Dead or AliCe
『16人の救世主』

幕間 Room No.1

[ 桟敷川映鏡 ] HP : 0 → 0
[ 桟敷川映鏡 ] 大きな失敗 : 0 → -1
[ 匕首咲 ] 弱者の肉 : 0 → -1
[ 匕首咲 ] 弱者の肉 : 0 → -1

桟敷川映鏡
部屋のドアは開いていた。
ベッドメイキングか、掃除か──をし終わったのだろうメイドとすれ違う。
桟敷川映鏡
一礼してその姿を見送る。
自分たちと先ほど相対した部屋付きのメイドがどうなっているか知る由もない。
匕首咲
「よっ!ご苦労さん!」

上機嫌で片手を上げて、すれ違う。
桟敷川映鏡
部屋の扉を閉める。
鍵は──かかった。勝者の権利だ。
桟敷川映鏡
「咲さん」
匕首咲
「ん?」
桟敷川映鏡
「今度こそ傷の具合を見せて頂きますよ」
桟敷川映鏡
股からつたい、黒い布地をより色濃く照らしている血を見る。
匕首咲
「あー、ま、そうだな。
でも、シャワー浴びてからでいいだろ?」
匕首咲
上着をコートハンガーに引っ掛ける。
後で手入れしやすいように、ナイフを何本かテーブルの上に出す。
匕首咲
「ベッドもきれいにしてもらったんだから、また汚したくないしさ」
桟敷川映鏡
何かを思案するような、言いあぐねるような視線。
桟敷川映鏡
疵の痕跡を探っている──
桟敷川映鏡
「……そうですね。お先にどうぞ」
匕首咲
「ん、じゃーお先」

そう言ってバスルームに向かう。
匕首咲
が。

「あ」
匕首咲
足元がふらついて、そのまま倒れ込む。
匕首咲
 
匕首咲
清掃されたばかりの床に、じわりと血が広がった。
桟敷川映鏡
肉体が床に接地する前に手を伸べて掬いあげる。 
桟敷川映鏡
「……」
匕首咲
咲は意識を失っている。
掬い上げれば、腕の形にぐにゃりと体を歪ませたままだ。
匕首咲
まるで人形か、死体かのように。
桟敷川映鏡
そのまま横抱きに抱き上げて、すぐ近くのベッドに下ろす。
桟敷川映鏡
手袋を外し、首筋で脈拍を確認した。
匕首咲
弱々しくはあるものの、脈拍は正常だ。
桟敷川映鏡
おそらく失血だろう。休息以外に方法はない。
桟敷川映鏡
メイドを呼びつけ、湯たんぽを頼む。 
桟敷川映鏡
隣のベッドに腰かけ、長く、長くため息をついた。
しばらくそうして黙って見ていたが、部屋に備え付けのケトルで湯を沸かしに行く。 
匕首咲
咲は寝息らしい寝息も立てず、静かにベッドに横たわっている。
桟敷川映鏡
お湯の沸く音が部屋に響く。
オールドストーブにマッチを擦り、火を灯す。
ケトルをその上に乗せた。
桟敷川映鏡
霧のような湯気の向こうに、静かすぎる寝息を立てている横顔が見える。
桟敷川映鏡
──このまま。
桟敷川映鏡
死ぬんじゃないだろうか?
桟敷川映鏡
そう思ったときにはすでに額に触れていた。
匕首咲
額はひやりと冷たい。
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
湯たんぽはまだ来ない。
桟敷川映鏡
いくらか軽い気がする肢体を少し、横に傾けた。靴を履いたまま、半身でその隣に寝そべる。
桟敷川映鏡
背のなかば。肩甲骨の間に口を押し当てる。
布地の感触に、染み込んだ血のにおい。
桟敷川映鏡
動脈付近から全身を暖めるために息を吹き込む。
吸っては、吐く。何度かそれを繰り返す。
桟敷川映鏡
昔、母親にこうされていた記憶だけがある。 
桟敷川映鏡
住んでいた家は冬の間、冷えた。
心もとない暖房器具では追いつかないほどの寒さをこうして乗り切るしかなかった。
桟敷川映鏡
今眼前の背も、腕も何もかもが冷たい。
桟敷川映鏡
部屋のドアがノックされるまでそうしていた。
桟敷川映鏡
桟敷川映鏡
湯たんぽに湯を入れて、丁寧に用意されたキルティングカバーで包む。
桟敷川映鏡
布団の中に滑り込ませてしばらく様子を見た。
匕首咲
数分の後、薄く瞼を開く。
匕首咲
数度瞬きをした後、ぼんやりと壁を眺めている。
まだ顔は青ざめている。
匕首咲
ふと、抱えた湯たんぽに気が付く。
そして妙に狭いベッドにも。
匕首咲
後ろを振り向いた。
匕首咲
「……何やってんのお前!?」
桟敷川映鏡
「おはようございます」
桟敷川映鏡
「全身が冷えておりましたので、僭越ながら田舎育ちの応急処置をさせて頂きました」
匕首咲
「応急処置……」

田舎育ちの応急処置、と言われれば、本当か嘘かは分からない。
桟敷川映鏡
男が立ち上がれば、体温は離れていく。
未だやや冷たい空気が布団の隙間に滑り込んだ。
匕首咲
「ちょっと待てよ」

マントを掴む。
桟敷川映鏡
半ばで止められる。

「何でしょう」
匕首咲
マントを引っ張る。
匕首咲
「寒いからもうちょい、じっとしてろ」 
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
マントに指をかけ外そうとして、やめた。
桟敷川映鏡
黙りこくったまま、背を向けた状態で先ほどまで寝そべっていたくぼみに半身を収める。 
匕首咲
窪みに熱源が戻る。
座りのいい場所を探すように、その背に頭をぐりぐりと押し付け、身を寄せる。
匕首咲
あたたかい。
匕首咲
多分、倒れたんだろうと思う。
血がそれなりに出ていたし、鉄パイプでめちゃめちゃに殴られたし。
匕首咲
この何を考えているのか分からない男は、ベッドまで運んでくれたんだろうか。

