幕間 Room No.8
マキナ
チカとマキナはぐずぐずと泣きながら、部屋に戻ってきた。
マキナ
服はボロボロで、誰のものともつかない血や鮮やかな毒液にまみれている。
マキナ
裂けた服の下、杭で穿たれた傷はもうふさがっている。
小鴨 チカ
汗はびっしょりだけど、それでも見た目は戦いの後って感じじゃない。
小鴨 チカ
ふわふわと現実を受け入れない頭に、体の感覚が「夢じゃないぞ」って言ってくる。
小鴨 チカ
痛くはないけど、傷が塞がった時に出てくる黒ずんだ感じの痕がある。
マキナ
マキナが手をどければ、そこにあった傷痕は消えていた。
小鴨 チカ
「組んだのがマキナさんでよかったって思う」
マキナ
「マキナはやっぱりもっと強い人とがよかったよ」
小鴨 チカ
わかってたけど、言われるとズキッとくる。
マキナ
「チカくんみたいないい子に戦わせると、ほら」
小鴨 チカ
「……ぼくがどんなふうになれば、マキナさんは良かったなって思ってくれる?」
小鴨 チカ
「あの金髪の人みたいに?それとも戦った二人みたいに?」
小鴨 チカ
「面倒なんて、見なくていいような頼もしい人なら」
小鴨 チカ
「組んでよかったって、言ってくれるのかなあ……」
小鴨 チカ
……そりゃ、まあ。なれるはずもないし、ぼくがなっても変なだけだけどさ。
小鴨 チカ
「……でも、もっと強い人がよかったって……」
マキナ
「まあ……そういう意味ではペアにぴったりだったかなって」
小鴨 チカ
「ぼく相手だと、心が痛むって言ってるように聞こえる」
マキナ
雰囲気を変えるようにそう言って、立ち上がる。
マキナ
ドアノブに手をかけようとしたところで、動きが止まる。
小鴨 チカ
変に思われてないかな。声裏返っちゃったな。
マキナ
ドアノブに手をかけたまま、チカの方に振り向く。
小鴨 チカ
あれ?なんだ?なんか変だ。やらかしたか?
小鴨 チカ
ごめんなさい言う準備、しといたほうがいいか?
小鴨 チカ
一人になれなくて。ぼくなんかに助けを。
マキナ
その指先、砕かれて再生した爪には一切の飾りがない。
マキナ
安堵したような、困ったような表情でチカを見て、
小鴨 チカ
何をされたか、ちゃんと把握してるわけじゃないけど……
小鴨 チカ
……っ、やめやめ!失礼なことを考えない!
小鴨 チカ
やるべき事は、言われた通り寄り添うことだろう。
小鴨 チカ
珍しく正解がわかる。きっとそれでいい。
小鴨 チカ
だけど、その………………………………。
小鴨 チカ
冷静でいなきゃいけないやつじゃん……!
マキナ
チカに隠れるようにして、ドアの向こうを窺う。
小鴨 チカ
「ど、どうぞ……」レディーファースト、先を譲ろうとして
マキナ
物陰、シャワーカーテンの向こう、そのどこにも。
小鴨 チカ
あ、いや、やっぱ先にぼくが入ったほうがいいなと思いなおし。
小鴨 チカ
部屋をのぞきこむマキナさんとぶつかりそうになる。
小鴨 チカ
泣きすぎて嗅覚が死んでるのがせめてもの救い。
マキナ
脱いだ服をまとめているのか、ごそごそと動く気配があり、
小鴨 チカ
さらばー!地球よー!旅立ぁーつ船はー!
小鴨 チカ
あっ、さらば地球したから期末テスト免除じゃん。ラッキー。
小鴨 チカ
ちょうど今回自信なかったんだよなー!いっぱい寝ちゃってたしなぁー!!
小鴨 チカ
これマキナさんの体に水が当たってる音です!!!!!!!!!!!!
マキナ
カーテンの隙間から湯気が溢れて、少しずつ部屋の温度を上げていく。
小鴨 チカ
考えるのをやめろ考えるのをやめろ考えるのをやめろ
マキナ
あるいは分かっていながら無視しているのか、
マキナ
はたまた、チカの心境をはかる余裕がないのか。
小鴨 チカ
むりだ!吐き出させてくれ。吐き出していいか!吐き出します!
小鴨 チカ
今シャワー流してるよな?聴こえないよな?
