Dead or AliCe『16JAcks』
***
暗い、暗い、暗闇の中で。
***
古ぼけた蓄音機からの曲が流れる。
***
ずっと、ずっと同じ曲。
***
それからたまに、少しだけの人の声。
誰かと誰かが話をしている…そんな音。
***
そんな時間を繰り返している。
そんな時間がただただ過ぎていく。
***
──そして。
***
時折、全てを奪われる感覚。
ホテルに力を奪われる『石像』の末路。
つぐみ
自身が『石炭』と称した”それ”と同じになったつぐみは、そんな日々を過ごしている。
つぐみ
今はただ、そんな日々を過ごしている。
***
そんな日々に、ある日。
***
少しだけの変化が、訪れた。
つぐみ
暗闇だった筈の世界が、不意にスポットライトで照らされる。
つぐみ
暗闇に慣れきった目が眩しさに照らされる。
つぐみ
「………なんなのかしら、これは」
つぐみ
「心の疵の力の絞り方でも変えようというつもり?
随分と演出家なのね、ホテルのくせに」
***
悪態をつくつぐみの前に、めくり台を抱えたブリキの兵隊が現れて。
***
正面に置いたそれの紙を1枚めくる。
***
『ドキドキ☆救世主に50の質問』
***
紙にはそう書かれていた。
つぐみ
「………………」
つぐみ
「……くだらない」
つぐみ
「……でも、答えないとなんでしょう?」
つぐみ
「いいわ。答えてあげる」
つぐみ
「こんなものに答えたって、
どのみち聞く相手も居ないもの」
つぐみ
「少しだけ仮面を外してあげるわ」
***
つぐみがそう言えば、ブリキの兵隊は一礼をして紙をめくりだす。
***
『1.自分の末裔のいいところ5つ教えて!』
つぐみ
「……」
つぐみ
「目が綺麗なところ」
つぐみ
「聞き分けのいいところ」
つぐみ
「………」
つぐみ
「柔らかくて、温かくて、放っておいたら眠たそうにしているところ」
つぐみ
「臆病なところ」
つぐみ
「1人になっても、投げ出さずに歩けたところ」
***
『2.一番戦いたくない相手は?』
つぐみ
「裁判での相性だけで言ったら、108号室」
つぐみ
「…でも、全体を通してみたら104号室が1番嫌ね」
つぐみ
「あれは、どちらも枠の外だもの。
出来るだけ関わりたくもないわ」
***
『3.優勝したらどうする?』
つぐみ
「さぁ…?帰っていたんじゃないかしら」
つぐみ
「残れるのなら、残っていたでしょうけれど」
つぐみ
「もう、元の世界に帰るのには遅すぎるもの」
***
『4.末裔との関係を一言でいうと?』
つぐみ
「主従。救世主とその配下」
つぐみ
「一言で言うんだったら、そうなるんじゃない?」
つぐみ
「…悪の救世主とその生贄でもいいけれど」
***
『5.末裔との出会いと初対面の印象を教えて!』
つぐみ
「ピィとそっくりだなって思った」
つぐみ
「でも、それでも違うって思ったわ。
何もかもが」
つぐみ
「出会った経緯はいいでしょう?
語りたくないわ」
***
『6.ぶっちゃけ末裔とXXできる?』
つぐみ
「下世話ね」
つぐみ
「するのもされるのも、論外よ」
***
『7.今の末裔以外にペアになるならどの末裔?』
つぐみ
「…フィクス」
つぐみ
「あれなら、私が相手でも割り切った付き合い方をするでしょう」
つぐみ
「同じ理由でスバルも良いかもしれないわね」
つぐみ
「彼もきっと割り切れる。
領分をわきまえて、務めを果たせる」
***
答えても紙はめくられない。
つぐみ
「……全員分答えろっていうことかしら」
つぐみ
「いいわ。答えてあげる。順に、1人ずつ」
つぐみ
「アルビー」
つぐみ
「面倒くさいから嫌。
いちいち婉曲的なのよ」 
つぐみ
「ジャン」
つぐみ
「…私を相手に同じことを言えたなら、面白いから配下にしたかもしれないわね」
つぐみ
「ソース」
つぐみ
「割り切った付き合いは出来るだろうけれど、きっとお互いに求めていないわ」
つぐみ
「ルビーとマリー」
つぐみ
「向こうから願い下げなんじゃない?
