これは何かって?

ここには奇跡も魔法も救済も慈悲も情もないけど、

そうじゃない何かがあったかもね、って話。

別になかったかもしれないけど。

好きに信じればいいし、まあ、なんでもいい。

どうあれ、結末が変わることなんてないんだから。

Schrödinger's night

スティブナイト
スティブナイト
簡単なことだ。
スティブナイト
心の疵の力は、幻覚を見せることと、人の心身を壊す結晶を生み出すこと。
スティブナイト
だから、救世主が来たら、まず幻覚を見せたりして、心の疵を抉って。
スティブナイト
それで不安定になったところに、黒結晶を突き刺す。
スティブナイト
そうして、心の疵の状態をおかしくする。
スティブナイト
一人で来たならそのまま自殺させるか、発狂するのを待てばいい。
スティブナイト
仲間がいるのなら、そいつを泳がせれば仲間も一緒に抉れていく。
スティブナイト
そうやって戦ってきた。
スティブナイト
スティブナイト
おそらく、こいつがパーティの主戦力だろう。
スティブナイト
あの薔薇の男は人を積極的に殴るようなやつには見えず、
スティブナイト
堅物の男も、殴れはするだろうけど理性が猟奇性を押し留めているように見えた。
スティブナイト
二人がこの女を連れて歩く理由は、パーティに人を殺める力が必要だからだろう。
スティブナイト
だから、まずはこいつからだと。
スティブナイト
そう思った。
スティブナイト
驚くほどうまくいった。あるいは、「いつも通り」とでも言うべきか。
スティブナイト
それを確認して、敵のいるところから去り。
スティブナイト
それなのに。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
後ろを振り返る。
ササナ
胸の穴が黒結晶によって埋まり、全てがどうでもよくなってから…ササナはずっとスティブナイトの後ろをついていっていた。
ササナ
焦げ落ちた衣服はそのままに、胸と結晶をさらけ出しながら…何もわからぬ雛のようにその背中を追いかけていた。
スティブナイト
黒結晶の力は、人を思うようにコントロールできる力……では、ない。
スティブナイト
絶望、諦観、そういった気持ちを埋め込むだけ。
スティブナイト
だから、埋め込まれた後どうなるかは、やってみるまでわからない。
スティブナイト
大抵は死ぬか、暴走して味方に危害を加えるか、そのまま森を出て公爵家か何かの組織に殺されるか。
スティブナイト
後をついてこられたことはなかった気がする。
スティブナイト
「…………」
立ち止まる。
ササナ
あなたが立ち止まれば、ササナも立ち止まる。
スティブナイト
そうして女を見た。……服は焼け焦げて、ひどい有様だ。
スティブナイト
「……迷った?」
ササナ
「………」
突然声をかけられたからか、すぐに返事はかえってこない。
ササナ
今のササナは、上手く思考することができていない。
だから今、何を話しかけられて…それが何を意味するかを理解するまで少しの時間が必要だった。
ササナ
「………迷っては、ない…と思います」
ササナ
ようやく返した言葉も、どこか曖昧だ。
ササナ
そもそも、ササナはどこかに向かっていたというわけではない。
ササナ
あの場所に留まっていたくないと思っていたところに、あなたの背中があったからついていっていただけだ。
スティブナイト
「……そのままじゃ」
スティブナイト
「何をしようにも不便だろう」
スティブナイト
指さす。女の胸元を。
スティブナイト
再び歩き出す。
スティブナイト
「ついてこい」
ササナ
ちら、と自分の胸元を見てから…黙ってその言葉に従う。
スティブナイト
静かな森を歩く。
スティブナイト
静寂に包まれた森に、ふたりぶんの足音。
スティブナイト
しばらく歩けば、開けた場所に出る。
スティブナイト
