Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 Room No.8

マキナ
4号室の二人との裁判の後。
マキナ
チカとマキナはぐずぐずと泣きながら、部屋に戻ってきた。
マキナ
メイドからの労いの言葉を受け取り、
マキナ
次の裁判の日まで、つかの間の休息をとる。
マキナ
「…………」
マキナ
気が抜けたように、ベッドに座っている。
小鴨 チカ
「…………」
マキナ
服はボロボロで、誰のものともつかない血や鮮やかな毒液にまみれている。
マキナ
裂けた服の下、杭で穿たれた傷はもうふさがっている。
マキナ
「…………勝ったね」
小鴨 チカ
「……うん」
小鴨 チカ
「よかった……ね」
小鴨 チカ
ぼくは無傷だった。
小鴨 チカ
汗はびっしょりだけど、それでも見た目は戦いの後って感じじゃない。
マキナ
「……ん」
小鴨 チカ
それでも全身が痛くて体が重い。
マキナ
「がんばったね、チカくん」
マキナ
「怪我はない?」
小鴨 チカ
ふわふわと現実を受け入れない頭に、体の感覚が「夢じゃないぞ」って言ってくる。
小鴨 チカ
「マキナさんこそ……」
マキナ
「……大丈夫ですよ」
マキナ
「もう治ったし」
マキナ
「コインが増えたからかな?」
小鴨 チカ
治ったのかなあ。ほんとかな。
マキナ
「……あ」
マキナ
「チカくん」
マキナ
「腕見せて」
小鴨 チカ
「え、あ……」
マキナ
「あの人に潰されたときの」
小鴨 チカ
ネイルさんに握られた腕。
マキナ
「痕も治せるかも」
小鴨 チカ
袖をめくる。
小鴨 チカ
痛くはないけど、傷が塞がった時に出てくる黒ずんだ感じの痕がある。
マキナ
「……」
マキナ
傷に触れる。
マキナ
そっと、撫でる。
マキナ
ぼんやりとした暖かさがチカに伝わる。
小鴨 チカ
どきっとする。
小鴨 チカ
おそるおそる傷を見る。
マキナ
マキナが手をどければ、そこにあった傷痕は消えていた。
マキナ
きれいさっぱり。
小鴨 チカ
初めっから無かったみたい。
小鴨 チカ
「すご……」
マキナ
「……」
マキナ
「やっぱり、コイン増えた分かな?」
小鴨 チカ
「あっ、ありがとう!」
マキナ
「…………ん」
小鴨 チカ
「やっぱりマキナさんはすごいな」
マキナ
「そう?」
マキナ
「でもマキナ一人じゃダメだったよ」
小鴨 チカ
「うん」
小鴨 チカ
「組んだのがマキナさんでよかったって思う」
マキナ
「……」
マキナ
「マキナはやっぱりもっと強い人とがよかったよ」
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
わかってた。
小鴨 チカ
わかってたけど、言われるとズキッとくる。
マキナ
「チカくんみたいないい子に戦わせると、ほら」
マキナ
「マキナも心が痛みますし?」
マキナ
「……なんて」
小鴨 チカ
…………。
小鴨 チカ
「……ぼくがどんなふうになれば、マキナさんは良かったなって思ってくれる?」
マキナ
「……え?」
小鴨 チカ
「あの金髪の人みたいに?それとも戦った二人みたいに?」
マキナ
ぱち、と目を瞬かせる。
小鴨 チカ
「面倒なんて、見なくていいような頼もしい人なら」
マキナ
「……ヨハン様みたい、は」
小鴨 チカ
「組んでよかったって、言ってくれるのかなあ……」
マキナ
「やだなぁ……」
小鴨 チカ
「やなの?」
マキナ
「……強いし、頼りにはなったけど」
マキナ
「分かりやすいのもまあよかったけど……」
マキナ
「……チカくんがああなるのは、やかな」
マキナ
「うん」
小鴨 チカ
……そりゃ、まあ。なれるはずもないし、ぼくがなっても変なだけだけどさ。
マキナ
「あの二人みたいなのも、こまる」
マキナ
「……」
マキナ
「チカくんはチカくんのまま」
マキナ
「それで頑張ってくれたらいいよ」
小鴨 チカ
「……でも、もっと強い人がよかったって……」
マキナ
「……だって」
マキナ
「…………」
マキナ
「あと2回」
マキナ
「戦って、勝たないと……」
小鴨 チカ
「…………」それな。
小鴨 チカ
考えたくねー。
マキナ
「ヨハン様は強かったし……」
マキナ
「別に」
マキナ
「マキナがやらかして道連れにしても」
マキナ
「全然……心が痛まないし」
マキナ
「まあ……そういう意味ではペアにぴったりだったかなって」
小鴨 チカ
「ぼく相手だと、心が痛むって言ってるように聞こえる」
マキナ
「そう?」
マキナ
「……気のせいだよ」
マキナ
「気のせい」
小鴨 チカ
そういわれると……なんだ。
小鴨 チカ
急に恥ずかしいぞ。
小鴨 チカ
思い上がったか、小鴨チカ?
マキナ
「……シャワーしてこよっかな」
マキナ
「身体べたべただし」
小鴨 チカ
「うぇ!?」
マキナ
雰囲気を変えるようにそう言って、立ち上がる。
小鴨 チカ
「あ、ああ!シャワー!シャワーね!」
小鴨 チカ
わかる~!体洗い流したいよね!
小鴨 チカ
変にキョドっちゃった!
マキナ
立ち上がり、バスルームに向かって行き、
マキナ
ドアノブに手をかけようとしたところで、動きが止まる。
マキナ
「…………」
マキナ
「…………っ、」
マキナ
手をかけて、そのまま、
マキナ
扉が開けない。
マキナ
震えている。
小鴨 チカ
あ~やっべ、めっちゃ意識しちゃった。
マキナ
「……あ、の」
小鴨 チカ
変に思われてないかな。声裏返っちゃったな。
小鴨 チカ
「ハァイ!?」
マキナ
「…………チカ、く、ん」
小鴨 チカ
「な、なん、なんでしょう……!」
マキナ
ドアノブに手をかけたまま、チカの方に振り向く。
小鴨 チカ
あれ?なんだ?なんか変だ。やらかしたか?
マキナ
怯えと惑いに揺れる瞳で、チカを見て、
マキナ
「…………」
マキナ
口を開いて、閉じて。
小鴨 チカ
「……?」
小鴨 チカ
準備か?
マキナ
暫しの逡巡のあと、
小鴨 チカ
ごめんなさい言う準備、しといたほうがいいか?
マキナ
「…………」
マキナ
「…………ついて」
マキナ
「きて……」
マキナ
消え入りそうな声で、
マキナ
そう呟く。
マキナ
視線が床に落ちる。
小鴨 チカ
「へ…………………………」
小鴨 チカ
……………………。
小鴨 チカ
……………………………………あ。
マキナ
俯いたその顔には色がない。
小鴨 チカ
この人も……怖いんだ。
小鴨 チカ
あんな事があって、あんなめにあって。
マキナ
手は震えている。
小鴨 チカ
一人になれなくて。ぼくなんかに助けを。
小鴨 チカ
「ごめん、気付かなくて」
小鴨 チカ
「も……もちろん!ついていくよ」
マキナ
その指先、砕かれて再生した爪には一切の飾りがない。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
この部屋で、この人は襲われた。
マキナ
安堵したような、困ったような表情でチカを見て、
小鴨 チカ
一人になったところを。
マキナ
「……ありがと」
マキナ
やっぱり、そう小さくこぼした。
小鴨 チカ
何をされたか、ちゃんと把握してるわけじゃないけど……
小鴨 チカ
…………
小鴨 チカ
……っ、やめやめ!失礼なことを考えない!
小鴨 チカ
マキナさんに近寄る。
小鴨 チカ
「どうすればいい?」
マキナ
「…………」
マキナ
「ドア……」
マキナ
「開けて」
マキナ
「……あとは、一緒に」
マキナ
「いてくれたら、」
マキナ
「それで…………」
小鴨 チカ
「……!」
マキナ
ノブにかけていた手を下ろす。
小鴨 チカ
「わ……わかった……」
小鴨 チカ
どうしよう。
小鴨 チカ
マキナさんが傷付いてる。
小鴨 チカ
やるべき事は、言われた通り寄り添うことだろう。
小鴨 チカ
珍しく正解がわかる。きっとそれでいい。
小鴨 チカ
だけど、その………………………………。
小鴨 チカ
…………これって……
小鴨 チカ
冷静でいなきゃいけないやつじゃん……!