私は彼女たちが嫌う救世主そのものよ」
つぐみ
「イスタ」
つぐみ
「無理」
つぐみ
「アルビーよりまともな会話が出来る気がしないもの」
つぐみ
「……これで、全員。もう良いかしら?」
つぐみ
「……どのみち、私が配下を持つだなんてキュー以外はなかったし意味のない話」
つぐみ
「次の紙を」
***
『8.どんなところで育ったの?』
つぐみ
「日本の、普通の家よ」
つぐみ
「特別裕福でもなければ、極端に貧乏というわけでもない」
つぐみ
「学費が心配だから、進学先を考えなくちゃいけないくらいの…そんな家」
つぐみ
「しょっちゅう無駄遣いをして。買った食材も食べきらずに余らせていつも捨てて」
つぐみ
「それで、”うちはお金がないからつぐみには将来いっぱい稼いで家にお金を入れてくれるのを期待してるよ”だなんて…そんなことを言うような家」
***
『9.自分の名前の由来を知ってる?』
つぐみ
「私とことりが生まれた時に、母は窓辺の病床に居て」
つぐみ
「そこに、つぐみと何かの小鳥が留まっていたらしいわ」
つぐみ
「それがそのまま私達2人の名前」
つぐみ
「私の方がお姉ちゃんだから名前のわかるつぐみの名前を貰って、ことりは小鳥になった」
***
『10.末裔に会う前は何してた?』
つぐみ
「邪魔な亡者や、身の程知らずにやってくる救世主を殺しながら堕落の国を巡っていたわ」
つぐみ
「聖遺物だとか、不思議の力の残滓だとか。そういったものを調べたり集めたりしていたの」
つぐみ
「私のやり方じゃ力が伸び悩んでいたから。
もう、先はないと理解ってしまっていたから」
***
『11.家族構成を教えて!』
つぐみ
「父と母と双子の妹のことりの4人家族。
祖父も祖母も別の家に住んでいたわ」
***
『12.家族の思い出を聞かせて』
つぐみ
「ペーパーナイフを」
つぐみ
「私とお揃いがいいってことりがせがむから、買ってあげたわ」
***
『13.ホテルの他の救世主についてどう思う?』
つぐみ
「さっきと似たような質問ね。
これも全員分答えなくちゃいけないんでしょう?どうせ」
つぐみ
「ネ」
つぐみ
「よくあの男と付き合えるわね」
つぐみ
「あとは…そうね。今回の組み合わせの中で1番アリスに近いんじゃないかしら」
つぐみ
「ペペル」
つぐみ
「物語や創作の中での勇者は心が躍るものだけれど…」
つぐみ
「実際に存在していると、哀れで仕方がないって思うわ」
つぐみ
「ジャンが慰みになったなら良いわね」
つぐみ
「シニ」
つぐみ
「嫌いじゃないけれど、食べ物の好みが私とは相容れないわね」
つぐみ
「否定はしないけれど、食事は一緒に取りたくないわ」
つぐみ
「シャノン」
つぐみ
「…大きな子供」
つぐみ
「虫の足を千切ったり、アリの巣に水を入れたり、ハムスターを高いところに置いて怯えるさまを楽しんだり」
つぐみ
「そういう残酷さを、残酷だと知らないままに楽しんでいる子供」
つぐみ
「…色々と変化はあったみたいだけれど」
つぐみ
「プルネウマ」
つぐみ
「子供のふりをする大人」
つぐみ
「自分と他があまりにも違いすぎるから、屈んで、目線を合わせて、声色まで変えて関わろうとする異端者」
つぐみ
「イスタに出会えて良かったわね」
つぐみ
「ミムジィ」
つぐみ
「1番分かり合えないし、1番分かり合える相手よ。きっと」
つぐみ
「あまりにも正反対すぎて、環境が違ったらお互いに自分がそうなり得たかもしれない相手」
つぐみ
「イカロス」
つぐみ
「座り心地は悪かったわね」
つぐみ
「でも、それ以外は嫌いじゃないわ。
わかりやすいし、見ていて面白いもの」
***
『14.好きな夕飯のメニューは?』
つぐみ
「パイシチュー」
つぐみ
「それと、パエリア」
***
『15.嫌いな末裔の種族は?』
つぐみ
「三月兎」
つぐみ
「あれに比べたら他は全部マシよ」
***
『16.末裔の秘密を一つ教えて』
つぐみ
「何故私がキューの秘密を教えなくてはいけないのかしら?」
***
『17.末裔の正直勘弁してほしいこと』
つぐみ
「いつもでちでちと言っているでしょう?」
つぐみ
「それが、たまに伝染りそうになって困るわ」
つぐみ
「…冗談よ」
***
『18.今の末裔といてよかったなと思ったこと』
つぐみ
「…夜の寝付きは良くなったわね」
つぐみ
「寒い時には寄せたりもしていたから、暖かで居る時間も増えた」
***
『19.ホテルまではどうやって来た?』
つぐみ
「白々しいわね」
つぐみ
「貴方たちが『赤い招待状』で呼びつけたんでしょう?”気がついたらいつの間にか”よ」
***
『20.今の末裔が亡者化したら殺せる?』
