1回戦終了後 Room No.5
*
*今かけひきでは敗者リビルド(脅威度0)のシートを使用しています
*
オールドメイドゲーム1回戦Cホール敗者の部屋。
*
今ここには勝者のひとりである、雪と氷の伝説の化身『トイトロール』によって記憶を忘却の雪にさらわれたふたりがいる。
*
「愛してる」といったこと。
「愛してる」といわれたこと。
ふたりはそれを忘れている。
*
なにもかもが眩い光の彼方へ行ってしまった。
ただ、がらんとした空気だけがそこにある部屋でふたりは仮面のメイドに相対している。
メイド5
客室5号室のメイドは儀式の一部であることから逃れられない。
ふたりが敗退して、生き残ってもなお。
ふたりのことを覚えている。
だから同じように語りかける。
あの日話したことと同じことを、少しだけ違うことを。
メイド5
白兎の末裔たるメイドだ。仮面をつけ、携えていた剣はそこにない。
アレクシア
「………………」 メイドの仮面を見る。その穏やかな表情を。
シャルル
両手が重いと思えば、重いもなにもついてないし。
シャルル
部屋を見て。隣の女を見て。変な耳の女を見て。
アレクシア
隣の男とメイドとの間を、視線が一往復した。
メイド5
「……お客様に立ち話をさせるわけにはいきません。お茶を淹れてまいります。
どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」
メイド5
部屋に備え付けのケトルが沸く音。
上等ではあるが、ティーバッグの紅茶が香る。
シャルル
メイドがいなくなれば、視線は隣へと移る。
シャルル
「アンタ。エルなんとか……って呼ばれてたよな。」
シャルル
自分は目が悪いようだ。
像を結ぶのに、少々力がいる。
シャルル
「俺、なんも覚えてないんだけど……もしかして、こっちも?」
アレクシア
壊れた腕に指されてかすかに肩が跳ねる。自分の手を握りしめようとして、痛みに眉が寄った。
メイド5
メイドは話し始める。
救世主のこと。
この国はぶっちゃけもうだめだということ。
この館のこと。
オールドメイドゲームの儀式のこと。
ふたりがそれを発動させたこと。
そしてその儀式でふたりが敗退したこと。
お互いに、すべての記憶がないこと。
シャルル
まあでも、さっき、此処に来る前に。
そんなことを言っていた気がする。
メイド5
「オールドメイドゲームにおいて、おふたりのすべてのことは優勝した救世主様がご決定されます」
メイド5
「そのときが来るまでは、勝者である方のお言葉どおり。私はおふたりに仕え身のまわりのお世話をさせていただく次第です」
アレクシア
わからない。自分の名前、という気がしない。
シャルル
軽く肩をあげると、壊れた腕の残骸が揺れる。
アレクシア
状況もそうだが、隣の男の、この壊れた腕に理解が及ばない。見れば足も、壊れてはいないが生身でない。
メイド5
「はい。お世話こそが何よりの喜びでございます」
メイド5
「私はもはやここのメイドにあってメイドではありません。他の部屋の救世主様を退けることは不可能です」
メイド5
「儀式の最中、他の救世主様が館を出歩いているときはおふたりも部屋から外へは出歩くことはできません」
メイド5
「お世話が行き届かぬ面が出てくることと思いますが、どうぞご了承くださいませ」
アレクシア
「……………………」 完全に引いている。
シャルル
記憶を失う前の自分の事は何一つわからないが
シャルル
説明を受けた通りならば
敗けたという事は、こうして……
生きていることの方が異常ということだ。
アレクシア
アレクシアは仕方ないで割り切れない。黙って隣を伺う。
アレクシア
自分が何を望んでこんなところに来ていたのか。その上、何故、彼が一緒だったのか。
シャルル
自分の足を見下ろす。
つま先には爪のような刃。
アレクシア
「…………」 要するに。儀式が終わるまで。
シャルル
テーブルに向かい、椅子に腰かける。
幸い、足を動かすのは苦ではなかった。
シャルル
もっとも、正常な状態であれば今のかくついた歩みにはならないことを。
男は知らないのではあるが。
アレクシア
突っ立ったまま。彼に近寄るのが素直に怖かった。一瞬、メイドに縋るような視線が向く。
メイド5
「私どもは皆救世主様に触れることは禁じられております」
メイド5
最も今のメイドにはそのような禁則はない。
メイド5
ただ、少しだけ面白いなと思っているだけだ。
メイド5
今となってはただの村娘同然の末裔の、ささやかな願いじみた悪戯である。
アレクシア
「……………………」 息を詰めて、それから、細く吐く。
アレクシア
数歩テーブルに寄る。が、そこで足が止まる。
アレクシア
何か問おうとした、その矢先に。ふと、耐えられなくなったようにうずくまる。
