Dead or AliCe『16JAcks』
 
このホテルで、2回目の戦いを終えた後。
 
部屋には三月兎が一匹。
神霊であったなにかはそこにいない。
併設されているシャワールームにいるようだが、出てこない。
イスタ
シャワールームの扉を勢いよく開ける。
イスタ
「なにしてるの」
プルネウマ
「……………………」
湯船の中でぶくぶくしている。
イスタ
「うわ」
イスタ
ひっぱりあげる。
イスタ
「なにしてるの……」
プルネウマ
「んー…………」
引っ張り上げられる。
プルネウマ
「なんか…………」
プルネウマ
「いろいろあって…………」
プルネウマ
「…………」
プルネウマ
黙って湯船から出る。
イスタ
「そっかあ」
イスタ
「いろいろかあ」
イスタ
片手であなたの体を支えながらもう片方の手で適当にバスタオルを掴んで、風呂を出てベッドに向かう。
イスタ
のぼせるのかな。
イスタ
のぼせてそうな気がするな……
プルネウマ
「…………」
ふにゃふにゃ。
プルネウマ
そのままベッドにごろんと転がり。
プルネウマ
「…………あー」
プルネウマ
「えーっと、」
プルネウマ
「ふく…………うーん?おんど?はっかんきのう…………?」
なにかボソボソ言ってから。
プルネウマ
手袋が戻って。
プルネウマ
服と顔色も戻る。
プルネウマ
「…………ん」
調子がよくないようだ。
イスタ
一緒に転がって、バスタオルを広げる。ばさばさ。
イスタ
しばらくあなたを見つめて。
イスタ
「……どしたの」
イスタ
素肌であなたの服を撫でる。
プルネウマ
「…………」
戦いが終わってから極端に口数が少ない。
プルネウマ
何かを失ってしまったように。
プルネウマ
よく見ると、足もまともに作れていない。
プルネウマ
「どうしよう…………」
問いかけるでもなく、つぶやく。
プルネウマ
「どうしちゃったんだろうね…………」
イスタ
「…………」
イスタ
まあ。
イスタ
自分が何を言ったのかくらいは、わかってる。
イスタ
6000年が、自分の想像もつかないような長い年月であることくらい。
イスタ
その6000年、願い続けてきたなにもかもを、めちゃくちゃにしようっていうんだから。
イスタ
「…………」
イスタ
「したいことはある?」
プルネウマ
「…………」
プルネウマ
「したいこと」
プルネウマ
「…………よくわからない」
プルネウマ
「…………イスタは、他の人のまねごとじゃない、私のセックスがみたいっていったから」
プルネウマ
「それ、やろうよ」
イスタ
「……ん」
イスタ
もうすこし、近付いて。
イスタ
手が届きやすい距離に。
イスタ
そうしてあなたの髪を撫でる。
プルネウマ
ぼさぼさの髪が撫でられている。
プルネウマ
「…………」
ぎこちない動作で相手の頭を撫で返す。
イスタ
目を閉じる。
イスタ
痛くなくて、怖くもない。
イスタ
いままでなかったような感覚がする。
プルネウマ
ぐちゃぐちゃにしてからかったり、ふざけて痛みを加えたりしないような撫で方。
プルネウマ
「…………えっとお、」
戸惑いを口に出してから、体を近づける。
プルネウマ
そのまま、抱きしめる。
イスタ
息を吐く。
イスタ
熱を持った体が抱きしめられる。
イスタ
手を首に回して、頭を腕でつつんで。
イスタ
「こまってる?」
イスタ
耳元でちいさく囁く。
プルネウマ
「…………」
プルネウマ
「うん…………」
プルネウマ
これをやる前からずっと。
プルネウマ
「どうすればいいの?」
イスタ
「んー」
イスタ
「いっぱいこまってほしい」
イスタ
「でも、……んー……」
イスタ
「いっぱいきいてほしい」
イスタ
「なにが好きとか」
イスタ
「おれはね」
イスタ
「あんたからなんか聞かれるのがすきだよ」
プルネウマ
「……」
プルネウマ
「私のこと、好き?」
イスタ
「うん」
イスタ
「好き」
イスタ
「ずっと前から」
イスタ
「今は、前よりずっと」
プルネウマ
「…………そっかあ」
プルネウマ
「……私が石にされちゃったら、どう思う?」
プルネウマ
「嫌?」
イスタ
「……やだ」
イスタ
「やだよ」
イスタ
抱きしめていた手にちいさく力がこもる。
イスタ
