もっとも、一度ホテルの中に立ち入ってしまえば、規則正しい生活とは無縁なもの。
堕落の国に飼いならされた末裔達であれば、なおの事。
彼等はとうに知っている、安住の地などどこにも無いことを。
『双子の』マリー
「串刺姫はミュージックルームで、赤帯姫はチャペル」
『双子の』マリー
「ついでにドレスルームを見てきたけど、記憶にないものが増えてたわ」
『双子の』ルビー
「置き場所は“石炭室”に拘る必要はないわけだ。ロビーのハンプティダンプティも、立派にホテルに貢献していらっしゃると」
『双子の』ルビー
「ホテルごとの心中は難しそうだな」
『双子の』マリー
「最悪、展示室で派手に暴れられても、ホテルの権能は消えないでしょうね」
『双子の』ルビー
「そりゃよかった。バカの暴走を気にしないで済む」
『双子の』ルビー
「シニ様の遺品はそれなりに。ソースの方はまるで残っちゃいない」
『双子の』ルビー
「いや、ウミガメスープの残りはあるんだったかな?いる?」
『双子の』ルビー
「んじゃ残飯は観客行きだ。あんなすてきなスープを飲めるだなんて、涙を流して喜ぶだろうぜ」
『双子の』ルビー
「シャノン様は何で遺品回収なんて言い出したんだろうな?」
『双子の』マリー
「メランコリックなのよ。シニ様にああだこうだと言われた事で」
『双子の』マリー
「だからこのところ、夢うつつなんでしょ」
双子はひそひそと待ち合わせ、互いの成果を確認していた。
成果と言うのも憚られるような些細な事実確認でも、二人にとっては大事なことだ。
『双子の』マリー
「じゃ、やろっか。双子の楽しい気違いお茶会」
『双子の』ルビー
「その名前はどうにかならねえのかな」
『双子の』マリー
「双子の末裔が帽子屋に戻れる、たった一刻の時なんだから」
双子の仲は、“つう”と言えば“かあ”。なれど以心伝心には程遠く。
多くの者々がそうするように、対話に依て意思を測る他はない。
お茶会は、互いを知り、互いを理解し、互いの疵を探るための儀式だ。
孤独な二人のためだけのお茶会は、夜の帳のもとで幾度となく開かれ続けていた。
9 冷凍室。 鋼のフックに吊るされた大きな肉塊が並べられている。頑丈な扉は、一度閉めてしまえば声も嘆きも通さない。
『双子の』ルビー
6 ラウンジ。 並べられた多数のソファとテーブルは、待ち合わせに向いている。待ち合わせるに値するような者がここに存在するのかはさておいて。
ラウンジの席はすかすかで、誰一人待ち合わせてはいなかった。
偶然鉢合わせることもあるだろうが、それにしたって多くはない。
ホテルマンが時折傍を横切る以外に、双子の密会を邪魔する者はいなかった。
『双子の』マリー
「まずは喜びの歌を唄うとしよう」
『双子の』ルビーとマリー
「それらを退け生き延びた私達に」
『双子の』ルビー
1d6+3 (1D6+3) > 5[5]+3 > 8
『双子の』マリー
1d6+3 (1D6+3) > 4[4]+3 > 7
『双子の』マリー
本編でこの引きしてほしいんだよな
『双子の』マリー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[3,3]+1 > 7 > 成功
『双子の』ルビー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 9[4,5]+1 > 10 > 成功
[ 『双子の』マリー ] 情緒 : 0 → 1
『双子の』マリー
「生きていれば反省と後悔は津波のように押し寄せてくるものよ」
『双子の』マリー
「例えば、そう。あの専属ソースはもうちょい虐めておくべきだった」
『双子の』ルビー
「シャノン様の追い打ちでもまだ足りなかったか?」
『双子の』マリー
「あんたの不意打ちが完璧に決まってれば十分だったよ」
『双子の』ルビー
「それじゃこっちも厳しくいくか。妙な手心が無かったか?お前」
『双子の』ルビー
「最期に介錯をくれてやった辺り、そうじゃねえの?」
