Dead or AliCe『16JAcks』
 

堕落の国に広がる、広大な荒野の一部。
ぽつりぽつりと少数の村が密集している地帯に、ある噂が立っている。

――あの村、嵐が来てやられたらしい

――嵐じゃなくて、救世主という噂もある

――風で全部吹き飛んだんだと

――武器で建物も村人もずたずたにされたとか……

噂は徐々に広がり、そして、ある時を超えてからは、収まっていった。

収まるざるを得なかった。
その一帯にあった村は、もう残り少なかった。

『それ』が住む白兎の末裔の村に、噂の元凶が来たのは、村人たちが「ここから離れよう」と荷造りをしていた時。
プルネウマ
「こんにちは~」
プルネウマ
「旅のものなんですけど、『人間』の救世主とかここにいらっしゃらない?」
「もしくは私を愛してくれる人!」
プルネウマ
「いない?そっか」
プルネウマ
「ここも外れかあ」
プルネウマ
――砂塵が舞う。
白兎の村人
数人の村人が顔を見合わせて――
白兎の村人
怪訝そうな表情が、恐怖心に上塗りされていく。
白兎の村人
村人は散り散りに。家の中に隠れたり、砂を蹴って走ったり。
プルネウマ
「あ~中に入ったほうが逆に危ないよ~」
プルネウマ
風は強さを増し、建物が軋む。
白兎の村人
「なんだ!?」「嵐が来た!」「いや、あれは――」
白兎の村人
風の音の切れ間に、悲鳴。
プルネウマ
「んー、今回もあれやっとこうかな」
 
風の中を悠々と進む者が、必死に木に掴まる母娘の方へ歩いていく。
白兎の村人
「いや…………いや……!娘だけは……!」
白兎の村人
「お母さん、お母さぁん……!」
プルネウマ
ひょい、と娘の方を掴む。
白兎の村人
「やめてえ!やめてください!」
白兎の母親が、強風にさらされながらも、娘を助けるために、救世主の足を必死に掴む。
白兎の村人
「うわぁああん!」
掴まれている娘の方は、母親の方へ手を伸ばして暴れる。
プルネウマ
「……」
プルネウマ
母娘を見比べて。
「それって『まことの愛』ってやつ?」
ぽつりとつぶやく。誰に向けたわけでもなく。
プルネウマ
「いや」
「違うなあ」
「そもそも君らって人間じゃないし……」
プルネウマ
「まあいいや」
「えいっ」

白兎の娘の身体が、切り刻まれる。
 
風の力単体ではなく、救世主の手から放たれた小さな物体が、局所的な爆風によって加速し、そのやわい身体を切り刻んだ。
 
同じような救世主であれば、その放たれた小さな物体が、乳歯であったことに気づいたかもしれない。
白兎の村人
「ああっ、あああああっ――」
母親は絶望し、救世主の足を掴んでいた手を離し、
白兎の村人
「あ゛っ――」
切り刻んだ事によって四方に散っていった娘の骨に、首を切り裂かれ絶命していった。
 
切り刻んだ身体や、仕込んでいた硬い物体を撒き散らし、嵐は更に被害を加速させていく。
 
死体が出るほど、むき出しの骨や肉が飛び散り、新たな死体を作る。
 
地獄絵図そのものだった。
プルネウマ
(堕落の国に来て暫く経つけど……)
プルネウマ
(人間の救世主、そんなにいないなあ。いることはいるけど、5回中1人だけだった)
プルネウマ
(しかも死にかけだったから話とか聞けなかったし……)
プルネウマ
(『愛』も見つからないし……)
プルネウマ
(最初は面白かったけど、飽きてきちゃったな。帰ろうかなあ。帰る方法わからないけど)
プルネウマ
プルネウマは、神霊である。
プルネウマ
風の神霊。……とは大昔の話。
堕落の国へ堕ちる前は、人間に管理されるような存在だった。
プルネウマ
再生エネルギーはもちろん、新たな刑罰の方法として利用されたこともある。
プルネウマ
その待遇に関して、気に食わないことはなかった。
プルネウマ
(人間が一番面白い)
プルネウマ
風の神霊は、人間のことを好んだ。
おろかでかしこくよわくてしたたか。
プルネウマ
自分も人間になれないか?と人間に接近し、人間と殺し合い、人間に捕らえられ、人間と対話した。
プルネウマ
しかし、人間にはなれず、こんなところにいる。
プルネウマ
(『まことの愛だけが貴方を人間にすることができましょう』)
(なーんて)
プルネウマ
その『愛』を見つけられず、今に至る。
プルネウマ
「誰かいないかなあ、『まことの愛』、持ってるやつ」
プルネウマ
一通りそれっぽいものを試してみたが、人間になれた試しがない。
そんな行き詰まりの状況も気にせず、プルネウマは愛を探し続ける。
プルネウマ
探すのも面白い。
人間みたいだし。
プルネウマ
(それはそれとしてこの展開は飽きてきたよ)
 
