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月花 柘榴
4d6 霊力 (4D6) > 12[1,3,3,5] > 12
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月花 柘榴
2d6+2 (2D6+2) > 6[1,5]+2 > 8
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月花 柘榴
…………痛みと、異物感。
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月花 柘榴
私の目を覚まさせたのは、そういったたぐいの、普通の人なら、あるいはカミガカリでさえも、とっくに死んでいるであろう衝撃だった。
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月花 柘榴
きっと吐きそうなくらいに気持ち悪くて、
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月花 柘榴
けれど、うまく吐き出すための内臓ももう壊れて、機能していない。
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月花 柘榴
「……は、……ぁ、」
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月花 柘榴
強く揺さぶられながら、瞳をうごかして、周囲を見る。
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月花 柘榴
あたりは薄暗くて、遠くに見える看板は文字が左右反対で、
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月花 柘榴
視界の大部分を遮る、大きな体がある。
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月花 柘榴
……そいつは私の身体を持って、いいように使っていて、
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月花 柘榴
……思い出す。
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月花 柘榴
私はそこまで頭がいいほうではなくて、力の強さだけで戦ってきて、
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月花 柘榴
だから、そいつが自分よりずっと力が強くて、ひとりではどうしようもないことがよくわかる。
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モノノケ
その身体を掴むのは、黒い外骨格に身を包んだ異形のもの。
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モノノケ
人のようなシルエットをしている。
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モノノケ
足元へと目を落とすと、桃色の肉塊の床が広がっている。
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モノノケ
引きちぎられた、自身の身体の一部であった。
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モノノケ
体格は、柘榴の身体よりも遥かに大きい。
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月花 柘榴
……私の身体は、汚れている。
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月花 柘榴
だから、時折それに引き寄せられて、モノノケがやってくることがある。
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月花 柘榴
何回もあった。慣れている。
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月花 柘榴
そのたびにひとりで倒して、傷付いた身体はひとりで癒やして、そうやってやってきて。
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月花 柘榴
ただ、今日はいつもと違うことがひとつだけあって。
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月花 柘榴
そいつが私よりずっと大きくて、ずっと強くて、
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月花 柘榴
なすすべがない、ということだ。
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月花 柘榴
だから、今は耐えるだけ。
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月花 柘榴
痛みを我慢して、気持ち悪いのも仕方ないことだって諦めて、それが終わるときを待っている。
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モノノケ
身体を軽々と持ち上げる。
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月花 柘榴
「…………っ、」
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月花 柘榴
首を掴まれれば、呼吸がくるしくなる。
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月花 柘榴
むしろ、まだ呼吸できていたんだな、と驚くくらいだけど。
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モノノケ
大きな掌が、首へと巻き付く。
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モノノケ
その手が首を絞める。
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モノノケ
細く短い柘榴の首を、強引に。
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月花 柘榴
ぐらり、と視界が揺らぐ。
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月花 柘榴
苦しい。
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モノノケ
普段は伸びないはずの長さにまで、首を伸ばされるような感覚。
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月花 柘榴
「…………っ、ぐ、……」
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月花 柘榴
もがいて、しかしそれでどうなるわけでもない。
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月花 柘榴
声も出せず、足は地面に届かなくて、
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月花 柘榴
ちいさな手が、モノノケの大きな手の指をひっかく。
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モノノケ
それは、モノノケの動きを止めはしない。
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モノノケ
抵抗するように弱々しく蠢く腹部の触手へと触れる。
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モノノケ
それを引っ張る。体内から引きずり出す。
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月花 柘榴
「っ、――――!」
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モノノケ
首は、人の身体を持ち上げられるようには出来ていない。
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月花 柘榴
引っ張れば引っ張るほど、その触手は質量を増していく。
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月花 柘榴
人の身体よりずっと重いものになる。
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モノノケ
体格に見合わぬ触手。
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モノノケ
それを支えるのは、この幼子の身体の小さな細い首。
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モノノケ
小さな頚椎が、下へと引っ張られる身体を繋ぎとめている。
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モノノケ
モノノケは、これでも月花柘榴が死なないことを明らかに理解しているようだった。
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モノノケ
いたぶることを楽しんでいる。
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月花 柘榴
息を吐き出すこともできない。
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月花 柘榴
けれど、死なない。死なないし、意識がなくなることすらない。
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月花 柘榴
体内のものはもうめちゃくちゃになっていて、地面には自分の身体が散らばって、それでも。
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月花 柘榴
こうして人間ではないことを自覚するたびに、胸が苦しくなる。身体の痛みより、ずっと強く。
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月花 柘榴
腹から漏れ出て、自分の身体を汚す血は、人間に流れるそれとは違う色をしている。
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月花 柘榴
私は汚れている。
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モノノケ
指を腹へと押し当てる。肌を突き破り、冷たい指の感触が中へ。
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モノノケ
目の前で漏れ出す血液が、モノノケの黒を彩る。
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月花 柘榴
息を飲もうとして、あるいは呻き声をあげようとして、その空気のながれを大きな手に阻まれる。
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月花 柘榴
黒いモノノケに、紫の血。
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月花 柘榴
たぶん、似合っているんだ。
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モノノケ
それは醜悪な化け物、不浄の悪霊。
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モノノケ
普通ならば、まずはそれに身体を蹂躙されることへの悍ましさに慄くだろう。
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月花 柘榴
悪霊に身体を侵されて悲しいとか、そういった気持ちはなかった。
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月花 柘榴
私のほうがきっと汚れている。
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月花 柘榴
私は悪霊すら汚している。
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月花 柘榴
私はきっとこういったものになったほうがよかったのだろう。
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月花 柘榴
