Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 Room No.8


1号室の二人の顛末を見届けて、

枚数を増やしたコインを持って8号室へと戻る。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「…………」
マキナ
浮かない表情で、ぽす、とベッドに腰を下ろす。
小鴨 チカ
なんて……なんて言えばいいのかわからない。
マキナ
何事か言おうとしては、口を閉じる。
マキナ
沈黙ばかりが続く。
小鴨 チカ
一回戦以上に、勝った実感が湧かない。
小鴨 チカ
勝ち……というか、起こった出来事が……
小鴨 チカ
どこか別の世界の話みたい。
小鴨 チカ
現実じゃないみたいだ。
マキナ
「…………勝った」
マキナ
「よね」
マキナ
確かめるように、そう口にする。
小鴨 チカ
「……うん」
小鴨 チカ
「勝ったよ」
マキナ
「……そうだよね」
マキナ
靴を脱いで、ベッドの縁に足を上げて膝を抱える。
小鴨 チカ
「……あっちの棄権で、裁判を待たずに不戦勝」
小鴨 チカ
「ぼくたちは2回戦が終わって、決勝に進む」
マキナ
「うん……」
小鴨 チカ
「……ギャラリーは、納得しないだろうなあ」
マキナ
「……ふふ、そうだね」
マキナ
「向こうに賭けてた人たちはまた大損ですね~」
小鴨 チカ
「うちが決勝に進むなんて、誰が予想しただろうなあ」
小鴨 チカ
「はー、疲れた」
小鴨 チカ
ぼくもベッドに腰を下ろす。マキナさんからは少しだけ離れて。
マキナ
「ダークホースですねぇ、マキナたち」
マキナ
ちら、と隣に座ったチカを窺う。
マキナ
「……お疲れ様」
小鴨 チカ
「……マキナさんも」
マキナ
首を振る。
マキナ
「……私は何も」
マキナ
「いや~、何もせずに勝っちゃうなんてことあるんですねぇ」
マキナ
「びっくりです」
小鴨 チカ
「…………正直さ」
小鴨 チカ
「ぼくたちも、ここまで来られるとは……思ってなかったよね」
マキナ
「…………」
マキナ
こくり、小さくうなずく。
小鴨 チカ
「…………生きられるのかな」
マキナ
「……あと、一回」
マキナ
「一回、勝てば…………」
マキナ
膝を抱く手に力が入る。
小鴨 チカ
「………………でも」
小鴨 チカ
「勝たなきゃ、今まで勝ってきた意味も……ないんだよね」
小鴨 チカ
「期待して……いいのかな……」
小鴨 チカ
「ぼくたちに、未来……あるのかな」
マキナ
「……ある、よ」
マキナ
「きっと、ある……」
マキナ
「勝って、こんなクソみたいな国出ていって……」
マキナ
視線が落ちる。
小鴨 チカ
「……出ていって?」
マキナ
「……それで、幸せに」
マキナ
「なるん、だもん……」
マキナ
消え入るような声で小さく呟く。
小鴨 チカ
「なれるかな」
マキナ
「…………」
マキナ
「……な、りますよ」
マキナ
「きっと……」
小鴨 チカ
「心の疵を、抱えて……」
小鴨 チカ
「人間やめて、殺しを知って……」
小鴨 チカ
「……元の世界で、一人で生きられるかな」
マキナ
「…………」
マキナ
「……でも」
マキナ
「じゃあ」
マキナ
「どうしろっていうの……」
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
「……ごめん」
マキナ
顔を伏せる。
マキナ
心の疵だけじゃない。
マキナ
身体の疵痕だって、未だに治らない。
マキナ
きっとコインが何枚に増えても、
マキナ
マキナの心にあの時の恐怖が残っている限り、消えはしないのだろう。
マキナ
「生きて、帰ったら、幸せになれるって……」
マキナ
「思ってないと……」
小鴨 チカ
「ぼくはね、マキナさん」
小鴨 チカ
「一人じゃ、たぶん無理」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「孤独が怖い」
小鴨 チカ
「この経験を共有する人に……一緒にいて欲しい」
マキナ
「…………」
マキナ
「……マキナ、と?」
小鴨 チカ
「他に……誰が居るのさ」
マキナ
顔を上げる。
マキナ
ためらいがちにチカを見る。
マキナ
見つめた視線が、結局逸らされて。
マキナ
でも、とか、だって、とか曖昧に口ごもる。
小鴨 チカ
「…………………………」
小鴨 チカ
「……ぼくは……」
小鴨 チカ
「ぼくはマキナさんと一緒に居たいけど」
小鴨 チカ
「けど、けどね……」
小鴨 チカ
「本当に辛かったら」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「幸せになりたかったら」
小鴨 チカ
「……奇跡の力で、全部忘れちゃっても……いいと思う」
マキナ
「…………!」
マキナ
「……わす、れる……」
マキナ
「ぜんぶ……」
小鴨 チカ
「たぶん、ぼくの知らないところでも」
小鴨 チカ
「ひどい経験、いっぱいしてきたでしょ?」
マキナ
「……」
マキナ
「そんなでもない……」
マキナ
「ですけど……」
マキナ
「……」
マキナ
「……私が忘れたら」
マキナ
「チカくんも忘れる……?」
小鴨 チカ
「……なんでそんなこと気にするの」
マキナ
「気に、するでしょ……」
マキナ
「ペアなんだから……」
小鴨 チカ
「帰って忘れたら、もうペアじゃないじゃん」
マキナ
「……そう、ですけど」
小鴨 チカ
「今だけ、必要だから組んでる」
小鴨 チカ
「そういう関係なんじゃなかったの?」
マキナ
「……そ、う」
マキナ
「そう、だね……」
小鴨 チカ
「臨時パーティー」
小鴨 チカ
「数日前まで見ず知らずの他人」
マキナ
「勝ち上がって、生き残れたらそれで終わり」
小鴨 チカ
「そういう相手に……」
小鴨 チカ
「情が移るようなキャラだったっけ?」
マキナ
「……ちがう」
小鴨 チカ
「…………そうだよね」
マキナ
「うん……」
マキナ
「帰れたら、もう関係ない……」
小鴨 チカ
「…………………………」
マキナ
また、顔を伏せる。
マキナ
「……忘れる、か」
マキナ
「それも、いいかもね……」
小鴨 チカ
「…………」

