ブラッドムーン「夜に落ちる」

結果フェイズ

GM : 今回は結果フェイズ……だけですね。
GM : 結果フェイズはデータ的な面としては、修復判定だけです。
GM : 幸福が壊れてる人は修復を試みることができます。特別な場合を除いて。
GM : というわけで、やっていきましょう。
GM : まずはアイカさんからですね。

結果フェイズ:九鹿 愛佳

GM : さて……最初に修復判定しちゃいましょうか。
GM : 人脈から判定できます。
九鹿 愛佳 : そうですね。
九鹿 愛佳 : 興奮剤も使い切ってるので、普通に。
九鹿 愛佳 : 2D6>=8 (判定:隠れる) BloodMoon : (2D6>=8) > 4[1,3] > 4 > 失敗
九鹿 愛佳 : ……激情で1を6に。
GM : はい。
GM : 成功ですね。
🐟 : 激情……
豊四季 一澄 : おめでとう……おめでとう……
🐟 : かろうじてあってよかった 激情……
九鹿 愛佳 : 完全に一馬くんが救ってくれたんだよな感しかなくて
九鹿 愛佳 : つらみが急激にマックス
豊四季 一澄 : うん
多宝院 那由 : うん……
九鹿 愛佳 : 直接の関係はなかったとしても……
GM : では、あなたは六実優を再殺した。
GM : 傷だらけのあなたがたでしたが、定時連絡が里奈ができなかったがために、狩人関係者があなたたちを助けに参りました。
GM : 特にダメージの著しいナユは救急車で運ばれ、すぐに集中治療室で回復に取りかかり、イズミ、リナも病院に。
GM : 深手を負わなかったあなただけが、1人、朝の街に解放されます。
九鹿 愛佳 : 「……、……」 朝の光が明るい。しかし、夜から帰ってきたばかりの自分には、逆に眩んでしまう。
GM : ではですね、不意にあなたのスマホが振動する。
GM : ずっと振動していますね。
GM : 確認すると、メッセージが大量に届いている。
GM : 着信ではなく、たくさん送りつけられているからしばらく振動していたんですね。
九鹿 愛佳 : しばらく端末が振動するのに気づかなかった。 何度か鳴ったところでやっと、端末を取り出して。
GM : 「今どこ?」
GM : 「なんか近所で火事なんだけど」
GM : 「すごい燃えてる」
九鹿 愛佳 : 大量に着ていたメッセージに慌てる。
GM : 写真が送られてくる。ゴミ捨て場でボヤがあった写真ですね。
GM : 「消防車きた」
GM : 「いまどこ?」
GM : 「今何時だとおもってんの」
GM : 「火事とまった」
GM : 「部屋まで煙たいんだけど」
九鹿 愛佳 : メッセージをスライドさせていく。 火事の実況。それは、"あの時間"以降も続いている
GM : 「返事くらいして」
GM : 「さきねるからね」
GM : 「夕飯、冷蔵庫にあるから」
GM : 「温めてたべて」
九鹿 愛佳 : 夜から開けたばかりの脳で、処理が追いつかない。
GM : 「ほうれん草の煮浸しは冷たいままの方がおいしいとおもう」
GM : 「それじゃ」
GM : 「おやすみ」
九鹿 愛佳 : 最後のメッセージまでようやく辿り着く。
九鹿 愛佳 : 履歴の時刻は、六実優に選択を突き付けられた時から、とっくに過ぎていた。
GM : 吸血鬼らの言っていたことは、嘘だったということですね。実際に見たわけじゃないですからね、家が燃えてるの。
九鹿 愛佳 : 「……はは、」 朝の街。人通りが増えていく中で、ビル街の路地裏、まだ冷たい壁に寄り掛かる。ちいさく、声が漏れた。
九鹿 愛佳 : 端末を、両手でぎゅっと握った。
九鹿 愛佳 : 怪我をしているわけでもないのに、足が震える。そのまま、座り込んだ。
九鹿 愛佳 : 良かった。 その言葉は、素直に口から出てこなかった。
GM : 曇りがちの空でも、朝を迎えれば不思議と明るい。
GM : 路地裏はまだ影を落としている。薄明るい街は、当たり前のように日常を再開する。人々はそこに人がいることにも気付かずに、通り過ぎていく。
九鹿 愛佳 : 座り込んだ僅かな時間で、頭の中に、それまでの数時間が反芻される。
九鹿 愛佳 : そしてようやく、ひとつの夜が終わったことを、実感する。
九鹿 愛佳 : ややあって。立ち上がった。そして、暗い場所から、明るい場所へと再び戻っていく。
九鹿 愛佳 : 「……帰ったら、なんて言い訳しようかな」 まあその前に、謝るのが先だろう。
九鹿 愛佳 : いろいろ考えておかないといけない。これから先のことも。
九鹿 愛佳 : ようやくひとつの夜が終わっても、夜はまたやってくる。
九鹿 愛佳 : この明るい時間は、それまでの束の間の時間に過ぎないことを、知っている。
GM : 狩人の戦いは終わることなどない。その武器を自ら手放さぬ限り。
九鹿 愛佳 : どうか貴方は、そんな夜に落ちることのないように。
九鹿 愛佳 : 道具に扮して隠した杭を持ちながら、帰り道につく。束の間の日常へと。

