナイト
「だから、まぁ」
セシリア
「あなたはあれを、私たちが殺したと、そう表現するのですね」
セシリア
スティブナイトを見つめる。
スティブナイト
「勝手に広げてるし」
スティブナイト
「死んだら、数が減ったなって思う」
スティブナイト
「殺したのは事実なんじゃないの?」
セシリア
「いいえ」
セシリア
「確かに、助けられなかった、という意味では、殺した、と言えるかもしれません」
セシリア
「ただ……あれは、彼女自身が、」
セシリア
「彼女自身が死を選んだ。そのように私は受け取っています」
セシリア
「私たちに情報を渡し、森をそれ以上広げないために」
セシリア
「あなたがそれを、私たちが殺したと受け止めるのは……」
セシリア
「……あなたが、深く絶望しているからでしょう」
セシリア
「彼女が、私たちに託そうとしたこと」
セシリア
「私たちに、あなたを倒す期待と希望をかけたこと」
セシリア
「それは、あなたには受け容れられないことでしょうから」
スティブナイト
「受け入れられないっていうか」
スティブナイト
「よくやるなって」
セシリア
「……私もそう思います」
セシリア
自分が、同じ状態に陥った時。
セシリア
果たして、彼女のように振る舞えるかどうか。
セシリア
その時、自分は独りだ。
セシリア
この暗闇の中で、スティブナイトと相対している状態とはまるで違う。
セシリア
自分の生きる支えであり、最も大切なものを喪っている。
セシリア
森の討伐を任されたのが、自分たちと美希たち、順序が逆だったとしたら。
セシリア
生き残ったのが、自分だけだったとしたら。
セシリア
果たして、彼女たちに託せたろうか?
セシリア
「……」
セシリア
目の前の女を見つめる。
セシリア
幻覚、幻影、過去のトラウマ。
セシリア
そういったものを、操る救世主であると聞いていた。
セシリア
なら、直接姿を見せているのはなぜか。
スティブナイト
「……まぁ、死んだものの話をしても」
スティブナイト
「今からあいつが救われるわけじゃなさそうだし」
スティブナイト
「生きてるやつの話をしよっか」
スティブナイト
「ね」
スティブナイト
見つめ返す。
セシリア
「……」
スティブナイト
辺りにノイズが走る。
スティブナイト
次に。
スティブナイト
お前が見た景色はなんだろう?
スティブナイト
生きてるお前の話をしよう。
アウレール
『参謀本部に抜擢? すごいじゃないか!』
アウレール
『そうだな、セシリアはよく考えたら、同期の中で一番成績がよかった』
アウレール
『さすがだな、……忙しくなるだろうが、応援しているよ』
アウレール
アウレールはスクール時代の同期。
アウレール
地方星域の支局に回されて、めっきり会う機会は少なくなった。
アウレール
私のことを応援してくれたけれど、私のそばで働くことはなかった。
セシリア
私は、彼の部隊を辺境の海賊の討伐に当たらせる作戦にサインを書いた。
セシリア
作戦は成功したが、部隊の多くが死亡し、彼もその一人だった。
テレンス
『君には期待している。優秀だと聞いている』
テレンス
テレンスは私の前の長官……私が入ってそう時間の経たないうちに暗殺された。
セシリア
彼が死んだあと、警察局はより秘密主義になっていった。
セシリア
私の仕事は増えた。扱える権限は増え、責任は多くなっていった。
マリネッタ
『いつでもご命令ください! 我々はあなたの盾となり、矛となり、お守りいたします!』
マリネッタ
マリネッタ。参謀本部付きの護衛部隊の隊員。
シグネ
『セシリア』
シグネ
……シグネ=アンティカイネンは私の双子の妹。
シグネ
『勉強ができるのはお前の方、前で切ったはったをするのは私の仕事』
シグネ
『細かいことは分かんないけどさ』
シグネ
『セシリアが判断したことは、きっと正しい』
シグネ
『任せるよ』
セシリア
シグネの態度は、周囲の私に対する態度をそのまま象徴するようだった。
セシリア
みんなが私の判断を正しいと言ってくれた。
セシリア
たとえ死者が出て、犠牲を払っても。
セシリア
作戦の成功率は担保されていたし、組織が問題なく継続できる程度の割合だった。
セシリア
人を死なせた。
セシリア
顔を知っている人、顔の知らない人。
セシリア
敵。味方。
セシリア
殺して。殺させて。死なせて。
セシリア
数えきれない死体の数を、私は数字だけで追った。
セシリア
無理が出はじめていることが分かっても。
セシリア
誰にも相談できなかった。
セシリア
ひとりで何とかするしかなかった。
セシリア
数字は増えていく。
セシリア
気が付けば。
セシリア
私は、シグネとマリエッタが戦っていたブロックの酸素供給を絶っていた。
セシリア
司令部を守るために必要だったから。
セシリア
最善の判断だった。でも、
セシリア
見捨てられるかれらを納得させるための説明を、私はしなかった。
セシリア
できなかった。もう全部が無理だった。
セシリア
通信を切った。彼らの声を聴かなかった。
セシリア
でも、彼らはきっと驚愕と、絶望の中に落とされたはずだ。
セシリア
酸素が絶たれ、死にゆくなかで、私への怨嗟を叫んだはず。
シグネ
だから、聞いていないはずの叫び声が耳にこびりついている。
シグネ
いま聞こえる。
シグネ
『セシリア! 私たちを見捨てるのか!……裏切ったのか!』
シグネ
『……お前なんか、信じるべきではなかった!』
セシリア
信じられるべきではない。私は信用されるべきではない。
セシリア
そんなことはずっと知っている。私にその資格はない。
セシリア
けれど、
セシリア
けれど、信じてほしくなった。
セシリア
信じてもらっていいのかもと思えた。
セシリア
かれを助けたから。
セシリア
かれが、私のことを信じられないから安心した。
セシリア
かれが、私のことを信じられないことを、苦しいと思ってくれるから、安心した。
セシリア
そうやって、自分が冒した罪も、耳元で叫ぶ妹の声も、見ないふりをしたまま。
セシリア
ここまでやってこれた。
シグネ
『お前にそんな資格があるものか』
シグネ
『私たちを殺したお前に!』
セシリア
イーデン。
セシリア
イーデン。助けて。
セシリア
そんな資格はない。
スティブナイト
お前はどうしてここにいる?
スティブナイト
招待状を受け取ったのは。
スティブナイト
お前がここに呼ばれたのはなぜ?
セシリア
私が罪人だからだ。
セシリア
私が許されるべき人間ではないから。
セシリア
いや。
セシリア
それが、傲慢に過ぎないと知っている。
セシリア
意味がない。ここに落とされたことには。
セシリア
意味がないほうが。罰などないほうが。そこからすら見放されたほうが。
セシリア
より冷たく、ふさわしい。
セシリア
……けれど、それでは寒すぎる。
セシリア
自分の身を守るように、腕を抱く。
セシリア
それでも、目の前から幻影は消えることはない。
セシリア
耳元から、怨嗟の叫び声が消えることはない。
スティブナイト
ここから救ってくれる手を。
スティブナイト
お前は信じられる?
セシリア
この世界に希望はない。
セシリア
他ならないかれが、
セシリア
そう繰り返してきたのに?
スティブナイト
*セシリアの心の疵「希望」を猟奇で抉ります。
イーデン
*横槍に入ります
イーデン
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
イーデン
2d6+0=>7 判定(+愛)] (2D6+0>=7) > 5[1,4]+0 > 5 > 失敗
スティブナイト
2d6+5=>7 判定(+猟奇) (2D6+5>=7) > 9[4,5]+5 > 14 > 成功
[ イーデン ] HP : 19 → 18
[ セシリア ] 希望 : 0 → -1
GM
*セシリアは〈絶望侵蝕〉。
スティブナイト
「……」
セシリア
「……イーデン……」
セシリア
顔を覆っている。
スティブナイト
「来ないね」
セシリア
あなたのことを冷静に見定めようとしていた女の姿はない。
セシリア
何を聞いているのか。何を見ているのか。
セシリア
声も身体も震えている。
セシリア
助けて、と、うつろに言葉を繰り返す。
スティブナイト
「助けてもらえる資格が」
スティブナイト
「あると思う?」
セシリア
そんなものはない。
セシリア
いや、いや……
セシリア
そんなものに、資格など必要ないことは知っている。
セシリア
理性がそれを言ってくる。
セシリア
セラという天使と共にいながら、セシリアはそう信心の強い女ではなかった。
セシリア
大いなるものに罪や罰や資格が規定されていることを、もとより信じてはいなかった。
セシリア
だが、理性というのはやはり、希望の言い換えに過ぎない。
セシリア
理屈は取捨選択できる。
セシリア
自分の心を守るために、それらを信じないことができる。
セシリア
けれど、今は?
セシリア
いまは、何も。
セシリア
怨嗟の声が聞こえる。
セシリア
死んだひとびとの絶望の叫びがそこにある。
セシリア
過去に囚われている。過去に足を掴まれている。
セシリア
だから、手を。
セシリア
手を伸ばす。
セシリア
目の前のスティブナイトではなく。
セシリア
そこにいるはずの、イーデン・クロフツへ向かって。
GM
視界が粉々に砕けるような感覚。
GM
そして。
GM
目の前の光景が切り替わる。
GM
イーデン
「――ア、」
イーデン
「セシリア!」
イーデン
腕の中。
イーデン
絶望に満ちた森の中。
イーデン
昏倒した女を揺すり、叫ぶ。
イーデン
脳の裏で思考が回る。こんなことをする意味はない。
イーデン
冷静な思考は理解する。敵の術中に落ちたことを受け入れた上で、次の対策に出るべきだ。
イーデン
名を呼んだとて意味はない。
イーデン
ただの荷物になった女を肩に担いで、
イーデン
そうしてなすべきを優先して動いたことが、
イーデン
かつての自分にはあっただろう?