アレクシア
シャツの胸元はざっくりと切れている。そこから覗く、なにかめちゃくちゃな傷。
シャルル
「言えばいいじゃん。できないならできないって。」
シャルル
腕がないので額を、アレクシアの額にゴンと軽くぶつける。
シャルル
左足の関節が、耐えきれなくなったようだ。
シャルル
膝から、奇妙な方向に曲がって身体が傾く。
アレクシア
引き止める。あるいは抱きとめるようにして。
シャルル
筋肉がついているのもあるが、そもそも手足が骨より重い。
アレクシア
「いっ、……つ、……ぅ」 咄嗟の動きも、かかった重みも、胸の傷に響いた。
シャルル
ぐらりと揺れた視界はとどまり、顔をそちらに向ける。
アレクシア
「倒れるひとに、手を、貸そうと、するとき……何も」
メイド5
滑り込むように室内へ入ってくる。
痛み止めや包帯など、医療道具を携えて。
メイド5
かろうじて支え合っているふたりを見、まあ。と声を上げた。
アレクシア
メイドの手を借りつつ、シャルルをベッドまで連れていく。ほとんど運んでいると言っていい。
アレクシア
「……ありがとうございます」 受け取る。
シャルル
左足は動かない。右足で支えてベッドに座る。
メイド5
「本日はもうお休みになったほうがよろしいかと思います。どうぞごゆっくりなさってくださいませ」
メイド5
「何かございましたらあちらの黒い窓に向かってお申しつけ下さいませ。ご尽力いたします」
メイド5
来た時と同じように、恭しく一礼して去って行った。
メイド5
「おやすみなさいませ。エルレンマイヤー卿アレクシア様、シャルル・ベルジール様」
シャルル
「まあ……動かないから重くて邪魔だけど。」
アレクシア
その苛立ちから逃げるように。メイドに渡された一式から痛み止めを選りだして、ベッドサイドを離れる。
シャルル
アレクシアにとっては幸いなことに、シャルルは今満足に動けない。
シャルル
しかしそれが、シャルル自身を苛立たせていた。
シャルル
「…………痛み止め、ちゃんと飲んだら。」
シャルル
脚はそのまま、ベッドの淵にひっかけたまま。
シャルル
横向きでも足りてしまうベッドの上で、静かに寝息をたて始めた。
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 5
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 2
シャルル
2d6
DiceBot : (2D6) > 6[3,3] > 6
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 5
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 4
*
1 情緒が入り乱れる!全員1D6を振り、その値を情緒とする。上限を超えた場合は〔上限-1〕とする。
[ アレクシア ] 情緒 : 0 → 4
[ シャルル ] 情緒 : 0 → 4
[ シャルル ] 情緒 : 4 → 5
*
あまりのトップスピードにこちらはモーニングティータイムだったということになりました。
アレクシア
自分のベッドを下りて、シャルルのもとへ。
アレクシア
「……肩、ちょっと、……」 曖昧に言いながら、半ばむりやり担ぐようにシャルルを起こす。
シャルル
アレクシアの手助けと支えがあれば、腰の力でもって起き上がることは出来る。
アレクシア
「……それ、……どこから、機械なの?」
シャルル
腕を見る。肌は隠れているが、そこまでは感覚があった。
シャルル
間接のランプは既に途絶え、腕の付け根の接合部の、身体に接続している部分だけ、小さく黄色い光が灯っている。
アレクシア
「………………」 かなり長く沈黙した後。
アレクシア
なんの思い出もない。だが、どこがどう接いているのかは、なんとなくわかった。
アレクシア
「…………」 自分で言っておきながら、数秒黙り。
アレクシア
おそるおそる。シャルルの腕に手をかける。
シャルル
アレクシアの手が、壊れた腕を外した瞬間。
ランプが赤に変わった瞬間。
シャルルの全身に激痛がはしる。
シャルル
唯一動く右足で、アレクシアを力いっぱい蹴りとばした。
シャルル
爪は上を向こうが、踵の棘はそうはいかない。
シャルル
だからと言って、もがく腕も足もない。
蹲るように背を丸め。
ただアレクシアを蹴り飛ばした右足だけが意志に反応して時折動く。
アレクシア
こちらも。腹に突き刺さった棘のあとから血を流し、そこを抱えて細く呻いている。
シャルル
しかし、腕の残骸は……アレクシアの手にあった。
シャルル
息は乱れているが、やがて……静かになるだろう。