ずっと罪悪感がある。
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月花 柘榴
人ではないのに、人よりずっと醜くて穢れているのに、
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月花 柘榴
人みたいな格好で、人のふりをして、生きていること。
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月花 柘榴
……胡桃に好かれていること。
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月花 柘榴
それを嬉しがってしまっていること。
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月花 柘榴
私は胡桃に近付いていい存在ではない。
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月花 柘榴
父さんも言ってたし、私だってわかってる。
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月花 柘榴
目を閉じると胡桃の怯える顔が真っ暗なまぶたの裏にうつる。
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月花 柘榴
当然だし、むしろ胡桃が私のことを好いているほうがおかしいし、そうなるべきなのに。
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月花 柘榴
……さみしい。
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月花 柘榴
こんなことを思ってはいけない。のに。
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月花 柘榴
どうして。
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月花 柘榴
わかんなくなっていく。
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月花 柘榴
モノノケは冷たい指で私の腹の中をかき回す。
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月花 柘榴
このままぜんぶめちゃくちゃにしてくれればいいのに、と思う。
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モノノケ
悪霊は、柘榴を蹂躙することを楽しんでいる。
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モノノケ
力がある。知恵もある。邪悪なものではあれど、心のようなものもあるように見える。
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モノノケ
けれど、その悪霊が、自らの異形に苦悶することはないのだろう。
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モノノケ
それは、ただ、本能の赴くままに人を害し続ける存在だ。
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モノノケ
べろりと身体を舐める。そこから漂う臭気は、腐敗臭のようでもあり、濃厚な麝香のようでもあり、病や死の香りのようでもあった。
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モノノケ
では、この不浄の化け物の体液は、あのアラミタマの口を穢すことができるのだろうか?
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モノノケ
腹部の穴を乱暴に押し広げる。それでも死なない事がわかっている。
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モノノケ
指は腹の中を泳ぐように動いている。
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月花 柘榴
腹の中で触手がうごめいている。いつもより動きは鈍く、粘着質な音を立てながら。
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モノノケ
道を阻む触手を、ぶちぶちと引き裂きながら。
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モノノケ
モノノケの手首まで、返り血に染まっていた。
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月花 柘榴
大きな手を体液が汚していく。
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月花 柘榴
それを見ている。
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モノノケ
返り血を浴びたモノノケの指先。
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モノノケ
硬いはずの表皮が、ふやけるように崩れる。
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月花 柘榴
見ている。
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月花 柘榴
表皮がくずれて溶けて、私の腹の中で混ざって、飲み込まれる。
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モノノケ
構わず指が動く。
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モノノケ
入った指が外に出るたび、表皮が崩れていくのが見える。
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モノノケ
一瞬、背中から感じるひんやりとした感触。
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モノノケ
腹部から背中までの穴が開通した感触。
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月花 柘榴
痛みがあったのかもしれないし、なかったのかもしれない。
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月花 柘榴
特になにか、気持ちを感じることも……ない、と思う。
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月花 柘榴
穴があいたな、というのと、
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月花 柘榴
指痛くねえのかな、ということ。
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月花 柘榴
それくらい。
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月花 柘榴
ずっと胡桃のことを考えていて。
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月花 柘榴
だから、いまの自分のことは、あんまりわからない。
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月花 柘榴
でも、痛いならやめればいいのにな。
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モノノケ
指が一本、増えて二本、三本。
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モノノケ
今やその指に表皮は残っていない。真っ赤な肉が見えて、血が滴っている。
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モノノケ
その血は柘榴よりも赤かった。
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月花 柘榴
赤い血だ。
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月花 柘榴
何本も指を入れて、私に汚されて。
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月花 柘榴
どういうつもりでやってるんだろうな。
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月花 柘榴
私より強いんだから、そのまま普通に殺してくれたっていいのに。
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月花 柘榴
なんでこんなことをしているんだろう。
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月花 柘榴
腹から飛び出た触手がモノノケの腕に絡みつく。
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月花 柘榴
次第に勢いを失って、死んだようにずるりと表皮からすべりおちて、
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月花 柘榴
残った毒液がゆっくりとその表皮を溶かして、蒸発する。
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月花 柘榴
それがこのモノノケのうごきを止めるくらいの傷になることはないけど。
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月花 柘榴
だからこそ、汚している、と思う。
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モノノケ
足元の肉塊は、山のように積み重なっている。
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モノノケ
そこに立っているモノノケの足は、やはり体液と混ざり、崩れていた。
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モノノケ
触手の絡みついた腕、そこにもべっとりと付着した体液。
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モノノケ
表皮が僅かに溶ける。
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モノノケ
それは腐敗に似ていた。
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モノノケ
腕を引き抜く。
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モノノケ
柘榴の目線がわずかに低くなる。
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月花 柘榴
「…………は、……っ、」
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月花 柘榴
すこしだけ空気の通り道にすきまができて、息を吸う。
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月花 柘榴
ずっと下を見ていた顔を上げて、
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月花 柘榴
目の前にあるものを見て、
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月花 柘榴
なんとなく、察しがついた。
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月花 柘榴
悪霊もこういうことするんだな。
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月花 柘榴
入るのかな。
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モノノケ
柘榴の胴体ほどの大きさ。
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モノノケ
それすらも根本は表皮に包まれている。
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月花 柘榴
入れたら傷付く気がするけど、いいのかな。
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月花 柘榴
痛いんじゃなかった?
