プロローグ

GM
*導入
GM
鬱蒼と茂る森。
その木を切り拓いて作られた、中規模の拠点にあなたがたはいる。
GM
辺りを埋め尽くさんばかりに並ぶのは、箱に詰められた物資と。
三月兎の末裔
布でくるまれつつある三月兎。
三月兎の末裔
あなたがたのほうを見れば、三月兎はあなたがたに手を振る。
GM
ドードーの末裔が紙の資料を見比べて、公爵家エージェントと話す。
雇われのグリフォンの末裔たちがそれらの周辺で、飛び立つ支度を整えていた。
GM
しばらくして、そのうちの一人、リーダー格の公爵家エージェントが近付いてきて、あなたがたに声をかける。
GM
「救世主様方。こちら、いつでも出発できます」
GM
「改めまして、この度は依頼を受けていただき、本当に感謝しております」
GM
「なにせ、この状況で頼れるのはあなたがた以外にいませんから……」
セラ
「対応できる者が動くのは当然のことですよ」
三月兎の末裔
布を抜け出して、わーっとかけてくる。
三月兎の末裔
「ねえ! もしかしてぼくたちのアリス!?」
三月兎の末裔
「おっきい!」
イーデン
三月兎の末裔へと目を向ける。
セラ
「そうですよ、あなたたちのアリスです」
セシリア
分かるんですねと思っている。
セラ
「わかってくれて嬉しいな」
セラ
しゃがんで目線を合わせながら話す。
三月兎の末裔
「アリス、こんなにおっきくなるんだ~!」
イーデン
フードを目深に被ったまま、二人が話すさまを見ている。
三月兎の末裔
「いいなあ~!」
セシリア
ストレナエが乗っ取っていた屋敷で読んだ資料。
イーデン
嫌な予感しかしない。
セラ
「ふふ、僕はとくにすごいアリスですからね」
セシリア
あれは公爵家の計画であって、かれらはその兵器であって。
イーデン
……正直、まだ生きていること自体驚きではあったが。
セシリア
なぜかれらがここにいるかと考えると……
イーデン
命運尽きた、と考えるのが妥当だろうな。
セシリア
心を和ませるための賑やかしではないだろう。
三月兎の末裔
「すご~い!」などと。そう言ったところで。
公爵家
グリフォンのトランスポーターが慌てて迎えに来る。
セラ
穏やかに、三月兎の頭を撫でる。
公爵家
「すみません」と小声で言って、目をそらして。
イーデン
「気にすんな」
イーデン
「好きにさせてやれ」
イーデン
最期の自由時間だろう。
セシリア
……それは、あるいは我々にとってもそうなのですが。
公爵家
「ありがとうございます……では、もう少しだけ」
公爵家
そうして保護者のようにその三月兎の側につく。
GM
「……では、説明をこのまま続けてもよろしいでしょうか」
セシリア
「はい。よろしくお願いいたします」
イーデン
「頼む」
セラ
頷く。
GM
……まぁ、とはいえ。今更説明することもそこまでないでしょう。
GM
あの後、改めて公爵家から救世主「スティブナイト」の討伐依頼が来ました。
GM
森の内部の情報がある程度報告され、あなたがたが得ている情報は以下のとおりです。
イーデン
じゃれつく三月兎には目を向けず、説明を聞いている。
GM
・討伐対象の「スティブナイト」は、あなたがたが見た通り、黒い結晶を操る能力を持つ救世主だ。ここ1年で急速に脅威度を上げている。
・過去に何度か救世主に討伐依頼を出したが、美希のパーティを含め、今まで全滅している。
・周辺ではこの森は「絶望の森」と呼ばれており、公爵家はこの一体を危険地帯指定している。
GM
というのが今まで判明していた情報。
GM
ここからは美希パーティの調査による追加情報です。
GM
・スティブナイトの脅威度は6程度。
GM
・危険地帯指定されているのにも関わらず、末裔や救世主達がこの森に入っていくのは、どうやらスティブナイトが幻覚を見せて森に人をおびき寄せているためである。
GM
・特に、「大事な人」「失った人」「過去のトラウマ」の幻覚が見られることが多い。美希パーティも幻覚を見た。
GM
・黒結晶には発狂とは別の、何らかの精神をおかしくする効果がある。
GM
・森に長くいると黒結晶に侵蝕される。長時間いると危険である。
GM
・スティブナイトは意図的に見た目を隠蔽している。持ち帰ったメモ(というかプロフ帳)からスティブナイトの外見などに関わるいくつかの記述が消えている。
GM
そして、公爵家から提案された支援物資は以下のとおりです。
GM
基本的には、持ち帰ったメモから、あなたがたと公爵家の間で議論検討したものではありますが。
GM
