Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 Room No.2

メイド2
オールドメイドゲーム2号室対3号室。
メイド2
3号室の勝利にて、その幕は閉じた。
メイド2
それに至る一日前のこと。
メイド2
まだその命運を知らない虚月と夜目菜は、居室にて緩やかな時を過ごしていた。
メイド2
コンコン、とノックする音。
メイド2
「失礼いたします。お茶のご準備ができました」
夜目菜
「はあい」
夜目菜
糸を切る、糸を手繰る、糸を編む、糸を撚る。
メイド2
そう言って現れる客室もまた、その命運を知らぬ1人。
メイド2
「飾り付けの方、だいぶ進んできましたね」
夜目菜
手元には赤い紐。寝台には同じく紐。

お守りであり、装飾であり、かの国での、彼女たちの祈りの形。
夜目菜
「ええ!よめな、いっぱい作ったもの」
夜目菜
寝台に投げ出していた足を揃えてそこから降りる。
虚月
「おや、好い所に。」 

 手元には赤い結び紐。

 神の方は不器用なようで、ほとんどは手遊びのようなものである。
夜目菜
重たい胎を抱えて、よちよちと。
虚月
丸まった糸を横に置いて、手招きをする。
メイド2
その手に招かれる。
メイド2
淹れてきた茶はジャスミンとローズ、緑茶のフレーバード。
夜目菜
「いいかおり!」
虚月
テーブルの上の飾り紐を少し横に避けて促す。

「見事なものですね。これは貴女が?」
夜目菜
甘えるようにメイドに纏わる。
メイド2
「さようでございます」
メイド2
小さく頭を下げて。夜目菜が纏わることを、そのままに受け入れながら手を動かす。
メイド2
「少し熱いので、気をつけてくださいね」
夜目菜
せっせと椅子を引き、神を招く。
メイド2
メイドは夜目菜が虚月の世話をしようとするとき、あえて手出しをしない。
メイド2
大切な人の世話をする喜びを知っているからだ。
虚月
当然であるようにその場所に座して その手さばきを眺める。
虚月
「……おや、カップはふたつで?」
メイド2
「? ええ」
メイド2
ほほ笑みを浮かべたまま、首を傾げる。
夜目菜
うれしそうにその向かいの椅子を引いて、自分も腰を下ろそうとして。
虚月
「……そうですか、それでは。」

 自分の元に置かれたカップをメイドのほうへと。
虚月
「こちらは、貴女に。」
メイド2
「まあ」
メイド2
「それでは虚月様のお茶がなくなってしまいます」
メイド2
「今は飲まれませんか?」
メイド2
そうして尋ねるものの、その腹づもりはメイドもすぐにわかっている。
虚月
「……ふふ、そうではありませんが……これはこちらからの歓迎です。」
メイド2
わかっていても尋ねるのが、会話という愉しみだ。
虚月
神というものは飾られるもの。 そこに居るのがいつものこと。
メイド2
「左様でございますか……では、いただきます」
虚月
「せっかくの茶の席です、人は多いほうがいい。」
夜目菜
「……では、よめなはかみさまのお膝に座りますね!」
夜目菜
御席はどうぞ、と指し示した。
虚月
「ああ、それは良い。」

 手を伸べて、膝に乗せる。
メイド2
服を整えながら席に座る。
夜目菜
人の多い場は得意ではないが、こうして三人で過ごす方法は、知っている。
夜目菜
知っている……んだっけ?
メイド2
小さく頭をさげるだけでも、兎の白い耳は大きく揺れる。
メイド2
お茶を飲む。
夜目菜
「おいしい」
虚月
夜目菜の胎を撫でながら、そうかそうかと。
メイド2
――この堕落の国にて茶は高級品だ。生まれ育った村は貧しく、村一番の金持ちも、一度や二度口にした程度のことらしい。
メイド2
「とても嬉しゅうございます」
虚月
この場所に墜ちてきて、いくつか食べ物を恵まれたこともあった。
虚月
けれど、この館にあるのはそのどれよりも豪勢で、物珍しいものばかり。
メイド2
そんなものを自分が口にしていようとは、不思議なこともあるものだと思う。
虚月
「……おいしいですか。」 それはよかったと。

