Dead or AliCe
『16人の救世主』

裁判 Room No.5

シャルル
多くの観客が見守る中庭を、見下ろすように。
シャルル
館の一角、中央に近い部屋のバルコニーにふたり。
シャルル
ひとりは椅子に、ひとりはその隣に寄り添うように。
シャルル
そこにいる。
シャルル
手足は金の装飾ではなく。
シャルル
刃と棘を仕込んだ黒と灰銀に、緑色の灯りがともったものに。
シャルル
「…………アレクシア。」
アレクシア
椅子に座り。中庭を見つめていた視線が、シャルルへと移る。
アレクシア
「……ん」 [編集済]
メイド5
ふたりのその横に5号室のメイドだった末裔も控えて、見ている。
シャルル
「寒くないか?」
アレクシア
「……大丈夫」
アレクシア
寒くないわけではなく。寒くても。
アレクシア
今は。
メイド5
かつてメイドとしての自分が、見届けたものをもう一度。
今度はただの観客として。この世界のひとりとして。
シャルル
「…………わかった。」
シャルル
物語が紡がれる。
シャルル
一枚ずつ、捲られてきたページがまた一枚。
シャルル
おしまいに向かって捲られていく。
アレクシア
ひとつの物語が。
アレクシア
紡がれてきたものが。
アレクシア
いつか、始まったものが。
メイド5
どうして物語は昔々から始まるのか。
どうしてめでたしめでたしで終わるのか。
メイド5
どうしてこの国はその先を続けなくてはいけなかったのか──。
シャルル
対する二人は、とても精一杯で。
シャルル
それでも、彼らには目指す未来がある。
メイド5
「……続きをねだった子でもいたんでしょうかね」
メイド5
ぽつりと言う。
シャルル
「…………ん?」
アレクシア
「……続き?」
メイド5
「すみません、私の……感傷です」
メイド5
ふふ、と笑う。
シャルル
「…………アンタは。」
メイド5
クリスマスツリーに飾られた、エプロンドレスの少女のオーナメント。
堕落の国でよくみられる、信仰の形──救世主《アリス》 [編集済]
シャルル
「アンタには、望みはあったのか?」
メイド5
「いいえ、私には……望み、というもの自体がわかりませんでしたよ」
メイド5
「それでも、そう。あなたがたが初めてこの館にいらしたとき」
メイド5
「儀式が記憶しているさまざま救世主たちと……今あすこにいるかたがたも、いなくられたかたがたもみな同じ瞳をしておりましたように思います」
メイド5
仮面をしていると見える。
相対したものの瞳の光。それしか見えない暗闇のうちがわ。 [編集済]
メイド5
それが“望み”というものの正体なのなら。
自分はそれをよく知っている。
GM
――これより、裁判に入ります。バルコニーへのガラス扉を開け、表に出ることができます。
GM
以降、メインでの発言、救世主への呼びかけ等、許可されます。
GM
以上です。
アレクシア
シャルル
裁判が始まる
シャルル
おわりと、あたらしいはじまりをかけた裁判が。 [編集済]
メイド5
ふたりを見て、バルコニーのガラス戸を開ける。
メイド5
雪風が吹きこんで衣服やカーテンを揺らした。
シャルル
「…………始まったな。」
アレクシア
「……うん」
シャルル
「アンタも。」
シャルル
メイドに目を向ける。
メイド5
ふたりが『アレクシア』と『シャルル』だったころも、こうして裁判で雪が舞っていた。 [編集済]
シャルル
「見届けよう。」
メイド5
「はい」
シャルル
「ありがとう。」
シャルル
「…………今だけじゃなくて、これまで。」
シャルル
「アンタがいなかったら、俺はここにいない。」
アレクシア
「……わたしからも」
アレクシア
「ありがとう」
メイド5
儀式を始めたふたり。
メイド5
物語のページをめくったもの。
メイド5
そのふたりを見つめて。
まるでメイドのように恭しく礼をした。
メイド5
「光栄でございます」
メイド5
頭を上げる。
メイド5
「……いつでもお近くに寄れるようです」
メイド5
バルコニーの向こうを見て。
この決勝で5号室に与えられた権限を端的に話す。
メイド5
「……ご随意に」
シャルル
「邪魔はしないさ……邪魔はね。」 [編集済]
シャルル
「全員が望んだ『裁判』だ。」
アレクシア
じっと黙る。白く冷えた指先。
シャルル
だが、手足を取り換えたのは正解だったかもしれないな。
シャルル
むちゃくちゃ痛かったけど
シャルル
「アレクシア。アンタに……この手足が必要な時は。」 [編集済]
シャルル
「俺に言いな。」
アレクシア
「…………」 目を細めた静かな微笑みがシャルルを見上げ。
アレクシア
「……ありがとう」
アレクシア
ずっと。シャルルはアレクシアのことばかりだ。
アレクシア
それが嬉しくも、切なくもある。
シャルル
「…………。」
シャルル
あれは、記憶。
シャルル
過去の記憶。『シャルル』と『アレクシア』の記憶。
シャルル
隣の、座った女の肩を抱く。
アレクシア
『わたしも信じているのでね』。
そう、記憶は言って。
アレクシア
今はアレクシアも信じている。肩を抱く腕。その持ち主を。
アレクシア
それは、二人が『アレクシア』と『シャルル』だからではない。
アレクシア
今、ここにいる二人だから。
シャルル
