月花 柘榴
4d6 霊力 (4D6) > 12[1,3,3,5] > 12
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月花 柘榴
2d6+2 (2D6+2) > 6[1,5]+2 > 8
月花 柘榴
私の目を覚まさせたのは、そういったたぐいの、普通の人なら、あるいはカミガカリでさえも、とっくに死んでいるであろう衝撃だった。
月花 柘榴
きっと吐きそうなくらいに気持ち悪くて、
月花 柘榴
けれど、うまく吐き出すための内臓ももう壊れて、機能していない。
月花 柘榴
強く揺さぶられながら、瞳をうごかして、周囲を見る。
月花 柘榴
あたりは薄暗くて、遠くに見える看板は文字が左右反対で、
月花 柘榴
……そいつは私の身体を持って、いいように使っていて、
月花 柘榴
私はそこまで頭がいいほうではなくて、力の強さだけで戦ってきて、
月花 柘榴
だから、そいつが自分よりずっと力が強くて、ひとりではどうしようもないことがよくわかる。
モノノケ
その身体を掴むのは、黒い外骨格に身を包んだ異形のもの。
モノノケ
足元へと目を落とすと、桃色の肉塊の床が広がっている。
モノノケ
引きちぎられた、自身の身体の一部であった。
月花 柘榴
だから、時折それに引き寄せられて、モノノケがやってくることがある。
月花 柘榴
そのたびにひとりで倒して、傷付いた身体はひとりで癒やして、そうやってやってきて。
月花 柘榴
ただ、今日はいつもと違うことがひとつだけあって。
月花 柘榴
そいつが私よりずっと大きくて、ずっと強くて、
月花 柘榴
痛みを我慢して、気持ち悪いのも仕方ないことだって諦めて、それが終わるときを待っている。
月花 柘榴
むしろ、まだ呼吸できていたんだな、と驚くくらいだけど。
モノノケ
普段は伸びないはずの長さにまで、首を伸ばされるような感覚。
月花 柘榴
もがいて、しかしそれでどうなるわけでもない。
月花 柘榴
ちいさな手が、モノノケの大きな手の指をひっかく。
モノノケ
抵抗するように弱々しく蠢く腹部の触手へと触れる。
モノノケ
首は、人の身体を持ち上げられるようには出来ていない。
月花 柘榴
引っ張れば引っ張るほど、その触手は質量を増していく。
モノノケ
それを支えるのは、この幼子の身体の小さな細い首。
モノノケ
小さな頚椎が、下へと引っ張られる身体を繋ぎとめている。
モノノケ
モノノケは、これでも月花柘榴が死なないことを明らかに理解しているようだった。
月花 柘榴
けれど、死なない。死なないし、意識がなくなることすらない。
月花 柘榴
体内のものはもうめちゃくちゃになっていて、地面には自分の身体が散らばって、それでも。
月花 柘榴
こうして人間ではないことを自覚するたびに、胸が苦しくなる。身体の痛みより、ずっと強く。
月花 柘榴
腹から漏れ出て、自分の身体を汚す血は、人間に流れるそれとは違う色をしている。
モノノケ
指を腹へと押し当てる。肌を突き破り、冷たい指の感触が中へ。
モノノケ
目の前で漏れ出す血液が、モノノケの黒を彩る。
月花 柘榴
息を飲もうとして、あるいは呻き声をあげようとして、その空気のながれを大きな手に阻まれる。
モノノケ
普通ならば、まずはそれに身体を蹂躙されることへの悍ましさに慄くだろう。
月花 柘榴
悪霊に身体を侵されて悲しいとか、そういった気持ちはなかった。
月花 柘榴
私はきっとこういったものになったほうがよかったのだろう。
月花 柘榴
人ではないのに、人よりずっと醜くて穢れているのに、
月花 柘榴
人みたいな格好で、人のふりをして、生きていること。
月花 柘榴
父さんも言ってたし、私だってわかってる。
月花 柘榴
目を閉じると胡桃の怯える顔が真っ暗なまぶたの裏にうつる。
月花 柘榴
当然だし、むしろ胡桃が私のことを好いているほうがおかしいし、そうなるべきなのに。
月花 柘榴
モノノケは冷たい指で私の腹の中をかき回す。
月花 柘榴
このままぜんぶめちゃくちゃにしてくれればいいのに、と思う。
モノノケ
悪霊は、柘榴を蹂躙することを楽しんでいる。
モノノケ
力がある。知恵もある。邪悪なものではあれど、心のようなものもあるように見える。
モノノケ
けれど、その悪霊が、自らの異形に苦悶することはないのだろう。
モノノケ
それは、ただ、本能の赴くままに人を害し続ける存在だ。
モノノケ
べろりと身体を舐める。そこから漂う臭気は、腐敗臭のようでもあり、濃厚な麝香のようでもあり、病や死の香りのようでもあった。
モノノケ
では、この不浄の化け物の体液は、あのアラミタマの口を穢すことができるのだろうか?