多分、それくらいはしてくれる。
匕首咲
湯たんぽも、まぁ、頼んでくれるだろう。
自分で掻っ捌いた腹のせいだし。
匕首咲
でも、添い寝していたのは意外だった。
何かするでもなく、ただ体を温めてくれようとしていたのは、意外だった。
匕首咲
少しだけ、腕を映鏡の体に回した。
桟敷川映鏡
腕を回されれば、わかるほどに背が強張った。 
桟敷川映鏡
長い沈黙。
桟敷川映鏡
ストーブの上でケトルが部屋を加湿する音に、かき消される程度の呼吸だけ。
桟敷川映鏡
やがて観念したように振り向く。
桟敷川映鏡
「……流石にシャワーには1人で行けますよね」 
桟敷川映鏡
わざとらしく、ため息をついた。
匕首咲
「行ける」
匕首咲
「でももうちょっと後でにする」
桟敷川映鏡
本来ならば多弁な男は、再び黙った。
桟敷川映鏡
振り向いてしまった手前、再び背を向けることもできずに胸元で丸くなっている姿を見ている。
匕首咲
こちらを向いた映鏡の胸元に、頬を擦り寄せる。
匕首咲
胸に耳を当てた。
別に意味はない。
そうしたかっただけ。
桟敷川映鏡
羅紗の軍服。当時用意できる最大級の仕立てのものだ。
金色の釦がマスクの金属と当たって音を立てる。
桟敷川映鏡
胸から──時計の音がする。
心音の聞き間違いではない。間違いなく時計の音だ。
裁判で使用した金の時計は、すでに役目を終えて消え失せてしまったにもかかわらず。
匕首咲
「時計の音がする」
桟敷川映鏡
「ええ。私は人間ではありませんので」
匕首咲
「ふ~ん」
匕首咲
「生まれた時から人間じゃなかったのか?」
桟敷川映鏡
「どうなんでしょうねえ……」
桟敷川映鏡
眼を細める。
そうです、と言えるほどの確信がない。
違いますとも言ってしまえば、何かが崩れてしまうような気がして。
ずっとこう言い続けている。
桟敷川映鏡
「……人の形をしている以上。どこかで人だった時が存在すると私は思っています」
桟敷川映鏡
郷愁だ。
ただその記憶だけがある。
最もそれが本当のものかさえわからないのだが。
桟敷川映鏡
「私は見世物小屋で生まれて、そこで育ちました。
客に手妻……奇術のことです、を見せて日銭を稼いでましてね」
匕首咲
「へーえ。
見世物小屋、見たことないな……」

何かの本か、ネットくらいでしか知らない。
桟敷川映鏡
「……奇形の人間や変人を集めてショーにするんですよ。当時は……貴重な仕事だった」
匕首咲
「奇形の……人間」
桟敷川映鏡
「全員……私の家族のようなものです」
匕首咲
ケースバイケースではあるが。
奇形の人間がまっとうな仕事に就くのは難しい。
見世物にするのは残酷だが、日銭を得るには効果的かもしれない。
匕首咲
それが、人間らしい暮らしかはさておいて。
桟敷川映鏡
「もっとも良い暮らしとは言えませんでしたがね……」
匕首咲
「そうだろうな」
匕首咲
映鏡の故郷と自分の故郷は若干異なる。
しかし、予想はできる。

大多数の"普通"の人間が向ける好奇の視線、蔑む視線、恐怖の視線。
桟敷川映鏡
「……でも、悪すぎもしなかった」
桟敷川映鏡
「投げられた石を投げ返すぐらいには……私たちには誇りがありました」
匕首咲
「誇り……」 
桟敷川映鏡
「虐げられまいとする意志ですよ」
匕首咲
「すごいな」

ため息交じりに、眼前の映鏡のボタンを眺める。

「あたしの周りには、そんな強いやつはいなかった」
桟敷川映鏡
「さぁ……そちらが真実なのかもしれません」
桟敷川映鏡
「私はもはや、人の頃の私よりも……赤マントとして長く生きすぎました」 
桟敷川映鏡
「ただの過去に縋った妄執と笑われたら返す言葉もない」
桟敷川映鏡
くつくつと喉の奥で笑いを噛み殺す声。
匕首咲
「別にいいんじゃね」
匕首咲
秒針の音が響く。
かちこち、かちこち。

笑い方に合わせて、胸の筋肉が動くのを感じた。
匕首咲
「お前が言ってること、基本的に全部信用できないし」
桟敷川映鏡
「はは」
桟敷川映鏡
「種も仕掛けもありませんよ」
匕首咲
「じゃ、全部信じといてやるよ」
匕首咲
「信じてやるから、聞かせてよ。
 映鏡の話」
匕首咲
「お前のこと、未だに全然わかんねーし」
桟敷川映鏡
自分のことすら信じるに値することはできないというのに。
桟敷川映鏡
聞かせて、ときた。
桟敷川映鏡
その一言が抉れた疵に触れる。
桟敷川映鏡
手が僅かに戦慄く。
桟敷川映鏡
救世主。因果な存在だ。
疵の力に抗えることはない。
桟敷川映鏡
すぐそこに血の匂い。
六ペンスコインを捨てて尚、自身の中に残存する猟奇がそれを過剰に理解する。
桟敷川映鏡
血の匂いのひとつひとつを嗅ぎあてることすら、できる。
(そうだ、何故ならこの腹は自分で裂いたのだ)
桟敷川映鏡
白手袋が、服の上から腹に触れる。
そこで留める。
何かが拮抗するうちに、白手袋が乾ききらない血を吸う。
桟敷川映鏡
こんなまどろみのような会話でどうにかなるものなら。
そもそも──
匕首咲
 
匕首咲
「……何?」

腹に触れた手を見る。

「手袋汚れるだろ、触らない方がいいって」
匕首咲
やめた方がいいとは言うが、止めはしない。
桟敷川映鏡
──わざわざ、胎をくり抜いたりはしていない。
桟敷川映鏡
釦をなぞり、服のステッチをなぞり、指先が服に侵入する。
体温で乾きかけた血のぬめり、縫合した糸の感触。
桟敷川映鏡
「……“疵”は」 
桟敷川映鏡
静かなため息。
桟敷川映鏡
「大丈夫ですか?」
桟敷川映鏡
再三の確認。
桟敷川映鏡の人格は眼に出でて、よく見ればそれがわかる。
この距離ならば、猶更。
静かなまなざしに、眼の色が揺れている。
匕首咲
「ちょっ、と」

