入場
GM
Shuffle, Deal and Up
不条理、非道理、配り直して
GM
Stand, Hit and Bust
主と僕、あなたはどちら?
GM
罪を束ねて天へと昇るか
徳を重ねて底へと下るか
上下あべこべ、ヴァンテアン・ゲーム
GM
── Dead or Alice『16JAcks』
GM
果て無く続く荒野の果て、その終着点よりも少し前。
GM
雲を貫きどこまでも聳える、場違いに豪華な高層建築。
GM
その広い1階のエントランスに今、末裔も救世主も犇めいている。
GM
この地で行われる儀式にして祭事、希望にして悪夢を見届けるため。
GM
或いは単に、観客に振る舞われる無料の食事を宛にして。
GM
好悪明暗綯い交ぜに、全ての視線はエレベーターの様子を写すモニターに注がれている。
GM
ホテルの中央を大きく貫く、広間のようなエレベーター。
101号室のホテルマン
誰も居ない場所へ向けて一礼。
101号室のホテルマン
「此度お招きに応じて頂きました、客室101号室のお二方」
101号室のホテルマン
エレベーターの扉から、新たな人影が現れる。
ネ
なにもかもがきらきら、きらきら、輝いている。この場所が本当に、堕落の国にあるのか疑わしいほど。きらきら、きらきら。しかし、──間違いなく、血と瘴気と、憎悪によって組み立てられていた。
ネ
姿が映るほど磨き抜かれた床を、ぼろぼろの素足が踏む。
ネ
ぺた、ぺた、ぺた。 薄汚れて、傷だらけで、この堕落の国の姿を、写し取るようなかたちをしている──美しさで誤魔化されたものを、あきらかにするように。
ネ
足取りはしっかりと、顎を軽く引き、背中をぴんと張る。彼女のあとを、身にまとった包帯が、ゆらりゆらりとついていく。
ネ
その中のひとつ。明らかに色が違うもの。ぬめるような、湿度を持つ、赤い包帯。
アルビー
血のような色をしてたなびく帯。
後ろの、男の形をした肉塊へと続く。
アルビー
あたりに立ち昇る腐臭に死臭。
煙草の甘い香りに混じっては散る。
アルビー
包帯に引かれ、からくり人形のように進み出る。
なんらかの末裔。耳はない。尻尾もない。
アルビー
代わりに、だらりと垂れた臓物がぶらんぶらんと磨き抜かれた床を汚す。
アルビー
手にした水パイプを、深く吸うたびに肋骨の隙間から煙が昇る。
アルビー
もうすでに腐り落ちて存在しない肺が煙にむせた。
ネ
救世主はフードを外した。あどけない顔。目の前の、おぞましい姿にも、眉ひとつ動かさない。
ネ
くゆる煙の中でも、目が光っている。末裔の死の香りと対照的な、生きているものの輝き。
ネ
そして、いつものように問いかける──あなたは森の賢者だから。
「僕たちの敵はどこにいる?」
GM
次いで、エレベーターの向かいに位置する扉からもホテルマンが現れる。
103号室のホテルマン
再び、誰も居ない場所へ向けて一礼。
103号室のホテルマン
「此度お招きに応じて頂きました、客室103号室のお二方」
103号室のホテルマン
「春雷のペペル様、ジャン様」
ペペル
その名が告げられて、
たん、たん、たんとブーツが床を叩く音が響く。
待ちかねていたかのような元気の良さ。
ペペル
数歩目かで、たぁん、と床を蹴って高く跳躍する。
宙で身体が翻る。
ペペル
カールされた長い髪が、ふわりと弾む。
これから殺し合いの始まる現場で、
そこだけが春の空気が漂っていた。
ペペル
たん! と広間の中心に着地する、小さな姿。
十と少しの歳のそのこどもは、この堕落の国において
溌剌とした活力を湛えていた。
ペペル
背負っていた剣を握り、大道芸のように、
くるくると軽やかに回転させる。
ペペル
その切っ先に、パシ! と不思議な紫色の火花が散った。
ペペル
剣を収め、ぺこりと一礼する。
「こんにちは! ペペルです。
今日はよろしくお願いします!」
ペペル
「……
ほら! ジャン何してるの! 早く来て!」
ペペル
「勘違いしてるかもしれないけど
キミの晴れ舞台でもあるんだからね……」
ジャン
いや、よく見れば、エレベーターの扉から出てすぐのところ。
ジャン
閉じた扉に向かって、末裔の青年が背中を丸めて立っているのが見える。
ジャン
「こんな場所……俺が来て大丈夫なのか……? 俺なんかが来てよかったのか……?」
ペペル
ペコ……と頭を下げてジャンのもとに駆けていく。
ジャン
「いや……最近は亡者を倒す手伝いとかもできてるし……それにこのヴァンテアン・ゲームはコインを捨てて対等な立場なわけだし……」
ペペル
「どうしちゃったの!?
