幕間 シャルル&メイド
シャルル
いくら天井を見つめていても、答えは出ない。
シャルル
自分が何者で、彼女が何者で、何故ここに一緒にいたのか。
シャルル
弱くて頼りなくて、何もできないと思っていた女にしてやられて。
シャルル
ベッドから起き上がって、『シャルル』の残した荷物へと向かう。
手足を取り換える前はよく見えなかった。
シャルル
その全ては収まるべきところに収まっており、元の持ち主は存外几帳面であったことがうかがえる。
シャルル
死地に来ているのだ。
何かしら……遺書のようなものはあるんじゃないかという思惑は外れて。
シャルル
手帳のようなものは見つかったが、男には読めない字で書かれていた。
シャルル
何か束ねるものはないかと、周囲を見渡して。
メイド5
時間にして10数分後ほど。
メイドがやってくる。
メイド5
「……理容用の鋏を、念のためお借りしてきましたが」
メイド5
「心得があるわけではありませんので、お望みのようにはできかねますが」
シャルル
「ああ、別に気にしないから。自分だと後ろ切りにくいなって思って。」
メイド5
確かこう、母が弟の髪を切っていた時は。
こうしていたはずだ。
メイド5
きっと母のようにうまくはできない。
それでもお客様のために鋏を手に取った。
シャルル
「……聞いていいかわかんないけどさ。『シャルル』って、アンタから見てどんな奴だった?」
メイド5
「……物腰柔らかで、それでいて苛烈な方でした」
メイド5
「きっとたくさん苦労をなされたのでしょう」
シャルル
大人しく座ったまま、灰の髪が落ちていくのを見る。
メイド5
髪を切る音が響く。
ぱらぱらと糸くずのようにそれらは英字新聞紙の敷かれた絨毯の上に落ちていく。
メイド5
「アレクシア様は……芯の通った方です。弱さがないわけではないけれど、跳ねのけようとすること自体があの方の心根なんでしょうね」
メイド5
「あなたがたは6号室の救世主様に生かされました。それだけが現在の事実です」
シャルル
「なんか……わかるんだよな。俺とアレクシア、たぶん」
シャルル
「なんで一緒にいたのか。『シャルル』が何をしたかったのか。」
メイド5
記憶を失ったものの行く末を見る。
表情は見えないし、想像することもしない。
メイド5
「思い出話でしたら、いくつかご用意できるばかりです」
メイド5
「あの日あなたがたが、刺剣の館を訪れたときのこと」
メイド5
「……ほんの1週間ほど前のことですから、当然のことなのですけれどもね」
メイド5
ゆっくりと鳴る。金属の音。
たまに櫛けずるように、跳ねたところをおさえるように。
シャルル
『シャルル』が『アレクシア』をどうしたかったのか。
何のために、この儀式を始めたのか。
どうして負けたのか。
どうやって負けたのか。
シャルル
「俺さ、ここにある武器の使い方、なんとなくわかるんだけど。」
シャルル
「それって、たぶん人を傷つけるのが『日常』だったんじゃないかなって。」
シャルル
「そんな奴、きっと碌なやつじゃないし。俺も……。」
メイド5
「救世主様はみなさまは大なり小なり……そういう方々、でしたよ」
シャルル
「まあ、そうか。そういう場所なんだっけ。」
シャルル
「でも、アレクシアは……アイツ、そういうの無理っぽいし。」
シャルル
死ぬだろう。だから、どうというわけではないが。
メイド5
「……どうでしょう。すべてはコインの枚数と御心が決めることかと」
メイド5
「シャルル様とアレクシア様は、今はすべてが同じだけの……救世主様ですよ」
メイド5
「……きちんとムードはおつくりになられませんと」
メイド5
生まれてこの方、生娘の意見だ。
お嫁に行き遅れて何年も、もはやその人生にすら乗らなかった村娘のささやかな呟き。
メイド5
「そうしなければ、まるでジョージィ・ポージィですもの」
メイド5
「ジョージィ・ポージィ プリンにパイ
女の子には キスしてポイ」
メイド5
ちょうどいい長さになったと思う。
母のしたようにはできなかったけれども。
メイド5
「シャルル様のお気持ちがそうならば、そのようになさいませ」
メイド5
「それが、きっといちばんよいように思います」
メイド5
首に巻いたタオルを解く。
肩にかかっただろう髪を毛足の長いパウダーパフで払った。
メイド5
「それでは、私は掃除用具を持って参ります」
メイド5
「いえ、私にお任せくださいませ。お客様」
メイド5
少し、嬉しそうにそう言って、メイドは退室するだろう。
シャルル
他の救世主たちは『勝ち上がった』者たちで。
シャルル
つまり、他の救世主たちを、殺しているというわけで。