小鴨 チカ
ドアを開ける。
マキナ
チカに隠れるようにして、ドアの向こうを窺う。
マキナ
当たり前だが、誰もいはしない。
小鴨 チカ
「ど、どうぞ……」レディーファースト、先を譲ろうとして
マキナ
物陰、シャワーカーテンの向こう、そのどこにも。
小鴨 チカ
あ、いや、やっぱ先にぼくが入ったほうがいいなと思いなおし。
マキナ
あの射抜くような眼差しはない。
小鴨 チカ
部屋をのぞきこむマキナさんとぶつかりそうになる。
小鴨 チカ
要領が悪い。
マキナ
ぶつかりかけて、びく、とちょっと驚いて。
小鴨 チカ
「あ、ご、ごめん」
マキナ
「……ん」
小鴨 チカ
先を譲ってもらって、中に入る。
マキナ
ついて入る。
マキナ
寝室よりも狭い密室で二人きり。
マキナ
「……じゃあ」
マキナ
「向こう、向いてて……」
小鴨 チカ
「はい…………」
小鴨 チカ
やばいってぇ。
マキナ
チカが背を向けたのを確認して、
小鴨 チカ
泣きすぎて嗅覚が死んでるのがせめてもの救い。
マキナ
する、と布の擦れる音。
小鴨 チカ
やばいってーーー!!!!!
マキナ
衣擦れ、脱いだものが床に落ちる軽い音。
小鴨 チカ
何この感情。泣きそう。
小鴨 チカ
震えてんじゃん。
小鴨 チカ
手足ガックガクよ。
マキナ
それらが何度か聞こえたあと、
マキナ
脱いだ服をまとめているのか、ごそごそと動く気配があり、
小鴨 チカ
あーあーあー!
マキナ
それから、ぺたぺたと素足の足音。
マキナ
シャワーカーテンが引かれる。
小鴨 チカ
さらばー!地球よー!旅立ぁーつ船はー!
小鴨 チカ
あっ、さらば地球したから期末テスト免除じゃん。ラッキー。
小鴨 チカ
ちょうど今回自信なかったんだよなー!いっぱい寝ちゃってたしなぁー!!
小鴨 チカ
よかったなぁーーーーー!!!!
マキナ
シャワーの音が浴室に反響する。
小鴨 チカ
ギャーーーーーー!!!!
小鴨 チカ
これマキナさんの体に水が当たってる音です!!!!!!!!!!!!
小鴨 チカ
あっ違う?床ですか!?まだ床?
マキナ
カーテンの隙間から湯気が溢れて、少しずつ部屋の温度を上げていく。
小鴨 チカ
考えるのをやめろ考えるのをやめろ考えるのをやめろ
小鴨 チカ
助けて!
マキナ
チカの動揺をよそに、何食わぬ様子で、
マキナ
あるいは分かっていながら無視しているのか、
マキナ
はたまた、チカの心境をはかる余裕がないのか。
小鴨 チカ
むり!
小鴨 チカ
「うう、ううっ……」
小鴨 チカ
むりだ!吐き出させてくれ。吐き出していいか!吐き出します!
小鴨 チカ
今シャワー流してるよな?聴こえないよな?
マキナ
水音が響いている。
小鴨 チカ
「マキナさん……」
小鴨 チカ
「むっちゃ好きだあ…………」
小鴨 チカ
吊り橋的なやつだあ……絶対これそうだよ……。
マキナ
マキナの返答はない。
小鴨 チカ
「かわいいとこも、性格クソなとこも、強がって引っ張ってくれるお姉さんなとこも、ほんとは弱いとこも、全部かわいいんだよなあ……」
小鴨 チカ
小さい声。小さい声だぞ。聴こえてない。絶対聴こえてない。たぶん。
マキナ
シャワーが浴槽を叩く音や、 
マキナ
泡立てたタオルを擦る音、
マキナ
それらの合間に、かすかに
マキナ
すすり泣くような
マキナ
あるいは気のせいかもしれない。
マキナ
それほどかすかな声。
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
「ぐすっ……」
小鴨 チカ
なんか涙出てきた。
小鴨 チカ
今の音、気のせいかなあ。こっちが泣いてるのは気のせいじゃねえんだよなあ。
マキナ
マキナは何も言わない。
小鴨 チカ
好きな子のシャワー聴きながら泣くなんて経験、人生じゃなかなか味わえないと思いませんか。
小鴨 チカ
よくわからん感情でいっぱいになると、なぜか涙が出ます。
マキナ
しばらくそうした後、水音が止まる。
小鴨 チカ
ひっ。
マキナ
カーテンの隙間から腕を出し、手探りでバスタオルを取り、
マキナ
静かになった浴室で、身体を拭いている気配がする。
小鴨 チカ
1メートルない距離で。
小鴨 チカ
密室で。
小鴨 チカ
女子。裸。
小鴨 チカ
またまたぁ~!!
小鴨 チカ
うっそだぁ~ マジ?
マキナ
また、手が伸びる。
マキナ
着替えを手に取る。
小鴨 チカ
あっ。
マキナ
衣擦れや、動く気配。
マキナ
いずれも、
小鴨 チカ
着ちゃう……。
マキナ
音や気配でなんとなくどうしているのか分かるだろう。
マキナ
やがて、ボタンを留める音がして、
マキナ
カーテンが引かれる。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
顔を逸らして目をぎゅっと閉じる!
マキナ
「……もう、こっち」
マキナ
「見てもいいよ」
小鴨 チカ
「え。あ……」
マキナ
湯上がりの髪はしっとりと濡れている。
小鴨 チカ
「髪飾り……」
マキナ
「髪」
マキナ
「濡れてるから……」
マキナ
部屋にあるバスローブではなく、
マキナ
リボンこそしていないものの、着替えをきっちりと着込んでいる。
小鴨 チカ
「……してないとこ、初めて見た」
小鴨 チカ
初めて見たじゃねーよ。当たり前だろが。
マキナ
「……?」
マキナ
「そうだね……?」
小鴨 チカ
言え、言え。かわ……
小鴨 チカ
「に、似合ってるね……(?)」
マキナ
首を傾げた。
マキナ
「…………」
マキナ
「……ありがと」
小鴨 チカ
ヘタクソか。
マキナ
「チカくんも使う?」
マキナ
「お風呂」
小鴨 チカ
「あ、そうだね。使わしてもらおっかなー」
小鴨 チカ
汗かいたし。
マキナ
「ん」
マキナ
場所を譲るように前に出る。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
ん?
マキナ
「……ここ」
マキナ
「いても、いい?」
小鴨 チカ
あっ。
小鴨 チカ
今度はぼくが……、服を脱いで、音を聴いていただく番なのか?
マキナ
マキナにとっては聞き慣れた音だが……
マキナ
チカが知る由もなく。
マキナ
チカの返事を待っている。
小鴨 チカ
「モ、モチロン」
小鴨 チカ
許されるのか?
マキナ
「……ごめんね」
マキナ
「ありがと」
小鴨 チカ
「が、がんばります……!」
小鴨 チカ
替えの部屋着が要るな。
マキナ
首を傾げた。
小鴨 チカ
あー、下着もか。下着もだ!やっぱりね!知ってたよ!見ないふりをしてただけだよ!
小鴨 チカ
このまま浴びていいですか?