近くを川が流れていて、その水音だけがする場所。
スティブナイト
開けたところの中央には、高さが人間の身長の倍かそれ以上はあろうかというくらいの、大きな黒結晶。
スティブナイト
その向こうに、小さな小屋が見えた。
ササナ
その景色でさえ、今のササナの目には入らない。
『ついてこい』、その言葉だけがササナの体を動かしていた。
スティブナイト
黒結晶が蝶のように舞う、その横を通って。
スティブナイト
半分ほどが黒く固い結晶に覆われた、小屋に辿り着く。
スティブナイト
他の小屋と違って、その小屋だけは壊れておらず、使われていて――つまりは、そこがこの森の主の住処ということだった。
スティブナイト
その扉を開ける。音一つ立たずに扉が開く。
スティブナイト
中に手招きする。
ササナ
「………」
手招きをされたなら、黙ってそれに従う。
スティブナイト
薄暗い部屋。窓一つない。
スティブナイト
生活用品と言えるものはほとんどない。
スティブナイト
そこかしこに黒結晶が生えていて、青く光って、それが部屋を薄ぼんやりと照らしている。
スティブナイト
置いてある家具は、ベッドとベッドサイドテーブル、それと棚くらい。
ササナ
いつものササナであったなら、部屋の中をきょろきょろと見回して黒結晶の明かりなどを興味津々で覗き込んでいたことだろう。
ササナ
今は、ただ立っているだけ。
一定の距離を保ちながら、目の前のあなたをじっと見つめている。
スティブナイト
「座んなよ」
スティブナイト
ベッドを指差す。
スティブナイト
床は結晶が生えていて座れば傷付く。
スティブナイト
この小屋で安全な場所はベッドの上くらいしかないだろう。
スティブナイト
黒い布と黒い木でつくられたベッド。
ササナ
「………はい」
素直に従い、ベッドに腰掛ける。
スティブナイト
心の疵の力で木が補強してあって、座っても、仮に飛び込んだとしても、音一つ立たない。
スティブナイト
滑らかな触感の、この国では厚めの布が、木の上に敷かれている。
ササナ
「………」
座ったなら、また沈黙する。
スティブナイト
それを確認すれば、女に背を向けて棚を探り出す。
ササナ
絶望する前であったなら、あなたに聞きたいことも多くあっただろうが…今はもう、そこまで興味がない。
スティブナイト
しばらくして、お前に黒い布が投げられた。
スティブナイト
「…………大きすぎたりはしないと思う」
スティブナイト
「何も着てないよりマシだろ」
ササナ
手元に投げられたその布を受け取って、視線があなたに向けられる。
ササナ
「………いいんですか?」
スティブナイト
「一つ減ったくらいで、困らない」
スティブナイト
それよりもお前が動けなくなる方が問題だと判断した。
ササナ
「…そう、ですか」
胸がさらけ出されていても、今のササナはそこまで気にする様子もなかったが着ていいと言われたならば素直にそれを受け取る。
ササナ
ボロボロのまま纏わり付いていた衣服を払い、その黒い布に袖を通す。
ササナ
しばらく、衣擦れの音だけが部屋の中に響く。
ササナ
「………」
着終われば、また沈黙。
ササナ
今のササナからは、感謝の言葉はない。
スティブナイト
外に出ようとして、扉の前で手を止めた。
スティブナイト
「……ああ」
スティブナイト
「夜か」
スティブナイト
この森にも、一応夜はある。昼だって薄暗いが。
スティブナイト
二人はそろそろ調査を一度中断し、仮眠を取る頃だろうか。
スティブナイト
ここに来るまでの途中、物資が入った箱は見かけていない。おそらくは、二人のところにあるのだろう。
スティブナイト
この女をこのまま放り出せば、この状態で夜のこの森を彷徨うことになる。物資もないから、寝るためのものもろくにないだろう。
スティブナイト
それに、この女の疵がどうなっているのか、今の状態ではよくわからない。
スティブナイト
