Dead or AliCe『16JAcks』

入場

GM
Shuffle, Deal and Up
不条理、非道理、配り直して
GM
Stand, Hit and Bust
主と僕、あなたはどちら?
GM
罪を束ねて天へと昇るか
徳を重ねて底へと下るか
上下あべこべ、ヴァンテアン・ゲーム
GM
── Dead or Alice『16JAcks』
GM
*Cホール*
GM
果て無く続く荒野の果て、その終着点よりも少し前。
GM
雲を貫きどこまでも聳える、場違いに豪華な高層建築。
GM
それはホテル『ジャック・オブ・ハート』。
GM
その広い1階のエントランスに今、末裔も救世主も犇めいている。
GM
この地で行われる儀式にして祭事、希望にして悪夢を見届けるため。
GM
或いは単に、観客に振る舞われる無料の食事を宛にして。
GM
好悪明暗綯い交ぜに、全ての視線はエレベーターの様子を写すモニターに注がれている。
GM
ホテルの中央を大きく貫く、広間のようなエレベーター。
GM
その扉が静かに開き、ホテルマンが歩み出る。
104号室のホテルマン
105号室のホテルマン
誰も居ない場所へ向けて一礼。
105号室のホテルマン
「此度お招きに応じて頂きました、客室105号室のお二方」
105号室のホテルマン
エレベーターの扉から、新たな人影が現れる。
105号室のホテルマン
「ミムジィ様、スバル様」
ミムジィ
歩み出る。
ミムジィ
白い毛皮の脚を持ち――白い兎の救世主?
ミムジィ
「うわーっ、緊張するな~」
ミムジィ
冷たい鱗の腕を持ち――歩く魚の救世主?
ミムジィ
周囲をキョロキョロと見渡しながら。
ミムジィ
三角大きな耳を持ち――あるいはチェシャ猫の末裔?
ミムジィ
「うわっ、すごい高い」
ミムジィ
西に行っては子猫を探し、東に行っては畑の手伝い。
ミムジィ
南に行っては荷馬車の護衛に、北に行っては亡者狩り。
ミムジィ
『モザイクの』救世主、ミムジィ。
ミムジィ
「どうもどうも」
ミムジィ
「ほらスバルもこっちきて」
スバル
そうして、その継ぎ接ぎの救世主の後ろから。
スバル
「お前、もうちょっと緊張感ないのか」
スバル
耳に羽、
スバル
背に翼。
スバル
特に気負いのないふうに歩んでくる。
ミムジィ
「緊張してるって」
スバル
ミムジィの隣まで進み出て、
スバル
「本当かねえ……」
スバル
とん、と靴が鳴る。
ミムジィ
カメラを見つけて手を振っている。
スバル
「……そういうとこだぞ」
ミムジィ
「え~?」
スバル
「前見てろ。相手も出てくる」
ミムジィ
「はーい」
GM
次いで、エレベーターの向かいに位置する扉からもホテルマンが現れる。
104号室のホテルマン
再び、誰も居ない場所へ向けて一礼。
104号室のホテルマン
「此度お招きに応じて頂きました、客室104号室のお二方」
104号室のホテルマン
エレベーターの扉から、新たな人影が現れる。
104号室のホテルマン
「プルネウマ様、イスタ様」
イスタ
呼ばれた、二つの名前。
イスタ
だが、現れたのは、三月兎の末裔のみ。
イスタ
それも、幼く、薄汚れた姿。
姿なき声
「――ああ、皆様。そして、お相手方の救世主と末裔殿!どうかご安心を!」
姿なき声
「救世主が見当たらない?もしかして殺された?」
「……と、お思いの方がいらっしゃるかもしれませんが」
姿なき声
「姿が見えないだけで、ここにいますよ!」
姿なき声
澄んだ声が響く。
末裔の唇は動いておらず、腹話術で喋っているわけでもなさそうだ。
イスタ
声の主は現れないまま、三月兎の末裔が、中央の方へ歩いていく。
姿なき声
「ワタクシどもが素で登場しても、逃げ出した奴隷としか思われないので」
「ちょっとした余興をひとつ。」
 
――びゅう、びゅう。
どこからともなく、風が吹く。
姿なき声
「救世主とその配下。その正当性は六ペンスコインにあります」
姿なき声
「ですが、ねえ。力を示すために、わざわざコインを見せびらかす余裕がある者は、そう多くありません」
「では。コインが見えない状態で、どのように『力』を示そうか?」
 