GM : はい、ありがとうございました!!!
GM : 無事修復できましたので、元に戻して……大丈夫です。よかったですね。
九鹿 愛佳 : よかったです……よかったですね……
GM : それでは次はイズミさんですね。

結果フェイズ:豊四季 一澄

GM : イズミの妹であるカズマもまた、ナユと同様に病院に運び込まれたものの、医師により死亡を確認されました。
GM : 死因は失血多量。
GM : カズマの死は、六分儀高校で起きた暴動事件の犠牲者として新聞に載りましたが、
GM : この事件は不思議と世にはほとんど騒がれず、忘れ去られました。
GM : 学校も二週間の閉校の後に再開。
GM : 狩人組織、および吸血鬼それぞれの情報操作によるもので、大事にはなりませんでしたが……
GM : あなたがたの家族の間においては、大切な子供が一人亡くなったということで、
GM : またクラスメイト、部活動でも明るく積極的に活躍していたカズマですから、
GM : 多くの人が葬式に参加しました。
豊四季 一澄 : 友達多そうだもんな弟……
多宝院 那由 : 多そうだよね……
九鹿 愛佳 : あれだけ活発だったからね……
GM : そうして、葬式の一連が終わった後。
豊四季一郎 : 「……」
豊四季 一澄 : 六分儀高校の黒いセーラー服は、そのまま葬儀に出席してもまったく違和感のない代物だった。普段自分たちが、冗談として言っていたそのままに。
豊四季一郎 : 会話は少ない。
豊四季一郎 : 突然の喪失に、両親はそれをまだ受け止め切れていないでいる。
豊四季一郎 : どちらかというと、賑やかな家だった。
豊四季一郎 : 男女の双子というのは難しいもので、年頃になればケンカばかりをしていた。
豊四季一郎 : 一人っ子だった豊四季一郎――イズミの父は、姉弟というものはそういうもの、という妻の言葉を聞いて、そういうものだと自分に言い聞かせてきたが。
豊四季一郎 : 「ふがいないものだな……」
豊四季一郎 : 一郎はぽつりとこぼす。
豊四季 一澄 : その言葉を皮切りに、葬儀の間もずっとこぼし続けていた涙が再びあふれてくる。
豊四季 一澄 : まるで何もかも分かっているように聞こえてしまうけれど、
豊四季 一澄 : あの場に弟がいた意味について。あの場で弟が何をしたのかについて。この胸に今もある「ふがいなさ」について。
豊四季 一澄 : 両親にであろうとも、何を言えるものか。
豊四季一郎 : 「……子供を持つと決めたとき、どんなことでも起きうると、そして最大限のことをして、守り切るつもりだと決めていた」
豊四季一郎 : 「まあ、父親にできることっていうのは、精々、進路に困らない程度にお金を稼ぐこととか、何かもめ事があったら責任をとるとか、極力相談に乗るとか、そんなことだと思っていたよ」
豊四季一郎 : 「しかし、まさか、な……」
豊四季一郎 : 両親はその夜、本当に起きたことを知らない。警察から受けた説明に納得しているが、それは警察の狩人が集まる部会『クラブ』で作られた、カバーストーリーに過ぎない。
豊四季一郎 : それでも、息子が暴力に晒されて死んだということは知らされている。