つぐみ
「…殺すわ」
つぐみ
「石になった今の私じゃ無理でしょうけれど」
***
『21.ひとりで生きていける?』
つぐみ
「生きていけるし、生きてきたわ」
***
『22.末裔が救世主だったとしても一緒にいたと思う?』
つぐみ
「…いいえ。一緒には居ない」
つぐみ
「キューが1人でも生きられたなら、配下にする意味もないもの」
つぐみ
「あの子が救世主でも1人じゃ生きられないっていうんだったら、話は別だけれど」
***
『23.ホテルの他の救世主よりも優れていると思ってることは?』
つぐみ
「どれに於いても私は1番だけれど…」
つぐみ
「強いて言うのなら、想像力と心の疵の扱い方かしらね」 
つぐみ
「元の世界に居た頃の私は、漫画を読んだりゲームだとかをしなかったわけじゃないのよ」
つぐみ
「何度か戦って理解ったけれど、そういった文化に触れている者は心の疵の力…異能の扱い方が上手い。
これは明確に優れている点ね」
***
『24.末裔には適わないなと思っていることは?』
つぐみ
「………」
つぐみ
「庇護欲をかきたてるところ。
舐められやすさ」
つぐみ
「…敵対されにくいってこと」
***
『25.末裔のかわいいなって思ったところは?』
つぐみ
「…」
つぐみ
「…減るものじゃないから、答えてあげるわよ」
つぐみ
「見た目」
つぐみ
「寝ている時に耳がピクピクするところ」
つぐみ
「寝ぼけて抱きついてきたくせに、目が覚めると慌てて飛び退くところ」
***
『26.聞かれたら困る質問はどんなもの?』
つぐみ
「別にどれも困らないわ」
つぐみ
「不快には思うけど」
***
『27.末裔が他の救世主と組むことになったらどう思う?』
つぐみ
「今はそうなればいいと思っている」
つぐみ
「…堕落の国は末裔1人で生きるにはあまりにも過酷だもの」
つぐみ
「ミムジィみたいな救世主に拾われたなら良いわね」
つぐみ
「彼女みたいな救世主なら、拾った上で世話をするか安全な場所に届けて解放をしてくれるでしょう」
***
『28.好きな亡者食は?』
つぐみ
「好きな亡者食なんていうものはないわ」
つぐみ
「強いて言うのなら、亡者麦かしら。
手に入れるのが容易だもの」
***
『29.末裔にやめてほしいと思っていることは?』
つぐみ
「…聞き分けのいいところ」
つぐみ
「私の心配をするところ」
***
『30.末裔に影響されたな、と思うことは?』
つぐみ
「誰かと一緒に過ごしたりするようになったのは、間違いなくピィとキューの影響ね」
つぐみ
「それまではそんなことをしようだなんて一切も考えていなかったから」
***
『31.末裔の面倒くさいなと思うところは?』
つぐみ
「寝起きがあまりよくないところね」
つぐみ
「脅されてようやく起きるわ」
***
『32.相手と自分が親子になるなら、どっちが子供がいい?』
つぐみ
「よくわからない質問だけれど、私とキューだったら私が親になる方が相応しいんじゃない?」
つぐみ
「あの子に子供としての世話をされようだなんて思えないわ」
***
『33.末裔の身体で一番好きなところは?』
つぐみ
「さっきも挙げたけれど目よ」
つぐみ
「きれいな色のオッドアイ。
あの子達と出会って見たのが初めてだから、とても印象に残ってる」
***
『34.末裔と救世主、立場を変えられるとしたら変わる?』
つぐみ
「……変えないわ」
つぐみ
「あの子がそっくりそのまま私の力を得たとして、上手く扱えるとは思えないもの」
つぐみ
「……それに、今変わったらあの子は石になるでしょう?これを押し付けるつもりはないわ」
***
『35.あなたの末裔を殺して堕落の国が救われるとしたら殺す?』
つぐみ
「殺すわけがないでしょう?」
つぐみ
「それをして、救おうと思うほどに私は堕落の国を愛していない。価値も感じていない」
つぐみ
「”たかが末裔1人の命、どうか犠牲にして私達を救って下さい”だなんて頼まれたって、救ってなんかあげないわ」
***
『36.末裔と別れる前にしておきたいことはある?』
つぐみ
「あの時点で出来ることは全てをしたわ」
つぐみ
「それ以外の”でも”も、”たら”も意味がない」
***
『37.亡者化したら相手に殺されたい?』
つぐみ
「別に、そうなった時に特段の希望はないけれど…」
つぐみ
「あの子が望むのなら、それも良いかもしれないわね」
つぐみ
「それをする権利はある筈よ」
***
『38.末裔に隠しごとをしてる?』
つぐみ
「逆に、隠し事のない関係だなんてあるのかしら?」
つぐみ
「いくつもあるわ。でも、それで良いの」