雪が積もるのを、庇う様に寄り添って。
シャルル
中庭を見据える。
アレクシア
館が軋む。壊れてしまいそうなほど激しく。
シャルル
技の応酬。
シャルル
見かけは圧倒的にトイの独壇場だが……
シャルル
「これが、決勝……」
シャルル
チカとマキナの『裁判』を見るのは初めてだ。
シャルル
『此処での戦闘は……経験だけでは勝てないという事。』
シャルル
『個人が強いほど、連携が取れないのかもしれません。』
シャルル
背後から、聞こえる声。
そうか、アンタは見てたか。だけど。
シャルル
「……アレに。負けたやつがよく言うよ。」
シャルル
負けたやつは、あそこで記憶なんてものになっている。
アレクシア
だが。それでも。
アレクシア
『一緒に戦えないやつとこんなところには来ない』
アレクシア
信じているのなら。信じていられるのなら。
アレクシア
「……マキナさん……」
アレクシア
勝敗はまだ、中庭の救世主たちの間で揺蕩っている。
シャルル
「信じられるのは。」
シャルル
「お互いだけなんだろ。」
シャルル
「なら、存分に……信じればいい。」
シャルル
「信じれば……奇跡だって、起こせるさ。」
アレクシア
指先が。祈るように組み合わされる。
シャルル
それは、何に対する祈りなのか。
シャルル
『お前が縫うんだよ、祈りを込めてな』と、アイツは言った。
シャルル
その、祈りは本当に。祈りたりえるのか。
アレクシア
無垢だな、と思った。
アレクシア
所有している相手に、だから祈れと言ったところで。
そこに呪いを込めて縫うことだってできるのに。
シャルル
『いただきます?』『食材に感謝~、てきな』
シャルル
それと、何が違うんだ。
シャルル
ただ、習うように。口にしたそれと。
シャルル
「トイトロール……」
シャルル
心に刻まれた疵、俺たちの記憶を奪ったもの。
シャルル
『さみしいからだよ』
『記憶はそばにいる。』
『記憶はなにも、変わったことをしない』
シャルル
「化け物、か。」
アレクシア
『『さみしい』からオレはお前より強かったんだ』
アレクシア
「……さみしい」
アレクシア
「さみしいばかりの……」
シャルル
視界が悪い。
足場も悪い。
シャルル
着慣れない服を着こんだアイツは、動きも鈍るだろう。
アレクシア
この手で縫った服に、杭が打ち込まれる。
シャルル
だから……
シャルル
肩を抱いた手に少し力がこもる。
シャルル
「騎士ってのは……」
シャルル
俺は、何も知らないけれど。
シャルル
『奇跡の力で、全ての人を『救済』すると』
『きみは彼女を守っていたが、彼女の方が我々にとっては厄介でね』
『普通の男でしかないよ、俺は』
シャルル
「いや……あれじゃ。」
シャルル
「あれは……剣だ。」
シャルル
「首を刎ねるだけなら、刃があればいい。」
シャルル
赤く染まっていく。真っ白な雪を。
赤く。赤く。
シャルル
花びらのように。雪が舞う。
アレクシア
アレクシアに言葉はない。
アレクシア
白雪の荒れ狂う中庭。
アレクシア
引き倒されるマキナ。
ステンドグラスの輝き。
そして閃く刃。
アレクシア
何もかもが、雪ひとひらの落ちるより速く交錯していく。
シャルル
53枚のトランプが付き従うのは、選ぶのは。
シャルル
どうして、薔薇は赤くなければならないのか。
シャルル
「マキナ……チカ……」
シャルル
祈ることはしない。
シャルル
それは、シャルルにとっては無駄な事だ。
罪などない。真実もない。
口だけならいくらでも言える。
アレクシア
今のアレクシアは神を持たない。
再演された記憶からすれば、もとより『アレクシア』が持っていたとも思えない。 [編集済]
アレクシア
けれど、人は、人にも祈る。
アレクシア
どうか、と。
アレクシア
どうか。
アレクシア
それでも、続く祈りが、言葉にならない。
シャルル
時折、積もる雪を払って。
アレクシア
吐く息が白い。睫毛の先が凍るような冷気。
シャルル
腕も足も、耳の機械も凍る様子はない。
むしろ、顔の方が痛い。
シャルル
「頑張れるな?」
アレクシア
「……もちろん」
シャルル
「……手。しまっときな。」
シャルル
肩から掛けたブランケット。
シャルル
パーカーのジッパーを外して膝をつき、一緒に抱え込むように。
シャルル
薄いシャツにアレクシアの頬を引き寄せて。
シャルル
「握ってなくても、わかるだろ?」
アレクシア
「……ん」
アレクシア
荒れ狂う雪の中。そのぬくもりに触れる。
シャルル
手を繋ぐことではわからないお互いのぬくもり。
アレクシア
シャルルとアレクシアは、強く触れようと思わなければ、触れ合いようもない。
アレクシア
手足ではぬくもりを伝えられない。
アレクシア
でも、今。互いの温度を感じている。
アレクシア
「…………」 そして再び、中庭に目を戻す。
シャルル
今。思ってるのは。
シャルル
俺が欲しいのは、こんな『今』じゃないってことだ。
シャルル
同じ寄り添うなら。
シャルル
あったかい方がいい。絶対に。
シャルル
「…………寒いな。」
アレクシア
小さく頷き。
アレクシア
「……寒いね」
シャルル
「はは……こんなんで。」
シャルル
「春なんて、来るのかねぇ。」
シャルル
『春誕節』、アンタは何を願った?