イーデン
それが。
イーデン
なのに、今は。
セシリア
力ない女の指先が揺れる。
セシリア
そして。あなたの冷静な思考は正しい。
セシリア
この森で。
セシリア
黒結晶に満ちた森で、意識を刈り取られて無防備に昏倒したのだ。
セシリア
細かな黒結晶の欠片が、いくつも肌に触れている。
セシリア
抱え上げるときに振り払ったとしても、
セシリア
それは確実に女の体を蝕んでいく。
セシリア
ぱき、ぱき、という音は。
セシリア
いつしかあなたの足元ではなく、腕の中から。
イーデン
振り払う手に躊躇いはなかった。
イーデン
あれほど恐れた絶望の塊に、触れることさえ今は怖くない。
イーデン
何故なら。
イーデン
より恐れていた事態が。
セシリア
ぼろぼろと、零れ落ちる。
セシリア
だが、すべてが振り払われることはない。
セシリア
なぜなら、黒結晶はもう、女の膚の内側からも。
イーデン
理解している。
イーデン
悟っている。
イーデン
それでも女を離さないでいる。
イーデン
目についたほつれをせめて繕おうとして、
イーデン
その叶わないことを思い知りながら、ただ孤独に繰り返し、
イーデン
そうして最後は、すべてが当然のように、こうなるのだ。
セシリア
そうして……
セシリア
力が抜けていた指先が、跳ね上がる。
イーデン
「ッ」
セシリア
あなたの、襟首をつかむ。
イーデン
「セ」
セシリア
見開かれた女の目が。
セシリア
あなたを見つめる。
イーデン
「シリ、ア」
イーデン
目が合う。
セシリア
「っ……」
セシリア
その目を。
イーデン
絶望に満ちた昏い瞳が。
セシリア
見た女は。
イーデン
今は、男の瞳に映り込む。
イーデン
よく知るもの。
イーデン
そこにあるはずのないもの。
セシリア
あなたの腕に抱かれたまま、悲鳴を上げてあなたを突き飛ばした。
セシリア
あなたに怯えたのか。それとも。
セシリア
そこに映る己を見たからか。
イーデン
「っ」
イーデン
思いもよらぬ反撃に、男の身体が傾ぐ。
イーデン
力ではあなたを上回るはずなのに。
イーデン
拘束に似た腕の力は、
イーデン
あなたをもはや留められぬほどに。
セシリア
零れ落ちそうになるはずの体が、再び追いすがる。
セシリア
あなたを、黒結晶の埋まる森へと押し倒す。
イーデン
「……!?」
イーデン
「っが」
イーデン
「――あ!」
セシリア
黒結晶の砕け、弾ける音。
セシリア
「は、」
イーデン
外套を突き破る硬い感触。
セシリア
「はあ、はっ、」
セシリア
荒い息。
イーデン
多少着込んだところで、
イーデン
それは格上の救世主の心の疵の具現。
イーデン
鉱石はコートを容易く貫いて、男の背を深く深く抉る。
イーデン
「セシ、リア」
イーデン
「なにを」
イーデン
「……なにを」
イーデン
「された?」
セシリア
あなたの体の上で、女の手が、自分の顔を確かめる。
セシリア
そこには、やはり黒水晶が。
セシリア
「……っ、は、は、」
イーデン
「何を見た」
イーデン
「何を見せられた」
イーデン
「セシリア」
セシリア
女の口元に、笑みが浮かんだ。
イーデン
「答えろ!」
イーデン
男の命令に、
イーデン
もはや強制力はない。
セシリア
黒水晶を覆い隠すように、肩に羽織っていた外套をかぶる。
イーデン
あなたと男の間に存在した権力勾配はもはや存在しない。
セシリア
それは、いつかあなたが、撤回した。
セシリア
そうして、仲間として、対等に。
イーデン
ささやかにつながる協力関係のもと。
セシリア
いまは、女はあなたを見下ろしている。
イーデン
この一年半を過ごしてきた。
イーデン
それが。
イーデン
今は。
イーデン
「…………」
イーデン
「セシリア……?」
セシリア
「助けて」
イーデン
「っ」
セシリア
「助けてほしかったの」
セシリア
手が伸びる。
イーデン
「…………」
セシリア
あなたの頬へ触れる。
イーデン
あなたを見上げている。
イーデン
四肢は投げ出されたままに。
イーデン
黒水晶に背を抉られたままに。
イーデン
……今は、頭すら回らない。
イーデン
思考が完全に停止している。そのことすら悟れぬままに。
セシリア
この世界に希望はない。
セシリア
あなたの言った通りに。
セシリア
あなたの目の前で、
セシリア
あえかな希望が刈り取られていく。
イーデン
ただその事実だけを、回らぬ頭が諒解していた。
GM
GM
*R1 セシリア
GM
*セシリアは状態〈絶望侵蝕〉中なので、PCの「心の疵を抉る」以外の行動ができなくなります。
セシリア
*次回はイーデン・クロフツの『絶望』を愛で抉ります。
セシリア
声が。
セシリア
ずっと聞こえている。
セシリア
シグネの声。
セシリア
目の前にあなたがいるにもかかわらず。
セシリア
その声は止むことがない。
イーデン
頬を触れる女の体温が。
イーデン
よく知るものと同じはずなのに。
セシリア
そういう思考が動くことで、私のあなたへのこの思いが。
セシリア
自分の罪悪感と自責から逃れるためのものであったような気がして。
セシリア
酷く苦しくなる。
イーデン
目の前の女は、知らぬ顔をしている。
イーデン
じくじくと、背が痛む。
セシリア
「イーデン」
セシリア
女の口元は笑みに歪んでいる。
イーデン
傷が痛む。
イーデン
心が、
イーデン
何よりもひどく、軋んでいる。
イーデン
「……セシリア」
セシリア
あなたを見つめるのは左目だけ。
セシリア
右目は黒結晶に覆われて、パキパキと小さな音を立てる。
セシリア
侵蝕は今も、広がり続けている。
イーデン
「セシリア」
イーデン
「水晶、が」
セシリア
「助けて、ほしかった」
イーデン
「……っ」
シグネ
『助けられる資格なんてない』
セシリア
「あなたを、助けたかった」
イーデン
伸べかけた手が、
イーデン
半ばに止まる。
シグネ
『お前に何が救えるって言うんだ』
シグネ
『みんな死んだ』
イーデン
女を侵す結晶を振り払うために伸べられた手も。
イーデン
同じ結晶に覆われ始めている。
セシリア
その手を、女の手が掴む。
イーデン
息を呑む。
セシリア
「苦しいんです」
セシリア
「声が」
イーデン
「声」
セシリア
「声が……」
イーデン
声。
イーデン
女の声が。
イーデン
『――あなたに』
イーデン
『生きていて、ほしいから』
セシリア
「そう」
セシリア
「そうですよね」
セシリア
あなたの耳元でその声がした瞬間。
セシリア
あなたの瞳の中に、ここにいない女の虚像が結んだ瞬間。
セシリア
女もそれを気取ったかのように頷く。
イーデン
半ば声が、
イーデン
喉で、引き攣れたような心地に塞がれる。
イーデン
けれど、止まない。
イーデン
声は止まないのだ。
セシリア
「あなたを、ずっと助けたかった」
セシリア
「あなたを、助けることで」
セシリア
「私が救われるような気がしていた」
セシリア
自嘲の笑み。
イーデン
「…………」
イーデン
「……それの」
イーデン
「何が、悪いんだ」
イーデン
「好きなように」
イーデン
「俺を使えと」
イーデン
「そう、お前には」
セシリア
「でも、今は……」
セシリア
「声が、止まないの」
イーデン
「………………」
セシリア
「あなたの絶望が深いことを知っていた」
セシリア
「あなたの絶望を消すことなどできないと知っていた」
セシリア
「それでも、希望を抱いてくれるなら」
セシリア
「わずかでも前に進んでくれるのなら」
セシリア
「それでもいいと思ってきたけれど」
セシリア
「でも」
セシリア
「それじゃ」
セシリア
「声が……」
イーデン
声が。
セシリア
否定された希望が抉れた疵の中でのたうっている。
イーデン
聞こえている。
イーデン
女の声に、重なる声を。
イーデン
この男は。
イーデン
今も。
セシリア
声だけが聞こえ続けている。
セシリア
違う声を聴いている。過去に囚われている。
セシリア
それぞれが、違う過去に。
イーデン
それを、どうするのが正しいかなど。
イーデン
知る由もない。
セシリア
互いの過去には触れられない。互いの過去には触れてこなかった。
イーデン
ただ耐えるだけで前に進んできた。この女も或いは。
セシリア
それでもよかったはずなのに。
イーデン
けれど、今は。
セシリア
それでもいいと思えない。
イーデン
抉れた疵が。
イーデン
この結晶が。
セシリア
「あなたを」
イーデン
爛れきった患部を、曝け出す。
セシリア
「イーデン」
セシリア
「助けさせてくれる?」
イーデン
「……は」
***
ノイズ。
***
あなたを冒す黒結晶が、ノイズを送り込む。
イーデン
「…………ッ」
イーデン
「セシリ、ア」
イーデン
「ここは」
イーデン
「せめて」
イーデン
どうにか身を捩り、あがきに腕を伸ばし、
***
『ぼくたちのアリス!』
***
声。
イーデン
自らに跨る女の身体を退けようとする
イーデン
した
イーデン
その、手が。
***
ノイズの中に、三月兎の弾けるような笑顔が写り込む。
***
絶望の森の中を、はしゃぎながら駆けていく。
イーデン
止まった。
***
長身の輝く天使がそれを抱えて、あなたの方をふたりで見つめる。
***
ノイズ。
***
『かわいそうに』
***
『そうやって現実しか見られないなんて』
***
『ごまかせないあなたはかわいそう』
イーデン
腕を掴む。
イーデン
セシリアの腕を。
イーデン
女の細腕を、力を込めて
***
ストレナエの姿がぶれる。
セシリア
あなたは、女の腕を掴む。
セシリア
だが、それは、果たして今目の前にいる女のものか?