「元の世界でひとりよりは、いいかもしれないけど……」
プルネウマ
「うん…………」
プルネウマ
「私も嫌だなあ」
プルネウマ
「じゃあ」
プルネウマ
「イスタが石になるのは?」
プルネウマ
ありえない仮定の話。
イスタ
「やだな」
イスタ
「つまんないでしょ」
イスタ
「からだうごかせないし」
イスタ
「血も出ないし」
イスタ
「ひとも殺せない」
イスタ
「それに」
イスタ
「あんたがどうなってるかわかんない」
プルネウマ
「…………んー」
プルネウマ
黒手袋が、相手の体のラインをなぞる。
プルネウマ
「んん…………」
特に質問にも反応にもなってない音を鳴らして、すり寄る。
肌をこすり合わせる。
プルネウマ
なんとなく、こうしていたい気分になる。
イスタ
「ん……」
イスタ
いつもみたいに、やだとかやめろとか、言うことはない。
イスタ
肌が触れる。
イスタ
熱があなたにつたわっていく。
プルネウマ
「…………イスタ、」
名前を呼んで、体温を調整する。
触れたところに、熱を持たせる。人間みたいに。
プルネウマ
じんわりと温まっていく。
プルネウマ
「ん…………」
感度も調整して、あわせていく。それは誰かの真似事とかではなく。目の前の末裔だけにする、プルネウマだけのもの。
プルネウマ
「イスタは、」
「こどもとかさあ、ほしい?」
プルネウマ
相手の方ではなく。自分の方の腹を撫でる。
イスタ
「プルネウマ」
イスタ
名前を呼ばれれば、呼び返す。
イスタ
「…………こども」
イスタ
「うーん」
イスタ
「わかんないな……」
イスタ
「昔はね」
イスタ
「三月兎なんだからいっぱいつくったほうがいいって言われてて、思ってて」
イスタ
「末裔としては、たぶん、そっちが正しいんだ」
イスタ
「でも」
イスタ
「たぶん」
イスタ
「おれはずっとこどものままで」
イスタ
「死ぬまでこどもで」
イスタ
「だから」
イスタ
「あんた以外の誰かを見られるほど、余裕ないと思う」
プルネウマ
「そっかあ…………」
プルネウマ
「……じゃあ、なくていいね」
残すものは何も。
プルネウマ
つみあげてきたものは、すべてなくなる。
プルネウマ
コインも、虚無も、そうでないものも。
プルネウマ
「勝つ前に、」
プルネウマ
「殺して、殺される前に、」
プルネウマ
「食べたいものとかある?」
プルネウマ
「なんでもつくってあげるからさ」
プルネウマ
「ホテルの食事とかじゃなくて、私が」
イスタ
「んー…………」
イスタ
「あんたはおれの知らないもの、いっぱい作れるんだろうな」
イスタ
「でも、そうだな」
イスタ
「スープ」
イスタ
「何味でもいいけど」
イスタ
「あんたがつくったスープがいい」
プルネウマ
「…………うん」
プルネウマ
「作ってあげるね」
プルネウマ
顔が近づいて、かぷ、と相手の首筋を甘く噛む。
プルネウマ
そのまま噛んだところを舐める。
プルネウマ
「……んー?」
なんか違うな、と首をかしげる。
イスタ
ぴくり、肩が跳ねて。
イスタ
しがみつく。
イスタ
「……、ん」
イスタ
「いいよ」
イスタ
「つづけても、やめても」
イスタ
「そうでも、そうじゃなくても」
イスタ
「なんでもうれしい」
プルネウマ
「じゃあ、やめる」
プルネウマ
そのまま、ぎゅっと抱きつき、動かなくなる。
プルネウマ
「セックス、しないとだめ?」
「こっちのほうがきもちいい」
イスタ
かすかに笑う。
イスタ
「いいよ」
イスタ
背中を撫でる。
イスタ
それは、愛おしいものに触れる手付きとか。こどもをあやす手付きとか。
イスタ
そういうものに似ている、けれどそれを知らない、触れ方。
プルネウマ
「ん…………ありがと」
ポロッと出る言葉の選択も珍しい。
プルネウマ
触れ続けていると、体が透け、物理的に交わっていく。
プルネウマ
暖かくて半透明のそれが、三月兎の末裔に重なる。
イスタ
「っ、」
イスタ
「ふ」
イスタ
「ふふ」
イスタ
わらう。
イスタ
足をからめて、手を伸ばして、
イスタ
触れ合わせる。
イスタ
指先と耳が火照っている。
イスタ
その温度があなたと混じり合う。
プルネウマ
「----、----」
人の声ではない、なにかの音が、小さくなっている。