*クエストを公開します。
◆クエストNo.1 情報収集
概要  :森を探索し、スティブナイトの情報を集める。行方不明になった人々の情報などを公爵家が提供し、情報収集を支援する。
目標値 :7
消滅条件:成功で消滅
成功  :PKのデッキを即座に公開する。また、このクエストに成功したPCは、裁判開始から3Rの間、手札の最大所持枚数が1枚増える。
失敗  :特になし
放置  :公爵家はあなたがたが何かしら情報を得て帰還することを心待ちにしているが、なによりもあなたがたの命が大事だ。達成できなかったところで、気にする必要はない。あなたがたが無事でさえあるのなら。
◆クエストNo.2 物資支援
概要  :公爵家から物資が投下される。
目標値 :7
消滅条件:なし
成功  :このクエストに成功したPCは、価値15までの宝物(凶器・衣装・小道具)、もしくは聖遺物を1つ入手する。この際、脅威度の条件は無視してもよい。
聖遺物は調達での入手も含め、各陣営1つまでを上限とする。
失敗  :特になし
放置  :余った資源は他の依頼に回される。それで助かる命があるかもしれない。ここで支援を断り、その結果あなたがたがこの依頼を達成できずに全滅すれば本末転倒であるが。
特記事項:このクエストはPC全体でラウンド1に1回、ラウンド2に2回行える。
◆クエストNo.3 戦術補助
概要  :公爵家の膨大な資料から、最適な戦い方を割り出す。
目標値 :7
消滅条件:なし
成功  :PC全員は、お茶会中の好きなタイミングで、技能を一つ入れ替えることができる。
技能変更をするタイミングが2R目である場合、「条件:脅威度6」までの技能、もしくは「遺失物技能」を習得することが可能である(能力値の条件は満たすこと)。
失敗  :特になし
放置  :資料を運ぶトランスポーターのグリフォンの末裔が精神汚染される確率が下がるかもしれない。そんなことを気にしている余裕があなたがたにあるかはさておき。
特記事項:このクエストはPC全体で1ラウンドに1回、裁判中に1回行える。
◆クエストNo.4 三月兎爆弾投下
概要  :公爵家が飼っている三月兎の末裔の集団を投下し、麦藁の冠により森を破壊する。三月兎はその後発狂し、死亡する。
目標値 :7
消滅条件:成功で消滅
成功  :PKのHPを1にする。
失敗  :PC・PKのHPを1d6点減少する。
放置  :三月兎の命が守られる。あなたがたは三月兎に感謝されるかもしれない。あるいは、何も考えていない三月兎もいるだろうが。
GM
*クエストNo.1「情報収集」クエストNo.2「物資支援」クエストNo.3「戦術補助」クエストNo.4「三月兎爆弾投下」が公開されました。
GM
そして、まぁおおよそが隠蔽されていたものの、なんとなく、少しだけ救世主がどんな人物であるかがわかりました。美希情報で。
GM
*PKの心の疵を開示します。
*スティブナイト 心の疵情報:

◆黒結晶
体内に入ると肉体・精神に有害となる鉱石を生やして敵を傷付ける。周囲には黒く冷たく、美しい汚染地帯ができる。力がある救世主ですら、浴びると危険だ。
キーワード:他者への絶望、世界への絶望
//誰も信じない。全員殺すべきだ。

◆朧
何者であるかを知るものがいない。性別も、顔も。体格が変わったという噂もあるが、真偽は確かではない。近付いて生きて帰ってきたものはいなかったから。
キーワード:自分への絶望
//ずっと騙してきた。自分の肉体が嫌いだ。
GM
というわけで、今わかる情報はこんなところです。
GM
これ以上の情報を得るならば、現地に行く必要があるでしょう。
セラ
「……さすがに総力戦ですね」
セシリア
「そうですね……」
イーデン
「ここまで育ったからにはな」
イーデン
「ミキたちがあのざまだ」
GM
「……はい」
イーデン
「俺らだけじゃなく、公爵家も後がない」
セシリア
あの時、非人道的だと感じて眉をひそめた計画を、まさか自分たちが活用することになるとは。
セシリア
公爵家とつながりを持った時点で、予測してしかるべきではあったが。
イーデン
きわめてふざけた計画だが、実用的だ。
GM
「……脅威度6の救世主に、ほとんど無力な末裔や亡者がどれだけ助力できるかはわかりませんが」
セシリア
「お力添えいただけるだけで助かります」
イーデン
「決断はこっちで預からせてもらうさ」
セラ
三月兎に微笑んで、抱き上げる。
セシリア
果たして、自分たちは『うまくやれる』だろうか?
三月兎の末裔
きゃっきゃ!