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モノノケ
まだ汚されていない黒い殻は、鈍く艶めいて。
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モノノケ
隣には爛れた腕。
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モノノケ
柘榴に触れて崩れた部位に比べると、綺麗にすら見える。
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月花 柘榴
これから私が汚すのかな、と思う。
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モノノケ
恐怖もないのだろう。痛覚もないのかもしれない。
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月花 柘榴
なんでこんなことしてるんだろう。
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月花 柘榴
私じゃない誰かならもう少し楽しめただろうに。
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モノノケ
死なないことを知っている。
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モノノケ
いたぶって反応を楽しんでいるように見える。
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モノノケ
その心が悪意のみで構成されているのなら、きっと怪物への嫌悪感もないのだろう。
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モノノケ
あれは、穢れを恐れるヒトの本能に基づくものだから。
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月花 柘榴
このモノノケが何を楽しんでいて、どういう理由で動いているのか、わからない。
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月花 柘榴
ただ、
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月花 柘榴
人間とするときより、ずっと気持ちが楽だ。
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月花 柘榴
私はたぶん、人よりはこのモノノケに近いから。
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月花 柘榴
……でも、この続きを想像することができないでいる。
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モノノケ
方法は単純だった。
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モノノケ
柘榴の胴体に先端が触れる。
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モノノケ
進む。
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モノノケ
腹の中からぶちぶちと、何かが切れる音がする。
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月花 柘榴
内臓と触手を巻き込んで、それは身体の中をゆっくりと埋めていく。
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モノノケ
押し広げ、押し広げ、強引に。
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月花 柘榴
呻き声が漏れる。
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月花 柘榴
圧迫感がつよい。
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月花 柘榴
進むにつれて触手が巻き込まれていって、
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月花 柘榴
背中のほうから出てくる。
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モノノケ
骨が砕ける。
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月花 柘榴
なにかが、押しつぶされて、破裂して、
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月花 柘榴
血が一気に出てくるのを感じて、
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月花 柘榴
視界に靄がかかって、
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月花 柘榴
口から血が出てくる。
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月花 柘榴
身体の中ではたくさんの音が鳴っている。
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モノノケ
臓器が潰れている。骨が砕かれている。
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月花 柘榴
骨が折れる音、触手がちぎれる音、身体の中身がぐちゃぐちゃになっていく音。
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モノノケ
では、なぜ足は動くのか。なぜ、下半身には感触があるのか。
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モノノケ
背骨が折れているはずなのに。この身体は、どうやって出来ているのか。
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月花 柘榴
わからない。
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月花 柘榴
普通のカミガカリなら、とっくに死んでるはずだ。
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月花 柘榴
この体が動かなくなれば、人間らしくなれるかもしれない。
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月花 柘榴
けれどそうはならなくて、
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月花 柘榴
こんなに身体がめちゃくちゃになっていて、それでも、
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月花 柘榴
足の先までちゃんと、熱が通っている。
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月花 柘榴
それが、たぶん、いちばん怖い。
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月花 柘榴
自分が死ぬことより、自分が死なないことのほうがずっと怖くて、嫌で、苦しい。
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モノノケ
溶け出す負の霊力も、毒性の体液も、柘榴の身体によく馴染む。
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モノノケ
何故だか、こんな玩具のような扱いにすら、身体は耐えられる。
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モノノケ
休めば、痕すらも元通りに。
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月花 柘榴
どんなに母様にめちゃくちゃにされても、一晩寝れば嘘のように治った。
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月花 柘榴
母様はそれがきっと嫌だった。
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月花 柘榴
嫌だということを教わって生きてきた。
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モノノケ
前後に動く。そのたび身体は押し広げられる。
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モノノケ
今度は、動くたびに表皮が割れていくさまが見えた。
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モノノケ
ひび割れた場所から硝子のように砕け、柘榴の体内に突き刺さる。
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モノノケ
体内へと残された破片の感触だけを置いたまま、少しずつ赤い肉へと姿を変えていく。
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月花 柘榴
私よりずっと人間みたいだ。
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月花 柘榴
身体の中に異物が混じるのを感じている。
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月花 柘榴
モノノケはそれを私に置いていって、人間へ近付いていく。
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月花 柘榴
赤い肉が見えて、視界から消えて、次に見えるときはまた増えて、水音とともにそれを繰り返している。
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月花 柘榴
痛そうでかわいそうだな、と思うけど、同時になにか、得体のしれない感情があった。
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月花 柘榴
羨ましさであるかもしれないし、怒りであったかもしれないし、あるいは他のものかもしれないけれど、それを定義することはできずにいた。
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モノノケ
傷ついた身体は傷ついたまま。柘榴のような再生もしない。
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モノノケ
柘榴に触れた場所はすべて、今も痛々しい見た目のまま。
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モノノケ
似たようなことは何度もあった。モノノケたちは、柘榴の身体の中に自分の一部を置き去りにしていった。
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月花 柘榴
それはいずれ触手が食ってしまうから、なにか私の肉体に悪影響があったわけではなかったけど。
