お茶会-1ラウンド目 Room No.5
アレクシア
中庭から去っていく救世主たちを見送って。
アレクシア
手を伸べて、委ねる。もう慣れてしまったそのように。
シャルル
抱え上げて、室内へ。もうひとつの椅子へ。
シャルル
2回戦と同様に、バルコニーの椅子も中へ。
アレクシア
アレクシアの視線はモニターへ。
雪の降り出す応接間。
シャルル
並んだ茶葉からいくつか、あれとそれとを混ぜて。
シャルル
上品なティーカップと香るポットが、アレクシアの元へと運ばれる。
シャルル
『帰りたいと、泣き叫ばれたらどうしようかと。』
アレクシア
それは多分、『シャルル』の声。
今の彼よりも、どこか、ほの甘く装ったような。
アレクシア
記憶が。今のこの館の、そこかしこに揺れては消えるものが。
シャルル
『理不尽を受けてなお、アナタは気高い。』
アレクシア
振り返ればそこにあるかもしれない、失われた過去。
シャルル
ここで再生されている『シャルル』も『アレクシア』も、もう存在しない。
アレクシア
「……『アレクシア』と『シャルル』には、ずっと積み上げてきたものが、あって」
アレクシア
「だから、……どちらがおかしいでもない」
アレクシア
「今のわたしたちには、……今、少しだけ、重ねたものがあって」
シャルル
「俺も、そう思うよ。俺が……好きなのはアンタだし。」
シャルル
「正直、悪くない誘いだと思うけど。……ま。」
シャルル
「トイトロールも自分で言ってたが、『赤の他人』を救済するなんて話。」
アレクシア
「誰も、……誰かの心の『ほんとう』はわからない」
アレクシア
「それでもいいと思って、信じるしかない……」
アレクシア
信じられないのなら、結局は、ただそれだけで。
アレクシア
そして、信じるというのは、難しいことだ。
シャルル
『凌辱から目をそらし、暴力に胸を痛め……殺人を『大罪』と思う人が。』
アレクシア
『この国に堕ちた以上は、……そこで生きるしかないんだ、シャルル』
アレクシア
「選ぶのは、……ちゃんと選ぼうとするのは、怖いことよ」
アレクシア
「選んで……そうして失敗するのは、すごく、怖い」
アレクシア
「……シャルルは、……最初はなんにも怖くなかったって、言ってたけど」
アレクシア
「……それでも今、なくしたくないって、言ってくれる」
アレクシア
「わたしは、選んでよかったって、……思ってるよ」
シャルル
『強くなくても、いいんですよ。先ほども言いましたが……アナタの優しさは美徳です。』
シャルル
『それはこの堕落の国において…………何より希少で、美しいものですから。』
シャルル
一回戦の記憶はない。
だから、何が行われたか、会話の内容からは読み取れない。
シャルル
惨劇、という言葉からは。
マキナの表情からは。
シャルル
ただ、辛い目にあったのだという事だけが。
アレクシア
『……わたしは良い『アレクシア』でいたい』
アレクシア
良きものとして在れないこと。
そしてその結果として、自分に、あるいは周囲に起きること。
シャルル
『優しさ』が『希少』であると。
そう、思わざるをえない世界。
アレクシア
けれど、それこそ。『選んだもの』を。ただそれだけを。
シャルル
「俺、あの時、ちょっと……言ったけど。」
シャルル
「アンタは、もう……他人じゃないから。」
シャルル
「だからどう、ってあの……言うわけじゃないけど。」
アレクシア
「わたしも、シャルルのこと、考えたい」
アレクシア
我欲。それがなければ、きっと、なにもかも動きはしない。
アレクシア
その行く先が、どこを向いているのか。何を望んでいるのか。
シャルル
時折再生される『シャルル』と『アレクシア』の記憶は。
シャルル
『言葉も、武器も、暴力も、身体も。』
『好意や、敵意なんかの振る舞いも。』
シャルル
そう、思わないことはない。
できるかは別として。
シャルル
だから、画面の向こうで交わされている言葉を。