小鴨 チカ
吊り橋的なやつだあ……絶対これそうだよ……。
小鴨 チカ
「かわいいとこも、性格クソなとこも、強がって引っ張ってくれるお姉さんなとこも、ほんとは弱いとこも、全部かわいいんだよなあ……」
小鴨 チカ
小さい声。小さい声だぞ。聴こえてない。絶対聴こえてない。たぶん。
小鴨 チカ
今の音、気のせいかなあ。こっちが泣いてるのは気のせいじゃねえんだよなあ。
小鴨 チカ
好きな子のシャワー聴きながら泣くなんて経験、人生じゃなかなか味わえないと思いませんか。
小鴨 チカ
よくわからん感情でいっぱいになると、なぜか涙が出ます。
マキナ
カーテンの隙間から腕を出し、手探りでバスタオルを取り、
マキナ
静かになった浴室で、身体を拭いている気配がする。
マキナ
音や気配でなんとなくどうしているのか分かるだろう。
マキナ
リボンこそしていないものの、着替えをきっちりと着込んでいる。
小鴨 チカ
初めて見たじゃねーよ。当たり前だろが。
小鴨 チカ
「あ、そうだね。使わしてもらおっかなー」
小鴨 チカ
今度はぼくが……、服を脱いで、音を聴いていただく番なのか?
小鴨 チカ
あー、下着もか。下着もだ!やっぱりね!知ってたよ!見ないふりをしてただけだよ!
マキナ
急な謝罪の意図を掴めず、ぼんやりとチカを見ている。
小鴨 チカ
ささっと脱いで、下着だけは中にこっそり持ち込んで、即座にシャワー。
小鴨 チカ
水の音に紛れて下着を洗う。あーあ!シャワーの勢いでうっかり濡らしちゃったなー!という事にしておこう。
小鴨 チカ
「頼りにならないし、かっこよくないし……」
小鴨 チカ
……マキナさんが弱ってるときに、こんな事してるザマだし。
小鴨 チカ
こういう細かい切り返しに、いちいちチクッてするとこも。
マキナ
「どうせ巻き込まれるなら、もっと強い人と組まされてたら……とか」
小鴨 チカ
「最初はなんでこんな信用できない弱そうなクソ女と……とか、思いはしたけど……」
小鴨 チカ
「……裏切られるかも、とは思ってるけど」
マキナ
弱みを見せれば、普通の人は少なからず心を動かされる。
マキナ
これが本当の弱みなのか、そう見せているだけなのか、
小鴨 チカ
「マキナさん、自分が一番かわいいってタイプの人でしょ」
小鴨 チカ
「金髪の人がやられたときも、すぐに生き残れそうな方についた」
小鴨 チカ
「ずっと一緒にやってきた人でもそれができるんだから……」
小鴨 チカ
「会ったばっかのぼくでも、同じような事、できるでしょ……?」
マキナ
同じイタズラをして、内緒にしようと約束して、
マキナ
告げ口をしたマキナだけが許され、弟はひどく叱られた。
小鴨 チカ
なんとなく許されそう。怒らせても怖くなさそう。懐柔しやすそう。理由はさまざま、でも似たようなもんで。
小鴨 チカ
そこにぼくの早とちりやら誤解やらも乗っかって、とにかくなんか勝手に期待しては勝手に傷ついてばっかの人生だった。
小鴨 チカ
明確な裏切りもあれば、ぬれぎぬみたいなぼくの妄想もあったりはして、まあぼくの性格にももちろん問題はあるんだけど。
マキナ
昨日会ったばかりの即席ペアで、生死の賭けられたこの場で、
小鴨 チカ
友達に山ほど借りパクされて、そういうのを友達とは言わないってのはもうちょっと後に知ったりだとか。
小鴨 チカ
女の子にそれっぽいことを言われて、本気にしたら、からかわれてただけだったとか。
小鴨 チカ
遊ばれたり、押し付けられた利、利用されたり。
小鴨 チカ
「ぼくは割とコロッと何度も騙されっから」
マキナ
「チカくんを裏切って勝つ方法は思いついてないから」
小鴨 チカ
チカくんが死んだら私も死ぬって言葉……。
小鴨 チカ
「頑張って勝てれば、小細工もいりませんし」
小鴨 チカ
「勝てそうだな!って思ってもらえるようにしないとな!」
マキナ
「結局、負けたら勝った人たちの好きにされちゃうし……」
マキナ
こうやって一緒にいる時点で今更なことに遅れて気づく。
小鴨 チカ
「死ぬかも、ってとこで、泣きながら起きるじゃん」
小鴨 チカ
「この人も一緒にいるなあ。よかったなあって」
小鴨 チカ
「……お、お隣で寝てくれますか……?」
小鴨 チカ
マジかよ。女子が隣で……ねっ、寝息立てたりすんのか?