嵐は既に、村の半分を破壊している。
 
家から屋根が剥がれ、壁が剥がれ、瓦礫になり、肉と一緒に吹き飛ばされる。
 
そうして、また風が強く吹き付けて、瓦礫をめくりあげた。
 
その奥に。
 
小さい、褐色の兎がいる。
 
この白兎ばかりの村であなたが初めて見る、白くない影。
 
乾いた髪は強風で揺れていて、
 
しかし金の目は揺らがずに、まっすぐにあなたを見つめている。
プルネウマ
「あれっ」
プルネウマ
さっきまで殺してたやつらと色が違うような気がする。
プルネウマ
確認しようとしたが、全部血に染まっていて参考にならなかった。
プルネウマ
(三月兎だから珍しくはないけど……)
プルネウマ
つかつかと歩いて、片手で首を掴む。
この時点での背丈プルネウマの方が上なので、三月兎の身体が浮く。
 
「……っ」
プルネウマ
ふと考えるような仕草をしてから。
「三月兎と白兎って、どっちも兎だから中身も一緒だったりする?」
ニコニコと笑う。
 
「……、…………なかみ、」
 
「みたことない」
プルネウマ
「ふーん」
プルネウマ
「…………」
プルネウマ
「自分の中身、どうなってるか見てみたくない?」
プルネウマ
左手には、六ペンスコイン。
 
「…………」
 
目を見開いた。それは恐怖からくるものではなくて、何かを予感しているものでもなくて。
 
「好奇心」と呼べるような。そういった感情がにじみ出ていた。
 
頷く代わりに、言葉を発する。
 
「できるの、そんなこと」
プルネウマ
「うーん」
プルネウマ
「君次第?」
プルネウマ
「ちょっと試したいことがあってね」
「成功すれば君が何でできてるか、ばーっちり見えちゃう」
プルネウマ
「失敗すると普通につまんない死に方する」
プルネウマ
「まあ君がやりたくても、そうでなくても、私がやりたいからやるんだけど」
プルネウマ
「ほら、合意を取るってやり方は人間っぽいでしょう?」
プルネウマ
「君が自分の中身を見てから死にたいなら、こう言って」
プルネウマ
「『どうか力をお与えください、プルネウマ様!』ってね」
 
唇がうごく。
 
「……やだ」
 
「ぜったいやだ!」
 
「おれは死にたいとか思ってないもん」
 
「つまんないのは嫌!」
プルネウマ
「えーっ」
プルネウマ
「…………」
プルネウマ
「わかった」
「じゃあ、死ななきゃいいんだ」
プルネウマ
懐から、更に多い六ペンスコインを取り出し。
プルネウマ
そのまま握りこぶしを作り。
プルネウマ
薄い腹にねじ込む。
プルネウマ
突っ込んだ拳を、体内で開いて、臓器の中に、コインを落とす。
プルネウマ
コインを置き去りにして、代わりに中身を引き出す。
プルネウマ
「どーお?」
「これならめちゃくちゃ痛いけど死なないよ?」
「気を失うことなく、中身をずーっと見ていられるし」
 
聞いたことのない音と、感じたことのない痛みがして、視界が明滅する。
 
「…………っ、」
 
なにか液体が口からこぼれて、それが血であることがわかるまでにしばらく時間がかかった。
 
荒く息を吐く。
 
唇が震えながら、それでも笑顔のかたちをとった。
 
こんなにおもしろいことはない!
 
退屈な日々だった。やることと言えばなんだかぬるぬるしたことと、荷物運びくらい。今までそれをずっと続けてきた。
 
なんにも刺激がなくて、くだらなくて、つまらない。そういう村で、この世界の末裔はそういうものだから。
 
時折やってくる救世主は関わりがないまま去るばかり。
 
求めていた。なにかを。とってもすごくて、あり得ないようなことで、とびきり楽しいなにかを。
 
手がぴくりと動く。持ち上げられて、あなたに伸ばされる。
 
「もっと」と。
プルネウマ
「うっわ」
プルネウマ
「狂ってるなあ。三月兎だから?それとも個性?」
プルネウマ
「ほんとは一瞬だけ痛みなく生かして、中身見せて、即座にコイン抜いて終わりにしようと思ったんだけど…………」
プルネウマ
「……想定外のほうが面白いね」
プルネウマ
伸ばされた手に、目線を向け。
プルネウマ
「でもだめ」
「これ以上やったらこの嵐の中どっちも耐えられなくなっちゃうよ」
 
生存者はいなくなりつつある。
 
嵐の勢いは先程よりも弱い。
しかし、この村で生き残っているものは、ごくわずか。
プルネウマ
「んー……」
プルネウマ
「ちょっとまってね」
プルネウマ
ぽい、と中身の露出したそれを置き去りにして、姿を消し、30秒。
瞬時にその場に戻る。
プルネウマ
その手に、一匹の死にかけの白兎を連れて。
プルネウマ
「おまたせー」
 
頭をゆっくりもたげる。
プルネウマ
「待った?治った?気合い入れれば多分治るよ」
「手を離しちゃったときにコイン外に出ちゃったけど、それもう君のになってるだろうし」
プルネウマ
「それよりねえ、これ!」
プルネウマ
「面白いこと考えたんだけど」
プルネウマ
「君はさっき自分の中身見てるわけじゃない?」
「でも、きっと、白兎の中身はよく見たことないでしょ?」
プルネウマ
「この白兎、あげるから、この場で出して見てあげなよ」
死にかけの白兎を、目の前に転がす。
 