一応どこにいても結晶の力である程度わかるが、ここで様子を見たほうが確実だろう、と思う。
ササナ
今のササナなら、出て行けと言われれば何の文句もなく出て行くだろう。
スティブナイト
それをする利点がない、と思った。
スティブナイト
このまま夜を明かして、翌日にあの二人をどうにかしてもらったほうがいい。
スティブナイト
まあ、あまり他の救世主を信じてもいないけど。
スティブナイト
それでも、可能性が高い選択肢ではあるだろう、と判断した。
スティブナイト
背を向けてベッドに腰掛ける。
スティブナイト
「今日はもう寝ろ」
ササナ
隣にあなたが来たのなら、目線だけをそちらに向ける。
ササナ
はい、と返事をしてから一拍置き
ササナ
「…どこで、ですか?」
スティブナイト
「……?」
スティブナイト
「この状況で床で寝るつもりか、お前……」
ササナ
「…でも、このベッドはあなたのですよね」
スティブナイト
「…………?」
スティブナイト
「そうだけど……」
スティブナイト
「俺は寝ないよ」
ササナ
「………別に私、何もしませんよ」
スティブナイト
全然わからない、という顔をしている。
スティブナイト
「ある程度の結界みたいなのはあるけど、ほら」
スティブナイト
「外で何かあったら困るだろ」
ササナ
「そうですね…」
スティブナイト
俺もこのざまだしね、なんて言って笑った。
ササナ
「じゃあ…」
ササナ
「私が使って、いいんですか」
そう言いながら、ベッドのシーツを軽く撫でる。
スティブナイト
「うん」
スティブナイト
「嫌?」
ササナ
「いいえ」
ササナ
そう言いながら、靴を脱いでいく。
ササナ
そして、そのまま足をベッドの上へとあげる。
ササナ
シーツを撫でながら、体をずらしてベッドに潜り込んでいく。
ササナ
胸の穴を埋めている黒結晶が邪魔をするため、横向きになってベッドに転がる。
ササナ
視線はあなたの背中に向けられている。
スティブナイト
それを見ている。
ササナ
少しの沈黙のあと、ササナは口を開く。
ササナ
「………あの」
ササナ
少しの間が空く。
自分の中で、言葉を選ぼうとするが…それもすぐに諦める。
ササナ
「私を、殺さないんですか?」
スティブナイト
「ああ」
スティブナイト
「少なくとも、今晩のうちは」
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
少し考える素振りをして。
スティブナイト
それからマントを脱いだ。
スティブナイト
「はい」
スティブナイト
「俺もなにもしないよ」
ササナ
「…そう、ですか」
少しだけ、驚いたように…納得したように表情が変わる。
ササナ
それを聞いたからか、少しだけ体から力が抜けてベッドに沈み込む。
ササナ
ベッドに横になってはいるが、目を瞑ることなくぼうっとあなたの背中を見つめている。
ササナ
体はきっとひどく疲れているだろうし、このまま目を瞑ってしまえば深い眠りにつけるとも思った。
ササナ
しかし、胸の穴を埋めているこの黒結晶が…さらに満たされたいと何かを欲していた。
ササナ
「あの………」
ササナは目の前に見える背中に話しかける。
スティブナイト
「うん」
スティブナイト
それをずっと見ていた。
スティブナイト
「どうした?」
ササナ
「……………手」
ササナ
ササナは自分の手を、あなたの目の前に無造作に放り出す。
ササナ
「触ってもらえませんか?」
ササナ
それは、今まで自分が押さえ込んでいた欲の…ほんのひとかけら。
スティブナイト
絶望によってできた疵なのか、癖なのか、まだ判断がつかない。
スティブナイト
言われた通り、手に触れる。
ササナ
布ごしに感じる人肌の感覚。
スティブナイト
あの二人にもこうして手を触られて寝ていたのだろうか、と思う。
ササナ
ササナが悪夢にうなされていると、あの二人は優しく手を握って