 口に入れることはないが、そのひとつひとつを、面白がっているよう。
夜目菜
「かみさまもお飲みになりますか?」
夜目菜
両手で包んだティーカップを、掲げて見せる。
虚月
首をゆるりとふって

「それならば、胎の子に分けておやりなさい。」
夜目菜
「…………………はい」
虚月
よいことだと、言うように やわらかに頭を撫でる。
夜目菜
向かいに座るメイドに目を向ける。
メイド2
ほほ笑みで返す。
夜目菜
かの国では、似たような獣の一部を持つものを『狐狸』と呼んだ。
夜目菜
ここでは『末裔』というらしい。自分たちを『救世主』と呼ぶ彼らを、多く、見てきた。
夜目菜
つい先日も。
夜目菜
じっとその白い耳を見つめる……
夜目菜
「めいどさんは」
夜目菜
「お名前は、何というのです?」
夜目菜
初めはてっきりメイド、というのが名前なのかと思ったけれど、
夜目菜
複数人が同じように呼ばれているのを見るに、恐らく使用人というような意味なのだろう。
虚月
「おお、そういえば。

 まだ名を聞いていませんでしたね。」
メイド2
少し困ったような顔を浮かべる。
メイド2
「私は客室2号室のメイド、それ以上でもそれ以下でもございません」
虚月
 神は侍女達の名を気にすることはない。

 こういう事柄はいつも夜目菜が口にする。
虚月
 特にこの贄の娘、夜目菜はよく侍女に懐く性質のものだった。
虚月
故にこそ 「……名は、大切になさい。」
夜目菜
「……」
メイド2
茶を口に含み、カップを受け皿に置く。
メイド2
「いまやもう、ないのです」
メイド2
「ここのメイドに決まったとき、それ以来、名前は覚えておりません」
夜目菜
「……ごめんなさい。」
夜目菜
「困らせてしまいました」
虚月
ふうむ、と首を傾ぐ。

「しきたり……いえ、もっと儀式的なものでしょうか。」
メイド2
夜目菜の方へ向いて、
メイド2
「いいえ、お訊ねいただいたことは、光栄なことです」
メイド2
「どうもありがとうございます」
メイド2
「恐らくは。そうして名を捨てることから、儀式は始まるのです」その言葉は虚月へ。
虚月
堕落の国の中でも……ここは随分と不思議な場所だ。

貧しい景色の中に忽然とある豪華な屋敷、

美しい装飾の数々、そして茶席。それは少しだけ、歪だ。
虚月
「……それは、意地悪な神もいるものですね。」
夜目菜
視線を上げて、”かみさま”の顔を見上げる。
虚月
奇跡を求め、観衆を集め、共に殺しあう。

元より命など軽いものだが、神であった者として……思う所もある。
夜目菜
すべらかな顎から整った鼻、長い睫毛を、下から覗く。
メイド2
「神の御業かはわかりません。が、私は意地悪とは思っておりませんよ」
メイド2
中身の減ったカップに白い砂糖をさらりとひとさじ。
メイド2
「今の私は、死を恐れてはおりません」
メイド2
「名前を手放すことが、その一端にあるのでしょう」
メイド2
「すべてを一度に捨てることは恐ろしいかもしれません。しかし、一つ一つ捨ててきて、その準備をしてまいりました」
メイド2
甘いお茶を飲む。
メイド2
「だから、それでよいのです」
虚月
「……………。」 贄の少女の胎を撫でる。神のもとには香りだけが漂う。
虚月
今や、手元にある命はこれひとつ。

それは ほんとうに正しいことだったのか。
虚月
「……貴女は、今が幸せなのですね。」
メイド2
「幸せです」
メイド2
「この客室2号室に仕えることができて、本当に幸せです」
夜目菜
「では……かみさまと、よめなと、めいどさんは、たいへん佳い糸で結ばれたのですね」
虚月
神は、すこしだけ曖昧に微笑んだ。
夜目菜
「よめなも、しあわせです」
夜目菜
メイドに目を向け、屈託なく笑って見せる。
夜目菜
その頭の上の曖昧な微笑みを知ることはなく。
メイド2
微笑み、頷く。
虚月
「……なれば、大いに 楽しみなさい。」
虚月
「私もできるかぎりの、贅をつくしましょう。」
虚月
「……貴女に祝福を。」 