『双子の』マリー
「勝者の権利のバトン全部回しておいて吐く台詞かよ……」
『双子の』ルビー
「オレよりお前の方が、そのへんの拘りは強いだろ」
『双子の』ルビー
「わかっていれば、オレはそのへんお前に回すよ」
『双子の』ルビー
「あの選択の時は、勝者がえばるだけの余裕があったからな」
故郷が廃墟と化したあの日、マリーの手を引いて行ったのはルビーだった。
亡者や救世主の恐怖から逃れるために、捜索も碌にしないまま、最寄りの街へと駆け出して。
未練がましく瓦礫を崩そうとするマリーを強引にでも引きずったのは、果たして正解だったのだろうか。
生きていれば反省と後悔は津波のように押し寄せてくるものだ。
『双子の』マリー
「言っておきますけど、“対戦相手”に手加減なんてできませんわよ」
『双子の』マリー
「もしそう見えたのなら、単純に不手際」
『双子の』マリー
「けど、そうでない“同胞”を虐める魂胆は無いね」
『双子の』マリー
「眠り鼠の末路を見たでしょ?生者はホテルの外に放逐される。その行き先は不明瞭だけど」
『双子の』マリー
「わからないだろ?どこに出るか」
『双子の』マリー
「“理不尽な嵐”で同胞の故郷を壊してしまえば、それじゃあ私らは救世主どもと同じだ」
『双子の』マリー
「それすら想像できないような無神経を“手心”と呼ぶんなら、ルビー君はだんだん救世主に向いてきたよ」
『双子の』ルビー
「そういうイヤミは対戦相手に言ってくれよな」
『双子の』ルビー
「勝者とホテルに殺されるってのが、どういうことか」
『双子の』ルビー
「この上なくはっきり見せて貰えたからな」
敗者の末路を見た。黴の生えたトランプゲームに負けて、ホテルマンへと変わっていく様を。
敗者の末路を見た。亡者と化す間際、自ら選び抜いた女に最期の介錯を託して死にゆく様を。
敗者の末路を見た。無責任な夢と希望を抱かされたまま、無人の荒野へ一人放逐される様を。
敗者の末路を見た。無数のホテルマンによる私刑(リンチ)で、成す術もなく死んでいく様を。
あれらもまた、悪夢だ。堕落の国に蔓延っている、無数の悪夢の一つ。
『双子の』マリー
「でも次は絶対あんたかシャノン様に選ばせるからな」
『双子の』ルビー
「あの時持ってたコインは、お前が6枚でオレが5枚だ。エースの中でも更に上、トップの意見を参考にするのはトーゼンだろ」
『双子の』マリー
「上司は部下に無理難題を押し付けるのも仕事なんだけど」
『双子の』ルビー
「上司の仕事は責任をひっかぶることだろ」
『双子の』マリー
「あーあ。私ってば損な役回りばっかり」
『双子の』ルビー
「次はジャックを引くことに期待するんだな」
『双子の』マリー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 9[6,3]+1 > 10 > 成功
[ 『双子の』ルビー ] 情緒 : 0 → 1
『双子の』マリー
「結局、一回戦で勝てたのは幸運だと思う?」
『双子の』マリー
「それだけの差でも何か変わってた?」
『双子の』ルビー
「まぐれ勝ちだろうが勝ちは勝ちだ」
『双子の』ルビー
「『結果を悔やんでも、内情を汲んでも、死人は立ち上がりはしない』」
『双子の』ルビー
「そう言ってのけたろ?シャノン様に」
『双子の』マリー
「別に……悔やんじゃあいないよ。ただ、まぐれに二度も期待したくないなって話」
『双子の』マリー
「次の試合の事を考えると憂鬱よ、私」
『双子の』ルビー
「マリーさんはものを難しく考える天才だね」
『双子の』ルビー
「冗談でもその面を他の奴に見せるなよな」
『双子の』ルビー
「専属ソース君の割り切り方でも見習ってみるか?」
『双子の』マリー
「あれ見習ったらおしまいでしょ」
『双子の』マリー
「私は救世主様に人生を捧げられるほど、自分を切り売りできませんわよ」
『双子の』ルビー
「切るものも売るものも、もう無いからな」
『双子の』マリー
「救世主様の故郷では、臓器なんかを高く買ってくれるそうよ」