*かけひきを開始します。脅威度は3。

*行動順を決めます。1d6+才覚を振ってください。
小鴨 チカ
1d+3
DiceBot : (1D6+3) > 5[5]+3 > 8
マキナ
1d6
DiceBot : (1D6) > 4

*行動順はチカ>マキナ

*手札を補充してください。
小鴨 チカ
*c7 s9 sK
マキナ
*d5 d9 dJ

*1ラウンド目 チカから
小鴨 チカ
ぼくは……
小鴨 チカ
何を言ってるんだろう。
小鴨 チカ
言いたいことは……こうじゃない。
小鴨 チカ
こうじゃないけど、けど、じゃあどうすればいいんだ。
マキナ
マキナは泣くでもなく、ただ顔を伏せている。
小鴨 チカ
だって、この選択が……マキナさんを一番幸せにできる方法じゃないか?
小鴨 チカ
この世界はクソだ。
小鴨 チカ
この儀式だって……忘れたい記憶なはずだ。
小鴨 チカ
だけど……
マキナ
痛かったこと。人を殺したこと。逆に殺されかけたこと。
マキナ
堕落の国で生き延びることは、そういった物事と隣り合わせだった。
マキナ
忘れられるなら忘れてしまいたいような、そんなことばっかりで。
小鴨 チカ
そんなことはわかってる。だけど。
小鴨 チカ
だけど……
小鴨 チカ
『それもいい』って、実際に言われると、こんなに胸が痛い。
小鴨 チカ
「……いい……んだ……」
小鴨 チカ
「だよね……」
マキナ
「……」
マキナ
「チカくんが言ったんじゃん……」
小鴨 チカ
そうだよ。
小鴨 チカ
わかってるよ。ぼく、めちゃくちゃカッコ悪い。
マキナ
「忘れちゃってもいいって……」
マキナ
「チカくんが……」
小鴨 チカ
「……うん」
小鴨 チカ
けど、ここで話が終わったら……
小鴨 チカ
……終わらないでくれ。
小鴨 チカ
*アピール[c7]
マキナ
*誘い受け d9
小鴨 チカ
*誘い受け s9

ダイスをどうぞ
小鴨 チカ
2d+3=>7
DiceBot : (2D6+3>=7) > 10[5,5]+3 > 13 > 成功
小鴨 チカ
*成功 目標値は13