シャルル
全て、信じ切ることなんてできないのは当たり前だと思った。
シャルル
かえって、マキナの言葉にこそ信頼がおける。
シャルル
軽く後ろを見るとすぐ後ろに、自分と……同じ顔。
眼鏡をかけて、一見穏やかに見える表情。
アレクシア
『お前がそうやって装ってるのは知っている』
アレクシア
『……それで、わたしたちが助けられているのも』
アレクシア
そうやって。『アレクシア』はそう言うのだから。
アレクシア
「嫌なだけじゃ、なかったんでしょ。少なくとも、『アレクシア』にとっては」
アレクシア
視線を移せば、やはり、自分と同じ顔。
それでも、どこか強い目。
アレクシア
「……でも、『アレクシア』は」 その、己ならぬ己の目を見ながら。 [編集済]
シャルル
この儀式を、一緒に始めるくらいには。
参加するくらいには。きっと。
シャルル
『疵を抱えて』。
ふたりに何があったとして。
抱える疵は、そこにはもうない。
シャルル
「…………俺が、言えることじゃないかもしれないけど。」
アレクシア
「痛いか、そうじゃないかだけが大事なら」
シャルル
手を握って、引き寄せ。
自分の頬に触れさせる。
シャルル
それは、自分だけでは、なかったのだなと思う。
シャルル
このひとは、弱くは……なかったわけだが。
シャルル
『そこに、どんな気持ちがあろうと。どんな意図があろうと。相手がそう思えば、それは暴力なんです。』
メイド5
バスルームの掃除をしていたメイドがそれを終えて出てくる。
敗退者の部屋は掃除されなくても、5号室はまだふたりが生きている。
アレクシア
ただ、結びついていること。繋がっていること。
メイド5
敗退した救世主と共に死んでいったメイド仲間を、今となっては思い返すことができる。
みんなこうして寄り添う人が人生でいたことなどなかった、ただの村娘だった。
メイド5
今いる救世主も、捨て札、上がり札になった救世主も。
みんな最初はただのひとりきりだったのに。 [編集済]
メイド5
胸中がどうあれ、実情がどうあれ。
寄り添っているふたりになっている、その事実だけがメイドには見えている。 [編集済]
アレクシア
「……メイドさんには、申し訳ないって、思うんだけど」
アレクシア
「わたし、最後までシャルルのお茶が飲みたい」
メイド5
「今となっては私のお茶より、シャルル様のお茶の方が美味しいでしょうし」 [編集済]
シャルル
そっと。テーブルに置くように手を離して。
アレクシア
「ありがと」 その指は、柔らかくほどけている。
アレクシア
ずっと硬く握りしめていることが、多かったけれど。 [編集済]
シャルル
正確には、自分が少しずれているだけで、同じ場所なんだろう。
シャルル
並んだ茶葉からいくつか、あれとそれとを混ぜて。
メイド5
メイドの力は、儀式の力。
もはやただの村娘程度のものよりも。
相手を深く思って淹れる紅茶の方がきっとおいしいに決まっている。 [編集済]
シャルル
結局、好みの。
たどり着くのは同じ味なのかもしれない。
シャルル
やがて、ティーポットとカップを共に戻る。
メイド5
いつかの頃よりは浅い一礼。
ふたりがそれを知っていることはなくても。
メイド5
誰かの淹れた紅茶を飲むこと自体、初めてだった。
目の前のふたりを、黒い窓を見つめる。 [編集済]
アレクシア
本当に、美味しくなった。きっと、慣れたからという以上に。
メイド5
メイドにとっては。
きっとただの普通の紅茶だ。
アレクシア
「……わたし、シャルルの淹れてくれるお茶、すきよ」
シャルル
「……それは、まあ。いつも……見てたから。」
シャルル
「まあ、流石に進歩がないってのも……な。」
メイド5
視線が、部屋に置いてある茶菓子へ向かう。
部屋に籠りきりになるために用意されたフィナンシェ。
アレクシア
モニターの向こうでも、マキナとチカが微笑みあい。
ひととき。ひとときだけかもしれずとも、穏やかに。
メイド5