――ごう、ごう。
風に砂が混じる。
風塵は徐々に勢いを増し、やがて、嵐のように吹き荒ぶ。
姿なき声
「あるものは死と契り」「あるものは雷を落とす」
「あるものは役割をこなし」「あるものは幻を見せる」
「あるものは空を駆け」「あるものは捻じ伏せる」
姿なき声
「どれも見るものを魅了しますが、ここではそんな小賢しいことはいたしません」
 
砂塵に血が混じる。
視程が悪くなり、末裔の姿が見えなくなる。
姿なき声
「力を見せるのなら」
「単なる虐殺が一番わかりやすい!」
 
ぴたり、と。
風が凪いだ。
 
砂塵によって遮られていたあたりに、人影が増えている。
イスタ
先程まで一人だった、三月兎の末裔の周りに、さまざまな末裔が立っている。
 
取り囲むように。逃さないように。
等間隔で並ぶ姿は、まるで舞台の役者のごとく。
姿なき声
「おまたせしました。由緒正しい裁判よりは刺激の少ない、お子様でも見られる殺戮ショーのお時間です!」
姿なき声
「救世主が出向くまでもない、一方的な暴力をお見せしましょう!」
 
末裔たちは、男女二人組になり、軽やかに踊りだす。
それぞれが華麗にステップを踏み、飛んで、跳ねて――
 
中央にいる三月兎の末裔を、『殺すため』に駆け出す。
姿なき声
「さあさあ、『イスタ』、好きに殺して、殺されていいよ!」
 
ドードーの末裔が子供の小さな体を蹴り上げようと急接近し、トカゲの末裔がそれをサポートするように回り込む。
イスタ
どこからともなく聞こえてくる声を聞いて。
イスタ
顔を、上げる。
イスタ
ぐ、と地面を踏みつけて。
イスタ
高く飛ぶ。
イスタ
空中で身を翻してひねって、上から二人の末裔を殴りつける。
 
打ちのめされた二人には目もくれず、公爵夫人の末裔の二人が襲いかかる。
 
始祖の公爵夫人から連なる末裔が、レイピアで喉元を狙い、その脇を走る子豚の血筋を引く末裔が、短剣で足元を狙う。
イスタ
身を縮めてレイピアを避けて、
イスタ
跳ねる。レイピアと短剣の間へ。
イスタ
二人を巻き込んで突き飛ばし、互いの獲物を互いの身体に突っ込ませる。
 
できあがった二つの死体を踏み、コックの末裔が食器を投げつけ、チェシャ猫の末裔が上空から飛びかかかる。
イスタ
手で着地して、そのままくるりと一回転。
イスタ
再び飛んで食器をかわして、
イスタ
チェシャ猫の末裔の背中に踵落とし。
イスタ
また息をつく間もなく跳ねる、三月兎の名の通り!
 
血しぶきを笑うように、帽子屋の末裔が先端に刃のついたステッキを振るい、横から半目を開けた眠り鼠の末裔が、尻尾のような鞭をしならせ、走ってくる。
イスタ
くるくると飛んで攻撃を翻す、翻す。
イスタ
ステッキも鞭も空を切って、そうしてまた、開いた金色の瞳に、血飛沫が映る。
 
グリフォンの末裔が、代用ウミガメの末裔を抱えて急降下し、それぞれ持っていたトンカチとノコギリを『イスタ』に振り上げる。
イスタ
地を蹴って横に飛んで、避ける。
イスタ
また跳ねる、跳ねる。重力が狂っているかのよう!
 
イモムシの末裔が口をだらしなく開け、煙と血を吐くと、ハートの女王の末裔が持っていた大きな鉈が熱を帯びる。
 
鉈はイモムシの末裔を真っ二つにし、そのまま斬撃が、『イスタ』の元へと走っていく。
イスタ
ぐっと足に力を込めて。
イスタ
次の瞬間にはもう、この末裔はその場にいない。
イスタ
高く、高く。なにもない空中から嵐で汚れた瓦礫をとりだして、
イスタ
振り下ろす。
 
死体が散らばり、末裔も残り二人。
白兎の末裔と、『イスタ』ではない、三月兎の末裔。
 
白兎の方は、英気に満ちて、頼れそうな印象。
三月兎の方は、隣にいる白兎にベッタリとくっつき、妖艶に微笑んでいる。
 
二人はウェディングケーキでも入刀するかのように、二人でナイフを持ち、ゆっくりと『イスタ』に近づく。
イスタ
ナイフを見る、反射光が瞳にうつる。
イスタ
同じ兎も、今この末裔にとってはただのおもちゃでしかない。
イスタ
地面を蹴る。
イスタ
兎たちの脳天を強く殴って、
イスタ
着地。
イスタ
そうして顔を上げて――
イスタ
「……は、」
イスタ
「おわった?」
 