***
ノイズ。
イーデン
力が。
イーデン
入らない。
***
『キス、……して、ほしいの』
***
『これがさいごだから』
***
あなたの上に柔らかい女の身体が跨っている。
イーデン
酒を呑まされたわけでもなく。
***
熱く濡れて、あなたを迎え入れる。
イーデン
酩酊に頭を鈍らされているはずもない。
イーデン
ただ、ノイズの中に
セシリア
女の熱い吐息が。
イーデン
女の姿を見せつけられている。
セシリア
記憶が、歪み、ぶれていく。
イーデン
幻覚だ。
イーデン
幻影だ。
イーデン
理解している。
イーデン
違う。
イーデン
こんなものは。
イーデン
救世主の力であれば、当然、よくあることで。
イーデン
それに惑わされることも、当然自分は初めてではない。
イーデン
この堕落の国に落ちて、生き延びて、
セシリア
あなたには無数の過去が堆積している。
セシリア
無数の絶望があなたの心と体を蝕んでいる。
イーデン
殺して、生きて、生き延びて、
イーデン
四年。
イーデン
四年の時が。
セシリア
あなたの心の疵を形成してきた四年。
イーデン
イーデン・クロフツという男を作り上げてきた四年。
セシリア
それが少しずつ、曖昧になっていく。
イーデン
「…………ッ」
イーデン
「やめろ」
セシリア
そして少しずつ、
イーデン
「やめろ!!」
イーデン
腕に、
セシリア
苦しみが薄れていく。
イーデン
ようやっと力が入った。
イーデン
女の身体を突き飛ばす。
イーデン
男の猟奇性で、
セシリア
それが分かる。そして、
イーデン
それが、辛うじて、叶う。
イーデン
仲間であるはずの女を。
セシリア
突き飛ばされて、女の体が離れる。
セシリア
苦しみはなくならない。
イーデン
腕力でもって突き放し。
セシリア
苦しみが消えていくという苦しみがあるだけだ。
イーデン
「あ」
セシリア
あるいは、苦しみが消えたという苦しみが。
セシリア
「あなたを」
イーデン
「ぁ」
セシリア
「あなたの役に立ちたいの」
イーデン
「…………っ」
イーデン
「なら」
イーデン
「なら!」
イーデン
「こんな、馬鹿げたことを」
『   』
『イーデン』
イーデン
「――――ッ」
『   』
『役に立つから。使えるから』
イーデン
目を閉じる。首を振る。
『   』
『裏切ったのは、あなたの方』
『   』
声が、言葉が、ばらばらに再生される。
イーデン
フードを掴み、頭を抱え込む。
セシリア
『でも、大丈夫』
セシリア
突き飛ばしたはずの女が、するりと起き上がり、あなたに優しく触れる。
セシリア
『大丈夫ですよ、私はまだ使えます』
セシリア
『あなたの役に立てる。あなたを助けられる』
セシリア
だから、こんなことを覚えている必要はある?
イーデン
「……違う」
イーデン
「違う!」
イーデン
理解する。
イーデン
女の意図を悟る。
セシリア
『あなたの絶望は深く』
イーデン
寄り添うやわらかな身体から一歩引いて、
セシリア
『あなたの心とほとんど一緒になっている』
イーデン
その熱から逃れて、威嚇するように叫ぶ。
イーデン
「お前は、……違う」
イーデン
「お前じゃない」
セシリア
『そこからあなたを救う手立てを』
セシリア
『ずっと考えていた。そしていつも』
イーデン
「お前じゃない!」
セシリア
『それは消し去れないものだと』
イーデン
「セシリア」
セシリア
『あなたから絶望は消せないのだと』
セシリア
『ずっとそう思っていた』
イーデン
「お前は、あいつじゃないんだ!」
セシリア
どこも似ていない女。
セシリア
重ねるはずのない女。
セシリア
女は笑う。
セシリア
『そうですね』
イーデン
髪の色も肌の色も、その振る舞いも、何もかもが。
イーデン
違って。
イーデン
だから。
セシリア
『でも』
セシリア
『あいつって、誰のことです?』
イーデン
「…………」
***
ノイズ。
イーデン
「……お前じゃない」
***
記憶は、遡る。
イーデン
「おまえ、じゃ」
イーデン
「…………っ」
セシリア
『イーデン』
セシリア
『大丈夫、あなたは何も恐れる必要はない』
セシリア
『なにに絶望する必要もない』
イーデン
「いやだ」
セシリア
『あなたには、もう不要のものです』
イーデン
「いやだ……」
イーデン
「違う」
イーデン
「それを」
イーデン
「それ、は」
イーデン
「……あ」
セシリア
『だって、あなたを責めさいなむばかりでしょう』
セシリア
『あなたは辛く、苦しく、希望のない道程を歩んできた』
イーデン
「……その、権利が」
イーデン
「それだけの」
イーデン
「俺は」
セシリア
『権利も資格も必要ない』
イーデン
「その上で」
セシリア
言い聞かせるように女は言う。
イーデン
「生き、て」
セシリア
『私は、あなたを助けたいの』
セシリア
『あなたは』
イーデン
「…………」
セシリア
『あなたはどう?』
セシリア
『あなたは、私を助けたいと思ってくれる?』
セシリア
『私に、助けられることで』
セシリア
『『『イーデン』』』
イーデン
「……ッ」
セシリア
塗りつぶされる。
セシリア
塗りつぶされていく。
セシリア
声が。
セシリア
あなたの耳元で響く。
セシリア
女の声が。
イーデン
「……いやだ」
セシリア
思い返そうとしても、ただそこには。
セシリア
一人の女の姿があるだけだ。
セシリア
それが間違っていると、分かる。
イーデン
「いやだ…………」
イーデン
わかる。わかっている。
イーデン
そうじゃない。
イーデン
お前じゃない。
セシリア
でも、それなら、代わりにそこにあったのは?
イーデン
じくじくと。
セシリア
そして、正しくある必要は?
イーデン
黒結晶は身体を蝕んでいる。
セシリア
なにもかもが罪ばかりで、間違っていて。
イーデン
それでも、
イーデン
それでもまだ、
イーデン
まだ。
セシリア
ここに辿り着いたのに。
イーデン
心の中に。
イーデン
抱いた、ひとつの名前が。
イーデン
「……リ、ア」
セシリア
『はい!』
セシリア
*イーデンの『絶望』を、愛で抉ります。
セラ
* 横槍するか……
セラ
* 世間話に今意識が行っていましたが……イーデンが困っていますしね……
セラ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
セラ
* 素振りします
セラ
2d6+3=>7 判定(+愛) (2D6+3>=7) > 3[1,2]+3 > 6 > 失敗
セラ
え?
セシリア
2d6+4=>7 判定(+愛) (2D6+4>=7) > 6[1,5]+4 > 10 > 成功
セラ
嘘でしょ
セシリア
愛の形を分かってもらえて嬉しいです
イーデン
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セシリア
*すいません。クエスト4でした。
GM
はい。
セシリア
あなたの名前を呼ぶ声に、女が応える。
セシリア
ただ一人の女が。
イーデン
「……違う」
イーデン
「違う……」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「お前じゃない」
イーデン
首を振る。
セシリア
『どうして?』
イーデン
フードを抱え込み、頭を俯かせ、膝尾をつき。
イーデン
その頬に涙が落ちる。
イーデン
侵されていく。
イーデン
何よりも、
イーデン
何よりも大事にしてきたはずのものが。
セシリア
あなたの前に跪き、俯いたこうべに手を乗せる。
セシリア
『どうして泣いているんですか?』
イーデン
「違う」
イーデン
「違う……」
イーデン
「…………」
セシリア
『……あなたを、助けたい』
イーデン
「マリア」
イーデン
「マリア、……っ」
イーデン
聖母と同じ名を呼ぶ。
セシリア
『なのにどうして』
セシリア
『あなたを苦しめる人の名前を、憶えている必要があるんでしょう』
セシリア
『イーデン、あなたは優しいひと』
セシリア
『だからあなたは苦しんでしまう』
イーデン
「――ふざけるな」
セシリア
『あなたは善きひとだから』
イーデン
「ふざけるな!」
イーデン
「お前は」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「お前は、何も知らない!」
イーデン
「何も伝えていない」
イーデン
「何も、知らせていない!」
セシリア
『いいえ』
イーデン
「あいつのことを」
イーデン
「俺が」
イーデン
「マリア」
イーデン
「あいつに、どれだけ!」
セシリア
『もうぜんぶ知ってる』
セシリア
『それがもう』
イーデン
「……は」
セシリア
『あなたを苦しめるものになってしまっていることも』
イーデン
「違う……」
イーデン
「違う」
セシリア
『あなたにとって、どれほど大事なものなのかを知っています』
イーデン
「大切なんだ」
イーデン
「だから」
セシリア
『忘れたくないものだと知っています』
セシリア
『でも』
イーデン
「手放せない」
セシリア
『あなたは』
セシリア
『そのせいで絶望に囚われている』
イーデン
「お前を」
セシリア
『私はあなたを助けたい』
イーデン
「愛せない、ほどに」
イーデン
「だから」
イーデン
「だから…………」
セシリア
『だから』
イーデン
「忘れたく」
イーデン
「ない……」
セシリア
『だから、忘れさせましょう』
セシリア
『あなたを苦しめる、すべてのものから解放しましょう』
イーデン
「…………」
セシリア
『そうすることで、はじめて私は救われることができる』
セシリア
『そうすることで、はじめてあなたは救われることができる』
イーデン
「……できない」
イーデン
後退る。
イーデン
目の前の女を恐れるように。
イーデン
否。
イーデン
恐れている。
イーデン
背中の側には黒結晶が。
セシリア
より深く、あなたに突き刺さる。
イーデン
それでも、尚。
イーデン
あなたの方がおそろしい。
イーデン
結晶が背を抉り、血を滴らせ、はらはらと落ちる。
『マリア』
零れ落ちていく。
イーデン
落ち行く破片のさまが。
『マリア』
零れ落ちていく。
イーデン
いつか見たものと重なることにさえ。
イーデン
今は、もう。
セシリア
目の前には。一人の女がいるだけ。
イーデン
「…………」
セシリア
あなたの絶望を、すべて塗りつぶそうとして。
セシリア
抉られた希望が、のたうっている。
イーデン
自分の心には、未だ希望が。
イーデン
残ったそれが、内側から臓腑を喰い荒らし、脳を侵す。
セシリア
あなたがそれを抱いているのなら、
セシリア
私はまだ救われるかもしれない。
