部屋には三月兎が一匹。
神霊であったなにかはそこにいない。
併設されているシャワールームにいるようだが、出てこない。
プルネウマ
「……………………」
湯船の中でぶくぶくしている。
イスタ
片手であなたの体を支えながらもう片方の手で適当にバスタオルを掴んで、風呂を出てベッドに向かう。
プルネウマ
「ふく…………うーん?おんど?はっかんきのう…………?」
なにかボソボソ言ってから。
イスタ
一緒に転がって、バスタオルを広げる。ばさばさ。
プルネウマ
「…………」
戦いが終わってから極端に口数が少ない。
プルネウマ
よく見ると、足もまともに作れていない。
プルネウマ
「どうしよう…………」
問いかけるでもなく、つぶやく。
イスタ
自分が何を言ったのかくらいは、わかってる。
イスタ
6000年が、自分の想像もつかないような長い年月であることくらい。
イスタ
その6000年、願い続けてきたなにもかもを、めちゃくちゃにしようっていうんだから。
プルネウマ
「…………イスタは、他の人のまねごとじゃない、私のセックスがみたいっていったから」
プルネウマ
「…………」
ぎこちない動作で相手の頭を撫で返す。
プルネウマ
ぐちゃぐちゃにしてからかったり、ふざけて痛みを加えたりしないような撫で方。
プルネウマ
「…………えっとお、」
戸惑いを口に出してから、体を近づける。
プルネウマ
「……私が石にされちゃったら、どう思う?」
イスタ
「元の世界でひとりよりは、いいかもしれないけど……」
プルネウマ
「んん…………」
特に質問にも反応にもなってない音を鳴らして、すり寄る。
肌をこすり合わせる。
プルネウマ
なんとなく、こうしていたい気分になる。
イスタ
いつもみたいに、やだとかやめろとか、言うことはない。
プルネウマ
「…………イスタ、」
名前を呼んで、体温を調整する。
触れたところに、熱を持たせる。人間みたいに。
プルネウマ
「ん…………」
感度も調整して、あわせていく。それは誰かの真似事とかではなく。目の前の末裔だけにする、プルネウマだけのもの。
プルネウマ
「イスタは、」
「こどもとかさあ、ほしい?」
プルネウマ
相手の方ではなく。自分の方の腹を撫でる。
イスタ
「三月兎なんだからいっぱいつくったほうがいいって言われてて、思ってて」
イスタ
「末裔としては、たぶん、そっちが正しいんだ」
イスタ
「あんた以外の誰かを見られるほど、余裕ないと思う」
プルネウマ
「……じゃあ、なくていいね」
残すものは何も。
プルネウマ
つみあげてきたものは、すべてなくなる。
イスタ
「あんたはおれの知らないもの、いっぱい作れるんだろうな」
プルネウマ
顔が近づいて、かぷ、と相手の首筋を甘く噛む。
プルネウマ
「……んー?」
なんか違うな、と首をかしげる。
プルネウマ
そのまま、ぎゅっと抱きつき、動かなくなる。
プルネウマ
「セックス、しないとだめ?」
「こっちのほうがきもちいい」
イスタ
それは、愛おしいものに触れる手付きとか。こどもをあやす手付きとか。
イスタ
そういうものに似ている、けれどそれを知らない、触れ方。
プルネウマ
「ん…………ありがと」
ポロッと出る言葉の選択も珍しい。
プルネウマ
触れ続けていると、体が透け、物理的に交わっていく。
プルネウマ
暖かくて半透明のそれが、三月兎の末裔に重なる。
プルネウマ
「----、----」
人の声ではない、なにかの音が、小さくなっている。
プルネウマ
密度のある部分と、透けて重なっている部分がぐちゃぐちゃになっていき、熱だけが籠もっていく。
プルネウマ
ざらついたり、くすぐったい感覚が、お互いの皮膚をすり抜け、体の中まで直接入り込む。
プルネウマ
顔も混じわって、深い、深い口づけをする。
プルネウマ
敏感な部分が舐め取られる感覚。半透明の舌は喉の奥の方まで届いている。
イスタ
人の声ではないその声に、耳をかきまわされて。
イスタ
手をのばす。半透明の肌の表面をすりぬけて、奥に。
プルネウマ
「----」
奥に触れられると、カサついた音がする。
何かに反応して、混乱しているような。
プルネウマ
「---、----…………」
なにもないそこにふれられて、そこにある熱が増していく。
プルネウマ
届いてはいけない場所を、優しく撫でた。
イスタ
しばらくそうして、薄く目を開ける。潤んだ瞳が半透明のそれを見る。
プルネウマ
「----」
音がなっている。喘ぐように、笑うように。
プルネウマ
触れてはいけない場所に触れて、してはならないことをして、それでも、誰も止めるものはいない。
プルネウマ
皮膚がじりじりとめくれて、あふれない血が混ざり、骨がこつりと当たり、はらわたで子供みたいなキスをする。
プルネウマ
「ねえ、ねえ。たのしいねえ、イスタ」
声がする。
イスタ
どちらの熱かわからない。どこまでが自分かも、もう曖昧になっている。
イスタ
この感覚がなんなのかもわからないままにのみこまれて。
イスタ
頬が赤いのは、肌の下の血があつくぐるぐると回っているから。
イスタ
殺すときはもっとめちゃくちゃになるんだろうか。
イスタ
きっとみんなが想像もつかないようなわるいこと。
プルネウマ
無限にあった選択肢は、もうひとつだけでよくなった。
プルネウマ
混じり合っているこの体が本当に終わるその瞬間。
プルネウマ
「ふふふ」
わらって、災いに染まった、それに、身をやつす。
プルネウマ
すべてを放り投げて、投げ出した先は、とても心地が良い。
イスタ
ほんとうにひとつに、あるいは0になる、そのときを。