ハプニングですね。1d6を振ってください。
小鴨 チカ
*あっ。
小鴨 チカ
1d
DiceBot : (1D6) > 4
小鴨 チカ
4 何気ない所作にドキッ!ランダムな対象1人の情緒+1。

choiceをお願いします!
小鴨 チカ
Choice[チカ,マキナ]
DiceBot : (CHOICE[チカ,マキナ]) > チカ
小鴨 チカ
*ぎゃーっ

ワハハ
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 0 → 1
マキナ
2d6+3=>13 高すぎる……
DiceBot : (2D6+3>=13) > 5[2,3]+3 > 8 > 失敗
[ マキナ ] 情緒 : 0 → 1
小鴨 チカ
2d+3=>7 アピール
DiceBot : (2D6+3>=7) > 8[3,5]+3 > 11 > 成功
[ マキナ ] 情緒 : 1 → 2

*成功です!
マキナ
「……チカくんも忘れちゃえば」
マキナ
「全部夢だったことにして」
マキナ
「それで……」
マキナ
「そしたら、元の世界で幸せになれるでしょ」
小鴨 チカ
「…………そしたら、ぼくたちは赤の他人だね」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「二度と会うこともない」
マキナ
「……そう、だね」
マキナ
「偶然出会っても、分からない……」
マキナ
「全然知らない人、同士で……」
小鴨 チカ
「……マキナさんのことを好きだったのも」
小鴨 チカ
「なかった事に」
マキナ
「…………」
マキナ
「……それは、でも」
マキナ
言いかけて、口ごもる。
小鴨 チカ
「なに?」
マキナ
「…………」
マキナ
「なんでもない…………」
小鴨 チカ
「なにさ」
マキナ
「……」
マキナ
「だって…………」
マキナ
「……」
マキナ
「……こんな、とこで、会って」
マキナ
「頼れる相手がお互いしかなくて」
マキナ
「だから……」
マキナ
「それで、私のこと、好きだって思ってるだけで……」
小鴨 チカ
「勘違いだって?」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「させとけばいいじゃん、勘違い」
小鴨 チカ
「なんで自分で言うんだよ」
マキナ
「だって…………」
マキナ
「…………」
マキナ
「……怖い」
小鴨 チカ
「なにが」
マキナ
「やだ……」
マキナ
「……あとから」
マキナ
「やっぱり、勘違いだったって」
マキナ
「言われるのが……」
マキナ
*アピールd5
小鴨 チカ
*誘い受け[sK]

どうぞ
小鴨 チカ
2d+3=>7
DiceBot : (2D6+3>=7) > 10[6,4]+3 > 13 > 成功
小鴨 チカ
*13!!!!

ふざけんな!!!
マキナ
2d6+3=>13
DiceBot : (2D6+3>=13) > 4[2,2]+3 > 7 > 失敗
小鴨 チカ
*ハプニングだ!

*ハプニングで~~す
マキナ
1d6
DiceBot : (1D6) > 4
小鴨 チカ
*またかよ
マキナ
Choice[チカ,マキナ]
DiceBot : (CHOICE[チカ,マキナ]) > チカ
小鴨 チカ
*そんでもってこっちかよ
[ マキナ ] 情緒 : 2 → 3
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 1 → 2
マキナ
いい勝負ですね

*手札の廃棄はありますか?
小鴨 チカ
*sKを捨て
マキナ
*廃棄なし
小鴨 チカ
*ドロー c3 s2 s6
マキナ
*s3 h10(dJ)