小鴨 チカ
髪をさっさと乾かして、バスルームだって出る。
マキナ
1d6
DiceBot : (1D6) > 3
小鴨 チカ
1d6+3
DiceBot : (1D6+3) > 2[2]+3 > 5
マキナ
ではチカくんからカードを3枚引いてください
小鴨 チカ
で、すぐそこにマキナさんがいて、一緒にベッドに向かおうとしてる。
小鴨 チカ
なんというかその……分不相応ではないか!?
小鴨 チカ
突如悪漢が現れてぼくの全身を引き裂いたりしないだろうか。
マキナ
デスゲームに巻き込まれているのは不幸なのでは?
マキナ
ぽてぽてと歩いていって、ベッドに腰掛ける。
小鴨 チカ
どうすればいいんだ。ぼくには何もわからねえ。
小鴨 チカ
→どちらのベッドに座る?
・マキナさんと同じベッド
・マキナさんの隣のベッド
小鴨 チカ
時間が経っています。ぼくは突っ立っています。
小鴨 チカ
2秒、3秒、4秒。やばいやばいやばい。
小鴨 チカ
経つほど、どんどん、好感度が下がっていくのでは!?
小鴨 チカ
どちらにしようかな、どちらにしようかな。そう、この選択にはぼくの意思は介在しない。だから……どっちが選ばれてもぼくのせいではない!こっち!アアアアアアアアアア!!!!
マキナ
壁掛け時計が秒針を刻む音が部屋に響いている。
マキナ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 8[4,4]+2 > 10
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 5[3,2]+2 > 7
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 0 → 1
小鴨 チカ
めちゃくちゃやらかしたんじゃないか!?
マキナ
「……チカくん、昨日と今日いっぱいがんばったよね」
小鴨 チカ
「…………ええ~……ど、どっかなあ?」クソみたいな返事が出た。
小鴨 チカ
「言ったらなんか……そういう空気になっちゃうじゃん!」
小鴨 チカ
「マキナさんはいいの? マキナさんぼくの事好きなの!?」
マキナ
2d6+2+1 距離を測るが乗ります
DiceBot : (2D6+2+1) > 6[4,2]+2+1 > 9
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 8[3,5]+2 > 10
[ マキナ ] 情緒 : 0 → 1
小鴨 チカ
「~~、マキナさんがヤな事は、したくないの!」
小鴨 チカ
「……ここの館の人たちとは、仲良くなれないんだから」
小鴨 チカ
「マキナさんと仲良くなれるのは、ぼくだけなんだから……」
小鴨 チカ
「……だから、好きにはなってもらえなくても」
小鴨 チカ
「怖くない、安心できる相手っていうか」
小鴨 チカ
「……ちょろさでは、負けないといいますか」
小鴨 チカ
「この、キャラとしての、怖くなさといいますか」
小鴨 チカ
「そういうところぐらいしか、自信があるところがないんです」
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 4[1,3]+2 > 6
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 1 → 2
マキナ
2d6+2=>7
DiceBot : (2D6+2>=7) > 6[4,2]+2 > 8 > 成功
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 2 → 3
小鴨 チカ
よし……なんか、話をする空気になってきた!
小鴨 チカ
「…………………………まじですか……?」
小鴨 チカ
「あ、あれって……」なんとか余裕を保とうと。
小鴨 チカ
「……なんですか」引き延ばそうとして、ついとっさに聞き返してしまった。
小鴨 チカ
「マキナさんはいつでも可愛くて、み、魅力的で…………」
マキナ
*一回チカくんに手番回したほうが良さそうなので手札捨てタイムです
小鴨 チカ
こうなってるのは、あくまで、ぼくが、クソめんどくさい童貞丸出しの性格をしてるからにほかならないわけで。
小鴨 チカ
そもそも女の人は、こういう事をするのが怖いんじゃないかなーっていう思い込みだとか。
小鴨 チカ
相方のマキナさんを食い物にしたくないなって気持ちとか。
小鴨 チカ
自分が変わっちゃうんじゃないかなっていうよくわかんない恐怖とか。
マキナ
逆光になっていてマキナの表情は窺いづらい。
小鴨 チカ
そっちがもっと押してくれればって期待とか。
小鴨 チカ
だから、マキナさんから来るんじゃ、仕方……ない……よな?
