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とある荒野の果ての果ての少し手前。
雲を貫きどこまでも高く聳える豪奢なホテル。
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周囲の荒んだ環境から浮き上がるように輝く姿は、
まるで飢えと乾きで倒れ伏す直前に見る蜃気楼。
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救世主には帰還の手段を、末裔には救世主の力を餌に、
殺し合いの儀式が執り行われる舞台。
ソース
眩しそうに目を細めてホテルと呼ばれる建物を見上げ、つぶやいた。
シニ
その眼窩……瞼の上から深く脳まで突き刺さったフォークを引き抜き、口元へ運ぶ。
シニ
「しかし、塩辛いね。このへんの気候のせいかも知れないけれど」
シニ
身体に突き刺さったナイフやフォークを抜いては捨て。
シニ
ぐ、と腹を靴で踏みしめて出血の具合を確かめる。
シニ
ナイフの刺さっていた部分から、ぴゅ、と赤い血が吹き出した。
シニ
「こうして返り討ちにあうのは想定外だったろうね」
ソース
懐を漁り、コインの入っているらしい袋を見つける。
大した枚数は入っていないようだった。
シニ
「いいよいいよ、どうせとられちゃうんだろう?」
シニ
「ここで捌いていたら、他の救世主が邪魔をしてくるだろう」
シニ
「それに……血まみれの肉片をいくつも運ぶより、服を着た死体ひとつ運ぶほうが汚れなくてすむ」
ソース
「せめて血は抜いてったほうがいいんじゃないですかねえ……」重いし……
ソース
「はいはい、運びますよ。運びゃいいんでしょ」
ソース
背中に負った偽甲羅ーースープ用の鍋をずらして、”元”救世主を肩に抱える。
シニ
そうして、目を向けるのはそびえ立つ『ホテル』。
シニ
まさか、この世界でホテルとしか言いようのない建造物に出会うとは。
ソース
もちろんこんなでかい建物、目にしたことはない。
ソース
”森”の傍の時計街にあったいちばんの塔だって、こんなに大きくはなかった。
ソース
いくら近づいても到着しないのではないか、と思いかけたそのときーー
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ようやくホテルの正面エントランスと、
そこに佇むホテルマンが目に入った。
シニ
にこりと微笑み、ジャケットのポケットから封筒を取り出して見せる。
102号室のホテルマン
招待状を確認し、あなた方が敷地に入り込んでいるのを確認すると、改めて深く一礼。
102号室のホテルマン
「ホテル『ジャック・オブ・ハート』へようこそおいで下さいました」
102号室のホテルマン
「私は当ホテルのホテルマン。ゲームの間お客様のおもてなしを担当させて頂きますデュースと申します」
102号室のホテルマン
「救世主様のお受付は”たった今完了”致しました。お連れの末裔の方も、どうぞこちらへ」
ソース
咄嗟になんと返したものかわからず、気まずそうに死体を抱え直す。
ソース
「とりあえずその……調理場って貸りれる?」
102号室のホテルマン
「もちろんお貸出いたします。冷凍室もございますよ」
シニ
「彼が担いでいる男を調理場へ運んでおいてくれるかい?そうしたら、先に部屋を見せてもらうよ」
102号室のホテルマン
速やかに、同じ容姿のホテルマンが現れ、”荷物”を預かる。
102号室のホテルマン
「その荷物を調理場の方へ」
シニ
「この様子だと、ホテルとしての機能は一通り備えているようだね」
ソース
「まあ、それなりに。言っときますけど世話んなるのはあんたですよ」
102号室のホテルマン
「当ホテルは超一流でございます。この堕落の国では通常では考えられないサービスが味わえると、ご好評を頂いております」
102号室のホテルマン
「どうぞ、ご期待くださいませ」
シニ
「シャワーを浴びて服はクリーニングに出し、シェフのディナーで乾杯しよう」
102号室のホテルマン
荷物や上着を預かり、あなた方を導く。
ソース
現れる者全員が全員同じ見た目をしているのを、怪訝な目で見ながら導かれるまま。
シニ
悲痛な顔、救われたような微笑み。
苦しみ、蔑み、痛み、妬み、怒り。
シニ
聞き及んだ話によれば、まだ生きているのだという。
シニ
あの、美しい立ち姿の石像などは望んでそうなったのかもしれないが
ソース
「あんた、石になるにしてもあんな顔はしないでくださいよ」
