Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 シャルル&メイド

シャルル
「…………。」
シャルル
いくら天井を見つめていても、答えは出ない。
シャルル
自分が何者で、彼女が何者で、何故ここに一緒にいたのか。
シャルル
滑らかに動く右手で唇をなぞる。
シャルル
「馬鹿じゃねーの。」
シャルル
弱くて頼りなくて、何もできないと思っていた女にしてやられて。
シャルル
落ち込んでるのか俺は。
シャルル
『シャルル・ベルジール』
シャルル
「シャルル。」
シャルル
声に出してもしっくりこない。
シャルル
ベッドから起き上がって、『シャルル』の残した荷物へと向かう。
手足を取り換える前はよく見えなかった。
シャルル
銃。銃。銃。刃物。刃物。刃物。
シャルル
耳についてたのと同じやつ。
シャルル
手入れ用品。
シャルル
その全ては収まるべきところに収まっており、元の持ち主は存外几帳面であったことがうかがえる。
シャルル
死地に来ているのだ。
何かしら……遺書のようなものはあるんじゃないかという思惑は外れて。
シャルル
手帳のようなものは見つかったが、男には読めない字で書かれていた。
シャルル
あの女。
シャルル
アレクシアの荷物もあるんだろうが……
シャルル
どうも、勝手に見ることは躊躇われた。
シャルル
「…………。」
シャルル
刃物。刃物。刃物。銃。銃。銃。
シャルル
どれもなんとなく使い方がわかる。
シャルル
腰を曲げると、長い髪があんまり邪魔で。
シャルル
何か束ねるものはないかと、周囲を見渡して。
シャルル
「……ま、いらないか。」
シャルル
目の前の刃物を手に取って。
シャルル
暫く考えた後。
シャルル
黒い窓を見る。
シャルル
「……あの。髪。」
シャルル
「メイドさん。切れる?」
メイド5
時間にして10数分後ほど。
メイドがやってくる。
メイド5
「……理容用の鋏を、念のためお借りしてきましたが」
シャルル
「ありがとう。これさ……邪魔で。」
シャルル
「なんか適当に短くとか。」
メイド5
「心得があるわけではありませんので、お望みのようにはできかねますが」
メイド5
「それでもよろしければ」
メイド5
一礼。
シャルル
「ああ、別に気にしないから。自分だと後ろ切りにくいなって思って。」
メイド5
「かしこまりました」
シャルル
椅子へと座って。
メイド5
椅子に座った男の首にタオルを巻く。
シャルル
瞬間、緊張感が走る。本能的なもの。
メイド5
確かこう、母が弟の髪を切っていた時は。
こうしていたはずだ。
シャルル
しかし、動かない。委ねる。
メイド5
きっと母のようにうまくはできない。
それでもお客様のために鋏を手に取った。
シャルル
「……聞いていいかわかんないけどさ。『シャルル』って、アンタから見てどんな奴だった?」
メイド5
「……物腰柔らかで、それでいて苛烈な方でした」
メイド5
「きっとたくさん苦労をなされたのでしょう」
シャルル
「『アレクシア』は?」
シャルル
大人しく座ったまま、灰の髪が落ちていくのを見る。
メイド5
髪を切る音が響く。
ぱらぱらと糸くずのようにそれらは英字新聞紙の敷かれた絨毯の上に落ちていく。
シャルル
落ちてなお丸まり、癖が強い。
メイド5
「アレクシア様は……芯の通った方です。弱さがないわけではないけれど、跳ねのけようとすること自体があの方の心根なんでしょうね」
シャルル
「そう……。」
シャルル
想像もつかない。
シャルル
頭が軽くなっていく。
シャルル
「あのさ。」
メイド5
「はい」
シャルル
「俺達、死ぬんだよな。」
メイド5
「……わかりかねます」
メイド5
「あなたがたは6号室の救世主様に生かされました。それだけが現在の事実です」
シャルル
「…………。」
シャルル
「アンタ、正直でいいな。」
シャルル
「なんか……わかるんだよな。俺とアレクシア、たぶん」
シャルル
「全然違う。何もかも。」
シャルル
「なんで一緒にいたのか。『シャルル』が何をしたかったのか。」
シャルル
「何もわかんなくてさ。」
メイド5
