Dead or AliCe
『16人の救世主』

1回戦終了後 Room No.5


*今かけひきでは敗者リビルド(脅威度0)のシートを使用しています


客室5号室──

オールドメイドゲーム1回戦Cホール敗者の部屋。

今ここには勝者のひとりである、雪と氷の伝説の化身『トイトロール』によって記憶を忘却の雪にさらわれたふたりがいる。

「愛してる」といったこと。
「愛してる」といわれたこと。

ふたりはそれを忘れている。

なにもかもが眩い光の彼方へ行ってしまった。

ただ、がらんとした空気だけがそこにある部屋でふたりは仮面のメイドに相対している。
メイド5
客室5号室のメイドは儀式の一部であることから逃れられない。
ふたりが敗退して、生き残ってもなお。
ふたりのことを覚えている。
だから同じように語りかける。
あの日話したことと同じことを、少しだけ違うことを。
メイド5
「お疲れさまでした、救世主様」
メイド5
白兎の末裔たるメイドだ。仮面をつけ、携えていた剣はそこにない。
メイド5
深く礼をする。
メイド5
恭しくも控えめに丁寧な礼。
アレクシア
「………………」 メイドの仮面を見る。その穏やかな表情を。
アレクシア
「……救世主」
メイド5
「はい」
メイド5
ふたりを見渡して。
シャルル
「…………。」
シャルル
よくわからないまま目が覚めて。
シャルル
よくわからないままつれてこられて。
シャルル
両手が重いと思えば、重いもなにもついてないし。
メイド5
「今はまだそう呼ばせていただきます」
シャルル
両足は普通に動くけどついてないし。
シャルル
自分が誰かもわからない。
シャルル
「救世主、ねぇ。」
シャルル
部屋を見て。隣の女を見て。変な耳の女を見て。
シャルル
「俺の事?それとも……そっち?」
メイド5
「どちらも、でございます」
シャルル
「ふぅん……」 
アレクシア
隣の男とメイドとの間を、視線が一往復した。
シャルル
「ん?」
アレクシア
「……なんでも」 
アレクシア
「ない」
アレクシア
細切れ。
メイド5
「……お客様に立ち話をさせるわけにはいきません。お茶を淹れてまいります。
どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」 
シャルル
「どうも。」
メイド5
メイドは少しだけ席を外した。
メイド5
部屋に備え付けのケトルが沸く音。
上等ではあるが、ティーバッグの紅茶が香る。
シャルル
メイドがいなくなれば、視線は隣へと移る。
シャルル
「アンタ。エルなんとか……って呼ばれてたよな。」
アレクシア
「……たぶん」
シャルル
自分は目が悪いようだ。
像を結ぶのに、少々力がいる。
シャルル
「え。」
メイド5
お茶を携えて戻ってくる。
シャルル
「あの、メイドさんさ。」
メイド5
ティーテーブルにそれを給仕しながら。
メイド5
「はい」
シャルル
「俺、なんも覚えてないんだけど……もしかして、こっちも?」
シャルル
女を腕で指す。 
メイド5
「左様でございます」
アレクシア
壊れた腕に指されてかすかに肩が跳ねる。自分の手を握りしめようとして、痛みに眉が寄った。 
メイド5
メイドは話し始める。
救世主のこと。
この国はぶっちゃけもうだめだということ。
この館のこと。
オールドメイドゲームの儀式のこと。
ふたりがそれを発動させたこと。
そしてその儀式でふたりが敗退したこと。
お互いに、すべての記憶がないこと。
シャルル
「はぁ。」
シャルル
聞いても、なんとも理解がしがたい。
シャルル
まあでも、さっき、此処に来る前に。
そんなことを言っていた気がする。
シャルル
「そう。」
シャルル
人がたくさんいた気がする。
シャルル
「…………で?」
シャルル
「どうすりゃいいわけ。」
メイド5
「オールドメイドゲームにおいて、おふたりのすべてのことは優勝した救世主様がご決定されます」 
メイド5
「そのときが来るまでは、勝者である方のお言葉どおり。私はおふたりに仕え身のまわりのお世話をさせていただく次第です」 
メイド5
「エルレンマイヤー卿アレクシア様」
メイド5
「シャルル・ベルジール様」
メイド5
そういってふたりを目を細めて見る。
シャルル
「シャルル……。」
アレクシア
「……アレクシア」
アレクシア
わからない。自分の名前、という気がしない。