 ひとつの結び紐を手渡す。
メイド2
「どうもありがとうございます」
メイド2
結び紐を受け取る。
夜目菜
「………………」
夜目菜
お茶を一口。
虚月
「……とはいえ、この館で私が出来ることはこれくらい。」

虚月
「神も随分と落ちたものですね。」
メイド2
無作為に配られたカードのように、その巡り合わせは気まぐれ。
夜目菜
「そのようなことはありません……!」
夜目菜
「よめながいますもの、かみさまには!」
メイド2
同じ数字が二枚揃えば結びつき、それは手を離れる。
虚月
はた、と元気に飛び跳ねるそれに 気付いたように。
虚月
暖かい身体に長い尾を少しだけ寄せて。
虚月
「……ふふ、そうですね。

 貴女には、期待していますよ。」
メイド2
やがて至る宿命に向けて、巡り合わせたのは違いない。
メイド2
あるいはそれを、不吉な出会いと呼ぶ者もいるかもしれない。
メイド2
けれども、そうでなければ出会わなかった。
メイド2
「私はメイドでございますから。身の回りの世話をさせていただけるだけで、それ以上の喜びはございません」
メイド2
「あなた様が神様であっても、あるいはそうでなかったとしても」
メイド2
「私の大切なお客様、救世主様でございます」
メイド2
「それが私には、すべてでございます」
夜目菜
期待されている、望まれている、選ばれている。
夜目菜
それがこの贄の娘の、己の信ずる価値だから。
夜目菜
メイドの語る言葉は少し、むずかしかった。
夜目菜
「めいどさんは、……ええ、しあわせです。かみさまと巡り合えたのだもの」
夜目菜
その手に渡った結び紐を目で追って。
虚月
その言葉を聞いて、なにか強張ったものが溶けていく。

……ほんとうに彼女にとってはそれが全てなのだろう。
メイド2
「ええ、幸せです」
メイド2
繰り返す。
虚月
「巡りに感謝を。」 ひとつ、茶菓子を手にとって。
虚月
口に運ぶ。 ここにきて久しぶりの味は、とても甘い。
夜目菜
「かみさま、おこなが」
夜目菜
見上げるその”神”の口元に、小さな指が触れる。
虚月
「……おや。」 口元を緩めてから、差し出す。
虚月
 ……触れる指先はちいさく頼りない。
虚月
 蛇に体温はない。

 触れる指先はいつもあたたかなものだった。
虚月
 今ある、この時間は戯れ。
虚月
――それなれば。
虚月
「……メイドや、ゲーム等如何です。」
虚月
 ふれた指先から、それはするりと逃げていく。
メイド2
「ゲームですか。それならば、トランプなどいかがでしょう」
メイド2
懐から53枚のデッキを取り出す。
メイド2
「オールドメイドゲーム。この儀式の由来となったゲームでも、いたしませんか」
虚月
「おや、それはどのような?」 

 興味深げにその札を見つめる。

 それは、故郷にあった札よりも簡素なものだ。
メイド2
53枚のデッキを崩し、2枚のカードを引き抜く。
メイド2
「ここにあるトランプは、1から10、それとJ、Q、Kの札が4枚ずつございます」
夜目菜
「かるた……ですか?」

身を乗り出す。その手元で繰られるカードを目にして。
メイド2
「そのうち、ハートのQの札を抜きまして」
メイド2
「これを3人に配っていきます」
メイド2
「他の方には、見せちゃダメですよ」
夜目菜
「おお……」感嘆。
虚月
「おっと、それではこちらからは丸見えですね。」