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月花 柘榴
だからといってなにも引っかかるものがない、というわけではなくて。
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月花 柘榴
……あの日、鼠と人形に会った日。
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月花 柘榴
あの日があってからは、前よりずっと、
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月花 柘榴
何か、何かがおかしくて、
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月花 柘榴
きもちわるくて、
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月花 柘榴
けれどその不快感の理由が、わからない。
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モノノケ
クスクスと笑う。
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モノノケ
モノノケは、汚された自身の部位を、柘榴へと見せつけてくる。
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モノノケ
お前がやったことだとでも言いたげに。
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モノノケ
この化け物には、知性のようなものがある。本当に柘榴の心の中を見通しているのかもしれない。
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月花 柘榴
「…………は、」
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月花 柘榴
見せつけられれば、抗えずにそれを見る。見てしまう。
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月花 柘榴
…………なんで。
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月花 柘榴
月花柘榴にはわからない。
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月花 柘榴
どうしてこのモノノケが嫌なことをしてくるのか。
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月花 柘榴
このモノノケの知性が、どれほどあるのか。
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月花 柘榴
14歳になったばかりで、ずっと戦うことを考えてきて、あんまりよくできているとは言えない脳では。
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モノノケ
ひどく痛々しい見た目をしていた。
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モノノケ
元は黒。
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モノノケ
それは赤へと変化して、再び鈍い黒へと変色していた。
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モノノケ
焼けたような、腐ったような色。黒い汁が滴る。
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月花 柘榴
モノノケがあえて心を、身体を、痛めつけてくるのだと。そのように理解できるだけの知性がない。
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モノノケ
皮膚の剥がれた指が、柘榴の頭へ。
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モノノケ
ずぶずぶと埋没する。触手をかきわけ、脳を掻く。
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月花 柘榴
「…………ぁ、 …… ……?」
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月花 柘榴
「……、 …… なん、」
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月花 柘榴
「…………、で……」
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月花 柘榴
なにを。
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月花 柘榴
なにをしているのか、わからない。
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月花 柘榴
痛みというのは、危険信号だ。それを感じないようにしているから、これが何をされているものであるか、痛覚から判断ができない。
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月花 柘榴
なにか、なにか、でも、これは、
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月花 柘榴
触られてはいけないものを、
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モノノケ
ぐちゃぐちゃと音が響く。身体の内側、耳のすぐ近くから。
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月花 柘榴
いま、痛みはなくて、
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月花 柘榴
触手がざわめく感覚と、
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月花 柘榴
熱いとか、寒いとか、なにか酸っぱい味とか、おなかの奥を甘く触られる感覚とか、
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月花 柘榴
嬉しさとか、悲しさとか、怒りとか、
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月花 柘榴
そういうのが、いっぺんにきて、ぐちゃぐちゃにかきまわしていく。
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月花 柘榴
「ぁ、」
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月花 柘榴
「……ぅ、」
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月花 柘榴
「だ、め、」
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月花 柘榴
「やだ、」
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月花胡桃
「ざくろちゃん、気持ち悪い」
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月花胡桃
胡桃の顔が見える。声が聴こえる。
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月花胡桃
「なんでまだ生きてるの?」
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月花胡桃
「化け物!近寄らないでよ!」
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月花 柘榴
「…………ぁ、」
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月花 柘榴
「……………………」
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月花 柘榴
やだ、やめて、
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月花 柘榴
これはちがう、幻覚だ、本当にそう言われてるわけじゃない、
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月花 柘榴
けど、
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月花 柘榴
くるみが、
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月花 柘榴
くるみが私の名前を呼んでいて、
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月花 柘榴
そうして、
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月花 柘榴
「…………」
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月花胡桃
「私、こんなのに気を許してたの?」
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月花胡桃
「やっぱり、お父さんが正しかったんだ」
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月花胡桃
「怖い!ずっと私のそばで、人間のふりをしてたなんて!」
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月花 柘榴
そう、
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月花 柘榴
そうなんだ。
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月花 柘榴
たぶん、まちがってなくて、
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月花 柘榴
だから、私がわるくて、
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月花 柘榴
私が、
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月花 柘榴
私が生きてなかったら、
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月花 柘榴
たぶん、そっちのほうがずっとよくて、
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月花 柘榴
触ってきたモノノケを汚すみたいに、
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月花 柘榴
生きてるだけで、いろんな人を汚すから、
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月花 柘榴
だから。
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月花 柘榴