その白兎を見る。
 
どこかで会ったことがあるような、と考えて、思い出す。
 
そうだ、戦いが強くて、頼りになると皆から言われていて、相手をするのが難しかった白兎だ。
 
なんだかいつまでたっても終わらなくて、その日は家に帰れなかった。
 
こうなってしまうと、ほんとうに些細なこと。
 
そして、どうでもいいことだ。
 
――溢れた体の中身を拾って適当に体の中に押し込む。それから、立ち上がって尖った瓦礫を手に握る。
 
ふらついた足取りは次第に元通りに。そうして一歩、二歩、白兎に近づく。
白兎の村人
小さく悲鳴をあげて、けれどその声はすぐに嵐にかき消える。
 
白兎を見下ろす、その瞳は好奇心で満たされていて。
 
躊躇いもなく、手に持ったそれを振り下ろす。
 
――こんなにあっけないんだ。
 
知らなかった。
 
退屈な男からは想像もつかないほど楽しいものが、体の内から溢れて広がっていく。
 
それを黙って見ていた。
 
「ひとの中身を出しても、痛くないね」
プルネウマ
「あたりまえじゃ~ん!」
プルネウマ
「痛覚が繋がってるんじゃないんだから」
 
「知らなかった」
プルネウマ
「ふたりとも痛いーなんてことは、無理矢理くっつけたり離したりしたときには起こるけど」
プルネウマ
「一方的にやる方は全然痛くないんだよ」
「やり方によってはつかれるかもしれないけど、それは痛みじゃないし」
プルネウマ
「そんなことも知らないのかー」
 
「ふーん……」
 
少し考えて。
 
血のついた瓦礫を、あなたに投げる。
 
明確にあなたを傷付ける意図で。
プルネウマ
「おおっ」
プルネウマ
瓦礫が『なにもないところ』をすり抜ける。
プルネウマ
「元気元気~」
そこにあったはずのプルネウマの上半身が消え、下半身だけで喋っている。
プルネウマ
「でもその態度はよくないんじゃない?」
プルネウマ
風が揺らぐ。下半身も消え、手だけが現れる。
プルネウマ
人差し指を軽く振る。
すると、三月兎の後ろから、大きなガラス片が腹を割くように飛んでくる。
 
悲鳴もなく。
 
ぐらりとバランスを崩して、上半身が仰向けに倒れる。
 
下半身はうつぶせ。
 
「……いたい」
 
「ねぇ」
 
仰向けのまま手を伸ばして、適当な石ころを掴んで投げる。
 
「痛いんだけど」
 
「あんたさあ」
 
「なんでこんなとこでこんなことしてんの」
プルネウマ
「こんなとこでこんなことするためじゃない?」
見せつけるように全身が現れる。
プルネウマ
(それにしてもすごいなー。再生力なら私より上じゃないかな)
(傷つければパワーアップする感じ?)
明後日の方に投げられた石ころを見る。
プルネウマ
「君こそ、こんなとこでこんなことされて、これからどうするの?」
目線を戻す。
 
「…………」絶えず小石を投げながら。軌道はぶれぶれで、風に煽られて全く当たらない。
 
「……どうしよ」
 
「でもさ、もうつまんないことはしたくない」
プルネウマ
「無計画だねー」
そうしたのはプルネウマが原因だけども。
プルネウマ
「君がどうしようもないっていうなら、ここでコインを剥奪して死なせることもできるんだけど」
プルネウマ
「んーと」
プルネウマ
「そうだ!」
「バディ!相棒!愛人!不倫関係!あれっ、なんか違う気がするけど……それだ!」
プルネウマ
「そういうのはあっちでもしたことなかったなー、なんで今まで気づかなかったんだろ!」
プルネウマ
「……私以外の神霊が研究所にいなかったからか……」
急にちょっとさみしそうな顔をする。
「あいつら人間に捕まってなかったし…………」
プルネウマ
「まあ、過去のことはいいんだよ」
「二人いれば3分の2文殊!一人で探すよりも効率がいい」
プルネウマ
「ということで、私の捜し物に付き合って貰おう!」
「決定決定~おめでとう~!」
三月兎の離れていた上半身と下半身をくっつけながら、けらけら笑う。
 
足を動かして体がつながったことを確かめる。不思議だなと思った。おもしろい。これがコインの力ってやつなら、救世主はずいぶん楽しいおもちゃを隠してたんだな。
 
さっきから悲しんだり笑ったり、へんなやつだな、と思う。人をばらばらにするのは好きで、でも自分はばらばらにならないのもへんだ。
 
「さがしもの?」
 
立ち上がりながら問いかける。
プルネウマ
「そう、捜し物!」
「私を人間にしてくれる、『まことの愛』!」
プルネウマ
「それがあれば人間になれるのに、探しても探しても見つからなくてね」
「元の世界でも、こっちでも、ずーっと探してるわけ」
プルネウマ
「別にここで見つける必要もないから、また元の世界に戻ったり、別の世界に行くのも検討中」
プルネウマ
「見つかったら本当に君の好きにしていいよ」
「このコインもぜーんぶあげよう」
その両手にコイン。先程腹の中に突っ込んだものよりも枚数が多い。
 
きっとどこへもいけないよ。ここにきたらきっと。奇跡でも起きない限り。
 
村にいたとき、何人もの救世主に言ったような、そうでもないような、もう覚えてないけれど。
 
「…………ふーん」
 
「コイン、いいな……」
プルネウマ
「欲しい?」
「おねだりしてみる?」
 
「……やだ」
プルネウマ
「やだって言われちゃったー」
プルネウマ
「でも君もさ、薄々分かってるでしょ」
プルネウマ
「君がどうしたいか関係なく、君はもう私に振り回されるしかないってこと」
 
