Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 Room No.5-決戦当日朝

シャルル
夜は明ける。
シャルル
何を気にかけずとも、普段通りに目が覚めて
シャルル
腕の中。胸元に自分以外の体温を感じる。
シャルル
「…………。」
シャルル
暫くその顔を眺め、鼓動が少し速くなるのを感じながら。
シャルル
そっと、ベッドを出た。
シャルル
シャルル
やがて、少しだけ日は高くなり。
シャルル
お湯の沸く音。
アレクシア
「……ん、」
アレクシア
ゆっくりと瞼が開く。
アレクシア
少しだけ、寒いような気がした。けれど、湯の沸く音にそちらを向く。
シャルル
「…………ん?」
アレクシア
「シャル、ル……」
アレクシア
「…………」 いた。それだけのことに、わずかに安堵して。
シャルル
「…………おはよう。」
アレクシア
「……おはよう」
シャルル
沸かせたお湯の少し落ち着くのを待って、カップに紅茶をいれて。
シャルル
ベッドへと。
シャルル
隣に戻ると、しかし、すこし気恥ずかしくて。
シャルル
「紅茶、飲める?なんだか……少し冷えるみたいだから。」
アレクシア
「…………ん」 ゆっくりと、ベッドに手をつく。ずいぶんとゆっくりと。
アレクシア
起き上がるだけの動作が鈍くて、アレクシア自身、少し笑ってしまう。
シャルル
「……大丈夫?」
アレクシア
「……いろんなとこ、痛い……」
シャルル
「あ……えっと。」
アレクシア
「あ、ううん、大丈夫。……だいじょうぶ」
シャルル
「…………ごめん。」
シャルル
「はは……。」
アレクシア
「……ん、……ふふ」
シャルル
昨日までとそうかわらないやり取りでも。
昨日までより、特別に思えた。
シャルル
アレクシアの頬に軽く口付けて。
シャルル
「無理、するなよ?」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
くちびるのかすめていった頬に触れる。
アレクシア
きっと。明日には終わりになるひととき。
アレクシア
「……ありがと」 言いながら、シャツを着る。
シャルル
カップはサイドテーブルへ。
衣服の袖は手首まで下ろしている。
シャルル
今朝からどうも、自分に触れてみた手が、いつもより冷たいように感じるのだ。
シャルル
「…………決勝か。」
アレクシア
「今日と……明日。……それで、全部」
アレクシア
「……終わるのね」
シャルル
「…………ああ。どっちが勝っても、何があっても。」
シャルル
「少なくとも、ここで、こうして……お茶できるのは最後だ。」
アレクシア
「…………」
アレクシア
怖くない、と言ったら。それは嘘だ。
アレクシア
外のことは何も知らない。何もわからない。
アレクシア
それ以前に。
アレクシア
「……………………」
シャルル
「…………アレクシア。」
アレクシア
「……うん」
シャルル
「ちゃんと見届けよう。一緒に。」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
また、二人。死ぬのだろう。
アレクシア
あるいは自分たちを含めて四人。
アレクシア
……その可能性のほうが、高い。
アレクシア
「最後まで」
シャルル
「……うん。」
シャルル
「はい、お茶。……ちょっと今日、寒くないか?手袋……どっかにあった気がするな……しとくか。」
シャルル
きっと自分の手はつめたい。
アレクシア
「…………ううん、いい」 小さく首を振って。
アレクシア
「冷たくても、……それが肌じゃなくても、……手を握っててくれるなら、いいの」
シャルル
「…………そっか。」
シャルル
すぐ隣に。
シャルル
アレクシアの背中側から、肩を寄せて。
シャルル
「…………。」
シャルル
「…………あの、さ。」
アレクシア
「ん」
シャルル
「俺、考えたんだけど……最後まで、一緒にいるって。誰かに、邪魔とか……されてさ。」
シャルル
「手が、離れちゃっても。」
シャルル
「…………全部、わからなくなっても。」
シャルル
「…………傍に、いるから。心は、ずっと。」
アレクシア
「…………、」
アレクシア
「わたしも」
アレクシア
「ずっと」
アレクシア
「…………かならず、そうするから」
シャルル
「…………うん。」
シャルル
「うん。」
シャルル
「今は、こうしててもいいだろ?」
シャルル
後ろから首のあたりに寄りかかるように頭を寄せて。
アレクシア
寄せられた頭に、頬で触れる。
シャルル
「…………。」
シャルル
「…………明日さ。」
シャルル
「裁判の前に、手足、変えようと思ってる。」
アレクシア
「……どうして?」
シャルル
「あっちの……最初につけてたのと同じ型の方が、丈夫そうだし。何か、あった時に……」
シャルル
「…………少しでも、強くなれるかなって、思ったんだけど。」
シャルル
視線だけ金の手首に向ける。
シャルル
「…………脚だけにしようかな。」
シャルル
「…………。」
シャルル
何度もアレクシアに触れたこの手は、代えるには惜しくて。
シャルル
けれど……。
アレクシア
「…………」 かすか、微笑む。
シャルル
「脚なら、自分でできるしな。」
アレクシア
「どっちでも、いいよ。替えるなら、手伝うし」
アレクシア
「守ってって、……わたし、言わない」
アレクシア
「そう言ってくれるの、すごく、……すごく嬉しいけど」
アレクシア
「シャルルのことも、大事にしてほしいし、……わたしも、……」
アレクシア
「わたしは、……守るなんて、そんな大層なこと、言えるわけじゃないけど」
アレクシア
「できるなら」
アレクシア
「シャルルのために、できる限り、したい」
シャルル
「アレクシア…………。」
シャルル
手足を代えるのは、凄く痛い。
痛かった記憶、それはでも、アレクシアも同じ。
俺が、傷つけたから。
シャルル
腰のあたりに自分の背中側から手をまわして。
シャルル
「……守られてる。」
シャルル
「……わかってる。」
シャルル
「アレクシアを、独りにするようなことは、しないように。」
シャルル
「……がんばるよ。」
アレクシア
「……わたしも」
アレクシア
「がんばる」
シャルル
「うん。」
シャルル
目を閉じる。
シャルル
こうして、静かに過ごせるのもあとわずか。
シャルル
試合が始まれば。
観客の歓声と、救世主たちの戦いが空間を満たすだろう。
シャルル
「…………。」
シャルル
今は、ただ。
シャルル
束の間のしあわせに、満たされていた。
アレクシア
もう、わずかしかない時間の中で。
アレクシア
触れた肌のあたたかさと、紅茶の香り。
それだけがここに満ちている。
アレクシア
「…………」
アレクシア
今は、ただ。
アレクシア
確かに愛を、感じていた。