モノノケ
腹部の穴を乱暴に押し広げる。それでも死なない事がわかっている。
月花 柘榴
腹の中で触手がうごめいている。いつもより動きは鈍く、粘着質な音を立てながら。
モノノケ
道を阻む触手を、ぶちぶちと引き裂きながら。
モノノケ
モノノケの手首まで、返り血に染まっていた。
モノノケ
硬いはずの表皮が、ふやけるように崩れる。
月花 柘榴
表皮がくずれて溶けて、私の腹の中で混ざって、飲み込まれる。
モノノケ
入った指が外に出るたび、表皮が崩れていくのが見える。
モノノケ
一瞬、背中から感じるひんやりとした感触。
月花 柘榴
痛みがあったのかもしれないし、なかったのかもしれない。
月花 柘榴
特になにか、気持ちを感じることも……ない、と思う。
月花 柘榴
だから、いまの自分のことは、あんまりわからない。
モノノケ
今やその指に表皮は残っていない。真っ赤な肉が見えて、血が滴っている。
月花 柘榴
私より強いんだから、そのまま普通に殺してくれたっていいのに。
月花 柘榴
腹から飛び出た触手がモノノケの腕に絡みつく。
月花 柘榴
次第に勢いを失って、死んだようにずるりと表皮からすべりおちて、
月花 柘榴
残った毒液がゆっくりとその表皮を溶かして、蒸発する。
月花 柘榴
それがこのモノノケのうごきを止めるくらいの傷になることはないけど。
モノノケ
足元の肉塊は、山のように積み重なっている。
モノノケ
そこに立っているモノノケの足は、やはり体液と混ざり、崩れていた。
モノノケ
触手の絡みついた腕、そこにもべっとりと付着した体液。
月花 柘榴
すこしだけ空気の通り道にすきまができて、息を吸う。
月花 柘榴
入れたら傷付く気がするけど、いいのかな。
モノノケ
まだ汚されていない黒い殻は、鈍く艶めいて。
モノノケ
柘榴に触れて崩れた部位に比べると、綺麗にすら見える。
モノノケ
恐怖もないのだろう。痛覚もないのかもしれない。
月花 柘榴
私じゃない誰かならもう少し楽しめただろうに。
モノノケ
いたぶって反応を楽しんでいるように見える。
モノノケ
その心が悪意のみで構成されているのなら、きっと怪物への嫌悪感もないのだろう。
モノノケ
あれは、穢れを恐れるヒトの本能に基づくものだから。
月花 柘榴
このモノノケが何を楽しんでいて、どういう理由で動いているのか、わからない。
月花 柘榴
人間とするときより、ずっと気持ちが楽だ。
月花 柘榴
私はたぶん、人よりはこのモノノケに近いから。
月花 柘榴
……でも、この続きを想像することができないでいる。
モノノケ
腹の中からぶちぶちと、何かが切れる音がする。
月花 柘榴
内臓と触手を巻き込んで、それは身体の中をゆっくりと埋めていく。
月花 柘榴
進むにつれて触手が巻き込まれていって、
月花 柘榴
身体の中ではたくさんの音が鳴っている。
月花 柘榴
骨が折れる音、触手がちぎれる音、身体の中身がぐちゃぐちゃになっていく音。
モノノケ
では、なぜ足は動くのか。なぜ、下半身には感触があるのか。
モノノケ
背骨が折れているはずなのに。この身体は、どうやって出来ているのか。
月花 柘榴
普通のカミガカリなら、とっくに死んでるはずだ。
月花 柘榴
この体が動かなくなれば、人間らしくなれるかもしれない。
月花 柘榴
こんなに身体がめちゃくちゃになっていて、それでも、
月花 柘榴
自分が死ぬことより、自分が死なないことのほうがずっと怖くて、嫌で、苦しい。
モノノケ
溶け出す負の霊力も、毒性の体液も、柘榴の身体によく馴染む。
モノノケ
何故だか、こんな玩具のような扱いにすら、身体は耐えられる。