小鴨 チカ
2d+2
DiceBot : (2D6+2) > 10[6,4]+2 > 12
マキナ
2d6+2=>12
DiceBot : (2D6+2>=12) > 11[5,6]+2 > 13 > 成功
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 3 → 4
小鴨 チカ
……それをエサにして、頑張らせようってことだよな。
小鴨 チカ
……その褒美を与えるくらいなら、死ぬよりはマシって事だよな。
小鴨 チカ
……マキナさんがそうしたいって、思ってくれてるわけじゃ、ないよな…………。
マキナ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 7[6,1]+2 > 9
小鴨 チカ
2d6+2
DiceBot : (2D6+2) > 6[4,2]+2 > 8
[ 小鴨 チカ ] 情緒 : 4 → 5
マキナ
チカのシャツを捲りあげ、脇腹から手を差し込み、
マキナ
意表をつかれたように、ぱちぱちと目を瞬かせる。
マキナ
手はシャツの下に潜り込んだまま止まっている。
小鴨 チカ
「…………仲良くなって付き合って、そっからこう……ゴールインしたいじゃん……」
小鴨 チカ
「そりゃあ、だって、こんな、こんなことされたら、そりゃあ、そりゃあだよ!」
小鴨 チカ
「押し倒したり、思わせぶりなこと言ったり、近かったり!」
小鴨 チカ
「そんなんで釣って動かすような奴のこと……」
小鴨 チカ
「好きって言ってくれたら、がんばれるよ」
小鴨 チカ
「マキナさんの声でそれが聞けたら……」
小鴨 チカ
「きっと、“マキナさんを”死なせないことを、最優先に、できると思う」
小鴨 チカ
「今度はもっと、うまくやらなきゃ……」
マキナ
「……ついに、失敗しちゃったなって、感じ……」
小鴨 チカ
人に取り入る過程で、他の人を蹴落としたりとか、こうやって体を使ったりとか、頼る相手を乗り換えたりとか。
小鴨 チカ
そういう事をして、生きてきたんだろうな。
マキナ
それはお茶会や裁判でのことを言っているようでもあり、
マキナ
まさに今、チカを篭絡しそこねたことを言っているようでもあった。
小鴨 チカ
ずっとカッコ悪くて、よかった時なんて無かった。
小鴨 チカ
殺すのが嫌で、血を見るのが嫌で、逃げた先は鈍器で。
小鴨 チカ
そうやって戦った結果、何度も何度も殴りつける事になって、それでも相手は死ななくて。
小鴨 チカ
しまいには結局、自分では終わらせられなくて。
小鴨 チカ
とどめを刺さずに済んだことに、今になってどこかホッとしてる。
小鴨 チカ
形だけ、いい子っぽくあれば、ぼくはいいんだ。
小鴨 チカ
だからマキナさんに、そんな遠慮されるような人間じゃないんだよ。
小鴨 チカ
好きって言って、ぼくを騙してくれればいい。
小鴨 チカ
「……さっきみたいな、ことは、マキナさんがしたいと思ったら、で、いいから……」
小鴨 チカ
「あと二回までになんとか、そう思ってもらえるように、がんばります……」
小鴨 チカ
ぼくがやる気を出して、利用しやすくなって。
小鴨 チカ
体を使うまでもなく、篭絡、大成功じゃん。
マキナ
こうやって好意を向けられていれば、一番御しやすい。
小鴨 チカ
「……マキナさん、第一印象はクソだし、裁判の振る舞いもカスだったけど」
小鴨 チカ
「泣かないように……さっきまで頑張ってたのに!」
小鴨 チカ
「ドちょろいの、分かってんじゃん……」
小鴨 チカ
「ここまでしなくても、割と簡単に扱えるのに!」
小鴨 チカ
「なのになんか踏み込んできて期待させて、めんどくさいメンヘラみたいにしちゃってんじゃん!」
小鴨 チカ
口約束でもこじつけといて、優勝できたら儲けもんだろ。
小鴨 チカ
騙されてないかも?って変な期待させるのマジやめろ。
マキナ
愛されるように振る舞ったなら愛されるのは当たり前で、
マキナ
身体に残った傷が気になったりしてしまって。
小鴨 チカ
「貢げなかったら……対等な感じになっちゃうじゃん……」
小鴨 チカ
「性格クソのくせに、今更いいこぶってんじゃねーぞ……」
マキナ
これまでの裁判で負った傷は、どこにも残っていない。
小鴨 チカ
最初は悪女だと思ったのに、自分のやった事で心痛めてそうなとことかもあって。