映鏡の指が侵入してくる。
血液を吸った手袋が皮膚に触れて、小さく体を震わせる。
匕首咲
腕を掴んで、引っ張る。

「やめろって、そういう触り方は。
 あの、わかるだろ?」
匕首咲
反応を伺うように映鏡の顔を見る。
その瞳の色は、夜明け前の海のように揺れていた。 
匕首咲
少し、言葉に迷う。
匕首咲
「えっと」
匕首咲
「死ぬほどじゃない、と思う。
 だから、大丈夫だよ」
桟敷川映鏡
「……わかる?」

それで止まることはない。
濡れた指が皮膚をなぞり、ゆるやかに皮膚を押す。
桟敷川映鏡
「何がです?」

服の隙間に侵入する指が増える。
奇術師の指先は残った指でも片手で釦を器用に外した。
桟敷川映鏡
──大丈夫。

「大丈夫」 
桟敷川映鏡
「……母も」
桟敷川映鏡
「そう言って死にました」
匕首咲
「だから……んっ」

腕にしがみ付き、頭を押し付ける。
匕首咲
ボタンが、外されてしまった。

体に触れる指が増える。
乳房や性器を乱暴に触る訳ではない、疵口に柔らかい刺激。

「やだってば……!」
匕首咲
体を丸めて、腕に押し付けた頭を振る。
筋肉に力を入れたためか、じわりと血がにじむ。

内側の疵口も同様に。
ただし、そちらは血液か体液か分からない。 
匕首咲
服の中に侵入した腕を、無理やり引き抜く。

「そもそも、無意味に触るなよ!
 ぶん殴られても文句言えねーからな!」
匕首咲
はぁ、と大きいため息。
匕首咲
母親の話になんと答えていいのかわからず、少しだけ目を伏せた。
自分の母親も、そういう女だった。
大丈夫じゃないのに、大丈夫と言うような。
匕首咲
「……救世主様だから、このくらいで死にはしないだろ」
匕首咲
引き抜いた手を、よっこいしょ、と言って自分の頭の下に置いた。

「裁判もやったし、しばらくは殺されるまで死なないよ」
桟敷川映鏡
頭の下に置かれた手をするり、と抜く。
手袋が外れて、惑うように行き場をなくしてやがて力なくその頭の横に落とされる。
緩く力を込めて上体を起こした。
スプリングが軋んで音を立てる。 
桟敷川映鏡
覗き込むように合わせられる視線。
桟敷川映鏡
「死んだ?」
桟敷川映鏡
「違うな」
桟敷川映鏡
「俺が殺したんだ」
匕首咲
視線が交わる。
いつもよく見る色ではない。
あまり出てこない方、サファイアの瞳の弟。
匕首咲
「殺したって……」
匕首咲
「なんで……」
桟敷川映鏡
は。と喉を空気が通る。
押し殺した笑い。
顔は笑っていない。
桟敷川映鏡
瞳が青い。
桟敷川映鏡の中には二人の人格がいる。
兄と名乗る、普段表に出ている人格。
弟と名乗る方はそうそう出てこないはずだった。
桟敷川映鏡
人格を定着させるかのように長く、張り詰めたような沈黙を保つ。
桟敷川映鏡
「信じといてやる?随分楽そうな物言いをするな、お前」
桟敷川映鏡
「兄はそんなにお前に優しかったのか?それともお前が健気に男に摺り寄る淫売なだけなのか?」
桟敷川映鏡
「なあ」
桟敷川映鏡
「俺の母親はきちがいの糞ッたれだ。とんでもない阿婆擦れで、おまけに頭も弱かった。男に股売って、食えるに食えないぶんの金しか貰ってこない」
桟敷川映鏡
「悪くはない?いいや、違うね。違うんだよ。ぜんぶただのうつくしい思い出ってやつさ。来る日も来る日も俺は母親の股を売る手伝いをさせられて、居もしない父親の話を聞かされて、ずっとひもじい惨めな暮らしをしてきた」
桟敷川映鏡
「なんで?どうして?簡単なことさ。殺せる機会があったから、殺したかったから。あの穢れた女を殺してやったんだ」
桟敷川映鏡
「なあ。これで何を信じるって言うんだ?」
桟敷川映鏡
「兄は」
桟敷川映鏡
「嘘を」
桟敷川映鏡
糸が切れるような沈黙。
匕首咲
一度目を伏せて、両手でベッドに触れる。
腕の力で、強引に体を起こす。

疵がじわじわと傷んだが、なんとか座り直した。
ベッドにまた赤い染みが増える。
匕首咲
映鏡の青い眼を見る。

「気を悪くしたなら謝るよ。
 ごめん」
匕首咲
映鏡兄は、一応、まぁ、優しかったなぁと思ったが。
答える前に矢継ぎ早に言葉が続く。 
匕首咲
「………………」
匕首咲
自分の境遇と似てる、とも、似てない、とも言えない。
母親が体を売っていたことは同じだが、自分はさほど衣食住に困らなかった。
そういう商品の、製造ラインだったから。
匕首咲
映鏡が言っていた、田舎育ちの応急処置、という言葉を思い出す。
母親の股を売る手伝いをして、居もしない父親の話を聞かされて、ずっとひもじい、惨めな暮らしをして。
匕首咲
それでも、凍えた体を温める、ひとさじの愛くらいはあったんじゃ、ないのかな。

そんな無責任なことを思う。
匕首咲
「信じるよ」
匕首咲
「あんたも、兄さんも」
匕首咲
「あたしは奇術士じゃない。強いて言うなら、ただの娼婦のなりそこないだ。
奇術の種なんて、本当のことなんて、どうでもいいんだ」
匕首咲
「でも、映鏡のことは信じたいと思ってる。だから、どっちも信じる」 
桟敷川映鏡
長い。
長い沈黙。
桟敷川映鏡
手袋の抜けた手が、疵へ。
もはや縋るように伸ばされる。
桟敷川映鏡
「心配しているんですよ」
桟敷川映鏡
「これでも」
桟敷川映鏡
「貴女」
桟敷川映鏡
「も」
桟敷川映鏡
「俺に」
桟敷川映鏡
「殺され」
桟敷川映鏡
「る、」
桟敷川映鏡
「の、か……?」
桟敷川映鏡
それはもはや惧れだった。
桟敷川映鏡
あの時、この疵が開いた。
本来だったらなかったはずの、動揺があった。
桟敷川映鏡
自身すら忘れてしまった失敗。
たとえ妄執だとして植え付けられている記憶。
桟敷川映鏡
自分はこの女が死ぬことを恐れている。
ただその一言に尽きた。
匕首咲
伸ばされた手が触れる前に。
匕首咲
軽く咽るくらいの強さで、映鏡の胸を殴った。
匕首咲
「勝手に殺せることにしてんじゃねぇよ」
桟敷川映鏡
動きは止まる。
桟敷川映鏡
「はは……」

