Dead or AliCe
『16人の救世主』

お茶会-1ラウンド目 Room No.5

シャルル
「……『お茶会』だな、ここから。」
アレクシア
頷く。
アレクシア
中庭から去っていく救世主たちを見送って。
シャルル
目の前に膝をつく。
シャルル
両手を差し出して。
アレクシア
手を伸べて、委ねる。もう慣れてしまったそのように。
シャルル
抱え上げて、室内へ。もうひとつの椅子へ。
シャルル
2回戦と同様に、バルコニーの椅子も中へ。
シャルル
雪の吹き込む扉を閉めて。
シャルル
「お茶はいる?」
アレクシア
「うん。お願い」
シャルル
「はいよ。」
シャルル
落ち着いた様子で、湯を沸かしに行く。
アレクシア
アレクシアの視線はモニターへ。
雪の降り出す応接間。
シャルル
並んだ茶葉からいくつか、あれとそれとを混ぜて。
シャルル
ポットに湯気が立つ。
シャルル
上品なティーカップと香るポットが、アレクシアの元へと運ばれる。
シャルル
『帰りたいと、泣き叫ばれたらどうしようかと。』
シャルル
ふいに、耳元でそんな声が聞こえて。
シャルル
「…………。」
アレクシア
それは多分、『シャルル』の声。
今の彼よりも、どこか、ほの甘く装ったような。
シャルル
「…………お茶。」
シャルル
テーブルの上で、カップにお茶を注ぐ。
アレクシア
『お前、もう落ち着いてるか』
アレクシア
視界の端、ベッドの方から届く声。
アレクシア
「…………ありがと」
アレクシア
記憶が。今のこの館の、そこかしこに揺れては消えるものが。
アレクシア
この部屋にもある。
シャルル
2回戦、無論ふたりも見ていた。
シャルル
「なんか……随分。落ち着いてるな。」
シャルル
隣の椅子に座る。 [編集済]
シャルル
画面が見れるよう、近いところに。
シャルル
『綺麗ですよ、アレクシア。』
シャルル
『理不尽を受けてなお、アナタは気高い。』
シャルル
後方から、聞こえる声。
シャルル
姿も、あるのかもしれない。
シャルル
「…………。」
シャルル
…………正直、やめてほしい。
アレクシア
振り返ればそこにあるかもしれない、失われた過去。
アレクシア
いや。あるのだろう。そこに。
アレクシア
『ふふ』
アレクシア
ただそう笑う声。
シャルル
「…………らぶらぶねぇ。」
シャルル
肩を竦める。
アレクシア
「……ふふ」
アレクシア
響く記憶とは、色の違う笑い方。
アレクシア
けれど、どこかでは、少しだけ、同じ。
シャルル
過去は覆らない。
シャルル
そう、その通りだ。
シャルル
ここで再生されている『シャルル』も『アレクシア』も、もう存在しない。
シャルル
「なんっか……気持ち悪いな、少し。」
シャルル
「俺、あんな喋り方してる?」
アレクシア
「ぜんぜん」
アレクシア
「わたしもそう」
アレクシア
「……違うなって、思う」
シャルル
「だよなぁ……。」
アレクシア
「……『アレクシア』と『シャルル』には、ずっと積み上げてきたものが、あって」
アレクシア
「だから、……どちらがおかしいでもない」
アレクシア
「今のわたしたちには、……今、少しだけ、重ねたものがあって」
アレクシア
「……それでいいの」
シャルル
「…………うん。」
シャルル
「俺も、そう思うよ。俺が……好きなのはアンタだし。」
シャルル
「…………棄権。」
シャルル
「正直、悪くない誘いだと思うけど。……ま。」
シャルル
「…………難しいだろうな。」
シャルル
「トイトロールも自分で言ってたが、『赤の他人』を救済するなんて話。」
シャルル
「普通じゃ、理解できんよ。」
シャルル
「保証もないしな。」
アレクシア
「……何も」
アレクシア
「誰も、……誰かの心の『ほんとう』はわからない」
アレクシア
「それでもいいと思って、信じるしかない……」
アレクシア