シャルル
「お世話っつっても、これなんだけど。」
シャルル
「アンタが全部やってくれるわけ?」
シャルル
軽く肩をあげると、壊れた腕の残骸が揺れる。
アレクシア
状況もそうだが、隣の男の、この壊れた腕に理解が及ばない。見れば足も、壊れてはいないが生身でない。
メイド5
「はい。お世話こそが何よりの喜びでございます」
メイド5
「ただ──」
メイド5
「私はもはやここのメイドにあってメイドではありません。他の部屋の救世主様を退けることは不可能です」
メイド5
「儀式の最中、他の救世主様が館を出歩いているときはおふたりも部屋から外へは出歩くことはできません」
メイド5
「お世話が行き届かぬ面が出てくることと思いますが、どうぞご了承くださいませ」
メイド5
深々と頭を下げる。
シャルル
「あ?」
シャルル
声が少し低くなる。
シャルル
「じゃあ…………」
シャルル
視線はアレクシアへ。
シャルル
「…………。」
アレクシア
「……………………」 完全に引いている。
シャルル
「こいつにさせるしかないって?」
メイド5
「ご協力賜れますと幸いです」
シャルル
「…………。」
メイド5
アレクシアに改めて頭を下げる。
アレクシア
「ぅ、……は、い……」
シャルル
「はぁん。」
シャルル
値踏みするような視線。
シャルル
「できるの?」
アレクシア
「……わ、からない、です、けど」
シャルル
「はぁ…………。」
アレクシア
「…………っ、」 続く言葉はない。 
シャルル
「……まあ、しかたねぇか。」
シャルル
メイドは敗けたのだといった。
シャルル
記憶を失う前の自分の事は何一つわからないが
シャルル
説明を受けた通りならば
敗けたという事は、こうして……
生きていることの方が異常ということだ。
アレクシア
アレクシアは仕方ないで割り切れない。黙って隣を伺う。
アレクシア
自分が何を望んでこんなところに来ていたのか。その上、何故、彼が一緒だったのか。
シャルル
自分の足を見下ろす。
つま先には爪のような刃。
シャルル
「それじゃ…………アレクシア?」
アレクシア
「……はい」
シャルル
「そんなに怖がるなよ。」
シャルル
「一蓮托生なんだからさ。」
アレクシア
「…………」 要するに。儀式が終わるまで。
アレクシア
もしかしたら死ぬまで。
シャルル
テーブルに向かい、椅子に腰かける。
幸い、足を動かすのは苦ではなかった。
シャルル
もっとも、正常な状態であれば今のかくついた歩みにはならないことを。
男は知らないのではあるが。
アレクシア
突っ立ったまま。彼に近寄るのが素直に怖かった。一瞬、メイドに縋るような視線が向く。
メイド5
メイドはその視線を受けて微笑む。
メイド5
「私どもは皆救世主様に触れることは禁じられております」 
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「……はい」
シャルル
「だってさ、救世主様。」
メイド5
最も今のメイドにはそのような禁則はない。
メイド5
ただ、少しだけ面白いなと思っているだけだ。
メイド5
今となってはただの村娘同然の末裔の、ささやかな願いじみた悪戯である。 
シャルル
「あのさぁ。」
シャルル
「お茶、飲めないんだけど。」
シャルル
「手伝ってくれる?」
アレクシア
「……………………」 息を詰めて、それから、細く吐く。
アレクシア
「……わかっ、……り、ました」
アレクシア
一体どうしろと。
アレクシア
数歩テーブルに寄る。が、そこで足が止まる。
アレクシア
何か問おうとした、その矢先に。ふと、耐えられなくなったようにうずくまる。
シャルル
「…………。」
アレクシア
「痛……」
シャルル
「…………。」
アレクシア
「ごめ、ん、なさ、」
シャルル
「…………怪我、してるのか?」
アレクシア
シャツの胸元はざっくりと切れている。そこから覗く、なにかめちゃくちゃな傷。
シャルル
「…………。」
シャルル
立ち上がって、歩み寄る。
シャルル
目の前にしゃがみ込み。
シャルル
「大丈夫?」
アレクシア
「……だい、じょうぶ」
シャルル
顔が近づけば、よく見える。
シャルル
「嘘つくなよ。馬鹿か。」
アレクシア
「……………………、」
シャルル
「はぁ……」
アレクシア
「……ごめんなさい」
シャルル
「なんで。」