「そうかもしれないけど」
 
「でもやなものはや」
プルネウマ
「自己主張激しいなあ」
「末裔ってもっとペコペコするイメージなのに」
プルネウマ
「でもそのくらいがいいさ」
プルネウマ
「それなら、『まことの愛』が見つかっても、横取りされたりしない」
プルネウマ
「君って愛しそうにないし、愛されそうにないもの」
 
「……わかんない!」
 
「欲しくもないもん、べつに」
プルネウマ
「欲しくないならいいけど言い方が癪だなー」
プルネウマ
「念の為に約束しておこうかな」
プルネウマ
「『まことの愛』が見つかった時~横取りしないこと~」
プルネウマ
「指切りげーんまん」
ぺき、と三月兎の小指を折る。
 
「いたい」
 
「ばか」
 
「すっごい痛い」
プルネウマ
「痛いと覚えるでしょ」
「小指折るたびに思い出してねー」
プルネウマ
「これ一日3回でいい?」
「1回じゃ覚えなさそうなんだもん、君」
 
「やだよ!」
 
「3回も同じことしなくていい」
プルネウマ
「物覚えに自信があるってこと?」
そういうことではない。
プルネウマ
「じゃあいいや、繰り返しやるのってあんまり性に合わないんだよね」
プルネウマ
「毎回別の骨折るのもいいけど、それはそれでどこ折ったか忘れちゃいそう」
プルネウマ
「そういえば、君はなにやってた末裔なの?」
プルネウマ
「毎日なにしてたか聞いとかないと。不健康な生活とかしてないよね?」
プルネウマ
「昼夜逆転とかやめてね。寝込み襲われるのは好きじゃないんだよ」
 
「…………つまんないことしてた」
 
「昼は荷物運びとか、ちょっとした狩りとかして」
 
「夜はぬるぬるしたごっこ遊びして」
 
「終わったら寝てた。たまに寝かせてくれないときあったけど」
 
「それの繰り返し」
プルネウマ
ごっこ遊びって人間っぽくてちょっと興味あるな、と思いつつ。
「つまんなそう~」
全体的な印象はマイナスだった。
プルネウマ
「堕落の国って、つまんないよね」
プルネウマ
「やっぱ帰ろうかなー」
ふと、あたりを見回して。
「ここからも移動しようかな」
惨状を確認する。
プルネウマ
「君、行きたいところとかある?」
「行けたら行こうよ」
行けなそうな台詞。
 
「行きたいところ……」
 
「つまんなくないところ」
プルネウマ
「それは私も行きたいよ」
「行けたら行こうね」
さらっと流す。
プルネウマ
「とりあえずここからは離れようか」
ぐいっと手首を掴む。あとで痣になってそうなくらい強い力だ。
プルネウマ
「さてさて、三月兎の君。君って言うのも限界があるだろうから、名前教えてよ」
 
手を引かれるまま歩きながら、首をかしげる。
 
「名前……」
 
「…………」
 
「みんなには三月兎って呼ばれてた……」
 
「……白兎は、区別しないといけなかったから名前あったけど」
 
「…………」
プルネウマ
「種族名でしょうよ、それは」
プルネウマ
「…………でも私も神霊って呼ばれてたなあ」
 
「……」
 
「あんたはなんて名前なの」
プルネウマ
「プルネウマ」
プルネウマ
「プル、とプネウマでプルネウマ」
 
「プルネウマ……」
プルネウマ
「名前がほしいって暴れたらつけてくれた」
プルネウマ
「だって名前があるって、人間みたいでしょう」
プルネウマ
「同じようなものにわざわざ区別をつけるなんて、すごく素敵だ」
プルネウマ
「君も欲しい?」
 
「…………」
 
返事代わりに砂を掴んで投げる。
 
暴れてるつもり。
プルネウマ
「あー、君、エピソードと実践例を区別できないタイプだな?」
プルネウマ
「もしくは性根が腐ってらしゃる?」
プルネウマ
「私は優しいのでそこらへんを踏まえて肯定してあげま~す」
プルネウマ
砂粒にまみれているかと思いきや、自分の周りに風を吹かせてノーダメージにしている。
プルネウマ
「じゃ、君の名前はイスタだ」
「けってーい」
イスタ
「…………イスタ」
イスタ
「イスタ……」
イスタ
「……ふふ」
イスタ
「うん」
プルネウマ
「なんか笑ってる」
「へんなの」
口に出す。
プルネウマ
「でも名付けるのも、人間っぽいからいいね」
プルネウマ
「イスタ。賭けでもしながら歩こうか。どうせ次の村に行くまでにつまんない道程になるだろうし」
プルネウマ
「私は次の場所に着くまでにイスタの骨が7本以上折れてる方に賭けるからよろしくね」
イスタ
「再生したらノーカン?」
プルネウマ
「悲鳴をあげなかったらノーカウントでいいよ」
プルネウマ
「でも声帯潰すの無しね。それはルール違反」
プルネウマ
「私は寛大だから我慢できる子には優しいよ」
イスタ
「…………ふーん」
イスタ
たしかにおもしろいかもしれないな。
つまらないこの堕落の国で、ひとりでいるより。
イスタ
また石を投げた。
プルネウマ
「あでっ」
今度は当たる。
プルネウマ
「こらっ」
掴んでいた腕を捻ってそのまま折る。
イスタ
「ぃ、…………っ」
イスタ
口元を抑える。
プルネウマ
「…………」
じーっと見つめ。
プルネウマ
「今のはナシでいいよ。おためしってことで」
プルネウマ
「次、口抑えたらカウントかなー」
イスタ
「え~……」
プルネウマ
「えーじゃないの」
「さっさと歩いたほうが折られないかもよ?」
歩くスピードを早める。
イスタ
引っ張られて、歩幅を大きくする。駆け出すように、跳ねるように。
 
広い荒野に、ふたりが駆ける。
 
風が吹き抜ける。
 
 
 
Shuffle, Deal and Up
不条理、非道理、配り直して
 
Stand, Hit and Bust
主と僕、あなたはどちら?
 
