***
――堕落の国。世界全体が錆びれ、腐りゆくこの世界で
***
それでもやはり、栄えと廃れはあるもの
都から一際遠く、”辺境”と呼ばれる場所は堕落の国にも存在する
***
薄暗い世界でいっそう薄暗い場所。亡者を狩る者も少ない、そんな地域に居つくのは、行き場を失った者たちと――
汚い救世主
そのような、人の目の届かぬ場所こそ行き場である者たちだ
汚い救世主
「ぐ、ぐうぅ……何故じゃ!何故、この場所に救世主が……!」
汚い救世主
でっぷりと太った男は、慌てた様子で自室の金庫を漁っている
汚い救世主
手の端からぼろぼろと金品が零れ、ちりん、ちりん、小気味の良い音を立てるが
汚い救世主
男はそれを気にしない。否、気にする余裕もない
汚い救世主
抱えられるだけの財宝をかき集め、ポケットにねじ込んでいく。――べっとりと己が血で濡れた、その衣に
汚い救世主
屋敷中に響き渡るような怒号。しかし、それに応える者はない。返ってくるのは静寂ばかり
汚い救世主
――配下の者達は、既に始末されていた。それもそのはず、強大な敵に敵わぬと見るや、その殆どは囮として切り捨てていた。何人かは、男自身が殺しもしたのだ
汚い救世主
「……ぐぅぅ……!そ、そうじゃ、奥の牢に先週買った白兎の娘を入れておった!あやつを連れていこう!ぐふふ……道中の楽しみに事欠かず、いずれは金にもなるはずよ……!」
汚い救世主
ポケットから金品を零しながら、腹肉を揺らして部屋奥の扉へ――
イカロス
ーーその扉へ手をかけるより速く、空を切り裂く音。
汚い救世主
「ぐひょぉっ!?」突然の激痛!慌ててもう片手で抑え、その拍子に脂汗が飛び散った
イカロス
「……命を狙われているというのに、随分と余裕があったものだな。」
汚い救世主
「がぁ……!!き、貴様は……バ、バカな!!」
汚い救世主
「大金を叩いてもしもの為に用意した、地下巨大迷宮に叩き落としてやった筈!こんな速さで出てこられるはずがない!」
イカロス
「ーーハッ!あの程度の罠が通用すると思われていたのなら、心外だ。」
イカロス
「地を這うことしかできぬ、鈍重な豚とは違うのだよ!」
汚い救世主
(い、いや……いかん!ここで激高しては!配下を失った以上、正面からぶつかっても勝ち目はない!ここは伏して勝機を伺うのじゃ!)
汚い救世主
「……ぶ、ぶふふ……それは誤算じゃったのう。……じゃ、じゃが、のう……?」
汚い救世主
「少しばかり、もてなしに……手違いがあったようじゃ、の?の?今からでも遅くはない、少し話そうではないか?」
汚い救世主
「お前の望みはなんじゃ。こんな所までわざわざ来る辺り、ワシの金が目当てなんじゃろ?公爵家には安くない額の”菓子”を払っておった筈じゃが、他の組織やどこかから、少しばかり噂が漏れたのかもしれんの。は、は、は」
汚い救世主
「お前が何を聞いてきたのかは知らんが、そんな木っ端の者どもなどどうでもよかろ?お前が欲しいのは、金じゃ。じゃろ?ほら、たんとあるぞぉ!」
汚い救世主
ポケットから金品を取り出し、じゃらじゃらと手の中で弄ぶ
イカロス
その言葉に返ってくるのはーー鼻で笑う声。
イカロス
「……その公爵家が、お前の命を所望している。」
イカロス
「悪いが、金品などには興味なくてね。悪徳救世主の首を、持ち帰らせてもらおうか。」
汚い救世主
「ば、馬鹿な!?公爵家が、このワシを!?売ったというのかぁ~~~~!?」
汚い救世主
頭が疑問でいっぱいになる。しかし人の脳とは不思議なもので、その中ですら別のことを思い浮かべてしまうのだ
汚い救世主
一年程前、この堕落の国に来たこと……手を組んだ商人たちを裏切り、莫大な富と権威を得たこと……やがて力が衰え始めた頃、別の救世主に追われ、辺境に逃げてきたこと……
汚い救世主
公爵家とは都にいた頃から良い付き合いをしていた。中には良く思わないものもいただろうが、今でも金の絡みがある知り合いは数人いるのだ。しかし、まさか、その公爵家が!?