では先程の誘い受け成功とアピール失敗から続けていきましょう……
小鴨 チカ
「何ビビってんだよ」
小鴨 チカ
「会ったばっかの童貞一人にさ」
小鴨 チカ
「そういうのを利用して生きてきたんじゃねーのかよ」
マキナ
「……そうだよ」
マキナ
だから怖いのは、
マキナ
本当に怖いのは、
マキナ
自分が勘違いしてしまうこと。
小鴨 チカ
「……忘れるんだったらなおさら」
小鴨 チカ
「怖がる理由なんてないじゃん」
マキナ
愛されてるかもなんて、自分も人を好きになれるかもなんて
マキナ
勘違いして、その先に
マキナ
それが壊れてしまうことが怖い。
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「縁が切れたら、あとから勘違いだなんて言われる心配すらない」
小鴨 チカ
「ぼくがマキナさんのことを覚えてようが忘れてようが、どう思ってようが、忘れたマキナさんには関係ないじゃん」
マキナ
「関係ないけど……」
マキナ
「ない、けど……」
小鴨 チカ
「けど、なんだよ!」
マキナ
「……別に」
マキナ
「…………」
マキナ
「チカくん、は」
マキナ
「私が忘れちゃってもいいの…………」
小鴨 チカ
「…………答えたく……ない」
マキナ
「は……」
マキナ
「ずるい…………」
マキナ
「マキナに色々聞いてきたくせに……」
小鴨 チカ
「……うるせーよ」
小鴨 チカ
「ぼくがどう答えるか、わかってるくせに」
小鴨 チカ
「……答え聞いちゃったら、自分から逃げ道塞ぐようなもんじゃん」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「そんなん……バカじゃん」
小鴨 チカ
*距離を測る[s2] アピール[s6]
マキナ
*誘い受け s3
小鴨 チカ
*かかってこいや!
マキナ
2d6+3=>7
DiceBot : (2D6+3>=7) > 12[6,6]+3 > 15 > 成功
マキナ
ギャーハハハ
マキナ
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
マキナ
1 情緒が入り乱れる!自身と自身以外のランダムな対象1人の情緒が入れ替わる。
[ マキナ ] 情緒 : 3 → 2
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 2 → 3
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 2 → 3
マキナ
入れ替わりました
小鴨 チカ
2d+1+3=>15
DiceBot : (2D6+1+3>=15) > 2[1,1]+1+3 > 6 > 失敗
マキナ
こんなことある?
小鴨 チカ
1d
DiceBot : (1D6) > 2
小鴨 チカ
2 もはやみんなまともじゃない。全員の情緒+1。
小鴨 チカ
*あっ爆発
[ マキナ ] 情緒 : 2 → 3
マキナ
ワハハ
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 3 → 5
マキナ
「……うるさい」
マキナ
「ばかじゃないし…………」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「ばかだよ」
小鴨 チカ
「ばかだ」
マキナ
「ばかじゃない」
小鴨 チカ
「ぼくは、マキナさんのことを忘れないよ」
小鴨 チカ
「マキナさんに忘れてほしくないよ」
小鴨 チカ
「……そう答えるって、分かってたじゃん」
マキナ
「……じゃあ、なんで」
マキナ
「忘れちゃっていいとか言うの……」
小鴨 チカ
「……だって」
小鴨 チカ
「ヤな記憶だ」
小鴨 チカ
「元の世界に持ってくと、辛い記憶だ」
マキナ
「……」
マキナ
「うん……」
小鴨 チカ
「…………忘れちゃったほうが、マキナさんには良いんじゃないかって」
マキナ
「……忘れたいよ」
マキナ
「痛かったことも」
マキナ
「怖かったことも」
マキナ
「ひどいことしたのも」
マキナ
「されたのも」
マキナ
「……忘れられるなら、全部忘れたい」
