Dead or AliCe『16JAcks』
イスタ
イスタ
1回戦が終わったあと。
イスタ
新しい部屋に案内されて、とりあえず軽く血を流して、それから。
イスタ
ととのえられたベッドにあなたを押し倒す。
イスタ
「ねえ」
イスタ
「できちゃった」
イスタ
「かみさまってなに産むの?」
プルネウマ
「…………」
しばしの沈黙があり。
プルネウマ
「……………………なんて?」
イスタ
「だから!」
イスタ
「できちゃったんだってば!」
プルネウマ
「はぁ」
「…………産むとかなんとかってことは、こどもが?」
イスタ
「そう」
イスタ
「……だよね?」
イスタ
「しらないけど……」
イスタ
「村のひとたちがたまにいってた」
プルネウマ
「あー…………」
モデル的に、処女懐胎で生まれるのは君の方なんだけど、とか言う気力もなく。
プルネウマ
「……村で出産とかは見たことある?」
イスタ
「んー……」
イスタ
「ない……かも……?」
イスタ
「なんか、部屋に入って」
イスタ
「でてきたらふえてる」
プルネウマ
「こういうときは」
「コウノトリさんの話で誤魔化してもいいんだけどさあ」
プルネウマ
「あいにく、鳥さんはさっき落としちゃったし」
「君が孕んでるならもっといいやり方があるね」
プルネウマ
薄い腹を指で撫でる。
イスタ
ちいさく身がはねる。
プルネウマ
「逆に試してないのが驚きなんだけど」
「『出会った時』のやりかたで、確認したくなったりしなかったの?」
プルネウマ
中身の暴き方は、これまでも散々やっている。
イスタ
「なんか、でも」
イスタ
「さいしょはちいさいんでしょ」
イスタ
「見てもよくわかんないかなって」
プルネウマ
「じゃあ一緒にみてあげる?」
空っぽであろう、その中身を。
空ならお揃い、そうでないなら本物の奇跡。
イスタ
「…………」
イスタ
ぐーっと肩をつかむ。
イスタ
「できないでしょ」
イスタ
「そんなにぼろぼろになってさあ」
イスタ
「だって、いま身体起こせる?」
プルネウマ
……そのとおり、起こす気力がない。
体力の問題ではなく、魂が回復しきってない。
この身体自体も曖昧なものだ。
プルネウマ
「そうだねえ」
「私ができることは、今、あんまりないから」
「やるなら、君がやるしかない」
イスタ
「…………」
イスタ
おれもぼろぼろだけど。
イスタ
「あんたがそんななってるの」
イスタ
「はじめて見た」
プルネウマ
「そっかあ」
「こういう姿になるのはそこまで珍しくないんだけどねえ」
プルネウマ
「ぼろぼろになってる私も、悪いもんじゃないでしょう」
イスタ
「………………」
イスタ
「おれが」
イスタ
「いま全然手に力入らなくてよかったなって」
イスタ
「おもう」
プルネウマ
「力が入ったらいつでもどうぞ」
煽るように、肩を掴んでいる手を撫でる。
イスタ
その手はそれを避けるように、あなたの両頬へ。
イスタ
「やだよ」
イスタ
「ばーか」
プルネウマ
見つめる。
プルネウマ
「そっか」
ぽつり、と残念そうに。
プルネウマ
「まあ、まだあるからねえ、裁判」
どこまで理性が持つのか。それともずっと正気でいられないままなのか。
今の時点ではわからない。どちらも。
プルネウマ
「そうしたら、待ってみようか?」
「腹が大きくなるまで」
「なにかが出てくるまで」
イスタ
「……勝たせるんでしょ」
イスタ
「じゃあ、まだ、だめだよ」
イスタ
「……おれが勝つのと」
イスタ
「なんか出てくるの」
イスタ
「どっちがはやいのかなあ」
イスタ
「けっこうかかるんでしょ?」
プルネウマ
「そりゃ、普通に考えてみれば勝つ方が断然早いだろうけど」
