Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 Room No.1_2

桟敷川映鏡
目の前には戦利品といって差し支えないものがある。
桟敷川映鏡
根菜類と油あげを煮込んだ汁物と炊かれた白米。
桟敷川映鏡
「……堕落の国でお目にかかれるとは」
桟敷川映鏡
「……」
匕首咲
「映鏡ォォォ!!」

ドアバーン
桟敷川映鏡
「ドアが壊れると困りますよ」
匕首咲
「お前!!鍋!!それ!!だめ!!ロボ!!何言った!!!!」
匕首咲
ぜいぜい。
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
「実のところ、」
桟敷川映鏡
「私は料理の味がなにひとつわかりません」
匕首咲
「は!?そうなの!?」
桟敷川映鏡
「ええ、味も香りも」
桟敷川映鏡
「ですが、あの台所に入ったら出汁のにおいがしました」
匕首咲
「え?」
桟敷川映鏡
味だけではない。色も、実はよく見えていない。
ほぼモノクロームの世界。
ただ自身の心の疵に関するものだけが鮮明にわかるだけだ。
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
「食べさせていただけますか」
匕首咲
-
匕首咲
アイコン2度間違えた……
匕首咲
匕首咲
味も香りもわからないが、この出汁のにおいはわかる、と言われてしまえば。
さすがに、さすがに断りにくい。
匕首咲
「い、いいけど……」
桟敷川映鏡
「……では」
桟敷川映鏡
仮面を外す。
匕首咲
「……初めて作ったから、その……」
匕首咲
仮面を外されたので、下を向いて黙ってしまった。
桟敷川映鏡
この部屋にしゃもじ、なんてものも。
おたま、なんてものもない。
逃げるように出てきたため食器もない。
銀製のティースプーンでそれらをカップに盛る。
匕首咲
探せば茶碗くらいあったかな、と思ったが、今から取りに行くのも気が向かない。
桟敷川映鏡
汁物をかきこむような料理だ。
当然のように仮面は外される。
不格好な食卓だが2揃い、テーブルに乗せられる。
匕首咲
味見をしていない。
そんな変な味付けにはなっていないと思うが、不安はある。
桟敷川映鏡
「……いただきます」
匕首咲
マスクを外して、自分もカップを手に取る。

「いただきます」
桟敷川映鏡
飯をかきこむ音。
匕首咲
一口食べてみる。
うん、別に悪くはないと思う。
合ってるかはわからないけど。
桟敷川映鏡
カップが置かれる。
桟敷川映鏡
「……御馳走様」
桟敷川映鏡
「美味しかったですよ、とても」
匕首咲
「はや」
匕首咲
「………なら、よかったけど」
桟敷川映鏡
「早飯も芸事のうちですからねえ」
匕首咲
わらったな、と思った。
桟敷川映鏡
2杯目をよそう。
匕首咲
おかわりするんだ、と思っている。
自分も真似して、かきこんでみる。
猫まんまだな~。
桟敷川映鏡
3杯目。4杯目。
背丈に見合うほどは食べる。
匕首咲
奇形娼婦の母は、管理された商品だった。
あまり手料理を振る舞ってもらった記憶がない。

それでも、夜中に小腹が空いた時、こっそりとおかかのおにぎりを作ってくれた記憶がある。

多分、これも、そういう類のものなのかな、と思う。
桟敷川映鏡
「……故郷の味なんですよ」
桟敷川映鏡
4杯目のさなか、そう呟く。
匕首咲
「そうだろうなとは、思ったけど」
桟敷川映鏡
「母が作ってくれていたのかもしれません」
匕首咲
「…………」

映鏡の母。殺したか、殺していないか、わからない人。
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
「かまぼこは入っていなかったかもしれませんが」
匕首咲
「そうなの?じゃあ、次は入れないでおくわ」
匕首咲
言ってから、しまったなと思う。
また作るみたいな感じになってしまった。
桟敷川映鏡
「……いいえ、入れておいてください」
桟敷川映鏡
5杯目をよそう。
桟敷川映鏡
「こちらの方が美味しいので」
匕首咲
「……いいけど」
匕首咲
こちらの方が美味しいって、なんか深い意味あるのか?いや、まぁ具は多い方がいいってだけだよな。
匕首咲
そうじゃなかったら。
困る。
匕首咲
机の下で、映鏡の向こう脛を蹴った。
桟敷川映鏡
蹴ってくるな……。
桟敷川映鏡
でも。まぁ
桟敷川映鏡
いいか。
匕首咲
多めに作ったつもりではあったが、思っていたよりも映鏡が食べる。

自分が作った料理をこれだけおかわりされれば、悪い気持ちはしない。
匕首咲
「それさぁ、大変だったんだよ。図書館行っても本に載ってないし。3号室の鏡がなんでも分かるっていうからさ、聞いて、ようやく作り方分かったんだ」
匕首咲
「まさかお前が味分からないなんて思わないし。結構作るの緊張したんだぞ」
匕首咲
目の前で、おかわりが注がれる。
匕首咲
「苦労したけど……」
匕首咲
「作ってよかった」
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
なぜ、これをと聞こうと思ったが。
自分が発端だということ自体は見当がついている。
桟敷川映鏡
聞くだけ野暮か。
桟敷川映鏡
「有難うございました」
匕首咲
「どういたしまして」
桟敷川映鏡
食べ終われば再び仮面をつけた。
あと数時間もすれば、次の戦いが始まる。
桟敷川映鏡
「次の入場はどういうパフォーマンスにしましょうね……コイン20枚ですと前より派手なことは出来ませんし」
匕首咲
「そうだな……。
何度も1ラウンド宣言するのも面白くないし、正直無理な気するしな」
桟敷川映鏡
「……咲さん、助手を頼まれてくださったりなどしませんか?」
匕首咲
「助手?って、奇術の?
別にいいけど」
桟敷川映鏡
「……水中脱出でも」
桟敷川映鏡
「しようかと」
匕首咲
「水中脱出かぁ」

ふーん、と相槌を打つ。
確かに派手だし、面白そうだ。

「いいんじゃない。やろうよ」
桟敷川映鏡
かつて。
桟敷川映鏡
それで母を《殺した》《死なせた》のだ。
桟敷川映鏡
「では、そのように」
桟敷川映鏡
でも、まぁ。いいか。
そうした方がいいと思った。
匕首咲
「上手くできるかな。
ちょっと緊張するな」
桟敷川映鏡
なんとなくそうしたかったのだ。
何か、重たい扉の鍵が開くような感覚がしている。
桟敷川映鏡
「差し支えなければドレスでも着て頂けたらありがたいのですが」
匕首咲
「ドレス……」
匕首咲
「ドレスな~……」
匕首咲
「映鏡が選んでくれるならいいけど……」
桟敷川映鏡
指を鳴らす。
いつも手元で戯れに出しているハンカチのように、赤いドレスがぱっと出てくる。
桟敷川映鏡
母の時は着物だった。
だからこれは自分で選んだものだ。
桟敷川映鏡
「咲さんに似合うのはこちらかと」
匕首咲
ドレスを受け取って、体に当ててみる。
くるりと回って、スカートが広がった。

「へへ」
匕首咲
「ちょっと楽しみになってきた」
桟敷川映鏡
くるりと回って揺れる。
モノクロームの視界にドレスの赤が見える。
桟敷川映鏡
「……お楽しみに」
桟敷川映鏡
彼女に初めて会ったときに聞かれた。
『あたし きれい?』
桟敷川映鏡
それに今ようやくきちんと答えたような気がする。