 椅子から立ち上がると、夜目菜を椅子に座らせる。
虚月
「私はこちらに座りましょう。」 ベッドの方へ。
夜目菜
「あ~」残念そう。
虚月
「ふふ、それともこちらに来ますか?」 ベッドの上で尾をゆらす。
メイド2
そのやりとりを微笑ましく見守りながら、カードを配り終え。
メイド2
「それでは、それぞれの手札をとりまして」
メイド2
「数字のペアができたら、それをこちらに出してください」
メイド2
「3枚じゃダメですよ。ペアをそろえてくださいね」
虚月
「つまり、絵合わせのようなものですね。」
夜目菜
「いいです、よめなも、本気でやりますもの……!」
虚月
 ひとつの束を手に取って。
夜目菜
小さな手にも、また。
虚月
「ふふ、うまく負かせたら褒美をあげましょう。」
夜目菜
「!」
夜目菜
「がんばります……!」
夜目菜
遊びであろうと、勝負は、勝負。
夜目菜
勝負の場においてなら、かみさまを負かしても……許される。
メイド2
「手札が全部1枚限りになったら、ゲームスタートでございます。順々に、隣の人からカードをとっていくのです」
夜目菜
そういうものだ。彼の好むのは。
夜目菜
「はい、できました!」
メイド2
「もしそれでペアをそろえたら、それも表に出してください」
メイド2
「手札をすべて捨てることが出来たら、上がり、勝ちでございます」
虚月
ひい、ふう、みい……

 数えて、揃えて、捨てていく。
虚月
「さぁさぁ!」
夜目菜
「ふっふっふ……」
メイド2
「サイコロを振ります。1と2が出たら、虚月様から。3と4が出たら、夜目菜様。5と6が出たら、私から」
メイド2
1d6

DiceBot : (1D6) > 2
夜目菜
「かみさまから!」
虚月
「2、では私から。」
メイド2
「虚月様からですね。それでは、夜目菜様の手札から1枚、引き抜いてください」
虚月
ふたりの方を見やってから

「さぁて、どれにしましょうか……」
夜目菜
取りやすいよう、寝台のほうへ差し出す。
虚月
腕を伸ばし、一枚、引き抜く。
虚月
そして、ぺらり。 ハートとスペードのA。
夜目菜
「ああ~、持っていかれてしまいました……」
メイド2
「無事ペアをそろえることが出来ましたね」
虚月
「ふふ、揃いましたね!」
メイド2
「それでは、夜目菜様は私の手札から1枚」
夜目菜
「では、つぎはよめな!ですね!」
夜目菜
指がまどう。真剣な眼差し。
夜目菜
「……」
虚月
「……みえましたよ、9ですね。」
夜目菜
「……あっ、だめっ」
メイド2
「ふふ」
夜目菜
「あ~ん」
夜目菜
「ありません……」
メイド2
「このゲームは、最後に一枚だけ残るのです」
メイド2
「始めにハートのQを抜きましたね。ですから、Qのカード1枚だけ、ペアが作られることはないのです」
メイド2
メイドは虚月の手札を選ぶ。
虚月
「……なれば、ここで我らは 命運を握る神といったところでしょうか。」
虚月
「――何が残るか。

 真実が見えているというのは、不条理な気も致しますが。」
メイド2
「あら、私は揃いませんでしたね。このまま、次は虚月様です。このように、順番にカードをとっていくのですね」
夜目菜
「なるほど……」
虚月
残るべくはハートのQ、ここにおわす神も。結末を知っているのだろうか。
夜目菜
ハートの女王は。
夜目菜
さみしくは、ないのだろうか。
虚月
「それではこちらを。」 先ほどの札を引き抜いて。
虚月
――9を捨てる。
夜目菜
神の手に手繰られないことは、よめなにとって悲しいことだ。
夜目菜
手番が巡る。また、真剣な眼差し。
虚月
「ささ。」
夜目菜
「えいっ」
夜目菜
「……」
夜目菜
「めいどさんの番です……」
メイド2
「Qが1枚残るのは変わりません。それでも誰がその1枚を手にして、1人残るかは、誰にもあずかり知れぬこと」
虚月
覗こうとして

