Dead or AliCe
『16人の救世主』

プロローグ Room No.5

シャルル
多くの観客が見守る中庭を、見下ろすように。
シャルル
館の一角、中央に近い部屋のバルコニーにふたり。
シャルル
ひとりは椅子に、ひとりはその隣に寄り添うように。
シャルル
そこにいる。
シャルル
「…………。」
シャルル
記憶の中にないふたりの姿が、現れ、消える。
アレクシア
知らない顔。知っている顔。
シャルル
「記憶、か……。」
アレクシア
無言のうち、『シャルル』と『アレクシア』が現れて、消えた。
シャルル
「…………寒くない?」
アレクシア
「…………」 深く、息をして。
アレクシア
「……だいじょうぶ」
アレクシア
寒さよりも、今は。
アレクシア
ただ、万華鏡のように現れては消える、その記憶が、ひたりと胸を刺す。
シャルル
「…………。」
シャルル
ただ、肩を抱くようにして。
シャルル
微笑む。
シャルル
「大丈夫だよ。」
アレクシア
「……うん。……大丈夫」 かすか、ほほえみ帰して。
アレクシア
「そばにいてくれるって、信じてるから」
シャルル
「ああ。」
シャルル
記憶は記憶。
『俺達』のは、あそこにはない。
シャルル
ここにある、まだ。
アレクシア
まだ、ここにある。
アレクシア
『わたしたち』は、ここにいる。
記憶でなく。
シャルル
アレクシアの紡いだ衣装と、シャルルの編んだ花冠。
シャルル
儀式は中断されていると、彼は言った。
シャルル
『今こうしてオレを飾り立ててる、お前らもその一部』
シャルル
「騎士様だねぇ。」
アレクシア
「……彼が、騎士だとしたら」
アレクシア
「トイトロールは……」
シャルル
「…………まあ、そうなるよな。」
アレクシア
『救済』の宣誓。
シャルル
「…………青空、ね。」
シャルル
「…………。」
シャルル
「救えるのかな……奇跡で。儀式で。」
アレクシア
「……わからない」
アレクシア
「……救い……」 小さく、呟く。
アレクシア
そして、次いで入場してくるマキナたちに目を移す。
シャルル
「…………ま。」
シャルル
「…………今は、どっちでも……。」
シャルル
そう言って、対する救世主を見る。
アレクシア
「マキナさん……」
アレクシア
青空を見る『みんな』。
アレクシア
……『赤の他人』。
シャルル
帰りたいという心。
シャルル
世界が救われたとして、その救いとは。
『赤の他人』どこまでも個人ではない、それは。
シャルル
心までもを、救えはしないだろう。
シャルル
「帰りたいんだな。」
アレクシア
「……わたしは」
アレクシア
「正直に言えば、そのほうが、やっぱり、わかる……と、思う」
アレクシア
「……たすけたいものって」
アレクシア
「わたしにとっては、きっと……目に見えるもので、手の届くもので」 [編集済]
アレクシア
「……だから、……」
シャルル
「…………そうだな。」
シャルル
「…………全部。」
シャルル
「全部救うのってやっぱ、難しいよな。」
アレクシア
「全部って」
アレクシア
「……ひとによって、きっと、違うから」
アレクシア
「『世界』はきっと、……ひとつじゃないから」
シャルル
「…………人を。」
シャルル
「殺すことでしか、得られない幸せもある。」
シャルル
「そうだな……。」
シャルル
「…………トイトロールは、救ってくれるってさ。」
アレクシア
「………………」 静かに、中庭を見下ろして。
アレクシア
「……救い」 もう一度、小さく繰り返す。
シャルル
「…………実際。」
シャルル
「俺は、ここで二人で……死ぬことを。死んだ方が。」
シャルル
「いいんじゃないかって、思った。『あの時』はだから、それが救いだった。」
シャルル
「…………今は、そうは思ってない。」
シャルル
「どっちが勝っても、どうなっても。」
シャルル
「いいんだ。俺はもう……」
シャルル
「……きっと、アレクシアに救われてる。」
アレクシア
傍らのシャルルの、金属の手のひらを握る。
アレクシア
「……わたしたちの世界は、幸せね」
シャルル
「……うん。」
シャルル
「最後まで、一緒に。見届けよう。」
アレクシア
「……うん。最後まで」