笑い。それ以外に返事はない。
匕首咲
やれやれ、とため息を吐く。
匕首咲
「いいか、当たり前のことを言ってやる。
あたしはお前の母親じゃないし、お前が殺さない限りは、お前に殺されないんだよ」
匕首咲
ふふん、と鼻で笑い。

「それに、強いし」
匕首咲
とはいえ、再三心配されていたのを適当にかわしていたのは自分だ。
実際に血が足りなくて倒れた訳だし、少しは反省してもいいかもしれない。
匕首咲
「……自分では大丈夫だと思うから、大丈夫以外に言えないだろ」
匕首咲
「まぁ、そんな心配なら、ちゃんと診てよ」
匕首咲
外されていないボタンを、一つひとつ外してゆく。
桟敷川映鏡
「……夢見が悪い、って話ですよ」
桟敷川映鏡
いつもの顔だ。
桟敷川映鏡
「他の人にも見られてるわけですからね。なんとも狙いやすい弱点を作ってしまったものと反省しているんです」
桟敷川映鏡
「いやあ、それにそこを狙われてまた傷が開いたときに私の腕が悪いと思われたら恥ずかしいですからね」
桟敷川映鏡
よく喋る。
桟敷川映鏡
釦が外されていくのを見る──ことなく立ち上がってバスルームの方へ向かう。 
匕首咲
「じゃあ責任取ってお前が守れよ」
匕首咲
特に恥じらう様子もなくボタンを外す。

血が染みた下着に、うわ、と漏らして、少し悩んでそちらも外す。
多分こちらも診るだろうし、終わったらシャワーを浴びるつもりだから、同じことだ。
匕首咲
今回は指とか入れなかったらいいけどなぁ、と思いながら、映鏡が戻るのを待つ。
桟敷川映鏡
洗面台の鏡を見る。
──見れた。 
桟敷川映鏡
手を洗う水音のあと、戻ってくる。
桟敷川映鏡
「守るのもなかなか技術がいるらしいですからねえ」
桟敷川映鏡
今まで見た他の救世主のことを考えてみても、自身に向いてるかどうかまで考えると首を傾げざるを得ない。
桟敷川映鏡
「さて……」
桟敷川映鏡
下着まで取り去られた患部を眺める。
仰向けの体勢を促して、素手が触れる──
桟敷川映鏡
前に口を開く。

「いいですね?」
匕首咲
「ちょっと待った」

枕を抱えて、顔に押し付ける。

「どーぞ」
桟敷川映鏡
素の指先が触れる。
内部を確認するように、皮膚の上を滑らせた。
匕首咲
──傷口からは出血していた。 
匕首咲
しかし縫合には問題ない。激しく動いたことが原因だろう。
桟敷川映鏡
血の跡をなぞる。
疵の痕跡を見るように。
匕首咲
触れる度に体を震わせるが、枕に顔を押し付けて大人しくしている。
桟敷川映鏡
何度目かの震えに伴って手が、止まる。
桟敷川映鏡
「痛みますか?」
桟敷川映鏡
枕に顔を押し付けている姿を見ている。
匕首咲
「いた、いってほどじゃ、ないけど」 
桟敷川映鏡
縫合には問題ない。
救世主の自己治癒能力がどれほどのものか、自身で身をもって知ってはいる。
治りが遅い。
匕首咲
妙に息が上がりつつ、途絶え途絶えに答える。
桟敷川映鏡
自己治癒が追い付かない出血としても、それならば裁判で殴られた頭からも血が流れだしているはずだ。
そちらの出血はもう止まっている。
桟敷川映鏡
「……中に触れても?」
匕首咲
いや、痛いか痛くないかで言えば、痛い。
しかしそれよりは、映鏡に腹を撫で回される方がよっぽど堪える。
匕首咲
長い沈黙。
匕首咲
「……やだって言ったらどうする?」
桟敷川映鏡
「どうもしませんよ」
桟敷川映鏡
「器具で確かめます」
匕首咲
「器具かぁ……」
桟敷川映鏡
「といっても本格的な器具があるわけじゃありませんからね」
桟敷川映鏡
「棒状のものを突っ込んで広げられてライトで眺めまわされるのとどちらがよろしいかは」
桟敷川映鏡
「咲さん次第かと思いますが」
匕首咲
「う~~~~ん………」
匕首咲
どっちも結構最悪な気がするぞ。
匕首咲
「……指の方が怖くないから、指で」
匕首咲
そっちは一回やったことあるし。
桟敷川映鏡
昨晩からベッド脇のチェストに置いておいた軟膏を手に取る。
指にまんべんなく塗布して、入り口へ滑らせた。
匕首咲
ひっ、と息を飲み込む声。
必死に枕に顔を押し当てている。
匕首咲
映鏡の指を体液が濡らす。
血液なのか、愛液なのか、おりものなのか、経血なのか、よくわからないものが。
桟敷川映鏡
男の長い指はなんなく奥へ到達する。
桟敷川映鏡
傷が塞がっているのなら、そこには粘膜の壁があるだけだ。
もしくは他の臓器との癒着面が。
なんにしろ救世主の身体に一番適したように傷が塞がっている。 
桟敷川映鏡
はずだった。
匕首咲
塞がっていない。
匕首咲
どこかに、繋がっている。
桟敷川映鏡
指先が空を掻く。
桟敷川映鏡
「……は」
桟敷川映鏡
下腹部を、もう片手でなぞる。
改めて確認する。手袋を取り去った指先ならわかる。

“なにかがある”