信じられないのなら、結局は、ただそれだけで。
アレクシア
そして、信じるというのは、難しいことだ。
シャルル
『凌辱から目をそらし、暴力に胸を痛め……殺人を『大罪』と思う人が。』
シャルル
『こんな世界、耐えられるわけがない。』
シャルル
「……………………。」
アレクシア
『……それでも』
アレクシア
『この国に堕ちた以上は、……そこで生きるしかないんだ、シャルル』
シャルル
「……自分で、選択したことの後悔は。」
シャルル
「きっと、負けた後悔よりも、重い。」
アレクシア
「選ぶのは、……ちゃんと選ぼうとするのは、怖いことよ」
アレクシア
「選んで……そうして失敗するのは、すごく、怖い」
シャルル
「…………ありがとう。」
アレクシア
「……どうして?」
シャルル
「選んでくれたから。」
アレクシア
「……シャルルは、……最初はなんにも怖くなかったって、言ってたけど」
アレクシア
「……それでも今、なくしたくないって、言ってくれる」
アレクシア
「選んでくれたから」
アレクシア
「わたしは、選んでよかったって、……思ってるよ」
シャルル
「…………それは、嬉しい。」
シャルル
「嬉しいな……。」
シャルル
冷めたカップを口に運んで。
シャルル
「あのふたりも……そうなのかもな。」
アレクシア
カップの縁を撫で。
アレクシア
「……そうだといいって、思うよ」
シャルル
『強くなくても、いいんですよ。先ほども言いましたが……アナタの優しさは美徳です。』
シャルル
『それはこの堕落の国において…………何より希少で、美しいものですから。』
シャルル
凍えるような風が吹く。
シャルル
「…………あー……。」
シャルル
一回戦の記憶はない。
だから、何が行われたか、会話の内容からは読み取れない。
シャルル
惨劇、という言葉からは。
マキナの表情からは。
シャルル
ただ、辛い目にあったのだという事だけが。
アレクシア
『……わたしは良い『アレクシア』でいたい』
アレクシア
良きものとして在れないこと。
そしてその結果として、自分に、あるいは周囲に起きること。
シャルル
『優しさ』が『希少』であると。
そう、思わざるをえない世界。
シャルル
そんな世界で、信じられるもの。
シャルル
「…………まあ、それこそ。」
シャルル
「『他人事』だよな。」
アレクシア
「…………」
アレクシア
目に見えるもの。手の届くもの。
アレクシア
すべては無理だ。そう思う。
アレクシア
けれど、それこそ。『選んだもの』を。ただそれだけを。
シャルル
「…………あのさ。あの。」
シャルル
「俺、あの時、ちょっと……言ったけど。」
シャルル
「アンタは、もう……他人じゃないから。」
シャルル
「だからどう、ってあの……言うわけじゃないけど。」
シャルル
「…………。」
シャルル
「…………俺の為は」
シャルル
「アンタの為だ。」
アレクシア
「……自分のこと、考えるみたいに」
アレクシア
「わたしも、シャルルのこと、考えたい」
アレクシア
「……大切にしたいの」
シャルル
「へへ……そうか。」
シャルル
「……ふふ。」
シャルル
顔に、嬉しいと出ている。
アレクシア
我欲。それがなければ、きっと、なにもかも動きはしない。
アレクシア
その行く先が、どこを向いているのか。何を望んでいるのか。
アレクシア
たったそれだけのこと。
シャルル
時折再生される『シャルル』と『アレクシア』の記憶は。
シャルル
無論、実感を伴うものではなく。
シャルル
『使いようですよ。何でも。』
シャルル
『言葉も、武器も、暴力も、身体も。』
『好意や、敵意なんかの振る舞いも。』
シャルル
そうであるのに。
シャルル
そうでない、ところもあって。
シャルル
時折、心を惑わせる。
シャルル
「…………これ。」
シャルル
「……『シャルル』って、嫌な奴だな。」