『双子の』ルビー
「いずれにせよオレ達とは無縁な話だ」
『双子の』マリー
「そう。だから、もう彼らの話をすることも無い」
屍の山に積み上げられる、無辜の同胞と救世主。それ以上の部分に触れることはない。
双子の世界は、過ぎたことを棄て、大事なことだけを共有し、共同幻想として完成していくのだ。
『双子の』ルビー
一押しを三連打できる手札になってしまった
『双子の』マリー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 11[5,6]+1 > 12 > 成功
『双子の』ルビー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[4,2]+1 > 7 > 成功
[ 『双子の』ルビー ] 情緒 : 1 → 2
『双子の』ルビー
「覚えてるよな?あの王者様の夢見の景色」
『双子の』ルビー
「その調子だと、あれを羨んじゃあいないみたいだな?」
『双子の』マリー
「世界の良し悪しを議論する気はないって言ったでしょ」
『双子の』ルビー
「もっとシンプルに考えろって。良し悪しじゃなくて、好き嫌いの話がしたいんだよ、オレは」
『双子の』ルビー
「好き嫌いを追求する方がナンセンスだろ」
『双子の』ルビー
「どれだけ深堀りしたところで、出てくるのは下らない本質だけだ」
『双子の』マリー
「その本質を暴くのがお茶会でしょうに」
『双子の』ルビー
「だからオレは嫌いだな。お茶会も」
『双子の』ルビー
「下らない腹の探り合いの方だよ!」
『双子の』ルビー
「プライドをへし折って、悪夢へと突き落として、笑いものにする」
『双子の』ルビー
「いいけどそのお膳立てをわざわざするのは面倒くさいな」
『双子の』ルビー
「見世物は見世物らしく、自分からようく見えるように全身を曝け出してほしいな」
『双子の』マリー
「下らないことに精を出せるのは、文化人である証拠でしょ」
『双子の』ルビー
「遠回しにオレの事バカって言ってる?」
『双子の』マリー
「直に言われた方が嬉しかった?」
『双子の』マリー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 8[3,5]+1 > 9 > 成功
[ 『双子の』ルビー ] 情緒 : 2 → 3
『双子の』ルビー
なんでこう一方的な勝負になるんですか?
『双子の』マリー
「あの蒼空は好きなの?嫌いなの?」
『双子の』ルビー
「グリフォンの末裔なら、それこそ夢にまで見た光景かもしれんが」
『双子の』ルビー
「あいつら、空を飛べるからって威張ってやがるからな」
『双子の』ルビー
「俺達が地べたに縛られているのが哀れだとさ」
『双子の』マリー
「可哀想にね。彼らだって、空に鎖で繋がれているのに」
『双子の』マリー
「自由だと勘違いして舞い上がりすぎると、鎖が千切れて真っ逆さまなのよ」
『双子の』ルビー
「あの王者様だって一度そうなってんだろ?」
『双子の』ルビー
「空を見上げる奴に碌なのはいないね」
『双子の』マリー
「下手に生き延びた手負いほど面倒な奴はいない、だなんてことも」
『双子の』マリー
「言っていたでしょう?そのグリフォンの末裔」
『双子の』ルビー
「勝ち抜いた末裔共の中だとあいつが一番嫌だな。オレ」
『双子の』マリー
「底知れないっていう意味じゃ、あの神霊様以上かも」
『双子の』マリー
「おっかしいんだ。トランプのカードなんて、Jokerを入れても53枚までなのに」
『双子の』ルビー
「何にしろ、相容れない予感はするな」
『双子の』ルビー
「だから嫌いなんだよ。空を見上げる奴らは」
『双子の』マリー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 12[6,6]+1 > 13 > 成功
『双子の』マリー
6 はっと我にかえった奴がいる。ランダムな対象1人の情緒-1。