月花 柘榴
どんなに母様にめちゃくちゃにされても、一晩寝れば嘘のように治った。
モノノケ
前後に動く。そのたび身体は押し広げられる。
モノノケ
今度は、動くたびに表皮が割れていくさまが見えた。
モノノケ
ひび割れた場所から硝子のように砕け、柘榴の体内に突き刺さる。
モノノケ
体内へと残された破片の感触だけを置いたまま、少しずつ赤い肉へと姿を変えていく。
月花 柘榴
身体の中に異物が混じるのを感じている。
月花 柘榴
モノノケはそれを私に置いていって、人間へ近付いていく。
月花 柘榴
赤い肉が見えて、視界から消えて、次に見えるときはまた増えて、水音とともにそれを繰り返している。
月花 柘榴
痛そうでかわいそうだな、と思うけど、同時になにか、得体のしれない感情があった。
月花 柘榴
羨ましさであるかもしれないし、怒りであったかもしれないし、あるいは他のものかもしれないけれど、それを定義することはできずにいた。
モノノケ
傷ついた身体は傷ついたまま。柘榴のような再生もしない。
モノノケ
柘榴に触れた場所はすべて、今も痛々しい見た目のまま。
モノノケ
似たようなことは何度もあった。モノノケたちは、柘榴の身体の中に自分の一部を置き去りにしていった。
月花 柘榴
それはいずれ触手が食ってしまうから、なにか私の肉体に悪影響があったわけではなかったけど。
月花 柘榴
だからといってなにも引っかかるものがない、というわけではなくて。
月花 柘榴
けれどその不快感の理由が、わからない。
モノノケ
モノノケは、汚された自身の部位を、柘榴へと見せつけてくる。
モノノケ
この化け物には、知性のようなものがある。本当に柘榴の心の中を見通しているのかもしれない。
月花 柘榴
見せつけられれば、抗えずにそれを見る。見てしまう。
月花 柘榴
どうしてこのモノノケが嫌なことをしてくるのか。
月花 柘榴
このモノノケの知性が、どれほどあるのか。
月花 柘榴
14歳になったばかりで、ずっと戦うことを考えてきて、あんまりよくできているとは言えない脳では。
モノノケ
それは赤へと変化して、再び鈍い黒へと変色していた。
モノノケ
焼けたような、腐ったような色。黒い汁が滴る。
月花 柘榴
モノノケがあえて心を、身体を、痛めつけてくるのだと。そのように理解できるだけの知性がない。
モノノケ
ずぶずぶと埋没する。触手をかきわけ、脳を掻く。
月花 柘榴
痛みというのは、危険信号だ。それを感じないようにしているから、これが何をされているものであるか、痛覚から判断ができない。
モノノケ
ぐちゃぐちゃと音が響く。身体の内側、耳のすぐ近くから。
月花 柘榴
熱いとか、寒いとか、なにか酸っぱい味とか、おなかの奥を甘く触られる感覚とか、
月花 柘榴
そういうのが、いっぺんにきて、ぐちゃぐちゃにかきまわしていく。
月花 柘榴
これはちがう、幻覚だ、本当にそう言われてるわけじゃない、
月花胡桃
「怖い!ずっと私のそばで、人間のふりをしてたなんて!」
月花 柘榴
生きてるだけで、いろんな人を汚すから、
モノノケ
その言葉は誰にも伝わらない。瞬きをすると、胡桃の姿は消えている。
モノノケ
目の前にはただモノノケが居るだけ。じゅるじゅると水音が聴こえる。頬に何かの体液がどろりと伝う。
モノノケ
モノノケ以外には居ない。もちろん、胡桃がここに居るはずもない。
月花 柘榴
いなくなってしまったそれをまだ見続けている。
月花 柘榴
脳はかきまわされて、溶かされて、自分の毒液とも混ざって、どんどんぐちゃぐちゃになって。
月花 柘榴