小鴨 チカ
ダメですか。
小鴨 チカ
「あの、マキナさん」
マキナ
「ん?」
小鴨 チカ
「パートナー……」
小鴨 チカ
「ぼくでごめんね」
マキナ
「…………」
マキナ
「なんで?」
マキナ
急な謝罪の意図を掴めず、ぼんやりとチカを見ている。
小鴨 チカ
ささっと脱いで、下着だけは中にこっそり持ち込んで、即座にシャワー。
マキナ
 
小鴨 チカ
水の音に紛れて下着を洗う。あーあ!シャワーの勢いでうっかり濡らしちゃったなー!という事にしておこう。 
マキナ
 
小鴨 チカ
「……ぼく、弱いし」
 
小鴨 チカ
「頼りにならないし、かっこよくないし……」
小鴨 チカ
……マキナさんが弱ってるときに、こんな事してるザマだし。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
世界一情けねえ。
マキナ
「……運が悪かったよね」
マキナ
「お互いに、さ」
小鴨 チカ
寄り添えないとこも、頼れないとこも、
小鴨 チカ
こういう細かい切り返しに、いちいちチクッてするとこも。
マキナ
「……チカくんだって」
マキナ
「どうせ巻き込まれるなら、もっと強い人と組まされてたら……とか」
小鴨 チカ
「そんなことない!」
小鴨 チカ
被せ気味に。
マキナ
「別に思ってもいいんだよ」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「そりゃあっ」
小鴨 チカ
「最初はなんでこんな信用できない弱そうなクソ女と……とか、思いはしたけど……」
小鴨 チカ
「……最初だけだよ」
マキナ
「…………」
マキナ
「……今は」
マキナ
「信用、してる……?」
小鴨 チカ
「……裏切られるかも、とは思ってるけど」
小鴨 チカ
「それでも……いっかなって」
マキナ
「…………なに、それ」
マキナ
戸惑うように、語気が揺れる。
小鴨 チカ
「……マキナさんさ」
マキナ
弱みを見せれば、普通の人は少なからず心を動かされる。
マキナ
マキナは計算でそれができる。
マキナ
必要があれば、そうしてきた。
マキナ
だけど、今、
マキナ
これが本当の弱みなのか、そう見せているだけなのか、
マキナ
マキナ自身にもそれが断言できずにいた。
小鴨 チカ
「マキナさん、自分が一番かわいいってタイプの人でしょ」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「金髪の人がやられたときも、すぐに生き残れそうな方についた」
マキナ
「……そうだね」
小鴨 チカ
「ずっと一緒にやってきた人でもそれができるんだから……」
小鴨 チカ
「会ったばっかのぼくでも、同じような事、できるでしょ……?」
マキナ
「……うん」
マキナ
「できる、ね」
小鴨 チカ
「自分で言うのもなんだけど……」
マキナ
マキナが初めて裏切った相手は弟だった。
マキナ
同じイタズラをして、内緒にしようと約束して、
マキナ
告げ口をしたマキナだけが許され、弟はひどく叱られた。
小鴨 チカ
裏切られる、とよく感じる人生だった。
マキナ
家族、友人、彼氏、
小鴨 チカ
なんとなく許されそう。怒らせても怖くなさそう。懐柔しやすそう。理由はさまざま、でも似たようなもんで。
マキナ
自分の利益になるなら、身を守るためなら、
マキナ
嘘をついても、裏切っても、
マキナ
心は痛むけど、それができる。
小鴨 チカ
そこにぼくの早とちりやら誤解やらも乗っかって、とにかくなんか勝手に期待しては勝手に傷ついてばっかの人生だった。
マキナ
それがマキナだった。
小鴨 チカ
明確な裏切りもあれば、ぬれぎぬみたいなぼくの妄想もあったりはして、まあぼくの性格にももちろん問題はあるんだけど。
小鴨 チカ
おうちがけっこう裕福な方で。
マキナ
昨日会ったばかりの即席ペアで、生死の賭けられたこの場で、
マキナ
マキナが裏切らない理由は、どこにも
マキナ
ない。
小鴨 チカ
友達に山ほど借りパクされて、そういうのを友達とは言わないってのはもうちょっと後に知ったりだとか。
小鴨 チカ
女の子にそれっぽいことを言われて、本気にしたら、からかわれてただけだったとか。
マキナ
「……裏切るね」
小鴨 チカ
遊ばれたり、押し付けられた利、利用されたり。
マキナ
「うん」
マキナ
「そう思ってて」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
そんな、エサみたいな人生。
小鴨 チカ
ちっちゃなカモ。
マキナ
「……その方がいい」
小鴨 チカ
「これは自慢だけど」
小鴨 チカ
「ぼくは割とコロッと何度も騙されっから」
小鴨 チカ
「……うまく使ってね?」
マキナ
「…………」
マキナ
「……うん」
マキナ
「……まあ、今の所」
マキナ
「チカくんを裏切って勝つ方法は思いついてないから」
マキナ
「チカくんが死んだら私も死ぬし……」
マキナ
だから安心して、とも
マキナ
信用して、とも言わず。
小鴨 チカ
「……ふふっ」
マキナ
甘言を弄さず、事実だけを告げる。
小鴨 チカ
チカくんが死んだら私も死ぬって言葉……。
マキナ
「……?」
小鴨 チカ
端的な事実に過ぎないんだけど。
小鴨 チカ
ちょっとだけ嬉しいなあ。
小鴨 チカ
「えーと、あれですね」
小鴨 チカ
「頑張って勝てれば、小細工もいりませんし」
マキナ
「……うん」
小鴨 チカ
「勝てそうだな!って思ってもらえるようにしないとな!」
マキナ
「…………」
マキナ
「……うん」
マキナ
「結局、負けたら勝った人たちの好きにされちゃうし……」
マキナ
「自分たちが勝つのが一番、だもんね」
小鴨 チカ
シャワーを止める。
小鴨 チカ
「……怖いね」
マキナ
「…………ん」
小鴨 チカ
「怖かったね」
マキナ
「……べ、つに……」
マキナ
反射的に否定して、
マキナ
こうやって一緒にいる時点で今更なことに遅れて気づく。
マキナ
「……うん」
小鴨 チカ
「ぼくも超怖かったー」
マキナ
「うん……」
小鴨 チカ
「一緒にいてくれてありがとうね」
マキナ
「……こわかった、ね」
マキナ
チカの言葉を反芻して、
マキナ
「……」
マキナ
「チカくんも」
マキナ
「いてくれて、ありがとう」
小鴨 チカ
「絶対」
小鴨 チカ
「こわい夢見る」
マキナ
「……見るかも」
小鴨 チカ
「でさ、泣くじゃん、夢の中で」
マキナ
「……そうかもね」
小鴨 チカ
「死ぬかも、ってとこで、泣きながら起きるじゃん」
マキナ
「……ん」
小鴨 チカ
「でも、隣見ると、マキナさんが居る」
マキナ
「……そう、だね」
小鴨 チカ
「ああ、自分だけじゃないなって」
小鴨 チカ
「この人も一緒にいるなあ。よかったなあって」
マキナ
「……」
マキナ
「……うん」
小鴨 チカ
「……お、お隣で寝てくれますか……?」
マキナ
「…………」
マキナ
少しの沈黙のあと、
マキナ
「……いいよ」
マキナ
「いっしょにねよっか」
小鴨 チカ
うおーーーーー!!
小鴨 チカ
マジかよ。女子が隣で……ねっ、寝息立てたりすんのか?
マキナ
チカを待って、バスルームを出る。
小鴨 チカ
慌てて体を拭く。服も着る。
小鴨 チカ
髪をさっさと乾かして、バスルームだって出る。
マキナ
バスルームを出れば、寝室。
マキナ
当然、そこにはベッドがある。
マキナ
行動順を決めましょう
マキナ
1d6+才覚ですよね?
マキナ
聞くなすぎるな まあ振っちゃおう
マキナ
1d6
DiceBot : (1D6) > 3
小鴨 チカ
あっ才覚か!
小鴨 チカ
1d6+3
DiceBot : (1D6+3) > 2[2]+3 > 5
マキナ
ではチカくんからカードを3枚引いてください
小鴨 チカ
*s2 h6 hJ
マキナ
*d2 c10 hA
マキナ
*R1 チカの行動
小鴨 チカ
マキナさんと、ぼくが、風呂上がりだ。
小鴨 チカ
で、すぐそこにマキナさんがいて、一緒にベッドに向かおうとしてる。
小鴨 チカ
なんというかその……分不相応ではないか!?
マキナ
マキナの方には特に動揺の気配もなく。
小鴨 チカ
そろそろ来るか?不幸。
小鴨 チカ
突如悪漢が現れてぼくの全身を引き裂いたりしないだろうか。
マキナ
デスゲームに巻き込まれているのは不幸なのでは?