中の何かに触れているはずの指先は何もない空間を動く。 
匕首咲
なにかがある。
匕首咲
数多の娼婦の腹を捌いてきた男なら、それに気付いただろう。
匕首咲
"そこ"には、子宮の形の空虚があった。
桟敷川映鏡
「……!」
桟敷川映鏡
本来、存在しえないものが存在している。
桟敷川映鏡
救世主は、心の疵に相応しい姿形に変容する。
自身でもそう認識しているし、他者にもそう告げている。
桟敷川映鏡
「……咲さん」
匕首咲
「……なに?」

少しぐったりした様子で答える。
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
意思をもって指を動かした。
匕首咲
「ばっ……!」

また枕を顔に押し当てる。
桟敷川映鏡
空虚が。硝子の子宮が脈動する感触。
そこには何もない。 
桟敷川映鏡
何もないはずなのに、指先が存在を告げる。
今ここにあるせいでどうしても思い出すことができる。
桟敷川映鏡
ここにあるのは、あの時自分が“摘出した子宮”と同じものだ。
匕首咲
その空虚は、あたたかかった。
桟敷川映鏡
知っている。
桟敷川映鏡
内臓の蠢く感触。温度。
ひとつひとつ、丁寧に拾い上げるようにして行った処置の記憶。
桟敷川映鏡
それがそのままここにある。
匕首咲
ここにあるが、ここにはない。
匕首咲
それはあくまで空虚でしかなかった。
切り絵の後の紙のように、夜店の型抜きの後のように、あったものが、なくなった跡。
匕首咲
しかし、それはそこに"ある"のだ。
桟敷川映鏡
甘美なパラドクスに背筋が粟立つ。
桟敷川映鏡
どうすればいい?
桟敷川映鏡
どうしようもなかった。
桟敷川映鏡
幾度目かの長い、長い沈黙のあと。
もう一度名前を呼んだ。 
匕首咲
「頼むから、いじるか話すかどっちかにしてくれ……」

映鏡の様子にも、自分の体にも気が付いていない。
桟敷川映鏡
指を動かせば自身の疵にさえ触れているかのような錯覚。
桟敷川映鏡
身の内にたなびく激情を、押しとどめる。
死なない。この女は、殺されない。
桟敷川映鏡
指は音もなく引き抜かれる。
腹の上に手は置かれたまま。女を見る赤い眼。
桟敷川映鏡
「……どう話していいのやら」
桟敷川映鏡
独りごちるように呟く。
匕首咲
指が引き抜かれると、大きく息を吐いた。
匕首咲
映鏡が空虚に触れていた指は、すっかり血で染まっていた。
匕首咲
摘出後の出血にしては、血の量が多すぎる。

そもそも、内側の傷口は消えている。
今は、子宮の跡に繋がっているだけ。 
匕首咲
これは、経血だ。
桟敷川映鏡
「咲さん、月経の周期は今頃ですか?」 
匕首咲
「は?
 取ったんだから今も何もないだろ」

そう言いながらも、ええと、と考えて。

「……まぁ、昨日とか今日くらい、かな……」
桟敷川映鏡
「……その血は経血です」
匕首咲
「……は?」
桟敷川映鏡
「中を奥まで確認したところ、“何もありません”でした。
傷が塞がっているなら、途中で止まっているはずです」
匕首咲
「え???」
桟敷川映鏡
「ちなみに……他の臓器に触れることもありませんでした」
桟敷川映鏡
「癒着しているわけでもない」
匕首咲
「そんなこと、ある訳ないだろ……」

体を起こして、自分の下腹部を触ってみる。
よくわからない。普段と同じだ。
桟敷川映鏡
とんとん、と指で女のなだらかな下腹部を叩く。
桟敷川映鏡
「中には“子宮と同じ形状の空間”があります」
匕首咲
「んっ」
匕首咲
肩パンチ。
匕首咲
「……子宮と同じ形状の空間って……なんでだよ」
桟敷川映鏡
パンチされた。
桟敷川映鏡
「まぁ……考えられることとしては、心の疵の力か何かでしょうね」
匕首咲
「まぁ、そうなるか……。でも、あたしの心の疵、そういう感じになるかな……?」
匕首咲
「なる、ような……。ならないような……。」
桟敷川映鏡
黙る。
匕首咲
「お前なんかしてないよな?」
桟敷川映鏡
「……」
匕首咲
「おい」
桟敷川映鏡
目を逸らす。

かけひきだ!!

お互い1d6を振って行動順を決めましょう。
才覚は持ってないので素振りです。
桟敷川映鏡
1d6
DiceBot : (1D6) > 4
匕首咲
1D6
DiceBot : (1D6) > 4

>実在しない才覚乗せてもいいですよ
と先方から恐ろしい打診があったので乗せて桟敷川が先手をいただきました。どうして 

やったねさっじー

カードを三枚ずつ引きます。
前科のところを情緒にします。 
桟敷川映鏡
*s8 c8 sk
匕首咲
* h4,c6,d9
桟敷川映鏡
*一押し sK
桟敷川映鏡
しばらく目を逸らし続けている。
が、じわじわと観念したのか口を割り始めた。
匕首咲
じわじわと追求している。
桟敷川映鏡
「……まぁ、咲さん。なんだかんだと女性らしいところがありますし、そういったところで肉体がそれを受けたのでは?」
桟敷川映鏡
どこが?と言われると非常に言いにくいのだが。
匕首咲
「え……は?
 なっ、何言ってんだよ……」

効果はあったようだ。
匕首咲
「つかそれは関係ないだろ!
心の疵由来だってのは分かってるんだから!何かあるならお前の方だろ!」 
桟敷川映鏡
「……ち」

話題を逸らすことはできない。 

両者情緒+1!
[ 桟敷川映鏡 ] 情緒 : 0 → 1
[ 匕首咲 ] 情緒 : 0 → 1
匕首咲
* 距離を測る h4
  アピール d9

2d6+2+1 脅威度+距離を測る で判定をどうぞ。
DiceBot : (2D6+2+1) > 5[3,2]+2+1 > 8
匕首咲
2d6+2+1 白状しろっ
DiceBot : (2D6+2+1) > 4[3,1]+2+1 > 7