小鴨 チカ
「本当に、忘れるつもりなら」
小鴨 チカ
「ぼくの意見なんて、聞かなきゃよかった」
マキナ
「……」
マキナ
「そうだね……」
マキナ
「なんで聞いちゃったかなぁ……」
小鴨 チカ
「……気になった?」
マキナ
「……まぁ」
マキナ
「気にくらい、するでしょ……」
小鴨 チカ
「……マキナさんは、どうしたい?」
マキナ
「…………」
マキナ
「マキナ、は……」
マキナ
「……分かんない」
マキナ
もはや答えを言ってしまっているようなものだな、と
マキナ
言ってから、気づく。
マキナ
ますます膝を抱え込む。
小鴨 チカ
「……元の世界に戻れても……」
小鴨 チカ
「抱えて生きるのは、辛いよ」
マキナ
忘れたい、と即答できないのは
マキナ
忘れたくないものが、理由があると言っているも同然で。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「そういう辛いの苦しいの、避けたいくせに」
マキナ
「……そうだよ」
マキナ
「楽して生きたいよ」
マキナ
「辛いのも苦しいのもがんばるのも嫌で……」
マキナ
「…………」
マキナ
「……忘れたら、」
マキナ
「傷、も」
マキナ
「……治る、かな」
小鴨 チカ
「……治るんなら、忘れる?」
マキナ
「……治したいよ」
小鴨 チカ
「………………そうだよね」
マキナ
「……治したい」
マキナ
「こんな、傷」
マキナ
「されたことごと忘れたい……」
小鴨 チカ
「…………うん」
マキナ
「……チカくん」
小鴨 チカ
「……なに?」
マキナ
「チカくんは、マキナに」
マキナ
「忘れたくないって、言わせようとしてる……」
小鴨 チカ
「…………………………ばれてら」
マキナ
「バレるよ……」
小鴨 チカ
「そうだよ」
小鴨 チカ
「忘れたくないって言ってほしい」
マキナ
「言わせたいのに」
マキナ
「忘れたら、とか言うなんて……」
マキナ
「ひどい……」
小鴨 チカ
「……一回戦目のご褒美とは違う」
小鴨 チカ
「マキナさんが、自分で選ばなきゃダメなやつだもん……」
マキナ
「自分で…………」
小鴨 チカ
「ぼくは……忘れたくないって言ってほしい」
小鴨 チカ
「ぼくのことを忘れたくないって言ってほしい」
小鴨 チカ
「一緒に居たいって言ってほしい、けど」
マキナ
「……でも」
マキナ
「だって」
マキナ
「怖い、よ」
小鴨 チカ
「うん……」
小鴨 チカ
「……忘れた方が、マキナさんの幸せだってんなら」
小鴨 チカ
「……それでも、いい……」
マキナ
「そういうこという……」
マキナ
「忘れてほしくないって言ったくせに……」
小鴨 チカ
「…………マキナさんさあ」
小鴨 チカ
「ぼくのこと、好きなん?」
マキナ
「……は」
マキナ
「なに……」
マキナ
「……ああ、ご褒美?」
マキナ
「また、好きって言ってほしい?」
小鴨 チカ
「ごまかしてる」
小鴨 チカ
「ビビリだ」
小鴨 チカ
「ぼくは、ちゃんと好きって言ったのに」
マキナ
「……」
マキナ
「……そうだよ」
マキナ
「こわいよ」
マキナ
「怖いって、言ったじゃん」
小鴨 チカ
「本当の自分は、愛されないと思ってる」
マキナ
「…………っ」
小鴨 チカ
「自分に自信がない」
マキナ
「う」
小鴨 チカ
「演技ばっかして、本心隠して」
小鴨 チカ
「自分からは踏み込めない」
マキナ
「うぅ……」
マキナ
「だって、」
マキナ
「それしか」
マキナ
「そういう生き方しか、してこなかった……」
マキナ
「わかんないよ……」
マキナ
「こわい……」
小鴨 チカ
「ずっと誰かに媚びて擦り寄って生きてきたの?」
マキナ
「……もー、なんなの!」
マキナ
顔を上げる。
マキナ
「そうだよ、そうですぅ!」
マキナ
「なんか悪いですかぁ?」
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
「はー………………」
マキナ
「だってそうするのが楽だったんだもん!」
小鴨 チカ
「じゃ、いつも仮面被ってたんだ」
小鴨 チカ
「こんなに素顔晒したのは初めて?」
マキナ
「……」
マキナ
「……そうだよ」
小鴨 チカ