小鴨 チカ
いや、来てるんだよなぁ~~。
小鴨 チカ
不幸、すでになあ。
小鴨 チカ
殺したばっかだよ、人間。(人間?)
マキナ
ぽてぽてと歩いていって、ベッドに腰掛ける。
小鴨 チカ
そんなのにこんな甘い雰囲気でなあ~。
小鴨 チカ
ううっ、チクチク痛い。
小鴨 チカ
苦しい~、胸が~。
小鴨 チカ
先に腰かけている……!
マキナ
腰掛けていますね。
小鴨 チカ
どうすればいいんだ。ぼくには何もわからねえ。
マキナ
つま先をゆらゆらと遊ばせている。
小鴨 チカ
いま、頭の中に選択肢が出ている。
小鴨 チカ
→どちらのベッドに座る?
 ・マキナさんと同じベッド
 ・マキナさんの隣のベッド
小鴨 チカ
ぐわあ~~~~!!!!
小鴨 チカ
時間が経っています。ぼくは突っ立っています。
小鴨 チカ
2秒、3秒、4秒。やばいやばいやばい。
マキナ
チカを見ている。
小鴨 チカ
経つほど、どんどん、好感度が下がっていくのでは!?
小鴨 チカ
どちらにしようかな、どちらにしようかな。そう、この選択にはぼくの意思は介在しない。だから……どっちが選ばれてもぼくのせいではない!こっち!アアアアアアアアアア!!!!
マキナ
壁掛け時計が秒針を刻む音が部屋に響いている。
小鴨 チカ
*アピール[h6]
マキナ
*誘い受け d2
小鴨 チカ
マキナさんのベッドに……座る!!
マキナ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 8[4,4]+2 > 10
マキナ
*チカのアピールの目標値が10に
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 5[3,2]+2 > 7
小鴨 チカ
ひい!
マキナ
失敗ですね
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 0 → 1
小鴨 チカ
座る。
小鴨 チカ
座るだけで死にそうだ。
マキナ
視線がチカの動きを追う。
小鴨 チカ
ううううう!!!
小鴨 チカ
目をそらす。
マキナ
隣に座ったのを見て、くすりと笑い。
小鴨 チカ
もしかして……今、
小鴨 チカ
めちゃくちゃやらかしたんじゃないか!?
小鴨 チカ
はぁ。はぁ。
マキナ
「……チカくん、昨日と今日いっぱいがんばったよね」
小鴨 チカ
「……へ?」
マキナ
「がんばった」
マキナ
「えらかったよ」
マキナ
「…………なにか」
小鴨 チカ
優しい言葉。
マキナ
「マキナに、してほしいこと」
マキナ
「あるんじゃないですか」
小鴨 チカ
おげえ~~~~~~~~!!!!!!!
小鴨 チカ
やめろ!キャパが……キャパが!
小鴨 チカ
「な、なんで……」
マキナ
*R1 マキナの行動
マキナ
*距離をはかる hA
マキナ
*マキナの次の達成値が1上昇します
マキナ
「なんでって……」
マキナ
「……違った?」
小鴨 チカ
「…………ええ~……ど、どっかなあ?」クソみたいな返事が出た。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
泣きそう。
マキナ
「……ちゃんと言わないとダメって」
マキナ
「マキナは言った気がするんですけど~」
小鴨 チカ
「だってぇ!」
小鴨 チカ
「言ったらなんか……そういう空気になっちゃうじゃん!」
マキナ
「……いやですか?」 
小鴨 チカ
「マキナさんはいいの? マキナさんぼくの事好きなの!?」
マキナ
「……いいですよ」
マキナ
「マキナは、そうなっても」
マキナ
2つ目の質問には答えない。
小鴨 チカ
「…………」
マキナ
*手札捨てタイム
マキナ
*c10捨て
小鴨 チカ
*s2 hJを破棄
マキナ
*手札補充
小鴨 チカ
*c2 s5 d9
マキナ
*c4 dJ sJ
マキナ
*R2 チカの手番
小鴨 チカ
いい、だって?
小鴨 チカ
………………。
小鴨 チカ
「……怖かったんじゃないのかよ」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「怖い事されてたじゃん!」
マキナ
「……された、けど」
マキナ
「……マキナがする分には」
マキナ
「別に……ですし」
マキナ
「……できますよ」
小鴨 チカ
*アピール[s5]
マキナ
*誘い受け c4
マキナ
2d6+2+1 距離を測るが乗ります
DiceBot : (2D6+2+1) > 6[4,2]+2+1 > 9
マキナ
*チカの目標値は9
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 8[3,5]+2 > 10
マキナ
*成功です
[ マキナ ] 情緒 : 0 → 1
小鴨 チカ
「できるって言い方、なんか……やだ」
マキナ
「……ご褒美」
マキナ
「ほしくないんですか」
マキナ
わずか、視線が落ちる。
小鴨 チカ
「~~、マキナさんがヤな事は、したくないの!」
マキナ
「……や、とか」
マキナ
「は、別に…………」
マキナ
消え入るように、声量が落ちる。
小鴨 チカ
「……ここの館の人たちとは、仲良くなれないんだから」
小鴨 チカ
「マキナさんと仲良くなれるのは、ぼくだけなんだから……」
マキナ
黙って聞いている。
小鴨 チカ
「……だから、好きにはなってもらえなくても」
小鴨 チカ
「落ち着ける場所っていうか」
小鴨 チカ
「怖くない、安心できる相手っていうか」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「オアシスみたいになりたい……」
マキナ
「……おあしす」
マキナ
ぼんやりとその言葉を繰り返す。
小鴨 チカ
「……ちょろさでは、負けないといいますか」
小鴨 チカ
「この、キャラとしての、怖くなさといいますか」
小鴨 チカ
「そういうところぐらいしか、自信があるところがないんです」
マキナ
視線を上げて、チカを見る。
マキナ
マキナよりもわずかに目線が低い。
マキナ
「怖くは……ないね」
マキナ
「たしかに」
小鴨 チカ
「でしょ~!?」
マキナ
*R2 マキナの行動
マキナ
*アピール dJ
小鴨 チカ
*誘い受け[c2]
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 4[1,3]+2 > 6
マキナ
*失敗
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 1 → 2
マキナ
2d6+2=>7
DiceBot : (2D6+2>=7) > 6[4,2]+2 > 8 > 成功
マキナ
*成功
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 2 → 3
小鴨 チカ
よし……なんか、話をする空気になってきた!
小鴨 チカ
今だ!今のうちに心を落ち着けて……
マキナ
「……チカくんは、こわくない」
マキナ
言って、
マキナ
とん、と
小鴨 チカ
紳士的な対応を……
マキナ
チカの肩を押す。
小鴨 チカ
紳士的な、
小鴨 チカ
「しん、っ」
小鴨 チカ
「な、なにぃ?」
マキナ
チカの身体をベッドに倒して、
マキナ
上から顔を覗く。
マキナ
「……怖くないから」
マキナ
「大丈夫、ですよ」
マキナ
「がんばったご褒美、ですもん」
小鴨 チカ
「…………………………まじですか……?」
マキナ
「…………それとも」
マキナ
「あれ、見た後じゃ」
マキナ
「する気にならない?」
マキナ
見下ろしながら、
小鴨 チカ
「あ、あれって……」なんとか余裕を保とうと。
マキナ
口調はあくまで淡々と。
小鴨 チカ
「……なんですか」引き延ばそうとして、ついとっさに聞き返してしまった。
マキナ
「あれ」
小鴨 チカ
馬鹿!
マキナ
「…………」
マキナ
「見たじゃないですか……」
マキナ
笑っている。
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
「ごめん……なさい……」
小鴨 チカ
馬鹿~~~!!!
マキナ
「……いいですよ」
マキナ
「別に」
マキナ
「いやなら、」
マキナ
「いや、でも」
マキナ
「……別に、ですし」
小鴨 チカ
「ちがくて!」
小鴨 チカ
「ちがうの!ちがくて!!」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「マキナさんはいつでも可愛くて、み、魅力的で…………」
マキナ
*一回チカくんに手番回したほうが良さそうなので手札捨てタイムです
マキナ
*廃棄なし
小鴨 チカ
*d9破棄!