プルネウマ
密度のある部分と、透けて重なっている部分がぐちゃぐちゃになっていき、熱だけが籠もっていく。
プルネウマ
ざらついたり、くすぐったい感覚が、お互いの皮膚をすり抜け、体の中まで直接入り込む。
プルネウマ
顔も混じわって、深い、深い口づけをする。
プルネウマ
敏感な部分が舐め取られる感覚。半透明の舌は喉の奥の方まで届いている。
イスタ
漏れる声は悲鳴とはかけ離れている。
イスタ
吐息混じりの、熱を持った音。
イスタ
人の声ではないその声に、耳をかきまわされて。
イスタ
この声が好き。
イスタ
この温度が。
イスタ
この感触が、好きだ。
イスタ
手をのばす。半透明の肌の表面をすりぬけて、奥に。
イスタ
おなかの奥を撫でる。
イスタ
「もっと」
イスタ
囁く。
プルネウマ
「----」
奥に触れられると、カサついた音がする。
何かに反応して、混乱しているような。
プルネウマ
「---、----…………」
なにもないそこにふれられて、そこにある熱が増していく。
プルネウマ
半透明の手が、相手の胸に触れて。
プルネウマ
そのままじわりとすり抜けて。
プルネウマ
届いてはいけない場所を、優しく撫でた。
イスタ
指先が熱に触れる。こえが、耳をくすぐる。
イスタ
耳があつくて、ぼうっとする、と思った。
イスタ
胸の奥を手が撫でる。
イスタ
「ぁ、」
イスタ
ぎゅっと目を瞑って。
イスタ
けれど拒むことはせず。
イスタ
しばらくそうして、薄く目を開ける。潤んだ瞳が半透明のそれを見る。
イスタ
息を吐いて、吐いて。喘いで。
イスタ
手を伸ばして、身体の中をなでる。
イスタ
ゆっくり、かき回すみたいに。
プルネウマ
「----」
音がなっている。喘ぐように、笑うように。
プルネウマ
どちらがどちらか、わからなくなる。
プルネウマ
触れてはいけない場所に触れて、してはならないことをして、それでも、誰も止めるものはいない。
プルネウマ
刹那の後に、死ねるなら、それで。
プルネウマ
皮膚がじりじりとめくれて、あふれない血が混ざり、骨がこつりと当たり、はらわたで子供みたいなキスをする。
プルネウマ
「----」
プルネウマ
「…………」
プルネウマ
「ねえ、ねえ。たのしいねえ、イスタ」
声がする。
イスタ
「ん……」
イスタ
「たのしいね」
イスタ
息を吐く。
イスタ
「たのしい、ねえ」
イスタ
肩が跳ねる。
イスタ
うすく目を開いてわらう。
イスタ
どちらの熱かわからない。どこまでが自分かも、もう曖昧になっている。
イスタ
この感覚がなんなのかもわからないままにのみこまれて。
イスタ
頬をあかくそめて、わらっている。
イスタ
頬が赤いのは、肌の下の血があつくぐるぐると回っているから。
イスタ
きもちいい。
イスタ
死ぬのはもっと気持ちいいのかな。
イスタ
あんたがめちゃくちゃになるのが好き。
イスタ
殺すときはもっとめちゃくちゃになるんだろうか。
イスタ
荒く呼吸をする。声が漏れる。
イスタ
いけないことをしている。
イスタ
きっとみんなが想像もつかないようなわるいこと。
イスタ
「たのしいね」
イスタ
わざわいに身を染めて。
イスタ
わらう。
プルネウマ
「うん…………」
プルネウマ
「たのしいねえ…………」
プルネウマ
わらう。
プルネウマ
無限にあった選択肢は、もうひとつだけでよくなった。
プルネウマ
死ぬ。
プルネウマ
それだけ。
プルネウマ
混じり合っているこの体が本当に終わるその瞬間。
プルネウマ
それだけが、ほんものだ。
プルネウマ
「ふふふ」
わらって、災いに染まった、それに、身をやつす。
プルネウマ
すべてを放り投げて、投げ出した先は、とても心地が良い。
イスタ
「たのしいねえ」
イスタ
わらう。
イスタ
わらっている。
イスタ
その日を待っている。
イスタ
ほんとうにひとつに、あるいは0になる、そのときを。
プルネウマ
『滅亡』と『わざわい』が待っている。
 
4人の救世主が石となり。
 
2人の救世主と2人の末裔が死に至り。
 
4人の末裔が追放され。
 
ここに残っているのは、あと4人。
 
『滅亡』と『わざわい』がやってくる。
 
4人を0人にするために。
 
そして誰もいなくなるように。