「……ぼくは、そのマキナさんしか知らないよ」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「目の前の女がクソだってことは知ってるよ」
小鴨 チカ
「そのクソ女のことを好きだって言ってんじゃん」
マキナ
「……さっきからひどい」
マキナ
「……だから、それは、」
マキナ
「勘違い、でしょ……」
マキナ
「元の世界に戻ったら、クソじゃない女の子がいっぱいいる……」
小鴨 チカ
「何?」
マキナ
「そしたらもう、私じゃなくていいじゃん……」
小鴨 チカ
「マキナさん、ここで勘違いですって言って終わりてえの?」
マキナ
「……言われたら」
マキナ
「忘れ、られる」
小鴨 チカ
「ふーん」
小鴨 チカ
「ぼくは忘れないけどね」
マキナ
「私が忘れたら一人なのに……」
小鴨 チカ
「うん」
小鴨 チカ
「超つらい」
マキナ
「ばかじゃん……」
小鴨 チカ
「そうだね」
マキナ
「忘れちゃえば、いいのに……」
小鴨 チカ
「ほんとにそう思ってる?」
マキナ
「思ってるよ……」
マキナ
「思ってる」
マキナ
「チカくんはこんな所にいるのが間違いで」
マキナ
「間違いだったんだから、なかったことにしちゃえばいいんだよ」
マキナ
「悪い夢」
マキナ
「起きたら忘れちゃう夢」
マキナ
「……それでいいじゃん」
小鴨 チカ
「忘れないよ」
小鴨 チカ
「忘れない」
マキナ
「……忘れなよ」
小鴨 チカ
「うるせー!!」
小鴨 チカ
「無限ループじゃん!」
小鴨 チカ
「忘れたくないくせに!」
小鴨 チカ
「ぼくのこと好きなくせに!」
マキナ
「好き、じゃ」
マキナ
「好き、とか、そういうの」
マキナ
「私は……」
マキナ
「だって……」
小鴨 チカ
「なに!!!!!!!!」
マキナ
「やだ……」
マキナ
「やだよ……」
マキナ
「好き、とか、そんなこと言って」
マキナ
「そしたら裏切るのも、裏切られるのも」
マキナ
「こわくなる……」
マキナ
「ねぇ、勘違いなんだよ」
マキナ
「勘違いだから、この国にいる間だけで」
マキナ
「それで、もう終わりにしよう」
小鴨 チカ
「勝手に!!!」
小鴨 チカ
「人の!心の中を!決めるな!!!」
マキナ
「……っ、」
マキナ
びく、と身体がすくむ。
マキナ
「だって……」
マキナ
「信じられない……」
マキナ
「誰かを信じるとか、」
マキナ
「そんなの、したことない……」
小鴨 チカ
「……じゃあアレか」
小鴨 チカ
「マキナさんは一生誰も信じずに生きるのか」
マキナ
「……今まで、そうだったから」
マキナ
「多分……そうなるよ……」
小鴨 チカ
「だったら、忘れりゃ幸せになれるじゃん」
小鴨 チカ
「ぼくなんてほっとけばいい」
小鴨 チカ
「なのに一緒に忘れようとか言う」
マキナ
「……ひとりだとかわいそう、じゃん」
マキナ
「それくらいは思うし……」
小鴨 チカ
「……」
小鴨 チカ
「勝ったら、ご褒美くれるんでしょ?」
マキナ
「……?」
マキナ
「うん……」
小鴨 チカ
「じゃあ、優勝したら、ぼくと一緒に帰ってよ」
小鴨 チカ
「記憶も疵も傷も、全部抱えて」
小鴨 チカ
「今のまんまのマキナさんで」
マキナ
「ぜ、んぶ……」
マキナ
「そん、なこと言って」
マキナ
「責任、取れるの」
マキナ
「チカくん」
小鴨 チカ
「だから、爪痕を全部そのまま残すんだよ」
小鴨 チカ
「ぼくの理解者はマキナさんだけ」
小鴨 チカ
「今のぼくを知ってるのも、この時のトラウマを知ってるのも、マキナさんだけ」
小鴨 チカ
「ぼくは弱いから、きっとマキナさんに依存する」
マキナ
「……私にも、依存させようとしてる」
小鴨 チカ
「健全な付き合い方ができないマキナさんが悪い」
マキナ
「うるさい」
マキナ
「ねぇ、そしたら私」
マキナ
「裏切られたって思ったら、チカくんのこと殺しちゃうよ」
小鴨 チカ
「…………もしかして、マキナさん」
小鴨 チカ
「ぼくのこと、めちゃくちゃ大好きか?」
マキナ
「…………そういうんじゃない」
マキナ
「私はねぇ、誰も信じたことないから裏切られたとかもないの」
マキナ
「捨てられるのは、それが当たり前だったの」