シャルル
「言えばいいじゃん。できないならできないって。」
シャルル
腕がないので額を、アレクシアの額にゴンと軽くぶつける。
アレクシア
「えっ、……痛っ、」
シャルル
メイドの方に目を向ける。
シャルル
「痛み止めとかある?」
メイド5
「承りました」
メイド5
そっと廊下を確認して部屋を出ていく。
シャルル
「どうも。」
シャルル
立ち上がろうとして、バランスを崩す。
シャルル
左足の関節が、耐えきれなくなったようだ。
アレクシア
「あ、」 咄嗟に。手が出る。
シャルル
膝から、奇妙な方向に曲がって身体が傾く。
アレクシア
引き止める。あるいは抱きとめるようにして。
シャルル
シャルルの身体は見た目より重い。
シャルル
筋肉がついているのもあるが、そもそも手足が骨より重い。
シャルル
咄嗟に反応できずにもたれかかる。
アレクシア
「いっ、……つ、……ぅ」 咄嗟の動きも、かかった重みも、胸の傷に響いた。
シャルル
「ああー……」
シャルル
ぐらりと揺れた視界はとどまり、顔をそちらに向ける。
シャルル
「馬鹿。倒しけばいいだろ。」
アレクシア
「……だっ、……て、つい……」
アレクシア
「倒れるひとに、手を、貸そうと、するとき……何も」
アレクシア
「考えてない」
シャルル
「そう。」
アレクシア
「……足」
アレクシア
「大丈夫?」
シャルル
「いや、もう。動かないかもな。左は。」
アレクシア
「……どうしよう……」
メイド5
部屋をノックする音。
メイド5
滑り込むように室内へ入ってくる。
痛み止めや包帯など、医療道具を携えて。
メイド5
「お待たせいたしました」
メイド5
かろうじて支え合っているふたりを見、まあ。と声を上げた。
メイド5
流石に手伝いましょう。
アレクシア
メイドの手を借りつつ、シャルルをベッドまで連れていく。ほとんど運んでいると言っていい。
メイド5
持ってきた医療道具を手渡す。
アレクシア
「……ありがとうございます」 受け取る。
シャルル
左足は動かない。右足で支えてベッドに座る。
メイド5
「本日はもうお休みになったほうがよろしいかと思います。どうぞごゆっくりなさってくださいませ」
シャルル
「そうだな……。」
メイド5
「何かございましたらあちらの黒い窓に向かってお申しつけ下さいませ。ご尽力いたします」 
メイド5
部屋に置かれているモニターを手で示す。
メイド5
来た時と同じように、恭しく一礼して去って行った。
メイド5
「おやすみなさいませ。エルレンマイヤー卿アレクシア様、シャルル・ベルジール様」
アレクシア
二人で取り残されて、シャルルを見る。
アレクシア
「……痛くは、ないの、それ」
シャルル
「まあ……動かないから重くて邪魔だけど。」
シャルル
「痛くはないな。」
アレクシア
「そう……」
アレクシア
言いながら、
アレクシア
徐々に青ざめていく。
シャルル
「何?」
アレクシア
「……なんでも」
アレクシア
「ない……」
シャルル
「何。」
アレクシア
「…………痛、くて」
シャルル
「…………。」
シャルル
「薬飲みな。」
アレクシア
「……うん……」
シャルル
「…………。」
シャルル
「なんでそんなびくびくしてんの。」
シャルル
「痛いから、だけじゃないだろ。」
アレクシア
「…………ごめんなさい」
シャルル
「ごめんじゃねーだろ。」
シャルル
イライラする。なんか、イライラする。
アレクシア
その苛立ちから逃げるように。メイドに渡された一式から痛み止めを選りだして、ベッドサイドを離れる。
シャルル
アレクシアにとっては幸いなことに、シャルルは今満足に動けない。
シャルル
しかしそれが、シャルル自身を苛立たせていた。
シャルル
ぱたんと、後方。ベッドの上に倒れる。
シャルル
「…………。」
シャルル
見覚えのない天井。
シャルル
覚えのある天井などないのではあるが。 
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「……はい?」
シャルル
「…………痛み止め、ちゃんと飲んだら。」 
シャルル
「寝ろよ。」
アレクシア
「…………………………」
アレクシア
「……うん」
シャルル
それきり。
シャルル
脚はそのまま、ベッドの淵にひっかけたまま。
シャルル
横向きでも足りてしまうベッドの上で、静かに寝息をたて始めた。