小鴨 チカ
*h2 h3 s4 は?
マキナ
*d3 cJ(sJ)
小鴨 チカ
???
マキナ
誘い受け野郎!
マキナ
*R3 チカの手番
小鴨 チカ
*パスします
マキナ
パスのロールを……しますか?
小鴨 チカ
いいや!
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
こうなってるのは、あくまで、ぼくが、クソめんどくさい童貞丸出しの性格をしてるからにほかならないわけで。
マキナ
マキナは変わらずチカを見下ろしている。
小鴨 チカ
そもそも女の人は、こういう事をするのが怖いんじゃないかなーっていう思い込みだとか。
小鴨 チカ
相方のマキナさんを食い物にしたくないなって気持ちとか。
小鴨 チカ
自分が変わっちゃうんじゃないかなっていうよくわかんない恐怖とか。
マキナ
逆光になっていてマキナの表情は窺いづらい。
マキナ
口元には変わらず笑みを浮かべているが。
小鴨 チカ
そっちがもっと押してくれればって期待とか。
小鴨 チカ
ぼくは見下ろされてる。
小鴨 チカ
場の空気はマキナさんが握ってる。
マキナ
チカを見ている。
小鴨 チカ
だから、マキナさんから来るんじゃ、仕方……ない……よな?
マキナ
*R3 マキナの手番
マキナ
*アピール cJ
小鴨 チカ
*誘い受け h2
マキナ
来い!
小鴨 チカ
2d+2
DiceBot : (2D6+2) > 10[6,4]+2 > 12
マキナ
たっけえな
マキナ
2d6+2=>12
DiceBot : (2D6+2>=12) > 11[5,6]+2 > 13 > 成功
小鴨 チカ
*高いぞ!目標値12
小鴨 チカ
??????
マキナ
*なんと成功です
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 3 → 4
マキナ
チカの顔の隣に、手をつく。
マキナ
半身が覆いかぶさるような姿勢。
マキナ
毛先がチカの素肌をくすぐる。
小鴨 チカ
「……っ」まただ。
マキナ
「……最後までは」
マキナ
「して、あげられないんですけど」
マキナ
「…………でもね」
小鴨 チカ
「ぐすっ……」涙が出る。
マキナ
「多分、」
マキナ
「満足は、してもらえると」
マキナ
「思うんです」
小鴨 チカ
「…………う、ううっ」
小鴨 チカ
胸が痛い。
マキナ
手を、チカの肩に這わせる。
小鴨 チカ
「っ」
小鴨 チカ
最後までって。
小鴨 チカ
「それって……あれのせいなの?」
マキナ
つつ、とくすぐるように指が滑り、
マキナ
ゆるいシャツの下に潜り込む。
小鴨 チカ
くすぐったい。
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
人に触られることに慣れてない。
マキナ
「……最後、まで」
マキナ
「あと2回」
マキナ
「勝ち残ったら」
マキナ
「そしたら、してあげます」
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
……それをエサにして、頑張らせようってことだよな。
マキナ
柔らかい指先がチカの身体をなでる。
小鴨 チカ
……その褒美を与えるくらいなら、死ぬよりはマシって事だよな。
マキナ
チカの服を乱し、しかし
マキナ
自分は一切脱ごうとはしない。
マキナ
シャツの首元を緩めることすらなく。
小鴨 チカ
……マキナさんがそうしたいって、思ってくれてるわけじゃ、ないよな…………。
マキナ
*手札捨てタイム
マキナ
*d3廃棄
小鴨 チカ
*h3s4捨て!
マキナ
がんばれ
小鴨 チカ
*d7,c5,Jo
マキナ
*c8 d10(sJ)
マキナ
*R4 チカの手番
小鴨 チカ
*アピール[c5]
マキナ
*誘い受け d10
マキナ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 7[6,1]+2 > 9
マキナ
*目標値は9
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 6[4,2]+2 > 8
小鴨 チカ
あっ。
マキナ
*失敗ですね
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 4 → 5
マキナ
「……チカくんは、動かないでいいですよ」
小鴨 チカ
「ま、待って」
マキナ
「だから」
マキナ
「ねぇ、」
マキナ
「マキナに、何か」
マキナ
「してほしいこと」
マキナ
「あるんじゃないですか……?」
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
「……笑わない?」
マキナ
「……はい」
小鴨 チカ
「……なんて言っても?」
マキナ
チカのシャツを捲りあげ、脇腹から手を差し込み、
マキナ
「はい」
マキナ
「なんですか?」
マキナ
「マキナにどうしてほしいですか?」
小鴨 チカ
「………………っ」
小鴨 チカ
「す、」
マキナ
「す?」
小鴨 チカ
「好きって、言って……」
マキナ
「…………」
マキナ
笑いこそしなかったが、
マキナ
意表をつかれたように、ぱちぱちと目を瞬かせる。
マキナ
「言われながらしたいってことですか?」
小鴨 チカ
「今回、言われて!」
小鴨 チカ
「次回、いちゃいちゃして!」
小鴨 チカ
「最後に、したいんだよ!」
マキナ
「…………」
マキナ
「昨日」
マキナ
「胸」
マキナ
「触ったのに……」
マキナ
責めると言うより、
マキナ
そんなことでいいのかと、
小鴨 チカ
「そ、それは……」
マキナ
そういうニュアンス。
小鴨 チカ
「…………だって……」
マキナ
手はシャツの下に潜り込んだまま止まっている。
小鴨 チカ
「……しょうがないじゃん……」
マキナ
「…………」
マキナ
戸惑うような目で、チカを見ている。
小鴨 チカ
「……だってぇ…………」
小鴨 チカ
これ以上聞くな。
小鴨 チカ
泣くぞ。
マキナ
「……だって?」
小鴨 チカ
「…………仲良くなって付き合って、そっからこう……ゴールインしたいじゃん……」
マキナ
「………………」
マキナ
ぽかん。
マキナ
「…………マジで、」
マキナ
「言ってる?」
小鴨 チカ
「わかんねえよぉ!!」
小鴨 チカ
泣くぞ!!!!