マキナ
「だって、私もそうするつもりで誰かといたんだから」
マキナ
「そういう私を依存させようとするのが」
マキナ
「どういうことか分かってる?って聞いてるの」
小鴨 チカ
「分かってるよ」
小鴨 チカ
「さっき見た。1号室の二人と同じだろ」
小鴨 チカ
「お互いの異常性に折り合いをつけるために、自分たちなりの方法で、一緒に居ることを選んだ」
小鴨 チカ
「そしたらまあ……裏切ったら殺されたりもするんじゃねーの?」
マキナ
「……じゃねーのって、そんなあっさり……」
小鴨 チカ
「こっちはもともと、フられたら一人っきりの人生だもん」
小鴨 チカ
「すでに一生懸けて挑んでんだよ」
マキナ
「たまたま巻き込まれたことで」
マキナ
「会ってちょっとしか経ってないのに……」
マキナ
「普通に戻れるのに……」
マキナ
「……」
マキナ
「……信じて、」
マキナ
「私を、信じさせて」
マキナ
「ほんとに、いいの……?」
小鴨 チカ
「うん」
マキナ
「本当に?」
マキナ
「ほんと、に……?」
小鴨 チカ
「ずっと好きだって言ってる」
マキナ
「裏切ったら、絶対絶対許さない」
マキナ
「楽に死なせたりしない」
マキナ
「後から勘違いとか言わせない」
小鴨 チカ
「マキナさんもだよ」
マキナ
「他の女の子にふらふらするのだってダメだし……」
小鴨 チカ
「マ……マキナさんもだよ!」
マキナ
「今ちょっと溜めがあった!」
マキナ
「ねぇ!」
小鴨 チカ
「はっはい!」
マキナ
「ほんとに分かってるんだよね!?」
小鴨 チカ
「…………わ、わかってます!」
マキナ
「チカくんを殺した後傷だらけで一人になる私のことちゃんと考えてる!?」
マキナ
「私を依存させるってこういうことなんだよ!」
小鴨 チカ
「はい!!!」
マキナ
「私のことだけ」
マキナ
「マキナのことだけ、ずっと考えて」
マキナ
「大事にして」
マキナ
「……うぅ」
マキナ
「だからやだって言ったのに……」
小鴨 チカ
「……マキナさんって」
小鴨 チカ
「本気になるとクソ重いね」
マキナ
「やだって言った~~」
マキナ
「言ってた~……」
小鴨 チカ
「でも……なんか」
小鴨 チカ
「ようやく天秤が釣り合った感じがする」
小鴨 チカ
「ぼくもクソ重いこと言ったからなあ……」
マキナ
「わ、たし」
マキナ
「確認したから」
マキナ
「いっぱい確認したからね?」
マキナ
「チカくんが信じていいって言ったんだからね?」
マキナ
「ねぇ」
小鴨 チカ
「言ったよ」
マキナ
「…………信じるよ」
小鴨 チカ
「ぼくも、信じていい?」
マキナ
「…………」
マキナ
「……いいよ」
小鴨 チカ
「儀式のこと、忘れたりしない?」
小鴨 チカ
「今日言ったこと、投げ出したりしない?」
小鴨 チカ
「ぼくが頑張ってる間は、ぼくのこと信じ続けられる?」
マキナ
「……うん」
マキナ
「やくそく、するよ」
小鴨 チカ
「……ぼく、頭ん中、9割エロだぞ」
小鴨 チカ
「裏垢とか実写系のAVとか消して……漫画もゲームも?」
小鴨 チカ
「そのへん、責任とれる……?大丈夫?」
マキナ
「9割は引く……」
小鴨 チカ
「うるせえ!」
マキナ
「……大丈夫?はチカくんこそ、でしょ」
マキナ
「私さぁ……」
マキナ
「……」
マキナ
「セックスなんかできるか、わかんないよ」
小鴨 チカ
「……だろうね」
マキナ
「そしたらチカくんは一生童貞?」
マキナ
「あ~あ……」
マキナ
「かわいそ」
小鴨 チカ
「つらいのは、マキナさんの方だろ」
マキナ
「……チカくんが責任取ってくれるんでしょ」
マキナ
「この傷ごと帰ろうって、チカくんが言ったんだから」
マキナ
「それを忘れないなら、いいよ」
小鴨 チカ
「……マキナさんは」
小鴨 チカ
「そういうの、まだ怖いんじゃないかなとか」
小鴨 チカ
「もう……そういう事に関わりたくないのかなとか」
小鴨 チカ
「……そのへん、どうなの」
マキナ
「……これからのことは分かんないけど」
マキナ
「今は……やっぱり怖い、かな」
マキナ
「身体見せるのも、やだし……」
小鴨 チカ
「……ん……」
マキナ
「……だから、責任とれるかって言われると」
マキナ