豊四季一郎 : その暴行に深く関与したことも、六実優もまた死亡したことを知っている。
豊四季一郎 : しかし、吸血鬼なる存在がいて、それに殺されたということを、
豊四季一郎 : 娘のイズミが狩人であることは、当然知らないでいる。
豊四季 一澄 : その認識は交わることはない。表層だけを聞けば何もかもを知っているような言葉が、まったくそうでないように。
豊四季 一澄 : 交わらせるつもりもない。警察に呼ばれて行った後、両親が述べ出した理解を遮らなかったように。
豊四季一郎 : 「……イズミ。怪我は痛くないか」
豊四季 一澄 : 流し続けていた涙にひきつけを起こす喉は、まだうまく働いてはくれなかった。やむなく首を横に振るのみで返す。
豊四季一郎 : あなたをまっすぐ見る。特別ではない、どこにでもいるような、サラリーマンの父だ。
豊四季 一澄 : 一馬のあの姿に比べたら、このなにが痛いものか。
豊四季 一澄 : 覗き込む父の姿が前にある。平凡で、どこか冴えないけれど、取り立てて嫌うところもない、見慣れた父の表情は。
豊四季 一澄 : 見たこともないほど、陰鬱に沈んでいる。
豊四季一郎 : 「お前達は双子だ」
豊四季一郎 : 「そうとわかったときから、絶対に平等に愛すると、妻と語りあったものだ」
豊四季一郎 : 「ましてや今の時代、長男だ長女だって時代でもないからね」
豊四季一郎 : 「カズマが……こうして、いなくなっても……」
豊四季 一澄 : それは幾度も聞かされた言葉だった。それこそ、自分たちの名の由来を聞いた時から。
豊四季一郎 : 「同じように、二人を平等に想う、つもりでいる」
豊四季 一澄 : 『二人とも一番に決まっているから』
豊四季 一澄 : その心はこんなことがあって尚揺れていなかった。例え弟が一人、永遠に制服を脱ぐことがなくても。
豊四季一郎 : 「だからもし、これから失ったカズマについて考えすぎていると思ったら」
豊四季一郎 : 「遠慮なく、そう言ってほしい。父さんだけじゃなくて、母さんにもだ」
豊四季一郎 : 「それは、家族全員に対しての約束だからだ」
豊四季一郎 : 「カズマについて、想いすぎることも、それは……カズマを裏切ることになる」
豊四季一郎 : 「お前達は、双子で、カズマと、イズミだ」
豊四季一郎 : 「それは、いつだって、かわりはしないんだ」
豊四季 一澄 : 二人がともに笑っていても、喧嘩をしていても、そうだった。片割れのいなくなった今でも、そうだという。
豊四季 一澄 : ならきっと、そうなんだろうと思えた。
豊四季 一澄 : この先、永遠に秘密を抱えて生きていったって。
豊四季 一澄 : 父の言葉は、手の中にわずかに残る日常の名残。双子ふたり、家族四人で生きた続きを、いま生きていることの証。
豊四季 一澄 : 「……うん、…………うん……」
豊四季一郎 : 父はあなたを強く抱きしめ、頭を撫でた。
豊四季 一澄 : 何年ぶりだろう。年頃になってからは、そんなことをされた覚えなどない。されたとして、こちらから拒んでいただろう。
豊四季 一澄 : だけど今は、
豊四季 一澄 : すぐそばにある、はっきりと生きている人の気配が、
豊四季 一澄 : ほんとうに、うれしかった。