大勢の人の前に出るのなんて
初めてなわけじゃないでしょ…!」
ジャン
「ああっ、すいませんっ! すいません! 今行きます! 今行けます!」
ジャン
ぐいぐい引っ張られながら中央にやってくる。
ペペル
「無理しないでと言いたいところだけど……
今回はそうもいかないから……」
ジャン
「はいっ、大丈夫です! はい! 俺はやれます!」
ペペル
なにしろこれは……ジャンの望んだ戦いでもあるはずなのだから。
ジャン
そうだ。この戦いを終えたら、ペペルは自分の世界に帰る……
ペペル
「うん! 大丈夫!
ボクがついてるからねっ」
背中を叩く。
ジャン
救世主には救世主のいるべき世界、本当の世界がある。であるならば……
ジャン
「任せてください、俺とペペルさんが勝って……そして、俺が堕落の国を救うんだ!」
ペペル
アイコン枠を突き破りそうなほどの意気込みだ……!
ジャン
そうしてようやく、末裔の青年は今まで目に入れられていなかった対戦相手を見る。
ジャン
それから香る水パイプの煙の臭いに、わずか怪訝な顔をした。
103号室のホテルマン
「ええ、ええ。ありがとうございます」
103号室のホテルマン
「此度ヴァンテアン・ゲームの開催にあたり、救世主様と末裔からなるペア8組、合わせて16名の方々にお集まり頂きました」
103号室のホテルマン
「それぞれに生死を賭けて競い合って頂き、最後に残った1組の方々に当ホテルより景品が授与されます」
101号室のホテルマン
「景品とはつまり、救世主様には元の世界への帰還。そして末裔には、救世主の力を”自分のもの”とすること」
101号室のホテルマン
「ですがそれを得るためのチップは”オールイン”が当ゲームのルール」
101号室のホテルマン
「敗者の結末は必ず”生きる”か”死ぬ”か。そしてその選択は、勝者に責務として委ねられます」
103号室のホテルマン
「その責務を放棄する事はできません。例え、相手がどのような状態であっても」
103号室のホテルマン
「尚、棄権なされた場合は通常通り敗者として扱いますので、予めご了承下さい」
101号室のホテルマン
「そして繰り返しになりますが、当ゲームは”オールイン”」
101号室のホテルマン
「お持ちの6ペンスコインは全てチップとして当ホテルに預けて頂き、決闘においてはホテルから配布される”指定枚数”のコインを用いて頂きます」
103号室のホテルマン
「こちらが決闘用のコインと、証となります」
GM
それぞれのペアの元に担当のホテルマンが歩み寄る。
GM
その手にはカジノで見るような重厚な造りのチップトレイと、2枚の赤いトランプ。
101号室のホテルマン
「この第1回戦でホテルより配布されるコインは、引いた証がエースであれば11枚。ジャックであれば10枚」
103号室のホテルマン
「これより始まるお茶会の時間、エースとジャックの間には多少の……一般的な救世主と末裔の間にあるものと同程度の立場の差が生じます」
101号室のホテルマン
「それでは、コインをお預けください。そしてどうか、お引き下さい」
ペペル
「多少ね~
それってケッコーな差だよね……」
ジャン
えっ俺がエースを引いたらどうしよう…? 扱いの差が生まれてしまうのか…?