「私は責任とれません」
小鴨 チカ
「そういう意味じゃないよ」
小鴨 チカ
「手伝えとは言わない。ぼくからは絶対」
小鴨 チカ
「マキナさんが無理して持ち掛けてきても……たぶん、断れる」
マキナ
「エロが9割なのに?」
小鴨 チカ
「かわいそうなのは……抜けるけど……あとで辛すぎるので……」
マキナ
「……ふふ」
マキナ
「でも、もう信じるって言っちゃったからなあ」
マキナ
「信じるよ」
小鴨 チカ
「でも9割なので、好きなので……」
小鴨 チカ
「そういう目で……マキナさんを見てしまうことが……避けるのが難しく……」
マキナ
「……それくらいは、別に」
マキナ
「大丈夫だよ」
小鴨 チカ
「あと、見れないのならせめて」
小鴨 チカ
「なるべく多く、触れ合いたいなって……」
マキナ
「……それ、も」
マキナ
「多分、だいじょうぶ……」
マキナ
「……してみないと、わかんない、けど」
小鴨 チカ
「……一回戦目の終わりと同じ」
小鴨 チカ
「最初は寂しい時、怖い時に手を繋ぐくらいでいい」
マキナ
「……ん」
小鴨 チカ
「怖かったら、一生……そこから先に発展しなくてもいい」
マキナ
「うん……」
小鴨 チカ
「コインを手放せば、ぼくは本当にザコだよ」
小鴨 チカ
「腕力勝負でも、マキナさんに勝てないかも」
マキナ
マキナ
「あはは……そうかもね」
小鴨 チカ
「怖くないよ」
マキナ
「うん……」
マキナ
「うん」
マキナ
「チカくんは、怖くない……」
小鴨 チカ
「お互いチキンのザコ同士、トラウマ抱えて震え合って生きようぜ」
マキナ
「生きるの下手くそだ~……」
マキナ
「……」
マキナ
「……ありがとう、チカくん」
マキナ
「好きだよ」
マキナ
「私、チカくんが好き」
小鴨 チカ
「!……」
小鴨 チカ
「……マキナさんから……好きって言ってくれた」
小鴨 チカ
「……マジのやつ……だよね……?」
マキナ
「うん」
マキナ
「ほんとのやつ」
マキナ
「チカくんのことが好き」
小鴨 チカ
「……う~~~」
小鴨 チカ
「あ~~~~~~~!!!」
小鴨 チカ
「ううう~~~~!!!!」
小鴨 チカ
「泣くぞ!!!!!!!」
マキナ
「もう泣いてるじゃん……」
小鴨 チカ
「う゛る゛せ゛~~!!!!!!!」
マキナ
「泣いてる~」
小鴨 チカ
「もともと泣き虫なんだから~~~!!!」
マキナ
「あはは……」
小鴨 チカ
「うっ、ぐすっ」
小鴨 チカ
「っ…………絶対、勝つ」
マキナ
「……うん」
マキナ
「勝って、帰ろう」
小鴨 チカ
「あと一回……」
小鴨 チカ
「あと一回、狂うだけでいい」
マキナ
「うん」
マキナ
「それで最後」
マキナ
「私ね、ここまで」
マキナ
「勝つぞって当然思ってはいたけど」
マキナ
「でも勝てるって信じてなかったの」
マキナ
「……今度は」
マキナ
「信じる、から」
小鴨 チカ
「……うん」
マキナ
「裏切っちゃだめだよ」
小鴨 チカ
「この世界に馴染んだクズ同士」
小鴨 チカ
「後悔も苦痛も全部、マキナさんと一緒に地獄まで持っていく」
小鴨 チカ
「何でもする。全部やりきる……」
小鴨 チカ
「絶対、勝つから」
マキナ
「うん」
マキナ
「一緒に勝とうね」
小鴨 チカ
16人の救世主がいた。
小鴨 チカ
皆、それぞれの願いを叶えるために館の門を叩き、命を懸けて死力を尽くした。
小鴨 チカ
ぼくたちは、その中に紛れ込んだ異物だ。
小鴨 チカ
高尚な願いも持たず、自分たちの勝ちすら信じられず、ただ巻き込まれたことを嘆き続けた。
小鴨 チカ
それが何の因果か、うっかりと勝ち進み続けて、まだ生きて立っている。
小鴨 チカ
……勝者がいれば、敗者がいる。
小鴨 チカ
ぼくたちは、わが身可愛さに、14人の救世主の願いを断とうとしている。
小鴨 チカ
………………。
小鴨 チカ
知るかバーーーーーーーカ!!!!!!!
マキナ
自分達が生き残れれば、それでいい。
小鴨 チカ
幸せに生きる。それの何が悪い。
マキナ
私達は美しくない。
マキナ
何も救わない。
小鴨 チカ
ぼくたちは救世主じゃない。
小鴨 チカ
また、人間に戻るんだ。
小鴨 チカ
弱く汚く、一人じゃ生きられない生き物に。