system : [ 豊四季 一澄 ] 狂気 : 3 → 2
豊四季一郎 : こんなところですかね……。
豊四季 一澄 : はい!  死の隣り合う夜から離れて狂気も少しだけ減少。
豊四季一郎 : あ、その話をしなければ。
豊四季 一澄 : ルールブック的にはセッション終了時減少なので、もう少し後なのかなと思っていました。
GM : とはいえ、タイミングがぴったりですからね。
GM : ロール的にね。
豊四季 一澄 : そうですね、ちょうどよく纏めてもらえて大変助かりました。
豊四季 一澄 : 死に関する真実はひとりで背負うしかないけれど、死自体の哀しみは分かち合える…
GM : というわけで、イズミさんの結果フェイズはこんなところですね。
GM : どうもありがとうございました。
GM : 失うものはありましたが、あなたは生きて家に帰りました。
GM : あなたがカズマを失ったように、あなたの身の回りの人もまた、同じようにカズマを失いました。
GM : そのなかでも日常はあり……あなたの狂気もわずかに解けていきました。
GM : というわけで、最後、ナユですね。
多宝院 那由 : はあい。

結果フェイズ:多宝院 那由

GM : あなたが最後に記憶している夜の暗さとは一転し、
GM : そこには白い天井がある。
多宝院 那由

多宝院 那由 : 目を開ける。視界に映るのは、暗闇か、血の赤だと思っていた。起きたなら、まだ戦わなければいけないと、思っていた。
GM : 血を失う身体の冷たさ。冷たさとは温度の不在であることをこの上なく実感させられたあの冷たさはない。
GM : 天井と同じように真白い寝具が、あなたを温めている。あなたの身体に充溢している、血液もまた。
多宝院 那由 : 白い。白がそこにある。瞬きして、目を拭ったが血で濡れてはいない。ゆっくりと身を起こして、辺りを見回す。
七栄等花 : 「ナユ!」
七栄等花 : 「ナユ!!」
七栄等花 : 「ナユナユ!!!!」
多宝院 那由 : 「!」
多宝院 那由 : 「……トウカ……」
多宝院 那由 : 「…………あの、僕は……えっと。……何から聞いたらいいかな」
多宝院 那由 : 等花を見て、緊張していた表情の筋肉が緩むのを感じる。
多宝院 那由 : 眩しい。
七栄等花 : 涙を目一杯浮かべて、抱きつこうとして、その管がいっぱいついた身体に遠慮して、踏みとどまる。
七栄等花 : 「……よかった」
七栄等花 : 「もう目を覚まさないのかと、思った」
七栄等花 : 「いっぱい、心配した」
多宝院 那由 : 「うん」
多宝院 那由 : 「……うん」
多宝院 那由 : 手をのばす。等花のほうへ。
七栄等花 : それに応える。
多宝院 那由 : 触れる。撫でて、そうっと引き寄せて、抱きしめる。
七栄等花 : さきほどまで強く握りしめていた手は白く、冷たく、汗ばんでいる。
七栄等花 : じっとして、ただ抱きしめられている。まだ触れれば、壊れてしまうんじゃないかと、怖れている。
多宝院 那由 : 等花より暖かい、自分の手。すこし動かしてみる。血が通っているのを、感じる。
多宝院 那由 : 「……ありがとう」
七栄等花 : 「ううん」
七栄等花 : 「私が……」
七栄等花 : 「思い詰めさせちゃったよね。無理させちゃったよね」
多宝院 那由 : 「……ううん、違うよ」
多宝院 那由 : 「これは、僕が選んだ」
多宝院 那由 : 「誰かのせいじゃない。誰も悪くない」
多宝院 那由 : 「ぜんぶ僕がしたことだ」
多宝院 那由 : 「……。……今日って、何月の何日?」
七栄等花 : 「5月の、22日」
多宝院 那由 : 「……ああ、」
七栄等花 : 「意識不明の重体で、もうだめかも、って、お医者さんに言われた」
多宝院 那由 : 「……そっ、か」
多宝院 那由 : 「……ごめんね。3日以外の怪我にするって約束、守れなくて……」
七栄等花 : 「……ううん」