ササナ
それがおさまるのをずっと見守っていてくれた。
ササナ
暗闇に飲まれた意識の中、その手の暖かさが私を包んでくれたことをぼんやりと覚えている。
ササナ
その手は、今ここにはない。
ササナ
今指先に感じるのは、布ごしの冷たい手。
スティブナイト
ずいぶんと不器用な手だ。
スティブナイト
その二人に比べれば。
スティブナイト
人に触れたこともろくにないような手。
ササナ
あの時の暖かさは確かにない。
けれど、じんわりと満たされていくこの感覚は…
ササナ
嫌いではなかった。
ササナ
最初は指先だけで満足していたそれも、次第にあなたの手を引き寄せるようにササナは手を伸ばし始める。
ササナ
指を絡め、握り、手袋の中にあるその手の輪郭を確かめていく。
スティブナイト
その手は、ひやりと冷たい感触がする。
スティブナイト
ぴく、と小さく跳ねて、それでも抵抗はしない。
ササナ
その冷たい手に、自分の熱を与えるように…自分の指を押し付ける。
ササナ
ササナのその手は、ひどく傷だらけで…肌は荒れておりガサガサしている。
ササナ
もっと奥へ、奥へと…手袋の隙間から指を差し込んでいく。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
溜息をひとつ。
スティブナイト
「すこし待ってろ」
ササナ
「………うん」
そう言って、手をゆっくりと引き戻す。
スティブナイト
手袋と腕の装飾を取って、たたまれたマントの上に置いた。
スティブナイト
そうして靴を脱いで、あなたの隣に寝転ぶ。
スティブナイト
手を差し出す。
ササナ
「………」
手が離れていた時間は、そう長くはなかったはずなのに…待ち焦がれていたかのようにその手にまた指を絡ませる。
スティブナイト
女の、やわくて細い手。
スティブナイト
結晶のように冷えている。
ササナ
今度はしっかりと伝わる冷たい肌の感覚。それをなぞるように指を這わせ、熱を混じらせていく。
スティブナイト
細く息を吐く音。
スティブナイト
熱いな、と思う。
ササナ
爪の感触を指の腹で確かめ、そのまま指の関節を摘みながら手の甲へと肌を擦り合わせていく。
スティブナイト
爪は普通の人のものより硬くて、黒い。
スティブナイト
色が塗られているわけではなく、元から黒結晶と同じ材質のものが生えているようだった。
スティブナイト
細い骨。柔らかく、滑らかな、傷一つない女の肌。
スティブナイト
無意識に太腿を擦り合わせていて、そのせいで布が少し動いた。
ササナ
手に触った時の反応が、そのか細く冷たい手が…何故か少しだけ愛おしく感じた。
ササナ
だから。
ササナ
ササナはその愛おしい手を引き寄せて、自分の口元へと持ってくる。
ササナ
自分の胸を埋めてくれている結晶と同じ色のその爪に、ササナは軽く口づけをする。
スティブナイト
小さく、息を吐く音。
スティブナイト
「…………っ」
スティブナイト
さきほどより肌に熱がある。
ササナ
その吐息を聞いたならば、もう一度指に口づけをして…そのまま唇を指に這わせる。
スティブナイト
僅かに震えた。
スティブナイト
血で仄かに赤く染まった瞳が見つめている。
ササナ
見つめられたならば、自らも吐息をこぼしながら見つめ返す。
ササナ
口づけをしていたあなたの手に頰を寄せる。
スティブナイト
いつもこういうことをしているんだろうか?
スティブナイト
こうやって優しく触られた経験がない。
スティブナイト
だからどうしたらいいか、わからないでいる。
スティブナイト
「…………あ、の」
スティブナイト
「嫌じゃ、ないのか……」
ササナ
「…嫌じゃない」
そう返している間も、指先を撫でるのをやめない。
スティブナイト
さきほどから、頷くばかりで大人しくて、疵がどう悪化していたのかわからなかった。
スティブナイト
嫌じゃない? これが?