アレクシア
シャルルに視線が向く。
シャルル
そう、思わないことはない。
できるかは別として。
シャルル
だから、画面の向こうで交わされている言葉を。
シャルル
全て、信じ切ることなんてできないのは当たり前だと思った。
シャルル
かえって、マキナの言葉にこそ信頼がおける。
シャルル
「これ、話してる事だろ?わざわざ……」
シャルル
軽く後ろを見るとすぐ後ろに、自分と……同じ顔。
眼鏡をかけて、一見穏やかに見える表情。
アレクシア
だが、一方で。
アレクシア
『お前がそうやって装ってるのは知っている』
アレクシア
『……それで、わたしたちが助けられているのも』
アレクシア
『知ってるさ』
アレクシア
そうやって。『アレクシア』はそう言うのだから。
アレクシア
「嫌なだけじゃ、なかったんでしょ。少なくとも、『アレクシア』にとっては」
シャルル
「物好きだねぇ……。」
アレクシア
視線を移せば、やはり、自分と同じ顔。
それでも、どこか強い目。
アレクシア
「……でも、『アレクシア』は」 その、己ならぬ己の目を見ながら。 [編集済]
アレクシア
「やっぱり、ちゃんと選んだと思うよ」
シャルル
「…………そうかな。そうだな。」
シャルル
この儀式を、一緒に始めるくらいには。
参加するくらいには。きっと。
シャルル
適切な暴力。効率的な陵辱。
シャルル
画面の向こうから聞こえてきた言葉に。
シャルル
なんとなく、察して。
シャルル
手を伸ばす。アレクシアへと。
アレクシア
「……どうしたの?」 [編集済]
シャルル
そっと、冷たい手で、その手に触れて。
シャルル
『疵を抱えて』。
ふたりに何があったとして。
抱える疵は、そこにはもうない。
シャルル
「いや…………。」
シャルル
「…………まだ、痛い?」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「痛くても、大丈夫」
シャルル
「無理は、駄目だからな。」
シャルル
「…………俺が、言えることじゃないかもしれないけど。」
アレクシア
「痛いか、そうじゃないかだけが大事なら」
アレクシア
「今、きっとこうしてないから」
シャルル
「…………そっか。」
シャルル
手を握って、引き寄せ。
自分の頬に触れさせる。
シャルル
そうして初めてわかる温かさ、感触。
アレクシア
「……大丈夫」
アレクシア
触れて。
アレクシア
「……だいじょうぶ」 繰り返す。
シャルル
「うん……。」
シャルル
目を閉じて、その存在を近くに感じる。
シャルル
この部屋に、縛るものは必要なかった。
シャルル
縛る必要はなかった。
シャルル
だから、此処を出たら、怖いと思って。
シャルル
それは、自分だけでは、なかったのだなと思う。
シャルル
「…………。」
シャルル
都合よく。
シャルル
扱おうとしていた。
シャルル
その言葉に、少し。胸が痛くなる。
シャルル
弱いことは、縋らせるのに、都合がいい。
シャルル
もっとも。
シャルル
このひとは、弱くは……なかったわけだが。
シャルル
きこえる。 [編集済]
シャルル
『これは……暴力です。』
シャルル
『そこに、どんな気持ちがあろうと。どんな意図があろうと。相手がそう思えば、それは暴力なんです。』
シャルル
『いいわけがない。』
シャルル
「…………。」
シャルル
信じることしかできないのだ、もはや。
シャルル
縛ることはできない。
メイド5
バスルームの掃除をしていたメイドがそれを終えて出てくる。
敗退者の部屋は掃除されなくても、5号室はまだふたりが生きている。
メイド5
寄り添う2人を目を細めて見つめる。
シャルル
指先に、口付けて。
シャルル
「信じるよ。」
アレクシア
このひとを、縛りたくない。そう思う。
アレクシア
ただ、結びついていること。繋がっていること。