アレクシア
一方で。アレクシアは床の上、ひたすらに激痛に耐えている。
アレクシア
胸の傷は、まだ塞がりきってもいない。その鈍い痛みが、蹴り飛ばされてびしりと裂けた。
シャルル
汗がしたたり落ちる。
呼吸は整わないが、痛みは治まった。
シャルル
少し、軽くなった。
接合部の穴が露になった右肩で。
アレクシア
「………………ぅ」 裂けた傷。そして今、新たに増えた腹の傷。
シャルル
動けるレベルには、残っている。
彼には知りようもないが、そう計算して切られている。
シャルル
近づくと、涙の跡が見えるだろう。
唇を噛んだ痕もあるだろう。
アレクシア
「……ご、めん、……そんな、痛い……って」
アレクシア
首を一度、横に振りかけて。それから、縦に。
アレクシア
そう言いながら、言われるまま、右足に手をかける。
アレクシア
その手はやや震えている。なんのためかは定かでない。
シャルル
一度痛みを知っていれば、次がどのようになるかはわかる。
覚悟ができた余裕分、のどは乾き、声は上がる。
シャルル
「っっっっっっそ!!!痛……っっってぇな!!!!!」
シャルル
右の四肢を失い、床に横たわることしかできない。
シャルル
荒い呼吸のまま、ぎらぎらとした目を、アレクシアに向ける。
シャルル
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁあああああ……!!」
シャルル
汗だくのトルソーがそこに横たわっている。
アレクシア
「……、」 言葉を探す様子。だが見つからない。
シャルル
身体を起こす。重しがなければ、上半身の力でなんとか上体を起こすことは出来る。
シャルル
そして、アレクシアを横目にうつぶせになるようにして、おそらくは自分の、荷物の方へと向かって。
アレクシア
腹からの血は止まりきっていない。だが、ゆっくりと。ゆっくりとした動きで、立ち上がる。
アレクシア
しかし、手足のないシャルルよりは、幾分かましだ。
シャルル
荷物の中にはいくつか、長く大きな箱がある。
シャルル
先ほどまでつけていたのと同じ、戦闘用の義肢。
シャルル
そして、儀礼や普段使い用の、装飾が入った金の義肢。
シャルル
「右腕だけつけてくれたら、自分でやるよ。」
シャルル
自分はこの状態だし、メイドを呼んでもいい。
シャルル
耐えられるはずだろ。こんなに……あるんだぞ。付け替えてたんだろ。
アレクシア
そうして動く腕に、手に、かすかに怯え。
シャルル
あっという間だった気もするし、長かった気もする。
アレクシア
こちらはもう、しばらく動けそうにない。
シャルル
華奢な体をベッドに横たえて、無遠慮に服を剥ぐ。
シャルル
身体が覚えている。いや、手が覚えている。
アレクシア
それ以上言葉にならない。のに、もう動けない。
シャルル
昨日からあったであろう、ふさがりかけた胸元の傷。
アレクシア
かすかに呻きながら。やはり何も思い出せない。
シャルル
こんな、弱そうな女と一緒に。
俺は儀式とやらを始めたのだという。
シャルル
1週間以上の時を共に過ごし、戦ったのだという。
シャルル
ガーゼを当てて、抱き起すようにして、包帯を巻く。
アレクシア
抱き起こされた姿勢のまま。ベッドに手をついて、深く息をする。
シャルル
「なんか、お湯とか沸かしてくる。さっき触ってわかったけど……アンタ、ちょっと冷たいよ。」
シャルル
抱き起した時に、少しだけ触れ合った頬が。
シャルル
湯を沸かしに行く。
実際、取り替えてしまえば嘘のように体が楽に動く。
シャルル
彼女ばかりが怪我をして、俺は手足を壊されただけ。
[ シャルル ] 情緒 : 5 → 0
[ アレクシア ] 情緒 : 4 → 4
[ アレクシア ] 情緒 : 4 → 0
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 2
アレクシア
2d6>=7
DiceBot : (2D6>=7) > 4[2,2] > 4 > 失敗
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
*
1 情緒が入り乱れる!全員1D6を振り、その値を情緒とする。上限を超えた場合は〔上限-1〕とする。
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 2
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 6
[ シャルル ] 情緒 : 0 → 2
[ アレクシア ] 情緒 : 0 → 4
[ アレクシア ] 情緒 : 4 → 5
*
敗者は勝者の寵愛を受け取ることができますが……?