罪を束ねて天へと昇るか
徳を重ねて底へと下るか
 
上下あべこべ、ヴァンテアン・ゲーム
 
── Dead or Alice『16JAcks』
 
 
 
これは、その儀式が始まる、少し前の話。
 
 
 
 
 
 
 
 
ここから場面転換
~ホテル到着~
 
 
 
 
 
 
 
 
――白い招待状。
 
差出⼈は「ホテル ハート・オブ・ジャック」。
 
その招待状を固く握りしめていた末裔は、全身を殴打されて、肉塊になってしまった。
 
もう片方の手は、救世主と繋いだまま、一緒に死んでしまった。
 
その招待状は、適正であれば、持ち主を選ばない。
 
救世主と末裔のペア。
 
どんなに残虐非道であっても、そこに崇高な意思がなくても。
手にしたものがホテルへと招待される。
プルネウマ
「ホテルだって!」
プルネウマ
「堕落の国にホテルなんて概念があったんだ」
「ホテルという名のボロ娼館だったりしない?」
プルネウマ
「でも、まあまあ楽しそう?ここよりは…………」
荒野に、招待状を奪った救世主と末裔が立っている。
イスタ
「ホテル……???」
プルネウマ
「どうしようか?行こうか!」
意思の確認とかしなかった。
イスタ
別に否定もしない。
プルネウマ
「じゃあはい、これはイスタが持ってね」
首からインナーの隙間に招待状をねじ込む。
イスタ
「うわ」
イスタ
「くすぐったい……」
イスタ
「…………で、どこにあるんだよ、そのホテルってやつは」
プルネウマ
「堕落の国にあるんじゃない?堕落の国にあるということは行ける」
すべての道はローマに通ずるみたいな言い方。
イスタ
「そうかなあ」
イスタ
差し込まれた封筒を手に取って開く。
イスタ
「……招待状のほかになんか入ってる」
プルネウマ
「んーー地図かな…………」
広げて確認。
プルネウマ
「ここからー」
人差し指をひゅんひゅんと回す。
「まあまあ近いかな」
プルネウマ
「方角的にはあっちの方」
風の神霊なので吹いてる風で方位が分かるらしい。
イスタ
どこ見ても同じような景色なのによくわかるなーと思っている。
プルネウマ
「よーし」
「なんとかは急げってやつだ」
プルネウマ
「ちょうどコインもこいつらから貰ったし」
ふたつの死体を一瞥。
「今ならあれが使えてもいいかなー」
プルネウマ
「風の神霊の~ジェットパックツア~!!」
イスタ
「えっ」
プルネウマ
「ジェットパックって言ってもイスタは知らないでしょ」
プルネウマ
「でも安心!すぐ分かるよ」
プルネウマ
「だいぶ痛いけど」
イスタ
知らないけどなんか……よくないことなのはわかる。
イスタ
「やっぱり!!!」
プルネウマ
「説明しながら体験させてあげよう~」
プルネウマ
「まずは君の後ろに立ちます」
後ろに立つ。
イスタ
「……………………」
イスタ
もう嫌な予感しかしないぞ。
プルネウマ
「そして~~~」
プルネウマ
「肩甲骨を掴みま~す」
ずぶ、と勢いよく皮膚を突き破って、肉を裂いて、神経を切って、二つの手が体内に侵入する。
イスタ
「っ、い゛……っ」
イスタ
反射的に伸ばされる腕。
イスタ
その腕は空を掴む。
プルネウマ
「これから空飛ぶんだから、空に手を伸ばさなくてもいいのにね」
プルネウマ
「シートベルトはお済みですか~?」
「ではしゅっぱ~つ!」
プルネウマ
プルネウマがイスタを物理的に拘束しながら空を飛ぶ。
プルネウマ
「あははっ」
「はやいはやーい!同期の火の神霊よりはやーい!」
プルネウマ
動力源となっている本人ははしゃいでいるが、掴まれている側は風圧と背中の痛みでそれどころではないだろう。
プルネウマ
そのまま、しばらく飛行を続けて。
プルネウマ
「飽きてきちゃったなー!落とそうかな」
そんなことを言っていると…………。
プルネウマ
「あっ」
急ブレーキ。
プルネウマ
同時に、三月兎の身体が開放され――地面に叩きつけられる。
プルネウマ
「到着だ~!」
着いた場所はホテルの真正面。
イスタ
体中の骨があちこち折れている。なんか肉の山みたいになっています。
GM
 