アレクシア
信じていること。
アレクシア
「……信じて」
アレクシア
指先を預けたまま、微笑う。
メイド5
敗退した救世主と共に死んでいったメイド仲間を、今となっては思い返すことができる。
みんなこうして寄り添う人が人生でいたことなどなかった、ただの村娘だった。
メイド5
今いる救世主も、捨て札、上がり札になった救世主も。
みんな最初はただのひとりきりだったのに。 [編集済]
メイド5
胸中がどうあれ、実情がどうあれ。
寄り添っているふたりになっている、その事実だけがメイドには見えている。 [編集済]
シャルル
「…………信じてる。」
シャルル
頷いて、ひといき。
シャルル
「お茶、いれなおそうか?それとも……」
シャルル
後ろを見て。
シャルル
「いれてもらう?」
アレクシア
「……メイドさんには、申し訳ないって、思うんだけど」
アレクシア
「わたし、最後までシャルルのお茶が飲みたい」
メイド5
「ふふ。お邪魔でしたね」
メイド5
微笑む。
シャルル
「じゃ、ちょっと。」
メイド5
「今となっては私のお茶より、シャルル様のお茶の方が美味しいでしょうし」 [編集済]
シャルル
「そうかな……?」
シャルル
「いれてくるか。」
シャルル
そっと。テーブルに置くように手を離して。
シャルル
席を立つ。
アレクシア
「ありがと」 その指は、柔らかくほどけている。
アレクシア
ずっと硬く握りしめていることが、多かったけれど。 [編集済]
アレクシア
今は。
シャルル
隣に『シャルル』が立っている。
シャルル
正確には、自分が少しずれているだけで、同じ場所なんだろう。
シャルル
並んだ茶葉からいくつか、あれとそれとを混ぜて。
シャルル
指先の、届く先は同じで。
メイド5
メイドの力は、儀式の力。
もはやただの村娘程度のものよりも。
相手を深く思って淹れる紅茶の方がきっとおいしいに決まっている。 [編集済]
シャルル
結局、好みの。
たどり着くのは同じ味なのかもしれない。
シャルル
それでも、明確に違うと。
シャルル
最初から。今も。
シャルル
思っている。自分は。
シャルル
メイドに教えてもらったように。
シャルル
お湯の温まり具合と、時間と。
シャルル
そこは、同じじゃないんだ。と思う。
シャルル
やがて、ティーポットとカップを共に戻る。
シャルル
「お待たせ。」
アレクシア
「ううん」
シャルル
「メイドさんも、よかったら。」
メイド5
「いただきます」
シャルル
カップは3つ。テーブルに。
メイド5
いつかの頃よりは浅い一礼。
ふたりがそれを知っていることはなくても。
シャルル
机の方にある、別の椅子を運んで。
アレクシア
三人。穏やかにテーブルを囲む。
メイド5
誰かの淹れた紅茶を飲むこと自体、初めてだった。
目の前のふたりを、黒い窓を見つめる。 [編集済]
シャルル
「…………うん、うまい。」
アレクシア
ゆっくりと、カップに口をつける。
アレクシア
本当に、美味しくなった。きっと、慣れたからという以上に。
メイド5
メイドにとっては。
きっとただの普通の紅茶だ。
メイド5
「ええ、とても」
アレクシア
「……わたし、シャルルの淹れてくれるお茶、すきよ」
シャルル
「……それは、まあ。いつも……見てたから。」
シャルル
カップを口に運んだ時の、表情を。
シャルル
「まあ、流石に進歩がないってのも……な。」
シャルル
「よかった。」
アレクシア
互いに、ささやかに笑う声。
メイド5
視線が、部屋に置いてある茶菓子へ向かう。
部屋に籠りきりになるために用意されたフィナンシェ。
アレクシア
モニターの向こうでも、マキナとチカが微笑みあい。
ひととき。ひとときだけかもしれずとも、穏やかに。
シャルル
「そういえば……メイドさんは。」
シャルル
「試合が終わったら……」
メイド5