セシリア
イーデンよりもさらに長身になったセラに抱き上げられ、はしゃぐ三月兎の末裔を見上げ。
三月兎の末裔
持ち上げた身体は一年半前より一回り大きいが、軽い。
イーデン
三月兎のはしゃぐ声を聞きながら、考え込んでいる。
セラ
「前に会ったときより、大きくなりましたね」
三月兎の末裔
ワインの香り。
三月兎の末裔
「ほんと? やった~!」
セラ
歌うように言って、軽い体をあやすように揺らす。
セシリア
セラに会った時に斃したパンディオン、
公爵家へのパイプができるきっかけとなったストレナエ。
セシリア
『うまくやれなかった』と判断して、あるいはやむを得ず対立して、自分たちが倒してきた救世主たちのことを思い出す。
イーデン
いつにも増して、沈み込んでいるように映る。
セシリア
「イーデン」
イーデン
「なんだ」
セシリア
「……いえ、そうですね」
イーデン
二年間。
イーデン
二人と共に、救世主として活動を重ねてきた。
イーデン
はじめに纏うていた酷く尖った空気感は、
イーデン
公爵家の庇護を受けてより、特にここ一年を通じて、少しずつ和らいできていた。
イーデン
しかし、今。
セシリア
それが、戻ってきたかのように。
セシリア
いや……
イーデン
より悪い。
セシリア
尖っているのとは違う。重く沈み。
セシリア
恐れている。
セシリア
『大事な人』『失った人』『過去のトラウマ』
セシリア
その言葉を思い返しながら、イーデンの周りに重く凝った空気を見つめている。
イーデン
目深に被ったフードの奥に、
イーデン
張り詰めた空気を詰め込んで。
セシリア
この森は、
セシリア
絶望の森と呼ばれていた。
イーデン
それを芯に、自らを支えるかのような気配があった。
セシリア
「……恐らくは」
イーデン
「…………」
セシリア
「いえ、確実に、厳しい戦いになるでしょう」
セシリア
「勝てるかどうかも、分からない」
イーデン
「……ああ」
イーデン
「とはいえ」
イーデン
「救世主には、珍しいことじゃない」
セシリア
本当にそう?
イーデン
「尻尾を巻いて逃げたところで」
イーデン
「心の疵が、鈍るだけだ」
イーデン
「……それは」
イーデン
「結局、いつかの死を招く」
セシリア
でも、心の疵は心の疵。
セシリア
この森にはもしかして、今までとは違う。
セシリア
何か致命的なものが潜んでいるのではないかと。
セシリア
そういう不安が背を伝う。
イーデン
あなたはよく知っている。
イーデン
この男が、
イーデン
それを理解できないはずのないことを。
セシリア
この森の空気はどこか、あなたに似ているのだから。
セシリア
だが、イーデンの言葉は正しかった。
セシリア
自分たちに退く選択肢はないだろう。
セラ
三月兎に歌を歌う。 それはいつか、ストレナエのいる村で歌った歌だ。
セラ
そうして、しばらくの時を過ごした仲間たちにはわかるはずだ。
セラ
それは、葬儀の時に歌う歌でもあった。
セシリア
優しい歌声が、暗い森の中に場違いに響く。
イーデン
軽やかなボーイソプラノから、今は穏やかに響くテノールの歌声。
セラ
ラストアリスに、なんて話をした。
セラ
皆は冗談だと思ったかもしれないけれど。
三月兎の末裔
一緒に歌う。あのときの歌を曖昧に覚えている。
セラ
一緒に歌って、笑う。
三月兎の末裔
少し音の外れた子供っぽい声。
イーデン
まとわりつくような重苦しい絶望に不似合いな、優しく旋律。
イーデン
調子外れの幼さに、
イーデン
既に脳が軋むような心地があった。
セシリア
「……知るべきことと、確認すべきこと」
セシリア
「物資は与えられていて、準備はおおむねできているでしょう」
セシリア
「あとは、向かうと言っていただければ、すぐにでも」
セラ
「行きましょう」
セラ
歌の続きのように、軽やかに。
イーデン
「…………」
イーデン
「ああ」
イーデン
「行こうか」
セラ
何も状況は変わらない。やることは同じだ。
公爵家
グリフォンの末裔が改めて、セラに目で合図をした。
セラ
抱えていた三月兎を下ろす。
三月兎の末裔
「お歌はおしまい? 次は?」
セラ
「そうですね、次は……、帰ってきてからかな」
イーデン
「………………」
三月兎の末裔
「うん!」
セラ
「いい子」
セラ
そう言って、また頭を撫でる。
三月兎の末裔
えへへ、と嬉しそうに笑って。
三月兎の末裔
「またね!」
三月兎の末裔
そう言って、グリフォンの末裔に連れて行かれる。
セラ
微笑んで、手を振る。
イーデン
その背中を、
イーデン
目で追ってしまう。
セラ
忙しなく働く末裔達の雑踏に見えなくなるまで。
イーデン
途中。
イーデン
意識をして、視線を切った。
GM
今度は大人しく支度しているのが、あなたがたの視界の端にうつって。
GM
エージェントが咳払いをした。
GM
「それでは」
GM
「よろしくお願いいたします」
GM
「イーデン様、セシリア様、セラ様」
GM
深々と、例をする。
GM
周囲の末裔たちも、同時に。
セシリア
丁寧に礼を返し、顔を上げる。
イーデン
ゆっくりと膝を上げ、彼らに背を向ける。
セシリア
意識して微笑みを浮かべ、隣の男を少しでも勇気づけるように。
イーデン
言葉はない。それは珍しいことではない。
セシリア
セラの方を見て、小さく頷く。
セラ
末裔たちに微笑んで、セシリアに頷く。
イーデン
黒い外套を翻して、闇の中を進んでいく。
イーデン
絶望へと。
イーデン
足を、進めた。