GM
それは荒野の果ての果ての少し手前。
GM
空の上からでも一目瞭然に目立つ、雲を貫きどこまでも高く聳える豪奢なホテル。
GM
周囲に広がる茶色い地平から浮き上がるように輝く姿は、まるで飢えと乾きで倒れ伏す直前に見る蜃気楼。
GM
それこそがホテル『ジャック・オブ・ハート』。
GM
救世主には帰還の手段を、末裔には救世主の力を餌に、殺し合いの儀式が。或いはもしかしたら、『まことの愛』がやりとりされる──
GM
──かもしれない、そんな舞台。
GM
白い招待状を”受け継いだ”あなた方二人は導かれるままに、そのホテルの前までやってきた。
104号室のホテルマン
すると、赤い制服のホテルマンが中から貴方達の前に歩み出て、一礼。
104号室のホテルマン
「ホテル『ジャック・オブ・ハート』へようこそおいで下さいました」
104号室のホテルマン
「私は当ホテルの……ホテルマン」
104号室のホテルマン
「ゲームの間……お客様のおもてなしを担当させて頂きます……ケイトと申します」
104号室のホテルマン
「救世主様のご予約は……ええ、既に承っております」
104号室のホテルマン
「お連れの末裔の方も、どうぞこちらへ」
イスタ
肉塊がうごいて、頭をもたげる。
イスタ
「スルーかよ!!!」
イスタ
「なんかもっとこう……びっくりしたりとか……しない!?」
イスタ
救世主に連れられて、旅をしてすこし経って。
イスタ
さすがにめちゃめちゃ傷付くとみんなびっくりする、ということくらいは覚えた。
104号室のホテルマン
「………………」
104号室のホテルマン
「………………?」
プルネウマ
「ほんとだ。びっくりしてない。度胸ある~」
めちゃくちゃに傷つけた側がなんか言ってる。
104号室のホテルマン
「お客様には色んな方がいらっしゃいますので」
プルネウマ
「多様性だね!」
そうか?
イスタ
「そっかあ~~~~…………ホテル……のホテルマン……って大変なんだな……」
104号室のホテルマン
それはもう、最初から肉の塊だったり骨だけだったり。よのなかいろいろです。
104号室のホテルマン
その動じる様子のないホテルマン自体、救世主ではなさそうだが、一体何の末裔かも分からない。
104号室のホテルマン
整った身なりに整った身振り。決まった形に沿ったかのような完璧さ。喋り方だけは、ところどころに不思議な”間”は感じるが。
104号室のホテルマン
その印象は、二人にかけられた言葉についても同様のもの。
イスタ
ホテルってなんだかよくわかんないけどすっごい大変な施設なんだな~~~……
プルネウマ
「色んな方ってことは、私たち以外にも救世主と末裔が?」
プルネウマ
「人間の救世主とか来てたりしないかな!」
104号室のホテルマン
「あぁ、それでしたら……」
104号室のホテルマン
「…………」
104号室のホテルマン
「まぁ、恐らくは?」
プルネウマ
「濁してきたな~」
104号室のホテルマン
「申し訳ありません。なにせ当ホテルの宿泊者名簿には種族の記入欄は特段ございませんので」
104号室のホテルマン
もっとも、取った覚えのない予約が取られているくらいだ。そのようなものが尋常な手段で記入される事もないが。
104号室のホテルマン
「人間のように見える方ならばたくさんいらっしゃいますよ」
プルネウマ
「おおー。それなら期待できるかも」
プルネウマ
「ここに泊まれば会えるかな~」
プルネウマ
「…………まあ、タダでのんびりしてお客様同士の交流をしてもらおうって場所じゃないことは分かるけど」
104号室のホテルマン
ホテルマンは静かに微笑んでいる。
104号室のホテルマン
「……では、客室までご案内致します」
イスタ
体のあちこちをなおして立ち上がる。
プルネウマ
「部屋!いいね!ホテルは外装より内装が重要だ」
立ち上がった末裔の手をむんずと掴んで引っ張る。
104号室のホテルマン
道すがらでは、横から全く同じ姿のホテルマン達も現れ荷物や上着を預かろうと寄ってくる。
イスタ
「いたい! ばか! まだそこ治ってない!!!」
イスタ
言いながら、腕を引っ張られて歩きだす。
プルネウマ
「今から治るからいいでしょ~」
プルネウマ
「あっ、預かってもらっていいの~?ちゃんと返して貰える?パクらない?まあいいや。はいはい」
イスタを片手で掴んだまま、体中に仕込んでいた破片等をホテルマンに預ける。
GM
粛々と破片を受け取るホテルマン達を引き連れ、まずはエントランスへ。
GM
そのエントランスには、建物の洒脱な外観にはとても似つかわしくはない石像が設置されている。
ドクター
異様な形状に膨れた筋肉、まるで容器のような形状に肥大化した頭部、顔面からはバリエーション豊かな液体を垂れ流す、老人の石像。
ドクター
苦痛と絶望の表情、片腕を振り上げたポーズのそれは、余りにも写実的。
ドクター
まるで生きた人間をそのまま石に固めたような、異様な迫力を放っている。
イスタ
「…………」
イスタ
すごい像だ。
イスタ
ひとが死ぬ前みたいな表情してる。
プルネウマ
「すごい像だ」
こっちは思ったことをそのまま言う。
プルネウマ
「え~~~~!本当にすごいね!これ吹き出した液体まで固めてるの!?」
プルネウマ
べちべちと石像を叩く。遠慮はない。
イスタ
ひとの頭そこそこ割ってきたけど、こんな形になってるのは見たことないな……