シャルル
好きな色も選べないアンタが。
シャルル
何を。
シャルル
あの星に、何を願った。
シャルル
「……俺は、アレクシア。アンタの空になる。」
シャルル
「その空は」
シャルル
銀ではなく、青い、空色の。
シャルル
「晴れてたほうが、いいよな。」
アレクシア
ふと笑い。
アレクシア
「……晴れていても、雨でも、……嵐でも」 [編集済]
アレクシア
「たとえ雪でも」
アレクシア
「わたしを太陽みたいだって、言ってくれるなら」
アレクシア
「……わたしが、そこにいることに変わりない」
シャルル
「ははっ、確かに。」
シャルル
下から見えなくても、空と太陽はずっとそこにある。
シャルル
たとえ、今は見えなくても。
シャルル
厚い雲の向こうに、振り続く雪の向こうに。
シャルル
それはある。
アレクシア
見えなくても。
アレクシア
手が離れても。
アレクシア
何もわからなくなっても。
アレクシア
心は、ずっと一緒だ。隣にあり続ける。
メイド5
「空」
メイド5
呟く。雪の舞う決闘上の上空を眺める。
不思議な空間。そこに故郷の空をわずかに見た。 [編集済]
メイド5
「青空って青いんでしょうね」
メイド5
そんな取るに足らない、素朴なことを言うしかない。
シャルル
「俺も見たことないけど、青いんじゃね?薄い青の事……空色っていうみたいだし。」
シャルル
知識としてだけ知っている。
見たことはない。
なんとなく、それを思えど実感がない。
メイド5
「ふふ、少しだけ。ちょっとだけ」
メイド5
「見てみたいですね」
シャルル
「……アンタも寒いだろ。服でも毛布でも好きなの使っていいぜ?」
メイド5
「寒いですけど……なにせ雪もはじめてなもので」 [編集済]
メイド5
「もう少しだけ」
メイド5
真新しいものを見るような瞳。
シャルル
「風邪ひくなよ?」
シャルル
少し笑って。
シャルル
中庭へ。
シャルル
「……さみしいって言ってたくせに。」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「さみしくなくなる方法を」
アレクシア
「彼、きっと知らない」
アレクシア
「……知ることを、もう、諦めてるのかもしれない」
シャルル
「知らないっつーか……たぶん。理解、できないんじゃないかな。」
シャルル
「アイツが、理解されないように。」
シャルル
「だって、たぶん……さみしくない瞬間は。」
シャルル
「あっただろ。」
アレクシア
「……どこかで、」
アレクシア
「手を伸ばさなきゃ、いけないんだと思う」
アレクシア
「どれだけ怖くても、そうでないと……」
アレクシア
「届かないまま……」
シャルル
「ま、でもそれよりさ。」
シャルル
「重要なものが、あったんだろうさ。」
シャルル
重要にしてしまったものが。
シャルル
「捨てられなかったんだろうな。」
アレクシア
「……そうだね」
アレクシア
「……抱えていられるものにも、背負えるものにも、限りがある」
シャルル
「他人の記憶はとるくせによ。」
シャルル
「桟敷川か……よくやる。」
アレクシア
桟敷川。咲。
シャルル
パーカーの上から、金の髪の頭に頬を寄せて。
シャルル
「痛いか?」
シャルル
囁く。
アレクシア
「…………」 震える指先。
シャルル
引き寄せて。視線を向け。
シャルル
「見るのは、前だけじゃなくていい。」
シャルル
後ろも、隣も。過去も、未来も。
全部、全部大切なものだ。
アレクシア
「うん。……怖いときは」
アレクシア
「あなたがいる」
シャルル
「ああ。」
シャルル
「だから、大丈夫。」
シャルル
「……大丈夫だろ。」
アレクシア
頷く。
シャルル
シャルルには聞こえている。
おそらく、アレクシアの聞くよりも多くの声が。
中庭から。5号室から。
シャルル
そしてそれは、交わされた言葉だけではない。
シャルル
『場所はどうしましょうねぇ。やはり、応接室か……』
『アレクシア……?アレクシア!』
『ああ……ああ…………あああ…………』
シャルル
取り乱す男の幻影が、ある。
それはかつて、この部屋で。
シャルル
『くそっ……アイツ、アイツら……!』
『ぶっ殺す!』
シャルル
判断を誤った、男の。
シャルル
俺は……俺は、違う。
シャルル
『…………死ぬな。死なないでくれ。』
『俺が、頑張るから……』
シャルル
驕るな。俺は……強くない。
*
『……トイトロールにとっては』
『俺はつまらない男などではなく、いっぱしの救世主』