セシリア
だから、どうかその希望を手放さないで。
セシリア
絶望を振り捨てて、前へ進んで。
イーデン
長く、長く。
イーデン
胸に馴染んできたはずの絶望が、
イーデン
ひび割れるような心地があった。
イーデン
この世界に希望はない。
イーデン
――それを自分は、誰よりも知っているはずなのに。
[ イーデン ] 絶望 : 0 → -1
[ セラ ] HP : 21 → 20
[ スティブナイト ] HP : 20 → 1
GM
*R1 PK割り込み2
スティブナイト
*イーデンの『絶望』を猟奇で抉る。
セシリア

*ほかの女の気配を感じたので横槍を入れていきます
セシリア
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
セシリア
2d6+4=>7 判定(+愛) (2D6+4>=7) > 7[1,6]+4 > 11 > 成功
セシリア
1d6 横槍効果量 (1D6) > 5
セシリア
*ヤリイカエリートを使用
[ セシリア ] ヤリイカエリート : 1 → 0
スティブナイト
*ティーセット、子山羊皮の手袋を使用。
スティブナイト
2d6+5+2+2-8=>7 判定(+猟奇) (2D6+5+2+2-8>=7) > 3[1,2]+5+2+2-8 > 4 > 失敗
スティブナイト
*アリスのエプロンを使用。
[ スティブナイト ] アリスのエプロン : 1 → 0
[ セシリア ] HP : 26 → 25
[ イーデン ] 絶望 : -1 → -2
[ イーデン ] 前科 : 0 → 5
GM
*イーデンは〈絶望〉。
GM
*〈絶望侵蝕〉もつきます。
GM
*配下のHPが18点減少しました。
GM
*〈絶望〉状態のPCが発生したので、クエスト5が開示されます。
◆クエストNo.5 蜘蛛の糸

概要  :自分を犠牲にして隙を作り、この森からまだ絶望していない仲間を逃がす。
目標値 :9
消滅条件:成功で消滅。
成功  :裁判中、自分の手番の補助動作より前のタイミングで使用できる。
自身のHPを1D6点減少させ、また、1Rの間自身は技能を使用できなくなる。
その後、同じ陣営のPCを1人選び、裁判から離脱させることができる。
失敗  :特になし。
放置  :当然、こんな行いはしない方がいい。あなた自身にも大きな隙ができるし、絶望した仲間を救うことはほぼ不可能になる。また、味方の協力なくして裁判に臨めば、あなたやあなたがたに待ち受けているのは死か、それよりも悲惨な末路だろう。まだ理性が残っているのなら、わかるはずだ。
特記事項:このクエストのファンブル値は4になる。
このクエストを組み合わせて「同じ陣営のPCの疵を抉る」判定を行う場合、その判定には抉られる対象となったPCも横槍を入れられる。
セシリア
何度かのノイズを伴いながら、あなたの中の声はどうしようもなく消えていく。
イーデン
「――ぁ」
イーデン
「あ、ぁ」
セシリア
森の中には黒い結晶が満ち、あなたの体を傷つけている。
イーデン
「……ア」
イーデン
「……リ、ア」
イーデン
「…………」
セシリア
だがその絶望は、もうあなたには馴染まない。
セシリア
けれど、また、苦しみも消えはしない。
イーデン
零れ落ちていくものがある。
イーデン
塗り替えられたものがある。
セシリア
遠く、どこかで何かが爆発するような音がした。
セシリア
「ああ、ほら、イーデン」
イーデン
忘れたくない。
イーデン
忘れられない。
セシリア
「大丈夫、私たちはスティブナイトに勝つことができますよ」
イーデン
そう思っていたはずのものが。
イーデン
女の声に上書きされていく。
イーデン
愛した女が。
セシリア
「公爵家の方々も、そのために力を尽くしてくださっている」
イーデン
愛せなかった女の手で。
セシリア
絶望の森が焼かれていく。
イーデン
……愛せなかった。
イーデン
愛せるはずがなかった。
イーデン
理解していた。
イーデン
この女は。
セシリア
森の中に兎たちが落ちて、その役目を果たす。
イーデン
想いを遂げれば最後、もう生きていかれないと。
イーデン
その事実を、当然とうに理解していた。
セシリア
その心の疵は、満たされればきっと見るも無残に弱くなり、
イーデン
恋に狂う女。
セシリア
堕落の国で生きていくことなど叶わないだろう。
イーデン
酩酊の中に生きる女。
イーデン
自分が愛を返せば最後、
イーデン
その夢は醒めて現実に戻るばかり。
セシリア
この堕落の国に、夢から覚めたささやかな幸福など、
イーデン
焦がれることで生きている。
セシリア
存在するわけがないのだから。
イーデン
満たされることでは生きられない。
セシリア
そして、それがこの果て。
イーデン
だから、
イーデン
だから、自分がこの女を愛すことはなかった。
セシリア
恋に焦がれ、恋に酔い、愛に身を捧ぐ女は。
イーデン
『   』への
セシリア
心の疵の求めるままに、
イーデン
『   』への想いもまた、それを後押ししていた。
イーデン
でも。
セシリア
あなたを壊してでも、その恋を果たそうとする。
イーデン
それが、今は、抜け落ちて。
イーデン
耳に囁き続けていたはずの声が。
イーデン
重なっていたはずの、女たちの違う声が、
セシリア
「イーデン」
イーデン
今は。
セシリア
「さあ、一緒に戦いましょう」
セシリア
「この世界を」
セシリア
「共に救って」
イーデン
「…………」
イーデン
男は膝をついている。
イーデン
あなたの声に応えられない。
セシリア
黒結晶があなたを蝕んでいく。
イーデン
動けない。
セシリア
あなたを救いたいと、
セシリア
この世界を救いたいと、
セシリア
あなたを愛し、あなたに愛してほしいという、
セシリア
女の言葉とは裏腹に、
セシリア
なにもなくなって、女が満ちるはずの場所に、
セシリア
代わりのものが注ぎこまれていく。
イーデン
絶望。
セシリア
あなたはこの女の言葉に応えられない。
セシリア
罪悪感と自責と愛と、
セシリア
すべてが塗りつぶされた後、
セシリア
それを上書いた女の姿までもが曖昧になり、
セシリア
空虚の中に絶望が満ちる。
イーデン
愛せなかった女を。
イーデン
愛せない理由の、ひとつを失って。
セシリア
それでも愛せる理由が、生まれることはない。
セシリア
「イーデン?」
セシリア
名前を呼ぶ。
イーデン
――生まれてもよいと、
イーデン
そう思えたはずの間隙を、侵される。
セシリア
「イーデン」
イーデン
そこにはただひとつ。
イーデン
全てを奪われた絶望と空虚が残る。
セシリア
「イーデン、ねえ、立って」
セシリア
女が優しく手を差し伸べる。
セシリア
あなたを塗りつぶして、共に来てくれることを疑っていない。
イーデン
伸べられた手を、
イーデン
斬り払った。
セシリア
「──!」
セシリア
切り裂かれ、赤く開いた血の中にも、すでに黒結晶が混じりいる。
セシリア
息を呑んで、あなたを見つめる。
イーデン
ゆっくりと、膝を上げる。
セシリア
「……イーデン?」
イーデン
震える手で、女へと得物を構え。
セシリア
過去を奪い、絶望を奪い、尊厳を踏みにじる女の。
セシリア
一体何が信じられるものか。
セシリア
「イーデン、どうして……」
イーデン
「……できる、ものか」
イーデン
「救えるものか!」
セシリア
女は首を傾げる。
イーデン
「この世界に希望はない」
セシリア
絶望は塗りつぶしたはずなのに。
イーデン
「何度お前に言い聞かしたことか!」
セシリア
あなたを苦しめるものは、私がすべて振り払ってみせるのに。
イーデン
叫ぶたび、引き攣れる。
イーデン
心に残った希望が。
イーデン
目の前の女の姿にねじ切れて、
イーデン
けれど、失われぬままに残っている。
イーデン
だからひどく痛む。
イーデン
だからどうしようもなく苦しい。
イーデン
信じたかった。
イーデン
愛したかった。
イーデン
その温もりが好ましかった。
イーデン
無償に等しい献身を、慈悲を、
イーデン
救いようない自分の有り様を、
イーデン
全て受け入れて愛す女の、
イーデン
それがどれほど愛おしかったことか!
セシリア
どこまでも。どこまでも、愛していた。
イーデン
返したかった。愛情を。
セシリア
けれど、糸は切れてしまった。
イーデン
許したかった。その恋慕を。
セシリア
女の糸はまだ、もしかしたら結び直せるかもしれない。
セシリア
でも、あなたの糸は。
イーデン
ひとつ、心に生まれた空虚が。
セシリア
あなたを愛する女が、その手で、あなたを救おうと、
セシリア
滅茶苦茶にしてしまった。
イーデン
あなたを愛すことを許しかけたのに。
イーデン
でも駄目なのだ。
イーデン
空虚は空虚のままそこに残る。
イーデン
大切だったもの。救いたかったもの。救えなかったもの。注いだ慈悲。伸ばした手。すり抜けた。失った。
イーデン
それでも心にだけは残して。
イーデン
何もかも漏らさぬように。
イーデン
宝物のように抱いてきたそれを、
イーデン
目の前の女が踏み躙った。
イーデン
耳にささやく女の声は、
イーデン
今はその証左として響く。
セシリア
「私は、あなたを救ってみせる」
セシリア
「あなたのためなら、何人でも殺せる」
セシリア
「なのにどうして?」
イーデン
「……は」
イーデン
「はは、は」
イーデン
「なら」
イーデン
「セラのことも、殺せるか?」
イーデン
「あの天使をも」
イーデン
「裏切ってみせることが、セシリア」
イーデン
「お前にはできると?」
セシリア
「……イーデン?」
セシリア
怪訝な声。
イーデン
「なあ」
イーデン
「どうなんだ、セシリア」
イーデン
「答えてみせろよ」
イーデン
「俺を」
イーデン
「俺の在り方を喰い荒らして、踏み躙って」
イーデン
「愛する女さえ奪い去った」
イーデン
「それができたお前だろう?」
セシリア
「セラは、まだ私たちには必要でしょう?」
セシリア
「どうして、そんなことを言うんですか」
イーデン
「…………」
イーデン
「いいさ」
イーデン
「もとより」
イーデン
「もう、お前に期待するのはやめた」
イーデン
「お前を試す必要はもうない」
イーデン
「お前が俺の狼藉に耐える必要もない」
セシリア
「……」
イーデン
「俺の暴虐を、俺の罪過を、俺の独断を」
イーデン
「俺の振るう何もかもを」
イーデン
「お前が受け入れなければならない由縁は、消え失せた」
イーデン
「……セシリア」
イーデン
「お前は、もう」
イーデン
「お前だけは、もう」
セシリア
どうして?
イーデン
「――俺の益に、なりはしない」
セシリア
どうして、そんなことを言うの?