一晩が明ける──

*かけひきの開始です!
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 5
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 2

行動順はシャルル様→アレクシア様の順番です。
シャルル
*h2 h4 s5
アレクシア
*d2 h5 hJ
シャルル
*アレクシアにアピール s5
シャルル
2d6
DiceBot : (2D6) > 6[3,3] > 6

*これはいきなりハプニング表だ!
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 5
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 4

1 情緒が入り乱れる!全員1D6を振り、その値を情緒とする。上限を超えた場合は〔上限-1〕とする。
[ アレクシア ] 情緒 : 0 → 4
[ シャルル ] 情緒 : 0 → 4

2人ともいきなり情緒が4に!!!! 

アピールの失敗も入ります。

つまり……。

シャルルさんの情緒は5に。爆発!
[ シャルル ] 情緒 : 4 → 5

あまりのトップスピードにこちらはモーニングティータイムだったということになりました。
シャルル
目が覚める。
シャルル
身体を起こそうとして、起き上がれない。
シャルル
支える腕はないし、その壊れた腕が重い。
アレクシア
隣のベッドには、まだ青い顔の女。
シャルル
「おい。」
アレクシア
「……ん」
シャルル
「おい!」 
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「っ!」 飛び起きる。
シャルル
「…………はぁ。」
シャルル
「起こしてくれる?」
アレクシア
「……あ、うん……はい」
アレクシア
自分のベッドを下りて、シャルルのもとへ。
アレクシア
「……肩、ちょっと、……」 曖昧に言いながら、半ばむりやり担ぐようにシャルルを起こす。
シャルル
「ん……。」
シャルル
力が入らないわけではない。
シャルル
アレクシアの手助けと支えがあれば、腰の力でもって起き上がることは出来る。
シャルル
「ありがと。」
アレクシア
「……ううん」
シャルル
「せめて……。」
シャルル
壊れた腕を見る。
シャルル
「これが無けりゃな。」
アレクシア
「……それ、……どこから、機械なの?」
シャルル
「んー……」
シャルル
腕を見る。肌は隠れているが、そこまでは感覚があった。
シャルル
「この、なんか……」
シャルル
間接のランプは既に途絶え、腕の付け根の接合部の、身体に接続している部分だけ、小さく黄色い光が灯っている。
シャルル
「光ってるとこくらい?」
シャルル
「たぶんな。」
アレクシア
「………………」 かなり長く沈黙した後。
アレクシア
「……外せると、思う……?」
シャルル
「さあ。」
シャルル
「腕、ないし。」
アレクシア
「……どう、しよう」 決めきれない。
シャルル
「…………はずせんの?」
アレクシア
「……たぶん…………たぶん」
アレクシア
なんの思い出もない。だが、どこがどう接いているのかは、なんとなくわかった。
シャルル
「じゃ、とって。」
アレクシア
「…………」 自分で言っておきながら、数秒黙り。
アレクシア
「…………わかった」
アレクシア
おそるおそる。シャルルの腕に手をかける。
アレクシア
重たい。それを、ぐっと掴み。
アレクシア
外す。
シャルル
「………っぐぁ……!」
シャルル
アレクシアの手が、壊れた腕を外した瞬間。
ランプが赤に変わった瞬間。
シャルルの全身に激痛がはしる。
シャルル
そして、即座に
シャルル
唯一動く右足で、アレクシアを力いっぱい蹴りとばした。
シャルル
「っ…………!」
アレクシア
「うっ……あ!!?」
シャルル
爪は上を向こうが、踵の棘はそうはいかない。
シャルル
吹きとばす前に、突き刺さり、抜かれる。
シャルル
「~~~~~~~!!!」
シャルル
声も上げられない。
シャルル
だからと言って、もがく腕も足もない。
蹲るように背を丸め。
ただアレクシアを蹴り飛ばした右足だけが意志に反応して時折動く。
アレクシア
こちらも。腹に突き刺さった棘のあとから血を流し、そこを抱えて細く呻いている。
シャルル
しかし、腕の残骸は……アレクシアの手にあった。
シャルル
「あ……ああ…………っ、う……」
シャルル
俯いている。
シャルル
「はぁっ……」
シャルル
息は乱れているが、やがて……静かになるだろう。
アレクシア
一方で。アレクシアは床の上、ひたすらに激痛に耐えている。
アレクシア
胸の傷は、まだ塞がりきってもいない。その鈍い痛みが、蹴り飛ばされてびしりと裂けた。
シャルル
「…………。」
アレクシア
「…………っ、ぅ……」 か細い呻き。