スティブナイト
わからないまま、翻弄され続ける。
スティブナイト
息が少しずつ、乱れていく。
ササナ
「あなたは、嫌…?」
そう聞きながら、手を撫でる動きを止める。
スティブナイト
否定する代わりに、目を閉じた。
スティブナイト
「……別に」
スティブナイト
「好きにしたらいい……」
ササナ
「………うん」
ササナ
そう言って、さらに手を伸ばし
今度はあなたの肩に手が触れる。
ササナ
そのまま肘の方へと手を滑らせていき、その肌の柔らかさを確かめる。
スティブナイト
どんなに脅威度が高くて周囲から恐れられている救世主でも。
スティブナイト
心の疵がどこまでも女の身体であることを定義している。
スティブナイト
滑らかで白い肌。
スティブナイト
細くて、けれど柔らかい。
ササナ
「………」
目を細め、顔をあなたの胸元に寄せる。
ササナ
額をこすりつけながら、手はまた別の場所に伸びていく。
ササナ
あなたの腰に手を置いてから、そのまま太ももへと流れていく。
スティブナイト
鼓動が聞こえる。
スティブナイト
それは普通の状態のときより、いくらかはやい。
スティブナイト
太腿に手が触れれば、小さく息を呑むような声が出た。
ササナ
ササナには、普通の時との違いはわからない。
けれど、確かにあなたの脈動はこうして伝わってくる。
ササナ
「ねえ、スティブナイトさん」
あなたの胸元から声が聞こえる。
ササナ
あなたの手に、脚に指を這わせながらササナは口を開く。
ササナ
「キスしてもいいですか?」
ササナ
目を蕩けさせながら、あなたを上目遣いで見つめる。
スティブナイト
人に触れたいのが心の疵ならば、人を探して森の外に出たり、二人のところに戻るよりはいくらかマシだっただろう、と思いながら、
スティブナイト
その一方で、自分と目の前のこの女にとっての、この行為の意味について考えていて、
スティブナイト
けれどそれを、太腿に這う手が、乱していく。
スティブナイト
「…………」
スティブナイト
返事はしない。その代わりに、口元をおさえていた手をどける。
ササナ
返事は聞こえなかった。
けれど、その行動で察することはできた。
ササナ
首を伸ばして、顔を寄せる。
ササナ
もう鼻と鼻が触れ合うかという距離で、一度止まる。
ササナ
「…しますね?」
これは再度の確認でもあり、宣言でもあった。
スティブナイト
目を閉じる。
ササナ
あなたが目を閉じたと同時に、唇に何かが触れる感触が伝わる。
ササナ
まずは触れ合う程度。触れて、わずかに離れて、また触れて。
スティブナイト
柔らかな唇が触れる。
スティブナイト
触れる温度を、行為を、確かめて、その続きについて少し考えて。
スティブナイト
唇の力を抜いて、少し口を開けばいい、ことくらいはわかる。
スティブナイト
その続きを知らない。
ササナ
そうやって誘われたなら、あなたの下唇を咥えて…感触を押し付けて、またすぐに離れる。
ササナ
開かれたその口に、すぐに誘われてはあげない。
ササナ
触れて、咥えて、少し離れて…それを繰り返す。
ササナ
その間にも、あなたの脚に…手に指を這わせていく。
スティブナイト
薄く目を開いて、すこし困ったように瞳を見つめる。
スティブナイト
何か違うのか、と思って唇を閉じかけて、
スティブナイト
指が這う刺激で唇が開いて声が出る。
ササナ
その困ったような瞳を見つめながら、口元を緩ませる。
ササナ
その口から漏れる声を抑えつけるように、あなたの唇にササナの唇が押し付けられる。
ササナ
開いていたその口の中に、柔らかい感触が侵入する。
ササナ
これを待っていたの?と言わんばかりに、あなたの唇を舌がなぞっていく。
スティブナイト
びく、と身が跳ねた。
スティブナイト