*
『シャルル』の寵愛を……?
というか午前中も『アレクシア』の寵愛を……?
シャルル
「これ、どれをどのくらい入れたらいい?」
シャルル
ポットの横に並んだ茶葉の容器は、ひとつではない。
シャルル
カップに注いだ紅茶を持ってきて。
ソーサーごと差し出す。
シャルル
隣に腰かけて、同じようにカップを傾ける。
アレクシア
「…………あなたは」 ふと。息つくように。
シャルル
「なんか……腕も足もないし。陰気な女と一緒だし。儀式だとか救世主だとか。」
シャルル
「わけわかんなくて、クソだなって思ったけど。まあ……腕も足もなんとかなったし。」
シャルル
カップを下ろし、覗き込むように顔を近づける。
アレクシア
「………」 この後。この儀式とやらが終わったら。
アレクシア
おそらく、自分も、彼も、死んでしまうだろうに。
アレクシア
薄い。温かくはあるが、ほとんどそれだけ。
アレクシア
「……ごめんなさい」 そしてまた、詫びる。
アレクシア
「……わたしたちが、この儀式、始めたんでしょう」 メイドの言葉を思い出す。
アレクシア
「………………何もできなかったんじゃないかなって」
シャルル
「そんなに怪我しておいて、そんなわけないだろ。馬鹿。」
シャルル
カップを、ベッド脇のランプの下に置いて。
シャルル
左手を伸ばし、顎に触れて此方を向かせる。
シャルル
そのまま。顔を近づけて唇を重ねる。
ほんの、僅かな時間。
シャルル
左手を、顎から耳元へ。
金色の髪をその後ろへかけて。
シャルル
「でも、さっきは責任取るって言ってたし、どうしようかな……。」
シャルル
手もとのカップを取り上げて、同じように棚に置く。
シャルル
怖いか。と聞かれた。怖いのかもしれない。
シャルル
カップに残った紅茶のようなものの、水面を見て、ため息をつく。
シャルル
「からかってないって言ったら、もっと怒る?」
アレクシア
「だから、からかわないでって、いってるでしょ!」
シャルル
「もうすぐ終わる……狭い世界に二人きりなんて、運命かもしれないだろ。」
シャルル
「俺は、自分の事も、これまでの事も何にもわかんないけどさ。」
シャルル
「芯の強い女だってことは、わかったし。」
シャルル
「あんなに、傷つけて……怖がらせて……」
シャルル
何か、覚えてるんじゃないかって。
それで……でも、そうじゃないなら。
シャルル
いろいろなものに。
負けているのは、自分だ。
シャルル
「今ここにいるのが、アンタでよかった。ありがとな。」
シャルル
そうでなければ今頃、まだ両手足もなく転がっていたかもしれない。
シャルル
「寝込み襲ったりしないから、夜はちゃんと寝ろよ。」
シャルル
「じゃ、メイドさんにちゃんとしたお茶入れてもらうか。」