小鴨 チカ
もう泣いてんのか?目ェ濡れてるが。
小鴨 チカ
「そりゃあ、だって、こんな、こんなことされたら、そりゃあ、そりゃあだよ!」
マキナ
「……こんな」
小鴨 チカ
「押し倒したり、思わせぶりなこと言ったり、近かったり!」
小鴨 チカ
「それでこんなご褒美とか!」
小鴨 チカ
「心動くに決まってっけど!」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「でも、だって……」
小鴨 チカ
「そんなんで釣って動かすような奴のこと……」
小鴨 チカ
「好きになって、くれんのかよ……」
マキナ
「……私、は」
マキナ
「…………」
マキナ
「好き、とか……」
マキナ
言葉を探すように、黙り込む。
マキナ
目線が泳ぐ。
小鴨 チカ
「……マキナさんは……」
小鴨 チカ
「人を好きになれないの?」
マキナ
「……ならない、ことは、ないけど」
マキナ
「……」
マキナ
「わかんない…………」
マキナ
「好きだなって思っても、私にとっては」
マキナ
「切り捨てられるん、です」
マキナ
「……それって、多分、好きじゃない……」
小鴨 チカ
「…………」
マキナ
「……わかんない」
マキナ
チカの身体から手を引いて、
マキナ
ぼす、
マキナ
マキナ
隣に倒れ込む。
小鴨 チカ
体温が離れていく……。
小鴨 チカ
寂しい。
マキナ
しかし先程よりよっぽど顔の距離が近い。
小鴨 チカ
「ぼくは……」
マキナ
隣から、同じ目線の高さで
小鴨 チカ
「好きって言ってくれたら、がんばれるよ」
マキナ
マキナはチカを見ている。
マキナ
「…………私の、」
マキナ
「言葉でも?」
小鴨 チカ
「マキナさんの声でそれが聞けたら……」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「きっと、“マキナさんを”死なせないことを、最優先に、できると思う」
小鴨 チカ
「何されても、許すよ」
マキナ
それでいい。
マキナ
マキナは生き残るためにチカを利用する。
マキナ
それでいい、
マキナ
はずなのに。
マキナ
「…………」
マキナ
「だめだよ、それじゃあ」
マキナ
「私だけじゃ生き残れないんだから」
マキナ
「チカくんが死んだら、マキナも……」
マキナ
「……殺される」
小鴨 チカ
「そうだね……」
小鴨 チカ
「二人で、生き残りたいね」
マキナ
「……うん」
マキナ
「二人で生き残るか……」
マキナ
「二人で、死ぬか」
マキナ
「それしか、ないんだもん……」
小鴨 チカ
「……怖いね」
マキナ
「…………」
マキナ
「うん……」
小鴨 チカ
「でも」
小鴨 チカ
「今度はもっと、うまくやらなきゃ……」
マキナ
「……うん」
マキナ
「……ずっとね、マキナは」
マキナ
「うまく、やってきたの」
マキナ
「なんとなく、想像つくと思うけど……」
小鴨 チカ
「うん……」
マキナ
「……ついに、失敗しちゃったなって、感じ……」
小鴨 チカ
人に取り入る過程で、他の人を蹴落としたりとか、こうやって体を使ったりとか、頼る相手を乗り換えたりとか。
小鴨 チカ
そういう事をして、生きてきたんだろうな。
マキナ
「うまく、できなかったなぁ……」
マキナ
それはお茶会や裁判でのことを言っているようでもあり、
マキナ
まさに今、チカを篭絡しそこねたことを言っているようでもあった。
小鴨 チカ
「…………」
小鴨 チカ
上手く出来なかった。
小鴨 チカ
ぼくなんて、ずっとそうだ。
小鴨 チカ
ずっとカッコ悪くて、よかった時なんて無かった。
マキナ
チカの方に寝返りを打つ。
小鴨 チカ
殺すのが嫌で、血を見るのが嫌で、逃げた先は鈍器で。
小鴨 チカ
そうやって戦った結果、何度も何度も殴りつける事になって、それでも相手は死ななくて。
小鴨 チカ
しまいには結局、自分では終わらせられなくて。
小鴨 チカ
とどめを刺さずに済んだことに、今になってどこかホッとしてる。
マキナ
胸元に投げ出されている腕の先、
マキナ
その指がかすかに震えている。
小鴨 チカ
形だけ、いい子っぽくあれば、ぼくはいいんだ。
小鴨 チカ
だからマキナさんに、そんな遠慮されるような人間じゃないんだよ。
小鴨 チカ
ぼくがマキナさんにご褒美をあげたい。
小鴨 チカ
ぼくがマキナさんに尽くしたい。
小鴨 チカ
使い勝手のいいパートナーで構わない。
小鴨 チカ
好きって言って、ぼくを騙してくれればいい。
小鴨 チカ
「マキナさん」
小鴨 チカ
何度でも言う。
マキナ
「……ん」
小鴨 チカ
「ぼくは、怖くないよ」
小鴨 チカ
「ぼくを頼って、ぼくを使って」
マキナ
「……チカくん」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「……さっきみたいな、ことは、マキナさんがしたいと思ったら、で、いいから……」
小鴨 チカ
「あと二回までになんとか、そう思ってもらえるように、がんばります……」
マキナ
「……うん」
小鴨 チカ
マキナさんは、これならいいだろ?
小鴨 チカ
ぼくがやる気を出して、利用しやすくなって。
小鴨 チカ
体も張らなくてよくなって。
小鴨 チカ
体を使うまでもなく、篭絡、大成功じゃん。
マキナ
こうやって好意を向けられていれば、一番御しやすい。
マキナ
楽な話だ。
マキナ
なのに、どこか表情は浮かなく。
マキナ
「…………槇名」
マキナ
「……優子」
マキナ
「私の、名前」
小鴨 チカ
「え」
マキナ
「名前、あんま好きくなくて」
マキナ
「だからマキナでいいけど」
小鴨 チカ
苗字だったのか。
小鴨 チカ
「あ、あっ」
マキナ
「……優子って、なんか」
マキナ
「あんまりじゃない?」
マキナ
「マキナの方が好き」
小鴨 チカ
「……優しい子って書いて、優子?」
マキナ
「うん」
小鴨 チカ
「……マキナさん、第一印象はクソだし、裁判の振る舞いもカスだったけど」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「……ぼくには、優しい子だったよ」
マキナ
「…………」
マキナ
口を開いて、だけど言葉が出てこなくて、
マキナ
沈黙。
マキナ
「……そう」
マキナ
挙げ句に、そっけなくそれだけ返す。
小鴨 チカ
スベったかな。
小鴨 チカ
恥っず。
マキナ
「……チカくん」
小鴨 チカ
「……うぇ?」
マキナ
「……」
マキナ
「…………」
マキナ
「……す、」
マキナ
「……」
マキナ
「すき」
小鴨 チカ
「…………………………」
小鴨 チカ
「……………………」
マキナ
「言ってって言ったから」
マキナ
「言ってって言ったから!」
小鴨 チカ
「うぇ……」
小鴨 チカ
「わ~~~~!!!」
小鴨 チカ
「うわああん!!」
小鴨 チカ
「泣かないように……さっきまで頑張ってたのに!」
マキナ
「えっ……」
マキナ
びっくりしている。
マキナ
「自分で言ったのに……」
小鴨 チカ
「だってえ!」
小鴨 チカ
「泣くじゃん!こんなの!!」
マキナ
「え~?」
マキナ
「ウケる……」
マキナ
そう言って、笑いながら、
マキナ
チカにつられたように目の端に涙がにじみ、
マキナ
ぽろぽろとこぼれ落ちる。
小鴨 チカ
「う~~!!」
マキナ
「……っ、」
マキナ
「う、うう」
マキナ
「ちが、」
マキナ
「なんで」
小鴨 チカ
「……マキナさんまで」
小鴨 チカ
「なんで、泣いてんのぉ……」
マキナ
「ちがう、」
マキナ
「ちがうから……っ」
小鴨 チカ
「ちがくない!」
小鴨 チカ
「泣いてる!絶対泣いてる!」
マキナ
袖で涙を拭い、そのまま顔を覆う。
マキナ
「……泣いてないです」
小鴨 チカ
「名前……」
小鴨 チカ
「なんで、教えてくれたの……」
マキナ
「……なんとなく」
小鴨 チカ
「そうやって!」
小鴨 チカ
「気を許した風な感じ出してくる!」
小鴨 チカ
「だから騙されるんだよ~~~!!!」
マキナ
「…………」
マキナ
「信じないで……」
マキナ
「騙されないで…………」
小鴨 チカ
「言ったじゃん!」
小鴨 チカ
「信じやすいからって!」
マキナ
蚊の鳴くような声で、そう呟く。
