プロローグ
森の前で
GM
その木を切り拓いて作られた、中規模の拠点にあなたがたはいる。
GM
辺りを埋め尽くさんばかりに並ぶのは、箱に詰められた物資と、布でくるまれた三月兎。
GM
ドードーの末裔が紙の資料を見比べて、公爵家エージェントと話す。
GM
雇われのグリフォンの末裔たちがそれらの周辺で、飛び立つ支度を整えていた。
GM
しばらくして、そのうちの一人、リーダー格の公爵家エージェントが近付いてきて、あなたがたに声をかける。
「改めまして、この度は依頼を受けていただき、本当に感謝しております」
「なにせ、この状況で頼れるのはあなたがた以外にいませんから……」
アルビー
人好きのする社交的な笑みを浮かべながら、エージェントに相対する。
アルビー
こういうときは自然と前に出るのが染みついていた。
リラ
兵器として扱われる三月兎に顔を歪める少女はもういない。救世主然とした立ち姿で二人の会話を見守る。
リラ
「はい、大丈夫です」
準備万端! と微笑んで答えた。
ティット
所狭しと並べられた物資の山、包まれた布をはらりと解き、
「やっほ~!これからお仕事?オイラ達もそうなんだ~」
気楽な世間話のように出荷前の三月兎へと手を振る。
ティット
呼ばれたので、きちんと包み直す。
ちゃんとお片付けできるいいこです☆
わらわらいる三月兎の中には、あなたたちが見知った顔のものもいますね。
リラ
本心の読めない曖昧な笑顔を浮かべ、手を振る。
ティット
「ひっさしぶり~。おまえとも長い付き合いになったねー、ほんと」
手を振る。
アルビー
(できる限り、あの子たちを使わずに済ませたいけど……)
「そう!」
「あのねえ、」
「これから、つまんなくないところいくの!」
ティット
「そっかそっか、それは楽しみだね~。退屈は魂を殺すからな」
アルビー
「ティット」
三月兎たちと戯れるティットを諫めるようにそう呼んでから、エージェントの方を向く。
三月兎もグリフォンに番号を呼ばれ、そちらの方を向きます。
アルビー
「こちら、準備はできています。いつでも向かえますよ」
ティット
「はぁい?なーに、班長。無駄口叩くなって?」
「わーっ」
「またねえ!」
三月兎は手を振って、呼ばれた方へ向かっていきました。
リラ
「…………」
三月兎を見遣り、目を伏せる。それだけ。
「向かう前に、改めて本件についての確認をさせていただきますね」
今回、公爵家があなたがたに依頼するのは、救世主『スティブナイト』の討伐、並びに討伐対象が生み出している空間『黒の森』の調査。
とはいえ、スティブナイトについても、黒の森についても、あまり詳細なことはわかっていません。
公爵家があらゆる手立てを尽くして調べ上げた内容は、以下の通り。
・黒の森は暗く、あらゆる草木が枯れ果て、黒い結晶がそこかしこに生えている場所である。そこまで広くはなく、端から端まで歩くのには長くても半日程度だろう。
・広くはないし迷わないはずなのだが、なぜか帰ってこれた者がほとんどいない。
・たまに何かに吸い寄せられるようにして森に入っていく者がおり、近くにあった集落が壊滅した。
・黒の森に入った場合、末裔はまず帰ってこない。たまに帰ってきた救世主は発狂していたり、そのまま自殺や失踪をしたり、ほぼ無反応の無気力状態、植物状態になったりする。
・帰ってきた者には「黒結晶」と呼ばれる結晶が肉体から生えていたり、体の一部が結晶に置き換わっていたりする。