「っ、…………っ、ふ……あ、っ」
スティブナイト
声が漏れる。
スティブナイト
口の中がかき回されて、その刺激でなにかが溶けていく。
スティブナイト
足を伸ばして、絡める。
スティブナイト
なにかを求めて。
ササナ
さっきまで乾いていた唇が濡れていき、分け与えていたはずの熱はいつの間にか自分の体をも溶かしていた。
ササナ
伸ばされてきた足に、自分の足を絡ませて…その上で抱き込むように太ももの肉に指を押し付ける。
ササナ
唇が長く交わっていたことで、体は呼吸を求め始める。
それでもまだ、もう少しと…ササナもなにかを求めるように唇を押し付ける。
ササナ
空気を求めて、体がさらに熱を発する。
そうして脳が焼けるような熱さになってようやく…、お互いの唇は解放される。
スティブナイト
荒い息。呼吸ができなくて、脳に酸素が回らなくて、思考が溶けていって。
スティブナイト
潤んだ瞳。蕩けた顔。
スティブナイト
瞳の色は血が巡って赤みが増している。
スティブナイト
熱い。ずっと冷たかった身体が、もうどうにかなってしまうくらいに。
スティブナイト
今なら殺されても何の抵抗もできないな、と思った。
スティブナイト
身体の外が、内が、熱を持って疼いている。
スティブナイト
これが何なのか、いくら考えたって答えは出ない。
スティブナイト
足を挟む力がいつの間にか強まっていた。
ササナ
今ならきっと、あなたを楽に殺せるのだろう。
けれど…今のササナに、そんな考えは微塵もない。
ササナ
ただ今、自分の目の前にあるこの潤んだ瞳を、蕩けた顔を、とてもとても愛おしいと感じていた。
ササナ
「ん………」
絡ませている足にさらに力を込められて、こちらも思わず声が漏れる。
ササナ
「…どう、しますか?」
答えのない問いを投げかけながら、あなたの頰に手を滑り込ませていく。
スティブナイト
「っ、…………」
スティブナイト
どう思われているか、それが何の問いなのか。わからない。
スティブナイト
「なに、が……」
スティブナイト
いや。
スティブナイト
どうって、だって。
スティブナイト
続きを求めてるに決まってる。
スティブナイト
その言葉に、何も続くことはない。けれど、そのかわりに。
スティブナイト
肩に触れて、少しだけ引き寄せる。
スティブナイト
こんなことをしていいのか、と理性が問うた。
スティブナイト
こいつをこのまま外に出すよりいいだろう、と悪魔が囁き返した。
スティブナイト
だから。このまま。朝まで。
ササナ
頰を撫でながら、その手はあなたの耳に触れ、耳たぶを優しくつまむ。
ササナ
肩を引き寄せられたなら、胸の結晶に気をつけながらもそのまま体を寄せる。
ササナ
もう一度問いかけることもしない。
ササナ
顔を寄せて、また唇を触れ合わせる。
今度は、最初から貪るように唇を押し付けて舌を絡ませる。
ササナ
混ざり合ってしまうのではないかと思うほどに、唇を押し付け、相手の口の中を犯していく。
ササナ
絡んでいた足を、あなたの足と足の間に押し付け、擦り付ける。
ササナ
ササナの手があなたの下腹部を撫で、上から下にかけてゆっくりと圧をかける。
スティブナイト
これじゃああの大男と同じかも、なんて思って。
スティブナイト
けれどこれで心が疵つくことはない。
スティブナイト
これでは疵付けられない。どこまでも、暴力の形をしていない。
スティブナイト
そして今は疵付けることを選んでいない。
スティブナイト
「ふ、ぁ……あ、ん……っ、」
スティブナイト
喘ぐ。唇の隙間から声が漏れる。
スティブナイト
「……っ、ぁ、は……っ」
スティブナイト
下腹部を撫でられれば、びく、びくと数回震えて、手の力が強まる。
ササナ
ササナは今、自分の欲で動いている。