汚い救世主
多額の賄賂は払ったが、この辺境への逃走や、素性を消すことにも手を貸してくれた!それで、この地でなんとか慎ましく、贅をむさぼることが出来ていたというのに!
***
都で席を追われたその時から、彼は公爵家で”そういう枠”として扱われていた
***
即ち、事を起こすときに利用するための、火種の一つ
***
大木から切り落とされた、枯れて燃えやすい小枝の一本
***
――キープされていたその役目が、今、果たされようとしていた
汚い救世主
「……この扉の向こうに……若く、美しい女を一人隠しておる……」
汚い救世主
一歩、一歩。少し斜めに、扉からも離れ、部屋の隅へと後ずさる。
汚い救世主
(……思い出した。奴の今いる、あの位置。あそこから数歩、踏み出した所……)
汚い救世主
(もしもの為に用意した、最後の罠が残されておった……!)
汚い救世主
「……ワシを殺すのもいいが……せめて少しの間、それで我慢してくれんか?……さ、最期に、思い残しを終わらせておく時間くらい……くれてもよかろう……?」
汚い救世主
(来い……!こちらへ……!あと数歩……!!)
イカロス
一歩、そうしてもう一歩、距離が縮まってゆく。
汚い救世主
「そ、そんな……後生じゃ、少しくらい…… ……」
イカロス
罠の仕掛けられた床の上へ、その一歩を踏み出したように思えたーー刹那。
イカロス
消えた行方を認識するよりも、罠が作動するよりも速くーー気づいた時には、蒼い閃光が太った男を貫いている。
イカロス
「……遅すぎる。やはり鈍重な豚よ、お前の考える罠など私には通用せん。」
イカロス
「さて……残された時間でその目に焼き付けるがいい、王者I-Carusの姿を!
そして、我が栄光の踏み台となれ!」
イカロス
続くように、斬撃。弧を描いた蹴りが、男の首を狩り取るように。
***
――遅れて、イカロスの背後で金属音。床から飛び出した鉄杭は何も貫かず、空しくその場に残っていた
イカロス
それを最後に、部屋が静まり返る。部屋の中にいるのは、勝者1人。
イカロス
「……ハ、ハハハハハハハ!」笑う。狂気の混じる声で。
イカロス
「見たか!やはり私に敵うものなどいない!私はーー王者I-Carus!」
イカロス
己が王者であった過去は遠い昔。
墜ちて、落ちて、堕ちて。今、ここにいる。
イカロス
それでも、王者であることに縋りつく。
夢を手放せない。栄光を手放せない。
イカロス
己の現状など、とっくに分かっているのに。
それを認められない、王者として振る舞わずにはいられない。
それが、己を裁判へと駆り立てる。
イカロス
ーーどうして。何故。己は今。
そんな言葉を振り払うようにして、また一歩。
落ちた首へと歩を進める。
***
ふと、部屋の奥。少し前に男が向かおうとしていた扉が、ゆっくりと開き始める
スペードの56
まず突き出したパイプから、煙が昇る
スペードの56
「まさか、一撃も入れられないまま終わるとは」
スペードの56
次いで口から煙と共に吐き出されたのは、まだ幼さの色濃く残る、高い声
スペードの56
「しかし、僅かの祈りは捧げておきましょう。悪辣にして愚鈍な男なれど、命は命。利用して申し訳ありませんでした」
スペードの56
「そして――お初にお目にかかります、I-Carusさん」
イカロス
開かれた扉から現れたのはーー想像していた姿とはかけ離れた、道化の姿。
イカロス
この場に不釣り合いなその人物へ、油断なく視線を向ける。
「――何者だ。」
スペードの56
「ソシテ!オナカノジョッキークンダヨ!!」甲高い声の”腹話術”
イカロス
怪訝な顔をする。