「…………」
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月花 柘榴
「……あたしも」
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月花 柘榴
「そう、おもう……」
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モノノケ
その言葉は誰にも伝わらない。瞬きをすると、胡桃の姿は消えている。
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モノノケ
目の前にはただモノノケが居るだけ。じゅるじゅると水音が聴こえる。頬に何かの体液がどろりと伝う。
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モノノケ
モノノケ以外には居ない。もちろん、胡桃がここに居るはずもない。
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月花 柘榴
いなくなってしまったそれをまだ見続けている。
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月花 柘榴
脳はかきまわされて、溶かされて、自分の毒液とも混ざって、どんどんぐちゃぐちゃになって。
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月花 柘榴
じぶんがなにを言っているのかも、あいまいなまま。
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月花 柘榴
「…………くるみ、」
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月花 柘榴
「……ねえ、くるみ、」
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月花 柘榴
寂しい。
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月花 柘榴
「……くるみが」
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月花 柘榴
もっと触れたい。
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月花 柘榴
「あたしを殺してくれたりは、しないの……」
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月花 柘榴
その声はどこにも届かない。
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モノノケ
目の前にはモノノケの顔。
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モノノケ
シュルル、と吐息の音。
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モノノケ
お前が話しかけているのは自分だと。
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モノノケ
しかし、指は更に奥深くへ。
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月花胡桃
「いいんだよ。ざくろちゃん」
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月花胡桃
無垢な笑顔を向ける胡桃。
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月花胡桃
「私、ざくろちゃんのことが知れて嬉しい。ずっとざくろちゃんのことが知りたかった」
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月花胡桃
「全然こわくないや。ちょっとかわいいかも。これで全部丸く収まるね」
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月花胡桃
「ねえ、ざくろちゃんのこと、もっと知りたいな。私、ざくろちゃんのことなら、全部、なんでも受け入れられるよ」
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月花胡桃
これも幻。そうはならなかったこと。
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月花 柘榴
「…………、」
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月花 柘榴
たぶん心のどこかでこれが幻だとわかっていて、
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月花 柘榴
けれどべつのどこかで、
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月花 柘榴
これが、ほんとうならいいのに、と思って、
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月花 柘榴
でも、こんなことは起こり得ない。それは脳のもっとずっと深くに染み込んでいる。
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月花 柘榴
うまれたときから、ずっと。
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月花 柘榴
そう言われてきたから。
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月花 柘榴
……なんで泣いてるんだろう。
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月花 柘榴
それを考えるだけの知性も、指で混ぜられて、どこにもない。
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月花胡桃
「ざくろちゃん、どうしたの、ざくろちゃん」
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月花胡桃
「つらいことでも、あったの?」
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月花胡桃
「だいじょうぶだよ、ざくろちゃん」
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月花胡桃
触手まみれの身体を恐れもせず、抱きしめる。
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月花胡桃
返り血が胡桃を染める。けれど胡桃は、その血に触れても傷ついたりはしない。
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月花胡桃
「ほら、大丈夫」
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月花 柘榴
「…………ぁ、」
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月花 柘榴
抱きしめようとするのを止めようとして、止められなくて、そのまま胡桃が血で汚れて、
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月花 柘榴
けれど胡桃は怪我もせずに立っていて。
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月花 柘榴
たぶん。
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月花 柘榴
こうなったら、たぶん、
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月花 柘榴
こんな気持ちを抱えなくてもよくて、
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月花 柘榴
胡桃を傷付けなくても、よくて、
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月花胡桃
「ほら、ざくろちゃん。もうこわくないよ」
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月花胡桃
抱きしめる。優しく。
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月花 柘榴
「…………く、るみ、」
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月花胡桃
「こわくない、こわくない……」
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月花胡桃
背中を撫でる。人肌のぬくもり。柘榴が好きな、胡桃の温かい手。
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月花 柘榴
こどもみたいに泣きじゃくる。
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月花 柘榴
ずっと昔に忘れたみたいな泣き方をして。声を上げて。
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月花 柘榴
「くるみ」
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月花胡桃
「なあに」
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月花 柘榴
「っ、くる、み」
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月花 柘榴
「こわい」
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月花 柘榴
「こわいよ」
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月花胡桃
「なにが、こわいの?」
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月花 柘榴
「くるみが」
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月花 柘榴
「くるみが、きずつくのが」
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月花 柘榴
「あたしが、くるみをきずつけるのが」
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月花胡桃
「ざくろちゃんは、優しいね」
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月花胡桃
「ほら、大丈夫だよ。全然だいじょうぶ」
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月花胡桃
くるりと回って見せる。
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月花胡桃
その服についた赤色は、既に消えていて。
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月花胡桃