趣味の悪い殺戮ショーは、種も仕掛けもなく、劇的な結末もなく、ただ終わる。
姿なき声
「はい、おしまい」
「お付き合いいただきありがとう、滅びゆく世界の愚かな下等生物ども!」
 
死体が転がっている。
末裔の死体が、無残に放置されている。
姿なき声
「そして改めて、挨拶でもしようかな」
 
曝されている死体は、たちまち風化していき、崩れていくところから風が巻き起こる。
 
風が、砂塵が、血が、三月兎の末裔の子供の後ろに集まっていく。
 
『それ』は、人の姿になっていく。
 
末裔と同じくらいの年齢の、薄汚れた子供。
 
子供の姿の救世主は、殺戮を行った末裔の手を取り、これから踊り出すかのように背後に付く。
  
今しがた行われた残酷な劇に対して、称賛を求めるかのように。
プルネウマ
「私の名前はプルネウマ。風の神霊。まことの愛を探すもの。お前たちを救わない、由緒正しい救世主!」
プルネウマ
「狂った子兎のイスタと勝ち抜いていくのでよろしくね~!」
プルネウマ
朗らかに笑う様子は、わるふざけをした子供のそれだ。
ミムジィ
「……つまんない余興だ」
スバル
「趣味悪」
ミムジィ
剣のフランジを手いじりしながら。
ミムジィ
「虐殺は見飽きてるよ、生憎」
105号室のホテルマン
「ええ、ええ。ありがとうございます。」
104号室のホテルマン
「此度ヴァンテアン・ゲームの開催にあたり、救世主様と末裔からなるペア8組、合わせて16名の方々にお集まり頂きました」
104号室のホテルマン
「それぞれに生死を賭けて競い合って頂き、最後に残った1組の方々に当ホテルより景品が授与されます」
104号室のホテルマン
「景品とはつまり、救世主様には元の世界への帰還。そして末裔には、救世主の力を”自分のもの”とすること」
104号室のホテルマン
「ですがそれを得るためのチップは”オールイン”が当ゲームのルール」
104号室のホテルマン
「敗者の結末は必ず”生きる”か”死ぬ”か。そしてその選択は、勝者に責務として委ねられます」
104号室のホテルマン
「その責務を放棄する事はできません。例え、相手がどのような状態であっても」
104号室のホテルマン
「尚、棄権なされた場合は通常通り敗者として扱いますので、予めご了承下さい」
104号室のホテルマン
「そして繰り返しになりますが、当ゲームは”オールイン”」
104号室のホテルマン
「お持ちの6ペンスコインは全てチップとして当ホテルに預けて頂き、決闘においてはホテルから配布される”指定枚数”のコインを用いて頂きます」
104号室のホテルマン
「こちらが決闘用のコインと、証となります」
105号室のホテルマン
それぞれのペアの元に担当のホテルマンが歩み寄る。
104号室のホテルマン
その手にはカジノで見るような重厚な造りのチップトレイと、2枚の赤いトランプ。
104号室のホテルマン
「この第1回戦でホテルより配布されるコインは、引いた証がエースであれば11枚。ジャックであれば10枚」
104号室のホテルマン
「これより始まるお茶会の時間、エースとジャックの間には多少の……一般的な救世主と末裔の間にあるものと同程度の立場の差が生じます」
104号室のホテルマン
「それでは、コインをお預けください。そしてどうか、お引き下さい」
ミムジィ
袋に入れたコインをトレイに乗っける。
ミムジィ
「はい、よろしく」
スバル
同じく、さらりと袋ごと。
105号室のホテルマン
無言で受け取る。これまで客室で饗して来た時と同様に。
ミムジィ
「スバル引いてよ、トランプ」
スバル
「ええ……」
スバル
「まあいいけど」
ミムジィ
「エース引いてよエース」
スバル
「言ってろ」
スバル
特に逡巡もせずにすぱっと引く。
スバル
「ジャック」
ミムジィ
「え~」
ミムジィ
「エース」
105号室のホテルマン
受け取ったのを確認すると、黙礼。
104号室のホテルマン
「……あちらは無事引かれたようですねぇ」
104号室のホテルマン
「……ではぁ、こちらもどうぞ」
イスタ
「…………」
プルネウマ
「コイン、コインね~」
「はいどうぞ」
袋ではなく、服の収納スペースから2回に分けて素で引っ張り出す。じゃらじゃら。
プルネウマ
「ところでこれはどうするの?」
イスタを指差す。
イスタ
「…………あっ???」
104号室のホテルマン
「…………これと言いますと」
イスタ
「えっ」
イスタ
「どうするの?」
イスタ
お腹を指差す。
104号室のホテルマン