「あの豚お抱えの道化か?そのような情報はなかったが。」ジョッキークンは無視
スペードの56
そんな、可哀想なジョッキーくん……
スペードの56
「美しい白兎の少女でなくてすみません。彼女は残っていても邪魔ですから、先に出ていってもらいました」
スペードの56
「と言っても、あなたも色気に興味はないでしょうが――さておき」
スペードの56
「情報にないのは当然。ワタシはどちらかというと、公爵家の側ですから」分派のいち構成員ですけど、と付け足す
イカロス
公爵家からの依頼、利用されたという悪徳救世主、そして構成員と名乗る者からの接触。
「……つまりは、謀ったということか。何が目的だ。」
スペードの56
「目的!良い質問です。お答えしましょう」
スペードの56
「ワタシを遣わせた教鞭の目的は、あなたを見定めること。あなたが『この世界の救世主』として相応しい器かどうか」
スペードの56
「では!デケデケデケデケ……デン!」
***
握れば折れるか弱い末裔。堕ちた王者はそれに、何を思うのか――
スペードの56
先制値は……お互い才覚がありませんね
イカロス
ダイスボットの設定わすれでした(NGシーン)
[ イカロス ] がダイスシンボルを2 に変更しました。
スペードの56
危うく静かな1Rが過ぎるところだった。ともあれ、いきましょう
イカロス
私の手番だな…距離しか測れん。距離を測る。
イカロス
「……恰好だけではなく、言葉もふざけているな。」
イカロス
「何を指針としてるかは知らんが……不合格だというなら、徒労だったな。何も持たずに帰るつもりか?」
スペードの56
「おや、怒らないんですか。――いえ、それもそうですか」
スペードの56
「あなたには、そもそも救世をするつもりなんて無いのでしょうし」
スペードの56
では、ワタシのアピールに行きましょうか
スペードの56
2d+1+1>=7 (2D6+1+1>=7) > 7[5,2]+1+1 > 9 > 成功
スペードの56
こんだけ積んで5成功かよ……こわ……
[ イカロス ] 情緒 : 0 → 1
スペードの56
「――と、それだけならまだ良いのですが、どうも今回の動きを見た感じ」
スペードの56
『からっぽ!なにもない!メッキべたべた、はだかのおうさま!』
スペードの56
『このセカイにとって、ワザワイになるよ!今のうちにコロしちゃわないとネ!』
スペードの56
「あっ、ジョッキーくん、本当のことをそのまま言ったら可哀想じゃない。すみません」
イカロス
「愉快な口を持っているようじゃないか……」
イカロス
「末裔風情が、私を殺すと?冗談は使う場をわきまえた方がいいぞ、道化め。」
イカロス
アピール無いさっきがおかしかったんだよ!
スペードの56
ワタシはW誘い受けにアピールですか
イカロス
アピール2枚、誘い受け1枚か… 距離を測りたいなあ
イカロス
アピールだな 1R目で距離を測った分が乗る
スペードの56
誘い受け、正直あんまする意味ないと思うんですけど
スペードの56
折角なのでし し したくねえなこれ
スペードの56
2d+1>=7 (2D6+1>=7) > 6[5,1]+1 > 7 > 成功
スペードの56
成功してようやくこれだから脅威度1でやっても仕方ない
イカロス
よっぽど出目良くないとね ともあれ7以上か
イカロス
2d6+1+1=>7 アピール (2D6+1+1>=7) > 3[2,1]+1+1 > 5 > 失敗
スペードの56
「おっと、失礼。そういえば、先程のあなたの質問には答えていませんでした。つまりですね」
スペードの56
いや、誘い受けは変更できるだけだから1じゃない?