プルネウマ
「昔、人間のガワを作って中身ねじ込んだときのこと思い出しちゃった」
ろくでもないことを思い出す。
プルネウマ
「ちなみこれ誰?救世主?それとも脳ミソ露出趣味につきあわされた末裔?」
ホテルマンに聞く。
104号室のホテルマン
「Dr.ザルツです」
イスタ
「どくたーざるつ」
104号室のホテルマン
それ以上の解答は無い。
プルネウマ
「ドクターってことは…………あー…………………………………………」
研究所暮らしが長いので色々なことを思っている。
プルネウマ
「あるある。いるいる」
覚えがある。
プルネウマ
「もしかしたら知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いかもしれないから、握手しとこ」
した。
プルネウマ
「写真撮れれば持って帰って確認できたけど~まあいいや」
ドクター
ちょっと血の臭いがする。
イスタ
じゃあ知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いになるのか……
イスタ
手をのばす。
イスタ
あくしゅ。
イスタ
「…………??」
イスタ
「ひとみたいな臭いする……」
プルネウマ
「自分の匂いじゃない?」
血の匂いが常に充満してるようなもんなので、大して気にしなかった。
イスタ
「そうかも」
プルネウマ
石像の周りをグルッと回り。
「ふーむふむ。よし。姿覚えたから模倣もできるね」
納得したように頷く。
GM
エントランスから見えるものとして。
GM
石像の他、横目に見えるガラス壁越しには、巨大なモニターが配置された、立食パーティの会場のような広い空間も目に入る。
GM
だがそちらは、入口からして違うようだ。
プルネウマ
「…………」
思うことはあるようだが、特に言及しない。
104号室のホテルマン
「エレベーターはこちらとなります」
104号室のホテルマン
案内されるのは、少なくともその空間ではない。
プルネウマ
「エレベーターだ~」
イスタ
エレベーター……???
GM
常識的なサイズのサイドエレベーター。とはいえ、その動く箱そのものが堕落の国では常識的な施設ではない。
プルネウマ
「あ~いいね、この感じ。飛べばいいのに箱で移動するのが人間っぽい」
プルネウマ
「こっち来てからは初めて見たなー」
イスタ
「なにこれ! うごくの!? 箱が!?」
プルネウマ
「人間は箱動かすの大好きだから動くよ」
「これが人間に作られたかは知らないけど、私が元いた場所ではそうだった」
イスタ
「人間ってすごいんだな……」
イスタ
ぴょんぴょん飛んだりして箱を確かめている。
GM
さて。階を移動し、巨大な吹き抜けを横目に回廊状のフロアを通り抜け。
GM
案内されるのは[客室 104号室] とプレートに表示された部屋。
GM
頑丈な鍵に重厚な扉は、中からも外からも抜群の安心感。
GM
扉を潜れば目に入る全ての内装は信じられない程に洗練されて清潔で、ダブルサイズのベッドは夢に見る程柔らかい。
GM
一人部屋として見た場合はもちろん、二人三人で宿泊するのだとしても十分に過ぎるほど広い部屋に、テーブル、椅子、鏡台、冷蔵庫。あらゆる設備が揃っている。
GM
片面ガラス張りの日当たりの良さは白いカーペットをまばゆく照らし、架かった分厚いカーテンは外見情報だけでも上質な手触りを想像させる。
GM
このような先進的で豪華な客室が堕落の国に存在し得るだけで異質だが、その中で更に異質な物体は、テーブル近くにある大きな黒い窓。
GM
それは知識があれば『モニター』とわかるもの。
104号室のホテルマン
「さて……」
104号室のホテルマン
「ルームサービスは24時間お使い頂けます。お申し付けはそちらのお電話からフロントへ」
104号室のホテルマン
「客室以外にも、救世主様はホテル内の施設を自由にお使いいただけます。他の客室に入る事や、フロアの移動、そしてこのホテルから出ること等はできませんが」
104号室のホテルマン
「他なにか御用があれば、いつでもお呼び下さい」
プルネウマ
「その御用っていうのはー」
プルネウマ
「わりと臨機応変だったりする?」
104号室のホテルマン
「内容によります」
プルネウマ
「へ~え!」
プルネウマ
「ホテルマンさんを抱き枕にしたいよ~とかは?」
104号室のホテルマン
「”そういうサービス”でしたら専門の者がおりますので、後ほどこちらに向かわせる事もできますよ」
プルネウマ
「娼館じゃん」
娼館ではない。
イスタ
「えっ」
イスタ
「娼館……だよね?」
イスタ
だって宿泊って言ってたし……
イスタ
ホテルから出られないっていま言ったし……
104号室のホテルマン
特に動揺も訂正もしない。
プルネウマ
「イスタ、ここ就職する?」
プルネウマ
「労働内容ブラックかもしれないけど」
イスタ
「えっ……」
イスタ
考えている。
プルネウマ
「あ~でも就職したら私がここにいられなくなっちゃうのかな?」
イスタ
「…………」
イスタ
プルネウマがいなくなったら自分はどうなるんだろう。
イスタ
…………
イスタ
でもなんかホテルマン、大変そうだしな……
イスタ
「考えとく……」
プルネウマ
「ふーん」
プルネウマ
「私はここに縛られるの嫌だから、やるならここで用を済ませてからにしてね」