 「……おっと、残念。」
メイド2
「そろいませんねえ」
夜目菜
「かみさま、ずるはだめです!」
虚月
「正々堂々と勝負……まぁ、よいでしょう。」
虚月
「この勝負は勝たせていただきますよ。」
虚月
――一枚引き抜く。 「む、残念。」
夜目菜
「よめなのばん!」
夜目菜
「むう……」
虚月
「ふふ、どうしましたか? なかなか揃いませんねぇ。」
夜目菜
「……絡まっています……」
メイド2
「あんがい揃わないものなのですよ」
夜目菜
メイドの手札の背をじぃっと見つめる。見透かすことはできない。
夜目菜
どれが、どれと正しく結ばれるか。手元にくるまではわからない。
メイド2
「ハートの2とダイアの2」
虚月
「おっと、油断大敵。

 案外結ばれるのはメイドかもしれませんね。」
夜目菜
むーっ。頬が膨らむ。
虚月
引き抜かれた2をすこしだけ惜しみながら見送る。
虚月
「……さて、どれにしましょうか。」 
メイド2
「ふふ、がんばってください」
虚月
「……これです!」 引き抜く。
夜目菜
「ああ~~~」
虚月
――また札がひとつ揃う。ダイヤとハート、Kのペア。
メイド2
「おめでとうございます」
虚月
「さぁ、夜目菜。これで皆平等に3枚ですよ。」
夜目菜
「むむむむ……」
夜目菜
指で、カードをそれぞれ差す。
夜目菜
「ど、れ、に、し、よ、う、か、な……」
虚月
手元のカードを入れ替えながら。
虚月
「さぁ、どれでしょう。」
夜目菜
神様の助言はない。
夜目菜
「これ!」
夜目菜
「……」
夜目菜
顔色が曇る。
メイド2
「表情にでておりますよ」
夜目菜
ぎゅっと顔を隠した。
メイド2
「私は仮面を被っていてラッキーでしたねえ」
虚月
「おやおや、これはまずい。勝たれてしまうかもしれません!」
虚月
神の方といえば嬉しそうに尾を揺らしている。
メイド2
(……あれ、私引く方を間違えた気がしますね。まあいいか)
メイド2
楽しそうですし!
虚月
絡まった糸も、正せばひとつ。
虚月
たかが神もどき出来ることなど限られている。

夜目菜の札から、一枚を手繰って。
虚月
「残念、ありませんでした。 ……さぁ、残りわずかです。」
虚月
手札を混ぜて差し出す。
夜目菜
運命のペアを、この手で引きよせなければならない。
メイド2
真似て混ぜる。
メイド2
「なかなか難しいですね」
夜目菜
「えいっ」
虚月
――笑っている。
夜目菜
「うう~~~!つぎです!」
夜目菜
反して、どんどんムキになっている。
メイド2
ふふ、あはは、と笑いがこぼれる。
虚月
「ではでは。こちらを。」 引き抜く。
メイド2
「……失礼しました」
虚月
「おや、また揃ってしまいました。」 3のペア。
夜目菜
巡っていく。
虚月
……よいよい、と。 巡りを可笑むように。
メイド2
「だめですね~」
メイド2
「どうぞ、夜目菜様」
虚月
――手元からカードが引き抜かれる。

 「私は残り一枚になりましたよ、夜目菜。」 
夜目菜
「まだ、まだですっ」
夜目菜
「――!」
メイド2
「最後まで諦めちゃダメですよ」
夜目菜
「そろいました~!」ばんざい!
メイド2
「おめでとうございます」
メイド2
ぱちぱち。
虚月
ゆるやかに手をたたく。
虚月
ぱちぱち。
夜目菜
姑息にも一枚高くした。
メイド2
ニコニコして見ている。
虚月
少し笑って、それを引き抜く。
虚月
「さぁ、次を。」 メイドに。
メイド2
「おもしろいものですね」
虚月
「……ふふふ。」
メイド2
「夜目菜様、どうぞ」
夜目菜
「…………」
夜目菜
喉の鳴る音。
虚月
「長くふたりでおりましたが。