シャルル
汗がしたたり落ちる。
呼吸は整わないが、痛みは治まった。
シャルル
「…………あ。」
シャルル
咄嗟に、立ち上がろうとして。
シャルル
左足が動かないことを忘れて。
シャルル
前に倒れる。
シャルル
床に、倒れて。
アレクシア
「…………ぁ、」
シャルル
少し、軽くなった。
接合部の穴が露になった右肩で。
シャルル
ぐっと、前に進む。
シャルル
「アレクシア……!」
シャルル
這うように、近づいて。
シャルル
「ごめん。」
シャルル
「……ごめん。」
アレクシア
「………………ぅ」 裂けた傷。そして今、新たに増えた腹の傷。
アレクシア
「ん、…………ご、め」
シャルル
幸い、途切れているのは付け根ではない。
シャルル
動けるレベルには、残っている。
彼には知りようもないが、そう計算して切られている。
シャルル
目の前まで、這って。
シャルル
近づくと、涙の跡が見えるだろう。
唇を噛んだ痕もあるだろう。 
シャルル
「アレクシア……。」
アレクシア
「……ご、めん、……そんな、痛い……って」
アレクシア
「思わ、なくて」
シャルル
「…………。」
シャルル
「俺も。」
シャルル
「立てる?」
アレクシア
首を一度、横に振りかけて。それから、縦に。
シャルル
「あのさ。」
シャルル
「右。とって。足。」
シャルル
「そしたら蹴れないから。」
アレクシア
「で、も」
アレクシア
「……動けなく、なる、……それじゃ」
シャルル
「どっちにしても動けないから。」
シャルル
「それに……外せるって事は。」
シャルル
「替えもあるかもしれないし。」
アレクシア
躊躇う沈黙。
アレクシア
しかし、やがて。
アレクシア
ゆっくりと身を起こして、
アレクシア
「………………ごめんなさい」
アレクシア
そう言いながら、言われるまま、右足に手をかける。
アレクシア
その手はやや震えている。なんのためかは定かでない。
アレクシア
けれど、結局は。その右足も、外す。
シャルル
脚に手がかけられると、覚悟を決める。
シャルル
「あ……っ、あああああああ!!」
シャルル
一度痛みを知っていれば、次がどのようになるかはわかる。
覚悟ができた余裕分、のどは乾き、声は上がる。
シャルル
「っっっっっっそ!!!痛……っっってぇな!!!!!」
シャルル
右の四肢を失い、床に横たわることしかできない。
シャルル
荒い呼吸のまま、ぎらぎらとした目を、アレクシアに向ける。
シャルル
「……は……はぁ……よし、次ぃ!」
アレクシア
「………………っ、」
アレクシア
言われるままに。
シャルル
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁあああああ……!!」
シャルル
外されるたび、激痛が走る。
シャルル
泣き叫び、キレ散らかしながら。
シャルル
全てを外し終えると。
シャルル
「…………。」
シャルル
汗だくのトルソーがそこに横たわっている。
シャルル
「…………アレクシア。」
アレクシア
「……う、ん」
シャルル
「ありがとう。」
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「……ごめん」
シャルル
「なんで。」
シャルル
「あやまんの。」
アレクシア
「だって、」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「……、」 言葉を探す様子。だが見つからない。
シャルル
「はぁ…………。」
シャルル
身体を起こす。重しがなければ、上半身の力でなんとか上体を起こすことは出来る。
シャルル
そして、アレクシアを横目にうつぶせになるようにして、おそらくは自分の、荷物の方へと向かって。
シャルル
出来る限りの動きで、ものを探し始めた。
アレクシア
腹からの血は止まりきっていない。だが、ゆっくりと。ゆっくりとした動きで、立ち上がる。
アレクシア
シャルルの後を追いかけて。
アレクシア
「…………開けても、いい?」
シャルル
「俺に……」
シャルル
聞くな、と言おうとして。
シャルル
その顔を見て。
シャルル
「…………。」
シャルル
「いいよ。」
アレクシア
「…………うん」 動きは、鈍い。
アレクシア
しかし、手足のないシャルルよりは、幾分かましだ。
シャルル
荷物の中にはいくつか、長く大きな箱がある。
シャルル
先ほどまでつけていたのと同じ、戦闘用の義肢。
シャルル
メンテナンス用の、簡易な義肢。
シャルル
そして、儀礼や普段使い用の、装飾が入った金の義肢。
アレクシア
ひとつひとつ、箱を開け。
アレクシア
持ち上げて、シャルルに選ばせる。
シャルル
一つ一つを確認する。
シャルル
出来れば、もう二度と外したくはない。
シャルル
「それ。」
シャルル
示したのは金の義肢。
アレクシア
「…………わかった」
シャルル
「腕。」
シャルル
「右腕だけつけてくれたら、自分でやるよ。」
アレクシア