セシリア
私は、あなたのために、
セシリア
あなたを救うために、
セシリア
そのために、ここまで、
セシリア
不思議そうな視線が、あなたを見つめる。
セシリア
「イーデン、あなたは」
セシリア
「少し……そう、また、いつもの」
セシリア
言葉を紡ごうとするが、それがおかしいことは分かっていた。
セシリア
あなたが自分を責めさいなむ絶望は、あなたが自分を貶める絶望は、
セシリア
すべて塗りつぶしたはずだったのに。
セシリア
なぜかそれがまだそこにある。
セシリア
「……ああ」
セシリア
「そうか、スティブナイトですね!」
セシリア
「大丈夫」
セシリア
「すぐに、元に戻ります」
セシリア
「そうしたら、あなたも分かってくれるはず」
イーデン
ああ、そうだ。
イーデン
スティブナイト。
イーデン
あの救世主。
イーデン
この期に及んで自分は理解している。
イーデン
この異常。目の前の女の凶行。
イーデン
自分を塗りつぶしたもの。自分の全てを奪ったもの。
イーデン
このどうしようもない絶望と憤怒の源流は、あの救世主の力にある。
イーデン
心の疵の力に侵されて、操られて、当初の目的も忘れ、
イーデン
馬鹿げた同士討ちに興じようとしている、哀れで愚かな救世主。
イーデン
その有り様を誰よりも理解している。
イーデン
理解したうえで、
イーデン
ひび割れた絶望は、戻らない。
イーデン
絶望を塗り潰した絶望が、愛したかったはずの女を憎む。
セシリア
あなたのすべてを奪った女。
イーデン
あなたの愛を受け入れなかった男。
セシリア
「少し待っていて」
セシリア
「そうしたら、あなたは」
イーデン
その言葉にももういらえはない。
セシリア
「私を信じられるようになるはず」
セシリア
好き勝手な言葉を吐いて、女は歩み去っていく。
イーデン
信じたかったはずの女。
イーデン
信じていたはずの女。
イーデン
守りたかったはずの仲間を、
イーデン
単身死地に向かう女を、
イーデン
今はただ、微笑みの中に見守っていた。
GM
R1 セシリア シーン裏
スティブナイト
黒結晶越しに男と女。
スティブナイト
今二人に起こっていること。
セラ
「セシリア……! イーデン……!」
セラ
画面を見て、息を呑み。
セラ
「…………」
セラ
「女性が上だな……」
スティブナイト
「……………………」
スティブナイト
「……いや」
スティブナイト
「正直こうなることはそんなに予想してなかったっていうか」
スティブナイト
「こいつらどういう関係なの?」
セラ
「えーと」
セラ
「セシリア……彼女はイーデンに片思いをしています」
スティブナイト
「あ、そう……」
セラ
「イーデンは、最近は丸くなったんですが、以前は結構ヤンチャで……」
スティブナイト
「てっきり仲良しこよしのカップルと子供を授ける天使だと思ってたけど」
セラ
「まぁ、それも間違いではないんですが……」
セラ
「イーデンはセシリアに、処女だとめんどくさいからとそのへんの末裔に膜を破らせたりしていて……」
スティブナイト
「……………………」
セラ
「セシリアは、大人しくそれに従ったりしていて」
セラ
「なんか、こうなるのもちょっと仕方ないかなっていうか」
スティブナイト
「殺したほうがいい……」
セラ
「う~ん、殺されるのは困ります……」
スティブナイト
「自分と似たような面した男だなって思ったんだけど」
スティブナイト
「そういう感じか……」
セラ
「あまり詳しくは知らないんですが、昔色々裏切られまくって絶望したみたいですね」
スティブナイト
ふーん……みたいな生返事。
セラ
「正直心配すべき場面だと思うんですが、ちょっと日頃の行いがあれなので……なんか冷静になってしまいました」
スティブナイト
「俺」
スティブナイト
「あの女にこんなことになるようなことした覚えないんだけど」
スティブナイト
「いや確かにちょっと細工はした」
スティブナイト
「でも……こうなる?」
セラ
「まぁ……日頃の色々があれば……」
セラ
「セシリアは、結構恋心で細かいことをねじふせるところがありましたしね……」
スティブナイト
「そう……」
スティブナイト
全然理解できないといった顔。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「女が上だとダメなの?」
セラ
「ダメですよ! え!? そういうの分かるところ出身じゃないんですか!?」
スティブナイト
「いや、わかるけど」
スティブナイト
「だから俺はこうなってるわけだし」
セラ
「よかった」
セラ
「そうなってるのは困りましたね」
スティブナイト
「正直天使視点だと繁殖できればなんでもいいのかなって思ってた」
セラ
「堕落の国にいる以上片目くらいは瞑りますけど、気にはなります」
スティブナイト
「大変だな~」
セラ
「避妊は絶対に許しません」
スティブナイト
「……そう……」
スティブナイト
「快楽があるのはどうなんだっけ?」
セラ
「快楽があるのもダメです!」
セラ
「ダメですが……まぁ片目くらいは瞑ります」
スティブナイト
「結構許容してる」
セラ
「許容したくないですが、現実と折り合いを付ける必要はありますからね」
スティブナイト
「そうだな」
スティブナイト
「こいつらどうなると思う?」
セラ
「う~ん……」
セラ
「セシリアのやろうとしていることは、いいことなのか、悪いことなのか、判断が難しい」
セラ
「いえ、ひとまず跨るのはやめてほしいですが」
スティブナイト
「俺も場所を選べって個人的な気持ちはあるよ」
セラ
「それはそうですね」
スティブナイト
「帰ってくれないかな……」
セラ
「きっかけがあったとはいえ、宿屋かどこかのほうがいい……」
スティブナイト
「熱いしうるさいし擦れるから嫌……」
セラ
「熱いし……擦れる?」
セラ
「結晶と感覚を共有しているんですか?」
スティブナイト
「うん」
セラ
「それは……大変ですね」
スティブナイト
「森に入ってこられると痛いし」
スティブナイト
「うるさいし」
セラ
「すみません、いくつも踏みつけてしまった」
スティブナイト
「まぁ」
スティブナイト
「ここまで来るのに踏まないことないからね」
セラ
「できるだけ、子供の姿でいましょうか。 そうすれば、宙に浮いていられる」
スティブナイト
「……いや……」
スティブナイト
「……………………」
スティブナイト
「……そのままでいい」
セラ
「どうして?」
スティブナイト
「……変えさせたら」
スティブナイト
「それはそれで、なんか」
スティブナイト
「負けた気がするし……」
セラ
「別に負けてませんよ?」
スティブナイト
「お前にとってはそうかもしれないけど」
セラ
「あなたは何と戦ってるんですか……?」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「自分の過去とか」
スティブナイト
「トラウマとか」
セラ
「なるほど」
スティブナイト
「もうちょっと具体的に言うなら、自分の身体」
セラ
「身体……、幻は見せられるけど、本体を変えることはできないとか?」
スティブナイト
「うん」
スティブナイト
「この国に来て」
スティブナイト
「コインを集めたら、自分より力が強い奴らも倒せるって知って」
スティブナイト
「そうしたら、何か、変わるかもと思ってた」
セラ
「心の疵が変わらない限りは、どうしようもないでしょうね」
セラ
「例えば、あなたがコインの全てを失って僕の前に現れたとしたなら、望む姿に変えられたかもしれませんが」
セラ
「そうではないし、今からコインを捨ててくれる気はないでしょう?」
スティブナイト
「そうだな」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「自分より大きい奴」
スティブナイト
「権力のある奴」
スティブナイト
「……女体を好きにできる奴」
スティブナイト
「そういう奴らを殺せる力は、悪くはない」
スティブナイト
「手放せないと思う」
スティブナイト
「それで心の疵に縛られることになっても」
セラ
「結晶たち全ての感覚が流れ込んで来たとしても?」
スティブナイト
「……だからここにいるんだろ」
スティブナイト
「怯えて手放すには」
スティブナイト
「遅すぎたし、慣れすぎた」
セラ
「困りましたね」
セラ
「僕はあなたより大きいし、男性の形を取っている。 姿を変えるのも嫌という」
スティブナイト
「殺すしかないって」
スティブナイト
「そう言ってる」
セラ
「殺されたくはないし、あなたを助けたいと思っていますよ」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
「お前」
スティブナイト
「身を隠せるとこに逃げたら」
セラ
「え?」
スティブナイト
「ワインの香りがする」
セラ
「……!」
スティブナイト
「公爵家のとても人道的な爆弾だろう」
セラ
そう言われて、即座に逃げなければならないのだが。
セラ
天使は、じっとあなたを見つめている。
セラ
迷いが見て取れる。
スティブナイト
「お前たちはかわせるかもしれないけど」
スティブナイト
「森の広範囲を荒らされたら」
スティブナイト
「俺は身動きが取れなくなるだろう」
スティブナイト
「効率的な兵器だ」
スティブナイト
「おまけに三月兎だし」
セラ
討伐依頼を受けた邪悪なる救世主は倒さなければならない。
セラ
しかし、もう、話してしまった。 知ってしまった。
セラ
森の全てを三月兎から守ることはできない。
セラ
三月兎をこの爆発から守ることはできない。
セラ
ただ、そこに佇み、黒い救世主をじっと見ている。
セラ
爆発音と衝撃が近付いてくる。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
ふら、と身体が揺れた。
スティブナイト
座り込み、肩で息をして。
セラ
膝をついて。
スティブナイト
その姿はあまりにも小さい。
セラ
おんなの体を翼で庇う。
セラ
それがどれくらいの意味があるのかは分からない。
セラ
それでも、そうせずにはいられなかった。
スティブナイト
「…………っ、」
スティブナイト
「見、るな」
スティブナイト
「…………」
セラ
「見ていません」
スティブナイト
あらく呼吸をする。
スティブナイト
「…………、来るな、」
スティブナイト
「触るな、」
スティブナイト
「…………っ、」
スティブナイト
耳をふさぐ。
セラ
それ以上近付くことはせず、触れることはせず、しかし、立ち去ることもできず。
セラ
もはや空を飛ぶ機能を失った、大きいだけの翼を広げ続ける。
スティブナイト
……いや、いっそめちゃくちゃにしてくれたって別にいい。
スティブナイト
離れるか、犯すか。そのどちらか。
スティブナイト
どちらもしないこの眼前の「男」が。
スティブナイト
怖い。
セラ
瞳を閉じ、翼を広げ、地を震わす衝撃に耐えている。
スティブナイト
ふらり、立ち上がって。
スティブナイト
お前に手を伸ばした。
スティブナイト
その手に黒結晶を纏って。
セラ
「……!」
スティブナイト
「俺は」
スティブナイト
「お前の味方にはならない」
スティブナイト
ノイズが走る。
セラ
「スティブナイト……」
セラ
「僕は、あなたの味方になりたいと──」
スティブナイト
それを、言い終わる前に。
スティブナイト
お前の身体が転移する。
GM
*R1 イーデン
GM
*イーデンは状態〈絶望〉〈絶望侵蝕〉中。
イーデン
2d6 (2D6) > 9[4,5] > 9
GM
4.薮。木々は黒く枯れ、かつて葉があったところには代わりに鉱石が生えている。
GM
5.道に迷う。木々の向こうに人影が見える。あなたを見ているそれは幻? 本物? 一体誰?