『世界を救うに値する価値のある男、らしい』
シャルル
「…………俺は。」
シャルル
この戦いを前に、守れるなんていえない。
シャルル
無力な手で、死なせないなんていえない。
シャルル
だけど、
シャルル
「離さない。絶対。」
アレクシア
「……わたしも」
アレクシア
「……離さない」
アレクシア
そう笑う。
シャルル
マキナとチカ。トイとティモフェイ。
シャルル
心も身体も削りあって、ぼろぼろだ。
シャルル
それでも。
シャルル
笑える。一緒にいるから。
アレクシア
血の赤が、白くけぶる雪の中に咲いて、隠れて。
アレクシア
致命打を、危うく避け合う四人。
アレクシア
そして刃が、マキナに届く。
アレクシア
「……っ!!」 息を呑む。強く。
シャルル
突き刺すのが、一番殺傷力が高い。
そう、そうだよ。
シャルル
殺すなら、そうする。
アイツは、殺す気だ。
シャルル
「…………そうだよ、アンタは。」
シャルル
「まだ、後悔しなくていい。」
シャルル
突然叫んだ男の頬は少し上気して。 [編集済]
シャルル
白い吐息が、視界を少しだけ曇らせる。
シャルル
実は、あんまり。細かくは。
シャルル
見えてないんだな……。
シャルル
でも、聞こえるんだ。
シャルル
『アレクシア。』
『後は……俺がやる。』
シャルル
部屋から聞こえたのとは違う、落ち着いた声が。
シャルル
アンタ、そうやって……何も、出来なかったじゃないか。
アレクシア
深く、息を吸って、吐く。
アレクシア
肺の凍りそうな冷たい空気を、深く。
アレクシア
白い息に、白い雪に、視界が遮られる。
アレクシア
それでもまだ、マキナが倒れていないことはわかった。
シャルル
存分に形勢を逆転し、お狂い遊ばしませ。
シャルル
メイドも言ってただろ。
シャルル
「死んでも……守れなくても……」
シャルル
「後悔だけは、するなよ……」
アレクシア
胸が痛い。
アレクシア
冷たい空気に、傷が、肺が。強く脈打つ心臓が。
アレクシア
そして、身体ではないどこかが。
シャルル
「…………マキナ。」
メイド5
館に流れ込む、不思議の国が不思議の国だった栄華の気配。 [編集済]
メイド5
温室に、中庭に花が咲き乱れ、砂塵が光の粒になる。 [編集済]
メイド5
それを、少しだけ感じている。
もはやなくなった仮面の下の末裔の肌だけが。
シャルル
恐らくはこの館は、この世界が出来たときからここにあるとされています。
シャルル
ある世界から描かれ、映し出されたとされるこの世界において
シャルル
恐らくは最古のティーセット
シャルル
記憶だけじゃない。ここには、まだ。
メイド5
最古のティーセットが。
館がおぼえている。
不思議の国を、鏡の国を。
エプロンドレスの少女を。 [編集済]
メイド5
それでも、ただの……記憶でしかないのだろうけれども。
メイド5
堕落の国が作り出した、ただの幻影かもしれないけれども。
シャルル
館を囲む棚井戸の不思議。
未だ残る、不思議。
シャルル
最初のアリスが通ったこの場所の。
最初の記憶。ランプに鏡に、小瓶に小箱。
メイド5
「……救世主様は」
メイド5
「どうしてこの国に来たんでしょうね」
シャルル
「…………さぁ。」
シャルル
別に、ぶっ壊すために来たんじゃないだろうし。
シャルル
「たまたまじゃねーの?」
アレクシア
シャルルの言葉に、仄かに笑い。
アレクシア
「……ロマンのないせりふ」
メイド5
「偶然。……なら」
メイド5
「ちょっとだけ、奇跡と似てますね」
シャルル
「……そうかもな。」 [編集済]
アレクシア
「……ふふ」
アレクシア
それは、万人に平等に訪れるだろうか。
きっとそんなことはない。
アレクシア
偶然も。奇跡も。
アレクシア
そんな気がする。
シャルル
燃えあがる炎が視界に広がっていく。
シャルル
これは、きっと彼の力。
シャルル
「へぇ、やるじゃん。」
シャルル
脅威はここまでは届かない。
マキナへも届かない。
シャルル
状況把握能力。チカの才覚の為す技。
シャルル
「トイ、トロール……」
シャルル
「なくならない……なくならないんだよ……」
アレクシア
「……それがなくなったら、」
アレクシア
「片方をなくしたら、……」
アレクシア
きっと、その逆も、なくなってしまう。
シャルル
奪わなくていい。もっていかなくていい。
シャルル
剣がマキナの身体を貫く。
アレクシア
マキナが血を吐く。
シャルル
ああ、こういう時。
シャルル