プルネウマ
「わからないからなあ、君の身体は」
プルネウマ
君の身体も、君のあり方も、君の運命も。
プルネウマ
風で突き動かすことはできるけど、コントロールまではしていない。
イスタ
「あんたにわかんないんじゃ」
イスタ
「おれはもっとわかんないな……」
イスタ
あなたの髪の毛を撫でる。
イスタ
手を額に、鼻に、頬に、唇に。
イスタ
触れていく。
イスタ
あのままあんたが見えなくなったらどうしようって思った。
イスタ
ことばにすることはない。
プルネウマ
もう少しで、この子の目の前からも消えるところだった。
プルネウマ
だが、そうなっていない。
プルネウマ
まだ人の身は、肉の器はここにある。
プルネウマ
人間になれる、まことの愛を見つける可能性はある。
プルネウマ
「楽しみが増えてよかったね」
プルネウマ
その楽しみ(出産)に自分が立ち会えるかどうかはともかく。
プルネウマ
プルネウマにとっても、楽しみであることには変わりはない。
プルネウマ
何もなければ、自分と同じ。
何かがあれば、自分には想像の及ばないもの。
プルネウマ
どちらに転んでも楽しいことには変わりがない。
イスタ
「うん」
イスタ
たしかめる。たしかめていく。手は首筋を通って、肩、胸を撫でて、
イスタ
腹。そこで止まる。
イスタ
その内側を、一度見たことがある。
プルネウマ
なにもない場所。
プルネウマ
ただしい場所。本来そうあるべき場所。
プルネウマ
ここから生み出したものも、過去にはあった。
プルネウマ
娶られ、犯され、孕んだことがあった。
そう望まれればそうあった。
プルネウマ
なーんのいみもないのに。
人間はそこに意味を見出した。
プルネウマ
でも、この子の腹からなにかがでてきたら、自分は人間と同じように意味を見出すんだろうな。
プルネウマ
いいことだ。人間らしくて。
プルネウマ
その一方で、自分も揃えたくなる気持ちも、なくはない。
何かが出てこなければ、そうしたい。
プルネウマ
同じ虚無を孕んだものであっても、それはそれで嬉しいもの。
イスタ
ぽんぽんと、かるく、そうっとたたいてみる。
イスタ
この中を見せてくれたときの気持ちが忘れられない。
イスタ
ことばでは言い表せない、仄暗さと、うれしさと、ぞくぞくするような気持ち。
プルネウマ
穏やかに笑う。
プルネウマ
子を宿す母親を見る天使のように。
子を宿す母親を見る悪魔のように。
精霊は天使でも悪魔でもないのだけど。
プルネウマ
「ここでまた見せるのは恥ずかしいから、今はなしね」
プルネウマ
「おあずけ」
イスタ
「えー……」
イスタ
ころんと隣にころがる。
イスタ
そうしてぼんやりとあなたの顔をみている。
イスタ
「プルネウマ」
プルネウマ
「なあに、イスタ」
イスタ
「いるねえ」
プルネウマ
「うん」
なにが、とは指定せずに。
イスタ
「よかったな」
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プルネウマ
「よかったね」
ふふ、とこどもが笑う。
イスタ
わらう。
イスタ
おんなじようにして。
プルネウマ
こどもふたりが笑っている。
プルネウマ
ひとりはその身になにかを宿し。
ひとりはその身になにかを信じ。
プルネウマ
それは姿からはわからない。
中身も思いも、外から見えない。
プルネウマ
二人が笑う姿は、祝日を待つこどものようでもあり。
終末を待つ怪物のようでもあった。
プルネウマ
凪の時間はやってこない。
代わりに嵐がやって来る。
更に強まって、更に繋がって。
プルネウマ
おわりとはじまりのときを告げに来る。
プルネウマ