***
『39.自分が裁判で先に倒れたら、末裔には頑張って欲しい?』
つぐみ
「…………」
つぐみ
「生きながらえるために1番最適な行動を取ればそれで良い、そう教えたけれど」
つぐみ
「…命令も聞かないで、頑張ろうとしていたわね」
***
『40.自分が帰った後の末裔はどうなると思う?』
つぐみ
「この堕落の国に1人きり」
つぐみ
「『赤い招待状』っていうものはろくでもないわね。どう転んでも、その結果になったんだもの」
***
『41.末裔と連携は上手くとれていると思う?』
つぐみ
「お茶会は及第点なんじゃないかしら?」
つぐみ
「裁判はまだまだね。
あの子には逃げ回る方法ばかりを教えていたから」
***
『42.末裔の生まれ故郷についてどれだけ知っている?』
つぐみ
「ええ、暫く過ごしていたから当然のように知っているわ」
つぐみ
「堕落の国の森の中、まだ不思議の力の残滓が色濃く残る眠り鼠の集落が生まれ故郷」
つぐみ
「生半可な救世主や亡者は足を踏み入れただけで眠ってしまうような、そんなところ。
そこに、あの子はピィと一緒に暮らしていた」
***
『43.コインの数が平等なら末裔は自分に勝てると思う?』
つぐみ
「無理ね」
つぐみ
「例え実力が同じになったって、あの子が私に勝つイメージを持てるとは思えない」
つぐみ
「コインの力を持つ者同士の戦いは、心と心の戦いになる。
その戦いだったら、私は負けない」
***
『44.末裔の生い立ちを教えてもらったことはある?』
つぐみ
「ピィから聞いたわ」
つぐみ
「キューのことが好きみたいで、随分と。一生懸命に。楽しそうに」
つぐみ
「…キューはピィが私を選んだと思っているけれど、それでもピィに1番近い存在なのは貴女だって伝えておけば良かったわね」
***
『45.末裔の死ぬところは見ていたい? それとも見たくない?』
つぐみ
「ふざけた質問ね」
つぐみ
「もしも、私の目の前でその時が訪れたなら見届けるわ」
つぐみ
「目を逸らしたりなんかはしない」
***
『46.本当は末裔のことをもっと知りたいと思う?』
つぐみ
「…次」
***
『47.本当は末裔ともっと親しくなりたいと思う?』
つぐみ
「次」
***
『48.末裔に自分が帰るのを止められたらどうする?』
つぐみ
「…残るわ」
つぐみ
「言ったでしょう?
今更戻るにはもう遅いって」
***
『49.自分がこの世界に来なかったことにできるならどうする?』
つぐみ
「………」
つぐみ
「…来なかったことを選ぶわ」
つぐみ
「そうしたら、キューもピィも2人で今でも過ごしていたでしょう?」
***
『50.末裔よりも優先する人はいる?』
つぐみ
「居ないわね」
つぐみ
「…けれど、もしもあの子が。
ことりもこの世界に来ていたなら…」
つぐみ
「あの子にも、いくらかの気持ちを向けていたかもしれない」
***
そうして、50枚の紙がめくられて。
***
最後にもう1枚。51枚目のQuestion。
***
『あなたにとって救いとは何ですか?』
つぐみ
「…………」
つぐみ
「自分が自分らしくあること」
つぐみ
「痛みを負おうとも、それに負けないでいられること」
つぐみ
「全部を飲み込んだあとに、納得が出来ること」
つぐみ
「それが成されたなら、それが救いとなるんじゃないかしら?」
つぐみ
「少なくとも…」
つぐみ
「誰かに与えてもらうのを期待するだけのものは、私にとって救いではないわね」
***
その答えを聞くと、ブリキの兵隊はおくり台へと布を被せて。
***
一礼の後にそれを抱えて、舞台袖の中へ。
***
つぐみを照らしていたスポットライトも一つ一つ消えていく。
***
石像になったつぐみの世界。
その場所が再び暗闇に戻っていく。
***
そうして不意に訪れた不可思議な時間は終わりを告げる。
***
そうして、また暗闇と旋律の中で心の疵の力を奪われる日々が帰ってくる。
***
『あなたに救いはありましたか?』
***
問われることのなかった52問目のQuestion。
***
──それが、問われていたならば。
***
───
***
──
***
***
ミュージックルームには今日も少女の石像が楽器に囲まれながら眠っている。
***
その顔は安らかで穏やかで。
ちっとも苦しそうなんかじゃない。
***
それはキューという末裔の温もりがもたらしたもの。
つぐみという少女に、彼女が与えてくれたもの。
***
─その顔だけを見たならば、52問目の答えは。
***
───────────────
***
『ドキドキ☆救世主へ50の質問』
***
終幕