小鴨 チカ
「何度も騙されますって!」
小鴨 チカ
「バーカバーカバーカ!」
マキナ
「チカくんがばかだよ……」
小鴨 チカ
「じゃあ両方バーカ!」
マキナ
「…………」
マキナ
時折肩を震わせて、嗚咽がこぼれ、
マキナ
すすり泣く。
小鴨 チカ
「あのお茶会の時点でさあ……」
小鴨 チカ
「ドちょろいの、分かってんじゃん……」
マキナ
「…………うん」
小鴨 チカ
「ここまでしなくても、割と簡単に扱えるのに!」
マキナ
「……戦う相手にまで、あんな」
マキナ
「ちょろいの……」
マキナ
「どうかと思う……」
小鴨 チカ
「うるっせ!」
小鴨 チカ
「仲間としても御しやすいだろ!」
小鴨 チカ
「なのになんか踏み込んできて期待させて、めんどくさいメンヘラみたいにしちゃってんじゃん!」
小鴨 チカ
「貢ぐぞ!このやろう!」
マキナ
「いらないよ……」
マキナ
「チカくん、別に、そんな」
小鴨 チカ
「いるって……言えよぉ……」
マキナ
「ないでしょ、貢ぐほど……」
小鴨 チカ
「うるせえ……」
小鴨 チカ
搾り取れよ。
小鴨 チカ
口約束でもこじつけといて、優勝できたら儲けもんだろ。
小鴨 チカ
騙されるつもりで挑んでんだぞ。
小鴨 チカ
騙される覚悟してきてんのに。
小鴨 チカ
騙されてないかも?って変な期待させるのマジやめろ。
マキナ
いやだ。
マキナ
いやで堪らない。
マキナ
好意を向けられるのがこんなに苦しい。
マキナ
今まで表の側しか他人に見せてこなくて、
マキナ
愛されるように振る舞ったなら愛されるのは当たり前で、
マキナ
……期待させないでほしい。
マキナ
好きになれるかも、とか
マキナ
好きになってもらえるかも、とか。
マキナ
そう思ったらよけいに、
マキナ
身体に残った傷が気になったりしてしまって。
小鴨 チカ
「うー」
小鴨 チカ
「貢げなかったら……対等な感じになっちゃうじゃん……」
小鴨 チカ
「性格クソのくせに、今更いいこぶってんじゃねーぞ……」
マキナ
「……ごめん…………」
マキナ
マキナの力は自分を癒す力。自分を守る力。
マキナ
これまでの裁判で負った傷は、どこにも残っていない。
マキナ
全て、きれいに癒やしてしまったから。
マキナ
だけど、
小鴨 チカ
最初は悪女だと思ったのに、自分のやった事で心痛めてそうなとことかもあって。
マキナ
昨日の傷痕ははっきりと残っている。
小鴨 チカ
意外とフツーにいい子だなとか思っちゃって、そのギャップがまた気になって。
マキナ
増えたコインの力で治そうとしても、少しも変わらなかった。
小鴨 チカ
信じたくない気持ちと信じたい気持ちとか、
マキナ
それだけ深く心に疵をつけられたのだと、
小鴨 チカ
全部投げ出して欲望のままに甘えたい気持ちと、自分を律して彼女に頼られて好かれたい気持ちとか。
マキナ
他人事のように思う。
小鴨 チカ
そういう色々が色々で、張り裂けそうで。
小鴨 チカ
「マキナさん、ぼくね」
マキナ
「…………?」
小鴨 チカ
「マキナさんのこと、ドン引きするくらい好き」
マキナ
「…………」
マキナ
「……あり、がとう」
マキナ
それ以外に返す言葉が思いつかないのか、黙り込む。
小鴨 チカ
「マキナさんは元がクソだし……言いにくい秘密とか、嫌なこととかもいっぱいしてそうだし……なんか、ちょっと、こう、色々、細かいとことか、聞きにくいんだけど」
小鴨 チカ
「ぼくはね!マキナさんのこと、知りたいから!」
小鴨 チカ
「全部!知りたいから!」
小鴨 チカ
「めっちゃ知りたいこと、いろいろ我慢してるから!」
マキナ
「…………全部、って」
マキナ
「最悪だよ、結構……」
小鴨 チカ
「だから言いにくいだろうな~って!」
小鴨 チカ
「がまんしてるんです!!」
マキナ
「……」
マキナ
「知ってもいいことない……」
小鴨 チカ
「そうじゃなくてえ!」
小鴨 チカ
「いいこととか悪いこととかじゃなくて!」
小鴨 チカ
「知りたいんです!」 
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「だいたいさあ!」
マキナ
「…………う、ん」
マキナ
「?」
小鴨 チカ
「裁判前の、あン時から、明らかテンション低いじゃん!」
小鴨 チカ
「そういうの!相談されて、力になれるくらい、親密になりたいなーと思っています!」
小鴨 チカ
「下心込みで!!!」
マキナ
「…………」
マキナ
「相談って、だって……」
マキナ
「しても、」
マキナ
「もう……」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「……ぼくは……」
マキナ
「……しても、だって」
マキナ
「治ん、ないの……」
小鴨 チカ
「……ぇ」
マキナ
「傷……」
マキナ
「残、って」
小鴨 チカ
「え」
マキナ
「今まで、こん、なの」
マキナ
「なかった、のに」
小鴨 チカ
「治せるんじゃなかったの……?」
マキナ
「あの時の、だけ」
マキナ
「……治せると、」
マキナ
「思った、のに」
小鴨 チカ
「……………………」
マキナ
「どう、にも」
マキナ
「どうにも、ならない、の……」
小鴨 チカ
「…………そんな……」
マキナ
顔を腕で隠したまま、
マキナ
震える声でぽつぽつと語る。
小鴨 チカ
ひどい。
小鴨 チカ
ネイルさん、何てことしてくれたんだ。
マキナ
「だから、ね」
マキナ
「最後まで、って」
マキナ
「言ったのも、」
マキナ
「嘘、だから」
マキナ
「ごめんね」
マキナ
「信じないで」
マキナ
「わ、たし」
マキナ
「こんな、でも」
マキナ
「嘘、が」
マキナ
「つけちゃうの」
マキナ
「信じちゃ、」
マキナ
「信じちゃダメ」
小鴨 チカ
「…………………………じゃあ」
小鴨 チカ
「なんで今、言っちゃうんだよ」
小鴨 チカ
「ぼくを騙すつもりなら、最後まで嘘ついてもよかっただろ」
マキナ
「……わかんない」
マキナ
「わかんないよぉ……」
小鴨 チカ
「つけてないじゃん、嘘!」
マキナ
背を丸めて、ぐすぐすと泣いている。
小鴨 チカ
「こんなだけど嘘がつけるから信じるな?」
小鴨 チカ
「逆じゃないですか!」
マキナ
「逆じゃない……」
小鴨 チカ
「嘘つけないから、信じてって言えよ!」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「自分の損になること、なんで言うんだよ!」
マキナ
黙り込む。
小鴨 チカ
「ぼくになら言ってもいいって、思ってくれたんだろ!」
マキナ
返事はない。
マキナ
「……信じないで」
小鴨 チカ
「信じちゃうんだよ!」
マキナ
ただ、そう繰り返す。
マキナ
「ばか…………」
マキナ
「ちょろすぎるよ……」
小鴨 チカ
「うるせー……」
小鴨 チカ
「……疵がさ」
小鴨 チカ
「残ってるなあ、とは思ってた」
小鴨 チカ
「ずっと暗いし」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「ビビリのぼくよりビビってるし」
小鴨 チカ
「だけど、心の方かなって」
小鴨 チカ
「体に痕が残ってるとは、思ってなくて」
小鴨 チカ
「全然気づかなくて……一人舞い上がって、ドキドキしてて……」
小鴨 チカ
「ごめんね……」
マキナ
「……ううん」
マキナ
「……私、が」
マキナ
「誤魔化してた、から」
マキナ
「……別に」
小鴨 チカ
「そういうのは」
小鴨 チカ
「嘘じゃなくて、強がりってんだ」
マキナ
「…………」
マキナ
「だって……」
マキナ
「そうじゃないと……」
マキナ
「そう、してないと……」
小鴨 チカ
「そういうこと言うとさあ」
小鴨 チカ
「嫌な顔するタイプの相手とばっかツルんでたろ!」
マキナ
それこそヨハンは、まさにそういうタイプだった。
マキナ
マキナの都合にも事情にも構いはしない。
マキナ
ここにいるのが彼ならば、優しい言葉などかけられることはなかっただろう。
マキナ
「……そういう、人は」
マキナ
「まあ、」
マキナ
「確かに、結構、いたけど……」
小鴨 チカ
「ぼくはね!」
マキナ
「……でも、私も」
マキナ