『双子の』マリー
Choice[マリー, ルビー] (choice[マリー,ルビー]) > マリー
[ 『双子の』マリー ] 情緒 : 1 → 0
『双子の』ルビー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 7[2,5]+1 > 8 > 成功
『双子の』ルビー
「一回戦を経て、感想が変わってたらことだ」
『双子の』マリー
「救世主の責務があるなら、果たす」
『双子の』マリー
「それ以上の事は、今はなんにも」
『双子の』ルビー
「最も、実際救世主になれば変わるだろうとは思うが」
『双子の』マリー
「なったとしても、そこまで熱心じゃないよ」
『双子の』マリー
「『西に行っては子猫を探し、東に行っては畑の手伝い』」
『双子の』マリー
「『南に行っては荷馬車の護衛に、北に行っては亡者狩り』!」
『双子の』マリー
「そういうものには、私達はならない」
『双子の』ルビー
「なり果てた結果がどうなるかなんて、一目瞭然だったろ」
『双子の』ルビー
「救世主に夢を見すぎなんだよ。どいつもこいつも」
『双子の』マリー
「どこのだあれ?最初に、始祖のアリスを救世主だなんて呼び始めたのは」
『双子の』ルビー
「『猟奇と才覚、愛によって救われるこの世界で、僕らは今も、新たなアリスを待ちわびています』」
『双子の』マリー
「本命は、頭の悪い末裔達」
「対抗は、ああ見えて実は自我の残っています亡者共」
『双子の』マリー
「連中だって同じでしょ。どこかに救いを求めてる」
『双子の』マリー
「だからこんな悪趣味で美味しいゲームに群がる」
『双子の』ルビー
「“僕ら”が待ちわびているのは、“新たなアリス”だ。“真なるアリス”じゃない」
『双子の』ルビー
「“新たなアリス”に求められるのは、救世主の責務を果たすための贄だろ」
『双子の』ルビー
「案外、どこぞの誰かの心の疵が、救世主を呼び込んでいたりして」
『双子の』マリー
「いいじゃん。ここ出たらそのテーマで大学に論文提出してきな」
『双子の』ルビー
「お前だろ救世主案言い出したの!」
『双子の』マリー
「わかったわかった。仮にその理論が正だとしたらさ」
『双子の』マリー
「今も堕落の国にもいるわけでしょ?」
「救世主(メシア)様を求める、件の神霊様みたいな奴が」
『双子の』マリー
「全てはその一人から始まったとされる」
『双子の』ルビー
「始祖のハートの女王だったりしてな」
『双子の』マリー
「悪夢の始まりは一人の夢見がちなおバカさんってのは、いかにも寓話的ね。お年寄りたちが喜びそう」
『双子の』ルビー
「それにしちゃ物騒すぎるがな。子供の癇癪に巻き込まれる方としては良い迷惑だ」
『双子の』ルビー
「どこの誰だか知らないが、随分厄介なことを吹き込んでくれたな。『まことの愛』がどうのって言ったやつは」
『双子の』マリー
「しゃらくさいし、古くさいし、説教くさいお話」
『双子の』マリー
「オズの魔法使い様だって、もうどこにもいないのに」
『双子の』ルビー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[4,2]+1 > 7 > 成功
『双子の』マリー
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 7[3,4]+1 > 8 > 成功
『双子の』ルビー
一個前の手番の情緒上昇を忘れていた
[ 『双子の』ルビー ] 情緒 : 3 → 4
[ 『双子の』ルビー ] 情緒 : 4 → 5
『双子の』ルビー
情緒0vs情緒5の決着は新記録ですね
『双子の』マリー
「Ignis aurum probat; miseria fortes viros.」
『双子の』マリー
「なぜ神は善き人に非業の運命を与えるか」
「わかる?」
『双子の』マリー
「“炎は黄金を証明し”」「“悲惨は勇者を証明する”」
『双子の』ルビー