七栄等花 : 「生きててくれて、こうして話してくれるだけで、いいよ」
七栄等花 : 「ずっとこうして目をさまさないナユを見てて」
七栄等花 : 「それでも、生きててくれて、よかったって、考えてた」
七栄等花 : 「だから、今、私は、すごく……嬉しい」
多宝院 那由 : 「……ありがとう」
七栄等花 : 「ナユが息をしてたり、瞬きしたり、笑ってくれたり」
七栄等花 : 「お話をしてくれて、ぎゅっとしてくれて」
七栄等花 : 「全部、すごく、嬉しい」
多宝院 那由 : 「……うん」
多宝院 那由 : 等花に触れる。体温が伝わる。日常が、幸せがある。
多宝院 那由 : 幸せだ。間違いなく、この手で守りたかったもの。あの夜、自分の部屋に来たときの震えるその手先は、いま熱を取り戻している。
多宝院 那由 : きっとこれからも、日常が続いていく。……そうして、思い出す。「……そういえば。学校は?」
七栄等花 : 「月曜日……25日から再開だよ」
七栄等花 : 「……暴行事件、ってことになってね」
七栄等花 : 「しばらく、結構ごたごたしてたんだよ」
七栄等花 : 「学校にパトカーが突っ込んだり、拳銃が見つかったり。六実会長は、いなくなって」
七栄等花 : 「それに、豊四季くんが、死んじゃったって」
多宝院 那由 : 「……学校にパトカーが、」
多宝院 那由 : 「……、」
多宝院 那由 : 「…………え?」
多宝院 那由 : 「……どういう、…………なんで」
多宝院 那由 : そうだ。薄れゆく意識の中、その名前が呼ばれたことが僅かに記憶にあって。
七栄等花 : 「暴行事件に巻き込まれたってことに……なってるけど」
七栄等花 : 「私、聞いちゃったんだ」
多宝院 那由 : 赤い夜の夢であってほしいと、何かの間違いだと、願っていて。
七栄等花 : 「吸血鬼の会長を、豊四季君がパトカーで轢いたんだって」
七栄等花 : 「そのときに、刺されちゃったんだって」
多宝院 那由 : 「――――っ、」
多宝院 那由 : 「……なんで、」
多宝院 那由 : 「どうして、……そんな、」
七栄等花 : 「ナユ」
七栄等花 : 「……ナユ」
七栄等花 : 「……それでも」
多宝院 那由 : 「だって、僕が、……だって、……」
七栄等花 : 「それでも私は、嬉しいよ」
七栄等花 : 「それでも私は……ナユが、こうしていることが、私は、嬉しいの」
多宝院 那由 : 涙を拭うハンカチもなく、雫が頬を伝い、落ちていく。いくつも。
多宝院 那由 : 「……っ、……トウカ……」
七栄等花 : 涙を流すナユを、じっと見ている。その涙が零れる様を。
七栄等花 : 「だから、責めないで」
七栄等花 : 「私はさ」
七栄等花 : 「日常って、ずっと続かないんだって、」
七栄等花 : 「永遠なんて、なくて」
七栄等花 : 「急に壊れちゃうってことを、知ってる」
七栄等花 : 「それまで部活に来てたのに」
七栄等花 : 「急にナユが辞めるって聞いて」
七栄等花 : 「そういうことを、思ったんだ」
七栄等花 : 「ずっと続いてほしいって、思ってた。今でも思ってる」
七栄等花 : 「そこにいるのが当然だって思ってた。ナユも、豊四季くんも」
多宝院 那由 : 「……っ、」
七栄等花 : 「だから」
七栄等花 : 「ナユが、こうして、ここにいるのが」
七栄等花 : 今度はトウカがナユの手を取り、抱きしめる。
七栄等花 : 恐る恐る頬を寄せる。
七栄等花 : 「本当に」
七栄等花 : 「本当に、嬉しい」
多宝院 那由 : 抱きしめ返す。その力は細く弱く、強さをどれだけ願っても、意識が戻りたての怪我人以上の力は出せない。
多宝院 那由 : 「……、」
多宝院 那由 : 「……怖いよ」
多宝院 那由 : 「……こわい」
多宝院 那由 : 「僕の力だけじゃ何もできないことが、」
多宝院 那由 : 「僕の手から溢れてしまうものがあるのが」
多宝院 那由 : 「……僕が、ひとりの人間である、とわかってしまうことが」