 こういうのも、なかなかよいものですね。」
虚月
ベッドに寛いで、見守っている。
夜目菜
顔に出る。わーん。
虚月
「……次はどうしましょうか。」 夜目菜に笑みを浮かべて。
メイド2
「お二人のお時間があってこその私でございます」
虚月
「なれば、今の時間は メイドあっての我らでもあるということ。」
夜目菜
「ふたりでは、おーるどめいどげーむは、できないのですものね」
メイド2
「この館にある限りは、命運を共にさせていただきます」
虚月
「そうですね。」 横から引き抜いて。
虚月
「……しかし、残念です。」
夜目菜
「あっ」
虚月
ぺらり。 6が2枚。
虚月
「揃ってしまいました。」
メイド2
「さすがは私の仕える救世主様」
夜目菜
「あ~~ん、かみさまったら」
メイド2
「それでは、次に引かせていただくのは、私でございますね」
虚月
手元の札を、すべて手放して。
虚月
ゆるりとふたりの方をみる。

  残る夜目菜の持つ札は…………。
メイド2
「お茶会のあと、あなたがたは裁判をするためにお茶会へ出ます」
メイド2
「私はこの部屋に残り、掃除をいたしましょう」
メイド2
夜目菜の手に残された最後の一枚を抜いて言う。
虚月
メイドの元に残ったダイヤのQ。

 その幕引きはあっけなく、定められたかのように。
メイド2
「けれども我が救世主様がたは、きっと固い絆に結ばれていますから」
メイド2
「このように勝利なさるはずですよ」
夜目菜
いちばんになれなかったことが、少し悔しくはあるけれど。
夜目菜
それもかみさまのいうとおり、なすとおり、ならば。
夜目菜
「ええ、ええ、」
夜目菜
「必ず、勝ちますとも」
メイド2
我らメイドにとって、勝利も敗北も、等しく祝福。
虚月
「ええ。 ……また、やりましょう。」
メイド2
けれど彼らにとってそうではないというのはわかる。
夜目菜
「今度はよめながいちばんですっ」
メイド2
死ぬためにここに来たことくらいは。
メイド2
「ええ、是非。楽しみにしております」
虚月
「わかりませんよ、今度はメイドが勝つのやも。」
夜目菜
「いいえ、いいえっ、今度こそ!」
夜目菜
札がなくなってしまえば、椅子を降りて寝台へ。
メイド2
幸いあれを思う。
虚月
――これは、暇の戯れ。

 でも、だからこそ。

 この暇ばかりは 末裔も救世主も等しく同じ。

 それに意味などは、ないのかもしれないけれど。
夜目菜
飛び乗るようにその腕に収まって。
メイド2
「ふふ、それでは次は勝たせていただきましょう」
虚月
「楽しみにしていますよ。」
メイド2
多かれ少なかれ、きっと他のメイドもそう思っているだろう。
夜目菜
「いいえ、次はよめながいちばんになって、それで」
夜目菜
「…………」
メイド2
「……それで?」
夜目菜
「……ないしょです。戻ってから」
虚月
腕の中の温もりを撫でて。
虚月
あわせてすこし、わらう。
虚月
「……ふふ。 ご褒美はお預け、ですね。」
メイド2
「楽しみが増えて、結構なことでございます」
虚月
「メイドや、お前も疲れたでしょう。」
虚月
「……我らは少し散歩にでます。ゆっくりとなさい。」
メイド2
「ありがたいお言葉、どうもありがとうございます」
メイド2
頭を下げる。耳が揺れる。
虚月
その耳先に少しだけ触れて。

「……それでは。」
夜目菜
胎を撫でる腕に、甘えるように手を絡めながら。
夜目菜
メイドに手を振る。ちいさく。
メイド2
ぴくりと身体を跳ねさせて、何事もなかったように。
メイド2
「いってらっしゃいませ」
虚月
そのまま、夜目菜を引き連れていく。

小さな指先をあやすように、手遊びながら。
メイド2
暇を与えられたとて、メイドは疲れを知らない身。
メイド2
永遠に落ち続ける館のように、時を止めたように生き続ける。
メイド2
夜目菜に小さく手を振って、二人が去るのを見送って。
メイド2
それから少し逡巡すると、バスルームの掃除を始めるだろう。
メイド2