「そうですね」
メイド5
メイドの処遇は、救世主に伴う。
シャルルとアレクシア、ふたりの行方に追従する。
メイド5
「救済……」
メイド5
ぽつりと呟く。
メイド5
花を見たことがない。青空を見たことがない。
紅茶を飲んだこともなかったし、フィナンシェを食べたこともない。
メイド5
黒い窓にうつる8号室の2人を見つめる。
このふたりがそれを願うことは、ない。
アレクシア
その、小さな呟きに。
アレクシア
「……わたしは、たぶん、……心から『救済』を信じてはいないけれど」
アレクシア
「幸せになってほしいと、願うことができるなら」
アレクシア
「わたしは、……」
アレクシア
「……そう、願いたい。あなたのことを」
アレクシア
少し微笑って、カップを置き。
アレクシア
「メイドさんは、お茶だけ?」
シャルル
「あ、なんか持ってくるか。」
シャルル
立ち上がって、適当に。
メイド5
「あら」
メイド5
悪戯がばれたように肩をすくめる。
メイド5
「食べてみたかったんです」
シャルル
小箱に入ったクッキーに、瓶詰めのシロップ。
それから、フィナンシェ。 [編集済]
シャルル
テーブルへと。
メイド5
「幸せ……私にはその本当の価値も意味もわからないのですけれども」 [編集済]
メイド5
「村のみんなのことを少しだけ、思い返せるような気がいたします」
メイド5
アレクシアとシャルルのふたりによって用意されたささやかな茶会。
メイド5
「……光栄です、アレクシア様。シャルル様」 [編集済]
シャルル
「そう言ってもらえていいのかどうか、わからないけど。」
シャルル
「アンタには、なんか……えー……世話になったから。」
シャルル
「それなら、よかった。」
アレクシア
「……ん」
アレクシア
「ささやかで、……もともとは、あなたが用意してくれたものばかりだけれど」
アレクシア
「……あなたも、ずっと一緒にいてくれたから」
アレクシア
そして、画面の向こう。
アレクシア
『春誕節』。
シャルル
「…………5号室って、俺達だよな。」
アレクシア
「……だよ、ね」
シャルル
「…………贈り物の交換って。」
シャルル
「俺達も、か?」
アレクシア
「…………」 そんな気がする。
シャルル
「…………銃と刃物しかねーな。」
シャルル
「いや、まて……何か……うーん……。」
アレクシア
「……わたし、『アレクシア』の荷物……あんまり、開けてないんだけど」
アレクシア
「……でも、……しょうがないかな……」
アレクシア
息をつき、ゆっくりと席を立つ。
アレクシア
『シャルル』の荷物に比べれば、『アレクシア』のそれは随分と小さく見える。
メイド5
「……そうですね」
メイド5
ふたりよりもずっと何も持ち得ていない自分の身なりを見つめる。
シャルル
フィナンシェをひとつ手に取って。
シャルル
「ちょっと見てくるわ。」
シャルル
雑多な荷物の方へ。
アレクシア
荷物の中身は、整然としていた。なんらかの工具の類も多い。
アレクシア
その中に、一枚。
アレクシア
刺繍の入った手巾。
アレクシア
薄紅色のドライフラワーを挟んである。
シャルル
銃。銃。銃。刃物。刃物。刃物。
シャルル
耳についてるのと同じやつ。
シャルル
手入れ用品。
シャルル
壊れた眼鏡。レンズの部分は無傷だ。
シャルル
壊れた腕と、脚。付け替え用のもの。
アレクシア
「…………」
アレクシア
そのハンカチは、なんでもないもののようにも見えたし、そうでないようにも見えた。
だから、少しだけ、迷って。
アレクシア
「……これがいいかな」
アレクシア
なんとなく。ただ本当に、なんとなく。
アレクシア
そうしても、『アレクシア』は、怒らない気がした。
シャルル
「…………。」
シャルル
耳についているそれを、外してみる。
シャルル
「…………うわ。音、全然違うな。」