じぶんがなにを言っているのかも、あいまいなまま。
月花 柘榴
「あたしを殺してくれたりは、しないの……」
月花胡桃
「私、ざくろちゃんのことが知れて嬉しい。ずっとざくろちゃんのことが知りたかった」
月花胡桃
「全然こわくないや。ちょっとかわいいかも。これで全部丸く収まるね」
月花胡桃
「ねえ、ざくろちゃんのこと、もっと知りたいな。私、ざくろちゃんのことなら、全部、なんでも受け入れられるよ」
月花 柘榴
たぶん心のどこかでこれが幻だとわかっていて、
月花 柘榴
これが、ほんとうならいいのに、と思って、
月花 柘榴
でも、こんなことは起こり得ない。それは脳のもっとずっと深くに染み込んでいる。
月花 柘榴
それを考えるだけの知性も、指で混ぜられて、どこにもない。
月花胡桃
「ざくろちゃん、どうしたの、ざくろちゃん」
月花胡桃
触手まみれの身体を恐れもせず、抱きしめる。
月花胡桃
返り血が胡桃を染める。けれど胡桃は、その血に触れても傷ついたりはしない。
月花 柘榴
抱きしめようとするのを止めようとして、止められなくて、そのまま胡桃が血で汚れて、
月花胡桃
「ほら、ざくろちゃん。もうこわくないよ」
月花胡桃
背中を撫でる。人肌のぬくもり。柘榴が好きな、胡桃の温かい手。
月花 柘榴
ずっと昔に忘れたみたいな泣き方をして。声を上げて。
月花胡桃
わずかに一滴、手の甲に残った血もぺろりと舐めて見せる。
月花 柘榴
自分の望んでることで、本当のことではないんだって、
月花胡桃
「学校も家もきらいだけど、ざくろちゃんが居るから幸せ」
月花 柘榴
胡桃を都合よくしてるって、わかってしまうから、
月花 柘榴
これは、何も知らないときの胡桃のことば。
月花 柘榴
知ってしまったら、きっとこんなことは言えなくて。
月花 柘榴
地上を見てしまったら、水の底がどれほど暗いか、わかってしまうから。
月花胡桃
胡桃は服を着ていない。柘榴に抱きつき、身体へと触れていく。
月花胡桃
肌を撫でる。あの日のように、傷跡をなぞる。
月花胡桃
つけられたばかりの傷が指に押し広げられながら、指を赤く染めていく。
月花 柘榴
胡桃に触れられれば、なんだって嬉しい。
月花 柘榴
熱っぽく息を吐いて、すこしだけ唇を開いて。
月花 柘榴
そんなに長くない舌をのばして、握手みたいに。
月花 柘榴
指先が触れるか触れないかくらいの距離で、そうっと触って、
月花胡桃
二人の舌が絡み合っているはずなのに、胡桃が喋っている。
月花胡桃
下腹部に何かが押し当てられる。胡桃は両手を背中に回しているのに。
月花 柘榴
その存在にすら気付いていないかもしれない。
月花 柘榴
すべてが当たり前のように、認識が溶かされて、とろけていて、
月花 柘榴
いま、目の前の胡桃のことだけを考えて。
月花 柘榴
その下腹部のなにかすら、きっと受け入れてしまう。
月花 柘榴
そういう疑問すら、快楽と痛覚に上書きされて、なくなる。
月花胡桃
「大丈夫?」胡桃の声が耳元で聴こえる。二人の唇は触れ合ったまま。
月花 柘榴
だいじょうぶ、とこたえる声は、口から漏れ出る血に溺れてただしく声のかたちにならない。
月花 柘榴
違和感がすこしだけうまれては、かき消えていく。
月花胡桃
腹の空洞へと辿り着いて、さらに空洞から胸を突く。
月花 柘榴
痛い。血が押し上げられて、口からこぼれる。
月花 柘榴
動かれるたびに口から呻き声と血がこぼれて、身体を生ぬるく汚していく。
月花胡桃
それが胡桃にも付着する。そのたび、柘榴を安心させるように微笑む。
月花 柘榴
胡桃が笑うのを見て、安心したように顔を綻ばせる。