・公爵家はこの現象を発生させている救世主をコードネーム「スティブナイト(stibnite)」と名付けたが、本当の名前も素性もわからない。いくつか目撃情報があるが、証言が食い違っている。
・よくわからないが、放っておくと村一帯……いや、地域一帯を滅ぼしかねない。危険な存在である。
・過去にも何度か救世主に依頼を頼んだが、今まで全滅している。
「――以上のことから、周辺ではこの森は「絶望の森」と呼ばれており、怖がられています」
「非常に危険な依頼となりますので、こちらからも、最大のサポートをさせていただきます」
アルビー
「だからこそ、放置するわけにはいかない」
アルビー
「ありがとうございます。お力添えに恥じぬよう努めます」
ティット
「うんうん。今回も愉快なお仕事っぽいね~!それにいつもより大掛かりだ」
アルビー
「現地に行ってから、実際に自分たちの目で状況を見て判断すべきだ」
リラ
「そうですね、何が起こってるのかわからないし……」
アルビー
「……ただ、日和見をしていてどうにかなりそうな相手じゃなさそうだ」
ティット
「はーい。そりゃご尤も。じゃあ、リラさん、意気込みを一言どうぞ~」
マイクのように拳を握ってリラの口元に持っていく。
リラ
「えっ、私?」
とはいっても、ティットは大体こういう無茶振りしてくるけど。
リラ
「油断は禁物ですけど、気負わずいつもの調子で! 私たちのコンビネーションで何とかしていきましょう!」
アルビー
「そうだね。今までそうやって切り抜けてきたから」
アルビー
「油断は禁物だけど、緊張しすぎてかたくなるのもよくない」
ティット
「いいねいいね!オイラ達もそろそろ中堅ですからね。いつも通り、友情パワーを発揮しわるーい救世主を成敗しちゃいましょー」
ティット
自分の口元に拳を当てる。
「以上、現場からお届けしましたー」
ティット
二年の間にいろいろ異世界知識を蓄えたらしい。
リラ
「毎回思うけど、それどこに向かって言ってるの?」
などとつっこんでいる。
GM
末裔たちが、救世主であるあなたたちを、期待の眼差しで見送り。
森の中へ
GM
こんな絶望しかない世界で、お前が生きる意味は何だ?
GM
辺りに響くのは、お前たちが踏み出した足が地面の結晶を割る音だけ。
GM
風も吹かず葉擦れの音ひとつしない不自然に静かな森に、その音が響いては、木々の隙間に吸い込まれて消えていく。
GM
黒く枯れた木には半透明の黒い結晶が生えており、手をつけば触れたところを傷付けるだろう。
アルビー
森に足を踏み入れる。
その歩みには迷いがなかった。
ティット
枯れ木にびっしりと生えた鉛灰色の結晶を爪の先でつつく。
「へぇ~」
アルビー
「ティット、こういうのどう思う? 君のいた時代の方が馴染みがあったりしない?」
ティット
「まあな~。流石に結晶の森は初めてみたけど、陽の光の届かない鬱蒼と昏い森の中はまるで故郷のようで落ち着くよね~」
アルビー
「そっか。リラちゃんは、元の世界でこんなの見たことある?」
リラ
「うーん、私はないかな……。だから、ちょっと不思議な感覚ですね。アルビーさんあります?」
アルビー
「俺は、そもそも森に入ったことがなかったかもしれない……」
シティボーイ……
ティット
「こういう静かで寒々しい森の中には魔女やら隠者やらが住んでいるのが定番なんだけど……」
と、言いながらきょろきょろ辺りを見渡す。
アルビー
雑談をしながら、周囲への警戒は怠っていない。
『スティブナイト』の気配はあるか?