人は祈るんだろう。
シャルル
手を伸ばせない時。
シャルル
命運を、天に任せる時。
アレクシア
どうか。
アレクシア
届かないとき。
アレクシア
届かないものへ。
アレクシア
どうか、と。
シャルル
振り返る。
後方を。
アレクシア
観客席へとシャルルが声を張り上げ。
それに返る、あまりにもさまざまの声。
シャルル
好きにしたらいい。
シャルル
出来ることと、出来ない事のわからないやつが。
シャルル
何人いようと。
シャルル
聞く奴だけ聞けばいい。
シャルル
俺には『祈る』ことはできない。
シャルル
だけど、祈るやつはいる。
シャルル
祈りが、願いを引き寄せるというのならば。
シャルル
望まれた方に、光が差すのだろう。
シャルル
俺には力はないけれど。
シャルル
ここには、力を持つものだって。
いるだろう。
シャルル
「おーおー、喋るようになったねぇ。」
シャルル
「ははは。」
シャルル
トイトロールとティモフェイに祈る者。
チカとマキナに祈る者。 [編集済]
シャルル
あるいは、神とやらに。
シャルル
あるいは、己自身に。愛しい者に。
シャルル
「お前たちも……後悔は。」
シャルル
「するなよ。」
シャルル
「アレクシア……ごめん、でも。」
シャルル
「我慢、出来なかった。」
アレクシア
「……大丈夫」
アレクシア
「好きにしていい。……大丈夫」
シャルル
「聞いてるか、トイトロール……」
シャルル
「祈りだぞ。これが、記憶じゃない。」
シャルル
「祈りだ。」
アレクシア
シャルルに微笑んでみせた後、再びくちびるが引き結ばれる。
シャルル
「……アンタの祈りは、通じたか?」
アレクシア
手が震えている。止めようもなく。
シャルル
「アレクシア。」
シャルル
「傍にいるよ。」
アレクシア
「シャルル」
アレクシア
「……シャルル、」 名前だけを、繰り返して。
アレクシア
くちびるを噛む。
シャルル
「……怖いか?」
アレクシア
「……………………怖いよ」
アレクシア
「でも、……」
アレクシア
「……最後まで、目は、逸らさない」
シャルル
「ああ。」
シャルル
「……何もできないかもしれないけど。何も、できないわけじゃない。」
シャルル
見守ることは、できる。
アレクシア
見届けることは、できる。
シャルル
トイトロール。
シャルル
アンタに祈りは届いたか。
シャルル
救済を、求める声は。
シャルル
「トイ、トロール……」
シャルル
心が疼く。心の疵が。
シャルル
刻みつけられた、名前が。
アレクシア
トイトロール。
アレクシア
何もかも失ったはずのアレクシアとシャルルに、ただひとつ疵を刻んだもの。
シャルル
「救ってやってくれ……早く。」
シャルル
そうして、呟くと。
シャルル
両手を、顔の前で組み合わせて。
シャルル
ああ、これが……
シャルル
祈ることなんだと。
シャルル
理解した。
シャルル
「…………。」
シャルル
吐息が、白い、息が。
アレクシア
祈るシャルルに触れる。
アレクシア
トイトロールが、鉄の荊棘にのどを絞められた彼が。
アレクシア
動かなくなるのを見る。
シャルル
身勝手な観客が、死を嘆く。
シャルル
みんな、赤の他人だと言った。
シャルル
感謝されたいわけでも、なかったろう。
シャルル
「………………。」
シャルル
「トイトロール……死んだ、のか。」
シャルル
メイドの声が、それを物語る。
アレクシア
トイトロールの傍らに膝をつくティモフェイに。
アレクシア
ああ、と思う。
アレクシア
彼らの間に見えた、埋まらない隙間。
アレクシア
救いたいという言葉と。
シャルル
「…………遅いだろ。」
アレクシア
今、倒れたトイトロールと。
シャルル
「遅いって……馬鹿。」
シャルル
結びついている。結びつけている。
シャルル
消える。『シャルル』と『アレクシア』も。
シャルル
あの男が叶える願いは、どこにあるのだろう。
シャルル
トイトロールが、消えた今。
シャルル
死んだ、今。
アレクシア
雪が降る。まだ降っている。
アレクシア
「…………、」
シャルル
「…………。」
アレクシア
「……あ、……」
シャルル
「あれは……」
シャルル
「空……」
シャルル
「空だ……」
アレクシア
「……青い、空……」
メイド5
目をみはる。
メイド5
まばたきをする。
メイド5
「……青い……」
メイド5
「本当に、青いのですね……」
シャルル
「……そうだな。俺も、初めて見た。」
アレクシア
「…………」
シャルル