小鴨 チカ
意外とフツーにいい子だなとか思っちゃって、そのギャップがまた気になって。
マキナ
増えたコインの力で治そうとしても、少しも変わらなかった。
小鴨 チカ
信じたくない気持ちと信じたい気持ちとか、
小鴨 チカ
全部投げ出して欲望のままに甘えたい気持ちと、自分を律して彼女に頼られて好かれたい気持ちとか。
小鴨 チカ
そういう色々が色々で、張り裂けそうで。
小鴨 チカ
「マキナさんのこと、ドン引きするくらい好き」
マキナ
それ以外に返す言葉が思いつかないのか、黙り込む。
小鴨 チカ
「マキナさんは元がクソだし……言いにくい秘密とか、嫌なこととかもいっぱいしてそうだし……なんか、ちょっと、こう、色々、細かいとことか、聞きにくいんだけど」
小鴨 チカ
「ぼくはね!マキナさんのこと、知りたいから!」
小鴨 チカ
「めっちゃ知りたいこと、いろいろ我慢してるから!」
小鴨 チカ
「いいこととか悪いこととかじゃなくて!」
小鴨 チカ
「裁判前の、あン時から、明らかテンション低いじゃん!」
小鴨 チカ
「そういうの!相談されて、力になれるくらい、親密になりたいなーと思っています!」
小鴨 チカ
「ぼくを騙すつもりなら、最後まで嘘ついてもよかっただろ」
小鴨 チカ
「こんなだけど嘘がつけるから信じるな?」
小鴨 チカ
「嘘つけないから、信じてって言えよ!」
小鴨 チカ
「自分の損になること、なんで言うんだよ!」
小鴨 チカ
「ぼくになら言ってもいいって、思ってくれたんだろ!」
小鴨 チカ
「体に痕が残ってるとは、思ってなくて」
小鴨 チカ
「全然気づかなくて……一人舞い上がって、ドキドキしてて……」
小鴨 チカ
「嫌な顔するタイプの相手とばっかツルんでたろ!」
マキナ
それこそヨハンは、まさにそういうタイプだった。
マキナ
ここにいるのが彼ならば、優しい言葉などかけられることはなかっただろう。
小鴨 チカ
「いいように使え!愚痴でもなんでも吐け!」
小鴨 チカ
「好感度、下がらないように出来てっから!」
小鴨 チカ
「外傷を治すとかはできなくてもさあ……」
小鴨 チカ
「辛いときに、一緒に泣いたりは……ほら。できたじゃん……」
小鴨 チカ
「元の世界で、人を殺したことはある?」
小鴨 チカ
「じゃあ、やっぱ、ここに居るべきじゃないよ」
小鴨 チカ
「じゃあ、優勝して元の世界に帰って、にっこり幸せになれますね!」
小鴨 チカ
「さっきから嘘つくのクソヘタじゃん……」
マキナ
だって、とか、でも、とか意味のない言葉を吐いて、
マキナ
もうどうやったって最初のように取り繕えないことを、自分が一番よく分かっている。
小鴨 チカ
「思ったより凡人で、ザコで、ポンコツだった」
小鴨 チカ
「これなら力になれるなって。頼ってもらえるかなって。ちゃんと頑張ろうって思えた」
小鴨 チカ
「大人のお姉さんかと思ったけど、マキナさんも結構ガキだよね」
小鴨 チカ
「マキナさんのこと全然知れてない……」
小鴨 チカ
「幼稚園のころ、スカートめくりを流行らせたくてスカートをめくって、でも他に誰も乗ってくれなくてぼくだけ怒られた話とか」
小鴨 チカ
「小学校のころ、仲良い女子に好かれてるって勘違いして、付き合ってるって周囲に言いふらしてみんなに迷惑かけた話とか」
小鴨 チカ
「中学校のころ、女の子のオタク友達の気をひこうとしてが彼女が好きなBLカプのR18カラミを書いたら地雷だったらしくて泣かれて、親と校長室に呼ばれた話とか」
小鴨 チカ
「最近だと、山に落ちてるエッチな本に夢中になってたら、持ち主のおじさんと鉢合わせた話とか……」
小鴨 チカ
「ぼく、結構いいとこの生まれで、親に甘やかされてきて、割と……プライベートを大事にしてくれる人で……」
小鴨 チカ
「……気付いたら、親に誇れない事ばっかやってて、家の落ちこぼれで……」
小鴨 チカ
「役に立つこと、あったら、何でも言ってね」
小鴨 チカ
生き残って、この人をこの世界から連れ出して、
小鴨 チカ
心はドキドキするけど、体はぐったり疲れてて、深ぁくベッドに沈んでく。
小鴨 チカ
でも、案外悪くないって顔、してくれたりして。
マキナ
しばらくはぐずっていたが、やがてそれもおさまっていき、
小鴨 チカ
苛まれると思った今日の記憶も、今だけは大人しい。