わずかに一滴、手の甲に残った血もぺろりと舐めて見せる。
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月花胡桃
「なんにも、こわくないんだよ」
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月花胡桃
「一緒にいられるんだよ」
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月花胡桃
「安心していいんだよ」
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月花 柘榴
ずっと泣いている。
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月花胡桃
「ざくろちゃん」
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月花胡桃
「しあわせ?」
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月花 柘榴
首を、
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月花 柘榴
横に振る。
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月花 柘榴
だって。
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月花 柘榴
だって、これが、
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月花 柘榴
嘘だって、
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月花 柘榴
自分の望んでることで、本当のことではないんだって、
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月花 柘榴
わかるから、
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月花胡桃
「私は幸せだよ」
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月花胡桃
「学校も家もきらいだけど、ざくろちゃんが居るから幸せ」
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月花胡桃
「私なんかと一緒じゃいや?」
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月花 柘榴
胡桃を都合よくしてるって、わかってしまうから、
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月花 柘榴
これは、何も知らないときの胡桃のことば。
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月花 柘榴
知ってしまったら、きっとこんなことは言えなくて。
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月花 柘榴
わかっているから。
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月花 柘榴
だから、苦しい。
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月花 柘榴
自覚したくなかった。
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月花 柘榴
知りたくなかった。
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月花 柘榴
自分の望んでいる世界のこと。
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月花 柘榴
わかったら、比較してしまうから。
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月花 柘榴
地上を見てしまったら、水の底がどれほど暗いか、わかってしまうから。
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月花胡桃
「ざくろちゃん」
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月花胡桃
胡桃は服を着ていない。柘榴に抱きつき、身体へと触れていく。
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月花胡桃
「かわいい」
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月花 柘榴
これは、夢だって。
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月花 柘榴
わかってるのに。
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月花 柘榴
抗えない。
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月花 柘榴
触れられる、と、思う。
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月花 柘榴
そのたびに身体が跳ねて、こたえる。
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月花胡桃
肌を撫でる。あの日のように、傷跡をなぞる。
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月花胡桃
つけられたばかりの傷が指に押し広げられながら、指を赤く染めていく。
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月花 柘榴
感じる。
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月花 柘榴
胡桃に触れられれば、なんだって嬉しい。
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月花胡桃
身体に舌を這わす。
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月花胡桃
血を、汗を、涙を、口の中へ。
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月花胡桃
頬を舐める。胡桃の匂いがする。
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月花 柘榴
そのどれもが、甘くて、痺れるようで、
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月花 柘榴
熱っぽく息を吐いて、すこしだけ唇を開いて。
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月花胡桃
その開いた唇に、胡桃の唇が触れる。
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月花 柘榴
望んでいる。その続きを。
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月花胡桃
ぴたりと触れて、舌が口の中へ。
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月花 柘榴
舌を絡める。
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月花 柘榴
そんなに長くない舌をのばして、握手みたいに。
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月花胡桃
絡む。離さない。ぎゅっと抱きつく。
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月花 柘榴
その身体を撫でる。
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月花 柘榴
指先が触れるか触れないかくらいの距離で、そうっと触って、
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月花 柘榴
そうして、甘える。
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月花胡桃
「ざくろちゃん。きもちいいね」
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月花胡桃
二人の舌が絡み合っているはずなのに、胡桃が喋っている。
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月花 柘榴
その違和感にも気付けない。
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月花胡桃
下腹部に何かが押し当てられる。胡桃は両手を背中に回しているのに。
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月花 柘榴
その存在にすら気付いていないかもしれない。
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月花 柘榴
すべてが当たり前のように、認識が溶かされて、とろけていて、
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月花 柘榴
いま、目の前の胡桃のことだけを考えて。
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月花 柘榴
その下腹部のなにかすら、きっと受け入れてしまう。
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月花胡桃
進む。
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月花胡桃
骨盤が軋んで、足の関節が外れる。
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月花 柘榴
痛い。
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月花 柘榴
どうして痛いのだろう。
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月花 柘榴
そういう疑問すら、快楽と痛覚に上書きされて、なくなる。
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月花胡桃
「大丈夫?」胡桃の声が耳元で聴こえる。二人の唇は触れ合ったまま。
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月花 柘榴
だいじょうぶ、とこたえる声は、口から漏れ出る血に溺れてただしく声のかたちにならない。
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月花 柘榴
違和感がすこしだけうまれては、かき消えていく。
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月花胡桃
「よかった」
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月花胡桃
