シャルル
台所をでた足取りは少し早く。
何かを避けるように、何かに見つからないように。
シャルル
室内は出てきた時のまま。
シャルルの荷物は少し広がって。
しかし、既に切られた髪と新聞紙はなく。
アレクシア
「……そんなことない、と、……思う、けど」
シャルル
ムードってどうやって作るんだ。
わかんないな。まあいいか。
シャルル
アレクシアをベッドに横たえて、薬と湯の用意を始める。
シャルル
「紅茶、いれる?ちょっと教わったんだけど。」
シャルル
勝手に触らない。
勝手に決めない。
勝手に死なない。
シャルル
それは、誰かにとって当たり前のことかもしれないが……
誰かにとってはそうじゃない。
そうじゃなかった。
シャルル
なんてことはない。
これから覚えればいい。
シャルル
ポットとティーカップが、サイドテーブルに並ぶ。
アレクシア
どうしてか、気が抜けてしまったのかもしれない。
アレクシア
知らないということだけが、二人、同じ。
アレクシア
彼は、今。アレクシアの起こした儀式で、それが終わるまで。
アレクシア
おそらくは、ただ一人、目の届かないところ、手の届かないところで死なずにいてくれる相手。
シャルル
「…………アレクシアが、そう言うなら。」
シャルル
「薬、飲むのはいいとしてさ。塗る方……自分でする、よな。」
シャルル
「うん。……最後まで、一緒にいるから。」
アレクシア
薬を塗るそのときに、痛みを堪える小さな呻き。
シャルル
その先にはバルコニーがあって、更にその向こうには中庭がある。
シャルル
微かな記憶。
シャルルとアレクシアが最初に出会った場所。
シャルル
あの時は、なんかよくわからなかったけど。
シャルル
自分の頬は、濡れていなかったような気がする。