メイドの処遇は、救世主に伴う。
シャルルとアレクシア、ふたりの行方に追従する。
メイド5
花を見たことがない。青空を見たことがない。
紅茶を飲んだこともなかったし、フィナンシェを食べたこともない。
メイド5
黒い窓にうつる8号室の2人を見つめる。
このふたりがそれを願うことは、ない。
アレクシア
「……わたしは、たぶん、……心から『救済』を信じてはいないけれど」
アレクシア
「幸せになってほしいと、願うことができるなら」
アレクシア
「……そう、願いたい。あなたのことを」
シャルル
小箱に入ったクッキーに、瓶詰めのシロップ。
それから、フィナンシェ。 [編集済]
メイド5
「幸せ……私にはその本当の価値も意味もわからないのですけれども」 [編集済]
メイド5
「村のみんなのことを少しだけ、思い返せるような気がいたします」
メイド5
アレクシアとシャルルのふたりによって用意されたささやかな茶会。
メイド5
「……光栄です、アレクシア様。シャルル様」 [編集済]
シャルル
「そう言ってもらえていいのかどうか、わからないけど。」
シャルル
「アンタには、なんか……えー……世話になったから。」
アレクシア
「ささやかで、……もともとは、あなたが用意してくれたものばかりだけれど」
アレクシア
「……あなたも、ずっと一緒にいてくれたから」
アレクシア
「……わたし、『アレクシア』の荷物……あんまり、開けてないんだけど」
アレクシア
「……でも、……しょうがないかな……」
アレクシア
『シャルル』の荷物に比べれば、『アレクシア』のそれは随分と小さく見える。
メイド5
ふたりよりもずっと何も持ち得ていない自分の身なりを見つめる。
アレクシア
荷物の中身は、整然としていた。なんらかの工具の類も多い。
アレクシア
そのハンカチは、なんでもないもののようにも見えたし、そうでないようにも見えた。
だから、少しだけ、迷って。
アレクシア
そうしても、『アレクシア』は、怒らない気がした。
シャルル
銀の硬い箱に、収められた。
予備として準備されていたであろうそれを手に取って。 [編集済]
シャルル
「これ、なんか……このままでいいかな?」
アレクシア
「……うーん……」 こちらに至っては、言ってしまえば布一枚である。
アレクシア
フィナンシェをひとつひとつ包んでいた袋。それを閉じるリボンに目を留めて。
アレクシア
「……シャルル」 ほんのかすかにだけ、不安げに。
シャルル
持ち上げたそれを持ったまま、扉へ向かい。
メイド6
「モニターよりご覧になられたと思いますが、6号室の救世主により、会食の招待がございます」
メイド6
その招待状は、儀式で使われる招待状に寄せた紙面。しかしそれにあなた方は気付くことはないでしょう。
メイド6
「プレゼントの交換会も行いますので、一つ、何かご用意いただけたならば幸いです」
メイド5
儀式で使われる招待状に寄せた紙面。
5号室のメイドだけがそれに気づく。
メイド6
「ええ。なんと私たちも招待されております」
メイド5
取り去る。それは外れる。
もはや5号室のメイドではないため、それはただの仮面だ。
メイド5
「私たち、このくらいしか持っていませんものね」
メイド5
6号室のメイドに話しかけるような、自分に言うような。
メイド6
「彼女はもうオールドメイドゲームのメイド、ではございませんからね」
メイド6
「それでは、身支度を済ませましたら、正餐室の方までお越しください」
メイド6
「良い晩餐になることを、心から祈っております」
シャルル
「俺達みたいに、誰かが覚えてるかもな。」
シャルル
静まり返った会場を、何もできないまま。
いや、何もしないまま。
シャルル
歩く間は無言で、メイドは部屋に2人を残して去る。
シャルル
「……俺、起きてるよ。朝まで。だから……おやすみ。」
シャルル
話したいことはあれど、考える時間と。
落ち着く時間も必要だと思った。