「とはいっても、格言の通りなら未だ証明されていないようだけど。堕落の国を救う真の勇者は」
『双子の』マリー
「……あるいは、ただの悲惨に過ぎないのかも」
『双子の』マリー
「堕落の国の在り方自体が、勇者を試す悲惨に過ぎないのかもね」
『双子の』マリー
「おかしな異世界に飛ばされて、そこから帰るという試練」
『双子の』ルビー
「……ちょっと話が飛躍しててわかんないですね」
『双子の』マリー
「救世主なんて、“僕ら”が勝手に呼んでるだけって言ったでしょ?」
『双子の』マリー
「つまり本当の救世主はいなくて、堕落の国はそもそも救われない土地だって説の補強」
『双子の』マリー
「救われないなら、じゃあ何のために堕落の国は苦難に満ちているのか」
『双子の』マリー
「無理やり意味を見出すなら、勇者を試す試練としての舞台装置なのかもね」
『双子の』ルビー
多分途中で遮っても止まんないなこれ。
『双子の』マリー
「試練は乗り越えることが大切なの。解決できるか、は主題ではない」
『双子の』マリー
「恐ろしい怪物が住む山を越えるなら、挑まなくとも隠れて行けばいいし」
『双子の』マリー
「海龍の泳ぐ海を渡るなら、船を出せなくとも空を飛べば良い」
『双子の』マリー
「それと同じ。堕落の国の停滞は、解決しない」
『双子の』マリー
「だから、救世主は堕落の国を顧みないのよ」
『双子の』ルビー
「マリーさんはものを難しく考える天才だね」
『双子の』ルビー
「そうすると、オレ達はさしずめ勇者様を助ける現地人か?」
『双子の』ルビー
「観客席の歓声を聞く限り、人気はあるようだがな。あの勇者様は」
『双子の』マリー
「本当にわかってるのかな?あの野次馬」
『双子の』マリー
「此処に来た時点で、救世主の末路は帰るか死ぬか、石になるか」
『双子の』マリー
「もうあの勇者様は、自分たちの世界を救ってくれないのだって」
『双子の』ルビー
「だから、“代わり”がいるんだろ?」
『双子の』ルビー
「御付きのイモムシの末裔殿は、救世主になるって息巻いていらしたぜ」
『双子の』マリー
「彼等にとっては、さしずめそう。このゲームも、勇者を証明する術の一つ」
『双子の』マリー
「正しい(rial)救世主へと至る試練(trial)に過ぎないけれど」
『双子の』マリー
「強敵(rival)達を下して後も、救世主はとめどなく増え続ける」
『双子の』マリー
「まるでウイルス(viral)みたいにね」
『双子の』ルビー
「それくらいは承知だと良いけどな」
『双子の』マリー
「名が知れるくらいには長居しているのよ?知らないはずがないじゃない」
『双子の』マリー
「救世主を全うするってことは、見知らぬ他人も親しい知人も、己の意志さえも押し殺すってこと」
『双子の』ルビー
「心配なのはイモムシ殿の方だよね」
『双子の』ルビー
「あの意気込みようでは、無理くり連れてこられたんじゃない」
『双子の』ルビー
「つまり、あいつらの招待状は白」
『双子の』マリー
「そう、白。だから、勇者様は自ら望んでここまで来たの」
『双子の』マリー
「勇者様は、自らの意志で、己の世界を救いに戻られるのよ。後継者を残すという名目と共にね」
『双子の』マリー
「ほら。また一人、善良な救世主に見捨てられたわ。この世界は」
『双子の』マリー
「偉大な勇者の冒険譚を彩る、素敵な“悲惨”の一つになるのよ」
命のやりとりをした相手の事。無残に死んだ同胞の事。己が住まう世界の事。これから殺し合う敵の事。
互いを知る儀式は、“双子の末裔”を象る工程でもある。道化の仮面を塗りなおすように、二人の認識は混じり合っていくのだ。
ホテルマン達の通りがかる人数が多くなってきた。直に夜が明ける。
『双子の』ルビー
「そろそろ切り上げ時かな。あと一杯分を話したら終いにするか」
『双子の』ルビー
「これだけは合わせとこうって議題ある?」
『双子の』マリー
「そりゃ……まあ…………そうだよな」
『双子の』マリー
「シャノン様のことどう思うの?」
『双子の』ルビー