イスタ
「…………縛られるのは嫌かも……」
プルネウマ
「そっかー」
プルネウマ
「じゃあこの履歴書はなかったことにします」
適当な紙を破いて捨てる。
プルネウマ
「それにしても、いろいろ揃ってるね」
「今のところ、堕落の国で一番キレイで便利な場所かも」
プルネウマ
「お代はいくらかな~?払らわなかったら追い出されちゃうのかな?」
茶化すように言う。
104号室のホテルマン
「そのあたりはどうかお気になさらず」
104号室のホテルマン
「必要な物は、受け取る所から受け取っておりますので」
イスタ
ふーん……
イスタ
「ここ、なにがあるの?」
イスタ
「ルームサービス? って?」
プルネウマ
「試してみたら~~~~~~~~~?」
104号室のホテルマン
「……そうですねぇ……」
104号室のホテルマン
メニュー表はあるにはあるが、文字が読めるとも限らない。
イスタ
読めないな~。
104号室のホテルマン
「基本的には食事のオーダーとなっております。希望すればアルコール類やマッサージなども……」
イスタ
やっぱり娼館だ!
イスタ
「マッサージを……してもらう側なの? おれたちが?」
プルネウマ
「イスタはいつもする側だもんねえ」
プルネウマ
「マッサージ、してもらったら?」
イスタ
「えっ」
イスタ
「や、やだ……」
プルネウマ
「じゃあ私がやろうか」
プルネウマ
ベッドを指差す。
イスタ
「痛いやつじゃない? それ……」
プルネウマ
「んー……………………」
イスタ
ベッドを見る。
イスタ
いままで見たことないくらい寝心地がよさそう。
プルネウマ
「イスタはなーんか勘違いしてるかもだけど」
「痛くないことも私はできるんだよ」
イスタ
「そう……なの?」
イスタ
マッサージはともかく……あのベッドさわってみたいな。どんなかんじなのかな…………
GM
とても柔らかく、手触りも良いです。
プルネウマ
「そっちも経験がないってわけじゃないし」
ベッドに向かう。
プルネウマ
「やわらかーい!」
ベッドにダイブ。
プルネウマ
「ほら、おいでよ」
寝転んだまま招く。
イスタ
「え、……えっ」
イスタ
今までのベッドの概念を覆す感じで怖い。おそるおそるベッドに手を乗せる。
イスタ
「うわ」
イスタ
そのまま転がる。
イスタ
「すっご……」
プルネウマ
「ホテルマンさんは~?」
おいでおいでする。
104号室のホテルマン
「……………………」
104号室のホテルマン
「…………おっと、なにか御用で?」
104号室のホテルマン
すこし遅れてのレスポンス。空気を察して壁の花に徹していたのか、或いは立ったまま寝ていたのか……
104号室のホテルマン
あなた方がやろうとしている事に対しても、手招きに対しても、特段変わった反応は見せていない。
104号室のホテルマン
或いは、興味がない。
プルネウマ
「…………まあ、単に見ててもらっても、それはそれでいいか……」
よくはない。
プルネウマ
隣にいるであろう末裔の頭をワシャワシャと撫でる。
イスタ
ぴくりと身が跳ねる。
イスタ
痛くない……?
プルネウマ
「心配しなくても引っこ抜いたりしないよ」
イスタ
「…………そっか」
プルネウマ
「…………」
それはそれとして油断してるときに引っこ抜くのもありだな……とは思っている。
イスタ
なんか視線が怖くない?
プルネウマ
でもしないほうが面白いかな~。
プルネウマ
「うーん、皮膚こすったり耳いじったり……考えたらするのってめんどくさいな…………」
プルネウマ
「ホテルマンさ~~ん、媚薬とかあるぅ?」
「ないなら戻ってこなくていいや」
104号室のホテルマン
「ありますよ」
104号室のホテルマン
「少々お待ち下さい」
GM
ホテルマンが恭しく退室し、そしてほんの僅かの間を置いて再入室。
104号室のホテルマン
「どうぞ。こちらオーダーの薬品となります」
104号室のホテルマン
銀のトレイの上に載せられた、尋常でなくいかがわしいデザインのピンクの小瓶を差し出す。
プルネウマ
「わーい!」
早速開けて、容赦なくイスタの上から中身を撒き散らす。
プルネウマ
「あと、そうだ!媚薬あるんだったらあれあるでしょ。カメラよろしく!」
ホテルマンをカメラマンにしようとしている。
104号室のホテルマン
「畏まりました」
104号室のホテルマン
懐からハンディカメラをスッと取り出す
プルネウマ
「あー、後ろから撮ってて」
「私手があかなくなるから」
104号室のホテルマン
ススッとベストポジションに移動する
イスタ
「っ……? ?? え、なっ……ぁ」
イスタ
なにそれ、と問う間もなく。
イスタ
身体が熱を持ちはじめる。
 
ホテルに着いて、ゆっくりする暇もなく。
 
いつもとは違うやり方で、身体を蹂躙される。
 
それを記録にするという暴挙も加えて。
 
二人の疵が妙な方向に作用してしまったのか。
もしくは堕落の国に似つかわしくないホテルの魅力にやられてしまったのか。
 
それは考えても仕方ないこと。
こうなったらもうどうすることもない。
やり方が違うだけで終わり方は一緒だろう。
 
狂った救世主が飽きるまで。
それに魅せられた末裔が拒絶するまで。
 
事は続き、やがて終わるだろう。
 
このホテルで。
 
そうされることが続く関係も、やがて終わるのだろうけど。