イカロス
+2するのは誘い受け失敗したうえで アピール通ったパターンか
スペードの56
「持って帰るのは、あなたのお命です」
[ イカロス ] 情緒 : 1 → 2
イカロス
「……どうやら、その口が二度と冗談を言えぬようにされたいらしいな。」
イカロス
間髪入れずに、光刃がフィクスに向かって飛ぶ。アピールです。
スペードの56
少し顔を逸らす。それだけで、光刃は薄く頬を掠める結果に留まった
スペードの56
致命の一撃がすぐ近くを通っても、表情に変化はない。無論、声にも
スペードの56
そのままこちらのアピールにいきますよぉ
スペードの56
2d+1>=7 (2D6+1>=7) > 8[4,4]+1 > 9 > 成功
スペードの56
情緒が入り乱れる!自身と自身以外のランダムな対象1人の情緒が入れ替わる。
スペードの56
えー、入れ替わってから+1じゃないかな
[ スペードの56 ] 情緒 : 0 → 2
[ イカロス ] 情緒 : 2 → 1
スペードの56
「たかが一撃、されど一撃。ただの末裔が救世主の攻撃を躱せると思いますか?つまり、それは――」
スペードの56
「今のあなたが、末裔一人に影響を及ぼせないほど弱い、というこ」
スペードの56
風圧で裂けていた首から、遅れて血が噴き出します
イカロス
「……今の一撃をかわすとは、なるほど、末裔にしてはやるようだが。」
スペードの56
傷口を抑えます。が、鋭利な一撃がそんなもので止まる筈もなく、指の間から血がドクドクと湧き出てくるでしょう……
スペードの56
手札捨てに行きましょう。誘い受けなんていらねえよ!
スペードの56
そちらもアピールしますか?対象自分でもいいですよ
イカロス
え、+1で振らないといけないの? こわすぎるが
イカロス
2d6+1=>7 アピール (2D6+1>=7) > 8[2,6]+1 > 9 > 成功
[ スペードの56 ] 情緒 : 2 → 3
イカロス
「先ほどの威勢の良さはどうした?」そのまま、フィクスの方へ駆け。
イカロス
「道化の戯れだ、今からでも詫びるのには遅くないぞ?」腹を狙い、拳を一撃。
スペードの56
腹を殴られれば、当然血を吐き出します。内臓が踊り狂うような感覚
スペードの56
当然と書きましたが……本来の”当然”であろう貫通に至らなかったのは、手加減されたからでしょう
スペードの56
そのままこちらのアピールにいきまーす
イカロス
2d6+1=>7 誘い受け (2D6+1>=7) > 10[4,6]+1 > 11 > 成功
スペードの56
2d+1>=11 (2D6+1>=11) > 6[2,4]+1 > 7 > 失敗
[ スペードの56 ] 情緒 : 3 → 4
スペードの56
「ぁの、ぇ す……ご、ぺっ」もう一度、喉に絡んだ血を吐く
スペードの56
「……あのですね、もうちょっと喋る暇くれませんか?」
スペードの56
『ジョッキーくんマっサオ!シんじゃうヨ!!!』
スペードの56
「…………そして、えー、首の血の量からして……もってあと5分という所ですね」
スペードの56
「終わったらこのジョッキーくん抉っていいので、喋らせてくれません?そっちの首なしになった人の分も、ちょこっとプリーズ」
イカロス
「辞世の句でも考えるか?いいだろう。自身の行いをよくよく省みることだな。」誘い受けです
スペードの56
「あ、良かった。ありがとうございます」
スペードの56
「……最初の一撃を何故躱せたのか、トリックをお話したいんですよね」
スペードの56
「まず結論から言いましょう。あわせて動いただけで、ワタシは別に躱してません」
スペードの56
「つまり、躱したのではなく、あなたが外したのです」
スペードの56
「では何故か。それは、さっきジョッキーくんが言いましたよね」
スペードの56
手札捨て。アピール一枚残してもう一枚は捨てます
スペードの56
2d+1>=7 (2D6+1>=7) > 7[5,2]+1 > 8 > 成功
イカロス