「…………ちょっと失礼」
104号室のホテルマン
ホテルマンがどこからともなく聴診器を取り出し、イスタの服の裾をまくりあげる。
104号室のホテルマン
冷たい金属の感触を押し当てる。
イスタ
「…………」
104号室のホテルマン
「はい吸ってー吐いてー……あー、これは入ってますね……」
イスタ
すー……はー……
イスタ
「うん……」
ミムジィ
(スバル、あれなに?)
スバル
(おれに聞くな)
ミムジィ
(なにやってんの??)
スバル
(さあ……?)
104号室のホテルマン
「そうですねぇ……」
104号室のホテルマン
「シンク、手伝っていただけますか?」
イスタ
「え」
105号室のホテルマン
声をかけられると、105号室の二人へと視線をやる。
イスタ
「なに!?」
ミムジィ
「ど、どうぞ?」
スバル
頷く。
105号室のホテルマン
黙礼し、イスタに近寄る。
105号室のホテルマン
コイントレイを104号室のホテルマンに預けると、その腹部に手を添え
105号室のホテルマン
掴み、開く。
105号室のホテルマン
肉の裂ける音。
イスタ
「ッ、」
104号室のホテルマン
そして、こちらの手には掃除機。
104号室のホテルマン
「はーいちょっと失礼致しますね~」
ミムジィ
(うわっ)
104号室のホテルマン
開かれた腹腔に挿入し、スイッチON。
イスタ
「い゛、っ」
104号室のホテルマン
ずっ、ぎゅるっ、ごっごっごっ…………
104号室のホテルマン
「はい、確かにお預かりしました」
プルネウマ
手を叩いて爆笑している。
イスタ
その場にくずれおちる。
105号室のホテルマン
言葉もかけず、腹部を閉じると105号室の二人の側に戻る。
ミムジィ
「お、おつかれさま」
105号室のホテルマン
「……」 やはり黙礼。
ミムジィ
(ホテルマンって大変だねえ)
105号室のホテルマン
手袋だけ、新品のものを懐から取り出して取り替えた。
イスタ
しかし、すぐ顔をあげる。
イスタ
「ちょっと!!!」
イスタ
「がんばったの台無しじゃない!?」
104号室のホテルマン
「そうですね」
104号室のホテルマン
「では改めて、カードの方をどうぞ」
イスタ
「流すな!!!!!!!」
プルネウマ
「ひぃ~~~~~~~~~!」
腹を抱えて笑っている。
プルネウマ
「私いまちょっと無理!!お腹痛い!!」
「イスタ引いて!!あははは!!!」
イスタ
「それ今お腹裂かれたやつに言うことー!?」
イスタ
言いながら立ち上がる。
イスタ
そうして、言われたとおりにカードを引く。
イスタ
そのまま裏返す。……ジャック。
プルネウマ
「あー、笑った笑ったあ」
末裔がカードを引いたのを見て、自分も引く。
プルネウマ
…………エース。
イスタ
ちらりとプルネウマの様子を見る。
プルネウマ
「私がエースだねえ」
プルネウマ
「まあ、どっちも変わらないでしょ、私たち」
イスタ
「……そうかなあ」
104号室のホテルマン
「これで、エースとジャックが決定されました。これは当ホテルより判断されるお客様方の身分であり、領分となります」
104号室のホテルマン
「エースはエースらしく。ジャックはジャックらしく。どうか振る舞われますよう」
104号室のホテルマン
「領分を犯した者には、相応の報いが与えられます」
104号室のホテルマン
「これより24時間のお茶会の時間の後、再びこの中央エレベーターへとお集まり頂き、裁判となります」
104号室のホテルマン
「こちらそれぞれ2通、お茶会を助けるための招待状となります、お受け取り下さい」
105号室のホテルマン
招待状と称された封筒が、各ペアに2つずつ渡される。それは、参加者たちをこのホテルに招いた招待状と似た気配を持つもの。
104号室のホテルマン
「エースの方々。当ホテルに存在する施設は全て、ご自由にお使いください」
104号室のホテルマン
「ジャックの方々。どうかエースの方々の邪魔を為されないように」
104号室のホテルマン
「……それではぁ、客室104号室、プルネウマ様、イスタ様と」
105号室のホテルマン
「……客室105号室、ミムジィ様、スバル様の」
104号室のホテルマン
「これより、お茶会の時間と相成ります」
GM
救世、虐殺、相待って。
GM
深刻、悪戯、相対し。
GM
どちらも人生、どちらもジョーク。
GM
だってこんなショー、どう転んだって面白い。
GM
それでは今から、お楽しみ。
GM
それはお茶会の時間。