シニ
「ひどい顔だが、あれでも『救世主』には変わりないんだろう?」
ソース
「こんなとこで石になって突っ立ってて救世も何も無いでしょう」
シニ
「最後のひとりになる可能性だってあるわけだ」
シニ
「まあ、動ける救世主にすべて壊されなければだが」
シニ
「この世界に存在する『救世主』『末裔』『亡者』……その他すべての生物が息絶え、建物が風化し石像が崩れ……」
シニ
「『唯一』になった救世主が神の如き力で蘇り、全てを救うかもしれないじゃないか」
シニ
「何でも願いが叶うとき、人は最盛期の復活を望むかもしれないだろう?」
ソース
「今じゃなくたってあんたは望まないでしょうよ」
シニ
「今のは、砂漠の真ん中で黄金と水のどちらがほしいか聞いたようなものだよ」
ソース
「どっちにしろ……あんたらみたいな、”外”からきたやつらにゃ、この国の滅びも復活もそんなに大事じゃねえんですから」
ソース
「やっぱりここで石になってるやつらに期待なんざしませんよ」
シニ
「そうしよう。いつまでも見ていたい顔ではないしね」
102号室のホテルマン
「では、まずは2階の客室へご案内いたします。エレベータへどうぞ」
102号室のホテルマン
促された先はエレベータだ。堕落の国ではめったにないものだろう。
シニ
「可能性としてはこの施設自体が救世主の罠ということも考えられるが……」
シニ
「他にあてがない以上、頑張るしかないよねぇ」
シニ
「私の世界にはこういう建物がたくさんあるんだよ」
シニ
「あのてっぺんまで階段を登るのは大変だろう?」
ソース
「じゃ、あんたみたいな救世主の持ち込みなのかもね」
ソース
「階段を上る手間が省けたら、その分あったかいスープを持って行けていいや」
シニ
「厨房からワゴンで運ばれる君の料理が楽しみだ」
シニ
この世界で『ペナルティ』を受けることは避けたい。
102号室のホテルマン
「そうですね、長い方です」
102号室のホテルマン
「ギャンブルはあまり上手ではない方でして」
102号室のホテルマン
ホテルマンとなった以上、ここから出る方法はたった一つ。
102号室のホテルマン
自分がついたペアが優勝する以外にない。
102号室のホテルマン
「是非、あなた方にはその猟奇、才覚、愛を存分にお振るいいただき」
102号室のホテルマン
「これが最後の務めにしていただければ幸いでございます」
ソース
「そっか、俺らが優勝するとあんたも帰れるのか」
シニ
「望まぬ仕事はいつまでもすべきではないと思うんだ」
102号室のホテルマン
「もちろん、ホテルマンにはホテルマンの喜びはございますが――」
102号室のホテルマン
「仰るとおり、求めるものはそれとしてあるものです」
ソース
果たして、この幾人もいる同じ容姿のホテルマンが、
結局何の末裔なのかはわからなかったが。
102号室のホテルマン
「それはそれは。どうもありがとうございます」
102号室のホテルマン
「ご活躍のほど、楽しみにしております」
ソース
「はいはい、口説くのはそこまでにして、部屋」
102号室のホテルマン
そのやり取りを微笑んで見ている。
シニ
汎用グラフィックの量産型キャラクターに見えても、『現実』にいる人間と何も変わらない。
シニ
個性があり、思考があり、心があり、弱みもある。
シニ
ここに来る以前に街なかで流れていた、流行りの曲の鼻歌など歌いながら。
シニ
お抱えコックの気に入りの歌など口ずさみながら。
102号室のホテルマン
「こちらがお客様の過ごされる客室になります」
102号室のホテルマン
「ルームサービスは24時間お使い頂けます。お申し付けはそちらのお電話からフロントへ」
102号室のホテルマン
「お飲み物やお食べ物、娯楽等もご用意いたしますので、なんなりと」
シニ
「ありがとう、デュース君。では、適当なパンと果実酒を頼もうかな。1時間後に」
102号室のホテルマン
「調理室、冷凍室以外にも、救世主様はホテル内の施設を自由にお使いいただけます。他の客室に入る事や、フロアの移動、そしてこのホテルから出ること等はできかねますが……」
102号室のホテルマン
「勿論、末裔の方にも相応のサービスはご用意されていますし、守って頂くルールも同様となります」
ソース
「はいはい。救世主様と一緒の扱いってのはなんとも慣れないが」
シニ
「ホテルでの振る舞いは心得ているつもりだけど、少々勝手が違うのは承知したよ」
102号室のホテルマン
「ホテルマンにはホテルマンの振る舞いがございます、が……」