2d6+1+1=>8 アピール (2D6+1+1>=8) > 2[1,1]+1+1 > 4 > 失敗
スペードの56
ファンブルはないのでハプニングですね
イカロス
次ハプニング出るかもなって言ってたらこれだよ
イカロス
1 情緒が入り乱れる!自身と自身以外のランダムな対象1人の情緒が入れ替わる。
[ スペードの56 ] 情緒 : 4 → 1
[ イカロス ] 情緒 : 1 → 4
[ イカロス ] 情緒 : 4 → 5
イカロス
「ハ、ハハハ……何を言うかと思えば……」
スペードの56
「なぜ空っぽだと攻撃を外すのか?それは、あなたが一度口にしたことに起因します。あなたを不合格だと言ったのも、そこから」
スペードの56
「あなたが孤独を嫌がり、駄々をこねる大きな子供だからです」
スペードの56
「あなたの王位を証明するものなど、この世界であなた以外に誰がいるのですか?」
スペードの56
「あなたは結局、過去の名声に縋っているだけ。誰かに自分を認めて欲しいと喚きながら、だというのに成すべきことを成していない」
スペードの56
「人に憧れて欲しいのなら、相応しい行動をすればいいのに。人に見て欲しいのなら、見てくれと素直に言えばいいのに」
スペードの56
「……そろそろ5分、ですね。では、ジョッキーくんを差し出しましょう。さあどうぞ」
スペードの56
「――それとも、むき出しのお腹を刺すのは怖いですか?また一人になりそうで」
イカロス
その無防備な姿を。自身が刃を振るえば、すぐに命を奪える末裔の姿を。
イカロス
……しかし、凶刃が振るわれることは無く。
イカロス
……言葉のひとつひとつが癪に障る。
それほどに、この道化の言うことは真実だ。
イカロス
分かっている。己の守るプライドなど、虚栄という鍍金で上塗りされた、崩れかけのものであると。
それに縋らねば、生きていけないということも。
イカロス
いつまでそれは続く?この鍍金は、いつまで保つ?
この世界で己を王と呼ぶものなど、己しかいない。
イカロス
上にも下にも人がいない。
1人だけの世界では、王になれない。
イカロス
……視線が道化に落ち、そのまま、それだけ。
スペードの56
「おや?……これは、少し予想外で、し」
スペードの56
くらり。よろめき、数歩前に。イカロスの横を通って……体が傾いていく
スペードの56
その倒れゆく体の向かう先は、床から突き出した鉄杭。そのまま、重力に従って全身が杭に向かい――
イカロス
その体に向かって手が伸びる。
何故そうしたのか、自分でも意識しないうちに。
イカロス
あるいはーー自分以外の誰かに、縋るように。
スペードの56
では、その手が道化を掴み、死への傾きを止めた、その瞬間
スペードの56
――道化の腕が素早く動き、イカロスの首元に指を突き付けた
スペードの56
「……白状しますと、本当は死ぬまで10分はありました」
スペードの56
「心の疵によって生 ぃた、致命的な油断。もしワタシに力がぁ、れば、これを突けていま し、たが」
スペードの56
「――今のワタシは、コインの加護無き末裔。おめでとうございます、あなたの」
スペードの56
言い切る前に、今度こそ、本当に意識を失った
イカロス
「ーーッ……」わずかな油断をつかれ、突きつけられる指。
イカロス
……だが、それが命を奪うことは無い。一瞬の隙を突かれた、それ以上のものでは無く。
イカロス
「……ハ、トカゲはしぶといと聞いたことはあったが。」
イカロス
「しかし、指を突き付けた程度で何ができる。大口を叩きおって。」
イカロス
……末裔と救世主の間にある力の差。歴然としたそれは、勝負を覆すには至らず。
イカロス
それでも、”もし、力があれば?”そう思わせるには十分な実力と知略、覚悟がそこにあった。
イカロス
意識を失った末裔を抱える。……自分は勝者だ。
イカロス
このまま放っておけば、いずれ死ぬだろう。
そうすれば、自分はまた1人だけの王者。
イカロス
気付けば、コインの力を与えようとする自分がいた。
イカロス
”ーー私が何者であるか、教えてくれる者はいないのか?”