GM
幻なんてものはもうお前には見えない。
イーデン
その全てを奪われたから。
GM
幻想も、過去も、ここにはありはしない。
GM
お前には。
イーデン
胸を埋め尽くすものは絶望だけ。
イーデン
自分はきっと、あの女を、あの天使を、あの救世主を殺すことだってどうでもいい。
イーデン
今すぐ首を掻き切って死ぬべきだ。
イーデン
それがもっともよい道だと。
イーデン
そう理解しているはずなのに、
イーデン
心に残った希望が、どうしようもなく疼いていた。
イーデン
取り戻せるかもしれない。
イーデン
愛した女を、また想えるかもしれない。
イーデン
この世界に希望はない。
イーデン
それを知っているのに。
イーデン
馬鹿げた夢想に振り回されることを、
イーデン
いまだ、やめられずにいる。
セラ
スティブナイトに向けて差し出した手は、ノイズに阻まれ、ただ虚空を撫でる。
セラ
「…………」
セラ
爆撃の音は遠い。 このあたりは比較的安全な場所だと判断する。
セラ
それを、セラは「助けられた」と思った。
セラ
小さく息を吐き、結晶を少しでも踏まないように歩き始める。
イーデン
絶望に蔓延る黒結晶のはざまに。
イーデン
蹲る男の姿を見る。
セラ
「イーデン……!」
セラ
駆け寄るが、触れられない。
イーデン
全身が黒結晶に蝕まれている。
セラ
「イーデン……、しっかりしてください。イーデン……」
イーデン
そのさまは、発見された時の美希よりも酷い。
イーデン
けれどまだ息はある。
イーデン
あなたの呼びかけに、
イーデン
ゆっくりと顔を上げて、あなたを見た。
セラ
「イーデン……」
セラ
結晶が。
イーデン
「……セラか」
イーデン
「…………」
イーデン
「スティブナイトには遭遇したか?」
セラ
「ええ……」
セラ
「……三月兎を使ったのですね」
セラ
「目に見えて効果はありました」
イーデン
「……ああ」
イーデン
「あれは」
イーデン
「そういうことだったか……」
イーデン
茫洋と呟きを漏らす。
イーデン
「…………」
セラ
ただ状況を伝える。 慰めや励ましに意味がないことを知っている。
イーデン
俯く。髪を掻く。
イーデン
黒結晶の破片のぶつかり合う、耳障りな音がする。
イーデン
「……なあ」
イーデン
「セラ」
イーデン
「三月兎」
イーデン
「三月兎の村」
イーデン
「覚えているだろう」
イーデン
「あの」
イーデン
「セシリアの、支配していた」
イーデン
「………………」
セラ
「え?」
セラ
「今、何と言いました?」
イーデン
「……違う」
イーデン
「そこじゃ、なくて」
イーデン
「あいつは」
イーデン
「いいんだ。別に」
イーデン
「セシリアには、気に障ったんだろうが」
イーデン
「…………」
イーデン
「……シャマシュ」
イーデン
「シャマシュは、シャマシュだったよな」
セラ
意図がわからずに、答えられない。
イーデン
「いや」
イーデン
「セシリアじゃないんだから、合ってるか」
イーデン
「そりゃあそうだ」
イーデン
「あいつの嫁だよ」
イーデン
「……なんて名前だった」
セラ
「……シャマシュの?」
イーデン
頷く。
セラ
「カノン……」
イーデン
「か」
イーデン
「のん」
イーデン
反芻するように、その名をなぞった。
イーデン
「…………」
イーデン
「どういう女だった?」
セラ
「……賢く、夫を愛する、献身的な黒髪の女性でした」
イーデン
「…………」
イーデン
「それ以外は?」
セラ
「それ以外、とは、何を知りたいんですか?」
イーデン
「………………」
イーデン
「今」
イーデン
「あの女のことを、思い出そうとすると」
イーデン
「セシリアになる」
セラ
「…………」
セラ
「では、そのセシリアは死んでいる?」
イーデン
「俺の記憶では、そうなっている」
イーデン
「四肢を断たれ、三月兎とセシリアの狂乱のもと」
イーデン
「セシリアの指示に従って、飾り立てられたそのセシリアを抱いた」
セラ
「…………」
イーデン
「そういう記憶になっている」
イーデン
「……いや」
イーデン
「流石に俺も、これを正しい記憶と受け止めているわけではないんだが」
イーデン
「そうとしか蘇らん」
セラ
「そう歪められてしまった、ということですか」
イーデン
「ああ」
イーデン
「誰にだと思う」
セラ
「…………」
セラ
「セシリア、に……」
イーデン
「……まあ」
イーデン
「俺もな」
イーデン
「スティブナイトの力が元凶ってのは」
イーデン
「分かっちゃいるんだがな」
イーデン
「…………」
イーデン
「こんな状況でなんだが」
イーデン
「少し、長話がしたい」
イーデン
「付き合ってくれるか? セラ」
イーデン
男はあなたに命ずるのではなく、希う。
セラ
イーデンの体は深く結晶に侵食されているように見える。 長話をする猶予はあるのだろうか。
セラ
そうは思うが。
セラ
「……もちろんですよ」
セラ
微笑んで、隣に腰を下ろした。
セラ
「あなたが僕にそうして欲しいと思うのなら」
セラ
「喜んで」
イーデン
「はは」
イーデン
「あいも変わらず、慈悲深い」
イーデン
声だけでなく、口元でも笑う。
イーデン
この男がそんな風にあなたに笑ってみせることが今まであったろうか。
セラ
長話などせずに、一度引き換えしたほうがいいのかもしれない。 あるいは、今すぐにスティブナイトを打ち倒すべきかもしれない。
セラ
このようなイーデンを見るは初めてだ。 よほど心の疵の具合が悪いのだろう。 合理的に判断すべきだ。
セラ
そう思いながら、ただ微笑みをたたえて、話を待つ。
イーデン
前置いた通り、男の話は長かった。
イーデン
かつての仲間の話をする。
セラ
セシリアの話だった。
イーデン
「……あの頃は」
イーデン
「あの頃のセシリアは」
イーデン
「今よりも」
イーデン
「……大分、愚図で」
イーデン
吐き出すように語る声は、
イーデン
けれど、本人もその内容には納得していないように。
イーデン
苛立ったように髪を掻く。
イーデン
「…………」
セラ
「セシリアに思える、別の女性がいたんですね」
イーデン
「………………」
イーデン
「……違う」
イーデン
「のだと」
イーデン
「理解は、している」
イーデン
「しているんだ」
セラ
「ええ」
セラ
「……続けて」
イーデン
「……セシリアじゃないんだ」
イーデン
「セシリアじゃあ」
イーデン
「ない」
イーデン
続ける。否定を。
セラ
「セシリアではない、誰か」
セラ
「でも、セシリアだと」
イーデン
「…………」
イーデン
「俺は」
イーデン
「セシリアに」
イーデン
「……違う」
イーデン
「あいつ、に」
イーデン
「恐らく」
イーデン
「お前が知る、俺へのセシリアへの態度と比べても」
イーデン
「あの頃は、相当に、酷くしていた」
セラ
「…………」
イーデン
「あの頃のセシリアには、」
イーデン
「…………」
イーデン
「違う……」
イーデン
「……身体を」
イーデン
「売らせることも、あったし」
イーデン
「あったのに」
イーデン
「なんで、お前に」
イーデン
「あんな風に言われたんだ?」
セラ
「落ち着いて」
セラ
「昔のセシリアと、今のセシリアを切り分けて考えなければ」
イーデン
「セシリアじゃ」
イーデン
「ない…………」
セラ
「ええ、セシリアではなかったのでしょう」
イーデン
「………………」
イーデン
「……あいつは」
イーデン
「最初から、堕落の国には」
イーデン
「向いてなくて」
イーデン
「だから、益になるから」
イーデン
「そう出来る間は、共にいると」
イーデン
「旅をすると」
イーデン
「……三人」
イーデン
「三人だったのは、同じで」
イーデン
「あと一人は、ああ」
イーデン
「あいつは、セシリアじゃない」
イーデン
「セシリアじゃない……」
セラ
「男性ですか?」
イーデン
頷く。
イーデン
「トメク」
イーデン
「トメク・ブラフトヴァー」
イーデン
「……ああ」
イーデン
「思い出せるな……」
イーデン
「あいつは、セシリアじゃ、ない」
イーデン
「お前と同じ」
イーデン
「才覚型の救世主で」
イーデン
「……商家の、三男坊だったか」
イーデン
「上の兄二人よりも、自分の方が出来が、よかったと」
イーデン
「でも、序列を覆せるほどではなかったと……」
イーデン
「それが、心の疵で」
イーデン
「俺のやり方には、よく共鳴していて」
イーデン
セシリアではない。
イーデン
セシリアではない人物のことは、明確に思い出せる。
イーデン
その事実に、必要以上に舌が回る。
セラ
想像してみる。 才覚型の救世主と、イーデンと、堕落の国に向いていない、体を売るよう命じられていた女。
セラ
似たような関係はどこにでもいる。 どのような付き合いだったかは想像に難くない。
イーデン
「……六ペンスが、40」
イーデン
「40までは、共にいた」
イーデン
「公爵家との縁ができたのはその頃だ」
イーデン
「あの頃は、セシリアが」
イーデン
「…………」
イーデン
「違う…………」
セラ
「彼女が?」
イーデン
「あの」
イーデン
「公爵家の、男と」
セラ
「なるほど」
イーデン
「…………」
セラ
「公爵家の彼と、僕の知るセシリアは、そのようなことをしていませんね」
イーデン
「……ああ」
イーデン
「セシリアには、向いていない役目だ」
イーデン
「あの頃は」
イーデン
「……あいつ、にも」
イーデン
「向いては、いなかったが」
イーデン
「……他に」
イーデン
「役立てる手段が、なかった」
セラ
そのような女は、世界のどこにでもいる。
セラ
事実が異なっていたとしても、少なくとも、そのように扱われる女はいるのだ。
イーデン
そのように扱われる女を、そのように扱うことで役立てて、共にいた。
イーデン
この堕落の国で、二年の時を過ごした。
イーデン
「……トメクが」
イーデン
「俺に見切りをつけて、裏切ったのは」
イーデン
「俺が、セシリアを」
イーデン
「…………」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「セシリア……?」
セラ
「そのときの彼女を」
イーデン
「………………」
イーデン
「……どうして」
イーデン
「トメクは……?」
セラ
「どうにかして、何かがあったんですね」
イーデン
おかしい。
イーデン
辻褄が合わない。
セラ
「しかし、それがおかしくなっている」
イーデン
わからない。トメクが裏切った理由が。
イーデン
自分はそれに納得していたはずだ。
セラ
「セシリアは、体を売っていない」
イーデン
セシリアにそれを説かれたはずだ。
イーデン
説かれていない。
イーデン
セシリアではない。
イーデン
セシリアではない!