「そうか。まだ、裁判は……」
シャルル
メイドの声が静寂に響き渡る。
アレクシア
「……っ、!」
アレクシア
再び、マキナへと振るわれる刃。
シャルル
晴れた空の下、再び、アレクシアの肩を抱く。
シャルル
もう、パーカーで包む必要はないが。
シャルル
そのまま。その方が、近いから。
アレクシア
その身体に、自らも身を寄せて。
アレクシア
ティモフェイと、チカとのやりとりを聞く。
アレクシア
『今度は、最後まで?』。
アレクシア
『ああ』。
アレクシア
一人、死んでも。決勝の裁判は、終わらない。
シャルル
「…………。」
シャルル
ともに立つ二人を、見ている。 [編集済]
シャルル
騎士を、見る。
シャルル
トイトロールの亡骸を、見る。
シャルル
「…………アレクシア。」
アレクシア
「……なあに?」
シャルル
「俺、祈るってのがわかったよ。でも。」
シャルル
「…………意味は、あったかな。」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「……祈りは」
アレクシア
「祈られたものより、たぶん」
アレクシア
「祈るもののために、ある気がして」
アレクシア
「……だから、」
アレクシア
「わたしは……意味があったって、信じる」
シャルル
「…………。」
シャルル
「そっか。」
メイド5
「祈り……」
メイド5
胸に手を当てて。
自身の胸中をかえりみる。
シャルル
「…………祈り。」
シャルル
あの時。花冠と編んだ、時。
シャルル
祈りというものが、よくわからなくて。
シャルル
花をひとさしする度に。
シャルル
彼が勝ちますようにと。
声に出さずに唱えた。
シャルル
「わかんなかったんだよな……あん時は。」
アレクシア
あの時。生贄の服を縫った、時。
アレクシア
何を祈るべきかと問うたあと、言われたとおりに、『優勝するように』とは祈らなかった。
アレクシア
糸をひと針刺すたびに。 [編集済]
アレクシア
彼が救われますようにと。
ただ、そう思った。 [編集済]
アレクシア
「……それは、たぶん」
アレクシア
「自分の中から生まれたときにだけ、わかる」
アレクシア
「祈りも、愛も」
シャルル
「…………そうだな。」
シャルル
「そうか。」
アレクシア
濃い色の霧。
アレクシア
交わされる言葉。
アレクシア
そして、剣だけを手に、ティモフェイが倒れる。
シャルル
昏倒。その、意味するものは
シャルル
おしまい。
シャルル
物語にはいつか、終わりが来る。
シャルル
本のページには限りがある。
シャルル
誰かが、ペンをとらなければ。
シャルル
「…………アレクシア。」
アレクシア
「…………ん」
シャルル
「立てる?」
アレクシア
「うん」
シャルル
「……危ないかも、しれないから。」
シャルル
いつでも動けるようにしておきたい。
メイド5
「……中へ、戻りますか?」
シャルル
「いや、ここでいい。」
アレクシア
「……最後まで」
アレクシア
「ここで」
シャルル
「見届ける。」
アレクシア
立ち上がる。
メイド5
「はい」
メイド5
「お供いたします」
シャルル
「アンタも、こっち。」
シャルル
アレクシアの反対側を。
シャルル
「たぶん……二人くらいなら。いける。」
シャルル
背を伸ばし、肩を回して。
シャルル
「抱えてちょっと、走るくらいはね。」
メイド5
「まぁ」
メイド5
アレクシアを見て少し笑う。
アレクシア
こちらも、笑い返して。
シャルル
「なんだよ。何のために……痛い思いして取り替えたと思ってんだ。」
アレクシア
「……わかってる」
アレクシア
「……ありがとう、シャルル」
シャルル
『きみは彼女を守っていたが、彼女の方が我々にとっては厄介でね』
シャルル
『強固な守りだったよ』
『手こずらされた』
シャルル
『剣ってさ。』
『突き刺すのが、一番……殺傷力が高いだろ。』

『その隙を』
『きみが、与えなかった』
シャルル
俺にはもう、そんな力はないよ。
シャルル
『きみたち、相変わらず、なんというか』
『……十分だな……』
『コインさえ渡されればすぐに戦えそうだ』
シャルル
中庭に立つ姿は、亡者というにはあまりに清く。
静かで。
シャルル
『普通の男でしかないよ、俺は』
『救世主と仰がれようが、望まれようが、何がしかの特別な力を発揮しているように見えても』
『俺は、ただの人間でしかない』
シャルル
「ああ……」
シャルル
『救いたいと、そう、思っていることは』