触れ合いたいという欲、相手の反応をもっと見たいという欲。
ササナ
そこに猟奇はなく、ただ愛があるだけ。
ササナ
漏れる喘ぎ声をついばむように、唇を交わらせてあなたの反応を見る。
ササナ
下腹部に手を、足の間に太ももを押し付けながら…ササナはあなたの唇に唇を触れながら吐息と共に言葉を吐く。
ササナ
「服、脱がすね」
ササナ
それは問いかけでもなく、ただの宣言。
ササナ
あなたの答えは、もうわかっている。
ササナ
手が、あなたの衣服に伸び…肌との間に入り込む。
ササナ
緩んでいたベルトを外し、チャックに手をかける。
ササナ
すぐに全部を下ろすことはせず、ゆっくりと…時間をかけて下ろしていく。
ササナ
止めようと思えば止められるような、そんな速度で。
スティブナイト
わからない。愛のことが。
スティブナイト
どうして衝動がこうなるのか、欲がどうして自分に向けられているのか。
スティブナイト
その欲がどうして、暴力のかたちをとらないのか。
スティブナイト
これが、目の前にいるのが、男だったら。
拒んでいたし、嫌がっていた、と思う。
スティブナイト
酷く扱われたら、きずついていただろう。
スティブナイト
そうしたら殺すことなんか簡単だったはずで、
スティブナイト
でも、そうじゃない。
スティブナイト
呼吸は乱れて、唇が離れたとして、声はもうおさえられなくて。
スティブナイト
その手を止めることはない。
スティブナイト
赤く染まった先端がふたつ。
スティブナイト
服で押さえつけていたそれは、チャックを下ろせばずっと大きく見える。
スティブナイト
おんなのからだ。
ササナ
チャックを下ろし終わったのなら、その手はそのまま服と肌の間に入っていく。
ササナ
へそを伝い、わずかに浮き出ているあばら骨をなぞり、その胸のふくらみを支えるように手を這わせる。
スティブナイト
指が這うたびにぴくりと震える。
ササナ
膨らみの先端には触れず、そのまま脇を通って衣服を脱がしにかかる。
スティブナイト
するりと簡単に、服は脱がされる。
スティブナイト
そのように少し身を動かしているから。
ササナ
そうして上半身を脱がし終えたなら、次は下へと手が伸びる。
ササナ
体の輪郭が露わになったその上半身に顔を寄せ、唇を這わせながら…ササナの手は下腹部に差し込まれていく。
スティブナイト
「ん、……っ……」
スティブナイト
唇が触れれば、身をよじる。
ササナ
すでにベルトは緩んでいて、ショートパンツは簡単に下されていく。
ササナ
下着を残し、腰からお尻のラインが晒される。
スティブナイト
荒く息を吐く。
ササナ
そのショートパンツを完全に下ろし終わったなら、その手はそのまま太ももの内側をなぞりながらその下着に伸ばされていく。
スティブナイト
びく、と震えた。
スティブナイト
続きを待っている。
ササナ
ササナが着ていた衣服は、こうしてあなたを脱がしている間にほとんど脱ぎ終わっている。
今ササナは、あなたとほぼ同じような格好だ。
ササナ
へそに口づけしていたその唇が、あなたの胸の膨らみに向かって伝っていき…。
下着に伸ばされた手は、何かを探るように指を押し付ける。
スティブナイト
「っ、ぅ、あ……っ」
スティブナイト
触れて、同時に大きく跳ねる。
スティブナイト
首に回した手に、ぎゅっと力が込められる。
スティブナイト
何かを期待するように、足が少しだけ開かれている。
スティブナイト
だからその指が何かを探り当てるのは簡単だった。
スティブナイト
「あ、あっ、…………っ、」
ササナ
その反応を見たなら、今と同じ場所をさっきよりも強く攻める。
ササナ
胸の膨らみを赤い先端と一緒に咥え、下着に押し付けていた指は吸い込まれるように内側へと食い込んでいく。