「…………うん」
アレクシア
たぶん、付けるときも、痛いんだろう。
アレクシア
そう思いながら。
シャルル
「殴らないから。」
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「うん」
アレクシア
深く息を吸い。吐く。
シャルル
断ることもできるだろう。
シャルル
自分はこの状態だし、メイドを呼んでもいい。
アレクシア
もう一度息を吸い、止めて。
アレクシア
付ける。
シャルル
同じだった。
シャルル
つける時も、痛みは変わらない。
シャルル
そうだと思った。
シャルル
だから、我慢する。
シャルル
「っ…………」
シャルル
これを
シャルル
つけてたんだ、俺は。
シャルル
耐えられるはずだろ。こんなに……あるんだぞ。付け替えてたんだろ。
シャルル
「ん………」
シャルル
手が
シャルル
伸びる。
シャルル
何か。掴もうとして、空を撫でる。
シャルル
手が動く。
アレクシア
そうして動く腕に、手に、かすかに怯え。
アレクシア
けれど、悲鳴を上げたりはしなかった。
シャルル
やがて、それは床に静かに降りて。
シャルル
「…………。」
シャルル
自在に動くようになる。
シャルル
そのまま、休む間もなく。
シャルル
左手、右足、左足。
シャルル
どれだけ時間がたっただろうか。
シャルル
あっという間だった気もするし、長かった気もする。
シャルル
すっと、『自分の足』で立ち上がると。
シャルル
「はぁ…………」
シャルル
「アレクシア。アンタ……」
シャルル
「思ったより、肝が据わってるな。」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「たぶん、……」
アレクシア
「あなたほどじゃ、ない」
シャルル
「そうか?」
シャルル
「ほら……血。」
シャルル
「出てるから。ほら。」
シャルル
薬と包帯を取りに。
自由に動ける。
アレクシア
半ば以上、へたり込むようにして。
アレクシア
こちらはもう、しばらく動けそうにない。
シャルル
「…………はぁ。」
シャルル
「どうしようもない奴。」
シャルル
言えばいいだろ。
シャルル
痛いなら痛いって。
シャルル
待ってほしいなら待ってほしいって。
シャルル
治療器具をベッドにおいて、歩み寄り。
シャルル
軽々と抱き上げる。
シャルル
シャルルの足音はほとんどない。
シャルル
そういうふうにできている。
シャルル
華奢な体をベッドに横たえて、無遠慮に服を剥ぐ。
アレクシア
「っ!?」
シャルル
消毒と、薬と、包帯と。
シャルル
身体が覚えている。いや、手が覚えている。
シャルル
「なんだよ。」
アレクシア
「なんっ、……」
アレクシア
それ以上言葉にならない。のに、もう動けない。
シャルル
「動くなよ。」
シャルル
冷たい指先が肌をなぞる。
シャルル
自分が今つけた、刺し傷と、打撲と。
シャルル
昨日からあったであろう、ふさがりかけた胸元の傷。
シャルル
「痛い?」
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「………………痛い」
シャルル
「そう。」
シャルル
ひとつひとつ、確かめるように。
シャルル
薬を塗っていくけれど。
シャルル
何も思い出しそうにない。
アレクシア
かすかに呻きながら。やはり何も思い出せない。
シャルル
こんな、弱そうな女と一緒に。
俺は儀式とやらを始めたのだという。
シャルル
1週間以上の時を共に過ごし、戦ったのだという。
シャルル
「待ってて。」
シャルル
「いや……とりあえず。」
シャルル
ガーゼを当てて、抱き起すようにして、包帯を巻く。
シャルル
視界の端が金の髪で埋まる。
シャルル
「…………。」
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「………………何」
シャルル
「…………アンタは、怖くないのか?」
シャルル
「何も、わからなくてさ。」
シャルル
そのまま手を止めて、問いかける。
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「怖い」
シャルル
「じゃあ……そうか。」
シャルル
「強いんだな。」
シャルル
包帯の端を留めて、離れる。
アレクシア
抱き起こされた姿勢のまま。ベッドに手をついて、深く息をする。
シャルル
「なんか、お湯とか沸かしてくる。さっき触ってわかったけど……アンタ、ちょっと冷たいよ。」
シャルル
抱き起した時に、少しだけ触れ合った頬が。
アレクシア
「………………あの」
アレクシア
「ありがとう」
シャルル
「ん……?」
シャルル
「どういたしまして。」
シャルル
湯を沸かしに行く。
実際、取り替えてしまえば嘘のように体が楽に動く。
シャルル
彼女ばかりが怪我をして、俺は手足を壊されただけ。
シャルル
それが、少し引っかかった。