ネ
「ペペル、と言ったね。そちらの末裔のほうは知らないけど、名前を耳にしたことがある」
ジャン
うわっ、話しかけてきた! そりゃ話しかけてくるか……
ネ
現時点で、二人の救世主の間には、明らかな力の差がある。それでも、彼女は姿勢を崩さない。
ジャン
俺たちこれからお茶会するんだもんな。よく見とこ。
ペペル
話しかけてきている救世主よりも、
どちらかというと従えている末裔のほうに視線が向いている。
ペペル
(なんか……出ちゃいけないものが出てる気がするなぁ……)
ネ
「それでも……このゲームに勝つのは僕とアルビーだ」
ネ
ペペルの視線が噛み合わずとも、ネはペペルのほうをじっと見つめていた。やがて視線を離すと、まっすぐにホテルマンのほうに向かい歩く。
ジャン
「……なんか、言いたいこと言って行っちゃったすね」
ネ
ほつれた麻袋の中に、コインが20枚。それを逆さまにして、中身をすべて預けた。
ペペル
同じように革袋をひっくり返して、溜めていたコインを渡す。
ジャン
末裔であるジャンはコインを持っていない。ペペルの次にカードを引くべく、後ろで待っている。
103号室のホテルマン
こちらも丁寧に受け取り、そして。
103号室のホテルマン
あなたがた二人に、カードを差し出す。
101号室のホテルマン
それはこちらのホテルマンも同様に。
ペペル
「もしエースがジャンのほうに行ったら……
ジャンはどうする?」
ジャン
「いっ、いやっ、でも、急にそんなこと言われても……難しい、というかっ……」
ジャン
「そんな変わんない…………んじゃ、ないっ、ですかね?」
ジャン
果たして、息を荒げて緊張しながら引いたカードは……ジャック。
ペペル
「残念~ そっちがエースだったら
なにかワガママ聞いてあげてもよかったんだけどね」
ネ
「あっちは普通に、救世主がエースを引いたみたい」
ネ
少し表情が変わる。意地悪のあてが外れたような、不満そうな顔に。
ネ
それを覗き込んだあと、結果がわかっている自分のカードを表にした。
ネ
「お前が望むなら、ご褒美くらいくれてやったのに」
ネ
平気そうな口をきいたあとに、アルビーの体液で汚れた床に視線を落とした。
ネ
半歩、近づいた。 ちょうど、救世主にすがる末裔のように。
101号室のホテルマン
「これで、エースとジャックが決定されました。これは当ホテルより判断されるお客様方の身分であり、領分となります」
101号室のホテルマン
「エースはエースらしく。ジャックはジャックらしく。どうか振る舞われますよう」
101号室のホテルマン
「領分を犯した者には、相応の報いが与えられます」
103号室のホテルマン
「これより24時間のお茶会の時間の後、再びこの中央エレベーターへとお集まり頂き、裁判となります」
103号室のホテルマン
「こちらそれぞれ2通、お茶会を助けるための招待状となります、お受け取り下さい」
GM
招待状と称された封筒が、各ペアに2つずつ渡される。それは、参加者たちをこのホテルに招いた招待状と似た気配を持つもの。
103号室のホテルマン
こちらは口元を一切動かさずに。
ジャン
「うーん……」裏表を確かめながら、考えるように唸っている。
ペペル
「ボクこういうタクティクスを求められるやつ苦手」
101号室のホテルマン
「エースの方々。当ホテルに存在する施設は全て、ご自由にお使いください」
103号室のホテルマン
「ジャックの方々。どうかエースの方々の邪魔を為されないように」
101号室のホテルマン
「それでは、客室101号室、ネ様、アルビー様と」
103号室のホテルマン
「客室103号室、春雷のペペル様、ジャン様の」