シャルル
戻す。
シャルル
どうやら、集音機らしい。
シャルル
耳が悪いのではなく、おそらくは……
シャルル
戦場で、有利を取るためのもの。
シャルル
「……こっちのが、いいか。」
シャルル
少なくとも、ナイフや銃よりは。
シャルル
おそらく、この世界のものではない。
シャルル
銀の硬い箱に、収められた。
予備として準備されていたであろうそれを手に取って。 [編集済]
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「ん」
シャルル
「これ、なんか……このままでいいかな?」
アレクシア
「……うーん……」 こちらに至っては、言ってしまえば布一枚である。
アレクシア
少し、考え。
アレクシア
フィナンシェをひとつひとつ包んでいた袋。それを閉じるリボンに目を留めて。
アレクシア
「……これで、なんとか……?」
シャルル
「流石。」
メイド6
ノックする音。
アレクシア
「……シャルル」 ほんのかすかにだけ、不安げに。
シャルル
「ああ。」
シャルル
持ち上げたそれを持ったまま、扉へ向かい。
シャルル
開く。
メイド6
「失礼いたします」
メイド6
「モニターよりご覧になられたと思いますが、6号室の救世主により、会食の招待がございます」
メイド6
そういって、招待状を差し出す。
メイド6
その招待状は、儀式で使われる招待状に寄せた紙面。しかしそれにあなた方は気付くことはないでしょう。
シャルル
招待状を受け取る。
メイド6
「プレゼントの交換会も行いますので、一つ、何かご用意いただけたならば幸いです」
メイド6
招待状は3つある。
シャルル
「3つ?」
メイド6
シャルル、アレクシア、そしてメイド。
メイド5
儀式で使われる招待状に寄せた紙面。
5号室のメイドだけがそれに気づく。
メイド5
「私も、ですか」
メイド6
「ええ。なんと私たちも招待されております」
メイド5
「あらまあ」
メイド5
「困りましたね、プレゼントなんて……」
メイド6
「本当に」
メイド5
少し考えて、自身の仮面に手をかける。
メイド5
取り去る。それは外れる。
もはや5号室のメイドではないため、それはただの仮面だ。
メイド6
「……」
メイド5
「こちらでよろしいでしょうか……」
メイド6
「とっておきの切り札でございますこと」
メイド5
「私たち、このくらいしか持っていませんものね」
メイド5
6号室のメイドに話しかけるような、自分に言うような。
シャルル
「…………アンタ。」
シャルル
「それ、外せたんだな。」
メイド6
「彼女はもうオールドメイドゲームのメイド、ではございませんからね」
メイド5
「そのようでございます」
シャルル
「…………そっか。」
メイド6
「それでは、身支度を済ませましたら、正餐室の方までお越しください」
シャルル
「ありがとう。」
メイド6
「良い晩餐になることを、心から祈っております」
メイド6
去る。
シャルル
「メイドさんさ。」
シャルル
「名前は、あるの?」
メイド5
「……さあ」
メイド5
「忘れてしまいました。ふふ」
シャルル
「……じゃあ、もしかすると。」
シャルル
「俺達みたいに、誰かが覚えてるかもな。」
*
シャルル
静まり返った会場を、何もできないまま。
いや、何もしないまま。
シャルル
5号室のメイドに連れられて5号室へと。
シャルル
歩く間は無言で、メイドは部屋に2人を残して去る。
シャルル
「……俺、起きてるよ。朝まで。だから……おやすみ。」
シャルル
話したいことはあれど、考える時間と。
落ち着く時間も必要だと思った。
アレクシア
「…………ごめんね」
アレクシア
「ありがとう……」
シャルル
「大丈夫。明日……」
シャルル
「また。」
アレクシア
「……うん、……おやすみなさい」