成功ですね。
[ 桟敷川映鏡 ] 情緒 : 1 → 2
桟敷川映鏡
「……その可能性は、有り得ますが……」
桟敷川映鏡
言い淀む。
匕首咲
「よく考えたら、なんで子宮切るのに慣れてるんだよ!腹もめちゃめちゃ触るし、指も好き勝手突っ込むし、お前なんかそういう特殊性癖でもあるんじゃねーの!?」
桟敷川映鏡
「……とりあえず服を着ませんか?」
桟敷川映鏡
「冷えますよ」
匕首咲
「あっ!今話逸らそうとしてるだろ!さすがに分かるぞ!」
桟敷川映鏡
「ははは……いえいえ。女性がいつまでも男の前で裸を晒してはいけませんよと申し上げているだけです」
匕首咲
「めんどくさいしいいよもうそれは。
お前どうせ何もしないし」
匕首咲
ベッドに経血がしみしみになっているが、なんかもうすでに血で汚れてるしどうでもよくなってきた。
多分ここ数日で、一生分ベッドを血に染めた。 
桟敷川映鏡
「目……に余りますからねえ」
桟敷川映鏡
一瞬、目の毒と言いかけてそういう話ではないな、と嫌味へ舵を切る。
匕首咲
「デリカシー絶滅男にそんなこと言われてもな~」

目の毒って難しい言葉だね。わかるかな?
辞書で引いてみよう!

ラウンド終了 手札を捨てたり補充したりします
桟敷川映鏡
*c8を捨てます
匕首咲
* 捨札なし
匕首咲
* (c6) c5 s7 
桟敷川映鏡
*(s8)c3 h9
桟敷川映鏡
*c3 距離を測る
桟敷川映鏡
「……先ほども申しているように、私はそれなりに貴女の心配をしているんですよ」
桟敷川映鏡
通常の身体の安否にくわえ、それはもう様々な心配をしている。
桟敷川映鏡
現に経血のにおいは否が応でも意識せざるを得ない。
渇いた喉が水を求めることを押しとどめることが、自分なりの彼女の信頼への証明だ。
匕首咲
「……着ればいいんだろ着れば」

そのへんに脱いでいた服に袖を通す。
袖を通したが、通しただけ。
下着も身につけていない。

しかしまぁ、ある程度視界はブロックされただろう。 
匕首咲
* 距離を測る c5
匕首咲
「はい!着たから話を戻すぞ!
お前さっきからやたら話を逸らそうとしてるよな?心当たりがあるんだろ?」
桟敷川映鏡
「……なくは」
桟敷川映鏡
「ないですが……」
匕首咲
「やっぱりそうなんじゃねーか!」

ラウンド終了。
手札を捨てて補充。
桟敷川映鏡
*h9を捨てます
匕首咲
* 全て捨てます

お互い膠着状態になるので再度手札を捨てて補充
桟敷川映鏡
*cKを捨てます
匕首咲
* d3 d2 h5を捨てます
桟敷川映鏡
*c4 距離を測ります
桟敷川映鏡
「……先に申し上げておきますが」
桟敷川映鏡
「私は別に、“何もしない”わけではありません」 
匕首咲
「してないじゃん」
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
真剣(マジ)かこの女……?
匕首咲
* アピール s9
桟敷川映鏡
*d8 誘い受け
桟敷川映鏡
2d6+3
DiceBot : (2D6+3) > 9[6,3]+3 > 12

目標値は12

アピールの判定をどうぞ。
匕首咲
2d6+2+1
DiceBot : (2D6+2+1) > 9[5,4]+2+1 > 12
[ 桟敷川映鏡 ] 情緒 : 2 → 3
桟敷川映鏡
「……しておりましたが」
桟敷川映鏡
「もしかして、お気づきでない……?」
匕首咲
「え?」
匕首咲
「……してたっけ?」
匕首咲
思い出してみる。
医療行為以外はしてない気がする。 
匕首咲
「……してなくないか?
まぁそりゃ、多少のアレはあったけど、体診るのってそういうもんだし……」 
桟敷川映鏡
真剣(マジ)かー……
匕首咲
「あ、また話逸らそうとしてるな!
心当たりがあるって言ったよな!ってことは、お前のせいじゃねーか!

なんで子宮ないのに生理来てんだよ!これ妊娠とかもできたりしねーだろうな!?取った意味!?」
桟敷川映鏡
「妊娠は……しないと思いますね……」
匕首咲
「なんで!?」

ラウンド終了

手札捨てて補充しましょう
桟敷川映鏡
*捨てない
匕首咲
* 捨てない
匕首咲
* (hJ cA) cQ
桟敷川映鏡
*(s8) d4 dK
桟敷川映鏡
*d4 距離を測る
桟敷川映鏡
「……心の疵で肉体や衣服、その他さまざまな力が発揮できることは咲さんもご存じかと思いますが」
桟敷川映鏡
「つまるところ……私の疵は、それが遠因だからかと……」
桟敷川映鏡
遠回しな表現。
匕首咲
「いや全然わからん」
匕首咲
* アピール cQ
桟敷川映鏡
*s8 誘い受け
桟敷川映鏡
2d6+3
DiceBot : (2D6+3) > 7[5,2]+3 > 10
匕首咲
2d6+2+1
DiceBot : (2D6+2+1) > 12[6,6]+2+1 > 15

ゾロ目です……1d6でハプニング表を振ってください……。
[ 桟敷川映鏡 ] 情緒 : 3 → 4
匕首咲
1D6
DiceBot : (1D6) > 1

情緒が入り乱れる!全員1D6を振り、その値を情緒とする。上限を超えた場合は〔上限-1〕とする。
桟敷川映鏡
1d6
DiceBot : (1D6) > 4
匕首咲
1D6
DiceBot : (1D6) > 4
桟敷川映鏡
「……貴女に」
桟敷川映鏡
「どこぞの男の子供なんざ、孕んでほしくはない、ということです」 

手札を捨てて補充します。
桟敷川映鏡
*s8を捨てます。
桟敷川映鏡
補充はしません。する必要あります? 
匕首咲
やめて たすけて
匕首咲
死にたくない
桟敷川映鏡
まぁ、情緒を4にしてから改めて命乞いをしてもらいましょうか……
[ 匕首咲 ] 情緒 : 1 → 4
匕首咲
ううっ これでいいですか
匕首咲
「…………は?」
匕首咲
映鏡の言った言葉があまりにも予想の範囲外にあったものだから、理解が遅れる。
今なんて言った?

どこぞの男の子供なんざ、孕んでほしくはない?