多宝院 那由 : 「……っ、……トウカ、」肩が震えている。触れたところから、きっと伝わる。
多宝院 那由 : 「トウカ、……僕は、」
多宝院 那由 : 「君が…………」
七栄等花 : 抱きしめて、頷いている。何度も頷いた。
多宝院 那由 : その先のことばは、ことばのかたちを涙でぼかして、耳元でそっとささやかれて、消毒薬の香りがする空気に溶けた。
七栄等花 : 「……」
多宝院 那由 : ずっと泣いていた。子供のように。
七栄等花 : 一つ、間を置いて、それからしっかりと、トウカは頷いた。
七栄等花 : 「わたしは、知ってるよ」
七栄等花 : 「私にはね、トウカはね、ずっと、ひとりの、人間だって」
七栄等花 : 「ずっと見てたから、隣で」
七栄等花 : 「だから、知ってる」
七栄等花 : 「トウカは、ナユが一人の人間だってことを、ちゃんと知ってる」
七栄等花 : 「だから、大丈夫だよ」
七栄等花 : 「多分、きっと、こわいことって、いっぱいあって、」
七栄等花 : 「全然大丈夫じゃないことも、いっぱい、あると思うけど、でも」
七栄等花 : 「大丈夫」
多宝院 那由 : 「……だい、じょうぶ」繰り返す。
多宝院 那由 : 「…………そっか、」
多宝院 那由 : 「……だいじょうぶ……」
多宝院 那由 : 何度も、何度も。初めて言葉を覚えたように、その言葉を繰り返して。
多宝院 那由 : 「……うん、」いつしか涙は止まって。
多宝院 那由 : 「ありがとう、」
多宝院 那由 : そっと等花の手を握る。
七栄等花 : 軽く握り返す。ここにいるということを示すように。
多宝院 那由 : 「……。……あのね、お願いがあるんだ」
七栄等花 : 「なあに?」
七栄等花 : 首を傾げる。二つに結んだ髪が揺れる。
多宝院 那由 : 「僕の銃に」
多宝院 那由 : 「なまえを、つけてほしくて」
多宝院 那由 : 「……今じゃなくてもいいんだ。気が向いたとき、思いついたらでいい」
多宝院 那由 : 「……だめ、かな」おそるおそる、目を見つめて。
七栄等花 : 「大丈夫」
七栄等花 : 「考えておくから、待ってて」
多宝院 那由 : 「うん」
多宝院 那由 : 「ありがとう」
七栄等花 : 開いた窓から春の風が吹く。カーテンが棚引く。日差しを受けて白んだカーテンは、あるいは光そのものが部屋に舞い込んできたようだった。
七栄等花 : あなたはあの夜を生き残った。戦い抜いた。だから今ここに生きている。
七栄等花 : 死の門に背を向け、永遠への誘いを背き、夜の底からここまで帰ってきた。
七栄等花 : 今ひとたびは、安らかな時間を過ごす。いずれまた来る、その夜まで。

GM : 学校は再開した。
GM : パトカーの衝突した箇所はまだ工事中で布で覆われているものの、学校には日常が取り戻された。
GM : しかし、あの夜を境に空席が増えた。
GM : 誰もがその席を視界に入れたとき、小さくうつむいて、失ったものを思う。
GM : それでも……日常は取り戻された。
GM : しかし、それから数日後。
GM : 再び、失踪者が出る。
GM : その失踪者は学内だけでなく、学外にも及んだ。六分儀市の街では、奇妙な失踪事件が相次いだ。
GM : 反理想郷血戒の失われた今、その失踪はもはや取り繕われない。
GM : まだこの街には、吸血鬼が潜んでいる。
GM : *
GM : *
GM : *
GM : ――『#2 夜に閃く / GoodBye, All Right.』に続く。

GM : というわけで、今流行りのブラッドムーン体験卓
GM : #1 夜に落ちる / Slip into the Night
GM : これにてお終いです。
GM : ありがとうございました~~!
多宝院 那由 : ありがとうございました!!!!!
九鹿 愛佳 : ありがとうございました!!!
豊四季 一澄 : ありがとうございました――!!!