切り込んできたなあ、という顔。カップを置く。
『双子の』ルビー
「ちょっと待てよ。言葉を選ぶぞ」
『双子の』ルビー
「…………趣味の悪さがオレ達と相性が良い」
『双子の』ルビー
「特に、夢は弾ける瞬間も美しいだのとのたまうあたりが」
『双子の』ルビー
「それで?……それでいいんじゃあねえの?組んだ事で後悔は、そんなにしてないし」
『双子の』ルビー
「元々、選べる余地なんて大してなかったろ」
赤帯を引く娘。
人食いの始末屋。
春雷の勇者。
嵐の神霊。
かつて少女だったもの。
串刺姫。
蒼空の王者。
どれもこれも、双子のお眼鏡には叶わない。夢見るシャボン玉の女は、二人の知る中では一番ましだ。
『双子の』マリー
「いやそうじゃなくてもっと不真面目な話」
『双子の』ルビー
「無いだろ。無いってことにしろよ」
『双子の』マリー
「やだよ。なんかムカつくじゃん」
『双子の』マリー
「私がああいう目にあったのにへーきな顔してるあたりに……」
『双子の』ルビー
「首謀者ブッ殺しただろ!それで満足しとけ!」
『双子の』ルビー
「俺だって気になるぞ。お前があの人とこの後やってけるのかとか」
『双子の』ルビー
「最初の頃と同じ意気込みじゃねえか」
『双子の』マリー
「もっとこう……センシティブな……プラトニックな部分が……違うよ」
『双子の』ルビー
「そうやってはぐらかすなら、このお茶会の意味がないだろうが」
『双子の』ルビー
「あの夜、碌に力になれなかったのは悪かったし、その負い目もあるっちゃある。あるが、それはこの際気にしない」
『双子の』ルビー
「オレ達の間に貸し借りは無しで、過ぎた事を悔やんでも仕方は無いから、事実と心中だけを正直に話す」
『双子の』ルビー
「気持ちの整理がついてないならついてないって言えば良いし」
『双子の』ルビー
「ついてるならバカにもわかる言葉で頼む」
『双子の』マリー
「…………………………………………」
『双子の』マリー
「それを跳ねのけちゃったんだよ」
『双子の』ルビー
「今でも被れそうにないんだろう?帽子も何も」
『双子の』マリー
「頭に何か乗ってるの、泣きそうになるくらい」
ルビーとマリーは双子の末裔。そのかつての姿は、帽子の無い帽子屋。
ルビーは、そんなマリーを慰めるために、自らもまた帽子を捨てた。
それは、トゥイードルダムとトゥイードルディーの争いとはほど遠く。
『双子の』マリー
「人間の手がまだ触れないんだよ」
『双子の』マリー
「双子の挨拶は“はじめましてとそして握手”でしょう?笑っちゃうよね」
『双子の』ルビー
「言い伝えの話だ。事実じゃない」
『双子の』マリー
「だとしても、双子らしく振舞うには必要なこと」
『双子の』マリー
「“帽子の無い帽子屋”は白昼夢に過ぎない。私達の本懐は双子なんだから」
『双子の』ルビー
「“私達”より先に“私”を労わんなよ」
『双子の』マリー
「……休んでると余計なこと考えちゃうんだよ。わかるだろ」
『双子の』マリー
「それが余計にわかんないんだわ」
『双子の』マリー
「いや、今でも同じベッドで寝るくらいなら、風呂桶に収まって寝た方がまだマシだけど」
『双子の』マリー
「けど、帽子なんかどうだっていいって言ってくれるんだ、あの人」
『双子の』マリー
「私があの人を好きってことだと思う?」
『双子の』マリー
「言ったじゃん。この後も、上手くやってこうとはしてるって」
『双子の』マリー
「好きに……というか、良好になろうとはしてるんだよ」
『双子の』マリー
「でも、そうなんだよな、自分の気持ちになんの整理もついてなくてさ」
『双子の』マリー
「“あの人の事は絶えず考えちゃあいる”し、“それが憎悪でないことも確か”なんだけど」
『双子の』ルビー
「なんで今更そんな青春真っ盛りみてえなことを……」
『双子の』マリー
「うっさいな自分がらしくないマネしてる自覚くらいありますぅー」
『双子の』マリー
「バカにしたいなら今がチャンスだぞ」
『双子の』ルビー