記憶を失ったものの行く末を見る。
表情は見えないし、想像することもしない。
メイド5
「私も、何もわかりません」
メイド5
「思い出話でしたら、いくつかご用意できるばかりです」
メイド5
「あの日あなたがたが、刺剣の館を訪れたときのこと」
メイド5
「……ほんの1週間ほど前のことですから、当然のことなのですけれどもね」
シャルル
「…………。」
メイド5
ゆっくりと鳴る。金属の音。
たまに櫛けずるように、跳ねたところをおさえるように。
シャルル
考えてみる。
シャルル
『シャルル』が『アレクシア』をどうしたかったのか。
何のために、この儀式を始めたのか。
どうして負けたのか。
どうやって負けたのか。
シャルル
「んー……。」
シャルル
「やっぱいいかな。」
シャルル
笑う。
メイド5
「はい」
シャルル
「俺さ、ここにある武器の使い方、なんとなくわかるんだけど。」
シャルル
「それって、たぶん人を傷つけるのが『日常』だったんじゃないかなって。」
シャルル
「そんな奴、きっと碌なやつじゃないし。俺も……。」
メイド5
「ふふ」
メイド5
「救世主様はみなさまは大なり小なり……そういう方々、でしたよ」
シャルル
「まあ、そうか。そういう場所なんだっけ。」
シャルル
「でも、アレクシアは……アイツ、そういうの無理っぽいし。」
シャルル
「ここで死ななくても、死ぬよな。」
シャルル
「…………。」
シャルル
死ぬだろう。だから、どうというわけではないが。
メイド5
「……どうでしょう。すべてはコインの枚数と御心が決めることかと」
メイド5
「シャルル様とアレクシア様は、今はすべてが同じだけの……救世主様ですよ」
シャルル
「そっか。」
シャルル
「ありがとう。」
シャルル
あんまり不安、という感じはしない。
シャルル
それも、なんか変なのかもしれないが。
シャルル
強がりではなかった。
シャルル
「さっき。」
メイド5
「はい」
シャルル
「アレクシア、怒らせちゃってさ。」
シャルル
「やっぱりキスはまずかったかな。」
メイド5
「まあ」
メイド5
「……きちんとムードはおつくりになられませんと」
メイド5
生まれてこの方、生娘の意見だ。
お嫁に行き遅れて何年も、もはやその人生にすら乗らなかった村娘のささやかな呟き。
シャルル
「ムード……?」
シャルル
「俺に口説けって?」
メイド5
「そうしなければ、まるでジョージィ・ポージィですもの」
メイド5
「ジョージィ・ポージィ プリンにパイ
 女の子には キスしてポイ」
メイド5
マザーグースのひとつを歌う。
シャルル
「キスしてポイ、か」
シャルル
そんなつもりではなかったんだけどな。
シャルル
「やっぱ、そういうの……大事か。」
シャルル
手が止まったタイミングで振り返る。
シャルル
「謝ったり、した方がいい?」
メイド5
ちょうどいい長さになったと思う。
母のしたようにはできなかったけれども。
メイド5
「シャルル様のお気持ちがそうならば、そのようになさいませ」
シャルル
「…………。」
シャルル
襟足が跳ねている。癖が強い。
メイド5
「それが、きっといちばんよいように思います」
メイド5
恭しく一礼。
シャルル
「…………そっか。」
シャルル
まあ、そうか。あの女。
メイド5
首に巻いたタオルを解く。
肩にかかっただろう髪を毛足の長いパウダーパフで払った。
シャルル
俺が何しても、先に死んだら。
シャルル
『せいせいした』とか思わなそうだしな。
メイド5
「それでは、私は掃除用具を持って参ります」
シャルル
「俺も手伝おうか。」
メイド5
「いえ、私にお任せくださいませ。お客様」
メイド5
少し、嬉しそうにそう言って、メイドは退室するだろう。
シャルル
メイドのいなくなった部屋に一人。
シャルル
そういえば、遅いな。アイツ。
シャルル
「あ。」
シャルル
思い至る。この館には他の救世主がいて。
シャルル
他の救世主たちは『勝ち上がった』者たちで。
シャルル
つまり、他の救世主たちを、殺しているというわけで。
シャルル
「まずったな。」
シャルル
適当な服を手に取って、部屋を後にした。
*