シャルル
『本当だよ』
シャルル
俺は、あの言葉を嘘とは、思わなかったよ。
シャルル
「…………ティモフェイ。」
シャルル
身構える、必要もなかった。
ふと、力が抜けて。
アレクシア
「…………」
アレクシア
ただ静かに、シャルルに寄り添う。
シャルル
「最後まで。」
シャルル
「一緒だよ、アレクシア。」
アレクシア
「…………うん」
アレクシア
「最後まで、一緒よ」
シャルル
ふたりが何を願おうと。
シャルル
鋭い刃が胸を貫こうと。
シャルル
どこかで、誰かに殺されようと。
アレクシア
シャルルに身を寄せる。触れ合う。
シャルル
肩に触れる手に力がこもる。
シャルル
「…………。」
アレクシア
「…………」
シャルル
「…………まったく。」
シャルル
「後悔は、ないんだろうな?」
シャルル
「なぁ」
シャルル
メイドを振り向き。
シャルル
「アンタは、奇跡を見るのは……2度目だな。」
メイド5
「はい」
メイド5
もう一度。
メイド5
「……はい」
メイド5
奇跡を願う救世主を見つめたままそう返した。
シャルル
「……俺達も、殺される?」
アレクシア
シャルルの問いに、更に強く、身を寄せる。
シャルル
奇跡の礎ってやつに、必要なら。
まあ、それも……仕方ないんだろうと、思う。
メイド5
「……」
シャルル
「でもま。」
シャルル
「できることはしといた方が、いいか。」
シャルル
それは、アレクシアが。
シャルル
まだ、生きたいと言っているように、見えたから。
アレクシア
中庭で。儀式が終わっていく。
アレクシア
6号室のメイドが、青空を見上げて崩れ落ちる。
シャルル
「アレクシア。」
シャルル
「アンタは、まだ……俺と。もっと、生きたいか?」
アレクシア
「………………」
アレクシア
「もっと」
アレクシア
「ずっと、一緒に、」
アレクシア
「…………」
シャルル
「…………はは。そりゃ」
シャルル
「嬉しいね。」
アレクシア
シャルルを見上げて微笑う。
アレクシア
その瞼から、はらはらと。
アレクシア
こぼれていく。
メイド5
「……ふふ」
メイド5
「すべてのひとに含まれるみたいですね」
メイド5
抱きかかえた包みをそっと少しだけ強く胸に寄せる。
最古のティーセット。
館のすべてをみてきた、ひととひととが対話してきた証。
シャルル
「はは……ははは……」
シャルル
「…………はぁ。」
シャルル
どさりと、その場に座り込む。
アレクシア
「……ふ、」
アレクシア
「あはは、」
シャルル
「助けてくれるって、さ。」
シャルル
「ははは……」
シャルル
「…………アンタが、望んでくれたから。」
シャルル
「…………。」
シャルル
「ちょっと、がんばっちゃった。」
アレクシア
座り込んだシャルルを。包むように、抱きしめる。
アレクシア
あたたかい涙の雫が、シャルルの頬に落ちる。
アレクシア
「……ありがとう、シャルル」
アレクシア
「あなたが、わたしのそばにいてくれて」
アレクシア
「わたしの世界は、幸せだわ」
シャルル
「…………俺、さっきまでさ。アンタとここで死ぬのは悪くないなって、思ってたよ。本当に。」
シャルル
「でも今は、死ななくてよかったなって、思ってる。」
シャルル
「幸せだよ、俺も。」
シャルル
「アンタがいるから。」
シャルル
「…………。」
シャルル
静かに、唇を重ねる。自分から。今は……
シャルル
何も、怖くない。
アレクシア
あたたかい。やさしいぬくもり。
アレクシア
一度は、雪の冷たさに何もかも奪われた二人。いるはずのなかったもの。
アレクシア
どこにも、在り得るはずのなかった、二人。
アレクシア
今。それでも、ここにいて。
アレクシア
救われている。
アレクシア
互いの存在に。
シャルル
「…………よし。」
シャルル
そっと、離れて。
シャルル
「勝者に、何か贈り物をしないと。何がいいかな……確か。」
シャルル
ぱちぱちぱち。
シャルル
拍手。
アレクシア
「…………そうね」 [編集済]
シャルル
おめでとうというにはあまりに重く、苦しい。
シャルル
それでも、勝利には。
シャルル
あの日、メイドたちがそうしていたように。
アレクシア
拍手。
アレクシア
それは、ささやかで。
アレクシア
ひとつひとつは、小さなもの。
アレクシア
隣のシャルルから。観客席から。
アレクシア
アレクシアからも。
シャルル
「マキナ、チカ。」
シャルル
「…………ありがとう。」
アレクシア
「…………、」
