幕間 Room No.5-決戦当日朝
シャルル
何を気にかけずとも、普段通りに目が覚めて
シャルル
暫くその顔を眺め、鼓動が少し速くなるのを感じながら。
アレクシア
少しだけ、寒いような気がした。けれど、湯の沸く音にそちらを向く。
アレクシア
「…………」 いた。それだけのことに、わずかに安堵して。
シャルル
沸かせたお湯の少し落ち着くのを待って、カップに紅茶をいれて。
シャルル
隣に戻ると、しかし、すこし気恥ずかしくて。
シャルル
「紅茶、飲める?なんだか……少し冷えるみたいだから。」
アレクシア
「…………ん」 ゆっくりと、ベッドに手をつく。ずいぶんとゆっくりと。
アレクシア
起き上がるだけの動作が鈍くて、アレクシア自身、少し笑ってしまう。
アレクシア
「あ、ううん、大丈夫。……だいじょうぶ」
シャルル
昨日までとそうかわらないやり取りでも。
昨日までより、特別に思えた。
アレクシア
きっと。明日には終わりになるひととき。
アレクシア
「……ありがと」 言いながら、シャツを着る。
シャルル
カップはサイドテーブルへ。
衣服の袖は手首まで下ろしている。
シャルル
今朝からどうも、自分に触れてみた手が、いつもより冷たいように感じるのだ。
シャルル
「…………ああ。どっちが勝っても、何があっても。」
シャルル
「少なくとも、ここで、こうして……お茶できるのは最後だ。」
アレクシア
外のことは何も知らない。何もわからない。
シャルル
「はい、お茶。……ちょっと今日、寒くないか?手袋……どっかにあった気がするな……しとくか。」
アレクシア
「…………ううん、いい」 小さく首を振って。
アレクシア
「冷たくても、……それが肌じゃなくても、……手を握っててくれるなら、いいの」
シャルル
「俺、考えたんだけど……最後まで、一緒にいるって。誰かに、邪魔とか……されてさ。」
シャルル
「…………傍に、いるから。心は、ずっと。」
シャルル
後ろから首のあたりに寄りかかるように頭を寄せて。
シャルル
「裁判の前に、手足、変えようと思ってる。」
シャルル
「あっちの……最初につけてたのと同じ型の方が、丈夫そうだし。何か、あった時に……」
シャルル
「…………少しでも、強くなれるかなって、思ったんだけど。」
シャルル
何度もアレクシアに触れたこの手は、代えるには惜しくて。
アレクシア
「どっちでも、いいよ。替えるなら、手伝うし」
アレクシア
「そう言ってくれるの、すごく、……すごく嬉しいけど」
アレクシア
「シャルルのことも、大事にしてほしいし、……わたしも、……」
アレクシア
「わたしは、……守るなんて、そんな大層なこと、言えるわけじゃないけど」
アレクシア
「シャルルのために、できる限り、したい」
シャルル
手足を代えるのは、凄く痛い。
痛かった記憶、それはでも、アレクシアも同じ。
俺が、傷つけたから。
シャルル
腰のあたりに自分の背中側から手をまわして。
シャルル
「アレクシアを、独りにするようなことは、しないように。」
シャルル
こうして、静かに過ごせるのもあとわずか。
シャルル
試合が始まれば。
観客の歓声と、救世主たちの戦いが空間を満たすだろう。
アレクシア
触れた肌のあたたかさと、紅茶の香り。
それだけがここに満ちている。