セラ
「セシリアは、堕落の国に向いていないなんて言えない」
イーデン
「向いてない」
イーデン
「向いてないんだよ」
イーデン
「あいつは」
セラ
「そのあいつは、どのセシリアですか?」
イーデン
「………………」
イーデン
「……今」
イーデン
「俺たちと、いる」
イーデン
「セシリアも」
イーデン
「その……」
イーデン
「俺が、使い潰した、セシリア」
イーデン
「……も」
イーデン
「………………」
セラ
「どちらも、向いていない?」
イーデン
頷く。
イーデン
「……あいつ、に」
イーデン
「あいつに、娼婦の真似事をさせた」
イーデン
「コインが、全部、奪われたから」
イーデン
「末裔のふりをして、救世主の寝首を掻くのが良いと……」
イーデン
「……セシリアには」
イーデン
「向いていない役目だろう?」
イーデン
「俺もそう思った」
セラ
「そう……ですね」
イーデン
「だから、俺がした方がマシだと思ったんだが」
イーデン
「だが、あいつは」
イーデン
「俺に」
イーデン
「……俺、に」
イーデン
『――生きていて、ほしいから』
イーデン
その。
セラ
「…………」
イーデン
声は。
イーデン
誰の?
セシリア
『生きていてほしい』
セシリア
耳元で声が聞こえる。
イーデン
重なる声が、それを塗り潰す。
イーデン
「…………………」
セシリア
『私があなたを助けます』
イーデン
違う。
イーデン
違う。
イーデン
お前じゃない。
イーデン
お前じゃないはずなんだ。
イーデン
「…………その」
イーデン
「目論見は」
イーデン
「うまく、行って」
イーデン
「俺は、あいつが誑し込んだ男を殺して」
イーデン
「コインを、10枚」
イーデン
「それで」
イーデン
「…………それ、で」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「……セシリ、ア?」
セラ
「……セシリアではない」
セシリア
いいや。
イーデン
「…………」
セシリア
そこにいるのはセシリアという女だ。
イーデン
セシリアではない。
イーデン
そう知っているのに。
イーデン
セシリアではなかったはずの女が。
イーデン
そこで、何が、どうして。
イーデン
「…………」
イーデン
でも、
イーデン
これだけは確信できる。
イーデン
「……あ」
イーデン
「…………」
イーデン
俯く。
セラ
「イーデン?」
イーデン
「あ、……っ」
イーデン
「あい」
イーデン
「し、て」
イーデン
「た」
イーデン
だから。
イーデン
セシリアでは、ないのだ。
セラ
「…………」
イーデン
自分が誰よりも酷く当たっていたはずの女を。
イーデン
誰よりも追い込み、責め苛んだはずの女を。
イーデン
自分は
イーデン
いったい、どのように?
イーデン
セシリアではない。
イーデン
セシリアであるはずがない。
イーデン
でも、あれが
イーデン
あの女がセシリアじゃないなら
イーデン
じゃあ、あの女は、誰だ。
イーデン
どこに行った。
セラ
『今好きな人はいる?』
セラ
ミキの質問に対する、イーデンの答え。
セラ
それを聞いていた。
イーデン
あの暗く狭い、湿った部屋で、
イーデン
確かに自分が、愛したはずの女は?
イーデン
その後。
イーデン
その後、どうして、荒野に出た?
イーデン
セシリアだけが無事で、自分を介抱した?
イーデン
どうして
イーデン
あの時
イーデン
自分は
イーデン
セシリアを、殺そうとした?
イーデン
俺の益になれ、などと。
イーデン
今更の契約を
イーデン
どうして、あんな場所で?
セラ
絶望の森は静かだ。
セラ
ここはひどく静かで、不自然で、不気味だ。
イーデン
その只中に、男が極めて不自然な言動を繰り返す。
イーデン
痛みを抑えるように頭を抱えている。
イーデン
「……どこからだ」
イーデン
「どこから、おかしい」
イーデン
「何が」
イーデン
「セシリア……?」
セラ
「……セシリアとの、最初の記憶は?」
イーデン
「…………」
イーデン
思考の間は長かった。
イーデン
「セシリアは……」
イーデン
「……娼婦との間に」
イーデン
「できた、子供だと」
イーデン
「父親が」
イーデン
「………………」
セラ
「父親が……?」
イーデン
「あのクソ親父にしては」
イーデン
「殊勝なことが、あるもんだと……」
イーデン
「責任を、取るような、男じゃあ」
イーデン
「なかった、から」
イーデン
「…………」
セラ
「…………」
イーデン
「……セシリア」
イーデン
「セシリアの話を」
イーデン
「俺、は」
イーデン
「俺……?」
セラ
「妹がいたんですね」
イーデン
頷く。
イーデン
「連れ帰ってきておいて」
イーデン
「あいつが」
イーデン
「ろくな面倒も見るわけがねえ」
イーデン
「だから」
イーデン
「ほとんど、俺がセシリアを」
イーデン
「育てたようなもの」
イーデン
「……で」
イーデン
「………………?」
セラ
「……では、妹であり、娘のような存在でもあったわけだ」
イーデン
「…………」
イーデン
違う、と思う。
イーデン
そうだ、と思う。
イーデン
女を、
イーデン
セシリアを、
イーデン
愛した時の記憶が混濁して、
イーデン
顔を伏せて、口元を押さえた。
イーデン
遅い。
イーデン
男の足元を、吐瀉物が跳ねる。
セラ
結晶に侵されたその背を、撫でてやることはできない。
イーデン
いつかとは違って。
イーデン
いつか以上に、弱々しい男が、大して残ってもいなかった胃の内容物を吐き散らす。
イーデン
肩で息をしている。
イーデン
胃液に汚れた口元を、黒結晶の生えた腕で拭う。
イーデン
「……っ」
イーデン
「あ、」
イーデン
声は震えている。
イーデン
「あいつは!」
イーデン
「あいつ、あのクソ親父」
イーデン
「なんでセシリアを連れ帰ってきたかって」
イーデン
「娼婦の娘なら、娼婦として使えるだろうって!」
イーデン
「まだ――まだ十にも満たないか、その程度の、頃に」
セラ
「…………」
イーデン
「今までろくな面倒も見なかったくせ」
イーデン
「名前だって」
イーデン
「つけたのは、」
イーデン
「………………」
イーデン
俺が。
イーデン
名付けた?
イーデン
セシリアという名を?
セラ
「妹は、娼婦に?」
イーデン
首を振る。
イーデン
「俺が」
イーデン
「代わり、に」
セラ
「…………」
イーデン
「………………」
イーデン
「別に」
イーデン
「大したことじゃあ、ない」
イーデン
「なかった」
イーデン
「俺は」
イーデン
「あいつと違って、丈夫で」
イーデン
戦闘での役割を思い出す。
イーデン
耐久性に欠ける自分を、
イーデン
庇うように前に出るセシリアとの、
イーデン
いつもの立ち位置を。
イーデン
違う。
イーデン
それは、大丈夫だ。
イーデン
辻褄が合っている。
イーデン
堕落の国に落ちたから。
イーデン
心の疵の力と、それを引き出す六ペンスを得たから。
イーデン
そうだろう?
セラ
「十にも満たない子供には、荷の重い仕事です」
イーデン
「…………」
イーデン
「あ、あ」
イーデン
「だから」
イーデン
「だから、俺が」
イーデン
「…………」
イーデン
「……病弱」
イーデン
「だった、から」
イーデン
「だから」
イーデン
「尚更」
イーデン
「それ以外、ないだろ」
イーデン
「今のセシリアからは」
イーデン
「想像もつかないかも、しれないが」
イーデン
「昔」
イーデン
「は」
イーデン
「…………」
セラ
「娼婦の仕事は、病気をうつされることもあります」
セラ
「病弱な子供には難しい」
イーデン
「…………」
イーデン
「……だから」
イーデン
「なのに」
イーデン
「そんなこと、は」
イーデン
「しなくていい、と」
イーデン
「………………」
イーデン
「……セシリア」
イーデン
「あいつ」
イーデン
「あいつは、俺の」
イーデン
「知らないところで」
イーデン
「俺の、仲間と……」
イーデン
「…………」
セラ
「…………」
イーデン
「………………?」
イーデン
「いや」
イーデン
「違わなく、て」
イーデン
「そうだ」
イーデン
「でも、あいつじゃあ、うまくやれないから」
イーデン
「小銭くらいにしかならなくて」
イーデン
「そもそも相手がバカだろ」
イーデン
「スラムのガキ相手に身体売ったとこで」
イーデン
「大した金が稼げるはずもない」
イーデン
「でも」
イーデン
「俺ばかりに背負わせるのが、嫌だから、と」
イーデン
「……あいつ」
イーデン
「昔から、そんな」
イーデン
「…………」
イーデン
「あ」
イーデン
「あ…………?」
イーデン
セシリア。
イーデン
セシリア?