「相手の、都合いいとこばっかり」
マキナ
「利用して、きたから……」
小鴨 チカ
「うるせえ!いいんだよ!」
小鴨 チカ
「ぼくはマキナさんのことが好き!」
小鴨 チカ
「だから役に立ちたい!」
小鴨 チカ
「いいように使え!愚痴でもなんでも吐け!」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「好感度、下がらないように出来てっから!」
小鴨 チカ
「だからぁ…………」
小鴨 チカ
「外傷を治すとかはできなくてもさあ……」
小鴨 チカ
「辛いときに、一緒に泣いたりは……ほら。できたじゃん……」
マキナ
「……チカくん」
マキナ
「うん…………」
マキナ
「……あのね」
マキナ
「私、やっぱり」
マキナ
「ペアの相手」
マキナ
「チカくんじゃない方が、よかった」
小鴨 チカ
「……なんで?」
マキナ
「……チカくんみたいな子は」
マキナ
「こんなところにいたら、だめなの」
小鴨 チカ
「…………」
マキナ
「……だめだよ」
マキナ
「違う人がよかった……」
小鴨 チカ
「いや待てよ」
小鴨 チカ
「マキナさんもだよ」
マキナ
転がって、チカに背を向ける。
マキナ
「……マキナは」
マキナ
「いいの」
小鴨 チカ
「よくない……」
マキナ
「ひとごろし、だもん……」
マキナ
「……初めての裁判の、相手」
マキナ
「女の子だった……」
マキナ
「小学生、くらいで」
小鴨 チカ
「………………」
マキナ
「殴って、叩かれて、」
マキナ
「剣で切られて、殺された」
マキナ
「……私はそれを見てた」
マキナ
「止めなかった」
マキナ
「……笑って、見て、た」
小鴨 チカ
「…………マキナさんは……」
小鴨 チカ
「元の世界で、人を殺したことはある?」
小鴨 チカ
「元の世界に戻って、人を殺せる?」
マキナ
背を向けたまま、首を横に振る。
小鴨 チカ
「じゃあ、やっぱ、ここに居るべきじゃないよ」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「やってきたことにさ」
小鴨 チカ
「自分でしっかり傷ついてんじゃん」
マキナ
「……見てないから」
マキナ
「そう、言えるんだよ」
小鴨 チカ
「そりゃそうだけど!」
マキナ
「私は、自分が」
マキナ
「生きるためなら、それで」
マキナ
「私のこと信じてるって、」
マキナ
「そう言ってくれた女の子でも」
マキナ
「平気、で……」
小鴨 チカ
「言動と態度が……」
小鴨 チカ
「矛盾してんだろうが!」
マキナ
平気で、裏切って、傷つけて、
マキナ
だから、いつか、
小鴨 チカ
「平気?嘘こけ!」
マキナ
罰が当たるんじゃないかと
マキナ
心のどこかで、思ってきた。
マキナ
それが、この儀式なんじゃないかと。
マキナ
「平気だもん……」
小鴨 チカ
「そーですか!そりゃあよかった!」
小鴨 チカ
「じゃあ、優勝して元の世界に帰って、にっこり幸せになれますね!」
マキナ
「うん…………」
マキナ
「…………うん」
小鴨 チカ
「……マキナさん」
小鴨 チカ
「さっきから嘘つくのクソヘタじゃん……」
マキナ
「…………」
マキナ
「……騙されてよ」
マキナ
「そこは……」
小鴨 チカ
「小学生も騙せねーよ」
小鴨 チカ
「お粗末、へっぽこ、ばーか!」
マキナ
「うう…………」
マキナ
だって、とか、でも、とか意味のない言葉を吐いて、
マキナ
それに継ぐ言葉を見つけられずにいる。
マキナ
もうどうやったって最初のように取り繕えないことを、自分が一番よく分かっている。
小鴨 チカ
「マキナさんが……」
マキナ
「……」
小鴨 チカ
「思ったより凡人で、ザコで、ポンコツだった」
小鴨 チカ
「これなら力になれるなって。頼ってもらえるかなって。ちゃんと頑張ろうって思えた」
マキナ
「……頼りにしてるよ」
マキナ
「最初から」
小鴨 チカ
「大人のお姉さんかと思ったけど、マキナさんも結構ガキだよね」
マキナ
「……チカくんより大人ですぅ」
マキナ
「マキナ17ですし……」
小鴨 チカ
「同い年ですぅ!」
マキナ
「えっ」
小鴨 チカ
「言いたいことはわかるけど!」
マキナ
思わず、チカの方を向く。
マキナ
華奢な体躯が目に入る。
マキナ
「……弟と」
マキナ
「同じくらいかと」
小鴨 チカ
「……弟いるって初めて聞いた」
マキナ
「……初めて言った」
マキナ
「別に、言う必要なかったし……」
小鴨 チカ
「マキナさんのこと全然知れてない……」
マキナ
「……私も、チカくんのこと知らないよ」
マキナ
「全然知らない」
小鴨 チカ
「なんでも言うよ」
小鴨 チカ
「幼稚園のころ、スカートめくりを流行らせたくてスカートをめくって、でも他に誰も乗ってくれなくてぼくだけ怒られた話とか」
マキナ
「…………」
小鴨 チカ
「小学校のころ、仲良い女子に好かれてるって勘違いして、付き合ってるって周囲に言いふらしてみんなに迷惑かけた話とか」
マキナ
くす、とかすかに笑う。
マキナ
「そんなのばっかり?」
小鴨 チカ
「中学校のころ、女の子のオタク友達の気をひこうとしてが彼女が好きなBLカプのR18カラミを書いたら地雷だったらしくて泣かれて、親と校長室に呼ばれた話とか」
マキナ
「なにそれ……」
マキナ
また笑って、
小鴨 チカ
「最近だと、山に落ちてるエッチな本に夢中になってたら、持ち主のおじさんと鉢合わせた話とか……」
マキナ
「気まずい」
小鴨 チカ
「ぼく、結構いいとこの生まれで、親に甘やかされてきて、割と……プライベートを大事にしてくれる人で……」
マキナ
「……チカくん」
マキナ
「今日は、もう寝よう」
小鴨 チカ
「……気付いたら、親に誇れない事ばっかやってて、家の落ちこぼれで……」
マキナ
「寝て、またあした」
マキナ
「ゆっくりお話しよ」
小鴨 チカ
「…………」
マキナ
「明日はまだ、大丈夫だから」
マキナ
「ね」
小鴨 チカ
「悪い夢……」
小鴨 チカ
「見たら、起こしてね」
マキナ
「……うん」
マキナ
「起こすから」
小鴨 チカ
「役に立つこと、あったら、何でも言ってね」
マキナ
「隣に、いてね」
小鴨 チカ
「いる」
マキナ
「……うん」
マキナ
「ありがとう」
小鴨 チカ
「ずっといる。優勝するまでずっと」
小鴨 チカ
「全員倒して、この世界から離れよう」
マキナ
「……うん」
マキナ
「うん」
マキナ
とまっていた涙がまた溢れる。
マキナ
やっぱり、
マキナ
どう考えても、ペアの相手は、
マキナ
チカじゃない方がよかった。
小鴨 チカ
「おやすみ……」
マキナ
「……おやすみ」
小鴨 チカ
ペアの相手が、マキナさんでよかった。
小鴨 チカ
この人のために頑張れる。
マキナ
怖い。
小鴨 チカ
生き残って、この人をこの世界から連れ出して、
マキナ
自分が死んだら、この子も死んじゃうんだ。
小鴨 チカ
幸せになりたい。
マキナ
幸せになれずに。
マキナ
こんなところで。
マキナ
「…………」
マキナ
チカの手に自分の掌を重ねる。
小鴨 チカ
どきっとする。
マキナ
それ以上は何もせず、
マキナ
「おやすみ…………」
マキナ
再度、そう言って
小鴨 チカ
触ってくれる。話しかけてくれる。
小鴨 チカ
「……ん」
マキナ
それきり静かになる。
小鴨 チカ
好きだな。
小鴨 チカ
だめになりそう。
小鴨 チカ
一生忘れない。
小鴨 チカ
心はドキドキするけど、体はぐったり疲れてて、深ぁくベッドに沈んでく。
マキナ
手を重ねて、並んで眠る。
小鴨 チカ
槇名さん。……優子……さん。
小鴨 チカ
いつかそう呼びたいな。
小鴨 チカ
呼べたらいいな。
小鴨 チカ
怒られちゃうかな?
小鴨 チカ
でも、案外悪くないって顔、してくれたりして。
マキナ
しばらくはぐずっていたが、やがてそれもおさまっていき、
マキナ
静かに寝息を立てる。
小鴨 チカ
だんだんと意識が離れていく。
小鴨 チカ
手は握ったまま。
小鴨 チカ
苛まれると思った今日の記憶も、今だけは大人しい。
小鴨 チカ
きっと、明日になったら、また辛い。
小鴨 チカ
だから、今日だけは安らかに。
小鴨 チカ
その晩──
小鴨 チカ
ぼくは、悪夢を見なかった。