月花胡桃
喉まで舌を伸ばし、一番奥まで腰を押し当てる。
モノノケ
起こった出来事は、しっかり頭に残っている。
月花 柘榴
あれほど感じないようにしていた痛みが、今は強く、身体を蝕んで、
月花 柘榴
それをもういちど感覚の外に追いやる方法も思い出せなくて、
月花 柘榴
その言葉が、どこでもない場所できこえて、
月花 柘榴
すべての感覚がぐちゃぐちゃになって、鈍感にするすべを忘れていて、
月花 柘榴
けれどこんなこと、誰に言えるわけもなくて。
モノノケ
モノノケの手には、肉らしきものが握られている。
モノノケ
感情のオンオフを切り替えるためのスイッチだったのかもしれない。
月花 柘榴
ぐちゃり、と音を立てて、中の液体を撒き散らして。
月花 柘榴
制御を失った今、痛みに耐えられるはずもない。
月花 柘榴
神器の機能がなければ、ごくふつうの、ちょっと身体が丈夫くらいの、14歳のカミガカリ。
モノノケ
ここも、他の部位のように、また生えてくるだろうか。
モノノケ
わからない。身体は治せても、心は治せなかった。
モノノケ
壊されたのは身体なのだろうか。それとも心なのだろうか。
モノノケ
胡桃の姿でしていたことと、同じことを、胡桃ではない姿で。
月花 柘榴
呻く。悲鳴のような、喘ぎ声のような、そういったものを、吐瀉物とともに。
月花 柘榴
その傷のひとつひとつが痛みを発していて、触れれば染みて、
月花 柘榴
じぶんの毒液が触れたところが、熱を持つようで、
月花 柘榴
いままでに感じたことのないくらいの痛みに、身体が震える。
月花胡桃
もう脳は弄られていないのに、胡桃の声が聴こえた気がした。
月花 柘榴
あたしは、たぶん、くるみに触れちゃいけなくて、
月花 柘榴
ほんとうはいますぐ、会うのをやめるのがよくて、
モノノケ
目の前にはモノノケがいる。胡桃はいない。
モノノケ
そう判っていても、胡桃の姿をした胡桃ではないもの相手と、柘榴が何をしたかは変わらない。
モノノケ
濡れた肉の地面に、小さな身体が水音を立てて落ちる。
月花 柘榴
そのすぐあとに、溺れたような、咳き込む音。
月花 柘榴
いつもなら腕が折れるくらい、なんともなかったのに。
月花 柘榴
細い骨が折れる音は痛覚になって、身体のすべてに響いて、強く脳を揺さぶる。
月花 柘榴
口から身体の中身を吐き出して、こぼれる。
モノノケ
これでもまだ死なないと知っている。いたぶって楽しんでいる。
モノノケ
身体は動かない。反撃の術もない。きっと誰も助けてくれない。
モノノケ
死が、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる気がした。
月花 柘榴
だから、10分後も、1時間後も、気が遠くなるような、先のこと。
月花 柘榴
しかし、回復するのにどれくらいかかるのだろうか?
月花 柘榴
そうして回復したとして、心の傷が癒えることはあるのだろうか?
月花 柘榴
すくなくとも、この身体は人間に「治る」ことはない。
月花 柘榴
触手をすべて引きちぎられても、赤い瞳をつぶしても、どれだけ痛めつけても。
月花 柘榴
そのように産まれてしまったから、そうであり続ける。
月花 柘榴
こんなに痛くて、こんなに苦しくて、こんなに惨めで、……こんなにも悪いのに、
月花 柘榴
つぶやいたそれが声になっていたか、あるいはあぶくになって消えたのか、
モノノケ
すべてが終わったときには、モノノケの姿はなく。
モノノケ
柘榴の体内と体外は、べっとりと黒いコールタール状の物質に塗れていた。