リラ
「わあ! それもすごいですけど……」
アルビーに。
「不思議な波動とか感じる?」
ティットに。
ティット
「んー?そうさなぁ………」
気配?波動?を探る。
アルビー
「………………!」
即座にアルビーの周囲に複数の銃器が浮かぶ。
GM
そう大きなものではなく、あなたたちの後ろから、耳元で話しかけるような。
ティット
「ピコーン!波動感知!!」
もう声かけられてますがな。
スティブナイト
振り返っても、黒結晶があるばかり。
ティット
「はろ~。アンタが噂のスティブナイト?ごきげんよう。はるばるアンタに会いに来たんだ。姿を見せてはくれないかい?」
アルビー
「声だけなんて、噂に違わずシャイなのかな?」
リラ
「…………」
二人をかばえるように、準備を怠らない。いつでも武器を。祈りを。
ティット
「それじゃ、オイラと気が合うな!オイラもシャイボーイだもの」
スティブナイト
「俺は会いに来てくれと頼んだ覚えはないし」
「突然やってきた連中に姿を見せるほど間抜けじゃないさ」
アルビー
「大人しく縄についてくれる気がないなら、実力行使しかないけど……?」
堕落の国で時を過ごすうちに、どんどん数が多くごつくなっていった銃器が、頭上で目のように哨戒している。
ティット
「うーん、厚かましくなっちゃって。まるで訪問販売の営業のよう」
なんの情報を仕入れているんだ?(持ち前の社交性で様々な救世主から様々な世界の文化の情報を仕入れています)
スティブナイト
「お前が裁判経験のないおこちゃまだとしたら仕方がないが……」
「どこにいるか分からない相手に銃口を向けて立っているのは、愚策だと思わないか?」
ティット
「あら、セクシーボイス!」
まぁ、と口元に手のひらを当てる。
スティブナイト
空中に無数の黒結晶が浮かんでいる。
スティブナイト
それらはすべて銃口の目の前に、時が止まったように佇んでいる。
アルビー
「敵意の自己紹介に決まっているでしょう?」
リラ
「わあ~~~~」
その返しかっこいい! 純粋にそう思ったので場違いな声を上げています。小さめにね。
ティット
「わぁ~。うちの班長もすっかり擦れちゃって可愛げなーい!!」
ティット
昔はあんなに可愛かったのに……とよよよ、と泣き真似をする。
スティブナイト
「頭が痛くなる連中だな……」
「俺はお前のような優男と同類になりたくはない」
ティット
「いや~、班長はまあいいとして、オイラはリラちゃんの変化のカタチに時の流れの無慈悲さを感じますわ……」
リラ
「え、なんでそこで私の話になるの!?」
「ていうか、こんな暢気にしてちゃダメじゃない……!?」
ティット
「え!心外だわ!?ワタクシ、出会った頃と何ら変わらず初々しくフレッシュですわよ!?」
スティブナイト
「観光に来たのなら帰っていただこうか」
スティブナイト
「そうか。ならどうする?」
「ここで一晩過ごして…………そこら中にある死体共と同じようになってみる?」
GM
黒結晶に覆われた死体たちがあなたたちを見ている気がする。
ティット
「もっと気合を入れて誘えってやつだ。ワタシ、お安くなくってよ!って勿体ぶって値を吊り上げたい!!」
スティブナイト
「そんな答えが出てくる時点で、お前の程度が透けて見えるな」
「自分に価値があると自己申告したところで、誰も買い上げやしないよ」
ティット
「いやいや、ティットちゃんモテモテで一年先まで予約が埋まっててさ~」
スティブナイト
「さて、お喋りしに来たわけでもないんだろう」
ティット
「なんかこいつ、どんどん可愛げなくなっちゃって……」
リラ
「というか、そもそも帰す気もないですよね……?」
ティット
「こっちはこっちで逞しくなっちゃって……」
スティブナイト
「帰らせる気はあるよ」
「道だって作ってやろう」
スティブナイト
おびただしい数の黒結晶が、あなたたちの上空を飛び回っている。
リラ
(やっぱり帰す気ないじゃん! 穏便には帰さないとかそういう……そういう感じじゃん!)
とかなんとか思いながら、冷静に、もう慣れた祈りの力を発揮して三人を守っていく。
アルビー
的確に味方を避けて流れる雨あられのような銃弾で身を守っている。
消したり出したりが自由自在なのをいいことに、かなり柔軟に使っているようだ。
ティット
降り注ぐ雨を払うように風が渦巻き、台風の目のように3人の周りをガードしている。
ティット
「ああいう内気そうな御仁はかくれんぼ得意そうだな~。探すの骨が折れそう」
リラ
「でも、やっぱり森自体はそんなに大きくないみたいだね」
アルビー
「ああ。……でも、手分けするのはきっと得策じゃない」
ティット
「狭くて暗い場所が落ち着くんじゃない?」
アルビー
「何が起きるかわかったものではないから、警戒しつつ進もう」