[ シャルル ] 情緒 : 5 → 0
[ アレクシア ] 情緒 : 4 → 4
[ アレクシア ] 情緒 : 4 → 0

*アフタヌーンティータイムかけひきだ!!
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 1
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 2

アレクシア様→シャルル様の順番です。
アレクシア
*c2 d5 h7
シャルル
*c8 dJ hJ
アレクシア
*アレクシアはパスです。
シャルル
*c8でアピール
アレクシア
*誘い受け割り込みます h7
アレクシア
2d6>=7
DiceBot : (2D6>=7) > 4[2,2] > 4 > 失敗

*ハプニング再び
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 1

1 情緒が入り乱れる!全員1D6を振り、その値を情緒とする。上限を超えた場合は〔上限-1〕とする。
シャルル
1d6
DiceBot : (1D6) > 2
アレクシア
1d6
DiceBot : (1D6) > 6
[ シャルル ] 情緒 : 0 → 2
[ アレクシア ] 情緒 : 0 → 4
[ アレクシア ] 情緒 : 4 → 5

*情緒爆発!!!!!!

さっきも見たなコレ?

敗者は勝者の寵愛を受け取ることができますが……?

『シャルル』の寵愛を……?
というか午前中も『アレクシア』の寵愛を……? 
シャルル
「あのさ。」
アレクシア
「……ん」
シャルル
「これ、どれをどのくらい入れたらいい?」
シャルル
ポットの横に並んだ茶葉の容器は、ひとつではない。
アレクシア
「ええ、と」
シャルル
「適当でいっか。」
シャルル
なんか、メイドさんがやっていたように。
シャルル
いくつか適当にとって、混ぜて。
シャルル
適当に、お湯を入れて。
シャルル
「…………はい。」
シャルル
カップに注いだ紅茶を持ってきて。
ソーサーごと差し出す。
アレクシア
「…………ありがとう」
アレクシア
受け取って、おずおずと一口。
シャルル
隣に腰かけて、同じようにカップを傾ける。
シャルル
「はは。」
シャルル
「変な味。」
アレクシア
「…………ん」
シャルル
「っふふふふ。」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「…………あなたは」 ふと。息つくように。
アレクシア
「あなたは、……怖くないの」
シャルル
「ん?」
アレクシア
「…………なんにも、わからないの」
アレクシア
「怖いかって、聞いたから」
シャルル
「なんか……腕も足もないし。陰気な女と一緒だし。儀式だとか救世主だとか。」
シャルル
「わけわかんなくて、クソだなって思ったけど。まあ……腕も足もなんとかなったし。」
シャルル
カップを下ろし、覗き込むように顔を近づける。
シャルル
「まあ、近くで見るとアンタ美人だし。」
アレクシア
一瞬。覗き込まれて肩が跳ねる。
シャルル
「なんか、どうでもよくなってきた。」
アレクシア
「………」 この後。この儀式とやらが終わったら。
アレクシア
おそらく、自分も、彼も、死んでしまうだろうに。
アレクシア
「……そう」
アレクシア
目を伏せて、また、カップから一口。
アレクシア
薄い。温かくはあるが、ほとんどそれだけ。
アレクシア
「……ごめんなさい」 そしてまた、詫びる。
シャルル
「…………なんで?」
アレクシア
「……わたしたちが、この儀式、始めたんでしょう」 メイドの言葉を思い出す。
アレクシア
「……わたし」
アレクシア
「………………何もできなかったんじゃないかなって」
シャルル
「…………。」
アレクシア
「……そういう、気がして」
シャルル
「はは。」
シャルル
「そんなに怪我しておいて、そんなわけないだろ。馬鹿。」
シャルル
「俺なんて、殆ど無傷だぞ。」
アレクシア
「……それは、……機械だったから、」
アレクシア
「だから」
アレクシア
「そうじゃなかったら、」
シャルル
「何?じゃあ責任取ってくれるとか?」
アレクシア
「……責、任」
シャルル
カップを、ベッド脇のランプの下に置いて。
シャルル