イカロス
「……おい、起きろ。死んではいないだろう。」
イカロス
「……力の差はよくわかったことだろうよ。目的が済んだなら教鞭とやらに帰れ。」
スペードの56
「えぇ?このまま帰ったら任務失敗になるんですよね」
スペードの56
「あなたの人となりを証明しようと思って行動してみましたが、やれやれ。ここでトドメを刺されないとは、まだ読み切れていなかったようです」
イカロス
「ではなんだ、もう1戦交えるか?見えている勝負でも構わんが。」
スペードの56
「この戦法は一回きりでしょうから、もうやりたくないですね。あ、そうそう、最後にお腹狙わしたの、あれはお腹狙いだったら急所外して生き残れる可能性があったからです」ぺらぺらぺら
スペードの56
「……で、任務失敗で帰っても死ぬでしょう。正直死にたくはないんですよ。ワタシが死んだら弟たちに57以降が割り振られてしまいます」
スペードの56
「そうすると、なんと、スペードの56が最後でなくなってしまいます。なんということ。今は亡きスペードの45に、ワタシが最後になってみせると約束したのに」
イカロス
「死にかけたというのによく口が回る……」
捨て身で挑んできたくせに、今度は死にたくないと口に出す。どこまで本心やら分からない。
イカロス
「……では、死にたくない、失敗したまま帰るわけにもいかないというのなら。
その人となりとやらが分かるまで、ついてきたらどうだ。」
イカロス
「どうやらお前は末裔にしては腕が立つ。力を与える限り、私の為に働くというのなら……生かしておいてやらんこともない。」
スペードの56
「ほう、よく分かりましたね。ワタシ優秀ですから」
スペードの56
「そういうことでしたら、謹んでお受けいたしましょう。このスペードの56、感謝感激です、ダンナ様」
イカロス
「ハッ……良い主人についたと思え。お前ら末裔の力など、この世界では塵芥に等しいのだから。」
イカロス
「そうだ、こんな蒼空も見えない曇天の下で生まれ、生きている。――全く、最悪だな。」
イカロス
視線が、窓へ向かう。昼であってもなお暗い、曇天が広がっている。
イカロス
「……お前は、天に輝く太陽も、天を染める蒼色も見たことは無いのだろう。」
イカロス
「私は、天にもその手が届く王者だ。……私と共にいれば”蒼空”が見れるぞ。」
スペードの56
「……蒼空?文献や噂では知っていますが……」
スペードの56
「……想像したこともありませんでしたね。ワタシとしたことが」
イカロス
「これだから末裔どもは。つまらん人生を送っている。」
尊大な態度。
イカロス
「例え地の底にいようとも、空が曇天に覆われようとも、その上には蒼空が広がっている。
それを見ずに終わるにはあまりにも惜しい、蒼色がな。」
空に向けて指をさす。
イカロス
「故に、この王者I-Carusと共に来るがいい。ーーお前は、”蒼空”を見た末裔になれる。」
己を誇示する、王者としての言葉。
スペードの56
「ワタシが蒼空を見て、全てを終わらせる。スペードの56が最終最高の役者となる」
スペードの56
「スペードの56が……全てを……」
スペードの56
「スペードの43、スペードの44、スペードの45……」略
スペードの56
「……スペードの55に……自慢出来ましょう」
イカロス
「……そのスペードの56という名はなんとかならんのか。長すぎる。」
スペードの56
「そう言われましても。スペードの56はこれでも誉れある名なのですよ?別に好きではありませんけど」
イカロス
「誉があろうと呼ぶのに不都合がある。もっと短くしろ。」
スペードの56
「じゃあ56(フィフティシックス)でもいいですよ」
イカロス
「長いわ!……もういい、ならばフィクスだ。フィクスと呼ぶぞ。」フィフティシックスを縮めて。
スペードの56
「響きとしては悪くありませんし、良いですよ。ダンナ様はなかなか名付けセンスがおありで」
イカロス
「ハ、王からの呼び名だ。ありがたく思え、フィクス!」
***
こうして、”王者”は”道化”を己が下に置いた
***
夢が夢として抱かれたのは、この時となるだろう――