イーデン
自分に寄り添って生きてきた女。
イーデン
自分とともに生きてきた女。
イーデン
長く、長く、ともにいた。
イーデン
そのように、認識はしていたが。
イーデン
でも。
イーデン
これは、いくらなんでも、違うだろう。
イーデン
「……あ」
イーデン
「ああ」
イーデン
「でも」
イーデン
「そうか」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「お前、そうなのか」
イーデン
「女が嫌だったのか?」
イーデン
「男は、別に、構わなかったんだな」
イーデン
「……そうか」
イーデン
「だから」
イーデン
「あのクソ親父は」
イーデン
「お前には、なっていないわけか……」
イーデン
ぼそぼそと。
イーデン
うわ言のように漏らされる声は、
イーデン
もはやあなたに語りかけられるものではなくなっている。
セラ
「…………」
セラ
「イーデン」
イーデン
「…………」
セラ
「セシリアは堕落の国に向いていると思いますよ」
イーデン
「……向いていない……」
セラ
「そうでなければ、あなたの思い出の中の女達を」
セラ
「全てセシリアに変えたりしない」
イーデン
「向いていないんだ」
イーデン
「あの女は」
イーデン
「だって」
イーデン
「セシリア」
イーデン
「あいつは」
イーデン
「俺があいつを愛したら」
イーデン
「もう、生きていかれないだろう?」
セラ
「生きていて欲しかった?」
イーデン
「…………」
イーデン
「あの女は」
イーデン
「セシリアと同じ」
イーデン
「違う、セシリアじゃない」
イーデン
「あの……三月兎と、セシリアの」
イーデン
「村の」
イーデン
「…………」
イーデン
「……ワインの!」
イーデン
「あの、女と、同じ」
イーデン
「酔うことでしか、生きられない」
イーデン
「この国において」
イーデン
「酩酊への没入でもって、自らの在り方を規定している」
イーデン
「……そういう、女」
イーデン
「だろう」
セラ
「少なくとも、あなたはそう思っている」
イーデン
「…………」
イーデン
「愛せる」
イーデン
「はず、が」
イーデン
「違う」
イーデン
「愛して」
イーデン
「……違う」
イーデン
「違う…………」
セラ
「愛してはいけないと思った?」
イーデン
首を振る。
イーデン
頷く。
イーデン
……首を振った。
セラ
「そう……」
イーデン
「あ、……」
イーデン
「愛してる」
イーデン
「から」
イーデン
「だから」
イーデン
「セシリアを、愛して」
イーデン
「いる、から」
イーデン
「だから」
イーデン
「セシリアの、こと」
イーデン
「は」
イーデン
「…………」
イーデン
「………………」
イーデン
蹲る。
セラ
「…………」
イーデン
「……セラ」
イーデン
「セシリアは」
イーデン
「信心深い子供だった」
イーデン
「俺は、それを馬鹿にしていたけれど」
イーデン
「あいつは、結構」
イーデン
「教会とか行くの、好きだったんだぜ」
セラ
「そう、だったんですね」
イーデン
「だから」
イーデン
「……なのに」
イーデン
なのに?
イーデン
なのに、なんだ?
イーデン
セシリアは生きている。
イーデン
自分の知らないところで身体を売っていたセシリア。
イーデン
自分が追い詰めて身体を売らせたセシリア。
イーデン
自分が身体を売らせなかったセシリア。
イーデン
一致しない。
イーデン
何もかもが。
イーデン
でも、生きていて。
イーデン
俺のことを、
イーデン
愛している。
イーデン
でも。
イーデン
きっと、もう、自分はセシリアを愛せない。
イーデン
愛してやることができない。
イーデン
セラは、この天使は、
イーデン
セシリアの愛を、信じているというのに。
イーデン
「…………」
イーデン
「……セラ」
セラ
「はい」
イーデン
「……こういう時」
イーデン
「お前の基準なら」
イーデン
「どうするのが、いいんだろうな」
セラ
「…………」
イーデン
「……嫌だった」
イーデン
「あいつに、されたことが」
イーデン
「あのクソ親父にされたことよりも」
イーデン
「公爵家でセシリアを抱くよりも」
イーデン
「あの、」
イーデン
「……ワインの村で、はらわたを弄ばれるよりも」
イーデン
「俺は」
イーデン
「嫌だったんだ……」
イーデン
「お前は」
イーデン
「お前らは」
イーデン
「自分に、優しくしろとか」
イーデン
「大事にしろ、とか……」
イーデン
「そういうことを、言うけれど」
イーデン
「……言われた」
イーデン
「から」
イーデン
「そんなことは」
イーデン
「馬鹿げていて、意味がないことだと」
イーデン
「俺は」
セラ
「嫌でしたか?」
イーデン
「………………」
イーデン
「……嫌なことに」
イーデン
「嫌なことを、嫌だと、わざわざ考えていたら」
イーデン
「嫌なことに、耐えなきゃならなくなる」
イーデン
「……それが」
イーデン
「嫌、で」
イーデン
「…………でも」
イーデン
「もう、無理だ」
イーデン
「嫌だ」
イーデン
「嫌なんだ」
イーデン
「全部、が」
イーデン
「……セラ」
セラ
イーデンの顔を見る。
イーデン
膚を突き破って出でる黒結晶が。
イーデン
澱んだ色の血を溢れさせて、頬を伝い落ちる。
イーデン
「どうすればいいんだ」
イーデン
「こういう時は」
イーデン
「なあ」
イーデン
「お前は、いつも、そうだろう」
イーデン
「俺が間違う時は」
イーデン
「お前が、道を正そうとしてくれる」
イーデン
「お前には、信じるものがあって」
イーデン
「……まあ」
イーデン
「多少の頭の固さと、気持ち悪さもあったが」
イーデン
「でも」
イーデン
「お前、だって、本物の天使なんだろう?」
イーデン
「天使は」
イーデン
「神様の御使いで」
イーデン
「……人を、救ってくれるんだ、って」
イーデン
「セシリアが」
イーデン
「そう、言っていたんだ」
イーデン
*セラの心の疵『天使』を猟奇で抉ります。
*クエストはNo.3を実行。
セシリア
*どうしてほかの人に助けを求めるんですか?横槍します
セシリア
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 才覚
セシリア
2d6+0=>7 判定(+才覚) (2D6+0>=7) > 9[5,4]+0 > 9 > 成功
セシリア
1d6 横槍効果量 (1D6) > 2
セシリア
*ヤリイカ乗せちゃいましょうか
[ セシリア ] ヤリイカ : 1 → 0
イーデン
2d6+4-2-2=>7 判定(+猟奇) (2D6+4-2-2>=7) > 8[5,3]+4-2-2 > 8 > 成功
[ セシリア ] HP : 25 → 24
GM
*クエスト3達成。
GM
*お茶会終了までの間に技能を1つ入れ替えられます。
[ セラ ] 天使 : 0 → -1
イーデン
男は、
イーデン
あなたの胸を縋る。
イーデン
あなたに希望を見出して。
イーデン
救いを求めるかのように。
セラ
イーデンを拒まない。
セラ
セラは、肌をほとんど露出していない。胸くらいは。
イーデン
男の頭が、あなたの胸元に。
セラ
「イーデン」
イーデン
髪より先に、膚の下を荒れ回る黒結晶の硬い感触。
イーデン
「…………」
セラ
「僕は確かに、本物の天使で、神の御使いで、人を救う存在です」
セラ
「でも」
セラ
「堕落の国では、あなたと同じ救世主だ」
セラ
「僕に奇跡を望むのなら、それだけの心の疵のはたらきが必要で」
セラ
「そのために何が必要か、あなたは知っている」
イーデン
そうだ。
イーデン
自分は知っている。
イーデン
自分が本当は、セラを信じることができていないことを。
イーデン
この世界に希望はない。
イーデン
この世界が許せない。
セラ
「……でも、仲間として、友人として、言えることはある」
イーデン
仲間のことも、信じられない。
セラ
「あなたは、セシリアと話すべきだ」
イーデン
この世界への、仲間への、深い絶望と断絶を
イーデン
自分は、よく知っている。
イーデン
「…………」
イーデン
「……それ、が」
イーデン
「俺にとって」
イーデン
「嫌なこと」
イーデン
「でも、か?」
セラ
「逃げたければ逃げてもいいですよ」
セラ
「その苦しみを抱えたまま、生きていけるというのなら」
イーデン
「…………」
イーデン
「……わからない」
イーデン
ゆっくりと、膝が折れる。
イーデン
絶望の森に膝をついて、俯く。
イーデン
「……そもそも」
イーデン
「ずっと、分からなかったんだ」
イーデン
「俺は」
イーデン
「俺が、どうして、生きているのか」
イーデン
「セシリアを」
イーデン
――セシリアを?
イーデン
死なせて? 犠牲にして? 踏み躙って?
イーデン
違う。そんなことはしていない。
イーデン
セシリアは、まだ
イーデン
生きている。
イーデン
「………………」
イーデン
その場に蹲ったまま。
イーデン
何も、言えなくなる。
セラ
セシリアは、セシリア達は。
セラ
イーデンに生きていて欲しいだろうと思う。
セラ
そうして、自分も。
セラ
しかし、その言葉は口にしなかった。
セラ
「僕が、救世主でなければ」
セラ
「天使であれば、よかった」
イーデン
「…………」
イーデン
その、セラの言葉を。
イーデン
肯定することも否定することもできなかった。
イーデン
天使としてのセラにならば、救われることが叶ったかもしれないが。
イーデン
救世主として巡り会わなければ、共に過ごすことはできなかった。
イーデン
出会わなければ良かったとは、まだ、言えない。
イーデン
自分の心の疵の奥底には。
イーデン
捻くれてひしゃげた忌々しい、
イーデン
希望がまだ、燻っている。
GM
GM
*お茶会の1ラウンド目が終了しました。
GM
お茶会MOD『勇断』の効果タイミングです。
GM
1ラウンド目のPC全員の行動の終了時、PL全員の合意があった場合、お茶会を終了して裁判に突入することを選べます。
GM
お茶会を中断しますか?
イーデン
*この胸にはまだ希望が残っています! 勇断しません!
セシリア
*勇断しません!
セラ
* してもいいんだけど……二人がこう言っていて……
GM
*はい。
GM
*ではお茶会を続行します。