左手を伸ばし、顎に触れて此方を向かせる。
アレクシア
「ちょっ、」
シャルル
そのまま。顔を近づけて唇を重ねる。
ほんの、僅かな時間。
アレクシア
固まった。
シャルル
「どうせ、このまま死ぬんだし。」
シャルル
左手を、顎から耳元へ。
金色の髪をその後ろへかけて。
シャルル
次は、首筋に。
シャルル
唇で触れて。
アレクシア
「ちょっ、……待っ、何、」
シャルル
「何って。」
シャルル
顔をあげる。
シャルル
「キスだけど。」
アレクシア
「や、めて」
シャルル
「え?」
シャルル
「なんで。」
アレクシア
「なんっ……!?」
シャルル
左手は耳元から肩を滑らせて腰まで。
シャルル
「俺じゃ嫌?」
アレクシア
「……い、や」
シャルル
「っふ、あはははは。」
シャルル
「嫌って言えるじゃん。」
アレクシア
「……っ、」
シャルル
「でも、さっきは責任取るって言ってたし、どうしようかな……。」
アレクシア
「言っ、……て、ない……!」
シャルル
「そうだっけ。」
シャルル
手もとのカップを取り上げて、同じように棚に置く。
アレクシア
カップを失った手が、行き場を失う。
シャルル
「じゃあ…………。」
シャルル
「添い寝で勘弁してあげよう。」
アレクシア
「……………………っ、」
アレクシア
「一人で、寝て!」
シャルル
「あはははは。」
シャルル
立ち上がって、カップを手に作業場へと。
シャルル
怖いか。と聞かれた。怖いのかもしれない。
シャルル
カップに残った紅茶のようなものの、水面を見て、ため息をつく。
シャルル
見えないところで、深呼吸をして。
シャルル
「……アレクシア。」
シャルル
「怒った?」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「怒ってるけど」
アレクシア
「怒ってるけど」
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「困る」
シャルル
「何が?」
アレクシア
「……からかわないで」
シャルル
「あー…………」
シャルル
「からかってないって言ったら、もっと怒る?」
アレクシア
「っ、」
アレクシア
「だから、からかわないでって、いってるでしょ!」
シャルル
「からかってないよ。だって。」
シャルル
「もうすぐ終わる……狭い世界に二人きりなんて、運命かもしれないだろ。」
アレクシア
「……………………」
アレクシア
「馬鹿みたいなこと」
アレクシア
「言わないで……」
シャルル
「あはは。」
シャルル
「俺は、自分の事も、これまでの事も何にもわかんないけどさ。」
シャルル
「アンタが。臆病だけど優しくて……」
シャルル
「芯の強い女だってことは、わかったし。」
シャルル
「まあ、ほら。その……」
シャルル
「んー……」
シャルル
「あんなに、傷つけて……怖がらせて……」
シャルル
「…………。」
シャルル
「勘違いもするさ。」
アレクシア
「…………、え?」
シャルル
何か、覚えてるんじゃないかって。
それで……でも、そうじゃないなら。
シャルル
いろいろなものに。
負けているのは、自分だ。
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「……今度は、何」
シャルル
「今ここにいるのが、アンタでよかった。ありがとな。」
シャルル
そうでなければ今頃、まだ両手足もなく転がっていたかもしれない。
シャルル
殺されていたかもしれない。
シャルル
「寝込み襲ったりしないから、夜はちゃんと寝ろよ。」
アレクシア
「…………そういうところ」
アレクシア
「きらいよ」
シャルル
「あはは。」
シャルル
「そりゃ光栄だ。」
シャルル
「じゃ、メイドさんにちゃんとしたお茶入れてもらうか。」
アレクシア
「……うん」
シャルル
にこりと、笑いかける。
アレクシア
何もない。何もわからない。ただ、今。
アレクシア
真新しい、腹の傷が。
アレクシア
それだけが、新しく。
アレクシア
確かにある。
シャルル
何もない。何もわからない。ただ、今。
シャルル
残された、手足が。
シャルル
それだけが、よくなじみ。
シャルル
確かにあったことを告げる。

何もない。何もわからない。ただ、今。

がらんとするはずだった部屋に。

ふたりがいる。