なんで?
匕首咲
え?
匕首咲
ん?
匕首咲
子宮取ったのってそういうこと?
匕首咲
いや、それにしても、それにしてもじゃない?
こっちは誰の子供も未来永劫孕めなくなったんですけど?
女じゃなくなったんですけど?
たとえお前の子供であっても孕めないんですけど?

あれ?子宮の形だけ残ってるのって、そういうやつ?
他の男の子供を孕む余地を排除して、自分専用の子宮を作るとかそう、そういう、そういうやつ??? 
匕首咲
いや、違うだろ?
違うはずだ。違うと言ってくれ。

いやいや、違ったにしても他の男の子供を孕んで欲しくないというのは変わらない。本人がそう言ったし。

え?どういうこと?
なんで孕んで欲しくないの?
ど、え?独占欲?は??? 
匕首咲
──待て、冷静になる必要がある。
そもそも心の疵によって、子宮の形の空白ができている話だったはずだ。そちらの方を考えよう。

他の男の子供を孕んで欲しくないなら、なんか色々流す方法はあるはずだ。それをわざわざ子宮切除なんて過激な方法を取ったということは…… 
匕首咲
他の男の子供を孕んで欲しくないの!?!?!?
匕首咲
「……………バカ!!バーーーーカ!!!!バーーカバーーーカ!!!」

肩パンチ肩パンチ。
情緒が入り乱れた。

ラウンド終了。

(スペシャルとアピールの裁定は公式回答がありましたが現状ままでいきます)
桟敷川映鏡
めちゃくちゃに殴られている。

「……傷に障りますと申してるでしょうに」
匕首咲
「……お前が変なこと言うのが悪い……」

勢いは落ち着いたが、3秒に1回くらいのペースで肩パンチ。
桟敷川映鏡
「……」
桟敷川映鏡
*dK 一押しを使用します。

両者ともに+1。

つまり……爆発!
[ 桟敷川映鏡 ] 情緒 : 4 → 5
桟敷川映鏡
肩を少しだけ押す。
桟敷川映鏡
その体を跨ぐように、ベッドの上に膝を立てた。
匕首咲
「え」
桟敷川映鏡
顔を覗き込む。
桟敷川映鏡
「……正直に答えますが」
匕首咲
あれ?なにこれ
匕首咲
いや、最初に似たようなことはしたけど。
したけど。
桟敷川映鏡
「貴女は……おきれいですよ」
匕首咲
「え」
桟敷川映鏡
視線は逸らさない。
桟敷川映鏡
「……貴女以外の血の匂いがしますので」
桟敷川映鏡
「お風呂に入ってきていただけますか、咲さん」
匕首咲
「??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????」
匕首咲
「え?」

かろうじて、それだけ口にした。
桟敷川映鏡
髪を撫で、上体を起こした。
立ち上がるとマントを外してベッドに放る。
匕首咲
「あ?」
匕首咲
なんか今、髪撫でられた?
匕首咲
なんで……?
匕首咲
映鏡が言っていた言葉を、少しずつ、少しずつ咀嚼しようと務める。
匕首咲
『……傷に障りますと申してるでしょうに』

わかる。言ってた。
匕首咲
『正直に答えますが』

この次は一旦パスしよう。
匕首咲
『貴女以外の血の匂いがしますので』

なんでそんなのが分かるんだ?
匕首咲
『お風呂に入ってきていただけますか』

OK,初日と一緒だ。分かる。
匕首咲
のろのろと体を起こして、かけられたマントをどうしようか迷う。
あれ?これも優しいのでは?
匕首咲
──なんとなく、本当になんとなく。
マントを抱きしめてみたいような気持ちになった。

が、ちょっと違う気がしたので、脇に置く。
匕首咲
緩慢な動きで立ち上がり、少し足元がふらつきながらも、バスルームに向かった。
匕首咲
この部屋に来て、何度目かのシャワーの水音。
匕首咲
温かな湯が、体に付いた血を、土を、汚れを洗い流してゆく。
しばらくは体や髪を洗う気になれず、じっとシャワーを浴びている。
桟敷川映鏡
雨音のようなシャワーの音。
隣のベッドに腰かけて、血のついたベッドを見ている。
匕首咲
何かすごいことを言われた気がする。
匕首咲
言われた気がするが、同時に嫌な予感がある。
深く考えると、よくないことに気がついてしまいそうな。
匕首咲
なんであいつ、他人の血の匂いとかわかるんだろ。
匕首咲
本当に分かるのなら、おそらくは心の疵の力だろう。そういえばさっき、心の疵について言っていた。
匕首咲
──そっちのほうも、よくないものが埋まっている気がする。
匕首咲
なんで押し倒したんだろう。
初日の仕返しかな。
匕首咲
うんうん、こっちは考えても大丈夫そう。
初日に口裂け女の例のやつやったんだよな。
どうせ顔見せないといけなくなるから、一回ビビらせておこうと思って。
匕首咲
『あたし、きれい?』って──
匕首咲
『貴女は……おきれいですよ』
匕首咲
「………………………………………………………………………………」
匕首咲
バスルームから、怒号と壁を殴る音が響いた。
[ 匕首咲 ] 情緒 : 4 → 5

どっちも爆発したから寵愛は……なし!
匕首咲
よかった~~~~~!!!!
桟敷川映鏡
Choice[有罪!続行,無罪!終わり]
DiceBot : (CHOICE[有罪!続行,無罪!終わり]) > 無罪!終わり
匕首咲
Choice[有罪!続行,無罪!終わり]
DiceBot : (CHOICE[有罪!続行,無罪!終わり]) > 無罪!終わり