腰が押し広げられる。
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月花胡桃
腹の空洞へと辿り着いて、さらに空洞から胸を突く。
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月花 柘榴
痛い。血が押し上げられて、口からこぼれる。
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月花 柘榴
それすらも愛おしくて、
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月花胡桃
「きもちいい?」
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月花 柘榴
頷く。
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月花胡桃
「わたしも」
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月花胡桃
腰の形を変えて、前後に動く。
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月花 柘榴
動かれるたびに口から呻き声と血がこぼれて、身体を生ぬるく汚していく。
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月花胡桃
それが胡桃にも付着する。そのたび、柘榴を安心させるように微笑む。
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月花 柘榴
胡桃が笑うのを見て、安心したように顔を綻ばせる。
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月花胡桃
「しあわせ?」
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月花胡桃
もう一度尋ねる。
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月花 柘榴
首を、縦に振る。
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月花胡桃
「わたしも…………」
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月花胡桃
「しあわせ」
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月花胡桃
喉まで舌を伸ばし、一番奥まで腰を押し当てる。
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月花 柘榴
「…………、う、……ん」
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モノノケ
頭から、指が引き抜かれる。
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モノノケ
胡桃は何処にもいない。
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モノノケ
触れ合っているのはあの異形。
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モノノケ
起こった出来事は、しっかり頭に残っている。
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モノノケ
何をしたかも、何を答えたかも。
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月花 柘榴
瞬きの間に。
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月花 柘榴
胡桃はいなくなっていて。
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月花 柘榴
それが幻だとわかって、
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月花 柘榴
あれほど感じないようにしていた痛みが、今は強く、身体を蝕んで、
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月花 柘榴
それをもういちど感覚の外に追いやる方法も思い出せなくて、
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月花 柘榴
『しあわせ?』
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月花 柘榴
その言葉が、どこでもない場所できこえて、
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月花 柘榴
……口から、嫌悪感を吐き出す。
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月花 柘榴
音を立てて地面に落ちる。
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月花 柘榴
それがやけにうるさく聞こえる。
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月花 柘榴
すべての感覚がぐちゃぐちゃになって、鈍感にするすべを忘れていて、
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モノノケ
それが跳ねて、またモノノケを汚す。
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月花 柘榴
触れられるものが、体内の異物が、
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月花 柘榴
さっき自分がしたことが。
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月花 柘榴
全部、全部嫌で、
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月花 柘榴
苦しくて、
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月花 柘榴
けれどこんなこと、誰に言えるわけもなくて。
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モノノケ
モノノケの手には、肉らしきものが握られている。
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モノノケ
柘榴の頭の中から引きずり出されたもの。
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モノノケ
それは、もしかすると。
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モノノケ
感情のオンオフを切り替えるためのスイッチだったのかもしれない。
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モノノケ
握り潰す。
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月花 柘榴
「……、あ、」
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月花 柘榴
内臓が握りつぶされるような感覚。
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月花 柘榴
ぐちゃり、と音を立てて、中の液体を撒き散らして。
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月花 柘榴
それは容易にちぎられる。
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月花 柘榴
同時に、吐く。
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月花 柘榴
制御を失った今、痛みに耐えられるはずもない。
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月花 柘榴
神器の機能がなければ、ごくふつうの、ちょっと身体が丈夫くらいの、14歳のカミガカリ。
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モノノケ
内臓は握り潰されても、また生えてきた。
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モノノケ
ここも、他の部位のように、また生えてくるだろうか。
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モノノケ
わからない。身体は治せても、心は治せなかった。
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モノノケ
壊されたのは身体なのだろうか。それとも心なのだろうか。
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モノノケ
ふたたび身体を動かす。
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モノノケ
胡桃の姿でしていたことと、同じことを、胡桃ではない姿で。
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月花 柘榴
「っ、あ、……ぐ、……っ、」
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月花 柘榴
呻く。悲鳴のような、喘ぎ声のような、そういったものを、吐瀉物とともに。
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月花 柘榴
身体中全てが、危険信号を出している。
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月花 柘榴
痛い。
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月花 柘榴
目の前がちかちかして、耳鳴りがする。
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モノノケ
身体の治りが、ひどく悪い。
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モノノケ
触れられるたび、痛みが走る。
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月花 柘榴
きずだらけの身体。
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月花 柘榴
その傷のひとつひとつが痛みを発していて、触れれば染みて、
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月花 柘榴
じぶんの毒液が触れたところが、熱を持つようで、
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月花 柘榴
いままでに感じたことのないくらいの痛みに、身体が震える。