「そんなツラで言われても困るわ」
『双子の』ルビー
「オレが気の利いたこと言えるかは分かんないけどさあ」
『双子の』ルビー
「あの人は、“ありのまま”“そのまま”のオレ達を見たいとか何とか抜かしてるんだよ」
『双子の』ルビー
「望むなら、二人だけでいた頃のように振る舞っていても良いと」
『双子の』ルビー
「『できれば私を好きになってくれたら嬉しい』ってオマケはついてたが」
『双子の』ルビー
「まあ、そういう大義名分も頂いてることだしよ」
『双子の』ルビー
「逆にだ、固執することも無いだろう。あの人に」
『双子の』マリー
「ペアにもなんにもならないじゃん、それじゃあ」
『双子の』マリー
「他の部屋の、相方に人生を捧げてるコンビ共を見てそんな楽観的でいられる?」
『双子の』ルビー
「相性の良さだけ勝てるならオレ達だけでトーナメント総舐めしとるわ」
『双子の』ルビー
「互いを思い合うだけが最高の関係な訳でもねえだろう」
『双子の』ルビー
「オレ達にはオレ達なりの、人との距離の取り方があるんだよ」
『双子の』ルビー
「どうせ人生を共有できる奴なんて、他に何処にもいないんだから」
『双子の』ルビー
「他所のペアを参考にするには結構だが、成りきるのはだめだ」
『双子の』ルビー
「オレ達は生涯この世界と付き合っていくつもりなんだろ」
『双子の』ルビー
「救世主になって世界を救うなんて妄想に、マジになる気は毛頭ない」
『双子の』ルビー
「救世主のために身を粉にして働き、同じ景色を見ようなんてつもりもない」
『双子の』ルビー
「救世主の望むがまま、新たな世界に駆け落ちるなんてのもまっぴらだ」
『双子の』ルビー
「……オレ達にとって唯一つ変わらない夢があるとすれば、そりゃ堕落の国で長生きすることだ」
『双子の』ルビー
「その最中で、また新しい夢が生えるなり、あるいは夢折れて絶望に沈むなりはするんだろうさ」
『双子の』ルビー
「そこで、我らが救世主様だ。あの人は、そんな我らの生き様を目に焼き付けたいとおっしゃる」
『双子の』ルビー
「知ったことか。勝手に見せてやればいい」
『双子の』ルビー
「オレ達とあの人とは、主従じゃない。友達でもない。同志でもない」
『双子の』ルビー
「互いが互いの見世物でしかないんだよ」
『双子の』ルビー
「見世物同士で慣れ合う道化芝居ほど、滑稽なもんも無いだろう」
『双子の』ルビー
「だから、良いんだよ。ペアの相性がどうだろうと」
互いを知るために必要なのは、何も身体を交えるだけではない。
双子の末裔は、それを誰よりもよく知っているはずだった。
『双子の』マリー
「いつからそんな饒舌になったの?」
『双子の』マリー
「無い知恵を絞って考えた結果?随分と上出来じゃない」
『双子の』マリー
「実際どうするかはともかく……ま。そうね」
『双子の』マリー
「気が楽になったとまでは言わないけど」
『双子の』ルビー
「俺達は所詮二人ぼっちの双子で、余裕が無いのはお前の方だ。お前に合わせて俺は踊るよ」
『双子の』マリー
「また全部投げ出してきやがって……」
『双子の』マリー
「次の試合まではまだいくらかあるでしょ。それまでに考えるとするさ」
『出来れば好きになって欲しい』、と彼女はそう言った。
それに応えを返すかどうかは、まだ検討中ということで。
『双子の』マリー
「今宵のお茶会は、そろそろお開きにしましょうか」
『双子の』ルビー
「早すぎるな。いつもの事だけど」
『双子の』マリー
「ま、実りのあるお茶会だったでしょう」
『双子の』マリー
「余暇を過ごすなんて初めて過ぎて、未だにてんやわんやだけど」
『双子の』ルビー
「どうしようかな」
「美味い料理の作り方でも勉強するか」
『双子の』マリー
「あんたそれホントにホンキで言ってたわけ……?」
行き先はそれぞれ上と下。
交わりこそすれ、纏まらず。
一人と二人が眺める景色は、
まったく違う色をしている。
※特殊なキャラクター同士によるかけひきのため、[寵愛]の取得は発生しません。