この先はご想像にお任せします。
匕首咲
弊社はノーセックスの方針で行きたいと考えておりますが、咲は流されやすいのでなんもわからんという参考情報を記載しておきます。
桟敷川映鏡
弊社としては、こいつとはないな~があるかもな~の距離感くらいにはなったなという印象でいます
匕首咲
*
匕首咲
シャワーが体を濡らし、湯が排水溝へ流れてゆく。
一通り壁を殴った後、小さく、息を吐いた。
匕首咲
気付きたくない一つの真実に、向き合いきれないでいる。
匕首咲
──そうだ。
あいつの、嫌なところを考えよう。
匕首咲
まず、デリカシーがないところ。
匕首咲
(でも、人格を疑うってほどじゃないんだよな)
(いや、言ってることは結構人格を疑うけど)
(失望とか、幻滅とかする感じじゃない)
(他の奴が言ったら、そうはいかないけど)
匕首咲
あと、すぐに人を馬鹿にしたようなこと言うところ。
匕首咲
(でも、本気でプライドを踏み潰そうとはしてない)
(ただ、からかっているだけみたいな)
(からかわれると腹立つけど、嫌じゃないんだ)
匕首咲
二重人格だし変な格好してるし。
匕首咲
(でも、弟とはあまり話せていない)
(さっきは話せて嬉しかった)
(気持ちを聞けて嬉しかった)
匕首咲
人の気持ちなんかも全然考えてくれないし。
匕首咲
(強姦された女に、優しい言葉もないってなんだよ)
(辛かったねとか、泣いてもいいよとか言うとこだろ)
(根本的な解決をしてくれたけど)
匕首咲
それに、多分頭のおかしい変態だよな。
匕首咲
(あいつ内臓とか血が好きなのか?)
(子宮を取ったのって、ただの趣味か?)
(気持ちが救われたところはあるけど)
(それに血や内臓が好きなのは人のことを言えない)
匕首咲
はぁ、と小さくため息を吐く。
だめだ、悪いところを考えても、すぐに擁護してしまう。
匕首咲
堕落の国を一人で生きている以上、女である不安は常にあった。自分よりも強い男に孕まされてしまうかもしれない。
そんな弱さの一つを手放せたのは、映鏡のお陰だ。
匕首咲
これからは犯されることがあっても、孕むことはない。
映鏡が何を思って子宮を切り取ったにしても、それは事実だ。
匕首咲
どこぞの男の子供なんざ、孕んでほしくはないと言った。
そのくせ、何も宿せない肚の形だけ残していった。
匕首咲
2度もきれいだと言ってくれた。
2回目は、客観的に見ても、なんて言わなかった。
匕首咲
髪を撫でてくれた。
そういえば、内臓を掻き分けた後も撫でていた。
そんなことをする意味なんて無いのに。
匕首咲
分かっている。
分かってしまった。
嬉しいと、思ったのだ。
匕首咲
──あたしは
匕首咲
あの気狂いが、好きなんだ。 
匕首咲
そう思った瞬間に、全身がかっと熱くなる。
好きな人が、できてしまった。
匕首咲
顔が熱い。体が熱い。
肌を打つシャワーの刺激が妙に強く感じてしまって、蛇口を締める。
匕首咲
腹を触られた。
指を入れられた。
中を探られた。
髪を撫でられた。
匕首咲
もっと、触れて欲しいと、思ってしまう。
男に触れられるのなんて、嫌なはずなのに。
匕首咲
ぽた、と小さな音が鳴り、股から経血が滴る。
空虚から血が流れ出している。
匕首咲
嫌だ。
男に触れられたいなんて思う自分になりたくない。
匕首咲
股から流れ出た血が、バスタブをゆっくりと伝ってゆく。それを追うように、さらに血が流れる。
ぼたぼた、ぼた、ぼたぼた。
匕首咲
いや、その前に。
匕首咲
あの男は、初日に言っていた。
願いは元の世界に戻ることだと。
匕首咲
どちらにしても、ずっと一緒にはいられない。
変な心配なんて、全然、する必要がない。
匕首咲
足元を染める経血に紛れて、涙がひとしずくバスタブへ落ちた。
匕首咲
多分、一緒に行きたいと言えば、嫌だとは言わないだろう。しかし、それでは駄目だ。
匕首咲
6ペンスコインの数が強さになる堕落の国でなくては、自分はもう、安心できない。

弱者を生贄に捧げるこの国でなくては、もう満足できない。

普通の弱い女にはなれない。
ましてや、子も産めないのだから。
匕首咲
長い、長いため息を吐く。
匕首咲
そうだ、自分はもう弱い女ではない。
弱者の肉など、今、全て、股から流れ落ちてしまった。
[ 匕首咲 ] 弱者の肉 : -1 → 0
匕首咲
やることは変わらない。
最初からずっと。

強くなる、ただ、それだけ。
匕首咲
*
桟敷川映鏡
今自身の耳に届いているのは雨音ではない。
同室の女が浴びているシャワーの音だ。
桟敷川映鏡
あの時もこんな雨の日だった。
桟敷川映鏡
母親を死なせた日。
桟敷川映鏡
母親を殺した日。
桟敷川映鏡
母親は水中脱出の助手をしていた。
幕を引けば水中にいた姿は掻き消えて、あら不思議。
いつのまにかあすこへ瞬間移動──
桟敷川映鏡
水底に沈む死体。
桟敷川映鏡
そのことだけ覚えている。
桟敷川映鏡
しかし、
桟敷川映鏡
本当に母親は死んでいるのだろうか?
桟敷川映鏡
それすらももはやわからない。
身の内に燻る過去の記憶の断片はその真実を語ることはない。
頭の中に住むもう一人の自分は違うことを言う。
桟敷川映鏡
母親は生きていると。
桟敷川映鏡
母親は死んでいると。
桟敷川映鏡
存在すら揺るがす矛盾がある限り、どこへも行けない。
ただ、母の代わりの娼婦を何度も何度も殺すことでしか心を保てなかった。 
桟敷川映鏡
だから、この儀式に参加したのは兄弟2人で賭けをするためだ。 
桟敷川映鏡
──『兄は 嘘を』
桟敷川映鏡
そうだ、嘘だ。
元の世界に帰るなんて。
それらしい言葉を選んだだけだ。
桟敷川映鏡
本当のところは──
桟敷川映鏡
母親を殺すこと。
桟敷川映鏡
母親を生き返らせること。
桟敷川映鏡
奇跡が本当にあるのなら。
どちらの願いを聞き届けるのか。
そしてどちらが一体真実なのか。

確かめたいだけだ。
桟敷川映鏡
どちらが本当の自分なのか──
桟敷川映鏡
『信じるよ』
桟敷川映鏡
『あんたも、兄さんも』
桟敷川映鏡
雨のようなシャワーの音はまだ聞こえ続けている。 
[ 桟敷川映鏡 ] 大きな失敗 : -1 → 0
桟敷川映鏡