ササナ
そのまま先端を舌で転がすように舐め、指はさらに奥へ食い込ませるように上下させる。
スティブナイト
「……っあ、あ、っ、……や、ぁ……」
スティブナイト
もう身体の制御が効かなくて、何度も震えて、しがみつく。
ササナ
その反応と同時に、ササナの指があなたの下着の内側へと潜り込む。
そうして足の間にある割れ目に指が滑り込むと、その指は蕩けたかのように濡れる。
スティブナイト
「ひ、ぁ、…………っ!」
スティブナイト
甘く、高い声。
ササナ
肌と肌の境目が失われたかのように、その指はあなたの中へと溶けていく。
スティブナイト
熱い。混ざりあって、どちらの熱かもうわからない。
ササナ
先ほどまでの肌の冷たさは、あなたの中にはなく…ササナの指は今までで一番の熱を持っていた。
スティブナイト
しがみついて肩に顔を押し付けて、それでも漏れ出る甘い声は昼の声よりずっと高くて、女の声をしている。
ササナ
顔を押し付けられれば、それに応じて体勢を変える。
あなたがそこに居やすいように、体を差し込んでいく。
ササナ
指の動きを少しずつ早めていき、内側に潜り込ませるたびに指の腹を強く押し付けて刺激する。
スティブナイト
「や、あっ、……ん……っ」
スティブナイト
耳の側で、肩に顔をうずめて、呼吸を乱して声を漏らしている。
スティブナイト
指がうごくたびに声が出る。
スティブナイト
ぐちゅ、と水音がして、溢れてくる。
ササナ
そのままその行為を続けていき、指に伝わる感触と反応が変わったのを確認する。
中が激しくうねり、吸い付いてくる感覚が指に伝わってくる。
スティブナイト
手を伸ばす。しがみつく。ぎゅっと抱きしめる。
ササナ
ササナの胸にある黒結晶が、あなたの体を傷つける。
ササナ
それを気にしながらも、肩に押し付けられていたあなたの顔を少しだけ強引に持ち上げ、そのまま喘ぎ声の漏れるその口に自らの喘ぎを交わらせる。
ササナ
今までで一番激しい口づけが行われ、それと同時にあなたの腰を内側から持ち上げるように指に力を込めて動かす。
スティブナイト
「ふ、ぁ、あっ、あ……、~~~っ!」
スティブナイト
胸の傷が広がるのも構わず強く抱きしめて、
スティブナイト
同時に、大きく痙攣した。
ササナ
その震えが終わるまで、指に力は込めたまま…唇同士はお互いを求め合う。
ササナ
そうしてお互いが落ち着くまでの間は、とても長いもののように感じられ…さっきまであった熱はゆっくりと引いていった。
スティブナイト
数回、身が跳ねて。あなたの指を締め付けて。
スティブナイト
それがおさまって視線を交わす。
頭が真っ白になって何も考えられなくなっていて、だから、蕩けきって、潤んで、快楽にぐちゃぐちゃにされた顔。
スティブナイト
密着した胸から鼓動の大きさと速さが伝わりそうなくらいに、身体が快楽に溺れている。
ササナ
ササナの顔も、同じように蕩け…潤んで、ぐちゃぐちゃになっていた。
けれど、まだ満足してないというように…ササナの顔はあなたとの距離を詰めていく。
ササナ
鼓動は重なり、快楽がまたあなたの体を襲う。
収まり始めていたはずの熱もまた二人の体を溶かしていく。
ササナ
肌が触れ合うたびに水音が室内に響き、熱気が薄暗い部屋の中に籠る。
スティブナイト
声、水音、布の擦れる音。熱。匂い。
スティブナイト
それらは小屋の外に漏れることはない。
スティブナイト
だからこれは、あったかどうか、わからない話。
スティブナイト
事実として。
スティブナイト
ササナはあの夜を生き延びることができて、
スティブナイト
翌日、かつて味方であった者と対峙した。
スティブナイト
それが果たして、スティブナイトの思惑通りだったのかは。
スティブナイト
二人しか知らない。