アレクシア
祈りは、言葉にならない。
アレクシア
それでもただ、祈る。
アレクシア
どうか。どうか、この先も、二人。
アレクシア
マキナと、チカも。シャルルとアレクシアも。
シャルル
「……さぁて。俺達も、荷物もって……えー。」
シャルル
「どこに行ったもんかね、とりあえず……こっから出て……」
シャルル
メイドを見る。
シャルル
「なんか、いいとこ知ってる?」
メイド5
「……」
メイド5
「困りましたね……私も、何も知りませんので」 [編集済]
シャルル
「……とりあえず出て……まあ。救済されたんだし。」
メイド5
「……」
シャルル
「何とかなるだろ。」
アレクシア
涙を拭い。
シャルル
「……アンタも、一緒に行くか?」
アレクシア
「……なんとか、しなくちゃね」
メイド5
「私は……」
メイド5
ひとり残るメイドのことを思う。
メイド5
救世が果たされた世界で、オールドメイドとしてひとり。
もはや訪れない決闘者を待ち続ける。
メイド5
それは自分が贈った仮面が記憶しているよりも、最古のティーセットよりも長い時間かもしれない。
シャルル
「…………ま。まだ、考える時間はあるし。アンタには。」
シャルル
「俺は……なんか。変な奴に絡まれんのも面倒だし。」
シャルル
「……さっさと行きたいが……どうかな、アレクシア。」
アレクシア
「…………ふふ」
アレクシア
「いいよ」
アレクシア
「ついてく。……どこでも、」
アレクシア
「いつまででも」
シャルル
「……よし、逃げるぞ。」
シャルル
そう言って、室内に戻っていく。
シャルル
銃、刃物に、手足に。
シャルル
手帳と、壊れた眼鏡。
シャルル
『裁判』がなくなった今。
『亡者』がなくなった今。
シャルル
それでも、何の役に立たないという事はないだろう。 [編集済]
アレクシア
最後に、バルコニーから中庭をもう一度見下ろして。
アレクシア
「……さよなら」
アレクシア
何に告げたものか、小さく呟き。
アレクシア
シャルルの後を追って、バルコニーを後にする。
メイド5
逃げ去っていくふたり。
メイド5
その背に手を振る。
メイド5
一度も知らないままだった恋の話。
それがするりとページをめくり、去っていく。
メイド5
春風のようなやわらかさで。
シャルル
――そうして。
シャルル
館を出て、走り去ろうとしたところで。
???
「シャルルさーーーーーーん!エルレンマイヤー卿!」
シャルル
ふたりを呼び止める、声がする。
シャルル
見れば、3人の救世主が棚井戸の淵に。
荷物を下ろして立っている。
???
「ほら、帰りますよ!」
シャルル
「…………知り合い?」
シャルル
アレクシアを見る。
アレクシア
「……知ってると思う?」
シャルル
肩を竦める。
???
「ええ~、記憶喪失ってマジなんスか。」
???
背の小さい、耳の尖った男が近づいてくる。
???
「とりあえず細かい話は帰ってからにしましょ!ほら!駆け足!」
シャルル
「…………さて。」
シャルル
「どうする?」
アレクシア
「……アテはないんだし」
アレクシア
「……一緒なら、きっとなんとかなるから」
シャルル
「じゃ…………」
シャルル
「いくか!」
???
「うわ、シャルルさんマジ別人っスね……」 [編集済]
アレクシア
「……あはは!」
???
「『どうしましょうねぇ、アレクシア?とりあえず無力化しますか。』……とか言わないんスか?言わないんスか?」 [編集済]
???
それは、再生された記憶にある、シャルルに、ほんの少しだけ似ていた。かもしれない。
シャルル
「…………うるせぇ、行くぞ!」
アレクシア
明るい笑い声。
シャルル
――かくして。
シャルル
『エルレンマイヤー卿アレクシア』と『シャルル・ベルジール』は死んだ。
シャルル
その記憶はすべて、トイトロールと共に消えた。
シャルル
しかして、彼らが残したものは。
シャルル
重い荷物を軽々と担いで、右手でアレクシアを引く。
シャルル
「……行こう。」
アレクシア
「うん」
アレクシア
「一緒に」
アレクシア
「……シャルル」
アレクシア
囁くように。
アレクシア
「愛してる」
アレクシア
「だいすきよ」
シャルル
「俺も……大好きだ。」
シャルル
「愛してる。」

しかして、彼らが残したものは。

果てもないかのように見えた雪を越えた、新しい世界で――

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