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月花胡桃
「そっちの方が人間っぽいよ」
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月花胡桃
もう脳は弄られていないのに、胡桃の声が聴こえた気がした。
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月花 柘榴
ぐしゃぐしゃになっていく。
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月花 柘榴
身体も、心も。
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月花 柘榴
くるみ、
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月花 柘榴
ごめん、
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月花 柘榴
あたしは、たぶん、くるみに触れちゃいけなくて、
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月花 柘榴
ほんとうはいますぐ、会うのをやめるのがよくて、
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月花 柘榴
くるみに触れるのが、怖い。
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月花 柘榴
汚してしまうから、
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月花 柘榴
もう、汚してしまったから。
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モノノケ
目の前にはモノノケがいる。胡桃はいない。
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モノノケ
そう判っていても、胡桃の姿をした胡桃ではないもの相手と、柘榴が何をしたかは変わらない。
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月花 柘榴
してはいけないこと。
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月花 柘榴
願ってはならないこと。
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モノノケ
都合のいい空想。
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モノノケ
素晴らしいハッピーエンド。
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月花 柘榴
勝手な理想を押し付けて、
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月花 柘榴
歪めること。
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モノノケ
首を掴んだ手を離す。
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モノノケ
濡れた肉の地面に、小さな身体が水音を立てて落ちる。
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月花 柘榴
やわらかい果物を落としたように。
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月花 柘榴
血が広がって、くずれおちる。
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モノノケ
踏む。
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月花 柘榴
呻き声があがる。
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月花 柘榴
そのすぐあとに、溺れたような、咳き込む音。
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モノノケ
もう一度踏む。今度は腕。
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モノノケ
軽い音と共に骨が折れる。
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月花 柘榴
いつもなら腕が折れるくらい、なんともなかったのに。
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月花 柘榴
細い骨が折れる音は痛覚になって、身体のすべてに響いて、強く脳を揺さぶる。
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モノノケ
折れた腕を、さらにもう一度踏みつける。
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月花 柘榴
「ぅ、」
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月花 柘榴
口から身体の中身を吐き出して、こぼれる。
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モノノケ
手を握って、さらにもう一度。
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モノノケ
腕が完全に逆の方向へと曲がる。
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月花 柘榴
声にならない声。
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モノノケ
これでもまだ死なないと知っている。いたぶって楽しんでいる。
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モノノケ
身体は動かない。反撃の術もない。きっと誰も助けてくれない。
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モノノケ
きっと5分後も生かされているだろう。
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モノノケ
10分後も。30分後も。
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モノノケ
1時間後は?2時間後だとどうだろう。
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モノノケ
死が、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる気がした。
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月花 柘榴
それは随分と遠い。
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月花 柘榴
1分だけでも、永遠のように感じる。
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月花 柘榴
だから、10分後も、1時間後も、気が遠くなるような、先のこと。
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月花 柘榴
いつかは回復するだろう。
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月花 柘榴
しかし、回復するのにどれくらいかかるのだろうか?
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月花 柘榴
そうして回復したとして、心の傷が癒えることはあるのだろうか?
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月花 柘榴
すくなくとも、この身体は人間に「治る」ことはない。
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月花 柘榴
触手をすべて引きちぎられても、赤い瞳をつぶしても、どれだけ痛めつけても。
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月花 柘榴
そのように産まれてしまったから、そうであり続ける。
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月花 柘榴
人間になることはできない。
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月花 柘榴
だから、死ぬことはない。
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月花 柘榴
こんなに痛くて、こんなに苦しくて、こんなに惨めで、……こんなにも悪いのに、
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月花 柘榴
それをやめることは許されない。
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月花 柘榴
だから、ごめんと。
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月花 柘榴
つぶやく。
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月花 柘榴
つぶやいたそれが声になっていたか、あるいはあぶくになって消えたのか、
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月花 柘榴
それは誰も知ることはない。
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モノノケ
結末は、もっと最低だった。
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モノノケ
モノノケは柘榴を弄び続けた。
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モノノケ
少しずつ身体が治っては、ふたたび壊し。
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モノノケ
衝撃を与えたり、夢を見せたり。
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モノノケ
さまざまな感触と感情を与えていく。
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モノノケ
解放されたのは、1時間後。
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モノノケ
──"外の時間で”、1時間後。
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モノノケ
すべてが終わったときには、モノノケの姿はなく。
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モノノケ
柘榴の体内と体外は、べっとりと黒いコールタール状の物質に塗れていた。