102号室のホテルマン
「そうですねえ、いくらか”カジュアルに”しましょうか」
シニ
「私も彼も、床に寝転がされることを気にしない質だ」
シニ
「仕事をしてくれれば、それ以外は自由にしてくれ」
シニ
「もちろん、『ホテルマン』に徹してもかまわないがね」
102号室のホテルマン
そういって、片目をつむる。
ソース
ホテルマンが部屋を後にすると、ふう、とひとつ大きく息を吐く。
ソース
「とりあえずシャワー浴びてきた方が良いですよ」
ソース
「俺ァコックであって召使いじゃねえんですが」
シニ
「仕方ないだろう?エリオは置いてきてしまったんだから」
ソース
しゃあねえなあ、とぶつぶつ言いながら、
右手のグローブを口で外して咥えたままきつく締め上げられたコルセットの紐を引く。
シニ
帽子屋の末裔に仕立てさせた上等のシャツと、スラックス。
ソース
何度か紐を緩めて、ようやくコルセットが開く。
締め上げられていた肉が僅かに綻ぶのを見ないようにして。
シニ
コルセットの留め具を外し、前から割れたそれを手袋の隣へ。
シニ
1d6+3 (1D6+3) > 2[2]+3 > 5
シニ
1d6+3 (1D6+3) > 2[2]+3 > 5
ソース
2d6+1 (2D6+1) > 6[3,3]+1 > 7
シニ
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 4[2,2]+1 > 5 > 失敗
[ シニ ] 情緒 : 0 → 1
ソース
何処かの誰かさんがナーフしたというハプニング表ですね
[ ソース ] 情緒 : 0 → 1
[ ソース ] 情緒 : 1 → 2
[ シニ ] 情緒 : 1 → 2
ソース
ベッドの端っこをちょっと押して、何か考えるように自分の腹を触った。
ソース
「俺ぁエリオの莫迦みたいにゃできませんからね」
シニ
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[4,2]+1 > 7 > 成功
ソース
2d6+1>=7 (2D6+1>=7) > 8[4,4]+1 > 9 > 成功
ソース
Choice[才覚,愛] (choice[才覚,愛]) > 愛
[ シニ ] 情緒 : 2 → 3
[ ソース ] 情緒 : 2 → 1
ソース
「やりたくもないことをやるなって言うのはあんただろ」
シニ
「一緒に寝よう、と言っただけなんだけれどね」
シニ
「そう呼ばれるのは好きじゃないと言っているのにな」
[ ソース ] 情緒 : 1 → 2
[ シニ ] 情緒 : 3 → 4
ソース
「どうしても寝てほしいと仰られるなら僭越なが……あっ」
ソース
ぎゅうぎゅうに折りたたんでいた耳が転び落ち、ふたつの角が顕になる。
シニ
水の残存量を気にせず身体を洗えるのは楽でいい。
ソース
まるでスコールのような音が響いて、少し気になった。
シニ
頼めば追加の石鹸どころか、香水だって出てきそうだ。
ソース
が、ここで覗きにでも行こうものならきっと末代まで弄り倒されることだろう。
ソース
心を落ち着けるために、背中に負った偽甲羅ーースープ鍋を抱えた。
シニ
水滴の滴る髪を絞って、ワシャワシャと大きなタオルで水気を拭き取る。
ソース
その頃には偽甲羅を背負直してすました顔で調理器具の手入れをしていた。
ソース
2d6+1>=7 (2D6+1>=7) > 11[5,6]+1 > 12 > 成功
シニ
2d6+1+1=>7 (2D6+1+1>=7) > 8[6,2]+1+1 > 10 > 成功
[ シニ ] 情緒 : 4 → 5
ソース
レードルに木さじ、ソースパンに数種の包丁。
ソース
いかにもコックらしい持ち物を広すぎるテーブルに並べて。
ソース
塩と胡椒の入っているミルを大切そうに磨く。
ソース
「……ま、その前に腹ごしらえといきましょう」
シニ
「それでは、私はデュース君とカードでも楽しみながらディナーを待つとしよう」
シニ
「サンドイッチと君の果実酒をつまみながらね」
ソース
「俺の血だって無限じゃねえんですけどねえ……」
102号室のホテルマン
「失礼します。果実酒の方、お持ちいたしました」
シニ
出迎える末裔と救世主は無防備そのもの、ホテルとはそういう場所だ。
102号室のホテルマン
トレイに載せられたグラスの数は、3つ。
シニ
「どうかな、せっかくだし、ディナーまで……」
102号室のホテルマン
「それでは、お相手をいたしましょうか」